恋三昧

【18禁】 BL小説取り扱い中。苦手なかた、「BL」という言葉に聞き覚えのないかた、18歳未満のかたはご遠慮ください。

2008年02月

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ろくな愛をしらない 08


 授業が終わって、歩と待ち合わせてる構内のカフェテリアに向かおうとしていたところ、背後から肩を叩かれて、思わず身を竦めた。だって、全然気配を感じなかったから。
 ビックリして振り返ったそこには、最悪の、1番会いたくない人物。

「……相川さん…」
「すげぇ嫌そうな顔。俺ってそんなに嫌われちゃってんの?」
「別に……何か用ですか?」
「冷たい奴ー」

 わざとらしいオーバーリアクションで、相川さんは肩を竦めてみせる。

「何の用…」
「えー、一応メシのお誘いなんですが」
「ッ、何で、俺、なんですか?」
「何でって言われても」

 結構勇気を持っての質問だったのに、苦笑にも似た曖昧な笑いに、あっさりと躱されてしまう。

「この後、何か予定あり?」
「…………」

 予定はないけれど、ここで正直に答えれば、相手の思う壺だ。適当にごまかして流すしかない。
 そう思って顔を上げた、相川さんのその向こう、

「あ…」
「え? アダッ!」

 高遠さん……って付け加えようとするより先、渋い表情で背後にやって来た高遠さんが、その気配を感じて振り返った相川さんに何かを投げ付けた。

「バカ智紀! ふざけんな!」
「何? 何だよ、おい。てかこれ、俺のケータイじゃん! 何持ってんの?」

 投げ付けられたものが自分の携帯電話だと分かって、相川さんが不満をぶつけるが、それよりも高遠さんの表情のほうがもっと険しいんですが。

「バカッ、何で俺とおんなじ機種のおんなじ色なんだよ!」
「は? 何が?」
「ケータイだよ! 俺も音バイブにしてっから、間違って出ちまったじゃねぇか!」
「何だよ、出たのかよ! 勝手に出るなよ!」
「俺のかと思ったんだよ!」

 むーっと口を結んで、高遠さんは苛立たしげに言い放つ。まぁ、不可抗力とはいえ、勝手に電話に出られた相川さんも、腹立たしげだけど。

「つーか、何で待ち合わせに来ないの、て俺が怒鳴られたんだけど! 何で俺がお前の女に怒られなきゃなんないんだよ!」
「ゲッ…」

 え…?

「あー、いや、妹?」
「お前んち、弟だろ?」

 わざとらしい言い訳に、高遠さんは乗っかるでもなく冷静に突っ込み返すけど。

 …………何?
 女の子?
 彼女ってこと? それとも遊び相手?

「何? その子が最近はまってるって子?」
「んー?」
「……まぁいいけど。つーか、折り返し掛けさせるっつっちゃったから、電話しとけよ?」
「えー!? 何でぇ? 超めんどくせぇ!」
「お前が俺と同じケータイにしてるから悪いんだ! 絶対掛け直せよ! 俺、こんなことで悪モンになりたくないし!」

 高遠さんはもう1度念を押してから、俺らに背を向けて去っていった。

「ったく、高遠の奴ー」

 ブツブツ言いながら、相川さんが俺のほうを振り返って、たった今高遠さんに押し付けられた携帯電話を、ジーンズのポケットにしまった。

「……掛けないんですか?」
「え?」
「電話」
「あー……まぁいいや」
「何で? 彼女でしょ? 俺なんか構ってないで、掛けたらどうですか?」
「違ぇって、いいんだっつの」

 …………心がザワザワする。

 彼女にしろ、単なる遊び相手にしろ、たとえ今電話を掛け直さないにしたって、結局はその子のところに行くんでしょう? それとも別の遊び相手?
 それで…………キス、するの?
 ―――――冗談で。

「久住?」
「……もういいじゃないっすか。何で俺なの? 彼女だか遊び相手だか知らないけど、その子誘えばいいじゃん。冗談で俺にキスなんかしてないでさ」
「…んだよ、急に」
「キスは、好きな人とするもんでしょう?」
「はいはい、悪かったよ」

 はぁー、って大きな溜め息。
 キスを特別だって思ってるのは、俺だけかな? まぁ少なくとも、相川さんには通用しない理論みたいだけど。

「何で……そこまで俺のことからかいたいの? そんなの俺じゃなくて、言い寄って来る女にでもすればいい。あんたは冗談のつもりかもしれないけど、俺は…!」
「…………」
「……、ッ……もうこれ以上、俺の心を引っ掻き回さないでくれ!」

 もう相川さんの顔なんか見てられなくて、怒ってるのか、呆れてるのか、お気に入りのおもちゃの反撃に戸惑っているのか、俺はそのまま相川さんに背を向けて駆け出した。
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カテゴリー:智紀×慶太
テーマ:自作BL小説  ジャンル:小説・文学

ろくな愛をしらない 09



【相川智紀】

『キスは、好きな人とするもんでしょう?』

 …………ガキの戯言だよ。
 そりゃ、気に食わねぇ奴とする気にはならねぇけど、だからって、キスくらい何だっての? 減るもんじゃなし。
 何でそんなにマジになるのか分かんない。

 ちょっと気になって声掛けてみたら、今まで周りにいなかったタイプで。それこそ言い寄ってくるバカな女どもとは、根本的に違う。
 真面目で、素直で、だからって、つまらない一本気なわけじゃない。
 俺の言葉1つに1つに面白いほど反応して、楽しませてくれる。狙ってそれが出来るほど器用な奴じゃないのは見てて分かるし。

 だから、はまりかけてたのに。

『もうこれ以上、俺の心を引っ掻き回さないでくれ!』

 あんな感情的な姿、初めて見た。
 俺の目を見ようともせずに、掛けていった小さな後ろ姿。


 あーあ、せっかく手に入れた掛けたおもちゃ、逃がしちゃった。




「……ん! トモ!」
「あ?」

 拓海のデカイ声に視線を向ければ、咎めるような顔をした奴と目が合った。

「灰!」
「はい? 何?」

 何かくれるの? って思ったら、「煙草の灰だよ、バカ!」って怒鳴られた。

「火事出す気か! 灰落ちるぞ」

 拓海が俺の手から、吸い掛けのタバコを奪う。
 殆ど吸わないうちに半分以上灰にしてしまったタバコを、拓海が灰皿に押し付ける様をぼんやりと眺める。

「トモ、何か今日、めっちゃテンション低くね?」
「俺が? 変わんねぇよ」
「んー……てか、今までが妙だったのかな?」

 ブツブツ言ってる拓海をよそに、俺は新しい煙草に火を点ける。何となく拓海が嫌そうな顔をしたけれど、そんなのお構いなしだ。

「妙って何だよ」
「えー何かさぁ、何つーか、変だった! 何かこう……1人でほくそ笑んでる感じ」
「感じ悪ぃな、俺」
「うん、トモ、感じ悪いよ」
「そこは否定しろよ!」

 相変わらずな感じの拓海に、2人でゲラゲラ笑い転げる。煙草の灰を落とさないように気を付けながら。
 そしたら、ベッドの上に放り投げたままにしてた携帯電話が震えて、着信を告げる。

「あ、」

 小さな液晶画面に表示されたのは、今はあんまり見たくなかった女の名前。
 いいや、無視しちゃおう―――――って思ったのに。

「出ねぇの?」

 すぐさま拓海に突っ込まれた。

「……出ねぇ。どうせ怒鳴られるだけだし」
「また何かしたんだ?」

 ニヤニヤしながら拓海が聞いてくる。俺はタバコを灰皿に押し付けた。

「電話掛けろって言われてたのに、掛け忘れちった」
「バーカ、早く出てやれよ」
「もういいや」
「はぁ? またかよ」

 拓海は呆れたように言ってくるけど、別に今、この女の声、聞きたい気分じゃないし。
 しつこい電話のバイブレーションは、留守電に切り替わったところで途絶える。続けざまにもう1回掛って来て、それでも無視してたら、3回目の呼び出しはなかった。

「これでトモくんの失恋けってー」

 拓海がさもおもしろそうに言ってくるから、足の裏で背中を蹴っ飛ばしてやる。

「るせぇよ、そんなんじゃねぇんだって、こいつは」
「あーそうですか。ったく、そんなことばっかしてっと、いつかしっぺ返し食うぜ? あ、しっぺ返しってのはね、」
「しっぺ返しの意味くらい知ってるよ!」

 もう1回蹴ってやろうと思ったら、その足首を拓海に掴まれて、俺はベッドの上に転がってしまった。

「何すんだよ!」
「バーカ」
「あーもう、おもしろくねぇ!」

 そのままベッドに大の字になって寝転がる。
 何つーか、心がモヤモヤすんだよね。何かスッキリしねぇ。

「何それ。こないだまで気持ち悪いくらい上機嫌だったのに」
「気持ち悪いって何だよ、オイ!」
「あ、じゃあトモくんのお気に入りの、慶太でも呼んじゃう~?」

 ベッドのほうに身を乗り出してきた拓海が、俺の顔覗き込みながらそう提案していた。

「トモ?」
「…………もういい」
「は?」
「アイツはもういいや」
「何それ。もう飽きたってこと?」
「別に」

 せっかく見つけたお気に入りのおもちゃは、あっさりとその手を離れていって。
 でもいい。
 また代わりを見つければいいんだし。
 そうすればきっと、またおもしろおかしい毎日が始まる。

 それでいいんだ……。
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カテゴリー:智紀×慶太
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ろくな愛をしらない 10


 構内のカフェテリアで、ちょっと遅めの昼食をとりながら、携帯電話を広げる。
 この間の女とはもう終わったけど、それこそ代わりなんていくらでもいるし。
 今日は誰に声掛けようか、なんて思ってたら、向かいでメシを食ってた拓海が何か言いたそうにチラチラ視線を向けてくるから。

「……何?」

 俺のほうから声を掛ければ、拓海は心底驚いたように、「うぇ!?」と変な声を上げた。
 もしかして、俺が気付いてるなんて、思ってなかった?

「あ……いや、」

 拓海は気まずそうに、周りをチラリと見た。あぁ、他の奴らに聞かれたくないわけね。ってことは、言いたいのは、俺がこれから連絡しようとしてる相手のこと?

「あのさぁ…」

 俺のほうに少し身を乗り出した拓海が、うんと声を潜めて喋り出した。

「俺が言うのもアレだけど……その、あんま羽目外し過ぎるなよ?」
「分かってますって」
「トモ、ホント、」
「大丈夫だから。男だから、メールしてんの」

 ホントは嘘だけど、何か拓海の、今にも胃に穴の開きそうなくらい心配げな顔を見てたら、何か女に連絡すんの、しらけちゃった。

「ならいいけど……何か最近、お前、」
「どうせ振られちゃったんだろっ!」
「うわっ!」

 急に割り込んできた別の声と、焦ったような拓海の声に、携帯電話から顔を上げれば、高遠が拓海の背中にへばりついてた。
 まったく身構えてなかった拓海は、腹をテーブルの縁にぶつけてる。

「高遠!」

 拓海が咎めるように名前を呼べば、高遠はまったく悪びれたふうもなく、「拓海、力なーい」なんて言ってる。

「俺が思うに、智紀くん。君はこの間の電話、掛け直さなかったとみた」
「よくお分かりで」

 拓海の背中にくっついたまま、その肩越しに高遠がニヤニヤと言ってくる。

「こないだの電話って……昨日掛かってきた電話か?」
「何? 掛かってきたの? 女?」

 高遠が、興味津々て顔で拓海の顔を覗き込んでる。拓海が言ってもいいのかなぁ…て顔で俺のほうをチラッと見たけど、もうどうでもいいから、無視した。

「結局、出ないし掛け直さないから、それっきり」
「ひゃはは! バッカー。そんなんだから、お気に入りの子に逃げられちゃうんだよね」

 高遠がどこまで気付いてるのか知らないけど、確かに説明としては間違ってない。相変わらず高遠には見透かされてんなぁ、俺。

「だからね、もう大丈夫だから、拓海はもう帰りな」
「えぇ!?」
「真琴と約束してんでしょ?」
「あ、そうだった!」

 慌てて拓海が振り返れば、カフェテリアの入口のところで、真琴が待ちくたびれたような顔して立っていた。

「悪ぃ真琴! 今行くし!」

 ホント、拓海って詰めが甘い。
 俺に説教っつーか、お小言を言うつもりだったんでしょ? 肝心のことまだ言ってないって、気付いてないの?
 まぁそこが拓海らしいっちゃーらしいんだけど。

 …………で、問題はこっちなんですが。

「高遠くん、拓海たちと一緒に帰んないの?」
「帰んないの」

 にっこにこの顔。ヤダなー。

「で、高遠くんはどこまで分かってんの?」
「別にー。知りたくもないし」
「だったら何?」

 高遠は笑顔を崩さずに、俺の横に座った。

「智紀はさぁ、本気で人を好きになったことがないもんね」
「おい!」
「違うの?」
「だとしたって、高遠に関係なくね?」
「俺にはね。でもさぁ、こうまであからさまにテンションとか態度に表されると、いろいろ迷惑なんですが」

 笑顔を引っ込めた高遠の顔は、冷やかなものだった。

「好きなら好きで、素直に認めちゃえば楽なのに」
「誰のことをだよ」

 …………愛だの恋だの、そんなの面倒臭いし。
 本気の恋だなんて。

「まぁ、今さら気付いたって、遅いだろうけどね」
「高遠、」

「言っとくけど、本気の恋って、そんなに甘くないからね?」
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カテゴリー:智紀×慶太
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ろくな愛をしらない 11


【久住慶太】

 相川さんにあんなこと言って逃げて来て、ホント、バカみたいだ。
 きっと向こうもそう思ってる。
 どうせ暇つぶしの遊び相手。はまり掛けのおもちゃが、まさか本気になってただなんて、思いも寄らないだろう。

「バカ…」

 あのとき歩が言ってたこと。
 やっぱアイツ、すげぇわ。
 俺ですら気付いてないことに気付いちゃうんだもん。

 でももう遅いけど。

 ってか、遅いも何も。
 気付いたところで、実ることのない想い。

 まんまと相川さんの策略にはまっちゃって。
 気付けば深み。
 逃げられなくて。

 俺1人、こんな気持ちにさせといて、ズルイよ……。

 あのまま。
 もしあのまま、相川さんの望むみたいにやってれば、今も側にいられた?

 それで、例えば相川さんちに行って、彼のいいようにされて。
 意味を持たないキスをされたり、力で押さえ付けられて、怯えてみたり。

 何それ。
 どうせ相川さんにとっては、あのとき電話してきた女の子と、同じようなもんなんだろうけど。

(そういえば、あの電話の子、どうしてるんだろ…)

 相川さんの性格を分かってて、いつものことだって、気にせずいるのかな。
 連絡がないこと、悲しんでるのかな。
 怒って別れようって言い出すのかな。

 別にそんな関係を望んでるわけじゃない。
 ましてや男同士だ。恋愛関係に発展させようだなんて思ってもいない。だったらいっそ友達で……いや、憧れの先輩のままで良かった。

 でも、もう戻れない。
 どこにも。
 もうどっちにもなれない。


 あぁ、嗚呼。
 いっそその深みの奥底まで沈んで、溺れてしまえばよかった。


 だけどもう、戻れやしないけど。
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ろくな愛をしらない 12



 爆弾は、時として、唐突に落とされる―――例えば、真琴から。



 月に1度の定例会が始まる前の学生会室。
 俺は音楽の雑誌を広げて、春原さんは、ペットボトルのお茶をコップに注いでるところだった。
 そこに元気よくやって来た真琴が俺の側に来て、俺と雑誌の間に顔を覗かせる。邪魔だよ、と、目で訴えようとした、まさにその瞬間だった。


「そういえば智紀さん、最近、慶太のこと誘わないね」


 まさに爆弾。


 俺はそのまま椅子から転がり落ち、春原さんは手元が狂ったのか、傾け過ぎたペットボトルから大量にお茶を零してる。

「あぁ! 拓海! お茶、お茶!!」

 どうやら真琴は、俺が椅子から落ちたことよりも、春原さんの足元に広がるお茶の水たまりのほうが危険と判断したのか、慌ててそっちに駆け寄っていった。

「あ、ありがと…」

 真琴は、傾けたままのペットボトルを春原さんの手から奪い取ってテーブルの上に置くと、ご丁寧にも、残り少ないペットボトルのキャップまで閉めてやる。

「ちょっと雑巾取ってくる! この量、ティッシュじゃ拭き切れないし」

 そう言って学生会室を出ていこうとする真琴の腕を、春原さんが掴んだ。

「何、拓海」
「あの、真琴、あの…」
「???」

 キョトンと小首を傾げてる真琴、さっきの言葉に他意はないのだろう。
 春原さんの手が力なく真琴から離れて、真琴は雑巾を取りに学生会室を出ていった。

「春原さんも、何か知ってるんですか? てか、知ってるんですよね?」

 知らなきゃ、真琴の言葉にここまで反応するわけがない。
 いつもは冷静な春原さんも、真琴のこの不意打ち爆弾には敵わなかったようだ。

「知ってるっていうか…」

 真琴に雑巾を取りに行かせたきりじゃ申し訳ないと思ったのか、春原さんは、ティッシュを数枚引き抜いて、零れたお茶の上に被せた。
 真琴の言葉じゃないけど、そんな数枚のティッシュで全部拭けるような量でもなくて、かといってそれ以上ティッシュで拭くつもりもないのか、お茶の水たまりの上に数枚のティッシュが浸っている状態。
 いいのかなぁ…。

「話してください」

 口籠ってる春原さんに、先を促す。

「何かトモ、ずっと慶太のことお気に入りみたいだったのに、それこそ真琴じゃないけど、最近あんまり誘わなくなったなぁって思って」
「それだけ、ですか?」

 それだけで、この反応?
 そんなわけない。
 いくら俺が単純だからって、そんなことでごまかされない。

「相川さん、何か言ってました?」
「何かって…」
「別に傷付いたりしないんで、言ってください。俺にはもう飽きたって?」
「……飽きた、とは言わなかった、けど…」

 再び口を閉ざす春原さんに、「だったら何?」と問おうとしたところで、雑巾を取りに行っていた真琴が戻って来た。

「あー、何このティッシュ! 拓海?」
「え? あ、うん…」

 零れたお茶の中に、ビチョビチョになったティッシュが落ちていて、これから雑巾でそこを拭くには、少し邪魔な状態。真琴は困ったように春原を見てから、そこに屈んだ。

「あぁいいよ、真琴! 俺がやるし! 俺が零したんだから!」

 ……でも、春原さんがお茶を零す原因を作ったのは、真琴だけどね。

 全部お茶を拭き取って、濡れた床を最終的にティッシュでキレイにしたところで、真琴は雑巾をしまいに学生会室を出ていく。
 また2人きりになった空間で、春原さんはゆっくりと俺のほうを見た。

「トモに用があるなら、連絡しようか?」
「俺が? どうして?」
「あ、いや、」
「どうして俺が…」

 また相川さんと会って、一体どうするっていうの?
 この想いを伝えろとでも?

「慶太?」
「俺はっ…!」

 勢いに任せて、椅子から立ち上がる。
 俺って、こんな感情的な奴だったっけ?

「慶太、」

 あれ…?

 ぐにゃり。
 視界が歪む。

「慶太? どうした?」

 何度瞬きしても、ぼやけた視界は戻らなくて、目を閉じる。
 嫌な汗が滲む。
 聴覚が遠退く。
 足の力が抜けて、椅子に座ろうとしたけどうまくいかず、テーブルの端を掴んだまま、床に膝を突く。

「慶太、ちょっ……座って!」

 春原さんの手なんか借りたくないよ。
 でも俺はされるがまま、元いた椅子に座らされて。
 深呼吸を繰り返す。

「ちょっと横になる?」
「へ…き…」

 でもダメだ。
 元に戻んない。

 遠くで、誰かが学生会室に戻って来た音がする。真琴かな? それとも他の誰かかな?

「どうしたの、2人とも」

 この声は歩だ。
 目を閉じてぐったりしてる俺と、その脈を取ってくれてる春原さん。
 入って来ていきなりこんな光景を見たら、確かに何かと思うよね。

「ちょっと横になったほうがいいんじゃない?」

 よっぽど俺の顔色、悪いのかな? 歩の提案で、ソファに横になる。
 ヤバイ……完全に頭から血の気が引いてる感じ。脳貧血って……女の子じゃあるまいし。

 もうヤダよ。
 こんな自分も、何もかも…。
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ろくな愛をしらない 13



 女はいい。
 特に、成熟した体持ってんのに、頭悪い子とか。
 みんなで飲んで、その場のノリで誘えば、簡単についてくるし。押し倒して、ちょーっと感じるとこ触ってやれば、超よがるし。柔らかい体とか。色っぽい仕草とか、表情とか。
 後腐れのない、この関係がいい。

 …………なのに、どうして、この胸の喪失感を埋められないの…?



【相川智紀】

「…………言いたいことあるなら、言ったら?」

 拓海がそばにいないのを見計らったように、わざとらしく隣に座ってきた高遠に声を掛ける。

「あ、気付いてたんだ。鈍感なトモくんにしちゃ、珍しー」

 しれっとした顔で、さりげなく毒を含んだ答えを返す高遠に堪えながら、俺は高遠を見据えた。

「久住、倒れたよ」
「―――は?」
「久住慶太くんが倒れました」

 聞こえてないから聞き返したわけじゃないのに(もちろん高遠だってそのことに気付いてるだろうに)、わざわざ嫌味ったらしく言い直してきて。

「倒れたって、どういうこと?」
「そのままの意味だけど?」
「……で、何でそんなこと、俺に話すわけ?」
「驚きのあまり、慌てて久住のところに駆けていくのを期待してたのに、反応が薄くてすげぇムカつく」
「そんなこと言われても」
「やっぱりお前は薄情な奴だったんだな。久住がお前のせいで倒れたってのに、お前は女遊びに夢中だもんな。久住もこんな奴から離れて正解だったね」

 歯に衣着せぬ高遠の物言い。
 いつものことだけど。でも、いつも以上にイラついてる―――高遠が。

「お前さぁ、小学生じゃねぇんだから、好きなら素直になれよ。変なちょっかい掛けてないで」
「……今さら気付いたって遅いっつったの、お前じゃん」

 机に投げ出したままの、冷めたコーヒーを1口啜る。マジィ…。

「へぇ、気付いたんだ、自分の気持ちに。俺、気付かないまま終わるのかと思った」
「お前って、ホンット、ヤな奴だな!」
「何言ってんだよ。心配とストレスでこれ以上拓海の髪が抜けないように、気ぃ遣ってるこの俺様に」
「あー……ソウデスネ」

 確かに最近、痛々しいもんな、拓海。

「なぁー高遠ー」
「んー?」
「俺、どうしたらいいのかなぁー?」

 まずいコーヒーを飲み干して、紙コップを握り潰す。

「知るか」
「高遠~…」
「甘えんな。お前に甘えられても、全っ然嬉しくない」

 厳しいお言葉。
 潰した紙コップを高遠目掛けて投げ付ければ、あっさりと躱されて、逆に頭をど突かれる。

「今さら気付いたって遅いかもだけど…………これ以上手遅れにしないためにすることがあるんじゃない? 少なくとも相手は、ぶっ倒れるくらいお前のこと思ってるわけだし?」

 床に落ちたままになっていた潰れた紙コップをゴミ箱に捨てて、高遠は去っていった。
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ろくな愛をしらない 14



【久住慶太】

「慶太、帰り、ちょっと本屋寄ってかね? 買いたいのあんだ」
「あぁ、いいけど」

 他愛もない会話をしながら歩と教室を出た瞬間、俺は思わず足を止め、そして息も止めた。

「相川さん…」

 教室学生会室を出てすぐのそこに立っていたのは、今1番会いたくて………会いたくない人。
 足を止めてしまった俺に、隣の歩が視線を向けたのが分かった。

「歩、悪ぃけど、ちょっとこいつ借りてくから」
「へ? あ? う、うん」

 は? とか思ってる間に相川さんに手首をガシッと掴まれて、引っ張られる俺。慌てて振り返れば歩が呆然としたまま突っ立ってて。
 おい、ちょっとは何とかしろって! バカー!!

「ちょっ、相川さんっ」

 慌てる俺をよそに、相川さんはぐんぐん進んでくし。手首は掴まれたままだし。通り過ぎてく人にはめちゃくちゃ見られてるし。

「あの、手、離し…」
「ヤダ」
「だって、」
「離したら逃げるだろ、お前」

 ギュッて、手首を掴む力が、少し強くなった。
 ヤバイ……今さらなのに、ドキドキしてる。

「逃げな…逃げないんで離してください…!」

 人目が気になるのと、それからこのどうしようもないドキドキ…!
 相川さんの表情からは何も読み取れない。怒ってるようにも見えるし、単なる無表情なだけにも見える。少なくとも機嫌がいいようには思えないんだけど。
 でも俺、あれ以来、相川さんには会ってないし、何もしてない。

「相川さん!」

 外に出たところで、ようやく手首を離してもらって。

「何…どうしたんですか、急に。授業は?」

 沈黙が怖くて、俺は視線を落としたまま、相川さんに問い掛ける。
 どこ向かってんだろう。
 逃げ出したいけど、ここで逃げたら、後が怖い気がする。

「あの…」
「はい」
「え?」

 渡されたのは、ヘルメット。
 駐輪場で、相川さんは無表情のまま、バイクにキーを差してる。
 もしかして、後ろに乗れって? 悪いけど俺、バイクの2人乗りとか、したことないんですが…!

「乗って?」
「……、」

 でもとてもそんなこと言い出せる雰囲気じゃなくて。
 手の中のヘルメットと、相川さんを交互に見る。

「乗れよ」
「でも…」

 また、沈黙。
 次の授業が始まったのか、駐輪場には俺ら以外、誰もいなくて。

「……お前、倒れたんだって?」

 俺がバイクに乗る気がないって分かったのか、相川さんは俺の手からヘルメットを取り戻した。

「倒れたなんて、大げさですよ。ちょっと貧血っぽくなっただけで」
「俺のせいだろ?」
「……どうして、」
「違うの?」

 何て答えたらいいのか分からない。
 アンタのせいだって言ったら、何かが変わるの? バカバカしいよ、そんなことない。

「もう平気なんで、気にしないでください」

 そう答えるのが精いっぱいだった。
 ちらりと様子を窺えば、相川さんはちょっと眉を寄せて、「あ、そう」とだけ言った。

 もう少し、ちゃんと答えればよかったかな。
 せっかく心配してくれたのに。

 これでまたさらに、嫌われちゃうのかな、てちょっと自己嫌悪に陥ってたら。

「うわっ!?」

 いきなり頭に衝撃。

「なっ…!?」

 慌てて頭を触れば、固い感触。
 相川さんが持ってたヘルメットがない。
 てことは、今の衝撃は、俺の頭にそのヘルメットを被せたってことで。

「乗れ」
「え、ちょっ…」
「もう具合悪いんじゃねぇなら、乗れよ」
「…」

 もうこれ以上は逆らえない気がして、俺は恐る恐る、相川さんのバイクの後ろに跨った。

「ちゃんと掴まってろよ?」
「え? ど、どこに?」
「……お前、乗ったことねぇの?」
「後ろには…」

 正直に打ち明ければ、相川さんは溜め息をついてから、俺の右手を取って、自分の腹のほうに回した。

「そっちの手も!」

 グズグズしてたら左手も引っ張られて、前に回させられる。ちょうど、背後からしっかりと抱き付いてる格好で。
 しょ、しょうがないんだよね? バイクに2人乗りするときは、こうしなきゃなんだよね?
 よく分かんないけど、アップアップな俺は、言われるがままで。
 何かこんなのヤダなってちょっと思ったけど、バイクが走り出した瞬間、振り落とされるんじゃないかって、慌ててちゃんとしがみ付いた。









「あの…」

 赤信号で止まったのをいいことに、俺は、前の相川さんに声を掛けた。

「どこに向かってるんですか? 俺んちこっちじゃないんですけど」
「そりゃそうだ。俺、お前んちなんて知らねぇもん」
「え、ちょっ…どこ行く気なんですか!?」
「さぁ。どこ行きたい?」

 飄々とそんなことを言ってのける相川さん。
 思わず絶句。
 何の考えもなしに、俺をバイクに乗せたわけ?

「なぁ、どこ行きたいんだよ」
「…………家」

 どこに行きたい? なんて言われて、これで女の子だったら、「海!」とか、「じゃあ、相川さんち!」なんてかわいくおねだりするところだろうけど、生憎と俺はそんなキャラじゃないわけで。
 そしたら相川さんに、「つまんねぇヤツだな」って、あっさり突っ込まれて。

「すいませんね、気の利いたことが言えなくて。どうせつまんない男ですよ」
「ふはっ、いや、十分おもしろいよ、お前」

 何が相川さんのツボなのか知らないけど、さもおもしろげに相川さんは笑い出す。俺としては、ひがみも半分、言い返しただけなのに。

「相川さん、」
「ん?」
「わっ…!? いいです、後でいいです、止まってからでいいですっ…!!」

 信号が青に変わって、バイクが走り出して。
 とてもじゃないけど、そんな状態で俺は話し掛けるなんてこと出来なくて。
 どこに行くつもりか知らないけれど、もうどこでもいいから、とにかくバイクが止まってくれることだけを、ひたすらに願う。 






 しばらく走って、俺は怖くてずっと目を閉じてたから、一体ここがどこなのか分からないけど、バイクが止まった気配に目を開けたら、河川敷の側だった。
 土手から見下ろせるグラウンドで、小学生が野球の練習をしてる。

「……ここ、」
「降りて?」
「…」

 言われるがまま、俺はバイクを降りて、ヘルメットを相川さんに返す。
 犬を散歩させてるじいさんが遠くに見えるだけで、他には誰もいない土手。その中ほどのところに相川さんが座ったので、仕方なく俺も隣に座る。
 ここは自分の行動の範囲外で、勝手に帰ろうと思っても、帰り方も分かんないから。

「相川さん」
「ん?」
「何で今さら俺なんか構うんですか?」
「今さらって何だよ」
「だって俺、あんなこと言い捨てて…」

 あの日。
 ひどい言葉を吐き捨てて、相川さんの前から逃げ出した。
 もう絶対相手になんかされないと思ったのに、今日こうしてまた、相川さんと2人になってるなんて。

「あぁー、あれはマジ効いたわ。あんなこと言われたことねぇし」
「俺だってないですよ、言われたことなんて」
「お前はそういうのなさそうだもんな。真面目そうだし」
「別に、」

 確かに、女の子のほうから相川さんを手放すようなマネなんて、しそうもないもんな。
 もしかして、あんなにこっぴどく相川さんを振ったのって、俺が初めて? はは……それも何かいいな。

「なぁー久住ー」
「……何ですか?」
「俺のこと嫌いになんないでー」
「はっ!?」

 今までに聞いたことのないような、情けない声の相川さんに、ビックリして振り向けば、相川さんはその場に寝そべっていた。

「どっ……どうし、え? は?」

 アワアワしてる俺に、寝転んだままの相川さんが、また吹き出してる。

「お前、ホント、いっつもいい反応するよな」
「だって!」

 それはいつも相川さんが、突拍子もないことばっかり言ってくるから。
 いつも振り回されて。
 なのに、今日は。

「何か、だって……いつもの相川さんらしくない。だって俺の前じゃ、いつだって自信たっぷりな感じだったし」
「でも、お前の前じゃダメなんだよな。お前にあんなこと言われてさ、いつもだったら他のヤツ探して楽しめば、そうすりゃ全部忘れんのに…」

 相川さんは渋い顔をしてタバコに手を伸ばす。でも俺のほうをチラッと見てから、それを元に戻して。俺がまだタバコを吸えない年齢だから、気を遣ってくれたのかもしれない。

「今さら遅いかもしんないけど……言ってもいい?」
「え、」

 また、高鳴り出す、俺の心臓。
 ヤダ……もうこの感覚。

 でも、相川さんの次の言葉を待ってる自分がいて。




「俺、お前のこと、好きだったのかも」


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ろくな愛をしらない 15




「俺、お前のこと、好きだったのかも」


 鼓膜を揺さぶるようなその声に、俺は目眩すら覚えた。



【久住慶太】

「…………一応、言っとこうと思って」

 反応のない俺に、付け加えるように相川さんがそう言った。

「久住?」
「あ……いや、その…」

 相川さんのその言葉の意味を問おうと思って、でも何だかそれも女々しい感じで、思わず口籠ってしまう。

 だって、『好きだった』ってことは…………今は違うってこと?
 もう俺のことなんて、興味なくなった?

 俺のほうこそ、"今さら"だよ…。

「あの、相川さ……あの、えっと…」
「ん?」

 今は、どうなの?
 今、俺のこと、どう思ってるの?
 その"好きだった"って気持ち、今も続いてる?
 俺は…。

「そ、れは…」
「?」
「それって……どういう意味、ですか?」
「…は?」

 俺もよっぽどてんぱってたのか、よくよく考えたら、質問の意味がおかしい。相川さんが不思議そうな顔をするのも無理はない。

「いや、あの、そうじゃなくて! えっと……だから、……『好きだった』ってことは…今はもう俺のこと、嫌いになったのかなって…」

 思ってることをみんな吐き出して、俺は大きく息をついた。

「それはお前のほうなんじゃねぇの?」
「へ?」
「もう俺のことなんて、愛想尽かしたんじゃね? ……ってか、最初から敬遠されてたか」

 俺が愛想を尽かした?
 敬遠したなんて。
 だってそんな、俺は、あなたが苦笑する姿すらかっこいいだなんて思っちゃう人なのに。

「俺は……相川さんがいったい何考えてるのかよく分かんなくて、だから何かもうイライラするっつーか、敬遠とかそんなんじゃなくて……ズルイよ、俺の心をこんなにいっぱいにしといて、そんで離れてっちゃうなんて、ズルイ…」

 気持ちを吐き出しちゃったら、何か抑えが効かなくなってきちゃって、こんなこと言うつもりじゃなかったのに、言ったってどうしようもないって思ってたのに、感情に任せて、口を滑らせてしまって。

「久住…?」
「こんなに好きにさせておいて……ズルイ…」

 頬を伝う感触。
 ヤバ……もしかして、泣いてんの? 俺。
 ガキじゃないんだから、何でこんなことで感情を高ぶらせて、涙なんか流してんの?

「久住…」

 泣いてんのなんてバレバレなのに、涙を見られたくなくて、俺は立てた膝に顔をうずめる。
 相川さんが起き上がる気配がしたけど、そっちを向く気になんかなれなくて。



 何? と思って顔を上げれば、伸びて来た相川さんの手が俺の頬に触れた。濡れた頬を拭う手は優しくて、それを怖いと思わない自分に驚く。

「それ……ホント?」
「え?」
「好きっていうの」
「あ……あの…」

 改めてそんなこと確認されるなんて、恥ずかしい。
 でも逃げ場のない俺は、ジッと相川さんに見据えられたままで。

 あぁ……思えばずっと、この瞳に、俺は虜だったんだ……。

「好き、です…」
「今も?」
「……はい」
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ろくな愛をしらない 16



 濡れた瞳で見つめられて。
 その口から零れる言葉に、息が詰まりそうだった。

 好きだなんて言われて、子供みたいに胸をときめかせて。



 あぁ、これが恋だったんだ…。





【相川智紀】

 日が暮れかけた河川敷。
 見つめ合ったまま、静かに時間が流れていく。

「ヤベ…」
「へ?」
「俺も超好きかも……」

 何か意識し出したら、急に恥ずかしくなってきた。
 この状況。
 例えば今までだったらさ、こういう雰囲気になったら、何かこう流されちゃって最後まで致しちゃってたけど、今ってそうじゃないよな?

 っていうか、久住と2人きりでいるってこと自体が、結構照れるんだって気が付いた。

 何だよ、これ。
 俺ってこんなキャラじゃねぇだろ?

「相川さん?」
「え、はい!?」
「ふはっ……何か、らしくない」

 久住が、目をいっぱい潤ませたまま、吹き出した。
 え? 悲しいの? おもしろいの?

「ヤバ……俺、今超嬉しい…」

 ハラリ。
 そう言った久住の瞳から、新しい涙が零れ落ちて。
 嗚咽を堪えるように口元を押さえる。

 俺は久住の涙を拭って、その手を外させる。

「あいか…」

 顔を近づければ、驚いたように、慌てたように、久住が目を閉じて。
 そっと唇を重ねる。

 あぁ、想いを通じ合わせることはこんなにも大変で、けれどこんなにも甘くて。

 溢れてくる想いを抑えられなくて、久住を抱き締める。

「好き…」

 吐息が唇に掛かるほどの距離。
 見つめ合って。

 もうこんなことを言うのも、こんなことするのも、お前だけだから。
 冗談でなんか絶対しない。
 ずっとずっと、大事にするって誓うから。

 ねぇだから、

「俺も好きです」



 この想いが、ずっと通じ合えるように…。




*END*




 この2人をちょっと恥ずかしいって思うのは、私だけ?
 相川さん、当初は悪い男だったのに、最後は恋に不器用な乙女になってますがな。
 でも、相変わらず、感情と下半身は別モノ状態になっちゃうんですけどね、きっと。

 ここまでお付き合いくださいまして、ありがとうございました。
 拍手やコメントをくださったみなさん、ランキングクリックしてくれたみなさん、励みになりました。本当にありがとうございました。
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お陰様で清らかな生活を送らせていただいてますよ。


*慶太くん、出てきません…。智紀さんと拓海くんです。

「おはよ。あれ? トモ、昨日、慶太んち行ったんじゃないの?」
「…………そーだけど。だから?」
「じゃあ何でそんな苛付いてんの? 愛しい恋人と別れるのがつらくて、泣いちゃった?」
「違ぇよ! 泣くかアホ! 今日の夜だって会うわ!」
「あーそう、ごちそうさま。あんま惚気ないでよ」
「惚気てねぇし!」
「だったらどうしたんだよ。慶太とラブラブしてんでしょ? 今夜もそうなんでしょ? 何でそんな暗い顔しちゃってるわけ?」
「…………。なぁ」
「ん?」
「付き合って1か月で、キスしかしてないっつったら、俺って相当誠実な男じゃね?」
「え? 病気?」
「何でだよ!」
「じゃあ? ………………て、え? もしかして…」
「……………………」
「……あー……慶太って、そーゆーの淡白そうだしねぇ…。トモと違って、貞操観念がシッカリしてそうだしねぇ…」
「るせぇよ」
「で、マジで、1か月でキスしかしてないわけ?」
「お陰様で清らかな生活を送らせていただいてますよ」
「すげ…。あ、そうだ、トモ。明日土曜日じゃん」
「だから?」
「学校休みでしょ」
「………………だから?」
「ヤるなら今夜あたりが…」
「ちょっ、バッ…拓海! バカッ! バカバカ!! もー!」
「イデッ! 叩くな、バカ………………って、(…………照れてんのか…?)」





 いきなり1か月後設定です。しかも曜日も詐称…。
 恋する乙女、相川さんは、本気で恋した相手に、いまだ手を出せてません。何でこんな男になっちゃったかなぁ…。
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やわらかな夜


「あ、マコ! まだそんなカッコしてる」

 バスルームから寝室にやって来た遥斗は、スウェットパンツだけ穿いた格好で、髪も濡れたままの真琴を見つけ、眉を顰めた。

「んー?」

 呆れ顔の遥斗をよそに、真琴はベッドに転がって、のん気に雑誌を捲っている。

「マコ、ちゃんと髪乾かしな。風邪引くよ」
「んーやぁ…」

 遥斗が放ってきたタオルを、面倒臭そうに頭から退かす真琴。

「マーコ! ほら、ドライヤー」
「ん……はーちゃん、やってぇー」
 
もそもそと体を起こした真琴は、甘えるように遥斗に抱き付いた。

「マコの甘えんぼ」
「いいのぉ」
「はいはい」

 何だかんだで結局は真琴に甘い遥斗は、まずは放り投げられたタオルを手にして、まだ十分に水分を含んだ真琴の髪を、丁寧に拭いてやる。

「気持ちい…はーちゃんの手」
「そう? ありがと」

 だいたいタオルドライしたところで、遥斗はタオルを置いて、ドライヤーに切り替える。

「ドライヤー当てるよ? 熱いのでいい?」
「んー……ねぇ、髪、傷んでるでしょ?」
「ちょっとだけね」

 かつて繰り返したブリーチと、毎日のスタイリング。自分でも嫌になるくらいのダメージだ。

「ぅうん…」
「ん? 熱い?」
「へーき……はーちゃ…」
「ん?」

 真琴の顔を覗き込むと、トロリとした目で遥斗のほうを見上げた。

「眠いの?」
「んーん、ちが…」
「違うの?」
「…ぅん」

 ドライヤーを止めて、乾いてふわふわになった真琴の髪に指を通す。

「どうしたの、マコ」
「んー……俺、幸せだなぁって、思って」

 思い掛けない言葉を貰って、思わず遥斗の手が止まった。

「はーちゃ、ん…?」
「あ…いや……俺も今そう思ってた…」
「……おんなじこと考えてた? 俺ら」

 あぁ、奇跡のような確率で巡り会った俺たち。

 その中で、同じ気持ちでいられるなんて、何て幸せ。

「好きだよ」
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君は愛しいヘムロック (前編)


「やっぱ、手作りっしょ?」

 唐突に拓海にそう言われたとき、悠也は八尾から借りたDVDに夢中になっていて、言葉を聞きそびれてしまった。

「は? 何か言った?」

 視線は画面に向けたまま、悠也は問い返す。
 拓海はそれにもへこたれず、もう1度、「手作りがいいよね?」と言った。

「手作りー?」

 気持ちは完全にDVDだ。
 声を掛けられて、気が散ってしょうがない。

「そう、手作りだよね、やっぱv」

 グイ、と、悠也の視界に拓海が割り込んでくる。

「…………拓海、邪魔……」
「手作り、手作り!」
「……何が?」

 この会話に参加しないことには、いつまで経っても埒が明かないと判断した悠也は、仕方なくDVDを一時停止させ、拓海のほうを向き直った。

「僕に分かるように、ちゃんと説明しなさい、拓海くん」
「だーかーらー、手作りだってば!」
「何が」
「チョコ」
「チョコ? …………それは、お猪口のほうの"チョコ"、ではなくて」
「ではなくて」

 となると、悠也に思い付く"チョコ"といえば、チョコレートのほうのチョコしかない。

「…………で、チョコがどうしたって?」
「だから、手作り!!」

 先ほどから懸命に、"手作り"と"チョコ"というキーワードを訴えてくる拓海だが、悠也はまだピンと来ていない様子で、小首を傾げている。

「だからぁ、手作りチョコ!」
「……手作りチョコ~?」

 思い切り不審そうに、悠也は眉を顰めた。

「そう、手作りチョコ。ちょうだい?」
「……えーっと、拓海くん。君の言っていることを纏めると、俺が手作りのチョコを作って、君にプレゼントしろ、と」
「そうです」

「イヤ」

 満面の笑みで頷く拓海に、悠也の冷たい一言。

「えぇ~~~!!?? 何でぇ!? 何でぇ!?」

 案の定、拓海は大きな声で喚き出した。

「うるせぇよ! 声デカイっつーの。大体何で俺がお前に、わざわざチョコ作ってプレゼントしなきゃなんねぇんだよ」
「だってバレンタインじゃん!」
「知らねぇよ! そういうのは女にねだれって! いくらでもくれる女いるだろ?」
「いるけどさぁ!」

 悠也の嫌味を込めたセリフを、聞き流すでもなくあっさりと肯定して、拓海は更に捲くし立てる。

「違くて! そういうんじゃねぇの! 俺は悠ちゃんから欲しいの!」
「何で! 俺は男だ!」
「知ってるよ! 知ってるけどー。ちょうだい、ちょうだい!」
「面倒臭ぇ…」
「そんな! オーマイガ!! 悠ちゃんの愛の籠もったチョコ!」

 大げさなほど頭を抱えて床に突っ伏す拓海に、悠也は面倒臭くなって溜め息をついた。
 それより早くDVDの続きが見たい。

「大体さぁ……こんな時期に男がチョコ買いに行くなんて、それだけで恥ずかしいんですけど…」

 バレンタイン向けのチョコを売っている店は、どこだって女の子たちで溢れ返っている。そこで男がチョコを持ってレジに並ぶなんて……考えただけでも末恐ろしい。
 しかも拓海は手作りチョコを望んでいるわけで。

「―――無理!! 無理無理無理! ぜーったい無理!!」
「なぁんで!!」
「じゃあ、拓海がちょうだいよ! 手作りチョコ!」

 別にどれほどチョコが食べたいわけでもないし、バレンタインのチョコにこだわるわけではないけれど、男の自分が男にチョコを上げるのだから、その逆があったって、別におかしくはない。

「…………俺が、悠ちゃんに上げるの? チョコを」
「手作りね」
「えっ!?」
「そりゃそうでしょ? だってお前が先に言い出したんじゃん。手作りがいいって」

 あんぐり口を開けたまま固まっている拓海を無視して、悠也はDVDを再開させる。
 隣で拓海が、「う゛ー」とか「あ゛ー」とか、変な声を出しているが、気にしないことにする。

「じゃあ一緒に作る!?」

 拓海なりの、最大限の譲歩、妥協案だったらしい。
 拓海はまた、無理やり画面と悠也の間に割り込んできて、女の子が見たら失神ものの眩しい笑顔で、悠也にそう提案してきた。

「何で俺がお前と一緒にチョコ作んなきゃなんねぇんだよ! つーか、テレビ見えな、ちょっ……拓海!」
「だって欲しいんだもーん」

 ユサユサ、悠也の体を揺すって、甘えてくる。

「ウザい…」

 悠也は拓海を無視して、無理やりDVDの続きを観賞した。







 バレンタインということで。1組目はこのカップルです。後編に続きます。
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君は愛しいヘムロック (後編)


「ゆうちゃーん…」

 もさっ、と、雑誌を広げていた悠也の背中に、拓海が体重を掛けてきた。その重みに悠也は眉を顰めるが、何も言わない。顔も上げない。

 2月14日。
 街中が愛とチョコのにおいに包まれる日。

 拓海は何も触れないが、前々から喚いていただけあって、その態度は、まさしく悠也にチョコをねだるソレだった。
 けれどそれを分かっているはずの悠也は、ことごとく拓海を無視しているのだ。

「悠也くーん」

 ………………。

 反応の薄い悠也にしょんぼりして、拓海は悠也の背中から剥がれた。

「ゆう……だぁーーー!!??」

 バコンッ!!

 諦め切れなくて、もう1度悠也の名前を呼びながら振り返った拓海の顔面に、何か軽くて硬いものがクリーンヒット。もちろん悠也が拓海に投げ付けたのだ。

「イデデ……ひでぇよ、悠也…」

 拓海は鼻を押さえながら、床に落ちたそれに手を伸ばした。

「え、」

 拓海の顔面を直撃したそれは、小さいながら、かわいいラッピングの施された箱。裏返しになって床に転がっているが、ご丁寧にリボンまで掛けられている。

「悠也、これ…」

「お前が欲しがったんだからな!」

 乱暴な言葉と口調とは裏腹に、顔を背けた悠也は、耳まで赤くしている。
 よく見れば、拾い上げたそれは、ラッピングされているとはいえ、店で購入したときのようなきれいな包み方には程遠い。

 ということは、だ。

「もしかして、悠ちゃんの手作り…?」
「うっせ! いらないなら返せ!」
「いるいるいるいる! すっげぇ、嬉しい!!」

 一気にテンションをヒートアップさせて、拓海は悠也の背中に抱き付く。
 顔を赤くしたままだが、悠也はもちろんウザったそうな顔をするのを忘れない。

「悠ちゃん、有り難う、超嬉しい~~」

 ギュウウゥ~~~、背中から羽交い絞め。首筋に顔をうずめて、額をスリスリして。
 その様は、まるで大型犬がじゃれ付いている光景によく似ている。

「あ! ちょっと待っててね!」

 そう言って拓海は悠也から離れると、今度は自分のカバンの中をゴソゴソと漁り出す。やっと拓海から解放された悠也は、ホッと息をつく。

「はい、コレ!」

 ジャ~ンという間抜けな効果音付きで拓海かカバンから取り出したのは、同じようにかわいいラッピングの、小さな包み。

「へ?」
「悠ちゃんに」

 ポカンとしている悠也の手の上に、その包みは置かれて。包みに貼られたシールには「HAPPY VALENTINE!」って書いてある。

「お、れに…?」
「もちろん」
「おま……自分で買いに行ったの!?」

 この手のチョコが売っている店は、どう考えたって、女の子で溢れ返っているはず。しかもバレンタイン用のシールが貼ってあるということは、会計の際にその旨を店員から尋ねられたということだ。
 この、モデル張りに整った顔立ちの男前が、女の子だらけの店で、バレンタイン用のチョコレートを買う…………カッコ悪すぎる!!
 でもそんなカッコ悪いことを、自分のためにしてくれるなんて…。

「拓海のバカ!」
「え!?」

 いきなり怒鳴られて、拓海は驚いて、声を引っ繰り返した。

「超嬉しいじゃん、もーバカァ…」

 悠也はギュウと拓海に抱き付いた。

「ありがと……す、好き…」
「……うん」

 拓海の胸に顔を埋めたまま、悠也は消え入りそうな小さな声で、そう言った。





*END*





 ツンデレの神様、ここに降臨。
 うちの受け子ちゃん3人の中で、悠ちゃんだけが唯一、ツンとデレが半々な気がする。
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ドルチェ (前編)


 2月4日が相川さんの誕生日で、その1週間後の11日が俺の誕生日。
 で、その3日後の14日はバレンタインデー。
 何かイベントが目白押しすぎて、どうしていいか分かんない。

 だって誕生日には、プレゼントあげて、お祝いしたし。
 でもやっぱ、誕生日とバレンタインは別物?
 俺はもともとそういうイベントを、あんまり重視しない人だっただから、どっちが喜ばれるのか、よく分からない。

 でも、バレンタインにチョコ貰って、喜ばない男はいないよな。

(……手作り…?)

 いやいやいやいや。
 さすがにそれは、寒いから。
 そこまで気合い入れても。
 だいいち、全然料理なんてしないのに、チョコなんて。

(でも、融かして固めるだけだよな…)

 お店、ちょっと覗くだけ。
 何か良さそうなのがあったら、そっと買っていこう。
 きれいにラッピングされたヤツ。
 うん。
 俺が作るより、そのほうが絶対いい。

 絶対。








 ……て、思ってたのに。

「……何で俺はこんなところにいるんだ…。そして、何をしようとしてるんだ…」
「もう、慶太! グズグズ言ってないで、始めるよ? チョコ出して」

 相変わらずな調子で、泡立て器とやらを振り回してるのは、真琴。
 恋人に、どうしてもバレンタインのチョコを作ってやりたいんだとか(前に1度お会いした小沢さんという真琴の恋人は、モデルをしているというだけあって、恐ろしいほど男前だった)。

 いや、気持ちは分からないでもないよ。
 俺も一瞬、そうしようかな、て思ったからね。

 あのときお店に入ったときも、ラッピングされてる高級そうなチョコのそばに、手作り用のキットとかがあって、ちょっと買っちゃおうかなーとか思ったけどね。

 でもよくよく考えたら、どこで作るのか、って思ったわけ。
 だってウチ、お父さんとお母さんいるからね。
 バレンタイン間近に、1人息子が台所に籠ってチョコなんて作ってたら、余計な心配をかけかねない。

 そう思ってたところで、真琴に声を掛けられて。

『俺んちで一緒に作ろうよ』

 なんて、笑顔で言われて。
 その後に、『ウチなら平気だから』とか付け加えるから。

 てっきり、真琴が1人暮しなんだと思ったんだよ。
 それなら誰に気兼ねするでもなく、作れるから。

 なのに付いてきた先は、普通の一軒家。
 驚いてる俺に構うことなく、上がり込む真琴(自分ちなんだから、当たり前だけど)。
 え、じゃあ、今日はみんな留守? なんて、ほのかな期待を抱いたのも束の間。

「お帰り、マコ」
「お帰りー」

 登場したのは、真琴によく似た顔×2。

「ただいまー、お兄ちゃん」

 お兄ちゃん!?
 お兄ちゃんが2人もいる家で、これからバレンタインのチョコ作り!?

「慶太、早く上がってー」
「あ、お邪魔、します…」

 いまさら引き返せるわけもなくて、仕方なく俺は真琴の後に続く。

「真琴、兄ちゃん2人もいんの?」
「うん。あと弟」
「え、4人兄弟!?」
「そう」

 他に兄弟が3人もいる家の、どこが平気なんだ!?
 これなら、俺んちでやったほうが、まだマシだ…!!

「これから慶太とチョコ作るんだから、お兄ちゃんたち、邪魔しないでね!」
「はいはい。遥斗くんにあげるヤツ?」
「そう!」

 え。
 ちょっ…え?
 今、普通に、さらっと会話してたけど。

「真琴」

 お兄さんが出ていったのを見届けてから、声を潜めて尋ねる。

「真琴、自分の恋人が男だってこと、兄ちゃんに言ってんの?」
「うん。家族みんな知ってる」
「マジで!?」
「だってウチ4人兄弟だし、1番上のお兄ちゃん結婚して子どもいるから、もう孫の顔も見てるし。1人くらいホモでも平気かなー、て思って、もうずっと昔にカミングアウトしたよ。はーちゃんの前に付き合ってた人のとき」
「すげぇ…」

 簡単に言うけど、お前のその発想は、とんでもなく大胆だぞ。
 しかもそれを普通に話すお前もすごいが、それを普通に受け入れてる、家族も家族だ(いや、そんな家族だからこそ、真琴がこう育ったのかも…)。
 ウチなら絶対、失神ものだ。

「じゃ、作ろっか」
「あぁ…」

 作る前から、すでに疲労困憊なのは、なぜだ?






 真琴が用意した雑誌に、バレンタイン用のチョコの作り方が載っている。
 すでにページが少しボロボロになっているのは、何度か読み直したりしているからだろう。

「まずね、チョコを刻んで、湯煎に掛けてー」

 て、真琴が説明してくれるけど。

「"ゆせん"て何?」
「分かんない」
「え、」

 えっと、真琴、チョコ作ろうって言ったからには、作り方、知ってるんだよね…?

「とにかく! この本のとおりにやれば、きっと何とかなるはずだから! きっと!」
「……真琴、作ったことあるの?」
「ない! けど、うまくいくはず!」

 どこからそんな自信が沸いてくるのかと思うけど、とにかくここまで来たら、やらないわけにはいかない。
 本のとおり、チョコを刻んでみる。
 でも悪いけど、包丁持つのだって、殆ど未経験ですからね、僕!

「真琴、家で料理とかすんの?」
「ぜーんぜん」

 隣で、俺よりは多少慣れた手つきでチョコを刻む真琴に聞いてみれば、返事はこれ。

「前にはーちゃんにご飯作ってあげたとき、破滅的な味がする、て言われた」

 ……うん。
 それは決して褒め言葉じゃないね。

「イテッ!」

 て、さっそく指切ってるし…。

「慶太、大丈夫?」
「何とか…」

 こんなんで、ホントに完成するのか…?







「全部刻んだ? そしたらこれを湯煎に…」
「で、結局湯煎て何なわけ?」
「えーっと、だからー、鍋にお湯入れるでしょ? その上に別のボウルを置いて、ボウルの中にチョコを…」
「お湯、沸かしてない」
「あ!」

 真琴は慌てて、水を入れた鍋を火に掛ける。
 その間に雑誌を覗き込めば、何か写真では、融けてるチョコの中に温度計が差してあって。
 よく読めば、お湯は50~60度で、チョコを40~45度まで温めるとか書いてある。

「真琴、温度計なんて、あるの?」
「え? 温度計? 体温計じゃなくて?」
「……」

 ……ホントに完成するのか、このチョコ作り…。

「ちょっとお母さんに聞いてくる!」

 温度計が必要だってことを真琴に言ったら、真琴がバタバタと台所を出て行った。
 学校で会うといつもテンション高いヤツだけど、普段からあんななんだな…。


「温度計あった!」

 真琴が戻って来たときには、鍋のお湯はグラグラと沸騰していて、見ただけで50度なんかじゃないってことは分かるけど。
 とりあえず火を止めてから、温度計を突っ込んでみる。
 何に使ってた温度計か知らないけど…………キレイなんだよね?

「とりあえずお湯が5,60度になったら、湯煎にかけてみよ?」
「うん。でも何か氷水もいるみたいだけど」
「え!?」
「チョコが40度になったら、今度はボウルを氷水につけて、冷ますんだって」
「分かった!」

 同じように雑誌を覗き込んだ真琴が次の手順を確認して、冷凍庫から氷を出した…………途端。

「うわっ!?」

 手を滑らせて、氷の入っていた入れ物を床に落っことし……床は氷だらけ…。

「わーー、どうしよ!」
「とりあえず早く拾えって!」

 この氷を食うわけじゃないから、拾って使おうと思えば使えるはずだし。

 テーブルの下にまで転がっていってる氷を、慌ててみんな拾って、ボウルに氷水を作った……はいいけど。

「あ、お湯の温度、下がりすぎてる!」

 あたふたしてる間に、さっきまで100度近くまであったお湯は、すでに40度以下…。
 風呂じゃないんだから…。

「もっかい沸かさなきゃ!」



 再度、お湯を沸かして50度にまで上げて、今度こそ、湯煎。

「はぁ…疲れた…」

 まだ、たぶん作業的には殆ど終わってないのに、すげぇ疲れた…。
 とりあえず、ヘラでチョコを混ぜる作業は真琴に任せて、俺は雑誌の続きを見る。

 湯気だとか水分をチョコに入れないように気を付けながら融かして、40度になったら今度は氷水のボウルに移し替えて、26度にする(細かいっ!)

 でもそこまでしたら、あとは型に流し込んで固めるだけらしいから、そこまでいけば一段落す……

「真琴! チョコの中にお湯入ってる!」
「だって! 脇からお湯が入っちゃったんだもん!」

 湯気ですら入れるなって書いてあるのに、何で思いっきりチョコの中にお湯入れてんだよ!

「あーん、もう無理ーー!!」
「無理って言うなぁー!!」

 別に最初は乗り気じゃなかったけど、ここまで来たら、やり遂げたいし。
 この融かした大量のチョコ、このまま捨てたらもったいないし。

「もう、お母さんに助けてもらおう」
「いいって! そこまでしなくても大丈夫だから! まずお湯捨てて、お湯がかかった部分だけよければ何とかなるって」
「うぅ~…」

 今にも泣き出しそうな真琴を何とか宥めて、作業を再開する。
 いくら何でも、こんなこと、お母さんに手伝ってもらうなんて、恥ずかしすぎる!

「融けた?」
「40度になったから、今度は氷水につけないと……氷水、零すなよ?」
「大丈夫!」

 ホントかよ…とは思いつつ、今度はボウルを氷水のほうに移す…………けど。

「お前…、氷水のボウルのほうが小せぇじゃん!」

 ボウルのサイズが明らかに、間違ってる。
 どうやったって、チョコのほうのボウルの、底しかつけられない。

「おっきいボウルに移し替えよう!」

 念のため、先にボウルの大きさを確認してから、氷水を移し替える。

「…」

 少しずつ、そっと氷水をボウルに……

 ―――――ガッシャーン!!

「ギャーーー!!」
「あー……」

 やっちゃった…。
 床一面、水浸し。

「あーどうしようっ! どうしよー!!」
「とにかく雑巾!」
「チョコは!?」
「そんな場合かっ!」

 とうとう真琴は泣き出してしまったけれど、ハッキリ言って泣きたいのはこっちだ。

「マコ、どうしたの?」

 さすがにこれだけの物音がすれば、何事かと思ったのか、真琴のお母さんが台所に顔を出した。

「水がー! チョコーー!!」

 全くわけの分からない説明だけれど、お母さんは台所を見ただけで、事態をすべて把握したらしい。
 とりあえず真琴に雑巾を取りに行かせて、お母さんはチョコのほうをどうにかしてくれるようだ。



 そして。
 2人がかりで床をキレイにしたときには、もうすっかり疲れ果ててて。
 とてもじゃないけれど、これからもう1回チョコを作れって言われても、とても無理…。

「2人とも。あとは型に流すだけだから。そのくらい出来るでしょ?」

 真琴のお母さんに言われて、テーブルを見れば、キレイに融けたチョコレートがボウルの中に。

「お母さーん…」

 でももうチョコも氷も何もないはずなのに、て思ったら、どうやら冷め過ぎたらもう1度、湯煎とやらにかけてやり直せばいいらしい。
 しかも氷は、真琴の兄ちゃんが買いに行ってくれたらしい。
 
「型…」

 まだ鼻をグズグズさせながら、真琴が買ってきた型を1つ俺に渡した。
 俺は恥ずかしいから、ハート型とかはさけたんだけど、真琴はいかにもバレンタインのチョコ! て感じの、大きいハート型。

 今度こそ慎重にチョコを流し入れて、ようやく完成。

「あとは固まるのを待つだけだね」
「何とかな…」

 昔、付き合ってた彼女から手作りのチョコ貰ったことがあるけど、まさかこんなに大変だって思わなかった。
 甘く見てた。

 しかも、ボウルとか使ったヤツを片付けようとしたら、あとが大変だからって、真琴のお母さんがみんなやってくれて。
 本当にすみません。







「出来たーーー!!」

 キレイに固まったチョコを見て、真琴が声を大きくした。
 ここまでの仕上がりになった9割は、真琴のお母さんの力だけどな。

「ラッピングもすんの?」

 兄ちゃんに聞かれて、真琴は「これ!」て買ってきた包装紙を見せつけた。
 確かに、自分で作るってことになれば、ラッピングだって自分でしなきゃなんだよな。

 …ていうか、別にいいけど、ラッピングしてるところを、真琴のお母さんとか兄ちゃんたちに見られてるの、恥ずかしいんですけど…。
 でも散々お世話を掛けたから、こんなトコでわがまま言えないし…。

 つーか、ラッピングとか、したことないんですけど。

「これでいいわけ?」

 お店とかの見よう見まねで包んでみるけど……何かやっぱ、ちょっと…。
 きっちり包んだはずなのに、ちょっと緩いし。
 ちらりと真琴の手元を覗けば、器用な真琴はキレイに包んでる。

「もっかい…」

 そっとテープを剥がしてやり直してみるけれど、1回包んだことで紙がシワシワな分……さっきより変。
 でもまた包み直したら、これ以上変になるのは確実。

「リボン掛ける?」
「えー? リボン?」

 でも、リボン掛ければ、雑な包装はごまかせるかもしれない。

「……慶太って、意外と不器用?」

 改めて言われなくても、分かってるって!
 だってリボン、縦結びになってるし!
 悔しいからもう1回解いて結び直してみるけど……やっぱり縦結び。
 しょうがないから、無理やりリボンの形にした。

「へへ。きっと智紀さん、喜ぶよ?」
「そうかな?」
「そうだって!」







 バレンタイン当日に、13日の内容を載せるって、どういうこと?
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テーマ:自作BL小説  ジャンル:小説・文学

ドルチェ (中編)


 バレンタイン当日は、学校で相川さんに会えなくて、外で待ち合せた。
 いつもは手ぶらって言っていいほど身軽な相川さんだけど、何か今日はいつもより荷物が多いみたい。

 外でご飯食べて、そのまま相川さんちに。

「お邪魔しまーす」

 いつも座ってるソファに腰を掛ければ、相川さんがローテーブルに、持ってた荷物を置いた。
 何の荷物かなって思ってたら。

 あ、チョコ。


「あの、相川さん」
「ん?」
「これ…」

 俺は袋から零れたパッケージを指差しながら、相川さんを振り返った。

「あ、チョコ? バレンタインだから」
「はぁ」
「断ったんだけど、何か結構強引に押し付けられて。1人受け取ったら、じゃあ私のも、みたいな感じになっちゃって」
「…」

 別にどうってことない感じで話す相川さん。
 そりゃそうだ。
 だって女の子にあれだけ人気のある人だもん。
 バレンタインにチョコくらい貰うって。

「まぁチョコっつったって、俺、甘いもん苦手だしさぁ」
「そ…なんですか? あ、でも、ちょっと食べてるじゃないですか」

 中に、包みの開けてある箱を見つける。
 ゴディバ。
 こういうことに疎い俺だって分かる、高級チョコ。
 俺が買おうとした"高級そう"なチョコとは全然違う、ホントに高級なヤツ。

「おいしかったですか?」

 何を聞いてるんだ、俺は。
 ゴディバのチョコがまずいわけない。
 他の開いてないヤツを見たって、キレイに包装されてるし。

「んー? まぁうまかったけど。でも当分甘いものはいいよ、マジで」
「…」
「ん? どうした?」
「…え、いや、何でもないです」
「まさか慶太も、チョコくれるとか!?」

 尋ねられて、言葉に詰まった。
 あげる、つもりだったけど。
 だって、別に、いらないでしょ?

「なーんてな。女の子じゃあるまいし」
「――――…ぁ、はい…」

 そうだった。
 俺、女の子じゃなかった…。

「慶太? どうした?」
「何でも…」
「そう? あ、ちょっと着替えてくるわ。さっきちょっとコーヒー零れたんだよね。落ちるかな」
「はぁ…」

 そして相川さんは、クロゼットのある部屋に消えていった。
 俺はそっと自分のカバンを開ける。

「女の子じゃあるまいし、か」

 別に…忘れてたわけじゃないんだけどね。
 これ、ムダになっちゃったかな?

 ラッピングだってこんなにシワシワだし…、きっとおいしいチョコ、いっぱい貰ってるだろうし。
 俺のも、真琴のお母さんが作ってくれたようなもんだから、おいしいだろうけど。

 今さら、いらないよね…。

「………………、ック…」

 鼻の奥の辺りがツンッ…て痛くなって、堪えてたのに涙が零れた。
 何か急に悲しい気持ちになって、涙が止まらない。

「……ヒック…」

 何で俺、女の子じゃないんだろ…。
 何でもっと料理とか上手じゃないんだろ…。
 何で…何で相川さん、俺なんかのこと、好きなんだろ…。


 ――――ガチャ。

「ぁ…」

 ドアの開く音。
 背中向けてるから分かんないけど、相川さんが来る。早く泣きやまないと、変に思われる…!

 慌てて手の甲で涙を拭って、ごまかそうとテレビを点ける。

「あ、」

 慌て過ぎてたせいで、リモコンが手から滑って、床に落ちた。

「慶太?」
「あ、えっと…」

 グッと相川さんが顔を覗き込んできた。

「泣いた?」
「……泣いてません」
「嘘」
「テレビで、ちょっと…、あの、感動し…」
「ニュース?」
「……」

 感動も何も、チャンネルはニュースで、しかも何かの特集なのか、楽しそうな笑い声しか聞こえない。
 泣いてる理由にならない。

「さっきまで、その…」

 言葉が続かなくて、俺は弾みで落っことしたテレビのリモコンに手を伸ばした。
 でも。

「相川さ…」
「慶太、どうした?」

 伸ばした手を相川さんに掴まれた。

「別にどうもしてません」
「じゃあ何で泣いてんだよ?」
「泣いてない」
「泣いてんじゃん」

 相川さんの指が、頬をなぞった。

「何かあった?」
「……ないってばっ」

 泣いたことがバレたせいで俺は慌てちゃって、乱暴に相川さんの手を振り払ってしまった。

「慶太?」
「……ゴメンなさ…」
「どうした? 何か今日、変だぞ?」
「何でもない……ホントに何でもないんです……ック…」

 どうしよう、また涙が…。

「慶太、どうしたんだよ? 俺、何かした?」

 俺は首を横に振った。
 別に、相川さんが何かしたわけじゃない。
 相川さんのせいじゃない…。

「慶太、なぁ、何で泣くんだよ?」
「何でもないって!」
「慶太っ!!」

 俺は泣きながら相川さんの腕を振りほどいて、体ごと相川さんから背けた。

「何なんだよっ」

 相川さんは俺から離れて、床に座った。

 どうしよう、相川さん、怒ってる。
 俺のせいだ、どうしよう…。

 ……こんなはずじゃなかったのに。
 ホントはチョコ上げて、喜んでもらうはずだったのに…。

 …って、こんなチョコじゃ。

「……ゴメンなさい…」
「謝んなよ、何で泣いてんのか教えてほしいんだよ」

 俺はまた首を横に振った。

 言えないよ。
 言えるわけない。
 だって…、そしたらこのチョコのことも話さなきゃいけなくなる。
 あんなキレイでおいしそうなチョコがあっても、甘いものはもういらないって言ってんのに…。

「ゴメ…」
「謝んなっ! 慶太、」
「ゴメンなさい……俺、帰ります…」
「慶太!? おいっ」

 俺は相川さんの声から逃げるように、部屋を飛び出した。廊下を突っ走って、エレヴェータに飛び乗って、走って走って外に出た。



「あ…雪…」

 真夜中。
 珍しく降った雪のせいで、みんな、俺が泣いてることなんて気付いてない。俺はトボトボと家に向かう。

「相川さん…」

 何でこんなことになっちゃったんだろ…。








 何とか電車に乗り込んで、家に着いたらもう日付が変わってた。
 ……あーあ、バレンタイン、終わっちゃった…。

 ベッドにカバンを投げ付けて、俺もベッドに寝転がった。


 ―――ケンカ、しちゃった…。

 どうしよう…。
 あんなこと言って、相川さんち飛び出して……絶対呆れられた。

 俺たち、どうなっちゃうのかな。
 このまま別れることになったら、どうしよう…。

「うぅ…」

 ヤダ…そんなのヤダよ。
 俺、相川さんと、別れたくない…。

 携帯電話を取り出して、相川さんの番号にかける。
 …でも、何回コールが鳴っても、相川さんは出てくれない。

(相川さん…)

 結局、電話はそのまま留守電に代わった。
 でも、どんなメッセージを残したらいいか分からなくて、何も言わないで切った。

「……はぁ…」

 もう…ダメなのかな…。

 カバンの中にはヨレヨレのチョコの包み。リボンもほどけてる…。
 俺はそっとそのチョコを手に取った。
 シワシワで、ヨレヨレで、リボンもほどけちゃってて…。中だって、溶かして固めただけの普通のチョコだし…(しかも自分じゃ殆ど何も出来てないし)。

 ポトッ…と包みの上に涙が落ちた。
 何で俺、もっと素直になれないんだろ…。


「相川さん…ゴメンなさい…」
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ドルチェ (後編)







 ――――ピンポーン…。




 遠慮がちなチャイムの音に、意識が浮上してきた。
 いつの間にか、寝てたらしい。

 階下(した)から、お母さんと誰かの声。
 何?

「慶太! 慶太!」

 相川さん…?
 ……そんなわけない。だってあんなに怒ってたのに…。

「慶太、大丈夫か?」
「……ぇ…?」
「慶太!」
「相川…さん…?」

 目の前には相川さんの顔……すごい心配そうな顔してる…。

「おま…こんな濡れたままで! 風邪引いたらどうすんだよ!」

 相川さんの冷たい手が額に触れた。
 冷たい手。
 外、あんなに寒かったのに、俺のトコに来てくれたの…?

「とにかくコート脱げよ。あーもう、暖房も点けてないし!」

 あんまりにも展開が早すぎて付いていけないけど、ぼんやりしてるうちに、相川さんが暖房のスイッチを入れてくれてた。
 ていうか俺、上着も脱がないまま寝てたんだ…。

「ホントに風邪引いたらどうすんだよ」
「大丈夫です…。心配掛けて、ゴメンなさい」

 とりあえず上着を片付けようと、ベッドから下りた、その拍子。

 カタッ…。

「慶太、何か落ち…」
「あ、ダメ!!」

 床に落ちたそれを、相川さんが拾おうとするより先、俺は慌てて奪い取って、自分の後ろに隠した。

「慶太?」
「あ…ゴメンなさい…」
「また謝る…」
「……ゴメンなさ…」

 俺はまた悲しくなって俯いた。ポロポロと涙が落ちていく。

「慶太…」
「ごめんなさい…ごめんなさ……でも俺、相川さんのこと好き…だから…あの…」

 ギュッ…。


 え?
 気が付いたら、相川さんの腕の中だ。

 何で?

「俺も慶太のこと好きだよ…。さっきはゴメン、怒鳴ったりして…」
「……違う…俺が…」

 俺は相川さんの腕の中から出て、後ろに隠してたチョコの包みを思い切って相川さんに差し出した。

「これ…たぶん、いらないと、思う、けど…」
「チョコ?」
「でも、もう15日になっちゃったし、俺が作ったヤツだし、キレイに包めてないし…リボンとかも全然だし……相川さん、甘いの苦手なのに…ふぇ…」
「……ありがとう、嬉しい」
「でも俺、女の子じゃない…」
「分かってる。ゴメン、俺、お前のこといっぱい傷付けてた。慶太が一生懸命作ってくれたのに、ひどいこといっぱい言った」

 ギュッて相川さんが抱き締めてくれる。

「慶太、ありがとう、すげぇ嬉しい」
「……ホントに貰ってくれる? 相川さんが貰ったのみたいに、キレイじゃないよ…俺の…」
「好きな子から貰って、嬉しくないわけないじゃん。でも…手、大丈夫か?」
「え?」

 ちょっとだけ体を離した相川さんが、俺の両手を取って、絆創膏やら火傷の痕を見た。
 そういえば、傷だらけの手のこと、すっかり忘れてた…。

「大丈夫、です…」

 恥ずかしくて、相川さんの手をほどいて、後ろに隠した。

「何か……もっと料理とか出来たら良かったのに…」

 どう考えたって、料理の腕は、相川さんのほうが上だ。
 俺は"湯煎"の意味も分からなければ、包丁を持つ手もぎこちない男で。

「別に、今のままで十分だって。お前、勉強も出来て、他のも何でもそつなくこなして、これで料理まで出来たら、完璧すぎて何かヤダよ」
「……相川さん…」

 そんなこと言ってもらえると、嬉しいけど、恥ずかしい。
 人に褒められるのって、慣れてない…。

「開けてもいい?」
「え、あ、はい…」

 目の前で開けられるのはちょっと恥ずかしい気もするけど…、素直に頷いた。
 それから相川さんはゆっくりと箱を開けた。
 甘いにおいが暖かい部屋に広がる。

「じゃ、いただきます」

 俺はちょっと緊張しながら相川さんを見てた。
 おいしく出来てるのかなぁ…。

「ん、おいしい」
「……ホント…?」
「ホント」

 相川さんが俺のほうに身を屈めて、チュッてキスしてきた。

「う…」

 よく分かんないけど、こういうのが相川さんにとってはわりと普通で、俺にとっては、非日常的なことで。
 どうしたらいいのか分からなくなる。

「慶太?」
「……ぁう…」
「顔赤い。マジで熱出た?」
「だだだだ大丈夫ですっ!」
「ん? そう?」

 とりあえず、相川さんが顔を離してくれたら、すぐに治りますから…!!

「あーでも俺、何かすげぇ感動してる」
「は? え、何が? 感動って…」
「お前のことが好きだから」
「ッ…」

 だから、そういうことを、さらっと言わないでほしい。
 何か急に顔が熱くなってくような気がして、相川さんから体ごと背けて俯いた。

「でもお前、雪の中、濡れたまま帰って来て、風邪引くなよ?」
「はい…。あ、そうえいば、何でさっき電話出てくれなかったんですか?」
「電話? もしかして慶太、携帯に掛けた?」
「はぁ」
「ゴメンッ、実は携帯、家に忘れてきちゃって。気付いたときには、もうお前んちの近くだったから…」

 何だ、そっか…。
 あのときの、死ぬほど焦った自分を思い出して、ちょっとおかしくなる。

「……相川さん」
「ん?」
「………………」
「ん? 何?」
「あの、その…」
「ん?」
「俺…相川さんのこと……大好き…」

 ……………………。

 か…顔が熱い!!
 雰囲気に任せて、俺はもしかして、とんでもないことを言ったんじゃ…。
 相川さん、何で何も言い返してくれないの?
 もしかして引いた?
 いや、もしかしなくても引くよな。
 あぁ~~~~~、俺は一体、何を口走ってるんだ!? 

 けれど。
 次の瞬間。
 俺の顔を覗き込んできた相川さんは、いつにも増して男前で。

「俺も大好きだよ。ずっとに一緒にいような」

 ドラマみたいな決め台詞を吐いたあと、ごく当たり前のようにキスをしてきて。

「慶太!?」

 もう、パニックに陥った思考回路じゃ、何も考えられなくて。

 俺は、その場に引っ繰り返りそうになるのを、必死に堪えるのが精いっぱいだった…。







*END*






 ここまでの雰囲気を醸し出しておきながら、手を出さない男、相川…。いいのか?
 それにしても、慶太くんを泣かせてしまった…。
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Heavenly Kiss (前編)


「はーちゃん、明日も仕事……だよね?」

 お休み前のテレフォンタイム。
 バレンタインに手作りチョコを渡すぞ作戦を実行すべく、はーちゃんの予定を確認する。

『うん、仕事』

 まぁ…分かってたことだけどね。
 そんなにあっさり言わなくても。

「撮影? スタジオなの? それとも外?」
『確か屋外だったかな』
「遠く? どこでするの?」
『何、どうしたの、マコ』
「見に行っても……いい?」
『え?』

 ちょっとの沈黙。
 考えてるのかな?
 今までこんなこと、言ったことないもんね。

「ダメ?」
『まぁ…いいとは思うけど…』
「邪魔しないように、おとなしくしてるから! ちゃんといい子にしてるから!」
『分かった、分かった』

 だって、学生の俺と違って、はーちゃんは忙しいし。
 仕事が終わってから会うってなったら、行ったり来たりする時間もあるから、ちょっとしか一緒にいられないから。
 それならこっちから会いに行けば、少しでも一緒にいられるもんね。
 それに……はーちゃんが仕事してるトコ、ちゃんと見たことって1回もないし。

「じゃあ、明日、学校が終わったら直行するね!」
『夕方までやってるから、慌てなくても大丈夫だよ』
「分かってる!」






***

 はーちゃんは慌てなくても大丈夫って言ったけど、1秒でも早く行きたいから、チャイムが鳴ったら即ダッシュ。
 昨日教えてもらった場所に行ったら、何か人だかりっぽくなってるところがあって、すぐにそこだって分かった。
 そっと近づけば、はーちゃんのほかに何人かモデルさんがいて、あとカメラマンの人とか、機材持ってる人とか、メイクさんかな、女の人もいる。

「どこだったら、邪魔にならないかな…」

 あんまりジロジロ見てたり、ウロウロしてたりしたら、やじ馬かと思われちゃうかな?
 どうしよ…。

「はーちゃーん…」

 うわー…超カッコいい…。
 あの中ではやっぱ、はーちゃんが1番カッコいいよね。
 うん、絶対。
 何かお家で会うときと、雰囲気違う…。
 凛としてるし……あーでもカッコいー……。

「マコ!」
「うわっ!?」

 ボーっとしてたら、目の前にいきなりはーちゃんの顔。
 ビックリしすぎて、思わず後ろに飛び退いちゃった。

「大丈夫?」

 あんまりにも俺がビックリするもんだから、はーちゃんが苦笑してる。
 あれ? 撮影は?

「はーちゃん…。あれ?」
「休憩に入ったんだよ。マコ、こっち見てるのに、全然気付いてなかったから。声掛けたらすごいビックリしてるし」
「だってはーちゃん、カッコいいから、見惚れてた」
「大げさだよ」

 そう言ってはーちゃんは笑うけど、ううん、全然そんなことない。
 すごいカッコいいし。

「早かったね。もう学校終わったの?」
「うん。チャイム鳴って、即ダッシュで来た」
「慌て過ぎて事故るなよ?」
「大丈夫だよ!」

 子どもにするみたいに頭を撫で撫でするから、恥ずかしくてつい言い返しちゃう。
 ホントはその手、好きなんだけどね。

「もうちょっと撮影あるから、マコ、こっち来て待ってて?」
「え? そっち行ってもいいの?」
「いいよ、おいで」

 はーちゃんに言われるがまま、俺は待機してるスタッフさんのほうに行く。
 キレイな女の人が2人。

「わ、遥斗くん。誰、そのかわいい子!」
「ヤダ、ホント、かわいい! 遥斗の知り合い?」
「名前は?」
「あ…ぅ…」

 いきなり2人に囲まれて、何かどうしていいか分かんない。
 困ってはーちゃんを見れば、

「2人とも、マコがビックリして固まっちゃってるから」

 て、助け船を出してくれる。

「だって遥斗がかわいい子、連れて来るから」

 んん??
 かわいいって、俺のこと?
 別にかわいくなんかないし!
 それに俺、男だし、もう20歳なんだから、かわいいとか、ちょっとヤなんだけど(出来ればカッコいいとかのほうがいいよ)。

 ポニーテールで背の高いほうがメイクを担当してるアキさんで、茶髪のショートカットのほうが、衣装とかを担当してるアユミさん。
 何かはーちゃんのお仕事が終わるまで、このお姉さまたちと一緒にいなきゃいけないみたい。
 はーちゃんのお仕事邪魔しないように、いい子でいなきゃいけないから、しょうがないけど。

「マコちゃんて言うの? 名前」
「ん、真琴、だから、マコ」
「かわいー。ね、いくつなの?」
「えっと、ハタチ」
「はー…さすが20歳は肌の張りが違うわね」

 2人からの質問攻め。
 出来れば、はーちゃんのこと、見てたいんだけどなぁ。

「マコちゃんもモデルとかしてないの?」
「え? 俺が? まさか!」

 だってモデルさんて、はーちゃんみたいにカッコいい人がやるんでしょ?
 俺なんてブサイクだもん…。

「かわいいし、スタイルいいから、向いてるかもよ?」

 だから、かわいくないし!
 もー、お姉さまは、よく分かんない!!

「でも、はーちゃ…、……遥斗、何であんなカッコで撮影してるの? あれって、春物?」

 まだ2月なのに、モデルさんたち、半袖だったり薄着だったり。
 何でそんなカッコなの??

「実際に雑誌が発売されるのはまだ先だし、ファッション誌の場合、実際の季節よりも先取りで流行とかを伝えるじゃない? だから、夏物の撮影は冬。冬物の撮影は夏なのよ」
「えぇー…じゃあ、季節が真逆ってこと?」
「そうそう」

 知らなかったー…。
 屋内ならまだしも、この時期、外であのカッコはつらいよねー…。

「だからホント、実際は季節感ゼロよね。半袖のモデルさんに、バレンタインのチョコ渡して」
「夏なの? 冬なの? どっちよ! ていうね」

 ……。
 バレンタインのチョコ。
 え? お姉さまたち、はーちゃんにもチョコ渡したの?

「えっと、あの、2人とも、モデルさんに、チョコとか渡すの?」
「え? まぁ一応ね。ホラ、普通の会社で言うところの、同僚みたいなもんだし」
「ま、義理ですけどね」

 義理チョコ。
 そういえば、お父さんもお兄ちゃんも、会社の女の人からチョコ貰ってくるもんね。
 何か、そういう感じってこと?

「遥斗にも、あげた?」

 何か普段、"はーちゃん"て呼んでるから、今さら"遥斗"とか言いづらい。
 でもこんなトコで、"はーちゃん"なんて言ったら、このお姉さまがたに何て突っ込まれるか分かんない。

「遥斗くんにもあげたわよ」
「義理チョコ?」

 俺、何確認してんだ?

「あたしは本命のつもりであげても良かったんだけどね」
「えっ!?」
「あはは、アキ、何言ってんのよ。遥斗、本命チョコは彼女から貰うから、あんたの本命チョコなんか受け取らないわよ」
「あー、そうだよね。彼女いるって言ってたもんね」

 え?
 本命チョコ?
 んん??
 彼女?

 どういうこと?
 確かに俺は本命チョコ、はーちゃんにあげるつもりだけど、チョコのことは内緒にしてるし、だいいち俺は女じゃないもん。"彼女"じゃない。

 え…。
 俺のほかに、誰か、本命チョコくれるような彼女がいるってこと?

 そんなことない……よね?
 俺だけだよね?
 はーちゃんのこと、信じてていいんだよね?

 何か急に心の中がモヤモヤしてきて、イライラ? ムカムカ? よく分かんないけど。
 お姉さま2人の話し声も、耳に入って来なくなる。


 はーちゃんがカメラに向かって、キレイな顔で笑ってる。
 俺の知らない顔。
 何かすごく遠くにいる人みたい。


 このままずっとはーちゃんのこと見てるのがつらくなって、俺ははーちゃんに内緒でその場を去った。
 お姉さまには、もうちょっとで終わるって言われたけど、もう無理…。
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Heavenly Kiss (中編)


 帰ったら、2番目のお兄ちゃんが、ビックリした顔で出迎えた。
 今日ははーちゃんちに行くって言ってたのに、こんな早い時間に帰って来たから。

「マコ、どうした? そんな顔して」

 そのまま部屋に一直線に向かおうと思ったのに、すごく心配そうに聞いてくるから、弱り掛けてた心がグラグラした。

「マコ?」
「……ぅ…ふぇ…」
「ちょっ…マコ!?」
「うわぁーん!」

 1つ、涙がポロッと零れて、その後はもう止まらなかった。
 リビングまで引っ張ってってくれて、泣きじゃくる俺を抱き締めて、背中をポンポンしてくれる。
 さっき、はーちゃんが頭をポンポンしてくれたみたいに優しくて、涙が止まんなくなる。

「何、何、どうしたー?」
「はーちゃ…ヒック…」
「ん? 遥斗くん? 今日は一緒じゃないの? 会えなかった?」
「会った、けど…」

 本命チョコくれる彼女がいるって…。

「会って、話、してきた?」
「……話、ていうか…、…ック」

 お姉さま2人とは話したけど…。
 ……はーちゃんに黙って、帰ってきちゃった…。

「遥斗くんて、マコのこと、こんなに泣かすヤツだったっけ?」
「……違う…」

 はーちゃんは、いっつも優しいよ。
 俺はわがままばっか言って、はーちゃんのこと、困らせてる。
 だからはーちゃん、俺のこと嫌になっちゃったのかな。
 他の女の子のほうが、良くなっちゃったのかな。

「うぅ…」
「あーマコ、もう泣くなって! 俺が泣かせてるみたいじゃん! 別に遥斗くんは何も言ってないんだろ? マコだって本人に確かめたわけじゃないんだろ?」
「…ん。だってそんなの、怖い…」
「でもこのままでいいの? 本人から何も聞いてないのに、勝手に疑ってるだけで」
「ヤダ…」

 聞くの、怖い。
 だって、もし他に彼女がいるって分かったら、そんなの。
 でも、このままでいるのも…。

「はーちゃんに、電話してみる…」
「そうしな。何かあったら、また慰めてあげるから」
「…ん。ありがと」
「ホラ、いつまでも鼻垂らしてないで、顔洗っといで?」
「垂らしてない!」

 両手で涙を拭って、お兄ちゃんから離れた。
 言われたとおりに顔を洗おうと、洗面所に向かおうとしたら、カバンの中から、携帯電話の着信音。

「はーちゃんだ!」

 はーちゃんからの電話だけ、着信音を変えてるから、すぐに分かるの。
 お兄ちゃんがニコニコ(ニヤニヤ?)こっち見てるから、カバン持って、ダッシュでリビングを出る。

「もしもし? はーちゃん?」
『あ、マコ! 今どこ? 家に帰ったの?』
「あ…うん」
『どうしたの? 具合悪くなった? 外寒かったし、風邪でも引いたんじゃ…』
「違うの、ゴメンなさい…」

 すごい心配そうな声。
 黙って帰って来ちゃったからだ。

 しっかりコートまで着込んでた俺が、あそこにちょっといたくらいで風邪引いてたんじゃ、半袖とか着て撮影してたモデルさんとかに申し訳ないよ。

『平気なんだね?』
「うん、大丈夫。ゴメンね、勝手に帰って来ちゃって」
『いや、いいんだけど。アキさんとかも、マコが元気ないみたいだって心配してたから』
「……ゴメンなさい」

 あの、アキさんてお姉さんのチョコは義理チョコだって分かってるけど、でも、それでも今、はーちゃんの口から女の人の名前を聞くのは、ちょっとキツイ。

『マコ、今家なんだよね? これから出られる?』
「うん」
『じゃあこれから迎えに行くよ。支度して待ってて?』

 本命チョコの彼女は?
 そこには行かなくていいの?

 聞こうと思ったけど、結局言葉にならなかった。
 会ったら、そしたらちゃんと聞くから、て、自分に言い聞かせて、電話を切った。

「お兄ちゃん、やっぱ出掛けてくるね?」
「おー、ちゃんと顔洗ってから行けよ?」
「分かってる!」
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Heavenly Kiss (後編)


 ばっちりしっかり顔を洗って、鼻もかんで。
 これで泣いてたことは、バレないはず。

 しばらくしたら、はーちゃんが車で迎えに来てくれた。
 見送りに出てこようとしたお兄ちゃんを丁重にお断りして(でも感謝してるよ!)、はーちゃんの車に乗り込んだ。

「どこ行くの?」
「とりあえず俺んちに直行。どっかよりたいトコある? お腹空いた?」
「んーん、はーちゃんちでいいよ」

 車の中は、静か。
 いつもはだいたい俺がうるさくしてるんだけど……何か今はお喋りする気分じゃない。
 もちろん聞きたいことはあるんだけど…。

「マコ、ホントに具合が悪いわけじゃないんだよね?」
「え?」

 しばらくして、赤信号で停車したのをいいことに、はーちゃんがこっちを向いて尋ねてきた。
 運転中だから見てるのバレないだろうと思って、こっそりはーちゃんのこと見てたから、ばっちり目が合って、ちょっと焦る。

「何か今日、すごい静かだから。大丈夫?」
「大丈夫だよ! 俺だって静かなときもあるのー!」
「そっか」
「そうだよ!」

 良かった。
 はーちゃんの前でも、俺、ちゃんと笑えてる。








「お邪魔しまーす」

 先週末は会えなかったから、はーちゃんちに来るのは、結構久々かも。
 勝手知ったる家なんだけど、でも今日は何となくいつもみたく出来ない。
 カバン持ったまま突っ立ってたら、「座んないの?」て言われて慌ててソファに座って。上着脱ぐのも忘れてて、「やっぱ寒い?」て聞かれて、急いで脱ぐ。

「やっぱ、今日のマコはいつもと違うね?」

 隣に座ったはーちゃんが、俺の体を抱き寄せて、顔を覗き込んできた。

「違わないよ」
「でも昨日と明らかにテンション違う」
「俺、そんなにいつでもテンション高いわけじゃないし」

 周りからは、いつもテンション高い、て言われ続けてるけど…。

「でも、何で今日はテンションが下がるの? 普通逆じゃない?」
「……」

 そりゃそうだよね、今日はバレンタインデーなんだから。
 俺だって、何時間か前までは、超ハイテンション、心ウキウキだったけど。

「はーちゃん、今日、アキさんとアユミさんからチョコ貰った?」
「ん? あぁ、うん。俺だけじゃなくて、他のモデルさんとかスタッフさんにも配ってたけど。しかもあの2人だけじゃなくて、女性スタッフ全員の連名だよ?」
「本命チョコは?」
「えぇ? さすがに全員に配る連名のチョコは、義理でしょ?」
「じゃなくて!!」

 はーちゃんの手を解いて、俺はそっちを向き直った。
 急におっきな声を出したせいか、はーちゃんがちょっとビックリした顔してる。

「違う! それ以外の、本命チョコ! 彼女……から、貰うんでしょ?」
「え? え? 彼女? ちょっと待って、マコ、何言って…」
「だってアキさんたちが……うぅ~…」

 どうしよ…。
 さっき、お兄ちゃんの前でさんざん泣いたのに。
 また、涙が出てきそう。

「何? アキさんたちに何か言われた? マコ?」
「だって、はーちゃんは、彼女から本命チョコ、貰うから、て……ック…、彼女いるって…」

 せっかく顔洗って、鼻もかんできたのに。
 泣いたことバレないように、してきたのに。
 結局こんなに泣いちゃって、俺ってホント、バカみたい。

「彼女って…、だってマコは男の子なんだから、彼女じゃないだろ?」
「そ…だから…」
「アキさんたちにそう言われて、俺に他に彼女がいるって思ったの?」
「…ん」

 涙でグチャグチャになった顔を、はーちゃんが拭ってくれるけど。
 でも、全然涙が止まらない。

「……はーちゃん…、彼女、いるの?」

 だって、俺はまだ、はーちゃんの口からは直接聞いてないけど、アキさんたちにはそう言ったんでしょ?
 だからアキさんたち、あんなこと言ったんでしょ?

「彼女なんていないよ」
「でも、アキさんたちが…」
「確かに前、アキさんたちに聞かれて、……俺、恋人がいるとは言ったけど、彼女とは言ってないんだけど」

 ……………………。

「…………え?」

「どこで話が行き違っちゃったのか分かんないけど…」

 ………………え?
 えっとー…。

「マコ?」

 えっと、だから、つまりー。
 アキさんたちに聞かれて、はーちゃんは恋人がいるって答えて。
 はーちゃんは男だから、アキさんたちは、恋人=彼女って、そう思っちゃって。
 そりゃそうだ。
 たぶんはーちゃんは、現場で自分がゲイだってこと言ってないだろうし。
 それで、それで…。

「マコ? ねぇ、ちょっ…大丈夫?」

 てことは、今日のあの会話の中に出てきた"彼女"っていうのは、女じゃないけど、俺のことで。
 えっと、えっと…。
 本命チョコの彼女…

「マコってば!」
「……ふぇ…?」
「ねぇ、大丈夫?」

 ガクガク肩を揺すぶられて、我に返った。

「ね、じゃ、チョコは? 本命チョコ!」
「え?」

 だって俺、はーちゃんにチョコあげるなんて、言ってない!

「だってマコ、チョコくれるんでしょ?」

 ………………え?

「あれ? 違うの? 俺、そうだと思ってたんだけど…」
「いや…」

 あげるけど。
 あげるつもりだけど、だから何ではーちゃん、そのこと知ってるの?
 恋人同士だし、言わなくてもあげるの、当たり前?

「だってマコ、2月に入ってから、ずっと雑誌見てたじゃん。バレンタインの関係の」
「え!?」

 え? え? えぇーーー!?
 もしかして、バレてた…?

「だから、貰えるのかなー、て思ってたんだけど…。もしかして、マコこそ、誰か違う人にあげるつもりだった?」
「ちちちち違う!! はーちゃんにあげるつもりだった!」

 ホラ! て、カバンの中から、チョコの包みを取り出す。
 昨日、慶太と一緒に作って、ちゃんとラッピングとかしたんだから!

「……貰ってくれる? 手作りだけど…」

 料理の腕前には(悪い意味で)定評があるし。
 はーちゃんもそれは十分承知してるし。
 やっぱ嫌かなぁ…。

「あのね、ちゃんと出来てると思うよ? お母さんが助けてくれたし、俺もちょっと食べたけど、甘かったし、ちゃんとチョコの味がしたし! だから、あのね、」
「マーコ」

 必死で言い訳してたら、はーちゃんにほっぺをむぎゅってされた。
 痛い…。

「そんな毒見みたいな真似、しなくてもいいのに」
「だって」

 出来れば、はーちゃんにはおいしいもの、食べてもらいたいし。
 俺のチョコ食べて、お腹痛くしちゃったら、さすがのはーちゃんだって、俺のこと、嫌いになるかもしれないし。

 はーちゃんが丁寧に箱を開けてく。
 ハート型のおっきいチョコ。
 慶太はちょっと呆れてたけど、バレンタインだし。

「……ど、どう? まずかったら、何も言わずにそっとしまって! 感想とかいらないから、あの、」
「大丈夫、おいしいよ」
「嘘!」
「ホントだって。だってマコも食べたんでしょ?」
「食べたけど…」

 だって俺の作ったヤツだし。
 やっぱり、自信ない…。

「ぅん!?」

 あわあわしたり、しょんぼりしたりしてたら、いきなりはーちゃんにキスされた。
 甘い…。

「どうですか、真琴くん」
「おいし…、ふぇ…」
「え、マコ? 何で泣くの?」
「だってぇ~…」

 もうダメだ。
 今日は完全に涙腺が崩壊してる。

 嬉しくなったり、悲しくなったり、不安になったり、いろんなことが起こりすぎて、頭がパニックになりそう。

「まぁ、死ぬほどまずかったとしても、嫌いになったりなんか、しないけどね」

 そう言って、はーちゃんに唇を塞がれて。
 今日、撮影中に散々ときめかされたキラキラ笑顔のアップに、そのまま卒倒しそうになる。

「好きだよ、マコだけ」
「……ん」

 俺も、はーちゃんのことが好き。
 だから、スタッフのお姉さまにも、ファンの女の子にも悪いけど、この恋だけは譲らないし!!




 …………でも、料理だけは、もうちょっと、がんばってみようかな。





*END*





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 ようやく終わりました、バレンタイン企画! って、もう19日だし!
 普通バレンタイン企画って、バレンタインの前から始まって、バレンタインの日に終わるもんだよね。何だ、19日って。
 何かネタの数と話の長さの計算を間違えまして……まぁいいや。

 ちなみに、マコちゃんの、チョコ作り奮闘編はこちらです。→ドルチェ (前編)

 ここまでお付き合い、有り難うございました!
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おとなしく観念しなさい。


「拓海ー」
「ん? 何? ………………って、何? え? あの、何で俺、押し倒されちゃってんの?」
「うるさい、黙れ拓海。お前さー、2人きりで会うの何日ぶりだと思ってんの?」
「は? え? えっと…」
「2週間! 2週間ぶり! そんときはメシ食って、すぐ別れちゃったけどな」
「そ…ですね」
「テストだとか何とか言っちゃって」
「いや、だって受けないわけにいかないし。留年しちゃうよ」
「うっさい。はっきり言って、もう1か月、お前とセックスしてないんだけど」
「ホントにはっきり言い過ぎ!!」
「何? 何なの? お前、平気なの? 1か月も俺に突っ込まなくたって、平気でいられんの?」
「ちょっ、あの……突っ込むって…」
「どうなの? 平気なの? それとも俺の知らないとこで、女…じゃない、他の男とヤってんの?」
「ヤ、ヤ、ヤ、ヤってない!! ヤってない!! ヤルわけない!!!」
「そう。じゃあ、拓海だって、溜まってるよね? そうだよね?」
「あ、ぁ、う… (何か今日の悠ちゃん、目がギラギラしてるーーー!!)」
「拓海」
「は、ハイッ!」
「おとなしく観念しなさい」
「ひぃ~~~~!!」





 悠ちゃん、襲い受け…。

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Sugar Baby! (前編)


「そういえばさぁ」

 授業が終わると、隣でテキストやらを片付けていた真琴が、慶太の顔を覗き込んだ。

「最近、智紀さんて、学生会室来ないね」
「……え、」
「ん? 前は結構しょっちゅう来てたじゃん? でも何か最近、来ないと思わない?」
「そ、そう…?」

 慶太は普通を装っているらしいが、ほんのりと頬が色付いたのを、真琴は見逃さなかった。

「慶太ー、」

 真琴が次の言葉を続けようとしたところに割り込んできたのは、歩だった。

「ちょっとこのレポート、教授んトコ届けてこないといけないんだけど、付き合って?」
「え、これって…」

 歩の見せたレポート用紙に、慶太と真琴は顔を見合わせた。同じレポートを、2人はもう先々週のうちに提出しているのだ。

「……悪いけど、俺、巻き添え食って怒られたくない…」
「あ、やっぱ? 真琴は? 一緒に来る気ない?」
「嫌ですー」

 慶太と真琴にフラれ、歩は「はぁ~」なんてわざとらしい溜め息をついてから、研究室のほうへ向かっていった。

「アイツ、時々信じられないことするよな…」

 まったく堪えた様子のない歩に呆れつつ、慶太は教室を出ようとしたが、そんな慶太の肩を掴んで引き止めたのは真琴だ。

「ねぇ、さっきの話の続きは?」

 にっこりと笑うその顔は、まさに花の咲いたようなかわいらしさだったけれど、今の慶太にしてみれば、悪魔の笑顔でしかない。

「と…とにかく、教室出よう? 次ここ使うみた……」

 別の授業の学生たちが教室に集まり出したのに気が付いて、慶太はひとまず真琴の手を解く。そしてドアのほうを振り向いた先、言葉に詰まった。

「ん? あ、拓海ー!」

 ちょうどドアが開いて入って来たのは、拓海と…………智紀だった。
 真琴が手を振れば、それに気付いた2人がやって来た。

「え、真琴、次ここ?」
「んーん、今終わったとこ」

 慶太の視線が泳ぐ。
 とりあえずそれには突っ込まず、真琴は拓海に話し掛ける。
 智紀と慶太の様子を窺えば、2人とも目を合わせたかと思えば逸らす、といった具合で。ジワジワと慶太の頬に赤みが増していく。

「あ、チャイム! もう行かないと」
「まこ…待って!」

 まだ教授の来る気配はなかったが、本気で焦ったような声を出して、慶太は真琴を追い掛けた。






 とうとう始まりました。智タン慶タン初めて物語。道のりは遠いですが、どうぞよろしくです。
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Sugar Baby! (中編)


 カフェテリア。
 昼食の時間帯でもなく、授業が始まったこともあって、人が少ない。

「あー、めっちゃ怒られたー」

 と言いつつも、ヘラヘラ笑いながら歩がやって来た。
 慶太と真琴は苦笑するしかない。

「あ、それでさぁ、さっきの話の続き!」
「何々?」

 真琴の言葉に食い付いてきたのは、歩だった。慶太は、勘弁してくれ、といった顔で、密かに溜め息をつく。

「最近、智紀さんがあんまり学生会室に来ない件」
「あぁー確かに。慶太、智紀と何があったの?」
「えっ、俺!?」

 歩に話を振られて、慶太は声を引っ繰り返した。
 智紀が学生会室に来なくなったことと、どうして慶太を結び付けたのか。しかも真琴でなく、歩が。

「なななな何で俺!?」
「え、だって」
「ねぇ。智紀さんは学生会室来なくなるし、慶太は智紀さんの話題になると、顔赤くなるし」
「なってないよ!」

 真琴に指摘され、それでも頬の熱いのが気になるのか、慶太はパンパンと両手で頬を叩いた。

「何? とうとうエッチでもしちゃった?」
「…………エッ……チ…………―――――ッ!? なっ……何言って……!?」

 歩の言葉の意味を理解した途端、慶太は耳まで赤くして、思わず歩に右フックを食らわせてしまった。

「イタッ! ちょっ…やめろよ」
「ゴメ……だって歩、あ゛…うー……」

 歩としては、それほど衝撃的なことを言ったつもりはなかったのだが、慶太は大げさなくらいに真っ赤になって、あたふたしている。

「違うの?」

 真琴も歩の意見と同じだったのか、あまりにも慌てる慶太に、逆に驚いてしまった。

「違うに決まってんじゃん! 何言ってんの!? て、ってか、何で!?」
「は? 何が?」
「何でその……あの、…………そう思ったの?」

 急に真顔になった慶太が、声を潜めて尋ねてきた。

「そうって?」
「だから! 何でその……あの、エッチ…した、とか、その……」
「んー? いや、恋人同士なら、そのくらいするでしょ、普通」
「こいっ…!」
「むがっ!?」

 驚いて慶太は、両手で歩の口を押さえて、辺りを見回した。
 離れたテーブルに着いている他の学生たちは、特にこちらの様子に気付いたふうもなく、それぞれに話をしている。

「何だよ、慶太」

 邪魔そうに慶太の手を払って、歩は眉を寄せる。

「だってだって!!」
「ちょっと落ち着きなよ…」

 あまりにあわあわしている慶太に、真琴がそう言った。
 まさか真琴にそんな言葉を掛けられる日が来るとは…。それでも慶太は大きく息をついて、ペットボトルのお茶を1口飲んだ。

「ていうか、ちょっと待ってよ。何で歩、知って…」

 慶太が知る限り、慶太と智紀が付き合っていることを知っているのは、真琴と拓海と高遠だけのはずだ。
 歩を信用していないわけではないが、やはり相手が男であるということも手伝って、何となく言えずにいた。
 それなのに。

「は? だって付き合ってんでしょ? 慶太と智紀」
「な…何で知って…」
「はぁ? 何でも何も…」

 バレバレなんですけど…。

 別に必要以上にベタベタしているわけではないが、2人でいるときの雰囲気は、どう見ても恋人同士のそれを醸し出しているわけで。

(もしかして、隠してるつもりだったのかな…?)

 歩は、慶太や智紀がこのことを誰に打ち明けているかは知らないが、2人を知る人に話したところで、"今更、何言ってんの?"という状態だろう。
 まさか2人がそのことを隠しているだなんて、思いも寄らないに違いない。

 歩も真琴も、何だか楽しくなってきた。
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Sugar Baby! (後編)


「で、結局、何なわけ?」

 好奇心丸出しの顔で、真琴は更に慶太を問い詰める。

「何、が?」
「智紀さんとと何があったの? エッチしたんじゃないとしたら……」
「ちょっ……もう、あんまりエッチエッチって言わないでよ!」

 思春期の女の子みたいな反応をする慶太に、真琴は苦笑いするしかない。歩も2人を見ながら笑っている。

「ね、ね、それで、智紀さんと何があったの?」
「……何で真琴、そんなに嬉しそうな顔なの?」
「ただの興味だし。智紀さんと慶太って、どんな感じなのかなぁって思うじゃん。ねぇ?」
「うーん、まぁ」

 同意を求められたが、歩は曖昧に笑って誤魔化した。
 教えてくれるというなら話には付き合うが、友人の性生活について、そんなに詳しく知って、一体どうするつもりなんだろう、という気もある。
 
「やっぱ慶太って、淡白なの?」
「たんぱっ……な、何ですぐそういうふうなこと…!!」

 顔を赤くしてモジモジしている慶太が、何だかかわいい。
 すっかり動揺している慶太は、からかっているだけの真琴にも、うまく返すことができなくて。

「バレンタインのとき、何かなかったの? チョコ渡しただけで、終わりじゃないでしょ?」
「まぁ…その…だから…」
「うんうん」
「……キ、スを…」
「うん」
「……した」
「………………うん。え? それだけ?」

 思わずそんな返事をしてしまった。
 真琴にしてみれば、散々勿体を付けられた答えが、高々キスくらいのことだったなんて、拍子抜けもいいところだ。

「それだけって…………それだけ、だけど?」
「キスしたくらいで、2人してあんな反応なの?」
「あんな反応って、何が? 普通だと思うけど…」

 何で真琴がそんなふうに言うのか分からず慶太は首を傾げるが、真琴と歩は何とも言えない表情で顔を見合わせた。

 慶太はともかく、あの智紀が、慶太とキスをしたくらいであの反応。
 あり得ない。
 それくらい、慶太のことが特別だということだろうか。

「だってさ、プライベートのときはいいじゃん、2人きりだし。でもその後に学校で会ったら、何となく気まずいっていうか…………2人とも、そういうこと、ない?」
「いや、別に」
「ないな」

 2人にあっさりと答えられ、慶太はシュンとなった。
 何だか1人だけ、自意識過剰みたいで恥ずかしい。

「つーかさ、慶太、今までそういうことなかったわけ? 高校のころとか。彼女と同じ学校じゃなかったの?」
「だったけどー、そのときはそんなふうに思わなかったかな…」

 クラスは別だったけれど、一緒にも帰ったし、学校の中でもよく会った。
 そのときはそんなふうに感じたこともなかったのだけれど…。


「ねぇー慶太ー」

 歩がゴミを片付けに行っている隙に、真琴が慶太のそばに寄って来た。

「……何、」

 若干警戒しつつ、聞き返してみる。

「智紀さんとエッチしたら、そのときは教えてね?」

 ………………………………。

「…………ッ、ま……真琴のバカッ!!」

 もう知らない!! と、顔をさらに赤くして、慶太はズカズカと歩いて行く。
 バカ笑いしながら追い掛ける真琴と、自分が離れた一瞬のうちに何だか楽しいことになっている2人を追う歩。

 慶太はダッシュで2人を振り切った。





*END*
(Sugar Baby! 2 へ続きます)






 すいません、中途半端なとこで…。話が長いんで、2へ続きます。
 それにしても慶タン…。
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みんなみんな愛のせい


「ちょ…ちょっとマコ、無理しないでね?」
「だから大丈夫だって! 俺を信じてよ!」
「い…いや、信じてるけど…」
「…っ…、くっ…」
「俺がやろうか?」
「嫌! リンゴの皮くらい、自分で剥けるしっ!」
「いや、でも…マコがケガするほうが心配…」
「ちょっと黙っててよ! 集中できないじゃん!」
「は…はい…」


 ―――ザクッ!!


「だあぁぁぁっ!!」
「何、もうっ! ちょっと皮、厚く剥いただけでしょ!」
「う…うぅ…」
「よしっ、出来た! はい、はーちゃん!」
「はいって… (殆ど実が残ってないんだけど…) い…いただきます…」
「おいし? おいし?」
「はい、おいしいです…。でも次からは俺に剥かせてね…」





 こんな調子なのに、よく手作りチョコを作る気になったな、マコちゃん…。

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だって好きなんだもん! (前編)


 何か体が重いと思ったら、しっかりと拓海に抱き締められてた、日曜日の朝。

(……風呂入りてぇ…)

 久々に2人でゆっくりと会うことの許された昨晩。当然、拓海の下半身が大人しくしているはずもなく。それこそ空が白むころまで体を求められた。
 普段は終わった後にシャワーくらいは浴びるけど、今度ばかりはさすがにそんな元気もなく、プツリと意識が途絶えるように眠ってしまって…………今に至る。

「拓海ー、起きてー」

 拓海の腕に包まれたまま、その体をユサユサしてみるが、起きる気配なし。

「むー……」

 悠也は、最終手段! とばかりに、無理やり拓海の腕を引っぺがした。

「もう…」

 それでも拓海は起きない。悠也はそれを無視して体を起こすと、ブランケットを拓海に掛け直してやって、ベッドを降りた。

「い゛っ…」

 途端に腰に激痛。悠也はガクリと膝を折って、床にへたり込んだ。

「バカっ…!」

 のん気に眠りこけている拓海をひと睨みしてから、悠也はベッドの縁に掴まって何とか立ち上がる。

「―――ッ…」

 その瞬間。中を伝う、ドロリとした液体の感触。悠也は身を竦めて唇を噛んだ。溢れ出た、拓海の欲望の残滓。

「ヤ、ダ…」

 膝が震える。流れ出た精液が、トロトロと太ももを伝う。こんな状態では、とても1人でバスルームになんか行けない。堪え切れずに悠也はペタリと床に座り込んだ。

「バカッ……バカバカバカ! 拓海のバカッ!」

 声に涙が混じる。こんな状況の中、平然と寝ている拓海を、本気で呪ってやりたくなる。

「拓海! たーくーみー!!」
「―――…………んぁ……?」
「起きろ! バカ!」
「……何、朝っぱらから…」

 寝起き最悪の拓海は、悠也の悲痛な声色に気付いていないのか、ガシガシ頭を掻きながら、目をこじ開けようとしている…………が、いつまた眠りに落ちてもおかしくないようなほど、目蓋がまた落ち始めて。

「わぁーバカバカ!! 2度寝したら、別れてやる!!」
「―――はぁっ!?」

 さすがにこの言葉は、一気に脳まで届いたらしい。拓海はバッチリと目を開け、ガバッと飛び起きた。

「な、な、な、な、何て言った、今!?」
「別れるっつったの、バカ拓海!!」
「なっ……ッ、えっ…mqあcうぇdrかb;vcp;@!!!???」
「……何言ってんのか、よく分かんないんだけど…」

 日本語なのかどうかも怪しい言葉を吐いて固まっている拓海に、悠也は冷ややかな視線を向ける。

「あの、悠也さん……もう1回今のセリフを…」
「もう何でもいいから、風呂場に連れてって!!」
「……へ?」
「~~~~ッッッ!! バカッ!! お前のせいなんだから、責任持って風呂場に連れてけー!!」

 悠也の怒鳴り声に我に返った拓海は、下肢を白く汚している悠也の姿に、ようやく事の次第を把握して。
 暴れる悠也を無理やりお姫様抱っこしてバスルームへと向かった。
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だって好きなんだもん! (中編) R18


*R18です。しかもやや変態臭いんで、いろいろとご注意ください。

「……で、何でお前まで風呂に入る気満々なわけ?」

 脱衣所で、なぜか服を脱ぎ出す拓海に、悠也は眉を顰めた。

「え? そりゃ一緒に入るでしょ?」
「何でだよ! 来んなよ!」
「はいはーい、ジタバタしないのー」

 いつもだったら得意の右ストレートを繰り出しているところなのに、今日はこの腰の痛みとグチャグチャの下半身のせいで、思うようにいかない。
 結局、拓海に抱えられたまま、2人で浴室へ。

「……ッ…」

 温度調節したシャワーを、前に座る悠也に掛けてやると、ピクンとその肩が跳ねた。

「悠ちゃん、ちょっと腰浮かせて」
「なっ…何で!」
「だって、そうしなきゃ処理できないじゃん」
「いいよ、しなくて!」
「何で? 昨日ちゃんとしてあげられなかったんだから、責任を持って今、俺が」
「いいって! 今さら!」

 セックスの後に後始末してもらうのも十分恥ずかしいけれど、そのときはまだ脳がしっかり働いていないせいもあって、あれよあれよという間に済んでしまうからいい。
 けれど今は、バッチリ目も覚めているわけで。

「だって悠ちゃん、このままじゃいれないでしょ? 風呂入る意味ねぇじゃん」
「お前が一緒に入ってこなきゃ、何の問題もなかったんだよ! つーか、ゴム使えよ、バカ!!」

 最後のゴム云々の問題は、それこそ今さら言っても始まらないけど。

「まぁまぁ、今さらでしょ? それにこんな中途半端に濡れた状態で上がったら、風邪引いちゃうし」
「……ッ!!」

 何とか言い包めようとする拓海に、悠也はもう反論の術がない。何よりも、ドロドロの下腹部が気持ち悪い。

「じゃあ、ここ座って?」

 拓海はバスタブの縁を叩いた。

「早く」
「……ッ…」

 悠也は目を潤ませながら、言われたとおりにバスタブの縁に腰を下ろす。動くたびに、中から精液が流れ落ちて。

「やっ…」
「大丈夫だから……そっちに落ちないようにね」

 拓海は床のタイルに膝立ちになって、左手で悠也の腰を抱いた。バランスを崩して湯船に落ちたら大変だ。

「たくっ……ッ…」

 グチュ…。
 悠也の膝を割った拓海は、トロトロと白濁した液を垂らしている悠也の後ろに指を忍ばせる。

「ひぁっ…ヤ、ヤダ…」
「ヤダじゃないでしょ? …………こんなに飲み込んでたの、全部出さなきゃ」
「あぁっ……」

 グチュグチュと拓海の指が抜き差しされるたび、中から溢れ出す精液。そしてその指に、着実に反応を見せる悠也の中心。

「やぁ……や…」

 拓海のほうへ上体を倒して、悠也はその肩口に額を摺り寄せる。別にそんなつもりでもないのに、勝手に昂ってしまう自分が嫌だ。

「はぁっ……ッ、」

 互いの腹の間で熱を持っている悠也の性器に手を掛けた拓海は、確実に意志を持った動きでその手を動かす。

「や、やぁ……やめ、…」
「……ん、大丈夫、いいから…」
「んぁっ、あ、あふ…っ……」

 後ろと前の両方を刺激され、悠也は堪え切れずに腰を揺らす。

「も…もぉ……」

 啜り泣きながら、悠也は拓海の手を止めようとするが、力の差でそれも叶わない。

「あ、あ、あああっ…!!」

 先端に爪を立てられると、悠也は高い声で鳴いてイッた。
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だって好きなんだもん! (後編) R18


*R18です。18歳未満の方、そういった表現の苦手な方はご遠慮ください。変態です。

「……はぁ…、ッ…や、ヤダって……言ったのにぃ……」

 ぐずぐず鼻を啜っている悠也の中から指を抜き、震えている体を抱き上げて、床のタイルの上に降ろしてやる。

「ゴメンて。でもあのままじゃ悠ちゃんだって、ツライっしょ?」

 互いの精液で汚れている悠也にシャワーを掛けてやると、涙目の悠也が顔を上げた。

「ゴメンね」

 シャワーが飛んで湿気を帯びた髪の間に指を入れ、顔を引き寄せると、そのままキスを仕掛ける。
 何度か角度を変えて唇を合わせていると、スッと悠也の手が伸びてきて、拓海の下腹部に触れた。

「……ッ、なに…」
「して、あげる…」

 悠也は徐に身を屈めると、熱を帯び始めている拓海の性器の先に口付けた。
 いつもよりも声の響くバスルームで、悠也の痴態を目の当たりにしていたわけで。拓海だって男の子だから。反応しないはずがない。

「ちょっ、いいって、悠ちゃんっ!」

 拓海は焦って悠也の頭を引き剥がそうとしてそれもうまくいかず、手からシャワーが滑り落ちる。

「……ん、んむ…」

 ピチャピチャと舌を絡めてくる悠也に、拓海はそれを引き離すことをやめて、柔らかな髪に指を滑らせ、項を辿る。悠也は時々擽ったそうに首を竦めながらも、懸命に拓海を高めようとする。

「……ッ、はぁっ……ゆう…も、いいから…」

 限界が見え始め、拓海は悠也の後ろ髪を引っ張ったが、彼は首を振ってそれを拒否する。

「離せって……マジ、イキそう…」
「イッていいよ……飲んであげる…」
「あっ…、ちょっ……―――ッ…!」

 悠也が、深く咥え込んで唇を窄めるから。何とか堪えようとした拓海だったが、その舌技に、悠也の口の中に精を放ってしまった。

「はぁっ……ゆう、や…」
「……ケホッ…ん、…」
「バカ……飲むなよ…」
「いいの、俺がしたかったんだから」

 悠也は口元を拭いながら顔を上げた。その白く汚れた唇に、吸い寄せられるようにキスをする。

「ん…」
「……ふ…マズ…」
「お前が出したヤツだろ、バカ」

 顔を顰める拓海を、悠也は笑いながら小突いた。

「悠ちゃんのならおいしーのに」
「バカッ! ホンット、バカだろ、お前!!」

 拓海は、そういうことを恥ずかしげもなく言ってくるから、タチが悪い。

「冗談だってば。ホラ、体洗って上がろ? 上せちゃう」

 元気を取り戻した悠也のコブシがいつ飛んでくるか分からない。拓海は宥めるように頬にキスをする。

「あぁー…もうこんなんじゃ、今日は出かけらんないよぉ。買い物行きたかったのに…」
「無理しないで、買い物はまた今度にしよ?」
「うぅー…………うん」
「で、今日は1日、一緒にベッドの中にいようね?」

 ………………。

「拓海のバカッ!!」
「イダッ!」





*END*






 すいません、すいません、すいません、すいませ……いろんな人、すみません。
 でも何より悠ちゃん、ゴメン…。
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Sugar Baby! 2 (前編)


「ねぇねぇ慶太、もう智紀さんとエッチしたー?」
「真琴!」

 まだ慶太と真琴しかいない学生会室。
 真琴と2人きりだと気付いた瞬間、慶太は回れ右をして部屋を出ていきたくなったが、それよりも先、真琴は妙に明るい声でそう尋ねてきた。
 途端に慶太が耳まで赤くしたのは言うまでもない。
 真琴はさらに笑みを深くして、慶太の背中にまとわり付いた。

「何、急に!」
「だって慶太から全然その後の話、聞かないからさぁ」
「別に何もないし! てか、あったって真琴になんか教えないし!」
「何だ、何もないのかぁ、つまんない」

 唇を尖らせながら、真琴は慶太の体を揺さぶる。

「つまるとか、つまんないとかの問題じゃないし! 俺たちのこといちいち詮索するの、やめてよ」
「いいじゃーん。だって今どきさぁ、中学生だって、そこまで純愛じゃないっしょ?」
「うるさい! もう、そういう真琴はどうなの?」

 慶太は背中から真琴を引き剥がすと、彼のほうに向き直った。

「どうって? はーちゃんと? 相変わらずだよ」

 まだ顔の赤い慶太に対し、真琴はあっけらかんと答える。
 時間が合えば遥斗の家に行くし、セックスもするし、時々遊びにも出かける。

「あー慶太、かわいー」
「何言ってんの? ってか、くっ付くのやめろよ」

 今度は正面から抱き付かれて、慶太は困惑しながら、その体を押し返す。

「いいじゃん、減るもんじゃないしー」

 キュウキュウ。

「真琴!」
「もー、慶太、智紀さんとチュウしてから、俺に対して冷たい…」
「うるさいってば! それとこれとは関係ないだろ。てか離れろって!」

 真琴を引き離そうとする慶太に反して、真琴はさらに力を込めて慶太に抱き付いて来る。2人してジタバタしていると、学生会室のドアが開いて、拓海と智紀が姿を現した。

「うわっ!?」

 ――――ガッタンッ!!

 2人がやって来たことに気付いた慶太が、そちらに気を向けた瞬間、そのままの勢いで真琴が慶太を押し倒してしまった。

「……何してんの、お前ら」

 呆れた声を出したのは拓海で、智紀は困ったように2人を見ている。

「ちょっ…真琴、ホント離れて!」

 選りに選ってこんなところ、何で見られないといけないのか。
 慶太が必死に真琴を離そうとしていると、拓海が溜め息をついて、慶太に圧し掛かっている真琴の腕を引っ張って、その体を起こしてやった。

「真琴、あんまからかうなって」
「あぁーもう! もうちょっと慶太と話したいことがあったのにー」
「何を」
「恋バナ」
「はぁ?」

 長い付き合いの拓海も、真琴の突拍子もない思考回路に、時々付いていけなくなる。

「あ…」

 起き上がりかけた慶太の体を、智紀が引っ張り起こしてくれて。
 別にそんなつもりはないけれど、手を繋いでいる、と思わず意識してしまって、慶太は体温が上がるのを感じた。

(意識しすぎだって、俺…)
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Sugar Baby! 2 (後編)


 定例会が終わると、どこかで時間を潰していたらしい智紀が待っていて、真琴に冷やかされながらも、慶太は智紀と一緒に帰ることになった。

「さっき、真琴と何話してたの?」
「え?」
「さっき。学生会室で」
「さっき……あ、」

 定例会が始まる前の、真琴と慶太の、あの状況だろう。引き剥がすつもりが、気を抜いた瞬間に、押し倒されてしまった。
 不可抗力だったとはいえ、やはり言い訳はしておいたほうがいいだろうか。

「何か……いろいろ、その…」
「ふーん?」

 心拍数が、上がる。
 真琴との会話を、思い出してしまったから。

「慶太?」

 熱くなった頬を冷まそうと、両手で顔を扇ぎ出した慶太を、智紀は不思議そうに見つめる。

「あ、あー……あ、相川さん、のこと…とか」
「俺のこと? 真琴と? てか、何で顔赤くしてんの?」
「いや、ちょっと…」
「照れてる? 思い出し照れとか?」
「…………うん」

 素直に頷いたら、智紀が吹き出した。

「ホラ」

 駐輪場まで行くと、智紀からヘルメットを手渡される。
 もう何度もこうやって一緒に帰っているので、さすがに慶太もバイクの後ろに乗ることには慣れた。
 でも今日は…

(ドキドキが、バレそう…)

 別に今さらこんなことでドキドキすることはないのだが、さっきの真琴とのやり取りを思い出して、無駄に心拍数を上げてしまっているから。

「真琴に、何か聞かれんの?」
「え?」
「俺らのこと」

 顔を上げれば、智紀が、困ったような顔で苦笑いしていた。

「アイツも結構そういう話、好きだからなぁ」
「相川さんにも、何か言ってくるんですか?」
「いや、俺には直接言わないけど、…………お前、何て答えてるわけ?」
「何って…」

 まさかとは思うが、これまでの2人のお付き合いを、赤裸々に語ったのだとしたら……いや、赤裸々に語れるほどのことは、まだ何もしていないけれど。

「別に、何も。だって…」

 答えるほどのこと、してないでしょ…?

「………………」
「………………」

 2人で顔を見合せて、それから互いに相手が何を思ったのかを悟り、顔を赤くする。

「あの、慶太……」
「……ん?」
「慶太はその…、そういうこと…」

 智紀は、慶太の顔を見たまま、口籠った。

「相川さんこそ…」

 慶太も口籠った。

「俺はその……」

 智紀の答えを待っているだけなのに、心拍数がグングン上がり出す。

「相川さん!!」
「―――へ?」
「やっぱ、やっぱいい!!」

 大きな声で智紀の言葉を遮って、慶太はヘルメットを被った。突然の慶太の行動に、智紀は思考が付いていかない。

「……な、何が?」
「そういう話は……あの、その……、俺、まだ、その……心の準備が…」

 俯いてモゴモゴと話す慶太は、すでに耳まで赤くなっている。

「それは何? 話を聞く心の準備? それとも…」
「……両方、かな…?」

 聞き取れるかどうか分からないような小さな声で答える慶太に少し笑って、智紀は自分もヘルメットを被った。

「話の続きはまた今度。今日はもう帰ろうぜ?」
「……はい」

 俯いたまま慶太がバイクの後ろに跨る。
 相変わらずおずおずと前に腕を回す慶太にもう1度笑って、智紀はエンジンを掛けた。





 …………真琴、ゴメン。
 報告は、まだまだ先になりそうです。








*END*
(Sugar Baby! 3 へ続きます)






 す…すみません、3に続きます…。
 ていうか、一昨日まであんな変態臭い話書いといて、今さら純情ぶってみても遅いよね、私…。
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カテゴリー:智紀×慶太
テーマ:自作BL小説  ジャンル:小説・文学

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