恋三昧

【18禁】 BL小説取り扱い中。苦手なかた、「BL」という言葉に聞き覚えのないかた、18歳未満のかたはご遠慮ください。

2011年08月

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楽園にガラスの靴 (20)


「は? 誰?」

 不思議そうにしてるミヤに、今日は直央くんと一緒に来てるの! て、ちょっとだけ直央くんを見せる(ミヤまで直央くんのことお気に入りになったらヤダから、ちょっとだけ)。
 前菜をモグモグしてる直央くんを背中に庇ってたら、ミヤが「見えねぇよっ」て喚きながら、俺の後ろを覗き込もうとする。
 させるか! て思ったのに、ヤツの俊敏さに負けて(そんなに変わんねぇはずなのに、一瞬の隙を突かれた!)、ミヤがさっと俺の後ろに回り込んでしまう。

「ん?」
「ぅ?」

 わざわざ俺の後ろに回って直央くんを覗き込んだミヤが、『え?』て感じでキョトンとしたら、直央くんもコテッと小首を傾げた(口んトコからササミ出てる…)。

「ミヤ! もう見ただろっ? もうどっか行ってよ、バイバイ」
「えっちょっ待っ、誰だよこの子っ! 超~~~~かわいいじゃんっ!」

 さっさとどっか行け~! てミヤを追っ払おうとしたのに、直央くんをしっかりと見てしまったミヤは、俺を押し退けて直央くんの前にしゃしゃり出て行った。
 だあぁ~~~もうっ!! こうなったらヤダから、ミヤにあんま直央くんのこと見せたくなかったのにっ!

「えっと、初めまして。宮田伊吹です」

 ヤキモキしてる俺を無視して、ミヤがきりっと最高の笑顔を作って、直央くんのほうに右手を差し出した。もちろん、握手を求める手だ。
 その手に、5秒くらい考え込んでた直央くんは、握手するんだ、て気付いてハッとしたけど、右手にフォーク、左手にお皿を持ってるから、手を差し出そうにも出来なくて、ワタワタしてる。
 そんな姿もかわいい…! て思えちゃうくらい、俺は盲目的に直央くんのことが好きなんだけど、どうやらそう思ってるのは俺だけじゃなく、ミヤもだったみたいで。

「お皿をね、この指とこの指の間で持って、グラス持ってないときは、フォークはお皿の上で……こう持つといいよ?」

 笑顔のままミヤは、直央くんにお皿とフォークの持ち方を教えてあげてる。
 ミヤは意外と食事とかパーティーでの人の仕草をよく見てて、そういうのが出来てない人は、どんなにキレイで魅力的でも幻滅…てヤツなのに。

「じゃ、改めて。宮田伊吹です、よろしく」
「え、えと、あの…、瑞原直央、です…」

 パーティーに参加するのが初めてなんだから、こういう経験ももちろん初めてで、直央くんはキョドキョドしながら、チラッと俺を見て、それからやっとミヤのほうに手を差し出した。
 もちろんそうして然るべきなんだけど、俺としては、ちょっとおもしろくない。



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楽園にガラスの靴 (21)


「それで瑞原くんは、どうして今日ここに? 仁の会社に新しく入った人なの?」
「えと、そういうわけでは…」

 積極的に話し掛けてくるミヤに、直央くんは完全に戸惑い気味。
 こういう場では、知らない人でも声は掛けてくもんだから、これはこれでアリなんだけど、直央くん、そういうのは知らないから…。

「ミヤ、直央くんはそういうんじゃないの。初めてで緊張してんだから、あんま話し掛けんな」
「そうなの? 直央くん? ふぅん。大丈夫だよ、直央くん。俺は仁の友だちだし、そんなに緊張しないでね?」
「は、はぁ…」

 俺が間に割って入っても、ミヤは直央くんと話すことを諦めないで、なお一層空気を柔らかくする。
 あぁ、これで大抵の女の子は堕ちちゃうんだよ(何もしないで立ってるだけでも、場の半分くらいの女の子はミヤの虜になってるんだけど)。

 つか、『直央くん』て!
 何でお前まで、そういう呼び方になってんだよ!

「とにかく! 今日は直央くんいるから、お前の相手してる暇はないの。じゃあな」
「はいはい、とりあえず一旦退散しますよ。つか仁、お前に声掛けてほしそぉ~にしてる女の子たちの視線、あんま無視すんなよ? 女子は怖~いからね」

 ミヤとの会話を無理やり終わらせれば、ミヤは余計なことを付け加え、手をひらひらさせながら去って行った。



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楽園にガラスの靴 (22)


s i d e : n a o


*直央くんサイド、ちょっと時間が戻ります。

 徳永さんに料理の取り方を教えてもらって、お皿にエビとかお刺身とかが入ってるサラダ…? みたいのとか、鶏のササミの何かとかを乗せて、周りにあるテーブルのほうに戻ってくる。
 ここに来るまではずっとイヤイヤで、来てからも緊張しまくってたけど、何とかちょっと落ち着いてきた。

「いただきま~す」

 広い部屋の真ん中に料理の乗ったテーブルがあって、その周りにいくつもテーブルがあるんだけど、椅子はないから立ったまま食べる。
 立食パーティー? 立ったまま食べるの? て、徳永さんからパーティーのことを聞いてからずっと不思議だったんだけど、こういうパーティーは交流することが目的だから、自由に動けるように立食のスタイルなんだって。
 俺、誰と何の交流したらいいの? ご飯食べに行くだけじゃないの? てますます不安になってたら、直央くんはそんなことしなくていいんだよ、とは言ってくれたけど…。

 でもみんなお上品な感じで、パーティーにも慣れてる、て感じで……セレブだなぁ、て思う。
 徳永さんは、セレブじゃなくてもパーティーくらいするから、て言ってたけど、セレブな徳永さんにそんなこと言われたって、ぜーんぜん説得力がない。
 だって俺の知り合いで、パーティーに行ったとか言うヤツ、いないもん(バイト先の正社員さんとか、俺みたいに貧乏な人じゃなくても)。

 うわ、このお刺身おいし~!
 ドレッシングがおいしいのかな。お刺身が新鮮だからおいしいのかな? それとも、俺が知らないだけで、すっごい高い魚なのかな?

「んふふ、おいし」
「そう? よかった」

 すっごくおいしいから、思わずそう口走ってしまったら、ご飯食べてると思ってた徳永さんに聞こえてたらしく、相槌を打たれた。
 まだこれしか食べてないけど、すごくおいしい。
 でも、純子さんの作ったご飯のがおいしいかな、て思って徳永さんにこっそり打ち明けたら、笑われた。

「あ、仁じゃん」
「は?」

 あ~おいし! 幸せっ! て思ってたら、気安く呼ぶ声に反応して徳永さんが振り返った(よく考えたら、徳永さんの下の名前は『仁』だった。呼んだことないから、忘れかけてた)。
 声を掛けて来たのは、徳永さんに負けず劣らずのイケメンで、何かもう超キラキラしてるっ! て感じの人。王子様みたい。

「仁、何で1人なの? メシなんか食っちゃって、めっずらしー」
「うっせ、ミヤ。どっか行け」

 ミヤ? この人の名前?
 つか、メシ食うの、珍しいの? こんなにおいしいのに、みんなご飯食べないの?



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楽園にガラスの靴 (23)


「ねぇ、マジで1人でメシ食ってんの? 何で?」
「1人じゃねぇよ」

 そのミヤて人は、徳永さんが1人でご飯食べてるのがすごい不思議みたいで、何で? 何で? てすごい聞いてる。
 1人…てか、俺は?
 俺、ちっこいし、完全に徳永さんの後ろに隠れちゃってるから、見えてないのかもね。

 まぁ、徳永さんからは、俺はそういう交流とかしなくていいて言われてるし、こんな王子様みたいなセレブと話すんのは何か怖いから、気付かれなくていいけど。
 …て思ってたのに、なぜか徳永さんが、「直央くんと一緒に来てんの!」とか言い出す(でも俺は、徳永さんの背後に隠されたまま。紹介したいの? 隠したいの?)。

「は? 誰?」

 見せるんだか隠すんだかハッキリしない徳永さんに、ミヤさんは「見えねぇよっ」て言いながら、徳永さんの陰から俺を覗き込もうとしてくる。
 …何かセレブて、変な人が多いなぁ。
 それともこれが、セレブ界では普通のこと? 俺が貧乏すぎて分かってないだけ?

「ん?」
「ぅ?」

 ミヤさんが、クルッと徳永さんの背後に回り込んできて……目が合う。
 えと……こういうときは挨拶? こんにちは?
 分かんなくて、首を傾げてしまう。

「ミヤ! もう見ただろっ? もうどっか行ってよ、バイバイ」
「えっちょっ待っ、誰だよこの子っ! 超~~~~かわいいじゃんっ!」

 どうしたらいいんだろう、て思ってたら、徳永さんがなぜか俺からミヤさんを引き剥がそうとする。
 でも、それなのにミヤさんは徳永さんを押し退けて、俺の前までやって来た。

「えっと、初めまして。宮田伊吹です」

 何されるんだろう…て身構えてたら、ミヤさんは、王子様みたいな、アイドルみたいなキラッキラの笑顔で、右手を俺のほうに差し出して来た。
 あ、ミヤさんて、宮田さんて言うのか…――――じゃなくて!
 えと、えと、この手は………………握手?

 握手!
 セレブはパーティーで握手すんのか! …て、俺、お皿とフォーク持ってる! えと、えと、お皿とかテーブルに置いてもいいのかな? 何か置き方とかあんの!?

「お皿をね、この指とこの指の間で持って、グラス持ってないときは、フォークはお皿の上で……こう持つといいよ?」



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楽園にガラスの靴 (24)


 ギャーどうしよぉ~~~!!! て、俺が軽くパニクってたら、宮田さんが俺の持ってたお皿とフォークを、いい感じで持たせ直してくれた。
 あ、俺、左手にお皿とフォーク、うまく持ててる…。

「じゃ、改めて。宮田伊吹です、よろしく」
「え、えと、あの…、瑞原直央、です…」

 そう言って宮田さんがまた手を出して来たから、俺はちょっと徳永さんを見てから(だって、交流しなくていいて言われてたのに、しちゃったらマズイかな、て思って)、宮田さんの手を取った。
 さすがに目の前に差し出された握手の手を無視できないから。

「それで瑞原くんは、どうして今日ここに? 仁の会社に新しく入った人なの?」
「えと、そういうわけでは…」

 何となく徳永さんがおもしろくなさそうな顔してて、俺はドキドキしながら宮田さんの質問に答える。
 やっぱ俺みたいのが、自分の友だちと喋んの、ヤなんだろうな…。

「ミヤ、直央くんはそういうんじゃないの。初めてで緊張してんだから、あんま話し掛けんな」
「そうなの? 直央くん? ふぅん。大丈夫だよ、直央くん。俺は仁の友だちだし、そんなに緊張しないでね?」
「は、はぁ…」

 徳永さんが間に入っても、宮田さんはニコニコしながら話し掛けてくる。
 『俺は仁の友だちだし』て、徳永さんの友だちだから緊張してるのに~!

「とにかく! 今日は直央くんいるから、お前の相手してる暇はないの。じゃあな」
「はいはい、とりあえず一旦退散しますよ。つか仁、お前に声掛けてほしそぉ~にしてる女の子たちの視線、あんま無視すんなよ? 女子は怖~いからね」

 徳永さんは無理やりな感じで話を終わらせて、宮田さんとバイバイした。
 それにしても気になるのは、宮田さんの最後の言葉。徳永さんに声掛けてほしそうにしてる女の子?
 そぉーっと会場の中を見回してみたら、…………うん、いっぱいいる感じ。女の子同士で話してる人たちは、大体徳永さんのほうを見てる(そうじゃないな、て人は宮田さんのほうだ)。

「ったく、ミヤのヤツ」
「あの、徳永さん、」
「あ、直央くん、次何食べる?」

 もっと宮田さんとお話したら? とか、徳永さんのこと見てる女の子に声掛けたほうがいいんじゃ? とか思ったのに、徳永さんはあっさりと俺のほうを向いた。

「ねぇ徳永さん、あの、いいの?」
「何が?」
「宮田さん」
「いいよ、別に。アイツとは今ここじゃなくても、よく会うし」
「じゃあ、女の子は? 徳永さんに、声掛けてほしそうにしてる、て」

 一応、そこも確認してみる。
 俺にはよく分かんないけど、声掛けるとか、交流とか、もしかして仕事にも関係してくるんじゃないのかな、て思ったから。
 俺なんかにかまけて、大事なことを忘れてたら大変だ。



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楽園にガラスの靴 (25)


「平気だってば。直央くんは何も気にしないで?」
「…」

 何も分かんない俺が、これ以上、徳永さんの言うことに何か言い返すことも出来なくて、心配しつつも、徳永さんと一緒に料理のテーブルのほうへ向かう。

 …何か、さっきまでは『おいしくて幸せ!』て思ってただけだったけど、冷静になって周りを見てみれば、みんなご飯は食べてるけど、ちゃんと誰かと喋ったり、握手したり、名刺を交換したりしてる。
 こういうパーティーが交流の場だて言ってた、その意味がやっと分かった。
 俺みたいに、ご飯だけを楽しみにしてる人が来るようなトコじゃないんだなぁ。

「徳永くん」

 新しいお皿に交換してもらったところで(こういうスタイルのときは、食べ終わるごとにお皿を交換すんだって)、宮田さんじゃない声が、徳永さんを呼んだ。
 徳永さんよりずっと年上の男の人。どう見ても、仕事の関係の人だよね。

 徳永さんは、家では絶対に見せないような、仕事の顔で挨拶をしてる。
 無視は出来ないから、俺もちょっと会釈をして、とりあえず隣に立っててみるけど、2人の話は難しすぎて分かんないし、俺みたいのがそばにいるのも何か悪いかな、て思って、徳永さんにこっそり合図して、料理のテーブルのほうに向かった。

 こっちのほうから順番に取ってくんだよ、て教えてもらってるから、次の料理をお皿に取っていく。
 でもこのおっきいフォークとスプーンで取ってくの、難しいんだよ。
 俺、そんなに不器用じゃないと思ってたんだけど、慣れてないせいか、全然キレイに、スマートに盛り付けらんない。

「こうやって持つと、うまく取れるよ?」
「わっ」

 後ろから伸びてきた手が、いきなり俺の手を掴んだから、ビックリしてビクッてなった。
 何!? て振り返れば、そこにいたのは宮田さん。
 相変わらず、王子様みたいにキラキラの笑顔だ。

「はい」
「あ…ありがとう、ございます…」

 テキパキと宮田さんがお皿に料理を盛ってくれる。
 すっごい手際いい! 俺もこういうふうになんなきゃだよね。

「どう? ここのご飯、おいしい?」
「あ、はいっ」

 料理のところで食べてちゃダメだから、他の違うテーブルに行かなきゃ、て思って移動したら、なぜか宮田さんも付いてくる。
 1人で黙々と食べてるのも何だから、一緒にいてくれたら嬉しいけど、でも宮田さんは、徳永さんみたいに、仕事の人とか女の人とかと話しなくてもいいのかな?



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楽園にガラスの靴 (26)


「ここのホテル、デザートがおいしいから、後で食べようね?」
「あい」

 お仕事いいの? て聞こうとするより先に宮田さんにそう言われて、俺は素直に頷いてしまった。
 そっか、宮田さん、今は何も食べてないけど、デザート食べたいのか。『向こうから順番に』だから、まだ取りに行けないんだ。

「ところで直央くんは、仁とはどういう関係なの? 仁の会社に入った人ではないんだよね?」
「え、えっと…」

 白身魚の何か…蒸したみたいの、柔らかくておいしいの食べてたら、宮田さんにそのことをまた突っ込まれて、言葉に詰まった。
 え~~~もぉ~~~!! 何でこの人、そのことそんなに知りたがんのっ? やっぱ俺みたいのが、徳永さんと一緒にいるのが変だから、気になるのかな?
 だからわざわざ俺なんかに声を掛けて来たのか。

 どうしよう、ホントのこと言っちゃっていいのかな。『借金の型(かた)に、500万円で徳永さんトコに売られてきました』て。
 でも、言ったら、徳永さんが何かと思われちゃうよね。

「えっとですね、えっとー…」
「あ、そっか。やっぱそういうことなんだ」
「は?」

 俺はまだ何も答えてないのに、なぜかいきなり宮田さんが納得してしまったから、答えに困ってたのも忘れて、キョトンてなっちゃう。
 何が『やっぱ』で、『そういうこと』なの?
 今俺、『えっと』くらいしか言ってないよね? それで何が分かったの? 俺が、徳永さんに500万で買われちゃったこと? やっぱ俺が500万円て、高すぎだよね?

「そっかぁ、そりゃ仁が夢中になるのも無理ないよね」
「え? え? 何がですか?」
「何でもないよ。あ、直央くん、ここソース付いてるよ」

 何が何だかわけ分かんない、て思ってんのに、宮田さんはあっさり『何でもない』で済ませて、ナプキンで俺の口元を拭いてくれた。
 俺、さっき宮田さんから教えてもらって、片手でお皿とフォーク持てるようになったから、ナプキン渡してくれたら、自分で口拭けたのにな。

「あの、宮田さんは、」
「ちょっストップ」
「ぅ?」

 宮田さんが俺にばっかいろいろ聞いてくるから、俺も何か聞いてやろう! て思って話し掛けたら、すぐにストップが掛けられてしまった。
 俺みたいのが質問するなんて、まだ早い? 100年くらい早かった?



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楽園にガラスの靴 (27)


「『宮田さん』じゃなくて、『ミヤ』て呼んでよ、直央くんも」
「はい?」

 何の訂正、それ。
 『ミヤ』て、さっき徳永さんが宮田さんのこと、そう呼んでたよね。
 それって、この人のあだ名なの? それを、俺もそう呼ぶの? いやいや、おかしいでしょ、それは。いくら俺がバカでも、そのくらいのことは分かる。

「いいじゃん、仁のことだって名前で呼んでんだから、俺のことだって『ミヤ』て呼んでよ」
「えと…、徳永さんのことは、『徳永さん』て呼んでますけど…」

 この人が何を勘違いしてんのかは知らないけど、たとえ徳永さんのことを名前で呼んでたとしても、それって、宮田さんのことを『ミヤ』て呼ぶ理由になんないと思う。

「え、仁て呼んでないの?」
「ない、です」

 さっきまで徳永さんの下の名前を忘れてたくらいなのに、『仁』なんて呼ぶわけがない。
 てか、今思ったんだけど、この人も俺のこと、『直央くん』て呼ぶよね。何なの? セレブてそういうもんなの?(でも、さっき徳永さんに声掛けたオッサンは、『徳永くん』て言ってた。)

「じゃ、いつか仁のこと名前で呼ぶようになったら、俺のことも『ミヤ』て呼んでね? 約束」
「え、あ、はぁ…」

 約束? 指切りげんまん?
 何で俺たち、小指を絡め合ってるんでしょうか(お皿とフォークを片手で一緒に持つのは、今じゃなくて、さっき口拭くときにしたかったよ!)。

「…おい、ミヤ」

 指切りの手が離れて、俺がもっかいフォークを持ち直したところで、宮田さんを呼ぶ声。
 宮田さんを『ミヤ』て呼ぶ、俺も知ったこの声は、徳永さんだ。

「お前、俺がいない間に何勝手にやってんだよ」
「何、て。直央くんが1人だったから、一緒にいただけじゃん。ねぇ?」
「はぁ、まぁ…」

 急に話を振られて、何て言っていいか分かんなくて、曖昧な返事になってしまう。
 結局宮田さんが何をしたかったのかはよく分かんないけど、きっと俺が1人でいて変だったから、一緒にいてくれたんだと思う。
 俺1人が変なのはいいけど、俺は徳永さんと一緒に来てるから、俺が変だと徳永さんまで変に見られちゃうもんね。

「まぁ~ったく、嫉妬深い男は嫌われるよん、仁くん」
「うっせ!」

 なぜか宮田さんは、ニヤニヤしてる。
 うーん、その笑い方は、カッコいいけど、王子様じゃないかなぁ。



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楽園にガラスの靴 (28)


「てか、直央くん!」
「何?」
「ミヤと何してんの!」
「何、て…」

 ここのデザートおいしいよ、て教えてもらって、徳永さんとどういう関係? て聞かれて、後は…いつか『ミヤ』て呼んでね? て言われたくらいかなぁ。
 てか、徳永さん、何か怒ってる?
 何で? 俺、ご飯の食べ方、変だった?

「もぅ直央くん! ミヤとあんま仲良くしちゃダメ!」
「ぅ?」

 何で? 徳永さんの友だちなのに?
 んんん???
 あ、そっか。
 自分の友だちが、俺みたいなヤツと仲良くしてたら、そりゃヤダよね。貧乏臭いのうつったら、やっぱ困るもんね。

「ゴメンなさい」

 宮田さんのほうから声掛けて来たから、無視しちゃ悪いかな、て思ってたんだけど、じゃあこれからは話しないように、気を付けないと。
 セレブって、難しいね。

「あぁいや…、俺のほうこそゴメン。むちゃくちゃだよな、言ってること」

 徳永さんに謝られて、何か変な気分。
 徳永さんは、そんなむちゃくちゃなことは言ってないと思う。どっちかって言ったら、宮田さんのほうがむちゃくちゃだったよ。

「つかミヤ、ちょっと来いっ、話あっから!」
「えぇ~」
「直央くん、ちょっと待っててね。ご飯お代わりしてていいから」

 面倒くさそうな顔をしてる宮田さんの腕を引っ張って、徳永さんはどっか行っちゃった。仕事の話があるのかな。
 でもなぜか宮田さんが俺のほうに手を振ってるから、とりあえず振り返してみた(あ、でもこんなことしたら、また徳永さんに怒られちゃう)。

 てか宮田さん、デザート食べなくてもいいのかな?

「さてと、」

 今度は何食べよっかな。
 さっき宮田さんがやったみたいに、上手にお皿に取らないと。
 あーでも、みんなおいしそう~。いい匂い! でも、ちゃんとデザートが食べられるようにしとかなきゃだよね。

「ねぇ、ちょっと」

 あ、でもお肉食べた~いっ!
 お肉!

「ちょっと、アンタよ、アンタ!」
「ふぇ? 俺?」
「アンタじゃなくて、他に誰がいんのよ」



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楽園にガラスの靴 (29)


 こんなところで俺に声掛けるなんて、徳永さんか、まぁ宮田さんくらいだろうだし、声が女の人だったから、俺じゃないと思ってたら、どうやら俺を呼んでたみたい。
 振り返ったら、知らない女の人2人。
 背が高くて、スラッとしてて、モデルさんみたい。でも全然笑ってないから、美人な分だけ迫力が増してて、ちょっと怖い…。

 何だろ…。
 あ、俺がこんなトコで何食べようか迷ってモタモタしてたから、料理取るのに邪魔になってたのかな?

「あ、どうぞ」
「はぁっ?」

 邪魔になってるんだと思ってよけたのに、何かますます険しい顔をされてしまった…。
 しかも『はぁっ?』とか、……え、何?

「えっと…、何か…?」
「アンタ、仁の何なの?」
「え?」

 え? え? この人たちも、その質問?
 何でみんな、そんなこと知りたがんの!? あぁ~~~、こんなことなら徳永さんに、こういう場合、何て答えたらいいか聞いとけばよかった~~~!!!



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楽園にガラスの靴 (30)


「何か今日、仁、アンタのこと構いっ放しじゃない。一緒に来て、料理まで一緒に食べて。何なの、ホントに!」
「何なの、と言われましても…」

 何なんでしょう。
 俺はこういうコト来るの初めてだし、徳永さんが普段どうしてるのかも知らないから、答えてみようもないんだけど…。
 でも、この人たちがこんなこと言うってことは、いつもはちゃんと仕事の人とか女の人とかと話をしたりしてんのかな? そういえば宮田さんも、徳永さんがご飯食べてるの、珍しいて言ってた。

「しかもミヤまでアンタのこと構いたがってるし」
「えっと…」

 ミヤて、宮田さんのことだよね。
 宮田さんが、俺のこと構いたがってんの? 徳永さんに用事があるから、たまたま俺のトコにも来ただけだと思うけど…。

「似合いもしない場にしゃしゃり出て来ないでよ、ムカつくのよ」
「ご飯目的なら、他に行ってやってくんない?」
「てか、味もロクに分かんないくせに」

 何か返事とか、相槌とかしたほうがいいのかな、て思っても、2人がガンガン喋ってくるから、何も言えない。
 てか、何か言うっていうか……ホントのことだから何も言い返すこともないんだけど、でもそれにしても俺、何で知らない人にこんなに言われてんだろ。
 そんなに俺、この場の雰囲気から浮いてるかなぁ?
 まぁ今までの人生の殆どが貧乏だったのに、急にセレブの中に放り出されたって、浮くに決まってるよね。

「てか、何のつもりで仁に近づいてんのか知らないけど、余計なマネしないでよね」
「目障りなのよ」

 最後の最後、2人はビシッとそう締め括って、俺を一睨みして去って行った。
 何か、すごい怒られちゃった…。

「ま、とりあえずご飯ご飯」

 お肉食べようとしてたんだっけ。
 いろいろあって、忘れかけてた。

『ご飯目的なら、他に行ってやってくんない?』
『てか、味もロクに分かんないくせに』

 …別に、いいんだもん。
 おいしいもんはおいしいんだから、それでいい。
 俺だって、味、ちゃんと分かるもん。

「…分かるもん」



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楽園にガラスの靴 (31)


s i d e : j i n


*徳永さんサイド、またちょっと時間が戻ります。

 俺がいつもと違って、メシのところにいたもんだから、珍しがってやって来たミヤが、さっそく直央くんに興味津々だから参る。
 直央くんかわいいだろ~、て自慢したいけど、それよりも、ミヤが直央くんのこと気に入っちゃったら困るから、それどころじゃない。

 直央くんにちょっかいを掛けようとするミヤを何とか追っ払って、やっと2人きりになれた。
 まぁ、パーティー会場で『2人きり』てのも変だけど、2人きりは2人きりだ。

「ねぇ徳永さん、あの、いいの?」
「何が?」
「宮田さん」
「いいよ、別に。アイツとは今ここじゃなくても、よく会うし」
「じゃあ、女の子は? 徳永さんに、声掛けてほしそうにしてる、て」

 あぁもうっ、ミヤのヤツ、余計なこと言いやがって!
 直央くんが気にしてんじゃん!

 ざっと会場を見回したところ、見知った顔の女の子が何人かいる。仕事上の付き合いはないけど、こういうパーティーではたまに会うし、クラブとかではよく会ってた子たち。
 それ以外にも、こっちを気にしてる女の子が何人かいるのは分かったけど、こういうトコで声掛けてほしそう…て、魂胆が見え見えなんだよね。
 婚活なら他を当たってくれ。

「平気だってば。直央くんは何も気にしないで?」
「…」

 心配そうな顔をしてる直央くんにそう言って、料理の並ぶメインテーブルのほうに直央くんを連れて行く。
 出たくももないパーティーに参加して、一応の仕事はこなしてんだから、直央くんと一緒に楽しむくらいのことはさせてもらいたいよ。

 …そう思ってたのに。

「徳永くん」

 メインテーブルに辿り着く前に、また邪魔された!
 ホントに、何なんだよ、もう!

 声を掛けて来たのは、ウチとも取引のある会社のお偉いさん。
 仕方なくお仕事用の作り笑いでご挨拶。こんなところで印象を悪くしたっていいことないから、嫌でも話はしとかなきゃいけないのが、ツライところ。

 最初は直央くんも隣で話を聞いてたんだけど、そばにいたら悪いと思ったのか、料理のほうに行くって合図して、離れて行った。
 あぁ~…どうしても俺と直央くんを、一緒にはいさせてくれないのね…。



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楽園にガラスの靴 (32)


 適当に相槌を打って話を聞きながら、直央くんの様子を窺う。
 1人でちゃんと出来るかな。

(あっ、ちょっ、ミヤ!)

 料理を取ろうとしてた直央くんの背後に近づいてったのは、さっき追っ払ったミヤだ。
 それは、たまたま直央くんがいる場所に行ったんじゃなくて、俺がそばにいなくなったのを見計らって、直央くんに声を掛けるために近づいてったんだって、分かる。
 くそぅ、人がいない隙に!

 しかも、ミヤのヤツ、何直央くんに料理取ってやってんだよ! お前、女の子にだって普段、そんなに優しくしてやんねぇだろっ!
 てかこのおっさん、いつまで話してんだ! お前の会社の業績なんか知らねぇよ! いや、取引先の会社だから、業績悪くて潰れたら困るけど、でも今はそれどころじゃないっ!

 あぁ~~~もうっ、ミヤ、直央くんと何話してんだよっ!!
 …て、

(あぁ~~~~~~!!!!)

 何してんだミヤ!!
 何直央くんの口、拭いてやってんのっ!?
 直央くんも直央くんだよ! ミヤに対して無防備過ぎ!! ミヤが狙ってるって分かるだろ!? 直央くんは俺の恋人なんだから、ミヤとそんなに仲良くしてちゃダメ!

「――――…………じゃあ、またこれからもよろしく頼むよ」
「あ、はい。よろしくお願いします」

 ようやくおっさんの長話から解放され、すぐにでも直央くんとミヤのところに行きたい衝動に駆られつつ、俺は笑顔でおっさんに頭を下げた。
 そしておっさんが背を向けると、すぐさま2人のもとへ向かう。

 あぁ~~~~!!!
 何っ!? 何その指切り!!
 俺だって、直央くんとそんなこと、したことないのにっ!!

「…おい、ミヤ。お前、俺がいない間に何勝手にやってんだよ」

 苛立ちを隠し切れずに、ミヤの肩を掴んだ。
 けれど、振り返ったミヤは、全然堪えてない様子で、「何、て。直央くんが1人だったから、一緒にいただけじゃん。ねぇ?」なんて言いやがる。
 1人だったから…て、俺だって好きで直央くんを1人にさせたわけじゃねぇよっ!

「まぁ~ったく、嫉妬深い男は嫌われるよん、仁くん」
「うっせ!」

 嫉妬心丸出しの俺に、ミヤはニヤニヤしながら言ってくる。
 クッソ、腹立つ!



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楽園にガラスの靴 (33)


「てか、直央くん!」
「何?」
「ミヤと何してんの!」
「何、て…」

 何でミヤに料理取ってもらったり、口元拭いてもらったりしてんの!? 指切りとか、何!?
 俺とは、そんなの、したことないでしょ!

「もぅ直央くん! ミヤとあんま仲良くしちゃダメ!」
「ぅ?」

 ミヤは確実に直央くん狙いなんだから、油断してたら、何されちゃうか分かんないよ!?
 でも、分かってない様子の直央くんは、小首を傾げてるだけ(その姿は、すっごくかわいいけど!)。

「ゴメンなさい」

 しばらく考えてた様子の直央くんが、いきなりペコッと頭を下げて謝ってくるから、何だか急に我に返ってしまった。

「あぁいや…、俺のほうこそゴメン。むちゃくちゃだよな、言ってること」

 直央くんの性格からして、ミヤは俺の友だちだと思えば、無下には出来ないだろうし。
 はぁ、俺、ダッセェな。

 ………………。
 …ん?

 つーか!
 それもこれも、みんなミヤのせいじゃねぇか!

 直央くんを責める筋合いなんて、どこにもなかった。
 最初からミヤを締め上げればよかったんだ。

「つかミヤ、ちょっと来いっ、話あっから!」
「えぇ~」
「直央くん、ちょっと待っててね。ご飯お代わりしてていいから」

 悪びれたふうもないミヤの腕を引っ張って、直央くんから離れた、会場の隅へと連れて行く。
 つか、お前は性懲りもなく、何また直央くんに手振ってんだ!

「ミヤ、お前ふざけんなよ、何直央くんにちょっかい出してんだ」
「いいじゃん、直央くん、かわいいんだもん。俺もあーゆーかわいい恋人に癒されたい。仁ばっかズルい」
「知るかよ」

 ズルいじゃねぇよ、直央くんは俺のだよっ!
 俺ががんばって、やっと手に入れた恋人なの! …直央くん自身は、その自覚があんまないけど。金持ちの道楽くらいにしか思ってないけど。
 でも、恋人は恋人なのっ!



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楽園にガラスの靴 (34)


「仁、どこであんなかわいい子、見つけて来たの?」
「教えません。つかお前、何で直央くんが俺の恋人だって、知ってんの?」

 ミヤと直央くんは初対面のはずだし、俺は恋人が出来たとか、ましてやその相手が直央くんだなんて、ミヤには話してない(女子高生じゃないから、そんな恋バナみたいな話はしない)。
 コイツに言ったら、絶対直央くんのこと気に入って、ちょっかい掛けてくると思ったから、ずっと黙ってたのに。

「いや、そんなの見れば分かるし。会った瞬間に気付いたし。つか、あんだけ全力で直央くんのこと庇ってて、隠してるつもりだったとか?」
「……」
「直央くんに、仁とどういう関係なの~? て聞いても、恥ずかしがって答えてくんないからさぁ、こりゃ、仁の片想いなんじゃなくて、恋人同士なんだな、と」
「えっ、ちょっ、直央くん、そんな雰囲気だったの? 恥ずかしがって、恋人だとか言えない感じだったの?」

 俺はこんなに好きなのに、いまいち直央くんには伝わってないというか、金持ちが戯れで言ってるだけだと思われてる感じがしてたけど、でも直央くんは、ちゃんと俺の気持ち分かってくれてたんだ!
 ただ、恥ずかしくて表に出せないだけだったんだっ!

 急に目の前が明るくなった。
 ミヤもたまには役に立つじゃん!

 …て、一瞬でもミヤのことを褒めた自分を、呪いたい。

「まぁそれか、恥ずかしがって答えらんなかったんじゃなくて、本気で仁の気持ちが分かってなくて、何て答えていいか分かんなかったかの、どっちかだろうね~」

 期待を持たせるようなことを言っておいて、ミヤはすぐさま、俺をどん底にまで陥れるようなことを言いやがった。
 そう思ってたって、口に出して言うんじゃねぇよ! 俺だって、そうじゃねぇかなぁ、とは思ってたけど、悲しいから、頭の中から抹消してたんだよ!

「直央くん、かなーりの天然ぽかったもんね。計算じゃなくて、本気の、正真正銘の」
「うっせ」

 そこがいいんじゃん。
 直央くんはかなりの天然なくせに、自分はしっかり者だって思ってて、そこがまたかわいいんだ。計算なんて一切ないし、何にでも一生懸命だし。 

「あーあ。直央くんが仁の本気に気付く前に、奪っちゃおっかなぁ~」
「ちょっお前っ」

 とんでもないことを言い出すミヤに、それが冗談か本気かも見抜けずに、慌ててしまう。
 直央くんのことになると、俺はホント、ダメなんだよ。



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楽園にガラスの靴 (35)


「そんなことしたら、お前の会社、ぶっ潰す」
「公私混同~、仁のバカ~」
「るせっ」

 悪ぃけど、本気だかんな。
 直央くんに関しては、たとえミヤでも譲れない。

「それが嫌だったら、ぜってぇ直央くんには手出すなよ?」
「はいはい、前向きに善処しますよ。ったーく、仁、そんな独占欲丸出しで、直央くん構われたくないなら、連れてくんなよ、最初から」
「それは、今になってようやく分かった。連れて来るんじゃなかった」

 まさか、こんなことになるとは思わなかった。
 大好きな子と一緒なら、クソつまんないパーティーも、ちょっとは楽しめるかな、てくらいの気持ちだったのに。
 でも実際は、なかなか直央くんと一緒にいられなくて、今だって直央くん1人で置いてきちゃって、他の誰かに声掛けられてんじゃないかとか、そんな心配ばっかしちゃう。

「もう直央くん連れて来ない。つか、俺ももう来ない」
「いや、お前は来いよ。みんなそんな気持ちながら、がんばって来てんだから」

 直央くんと一緒にいられない苛立ちを、理不尽にもミヤにぶつけたら、あっさりと冷静に返された。

「まぁいいや、もう直央くんトコ戻る…」

 ったく、ミヤのせいで余計な時間を遣ってしまった。
 早く直央くんトコ、戻んないと。ちゃんとご飯食べてるかな?

「じーん、ミヤー!」

 今度こそ直央くんトコに行く! て思ったのに、また別の声に呼び止められた。
 でもミヤのことも呼んでるし、女の子の声だし、ここは聞こえなかった振りで、ミヤに任せて直央くんのトコに行っちゃおう。

「仁ー」

 …ぬ。
 スーツの裾を引っ張られて、足止めを余儀なくされる。
 もうホント、勘弁して。

「…どうも」

 超迷惑! て気持ちを押し殺して、笑顔で女の子たちを振り返る。
 視界の隅に、『ザマーミロ』みたいな顔をしたミヤが入る。あーホント、ムカつく!

「やっと仁たちに会えたー」

 …あっという間に女の子に取り囲まれて、逃げ出せない。
 俺ももうガキじゃねぇから、女の子に群がられたって、はしゃいだりとかはないし、どっちかっつーと今は、直央くんのトコに行けなくて、…ゴメンだけど、ちょっと迷惑。



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楽園にガラスの靴 (36)


「ねぇ仁、今日どうしたのー? 全然来てくんないから、つまんなかったー」
「いや、挨拶回りとか、いろいろ長引いちゃって」

 甘ったるい声を出して、計算尽くの視線で見つめてくる女の子に、適当な理由を言っておく。
 もちろん、挨拶回りが長引いたとか、そんなのは嘘。ここは確実に外せない、てトコだけは押さえたけど、挨拶回りなんてロクにしてない。
 それどころじゃない。

「ミヤも~?」
「そう」

 ミヤはずっと直央くんにちょっかい出してたんだから、そんなわけないのに、話を振られたミヤは、笑顔であっさりそう答えてる。
 作り笑いは苦手だなんて、昔はよく言ってたのに。

「仁、今日のスーツ、カッコい~。新作?」
「あぁ、うん」

 別の女の子にそう言われ、若干上の空だった俺は、慌てて返事をした。
 こないだ、直央くんのスーツ作ったついでに、俺も自分のを新調したんだけど……よく見てんだね。ホント、気が抜けない。

「ていうか、仁、何で最近、夜遊び来ないの~? ミヤに聞いても知らないって言うし~」

 スーツの裾を引っ張られて、たった今、いいスーツだって褒めてくれたんだから、そんなことすんなよ、て軽くイラッとくる。
 あぁ~もうダメだ。
 いつもだったら、女の子にはもっと優しく出来るのに、今日は全然そんな気になれない。

「仁~?」
「え? あぁ、うん。今忙しくて」

 分かりやすい媚びる仕草に、適当に返事をする。
 だからー、婚活なら他でやれっつの。

「仕事、忙しいの~? 仁、相変わらず、取り立て屋さんしてんの?」
「してるよ」
「嫌じゃないの? 取り立てなんて、何か怖くない?」
「別に平気」

 まぁ、社長自ら取り立て業務してるなんて、よっぽど小さな会社でもなければ、あんまりあることではないと思うけど、取り立てなんて、別に怖くもなければ、嫌でもない。
 女の子ウケは、あんまりしなそうだけど。

 てか、忙しいのは、何も仕事のせいなんかじゃない。
 ちゃんと法律を守って、深夜の取り立てなんか絶対しないし、残業代がかさんで桜子お姉さんを困らせないよう、5時半にはさっさと帰るようにしてるし。
 なぜなら、早く家に帰って、直央くんに会いたいから。

 そう、夜は直央くんと一緒にいたいから、夜遊びなんかしてる暇ないの!



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楽園にガラスの靴 (37)


「ねぇ、そういえば、さっき一緒にいた男の子、誰?」
「うぇっ?」

 女の子の相手しながらも、直央くんどこだ~? て、その姿を探してた俺は、急にそんな話題が飛び出して、ギョッとしてその子を見た。
 ミヤは何となく意味ありげな顔をしていた(俺が何て答えるか、おもしろがってるんだろう)。

「…誰のこと?」
「さっき、一緒にご飯食べてた子。ミヤだって、一緒にいたじゃん。誰なの?」

 俺がしらばっくれようとしてんのを感じ取ったのか、女の子はミヤに話の矛先を向けた。
 ミヤ、余計なこと言うなよ~! て、視線を向ける。

「俺も一緒にいた? あぁ、あの子? 誰って言われても、俺、よく分かんないけど」
「ミヤご飯取ってあげてたじゃん」
「だって仁の連れだもん」

 女の子に突っ込まれても、イライラしないで笑顔でいられるのは、ミヤのすごいトコだよな。
 少なくとも俺よりは、世渡り上手。
 その笑顔の下で、いろいろ計算してんだってこと、多分この子たちは気付いてないんだろうなぁ。

「でも何で、ミヤがご飯取ってあげるわけ?」
「だって俺、優しいもん」
「私、取ってもらったことないー」
「あたしもー。じゃあ、あたしにも取ってよぉ~」
「ゴメンね、あのサービスは、1日1人限定なのです」
「ズルーい」

 流行りの肉食系女子にガツガツ来られても、ミヤは少しも怯まず、笑顔で切り返してる。
 女の子がミヤのほうに集中してる隙に、直央くんのトコに行っちゃおう…………て、直央くんどこだ? さっき別れた場所にはいないし、料理のトコにもいないし……え、マジでどこ行った?

「で、仁。結局誰なの? 連れってことは、会社の人?」
「は? え?」

 直央くんがいない! て、ちょっと焦って会場をキョロキョロ見回してたら、話聞きそびれちゃって、「もぉ~ちゃんと聞いてよ~」て、腕をペチンと叩かれる。
 ちょっ、それどころじゃないんだけど!

「だからぁ、仁の会社の人なの? あの子」
「いや、そうでもないけど…」

 どうせばれないんだから、『そうだよ、新しく会社に入った子』て言っとけばよかったのに、ちょっと余裕をなくしてた俺は、つい正直に答えてしまった。
 すると当然ながら、「じゃあ誰~?」てなる。
 誰、て……恋人だよ、恋人! お前らにはぜってぇ言わねぇけど。



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楽園にガラスの靴 (38)


「会社に入ったんでもない子、パーティーに連れてきて、何で一緒にご飯食べるの?」
「そうよー」
「仁もミヤも、あの子のことばっか構ってて、つまんないー」

 いや、ちょっと待て。
 ミヤは、(構ってほしくないのに)直央くんのこと構いっ放しだけど(ムカつく!)、俺は全然構えてねぇから! ホントは俺が一番構いたいのに!
 つか、マジで直央くん、どこ行った!?
 あぁ~もう、何で俺、こんなトコで足止めされてんだ!?

「大体、ちょっと雰囲気浮いてたよね、あの子」
「うんー」
「会社入り立ての新人さんならまだしも、あれはちょっとねー」
「スーツだって、完全にお仕着せだしー」

 俺が、直央くんどこだー!? て焦ってるうちに、女の子たちはお喋りに夢中になる。つか、女の子が4人も5人も集まれば、場所がどこであれ、話の流れはそうなるのね。
 人の悪口とゴシップは、女の子が大好きな話のネタだけど、ここはパーティー会場なんだから、もうちょっと慎んだらどうなんでしょうかね、お嬢様方。
 大体、俺の連れだっつってんのに、その俺を前にして、よくそんなに悪口言いたい放題が出来るよ。

「悪ぃんだけど、そういう話は、せめて俺のいねぇトコでやってくんねぇ?」

 お仕事モードの(主に言い訳がましい債務者にビシッと言うときの)顔で言ってやれば、女の子たちはハッとして、一瞬にして黙り込んだ。
 分かってても、男は女の子のこういう一面は出来れば見たくないんだから、もうちょっと気を遣ってよ。

「あのさ、俺も自分の連れ、そこまで悪く言われて、平気でいられるほど鈍感じゃねぇんだわ」
「ぁ…そういうつもりじゃ…」

 じゃあ、何のつもり? なんて聞く気にもなれない。
 もうその口から、口紅とグロスでテカテカの、何なのその唇、人間として、みたいな口から何か発せられるのを、聞きたくはなかった。

「今日はもうお前らに付き合える気分じゃねぇわ。じゃあな」
「ちょっ、仁、」
「ゴメンなさい、そういうんじゃ…」

 呼び止められたけど、振り返る気にもなれなくて、さっさとその場を立ち去る。
 そういえばミヤもいたんだっけ、でも気に掛けてやれるだけの余裕はなくて、早く離れたくて、足を速める。

 最悪の気分。
 早く直央くんに会って、癒されたい。



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楽園にガラスの靴 (39)


s i d e : n a o


 徳永さんが宮田さんを連れだってどこかに行って、キレイな女の人たちがいきなりやって来て、俺を怒ってどこかに行って、俺はまた1人。
 とりあえず、3枚目のお皿をキレイにした。
 徳永さんには、何もしなくていいみたいなことは言われてたけど、それにしても俺、メシ食ってるだけだなぁ。そりゃ、あの女の人たちが怒るわけだ。

 どうしよう、ご飯はもうやめにしようかな。
 でも徳永さんたちと違って、俺は別にお仕事で話をするような相手はここにいないし、誰かと話すると徳永さんが怒りそうだし、ご飯食べる以外、することないんだよなぁ。

 んー…。
 徳永さんに怒られるのと、さっきの女の人たちに怒られるのと、どっちが嫌かって言ったら、徳永さんに怒られるほうが嫌だから、やっぱり知らない人に声を掛けるのはやめて、ご飯にしよう。

 そういえば、デザートおいしいよ、て宮田さん、言ってたっけ。
 向こうから順番にだけど、もうデザートのところにも人が行ってるから、俺も食べに行ったっていいよね。

「わーすごーい」

 プリンとかムースとかも、カッコいいグラスに入ってて、生クリームと層になってて横から見てもキレイだし、他にもいろんな種類があって、デザートだけでも、とっても華やか。
 俺が働いてるコンビニでも、ちょっと高級感のあるデザートが人気だけど、何かそういうのとは全然違う感じ(当たり前だよね、こっちはホントに高級なんだもん)。
 そういえば徳永さんとか宮田さんて、コンビニ行ったりすんのかな?
 でも徳永さんが、コンビニの弁当どれにしようか迷ったり、雑誌立ち読みしたりしてる姿は全然想像付かないし、やっぱ行かないんだろうな。

 とりあえずクリームがたっぷりかかったケーキに決めて、それとフルーツをお皿に取ると、邪魔にならないように、その場を離れる。…料理のそばじゃ、食べちゃダメだから。
 立食だから立って食べるけど、歩きながら食べちゃダメ。
 ちゃんとお皿とフォークとグラス持って。
 教えられたとおりに。

 …俺、徳永さんに教えてもらったとおりに、ちゃんとやってるよ?
 だって、パーティーではちゃんとする、て最初に約束したから。

「あ、おいし」

 コンビニの安いケーキみたいに、固い生クリームがパサパサになってるのとは違って、クリームとろっとしてて、ホントにおいしい。
 こんなすごいパーティーの料理なんだから、おいしいに決まってるけど、でもおいしい。
 ブルーベリー? ラズベリー? よく分かんないけど、ケーキの上にかかってるベリーも甘酸っぱくておいしい。



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楽園にガラスの靴 (40)


 あ、俺、「おいしい」しか言えてない。
 前にテレビのグルメ番組で見たタレントさんみたいに、何かうまい言葉とか言えたらいいんだけど、所詮俺だからね、しょうがない。

 でもホントにおいしい。
 おいしいご飯は、人を幸せな気持ちにさせる、て本気で思う。お腹空いてると、イライラして、カリカリして、笑顔になれないし、人にもツラく当たっちゃう。
 貧乏で、その日のご飯を食べるのもやっとだったころ、ずっとそんな状態だったから、よく分かる。
 そっか、最近あんまりイライラしないのは、毎日純子さんのおいしいご飯を食べてるからなのか。

「ん、ふーおいし~」

 そういえば宮田さん、デザート食べたいんじゃなかったのかな。俺、先に食べちゃった(ゴメンなさい)。
 …徳永さんは、あんま甘いもの食べないから、このケーキは食べないかな?
 でも、このラズベリー? と、よく分かんない赤い実のヤツが甘酸っぱいから、ちょうどよくて、徳永さんでも食べられると思う。…さっきみたいに、一緒に食べたいな。

「…徳永さん」

 徳永さんたち、どこ行ったのかな、て思って会場を見回せば、みんな楽しそうに誰かとお喋りしながらご飯食べてるけど、そんな中でも、徳永さんたちはすぐに見つけられた。
 だって、すごく目立ってる。
 騒いでるからじゃなくて、華やかだから、目立つの。キレイな女の人たちに囲まれてる。

 …あ、さっきの2人もいる。
 そっか。俺がいたせいで、徳永さんたちと話が出来なかったから、怒ってたのか。

 何か、楽しそうに喋ってるなぁ。
 お仕事の話かな。
 俺が行ったところで、話は分かんないだろうし、またあの女の人たちに怒られそうだから、行かないけど。

「…おいし」

 こんなにおいしいのに、食べないなんて、もったいない。
 でもお仕事中だから、しょうがないよね。
 いっぱい挨拶して、お仕事して、徳永さんも宮田さんも大変だ。でもそれなのに、俺なんか構ってくれて、2人とも優しいな。

 あんだけ格好よくて優しかったら、女の人にもモテるんだろうな。
 だって一緒にいる女の人たち、すっごい目がキラキラしてるもん。仕事の話だって、徳永さんとか宮田さんみたいなイケメンと出来たら、そりゃワクワクするよね。



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楽園にガラスの靴 (41)


 あの中の、どの女の人が徳永さんの横に立ったってお似合いな気がするのに、何で徳永さんて、俺のこと好きだとか言うんだろ。
 仕事忙しすぎて、何かどっか変になっちゃったのかな?

 それとも、仕事忙しくて恋人作ってる暇ないから、俺で間に合わせてんのかな?
 でも俺、仕事の話されても分かんないし、全然セレブじゃないし、かといって徳永さんとはキス以上のことはしたことないから、性欲処理? みたいなこともしてあげてれないし。

 そんな俺に500万円も払って、一体何の価値があるんだろう。でも徳永さんにしたら、そんなの大した額じゃないのかもしれない。だってセレブだもん。

 …セレブ。
 みんな、セレブなんだよなぁ。
 徳永さんはもちろんそうだけど、宮田さんだって、お父さんがおっきい会社の社長さんだって言うし、きっとあそこにいる女の人たちも、いいところのお嬢様なんだろうな。
 俺みたいな、俄か成金の似非セレブと違って、こういう場にすごく慣れてるし、お上品だし、スマートだもん。

 徳永さんや、宮田さんだけじゃない。あの女の人たちだけじゃない。この会場にいる人たちみんな、みんな俺とは違う。
 もしかしたら、俺みたいに今日初めてパーティーに来た人もいるかもだけど、きっとそういう人だって、これから何回もこういう場に出て、経験を積んで行くんだ。
 やっぱり、俺だけが1人、この場から浮いてる。

「…メロン、おいしい」

 さっき、ケーキと一緒に持って来たカットフルーツを口に運ぶ。
 いろんなフルーツが、みんな丁寧にカットされてて、すごいんだ(俺なんか、こないだ純子さんに教わって、やっとリンゴの皮が剥けるようになったばっかなのに)。

 ケーキもメロンもご飯も、みんなおいしい。
 おいしくってすごく幸せなのに、別にまだお腹いっぱいでもないのに、…何かもう食べたくなくなってきちゃった。変なの、俺。
 でも、お皿に取ったのを残すなんてもったいないし、失礼だから、これはちゃんと食べる。

 こんなおいしいご飯、初めて食べた。
 …うぅん、おいしいご飯なら、純子さんのご飯がおいしいから初めてじゃないけど、でも見たことないような豪華の料理とか、キレイなデザートとか、初めて食べたよ。
 カッコいい外車にも乗せてもらったし、こんなおっきいホテルも初めて入ったし、パーティーだって生まれて初めて出てみたし……まるで夢の世界みたい。



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楽園にガラスの靴 (42)


 パーティーは、キラキラしてて、ご飯もおいしくて、キレイな女の人とか、徳永さんみたいにカッコいい人とか、見ただけで偉い地位にいるんだろうなぁて分かる人とか、いっぱいいて。

 みんなカッコいいスーツとかすてきなドレス着て、ビシッとちゃんとお仕事の話したり、挨拶したりしてる。
 まるで夢の世界だ。

 俺も徳永さんにスーツ作ってもらって、すごい、プロの人がしてるんだから当たり前だけど、俺にピッタリで(サイズがね)、スーツなんて着たの本気で生まれて初めてなのに、全然窮屈じゃない。

 靴もね、オーダーメイドだからね、すごくちょうどよくて、ずっと立ってるのに、足全然痛くないし、疲れないの。

 ネクタイも、アスコットタイて言うんだって、徳永さんが結んでくれて、俺こんなのするの初めてだから、でも徳永さん、似合う、て言ってくれた。

「似合う、て…」

 …そんなわけないのに。
 そりゃスーツは、プロの人が俺にでも似合うように作ってくれてるから、きっと見た目には似合ってるかもしれないけど、着慣れない俺が着たって、うまく着こなせるはずがない。
 それなのに徳永さん、俺のために、お金かけてこんないいスーツ作って…。

 何でそこまでして、俺をこんなすごいパーティーに連れて来てくれたの? 優しいにも程があるよ。
 徳永さん、ただでおいしいご飯食べられるよ、て誘ってくれたけど、でもここに入るときお金払ってたの、知ってる。俺が気にしないように、こっそり払ってくれてた。
 …俺なんかに、そんなことする価値ないのに。

「徳永さん…」

 …お話、終わりそうもないな。
 徳永さんは、ご飯お代わりしてていいから、て言ってたけど、俺、まだお代わりしないとダメなの? 俺、1人でもう3回もお代わりしたよ?
 でも、お仕事の邪魔したらいけないから。…じゃあ、今度はデザートのお代わり、しよっかな。

 キレイなデザート。
 宮田さんも、おいしいて言ってた。おいしかった。
 さっきはケーキだったから、今度はプリン? フルーツもある。

 見てるだけでウキウキするようなデザートなのに、…何でだろ、何か全然楽しくなれない。
 ご飯お代わりして、徳永さんが来るの、待ってなきゃなのに。



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楽園にガラスの靴 (43)


「お取りいたしましょうか?」
「え…」

 丁寧な口調で話し掛けられて、顔を上げたら、ホテルの人だった。
 デザートとか、料理とか、取ってくれる係の人なのかな。でももう何か食べたくない…。

「お客様?」
「ぁ…、…いい、です…」

 うまい言い方も分からなくて、俺は消えそうな声とともに、何とか首を横に振って、その場を離れた。

 …何してんだろ、俺。子どもじゃないんだから、ちゃんとしなきゃなのに。ちゃんとする、て徳永さんに言ったのに。でも全然出来ない。出来るわけない。
 出来るわけないんだよ、ちゃんとなんて。
 俺なんかが、何か出来るわけがないんだ。

「何か、疲れちゃった…」

 …あ。

 思わず漏れてしまった言葉に、そんなことない! て心の中で突っ込んだ。

 だって、スーツも靴もピッタリサイズでちょうどいいから、全然窮屈じゃないし、ご飯だっておいしいし、パーティーはキラキラで華やかだし、…疲れるわけがない。
 みんなだって、楽しそうにしてて、疲れた顔なんかしてないし。

 …でも、もうお家帰りたいな。

 やっぱり、それが本音。
 せっかく徳永さんが連れて来てくれたパーティーだけど、いいスーツも、豪華な料理も、おいしいデザートももういらないから、早くお家に帰りたい。

 こんなこと思うなんて、やっぱり俺が場違いだからなんだろうな。
 あの女の人の言ったとおりだ。
 …似合いもしない場に、しゃしゃり出てきたりするから。

「……」

 気付けば、足は会場の外へと向かっていた。
 扉は開放されたままで、トイレにでも行くのかな? 人の出入りもあるから、それに紛れてコソッと会場の外に出てみたら、パーティーはまだ終わってないのに、もう帰っていく人たちがいる。
 もしかして途中でも帰れるの?
 俺も帰れる?

 でも…。
 帰るったって、俺、どうやって帰るつもりだよ。
 ここ、どこだ?



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楽園にガラスの靴 (44)


 よく考えたら、家の前ですごい高級車(バカな俺でも分かるくらいのすごいヤツ)に乗って、このホテルの真ん前で降りたから、道が全然分かんない。
 それに、車でも結構時間掛かったから、多分歩いてなんて帰れないよね。

 タクシー(あんなすごいのじゃなくて、普通のヤツ)に乗れば、運転手さんが連れてってくれるだろうけど、住所が分かんないし…。
 電車…乗り換え……分かんない…。

 あーもう俺、バカすぎる!
 自分がバカなのはよく知ってるけど、こんなにバカだとは思わなかった!

 とりあえず、空いてるソファがあったから、そこに座って落ち着こう(他にも座ってる人がいるから、ここは座っていいんだよね?)。

 えっと…降りる駅は、いっつもバイトの後に降りるのと同じ駅だからいいとして…………ここから一番近い駅ってどこだろ。ホテルの人に聞いたら、教えてくれるかな?
 でもセレブは電車乗ってパーティーなんか来ないだろうから、聞いたら変に思われちゃうかな。

 …やっぱり、徳永さんがお仕事終わるの、待ってるしかないのかな。
 勝手に帰るのも、やっぱマズイだろうし…。

 でも、俺が徳永さんと帰るってなったら、あの女の人たち、また怒るかもしれない。怒られてもしょうがないけど、でも、出来ればあんまり怒られたくはないなぁ。
 徳永さんと一緒じゃなきゃ帰れない、て説明したら、許してくれるかな。許してくれると、いいんだけどな…。



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楽園にガラスの靴 (45)


s i d e : j i n


 オーマイガッ!
 マジで直央くんがいないっ!!

 広い会場とはいえ、人が大勢いるだけで、ただだだっ広いだけだから、迷子になるとは思えないんだけど…………いないっ!

「え、直央くんいねぇの?」
「いねぇっ! ……て、ミヤ!」

 女の子の相手はいい加減ウンザリ……で、一緒にいたミヤも置いてきぼりにその場を離れたんだけど、何かミヤも女の子たちにバイバイしてきたみたい。
 ミヤは俺と違ってフェミニストだけど、女性に求めてるモノも高いから、やっぱさっきのはなかっただろうなぁ、とは思うけど。

「つーか、直央くんは…?」

 さっきまでは、料理のトコいたんだよ。
 でも、女の子の話に気を取られてるうちに、いつの間にか姿が見えなくなってた。

「デザートのトコは? さっき、デザートおいしいよ、て教えてあげたら、食べたそうにしてたけど」
「はぁ!? ミヤ、あんま直央くんのこと、たぶらかさないで!」
「たぶらかしてねぇし。つか、それどころじゃねぇし」

 とりあえずデザートの置いてあるほうに行ってみるけど、やっぱりそこにも直央くんはいない。
 直央くんは結構甘いものが好きだから、おいしいて言われたら、絶対食べてるとは思うんだけど…。

「いねぇじゃんかよぉ~~~、ミヤの嘘つきっ」
「知るかよ。なぁ、こんだけ見て回ってもいないってことは、会場の外出たんじゃね? トイレ行ったとかさ」

 こっから家までは距離あるから、帰ろうと思っても、直央くん1人では帰れないだろうから、外には出てないと思ったけど、トイレだったらあり得るか。
 とりあえず、他に探す当てもないから、トイレ、行ってみようか。

「え、仁、ちょっ」
「何?」
「お前、トイレまで探しに行く気? 戻ってくんだろ、トイレならすぐに」

 ミヤが、ちょっと焦ったみたいな顔で俺を止めるけど、意味が分かんない。
 もー俺は、一刻も早く直央くんに会いたいだけなのに。

「つか、直央くん見つけたら、俺、そのまま帰っから。じゃあな、ミヤ」
「マジかよ…」

 とりあえず、やるべきことはみんなしたから、もう帰ったって、誰にも文句は言われない。言わせない。
 俺はミヤを置いて、会場の外に出た。



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楽園にガラスの靴 (46)


 うわ…ロビーも混んでんな。隣の会場のパーティーがもう終わったからか。

「直央くん…」

 こっからいちばん近いトイレに行っててくれればいいんだけど…。
 混んでるからって別のところに行かれたら、何かもうアウトって感じする。

 あぁ~~~もうっ!
 何であんなに直央くんのこと、ほったらかしにしちゃったんだろ!
 直央くん、ずっと行きたくないって言ってたのに、俺がいるから大丈夫とか言って……たぶらかしてんのは、ミヤじゃなくて俺のほうじゃんっ!

「ぜってぇ怒ってるよな…」

 直央くんは、ちょっとしたことにプリプリすることはあっても、俺に対して本気で怒ることがない。
 それは悲しいかな『立場の違い』みたいのを、直央くんが勝手に意識してるだけってのもあるけど、そうじゃなくて、人間の本質的に、怒るってことがない。
 …優しい子だから。

 でも、こんな状況でずっとほったらかしにしてたら、さすがに直央くんだって怒るよな…。
 大体、直央くんはご飯を楽しみで来たのに、そのご飯のトコにいない時点で、すげぇ怒ってるってことじゃん。

 …てことは、ミヤが言ったみたいに、ちょっとトイレに行ってるとか、そんなんじゃねぇんじゃね!?
 マジのマジで帰っちゃったのかも…。
 歩いて帰れない距離だとしても、タクシーでも呼べば、どうにでもなるし(…いくら直央くんだって、タクシーぐらい呼べるだろうし)。

「チッ、いねぇ…」

 それでも念のために近くのトイレを覗いてみたけど、やっぱり姿はない。
 ほったらかしにしてたこと、拗ねて怒ってるんならいいけど(いや、よくはないけど、それはならまだ)、でも1人ぼっちで泣いてたらどうしよう。
 直央くんは、ああ見えて結構泣き虫だから(しかも、計算じゃなくて、いつでも本気の涙)、もしかしたら泣いてるかも…。

「どこ行ったんだよ、直央くん…」

 ケータイに……て思ったけど、よく考えたら直央くん、今日は携帯電話、持って来てないんだった。
 直央くんが携帯電話でやり取りする相手なんて、俺と純ちゃんくらいしかいなくて、今日は俺とずっと一緒だから、なくてもいいって言って家に置いてきた。
 どうせ会場内じゃ携帯電話には出られないし、直央くん、電話出るの未だに時間掛かるし……とも思ってたから。でも、こんなことになるなら、ちゃんと持たせればよかった。

「直央くん…」



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楽園にガラスの靴 (47)


 もしかして行き違いで会場に戻ったのか?
 でも中にはミヤがいるし、見掛けたら何か言ってきてくれるとは思うんだけど…。

 いやでもアイツのことだから、俺がいないのをいいことに、直央くんに言い寄ってるのかもしれない。
 ミヤは好きになった子には優しくて甘いから、直央くんも、俺みたいなヤツに愛想尽かして、ミヤのほうに行ってるのかも…。

「はぁ…」

 自分の想像に自分で凹んでりゃ世話ないけど、絶対にそんなことないとも言い切れない想像なだけに、テンションは下がる。
 どうしていいか分かんなくて、ロビーの空いてるソファに深く座り込んで頭を抱えた。

 どうしたらいいか分からないなんて、ホント、俺らしくない。
 仕事もプライベートも恋も、今まで何の苦労もしたことない、て言ったら嘘だけど、割と何でも自分の思いどおりになって来たから…………特に恋なんて。
 別に、女の子を片っ端から食ってくような、軽くて悪い男じゃないけど、いいな、て思う子とは、結構すんなり付き合えたし、告白されることも多かったから。

 直央くんみたいに、どんなに好きって言っても、どんなにキスしても、本気だって信じてもらえないのは、まったく初めて。
 いや、もしかしたら、過去にもそんな子がいたのかもしれないけど、そういう子を、ここまで一生懸命追いかけたことがなかった。相手に気がないなら、そこで気持ちを終わりにしてた。
 でも、直央くんだけは、終わりにしたくない。

(なのに、このザマかよ…)

 どうしようもない自分が、ホント嫌になる。
 溜め息混じりに頭を起こせば、帰り始めている人たちが、目の前を通り過ぎてく。こん中に直央くんがいるとか、そんなミラクルねぇのかな、て思うけど、やっぱり姿はない。
 はぁ…。

「…………」

 …そういや、隣に座ってる人も、さっきからずっと項垂れたまんまだな。
 酔い潰れたのか? それとも、この人も俺とおんなじで、連れとはぐれちゃったんだろうか。かわいそうに。
 ロビーにはソファがいくつもあって、そこに座ってる人も何人もいて、でもこんななってんのは、俺とこの隣の人だけだよ。何か笑える。いや、笑えねぇ。

 …つか、この人の髪型、直央くんに似てんな。
 俺、直央くんのこと思い過ぎて、何か目とかおかしくなってんのかな。見るものすべてが直央くんに見えるとか。…重症すぎるだろ。

 でもこのスーツ、直央くんに作ってあげたのに似てる。本人はそんなことないって言うんだけど、すっげぇ似合ってた。俺の見立てがいいのと、高瀬さんの腕がいいから。



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楽園にガラスの靴 (48)


 あ、この人が着てんのも、高瀬さんトコのだ。
 何だよ、何から何まで直央くんそっくりじゃん。そりゃ、俺の目が変になったんじゃなくても、間違えるわ――――て、

「直央くんだしっ!」

 思わず俺は声を出して、ガバッとソファから立ち上がった。
 すぐに周囲の視線がこちらに向いたのに気が付いて、咳払いを1つすると、何でもない振りでソファに戻った。

「…………」

 ちょっちょっちょっ、え~~~~~!!!!
 この、隣に座ってる人、ずっと項垂れたままのこの人、直央くんだよね? そうだよね?
 俺の目も頭も、変になってないよね?

 周りを気にしつつも、直央くんと思われる隣の人の様子を窺う。
 …うん、間違いない。直央くんだ。
 項垂れてんのは、寝てるからだった(酔い潰れてはいないよね?)。

 え、直央くん、いつからここにいた?
 でも隣のソファには、俺が座る前から人がいて、下向いてて…………ずっといたのかぁ~~~~~!!!!

 バカッ!
 俺のバカッ!!
 ホントにまったく何してんだっ!! 隣にいる直央くんを見つけ出せないでいるなんて…!

 でもまぁ、とりあえず今は、自己嫌悪してる場合じゃない。
 絶対に機嫌を損ねているか、拗ねているか、怒っているか、泣いているか、いやその全部かもしれない直央くんを起こさないと。

「直央くん、直央くん…」

 …お酒臭くはないな。やっぱ寝てるだけか。
 でも、泣き疲れて寝ちゃったとかだったら…。

「直央くん」
「…ぅん…」

 何度かその肩を揺さぶってると、ゆっくりと直央くんが頭を起こした。
 俺が隣にいるってまだ気付いてないのか、目をこすりながら、キョロキョロしてる。かわい…(いやいや、そんな場合じゃない)。

「んー…徳永、さん…?」

 何度か周りを見回した後、ようやく俺に気付いてくれた直央くんは、付けまつ毛なんか付けなくても十分長いまつ毛をぱしぱし羽ばたかせて、何度も瞬きする。
 まだ寝惚けてんのかな?



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楽園にガラスの靴 (49)


「徳永さん…もぉお仕事終わったの…?」
「え? 仕事? あぁ、うん、まぁ」

 直央くんはどうも、このパーティーで俺が話したり挨拶したりするのは、全部仕事絡みだと思ってるんだよね(ミヤと話するのですら)。
 仕事絡みっちゃあ仕事絡みだけど、こういう場で仕事って言えば、顔を売るとか新しい人脈を開拓するとか、そういうことで、別に具体的なビジネスの話をするわけじゃないんだけど。

「終わったから、もう帰ろっか、直央くん」

 パーティーはまだ終わっちゃいないけど、一通り挨拶は済ませたし、もう十分だ。
 直央くんをここに置いとくと、誰がちょっかい出すか分かんないから(主にミヤとかミヤとかミヤとか)、気が気じゃないんで、さっさと帰りたい。

「でも俺、徳永さんと一緒に帰るの…?」
「え、そうでしょ。他に誰と帰る気でいんの?」

 まだ寝惚けたみたいな感じで、むにゃむにゃと直央くんが言ってくるから、即答した。
 俺以外の誰と帰る気? まさかミヤと帰りたいとか?
 そんなの絶対許さねぇぞ、ミヤ!

「…じゃなかった、間違え、た」
「ん? 何?」

 眠いのか、話すテンポがゆっくりになってて、それがかわいい。
 いや、そんな場合じゃないってことは、よく分かってんだけど。

「徳永さん…、俺と一緒に帰るの?」
「ん? は?」

 さっきと何が違うの?
 結局直央くんは、俺とは帰りたくないってこと?

 まぁ…それもそうだとは思うけど…。
 ずっとほったらかしにしてたくせに、帰るときになって急に現れて、何勝手なこと言ってんだ、て感じだよね。

「あの、直央くん、ゴメ…」
「だって徳永さん…、あの女の人と帰るんじゃないの…?」
「は? え?」

 …すいません。
 直央くんに謝ろうとしたんだけど、直央くんの言葉があまりに予想外過ぎて、ちょっと思考が一時停止気味。
 女の人?



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