恋三昧

【18禁】 BL小説取り扱い中。苦手なかた、「BL」という言葉に聞き覚えのないかた、18歳未満のかたはご遠慮ください。

恋は七転び八起き

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恋は七転び八起き (1)


  槇村・央・圭人



 少年のような心を持っている、とはよく言われる。悪く言えば、子どもっぽいということなのかもしれない。
 もう34歳になろうかというのに、ゲームに夢中になって睡眠時間を削ってしまうところとか、ちょっとおもしろいことがあると、すぐにはしゃいでしまうところとか。
 同僚であり、幼馴染みである逢坂(おうさか)には、よく『しっかりしろ』とど突かれるが、こればかりは、34年の間に形成されてきた性格ゆえ、どうすることも出来ないと槇村(まきむら)自身は思っている。
 とはいえ、社会の常識ならそれなりに持ち合わせているつもりだ――――少なくとも、17歳の高校生から愛の告白をされて、下心丸出しで手を出さない程度には。

「あのなぁ、央(ひろ)…」

 槇村は頭を抱えて、目の前で真剣な表情をしている央と、その少し後ろで、特に何の感情もなさそうにスマホを弄くっている圭人(けいと)を見た。

 話は数分前に遡る。
 仕事を終えて家路に就いた槇村は、自分のマンションの前に見えた2人の人影が央と圭人だと気付いた瞬間、回れ右をして駅までダッシュで戻ろうとしたのだが、現役高校生の足に敵うはずもなく、すぐに2人に捕獲されたのだ。
 槇村は何とかして逃げ出そうともしたが、あまり騒いで近所の人の目に触れ、変な噂を立てられても困るので、ひとまずは大人しくした。こちらが騒げば、相手も騒ぐ。大人しくすれば、大人しくなるのだ。

『こんな時間にどうした、こんなとこで』

 こんな時間とはいっても、まだ7時を過ぎたところで、高校生が出歩いていても警察に声を掛けられるような時間でもなかったが、ここが2人の帰り道とはかけ離れた場所であることを思えば、そう言わざるを得なかった。
 いや、別に槇村は本気で、央がこんなところで何をしていたかを聞きたかったわけではない。というか、むしろ聞きたくはなかった。しかし、それ以外の掛ける言葉がなかったのだ。

『槇村(まきむら)くんに告ろうと思って、待ってた!』

 問われた央は、何とも晴れやかな表情で、待ってましたとばかりにそう答えた。それは、槇村の予想どおりの答えだった。予想どおり過ぎて突っ込むのを忘れた槇村に、央はキッと表情を引き締め、

『槇村くん、好きです。付き合ってくださいっ!』

 と愛の告白をしてきたのだ。
 槇村は溜め息とともに空を見遣った。月がキレイだ。

 17歳の高校生、それも男子にここまで熱烈な告白をされて、槇村が慌てるでもなく、突っ込むでもなく、呆れを含みつつも落ち着いていられるのは、ひとえに、この告白が8回目のことだからである。
 さすがに初めて告白されたときは、正気か!? と慌てふためいたものだが、顔を合わせるたびに、好きだ、付き合ってくれ、恋人にしてくれ、と言われていたら、そこまでの驚きはなくなる。



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恋は七転び八起き (2)


 それは、毎度央の告白に付き合わされている圭人も同じようで、初めのうちこそ一緒にドキドキと槇村の返事を待っていたけれど、今ではもう、答えなど聞くまでもないと言わんばかりに無関心。今日なんて、逃げた槇村を捕まえるのには協力したものの、央が槇村に告白するころには、時間を潰すためにスマホを構っていた。
 こういうところが、やはり圭人も高校生だ。子どもだ。大人なら、心の中でどんなにそう思っていたって、少なくとも表には出さない。それが礼儀だ。
 しかし、それでも8回もこんなことに付き合ってやる圭人は優しく、友情に厚い男だと思う。もし槇村だったら、2度目の時点で、ない。

「あのなぁ、央…」

 槇村は頭を抱えて、目の前で真剣な表情をしている央と、その少し後ろで、特に何の感情もなさそうにスマホを弄くっている圭人を見た。

「あー待って、槇村くん! 何も言わないで! 怖いっ!」

 槇村が言葉を続けようとするよりも一瞬早く、央は両手で耳を塞ぎ、捲し立てた。槇村の返事を聞くのが怖いらしい。
 何を今さら、と思う。央が今日で8回目の告白をしているのは、もうすでに7回槇村に告白をして7回とも断られたからであり、そこまでの連敗記録を持ちながら、怖いも何も。
 告白の返事を待つのに胸が詰まるような思いがするのは分かるが、さすがに同じ相手にこれだけ告白していたら、いい加減、慣れてもいい。

「……………………槇村くん、何か言ってよぉ~…」
「いや、お前が黙れ、て言ったんだろ」

 耳を塞ぐついでに目もギュウと閉じていた央が、しばらく続いた沈黙に恐る恐る目を開けて情けない声で訴えたので、央の言葉どおりにしていた槇村は、仕方なく突っ込んでやった。

「あのな、央、毎回言ってるけど、お前とは付き合えないんだって。分かるだろ?」
「分かんない! 何で? 槇村くん、俺のこと嫌いなの!?」
「そうじゃないけど、」
「なら付き合ってよ!」
「だからぁ!」

 この堂々巡りの会話を断ち切るには、央に『俺のこと嫌いなの!?』と問われたとき、嫌いだと答えればいいのだろうけれど、残念ながら槇村は、そこまできっぱりと言えるほど、央のことを嫌っているわけではない。
 しかしそれは飽くまで友情、友人としてであって、恋愛感情があるとか、恋人同士になりたいとか、そういうことではない。言葉は同じ『好き』でも、央と槇村の想いはまったく別なのだ。
 そもそも、もし槇村が央のことを、いわゆるlikeでなくloveで好きだとしても、17歳と34歳だ。ダブルスコアだ。付き合えるわけがない。

「央~」

 何で伝わらへんのやっ、と槇村が地団太を踏みそうになったところで、気の抜けた声が央を呼んだ。央が槇村に告白をしている間中、ずっとスマホを弄っていた圭人だ。圭人は、よく分からないキラキラしたヤツでデコレーションされたスマホをカバンにしまうと、肩を竦めて央の横に立った。



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恋は七転び八起き (3)


「央、今日はもう帰ろ~」
「何でっ? 槇村くんから返事貰ってない――――オッケーの!」

 いや、返事はしただろ、と突っ込もうとしたら、錦戸がそう続けたので、槇村は口を挟むタイミングを失った。代わりに圭人が言葉を続ける。

「オッケーの返事は貰ってないけど、付き合えない、て返事なら貰っただろ?」
「ぐっ…」

 何ということはない、圭人は、今目の前で繰り広げられた出来事を口にしただけだが、食い下がる央を黙らせるには十分だったようで、央は大人しく、「分かった…」と頷いた。しかし、頷いたものの、央にその場を去る気配はない。まだ諦め切れないのだろう。そんな央の肩を、圭人がポンと叩いた。

「央、早く帰ろ? 兄ちゃん心配するし」
「純平くんなんか知らん! 槇村くんと毎日一緒に仕事してっ…………羨ましいっ…!」

 圭人が『兄ちゃん』と言ったのは、央の兄であり、槇村の同僚である深山純平(みやま じゅんぺい)のことだ。実の兄弟でもない圭人が彼のことを『兄ちゃん』と呼ぶのに対し、なぜか央は『純平くん』と呼んでいる。
 それはいいとして、どんなに央が純平のことを恨もうが羨ましかろうが、純平が槇村と同じ職場で働き、毎日顔を合わせているのは事実で、さらには、だからこそ央は槇村と出会ったのだが。

「…なら帰るね、槇村くん」
「おぅ」

 しゅんと項垂れて言う央に、まったく罪悪感が湧かないわけではない。しかし、恋人としてお付き合いが出来ない以上、返事は1つしかないのだ、分かってほしい。

「またな、槇村くん…」

 央はクルリと回れ右をすると、圭人とともにトボトボと駅へと向かって行った。
 その後ろ姿を見送りつつ、槇村は、「またな、じゃねぇよ」と漏らすのだった。



  槇村・純平



 人のことを言えた義理ではないが、槇村から見ても、やはり深山純平という男は、少し変わっていると思う。いや、『少し』というのは大人の気遣いであり、実際は相当の変わり者だと思っている。槇村より2つ年下だが、すでに30歳は過ぎているのに、妙なテンションで、妙な動きをしながら、ギャグばかり言っているのだから当然だ。

 とはいえ、覚えは若干悪いものの、真面目に丁寧に仕事はこなすので、人望もあるし、みんなにも好かれている。変人ではあるが、好青年であることに違いはない。その点については、槇村にも異論はない。仕事に於いて純平のことは頼りにしているし、何よりも、彼がいると毎日が楽しい。
 しかし、昨日の今日でとてもそんな気分になれるはずもなく、無駄に明るいテンションで出勤してきた純平を、槇村はギロリと睨み付けた。



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恋は七転び八起き (4)


「おぉ~っと槇村くん、どうしちゃったのかなぁ~、朝からそんな顔してぇ!」

 朝の挨拶もそこそこに、変な動きをしながら声を掛けて来た純平に、槇村は殺意を覚えたが、とりあえず殴り飛ばすのだけは何とか堪えた。こんなことで、社会的地位を失いたくない。

「やかましいわ。お前が、アホな弟をちゃんと躾けとけば、こんな顔しないで済むんだよ」
「弟…、央ちゃんのこと?」
「他に誰がいるんだよ!」

 動きを止めた純平は、キョトンと聞き返した。
 純平の弟といえば央しかいないわけで、今さらなことを聞いて来る純平に槇村の苛立ちは募るが、それに加えて、純平が動きを止めた瞬間が、まさに絶賛変な動き中だったため、結果、変なポーズを取ることになり、それが余計に槇村を苛立たせた。

「そうだよねぇ! さすがに親父もお袋も、もうがんばらんよなぁ!」
「デカい声で何言ってんだっ」

 純平と央の年齢が一回りも離れているからといって、央の下にさらに年の離れた兄弟がいるとは、槇村だって思ってはいない。独身の槇村が言えたことではないが、もしそんな年齢の子どもが深山家から登場したら、それは純平と央の兄弟ではなく、普通に純平の子どもでなければならないだろう。

「でっ? 僕のかわいい弟がどうしたって?」
「………………、あぁ…、そうだよな、お前がアホだもんな…。アホの弟、躾けられるわけないよな…」
「ちょっ! アホアホ言い過ぎ!」

 格好を付けた口調で、それっぽいポーズを決めて尋ねて来た純平に、槇村は冷ややかな視線を返す。弟がアホなら、兄も大概アホだ。兄貴に期待するのはやめておこう。

「何、槇村くん。央ちゃんが何したん?」
「…お前の弟が俺にすることといったら、1個しかないだろ」

 槇村が心底怒っているのがようやく伝わったのか、純平は今度こそ大人しく姿勢を正して、真面目に聞き返した。その今さら過ぎる質問と、正した姿勢――――小学生のような気を付けが、槇村の機嫌をさらに悪くしているとは、思ってもいないに違いない。

「また告りに行ったん? そんなの槇村くんがオッケーしたったらいいだけの話でしょ」
「出来るか、アホっ!」

 お前は自分の弟が17歳というティーンエージャーだということを忘れたのか! と、ここが会社で、周りに同僚やら後輩やら上司やらがいなかったら、槇村は声を張り上げて突っ込んでいただろう。それを何とか普通の突っ込みだけで乗り切ったところを、褒めてもらいたい。

「何でよ、槇村くん、央ちゃんのこと嫌い?」
「そういうことじゃねぇだろっ」
「そういうことだろ! それ以外に何があるんだっ!」

 槇村としては、なるべく声を潜めて話しているのだが、純平の話につい声が大きくなってしまい、それにつられたのか、単にテンションが暴走したのか知らないが、純平まで声が大きくなるので、無駄に焦る。逢坂ほどうまくはないが、とりあえず純平の頭をバシッと叩いておいた。



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