2011年05月
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one night in heaven (13)
「むっちゃん、お外は寒いんだよ? 外出て平気?」
つまり、亮が思っていたのは、そういうこと。
バルコニーに出るのはいいけれど、冬の夜は、考えるまでもなく寒いに決まっている。
睦月は寒いのが大嫌いなはずなのに、外に出たがっているなんて、もしかして外が寒いってこと、忘れてるんじゃ?
「んー…でもちょっとだけなら平気でしょ?」
「…そう?」
たぶん絶対に大丈夫ではないと思うけれど、ここで押し問答を繰り返して睦月の機嫌を損ねるよりは…と、亮はコートの前を直してあげて(そういえば、まだコートも着たままだった)、掃き出し窓を開けた。
「んっ…ッッ」
程よく暖房の効いた室内に、冷たい風が流れ込んでくる。
天気がいい分、空気が冷たい。
睦月は、自分で平気と言った手前、思わず口を突いて出そうになった『寒い』を、声にする前に何とか押し止めた。
亮は少しだけ苦笑して、緩んでいた睦月のマフラーを口元まで引き上げてあげた。
「んふふ、すごい景色ね、ね」
「うん」
ありきたりな言葉だけれど、まるで宝石箱を引っ繰り返したよう、眩い光に満ちた街が広がっている。
寒いし、少しの腹の足しにもならないけれど、2人でこうやってキレイな景色を眺めるのも悪くない。
「亮?」
子どもみたいに「わー」とか「すごーい」とか言いながら、しばし夜景を堪能していたが、いくらコートを着ていても、やはり外の空気は冷たい。
しかし、どうでもいいところで素直になれない性格だから、睦月は『やっぱ寒い』と伝えられずに、小さく震える指先をキュッと握っていたら、後ろから亮に抱き締められた。
「手、冷たくない? んー…むっちゃんのほうが冷たいかな?」
バルコニーの手摺りを掴んでいた睦月の手に、亮が自分の手を重ねて来る。
ほんの少しだけ亮の手のほうが温かい気もするけれど、同じだけの時間、外にいたのだから、亮の手だって冷たい。
「寒いから部屋戻ろ? カーテン開けとけば、中からでも見えるよ」
「…ん」
ひどく甘やかされていると思いつつ、睦月は冷たい手を繋ぎ合って、部屋の中に戻った。
窓を閉めて冷たい風をシャットアウトすれば、睦月は詰めていた息を吐き出した。
*****
ホテルの中にはいくつかレストランがあったけれど、2人とも、もう部屋の外に出たい気分ではなかったから、結局ルームサービスをオーダーすることにした。
それに、ホテルにチェックインするだけでも、あんなに緊張していた睦月だ。これ以上肩肘を張るような場所は、きっと気乗りしないだろうし。
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one night in heaven (14)
「だね」
ベッドに座る亮にずり寄って近付いた睦月は、当たり前のように、亮のももに頭を乗せて膝枕をすると、まだ興味深そうにメニューを覗き込んだ。
だって、何でおにぎりが1,000円もするの? おにぎり10個くらい出てくるのかな? と、普通に庶民感覚の睦月は思いたくなってしまうのだ。
しかし、『メニューと言えばファミレス』みたいな感覚だから、うっかり忘れそうになっていたが、今見ているのは、頭に『高級』が付くホテルのルームサービスメニューなのだ。コンビニでおにぎりを買うのとは、わけが違う。
ちなみに2人は、結局どれがいいかよく分からないし、せっかくだからとディナーコースを頼んでみた。
2人で1万円のお食事なんて、ただの大学生からしたら随分高級だけれど、レストランでオーダーしたらきっともっと高いはずだし、和衣ががんばって獲得した旅行券のお零れにあずかって、宿泊代は殆ど掛かっていないから、このくらいの贅沢は。
ようやくルームサービスのメニューを見るのに飽きたのか、睦月はそれをベッドに放って、亮の頬に手を伸ばした。
気持ち的にはすっかりリラックスモードの睦月だが、服装は、シャツのボタンを緩めただけに留めて、悩んで選んだジャージには着替えなかった。
室内だし部屋着になってもいいんだよ? と亮には言われたが、こういうときはちゃんとしてたほうがカッコよくない? て思って。
「何、むっちゃん。擽ったいよ」
「んー、んー」
「なぁに? そんなかわいいことしてると、チューするよ?」
「んふふー」
とりあえず拒否られなかったのをいいことに、亮は睦月の唇にキスを落とす。
何度も何度もキスをして、さっきがんばって中断したのに、今度は歯止めがかけられるかな、なんて思っていたら、何なくインターフォンがキスを止めさせた。
「…ルームサービス、来ちゃったみたい」
本当はまだ離れたくなかったけれど、亮が困ったように眉を下げるので、睦月は仕方なく亮の上から退いた。
でも、ルームサービスが運ばれてくるときって、一体どこにいたらいいんだろう。
一応ちゃんとした格好のままではいたけれど、そんな格好なのに、ベッドの上でダラダラしていたら、だらしないて思われるかな?
「そこにいて大丈夫だよ」
不安そうに見つめる睦月の視線に気付いたのか、安心させるようにそう言って、亮はドアのほうへと向かったけれど、そこにいてって言われても…。
それでもと、睦月は起き上がってベッドの縁に腰を掛けたが、これだとドアに背を向ける形になってしまう。
それはちょっと失礼かな? と、反対側に移ろうとして、ベッドの上を四つん這いに這って移動していたら、ちょうどそのタイミングで部屋のドアが開いてしまった。
「あ、ぅ…」
可動式のテーブルを押して来たルームサービスアテンダントの女性とバッチリ目が合って、恥ずかしくて睦月は急いで反対側に移って座ったが、時すでに遅し。
「すぐにセッティングいたしますから、どうぞ寛いでいてくださいね」
優しい笑顔でそう言われて、ますます恥ずかしくなってしまう。
もともと睦月はあまり人目を気にしないほうだが、ただ無邪気な子どもでもないので(人には、まったくの子どもだと思われているかもしれないが)、こんなところでスマートでない姿を見られるのは、やっぱり恥ずかしいのだ。
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one night in heaven (15)
チラリと亮に視線を向ければ、タイミング悪くドアを開けてしまったことを言っているのだろう、口パクで謝られた。
「セッティングは窓際にいたしましょうか」
「お願いします」
せっかくの夜景だし、部屋のカーテンが開いたままになっていることを思えば、セッティングは窓際だろうことくらい、やはりアテンダントにはすぐ分かることだ。
男2人で夜景のキレイなスーペリアルームに泊まって、ルームサービスにディナーコースを頼むことに不躾な視線もくれず、アテンダントはテーブルを窓際へと移動させる。
白くキレイなクロスの掛かったテーブルの上には、アミューズと前菜、デザートのお皿が乗っていて、ナイフやフォークも並んでいる。
アテンダントはサイドテーブルにワインクーラーとデザートの皿を移すと、テーブル下の保温庫からメインの魚料理を取り出して、テーブルにセッティングした。
(あ、ヤバ…お腹鳴りそう…)
観覧車に乗る前にミートパイを食べたはずなのに、おいしそうな料理とその匂いに、思わずお腹が鳴りそうになって、睦月は慌ててお腹を押さえた。
「メインの肉料理は、冷めないようにこちらの保温庫に入っておりますので、食べる際にお出しください。お食事が終わった後のテーブルは、そのままにしておいていただいて結構ですが、気になるようでしたら、お電話を頂ければ取りに伺います」
「はい、ありがとうございます」
睦月がベッドの座ったままお腹を押さえていたら、亮がアテンダントにお礼を言ったので、睦月も慌てて言おうとしたら、「あっありがとうございましゅ!」と、また噛んでしまった。
(あぅ…)
もう、言い直すにも言い直せなくて、睦月は俯いてしまった。
「は、ぁ…」
「睦月、緊張し過ぎ」
ルームサービスアテンダントが部屋を出ていくと、睦月は再びベッドに横たわった。
ホテルで過ごすのに、もちろんマナーはあるけれど、こちらはお客なのだから、そんなに緊張する必要はないだろう。ホテル側も、緊張よりリラックスしてほしいと思っているだろうし。
「でもだって、緊張するし! あのお姉さん、絶対笑ってると思うー」
「いいじゃん別に。俺ら、悪いことしたわけじゃないんだし、そんな些細なこと覚えてないよ。ホラむっちゃん、起きて。ご飯だよ」
「んー」
亮に腕を引かれて、ベッドを降りる。
窓際にセッティングされたすてきなディナーに、「わーすごーい」と素直に感想を漏らす睦月のご機嫌は、あっという間に回復したらしい。
「ワイン、こんなふうに出されるの、初めて見たよ」
ハーフボトルとはいえ、ちゃんとワインクーラーに刺さって登場したワインを生で見るのは初めてで、それだけで睦月は、何か高級! とか思ってしまう。
ドリンクは他にもいろいろあったけれど、頼んだコースにワインをセットに出来るようになっていたので、ノリでオーダーしてみたのだ。
一応、睦月のためにオレンジジュースも頼んでおいたが。
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one night in heaven (16)
「ぅん?」
「もう部屋には誰も来ないから、そんなに緊張しないで」
「だって…」
ビシッと背筋を伸ばして椅子に座った睦月に、亮は苦笑しながらその頭を撫でてあげる。
お行儀が悪いことを推奨はしないけれど、今は2人きりなんだし、もうちょっと寛いでもいいと思う(というか、普段一緒に生活している中で、睦月のお行儀なんて、十分すぎるくらい知っている)。
「睦月、ワイン飲めそう? 味見してみ?」
「んー」
本当は丁寧にグラスに注いでもらって、きっと乾杯とかしてから食事を始めるんだろうけど、今は2人だけだから、多少のお作法違反は大目に見てもらうことにして、亮は睦月のグラスに少しだけワインを注いだ。
「どう? 睦月」
「何か…甘くない? かも」
「辛口て書いてある。俺にも飲ませて?」
「ん」
睦月のワインに対する知識なんて、はっきり言って、『見た目で、赤かったら赤ワイン、白かったら白ワイン』くらいなものだから、味の違いだとか、どの料理に合うのかとか、そんなことはもちろん分からない。
だから今飲んだ白ワインも、甘くないのは分かっても、だったら何味て言ったらいいの? といった案配だ。
「亮、どう?」
「んー、うまいよ」
「…そう?」
グラスに残ったワインを飲み干した亮は、ラベルを眺めていたボトルを置いて睦月を見た。
亮的には好みの味だけれど、甘い系が好きな睦月の口には、どうやらあまり合わなかったよう。
「オレンジジュースにしとく?」
「うー…」
そんなの何だか自分だけ子どもみたい!
飲めないものは飲めないんだから仕方がないんだけれど、何だかそれはちょっとつまらない。
でも、さっきメニューで、カクテルが1杯1,000円以上するのを見ているから、そんなの怖くて頼みたくないし…。
「じゃあさ、白ワイン、オレンジジュースで割ってあげよっか?」
「ぅ?」
小首を傾げている睦月に笑い掛け、亮はグラスにワインを注ぐ。そこにオレンジジュースを注ぎ足してステアすれば、即席カクテルの完成。
スパークリングワインなら、もっとミモザ風になるんだろうけど、とりあえず今はこれで。
「はい、どうぞ」
「…ん」
睦月は、亮から受け取ったグラスの中身を、恐る恐るペロリと舐めた。
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one night in heaven (17)
「これなら飲めそう?」
「…ん」
やっぱり甘い味のほうが、睦月には合うみたい。
本当は辛口のワインも似合う、大人の男になりたいけれど。
目の前でグラスに自分の分のワインを注ぐ男を見ながら、睦月は、同い年なのにどうしてこんなに様になっているのか、不思議に思うのとちょっと悔しいと思うのと、綯い交ぜの気持ちになった。
「ん? どした?」
「どーもしない。亮、座ってよ、食べないの?」
「食べるけど。先に乾杯しよ?」
何で亮、座んないの? という顔をしている顔をしている睦月とグラスを合わせ、亮は注がれたワインを半分ほど飲んだ。
「はい、むっちゃん、あーん」
「んー?」
亮は席に着かないまま、前菜にあったプロシュートをフォークに刺すと、睦月の口元へと持っていく。
全然座らないし、急に『あーん』とかするし、亮、意味分かんない……と思いつつ、睦月は口を開けた(おいしいもの関しては、とっても素直なのだ、睦月は)。
「なぁに、亮、むぐむぐ……ちゃんとしないの? 何で座んないの?」
「だってこっちに座ると、むっちゃんが遠いんだもん」
「は?」
向かい合わせで座るようセッティングされたテーブルは、しかしワゴンを兼ねたものだから、そんなに大きいわけではなくて、つまりは、そんなに遠いわけでもない。
なのに亮は、夜景をバックにしながら掃き出しの窓に寄り掛かって、子どものように拗ねた顔をしている。
「亮、もう酔っ払っちゃった?」
「何で? 酔ってないよ」
亮、いつもと雰囲気違くない? と睦月は小首を傾げるが、まだグラスに半分ほどのワインしか飲んでいないから、酔っ払うはずもない。
普段2人きりのときは、睦月がナチュラルに亮にくっ付いているせいか、亮は食事のときまでベッタリはしないけれど、今日の雰囲気が、亮を甘えたにさせているみたい。
「もぉー、亮、甘えたいのー? いいよ、甘えても」
亮の態度の意味が分かったのか、睦月は若干上から目線でそう言った。
「ふはは、ありがと、むっちゃん」
やはりずっと立ったままなのはお行儀が悪いから、亮は椅子を睦月の向かいから、もっと近い場所へと動かして、ようやく座った。
「俺も『あーん』してあげるよ。はい、亮、あーん」
「え、ちょっ…」
亮が席に着くと、睦月は早速メインの魚料理、トマトソースの掛かった魚のソテーを切って、亮の口元へと突き出した。
レストランなんかのフルコースと違って、ルームサービスは一気にすべてのお皿が出て来るから、いきなりメインディッシュでも構わないけれど(そういう細かいマナーを気にしたくないからルームサービスにしたわけだし)、それはいいとして、睦月が差し出した魚のソテー、一口大と言うには少し大きすぎる…。
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one night in heaven (18)
「…はい」
睦月は基本的に甘やかされることに対して照れがないし、亮も睦月を甘やかすのが好きだからいいけれど、その逆となると、まったく慣れない。
しかし、これは食べるまで解放してもらえなそう…と、亮は早々に観念して口を開けた。
「んー、ふふ」
わりと雑な感じで亮の口に魚を突っ込んだ睦月は、満足そうにワインのカクテルに口を付けた。
「てかむっちゃん、それお酒なんだからね。ワイン入ってんだから、忘れないでね」
「あ、そーだった。だっておいしいんだもん、えへへ」
ゴクゴクと元気よくカクテルを飲む睦月に、念のため亮が忠告すれば、やはり睦月はそんなことすっかり忘れていたようで、しかしのん気に笑いながらグラスを置いた。
甘い系のカクテルやらサワーを飲むことの多い睦月は、口当たりのよさから、よくあるパターンで、ジュースを飲むような感覚で飲んでしまうところがある。
いくらアルコール度数が低くても、そんな飲み方をすれば、早々に酔っ払ってしまうのは当然だし、大体からして睦月は、そんなにお酒に強いほうではないのだ。
(もーちょっとオレンジジュースの量、多めにしてあげればよかったかな…)
睦月のことだから、ワインが入ってさえいれば、たとえオレンジジュースの味しかしなくても、きっと満足するに違いない。
普通に半々で割ってしまったのは、もしかしたら失敗だったかも…。
「俺ダメだね。いっつもこーやって飲んで、すぐ酔っ払っちゃうの」
「自分で分かってんなら、気を付けて」
ひゃはははーと陽気に笑う睦月に、亮は溜め息を零す。
自覚があるならもう少し気を付けてくれないと、こっちの気が気でない。
「んー、んー。はい亮、あーん」
…やっぱりもう酔っ払ったかな?
睦月はご機嫌で、前菜のエビをフォークに刺して亮の口元へ持っていく……のはいいとして、せめてその頭くらいは取ってもらいたいのだが…。
「むっちゃん、俺に食べさせてくれるのは嬉しいんだけどね、自分でもちゃんと食べて」
亮は、ちゃんとエビの頭と尻尾を取ってから、睦月の口に運んであげる。
バカップルと言われようが、基本、2人きりのときの、亮と睦月の食事風景なんて、こんなものだ。
「亮、お肉食べよー?」
「はいはい」
性懲りもなくカクテルをジュースのようにして飲みながら、睦月がおねだりする。
前菜からして結構なボリュームがあるため、2人の皿にはまだ前菜やメインディッシュの付け合わせが点在していたが、周囲に他に人がいるわけでもないので、それをサッと1つの皿にまとめて、テーブルにスペースを作り、肉料理の皿を取り出した。
「わーい」
睦月は無邪気に喜びながら、魚のソテーを食べるのに使っていたのと同じナイフとフォークで、牛フィレに手を付ける。
テーブルに並べられた他のナイフやフォークは、睦月にとって何の意味も成さないらしい。
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one night in heaven (19)
「ん?」
牛フィレとワインを堪能しつつ、亮が窓ガラスの向こう、広がる夜景を指差す。
夜景なら、さっきからずっと見ているけれど。
「もうちょっと向こう側。あそこに見えんの、俺らが乗った観覧車じゃね?」
「えー、どれー?」
「ちょっ…」
睦月が、お行儀悪くフォークをガジガジしながら亮のほうへと身を乗り出せば、いつバランスを崩してもおかしくない体勢に、亮は慌ててその体を支える。
「亮、見えないー」
「ホラ、こっちおいで」
そんなしたら危ない! と思うのに、睦月がジタバタ暴れるから、結局亮は、睦月を膝の上に乗せた。
「あ、観覧車見えるー」
「でしょ?」
先ほどバルコニーに出たときは、広がるキレイな夜景をただ漠然と眺めていただけだったけれど、確かにそこには、イルミネーションの煌めく観覧車が見える。
そういえば昼間乗ったときは、イチャイチャしていたせいもあって、ロクに景色も見ていなかった。
「何かさぁ、夜乗るのも楽しそうだよねー」
片手にフォーク、片手にグラスを持った睦月は、亮の膝の上でクフクフ笑っている。
観覧車なら昼でも夜でもいつでも付き合うが、その後に絶対、絶叫系のアトラクションが待っているのかと思うと、亮はなかなか素直に頷けないのだが。
「んー…亮ー」
「ちょっ待っ…むっちゃん!」
グラスに口を付けようとして、もうすっかり空になっていることに気付いた睦月は、それを置いて、亮のグラスに手を伸ばす。
先ほど注いだばかりの亮のグラスには、まだたっぷりとワインが入っていて、睦月は、グラスを持つ亮の手ごと自分のほうへと引き寄せた。
「待って待って、むっちゃん待って! これオレンジジュース入ってないから」
「んんー、だってー」
亮が飲んでいたのは、オレンジジュースで割っていない、辛口の白ワインだ。
甘くないー! と言っていた最初のうちはよかったけれど、それを忘れて、先ほどカクテルを飲んだときのように、ゴクゴクと飲んでしまったのでは大変だ。
「さっきのカクテル、もっかい作ったげるから! ね?」
「んー…」
亮は、睦月の手が届かないくらいの位置にグラスを置いてから、睦月のグラスに少なめの白ワインとたっぷりのオレンジジュースを注いだ。
やはり思ったとおり、睦月はアルコールさえ入っていたら満足なようで、その配合比率には何も言わない。
「はい、むっちゃん」
「あい」
作ってもらったカクテルの中身はほぼオレンジジュースだが、亮の胸に背中を預けた睦月は、ご機嫌でそれを舐めている。
「んんー、亮、擽ったいー」
睦月を落っことさないように、片手をお腹のところへ回して支えつつ、亮はもう片方の手で睦月の髪を弄る。
その指先が時おり首筋に触れるものだから、睦月は擽ったくて首を竦めた。
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one night in heaven (20)
擽ったいからやめてーと、振り返ろうと首を捻ったら、亮にキスをされた。
オレンジジュースのせいで甘くなっている唇を舐めた後、亮は睦月の手からグラスを奪ってテーブルに置くと、キスを深くする。
今日一日、かわいい睦月を堪能できたから、満足と言えば満足だけれど、何だかいつもいいところで中断させられていたので、物足りないような気分もある。
「…ん、や、亮…」
「や?」
「だって……ご飯は?」
あ、そういえば、さっきはムードがないと思って言わなかったのに、結局ご飯のこと、言っちゃった。
亮、白けちゃったかな? と睦月が様子を窺えば、亮は気を悪くするというよりも、むしろなぜか笑いを堪えているような感じ。
「亮?」
「んはは、そだね、ご飯」
「亮、何笑ってんの?」
そんなに変なこと言った? と、睦月は拗ねたように唇を尖らせる。
おかしなことは言ったかもしれないが、そんなに笑わなくたって。
「ゴメンゴメン、そうじゃなくって。はい、むっちゃん」
「ふん、知らないもん」
亮があやすように、牛フィレを刺したフォークを差し出すが、睦月はぷん! と顔を背けてしまう。
酔っ払っているせいもあってか、今日の睦月の拗ね方は、本格的に子どもみたいだ。
「むっちゃん、ご飯もういいの?」
「…いい」
「デザートは?」
「…………」
返事がない。
デザートメニューは、フロマージュブランのミルクレープと書いてあったが、そういえばミルクレープは睦月の大好物だ。
拗ねていても、その辺のところでは、心が揺れ動くらしい。
「…デザートは、後にする? それとも今?」
そっぽを向いている睦月の、その耳元で尋ねる。
最後に耳にキスしておいて、『デザートは今』なんて返事、初めから貰うつもりもないけれど。
「よいしょ、と」
「うわっ、ちょっ亮っ!」
睦月はまだ何も答えていないのに、亮は膝に乗せていた睦月を抱えて立ち上がった。
突然のことに驚いて、睦月は反論も抵抗も忘れて、慌てて亮の首元にしがみ付く。
「でっ…デザートはっ?」
「また後で」
亮にお姫様抱っこみたいにされて、しかし睦月は、足をパタパタさせて、下ろしてー! と訴える。
「ダーメ。続きすんだから」
「…続き?」
「観覧車の続き」
亮の腕からは逃げられないことを知っている睦月は、儚い抵抗をやめ、キスを受け入れた。
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one night in heaven (21)
部屋のバスルームは、まさかのビューバスだったので、さすがに亮も驚いた。
食事をしたときの窓際と同じ並びなので、景色は殆ど変らないけれど、やはり雰囲気は違うし、オシャレな造りのバスルームと、ゆったりとしたバスタブ。
女の子なら絶対に喜びそうだな、と亮は思う(睦月と一緒にいるのに女の子…。でも睦月は、長風呂が苦手で、お風呂自体、そんなに好きでないから…)。
「外見える…」
お湯を溜めているバスタブの縁に手を突き、窓のほうに身を乗り出した睦月は、ほわ~…と、外の景色を眺めている。
睦月は、夜景だとかイルミネーションだとか、腹の足しにならないようなものには興味がないかと思いきや、意外と気に入っているらしい。
「ねぇねぇ、これってさぁ、こっから外丸見えじゃん? 外からはこっち見えないのかな?」
「えー? だってここ38階だよ? さすがに見えないっしょ」
「そっかぁ」
これだけの高級ホテルで、そうしたことへの配慮がないとは思えない。
実際、この窓から見える景色に、高層の建築物はうんと向こうにしかないし、地上からこの高さの階を覗こうと思ったって、見えるわけもなくて。
「これなら、むっちゃんと何したって、誰にも見られないよ?」
「亮、何する気?」
亮がわざとそう言えば、睦月も分かっていて、わざとそう聞き返す。
振り返った睦月の口の端が、ニヤリと上がる。亮は睦月がバスタブに落ちないようにその腰を抱いて、唇にキスを落とせば、かすかにオレンジの味。
「ん…」
睦月をバスタブの縁に腰掛けさせ、何度もキスを仕掛ける。
甘くて柔らかい唇を貪り、うっすらと開いた唇に舌を差し入れると、睦月のほうから求めるように舌を絡ませてきた。
「ふ、ぅん…」
シャツの裾から手を忍ばせ、滑らかな素肌を辿ると、睦月はビクビクと体を震わせて、亮の背中に回した腕に力を込めた。
キスだけでも敏感になっている睦月に気をよくし、亮はさらにその体をまさぐっていく。
「やぁ…ぅ…ん、りょぉ…」
「ぅん? …何? むっちゃん」
唇を合わせたままで聞き返したけれど、睦月は何も答えなくて、亮はその唇の端から零れ落ちた唾液も舐め取って、再び口の中に舌を押し込んだ。
バスタブにお湯の溜まる音がうるさいはずのバスルームで、けれど、グチャグチャと唾液の混ざる音が耳を犯してきて、睦月は、感じすぎている自分が怖くなってきた。
「はぅ…ン…」
鼻にかかった、甘い声。
亮が、熱くなった睦月の舌を吸い上げたから。
背中に回した手で、亮のシャツをキツく握り締める。
「や…も、亮…」
「ヤ? 気持ちいくない?」
「い…けど、んぁ…」
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テーマ:自作BL小説 ジャンル:小説・文学
20万hitしてました。ありがとうございます。 +制作裏話
いつの間にやら20万hitしてました。
いつもお出でくださるみなさま、本当にありがとうございます。
記事を毎日アップするとか、何かしらの企画をするとか、そういうのは私自身の力でどうにでもなることですが、この20万hitばかりは、本当にお出でくださるみなさまがいなければ、なしえない数字です。
とっても感謝していますし、感激しています。
また、コメントや拍手・ランキングのクリック、大変励みになっています。
本当にありがとうございます。
これからも「恋三昧」をよろしくお願いいたします。
*****
それから、いつも区切りを迎えても、キリ番とかおもしろい企画とか何もない…て言ってて申し訳なくて、いや今回も別におもしろいこともないんですが、20万hitのお礼に、制作の裏話でもお届けしようかな、と思います。
興味のあるかたは。
「繁華街~」アッキーの元カノ真夕ちゃんが、当初は名前もない脇キャラで、なおかつ性格ももっと酷かった、ていうのは最終回に書きましたが、実は「君といる~」のむっちゃんも、最初に考えてたのとは全然違う子になったんだよ、ていう裏話。
実は元々むっちゃんは、すっごい無愛想な子だったんです。
中学生のときのつらい経験がもとで人間不信→ゆっちさん以外には心を開かない子て設定で、亮タンと同室になり、段々と打ち解けて恋に発展…! みたいになる予定だったの、このお話自体!!
でも、書いてるうちに続かなくなって、1stシーズンの5月ぐらいで断念(早い)。単に人見知りの激しい子で、女の子に間違われるとぶちギレるキャラになりました。
何かね、あまりにも当初のむっちゃんのキャラがシリアスすぎて、徐々に打ち解けていっても、私の力量では、今みたいなむっちゃんには到底なり得ないことが判明したの。
で、5月を半分くらい書いた時点で書き直しました(衝撃的な出会い編は好きだったんで、4月はそのまま…笑)
4月を書き直さなかったんで、むっちゃんの性格が、『スーパー人見知り&女の子に間違われたら、手も上げかねない』になっちゃいました。
キャピキャピしてるカズちゃんに冷ややかな視線を送る、めっちゃ愛想のないむっちゃんも存在してたんですよ、実は。
当初のままで行ってたら、スーパーシリアスな話になってたよ!
てことで、これのどこがお礼なんだかですが、20万hitのお礼に代えさえていただきます。
*****
さらに!
ここまで読んでくださったかたに、むっちゃんの秘密(でも何でもないこと)大公開!!
むっちゃんの
好きなの→ お菓子、寝ること、わんこ
嫌いなの→ 寒いの、女の子に間違われんの
で、これ答えた後カズちゃんに、「亮のことは?」て聞かれて、「あ、」てなると思う。
てことで、これからも「恋三昧」をよろしくですー。
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one night in heaven (22) R18
亮は縋り付いてくる睦月を抱き寄せ、唇を合わせたまま、腰を支えているのとは反対の手で、睦月のパンツのフロントホックを外しに掛かる。
前を寛げ、下着の中に手を差し入れると、睦月は困ったように身を捩ったが、亮は宥めるように唇や頬にキスを落としながら、行為を進めていく。
「やっ、亮…」
「ん?」
「…するの…?」
睦月は、亮の背中に回していた手を解いて、先へと進もうとする亮の手を制した。
「するよ? イヤ?」
「あ…らって…」
もう、舌も回らなくなっている。
睦月の儚い抵抗など、亮にとっては大したことではない。耳元に唇を寄せ、「イヤなの?」と甘く囁き掛ける。
「……ここですんの…?」
長いまつ毛を震わせ、睦月は不安そうに亮を見上げる。
亮とシタい気持ちはもちろんあるけれど、バスタブの縁、こんな不安定な場所に座ったまま事を進められるのは困るし、いくらビューバスからの眺めがよくても、お風呂の中でするのには、抵抗がある。
「…ベッドならいい?」
亮は睦月を抱き寄せて、その体をバスタブの縁から床へと下すと、ついでに風呂に入れていたお湯も止めた。
「むっちゃん?」
「…ん」
力の抜けた体をバスタブに預けた睦月は、再び亮に顔を覗き込まれ、よくやくコクリと首を縦に振った。
せっかくお湯は溜めたけれど、とりあえずそれは後にして、シャワーブースに移る。
寮の風呂でなくて一緒に入るときは、大抵亮にされるがままの睦月は、今夜も素直に服を脱がされ、大人しくシャワーを浴びせてもらう。
意外にも甲斐甲斐しい性格の亮は(もしかしたら、睦月限定かもしれないが)、実に楽しげだ。
「ふぁ…ん…」
降り注ぐシャワーの下、2人はキスに夢中になる。
亮は、壁に背中を預けている睦月が足を滑らせないように気を遣いながら、睦月の後ろへと手を回す。
「んーっ…ぁ、あ…」
亮はシャワーをフックから外して、睦月の体に掛けてやりながら、その後ろも洗ってやる。
この行為も、最初のころは、慣れない感覚と恥ずかしさで睦月はガチガチに緊張していて、感じるどころか、ここから先に進めるのかと心配になるほどだったけれど、今では素直に感じられるくらいになった。
睦月に言わせると、『それは亮だからだよ』てことらしく、さらに亮を喜ばせるのだが。
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one night in heaven (23) R18
「りょぉ…」
亮は合わせていた唇を離すと、睦月の首筋に舌を這わせ、そして、反応を見せている睦月のモノにも指を絡める。
途端、睦月はビクリと体を震わせて、戸惑うように亮を見た。
「俺のも、触ってくれる…?」
「……、…ん」
睦月は一瞬だけ視線を逸らしたが、すぐに頷いて、亮自身に手を伸ばした。
もともと睦月は神業レベルで不器用なので、テクニック的なことを聞かれると答えに困るが、たどたどしくも懸命に手を動かす姿を見ているだけで感じるのは、別に恋人の欲目ではないと思う。
しかも、何度体を重ねても、睦月は自分のすることにあまり自信がないのか、時々、ホントにこれでいい…? と聞きたげに亮を見るから、余計に欲を煽られる(きっと睦月はそんなこと、気付きもしていないのだろうが)。
「はっ…や、亮…」
「ん? イク? イキそう? むっちゃん」
「ん、ん…、ヤダ、ヤ…」
睦月のモノは、もう結構限界まで張り詰めていて、多分あと少し弄ってやればイキそうだったけれど、睦月は嫌だと言って、亮の手を止めさせた。
「ヤダ? イカないの?」
「ん…」
俯く睦月の頭が、それでもコクッと動いた。
初めて2人が体を重ねたとき、気持ちよくはなるけれど、なかなかイケないのだと打ち明けた睦月は、今でも、1回達するともう一度はイケなかったり、時間が掛かったりすることが多い。
亮は別にそういうのは全然気にしていないのだが、睦月が気にする……というか、亮が気にしているに違いないと思い込んでいるので、ベッドに上がるまでは、なるべくイカせないようにしている。
「…ベッド、行こっか」
亮的にも、実は結構もうキてて、1回イッておかないと持たないかなぁ…と思うところもあるのだが、ここで1人で先走っちゃうのも恥ずかしいので、余裕ある振りでベッドに向かうことにする。
「むっちゃん、拭いたげるから、こっち来て」
「…ん」
すっかり亮に委ねてしまっている睦月は、大人しく亮に体を拭かれている。
睦月はいつでもバスローブがお気に入りなので、亮は備え付けられている上質のバスローブで身を包んでやり、部屋へと戻った。
「んふふふ~、これ、すっごいふかふか~、気持ちいー」
ベッドに身を沈めた睦月は、先ほどまでの雰囲気は一転、ふかふかのバスローブに、子どものようにはしゃぎながら、袖を頬にすりすりしている。
普段、バスローブなんて着る機会はラブホテルくらいしかなくて、それと比べたら、断然肌触りもいいに決まっている。
「亮ー、ねぇー、ふかふか~。亮てば~」
「分かったってば。ホラ、バタバタすんなよ」
バスローブはふかふかで気持ちいいし、ベッドも柔らかくて寝心地がいいし、もう最高の気分。
睦月は、キャ~! とベッドの上でパタパタしている。
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one night in heaven (24) R18
「むっちゃん、やめなさい」
足をバタつかせている睦月の上に伸し掛かり、亮はその体を押さえ付けた。…そういえばこんなこと、前にもした覚えがある。
「んーんー、りょぉ…」
甘ったるい声が、亮の耳元を掠める。
睦月に覆い被さった亮は、薄く開いた唇にキスを落とすと、バスローブの前から手を差し入れて、何の膨らみも柔らかさもない睦月の胸に手を這わした。
「ひゃっ…ん」
指先が胸の突起を引っ掻くと、睦月の体がピクンと跳ね上がる。
バスローブ1つでご機嫌になってしまう睦月だけれど、体が敏感になっているのは事実で、些細な刺激に堪え切れず、モゾモゾと足を動かした。
無意識の動作だったのだろうが、睦月が片方の足の膝を立てたものだから、一気に太ももが露わになってしまい、先ほどまで素っ裸で抱き合っていたくせに、でも何だかこういう肌蹴た感じのほうがそそる…と亮は思ってしまった。
(あーぁ、ヤベェな…)
どこまで理性ががんばってくれるやら。
ただ亮も、睦月がベッドの上で性急に事を運ばれるのが苦手だと知っているので、焦らず慌てず、ゆっくりと睦月の全身にキスを落としていく。
唇にして、頬にして、耳に、首筋に。
薄い胸に唇を滑らせながら、滑らかな太ももを撫で上げた。
「はぁ…ん」
亮が片方の乳首を吸い上げたら、睦月は逃げるように身を捩ったけれど、亮に伸し掛かられているので逃げ場もなくて、力の入らない足がシーツを蹴っただけだった。
睦月は、亮に舌と指で胸を愛撫されると、すごく気持ちよくてどうにかなりそうになる。
もちろん自分でこんなところ弄ったことないし、試してみるつもりもないけれど、やっぱり亮がしてくれるから気持ちいいんだろうなぁ、とは思っている。
「は…ん、ん…」
「ねぇむっちゃん、気持ちいーの? ここ、されんの」
「んっ、ぅん、気持ちいっ…ひゃっ、ん…!」
睦月が素直に答えたら、亮は柔く乳首に歯を立て舌先で嬲ったので、声が大きくなった。
前は、こんな甘ったるい声、恥ずかしくて仕方なかったし、自分で聞きたくも、亮に聞かせたくもなかったので、唇とか指を噛んで我慢していたけれど、そうしないほうがいい、て亮に言われてからは、あまり声を我慢しなくなった。
睦月の、男の喘ぎ声で、亮が萎えないならそれでいいし、声を出したほうが睦月自身も気持ちいいから。
「ッ、ん、ぁ…わっ!」
睦月の太ももを撫で回していた亮の手が、そのままさらに上へと這い上がっていって、熱の燻っている睦月の下腹部に触れた。
胸への愛撫に気を取られていた睦月は、突然のことにビックリして足を閉じたが、そうすると亮の腕をももの間に挟んでしまうことになり、より亮の手を感じてしまって、慌てて足を開き直した。
「むっちゃん、大丈夫?」
「…平気だし」
ちょっとビックリしただけで、別に怖いとかじゃないし、何かいつまでも慣れてないみたいで、恥ずかしいくらいなんだけど。
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one night in heaven (25) R18
「そっか」
亮は睦月の頭を撫でてから、手の動きを再開した。
くちゅくちゅと濡れた音を立ててキスしながら、熱く濡れた睦月自身を擦り上げる。
「あ…気持ちい…亮…」
素直に感じてくれる睦月が、嬉しい。
先からはトロトロと液が溢れ出してきて、ぬめる先端を親指で揉むように刺激すれば、堪らず睦月は腰を浮かしてくる。
亮は睦月の膝を立たせると、やわやわとその尻を揉み、双丘の割れ目に指を滑らせた。
「ンぁ…」
反らされた睦月の喉をベロリと舐め上げると、睦月を怖がらせないようゆっくりと指を中へ進め、内壁を撫で回すように、解すように指先をくにくにと動かす。
前と後ろを同時に攻めると、睦月はさらに甘い声を上げた。
「ちょっ…、ア…亮…」
「ぅん? 痛い? イヤ?」
「ちが…待っ…」
まだイキたくないのか、睦月は、追い上げようとする亮の手を止めた。
「むっちゃん? どうしたの?」
怖いのかな? と思って亮が睦月の顔を覗き込むと、しかし睦月の表情はそんなふうでもなく、色っぽい表情で唇を舐めた(おそらく無意識。だからタチが悪いと亮は思う)。
睦月は亮に返事もせず、起き上がろうとモソモソしている。
「え、何、どうした?」
睦月が何をしたいのか分からないが、とりあえず中から指を抜いてやる。
本当に、どうしたいんだろう。
「亮、ちょっと…」
「何?」
「…口でしてあげる」
「えっ? うわっ、ちょっ!」
起き上がった睦月は、ベッドに膝立ちでいる亮に向き合うと、亮がその言葉の意味を理解するより先に、頭を下げる。
亮の羽織っているバスローブの裾を邪魔そうによけると、勃ち上がっている亮の先端をペロッと舐めてから口に含んだ。
「ぁ、ッ…」
睦月は、嫌なものは絶対にイヤ! という性格だから、亮が「口でして」とお願いしても、やりたくないときはキッパリ断るのだが、気分が乗っていれば、今みたいに、自分からでもしてくれる。
しかも睦月は、ビックリするくらい不器用なくせに、実はフェラは結構うまい。というか、亮好みのフェラをする。
…まぁ、睦月があまり経験がないのをいいことに、亮が仕込んだようなものだから、当たり前といえば当たり前なのだが。
「ん…ふぁ…」
タップリと唾液を絡めてしゃぶったり、ベーと赤い舌を覗かせて舐め上げたりする睦月は、時折、亮の様子を窺うように視線を上げる。
フェラしながら上を見れば当然上目遣いになるわけで、煽られた亮は、ますます自身を硬くさせてしまう(何度も言うが、睦月は計算ではない)。
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one night in heaven (26) R18
「はぁ…ん、っちゅ…、りょぉ…、気持ち、い…?」
「…ん、すっげぇいい、マジで」
亮は、いい子、と睦月の頭を撫でてやり、ペタンと正座を崩したみたいな恰好で座っている睦月の尻に手を伸ばした。
先ほどまで中途半端に弄っていたそこに指を進めれば、キツくて熱い内壁が亮の指に絡み付いてくる。
侵入した指が中のイイところを掠めるたび、睦月の口が窄まって亮自身を刺激する。いくら睦月でもさすがに、感じた瞬間、ソレに歯を立てることはないだろうが、……ちょっとだけ心配。
「ぁ、ふ…」
亮のを口いっぱいに入れているせいで、睦月の頬は、その形が分かるくらいプックリ膨らんでいる。
その頬を指先で撫でたら、睦月は擽ったそうに目を細め、亮を上目に睨んだ(だから、その表情、ヤバいって!)。
「っん、ふ…、ん…」
亮のモノを銜えていることで、口を開けている状態になっていて、そのせいで睦月の口の中は、亮の先走りの体液と自分の唾液でいっぱいになっていた。
口の端からも零れて、口の周りがベトベトになるから、何かそれが嫌で、睦月はゴクッと口の中に溜まっているものを飲み込んだ。
そしたら、睦月的には何も意図していなかったんだけれど、思いがけず亮を感じさせてしまったらしく、頭上で亮が息を詰める気配がした。
(…ていうか、)
亮の、ちょっと飲んじゃった。
精液じゃないけど、先走りの体液。
生でフェラをしている以上、たとえ口の中で射精しなくても、そうした体液を口に含むことになるのは当然だが、ここまでしっかりゴックンしたのは、実は初めてだった。
(ま、別にいっか)
今日は気分ノリノリで、自ら口でしてあげたいと申し出たくらいだからか、単にいろいろ考えるのが面倒くさかっただけだからか、睦月はあっさり、まぁいっか、で済ませた。
キスのときだって、結構亮の唾液をゴックンしてるし。
「ッ…むっちゃん、もういいよ…」
「…ん、なんれ…? ん、ぁ…顎、疲れ…」
亮は、勃ち上がった自身を、ズルリと睦月の口から引き抜いた。
ずっと亮のモノを銜えていたせいで、何かもう、顎がだるい。でも、それでも、もうちょっと続けたかったのに。
「だってイキそうなんだもん。むっちゃんの口ン中、気持ちよくて」
「…イッていーのに」
「いやだって、口ン中に出されたくないっしょ?」
そう言って亮は、睦月の口元を拭ってやった。
睦月は何も答えない。
別に口に出されたって、嫌じゃないっちゃー嫌じゃないけど、亮が無理にしなくていいて言うなら、やっぱ、しないほうがいいかなぁ。
「…つか、入れていい?」
亮は睦月の返事を待たず、その体を再びベッドに押し倒した。
四つん這いのほうが、体勢的には睦月への負担は少ないだろうけど、何となく今日は顔を見ながらシたくて、仰向けのまま足を広げさせる。
目が合ったら、睦月は恥ずかしそうに「えへへ」と笑った。
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one night in heaven (27) R18
「むっちゃん、好き」
おでこにキスして、亮は睦月の後ろに自身を宛がう。
最初は抵抗を見せていた睦月の中も、丁寧に広げて慣らしたので、亮の指3本を飲み込むまでになっているし、睦月も、大きく息を吐き出して体の力を抜いたけれど、少しずつ亮が入ってくるたび、苦しそうに眉を寄せるから、亮も無理に進めようとせず、ゆっくりと睦月のペースに合わせた。
「っ、あぅ…ん、はぁぁ…、ア、亮っ…ん」
「ゴメ…もうちょっとっ…」
「いやっ、あっ…」
分かっていても体が逃げ出そうとして、睦月は広いベッドの上のほうへとずり上がって行ってしまう。
亮は宥めるように睦月にキスしながら、奥まで腰を押し進めた。
「ぁ、ッ…やぁっ…」
睦月がイヤイヤと首を振るたび、柔らかな髪がシーツの上に散らばる。
相手が亮だってことは分かるし、その後の快感も分かっているけれど、どうしても最初は慣れなくて、睦月はキツく目を瞑る。
「キツ…、むっちゃんっ…」
「はぁっ…あっ、ぁん、っ」
睦月が緊張して体を硬くすればするだけ、中の亮を締め付けてしまい、結果、亮にも辛い思いをさせてしまうと分かっているのに、どうしてもうまくいかない。
けれど亮は、すべて埋め込んでも、すぐには動かず、焦らずに待っていてくれる。
「りょう…」
「…ん? 平気? むっちゃん?」
顔中にキスしてくれる亮に、睦月はようやく目を開けた。
亮の瞳に、自分の顔が映ってる。
…やっぱり好きだなぁ、亮のこと。
「亮…大丈夫、だから……動いて…」
「、ッ…」
掠れた睦月の声が亮の耳元を掠めて――――優しくしようと思っていたのに、こんなの、亮の理性を一気に打ち砕いてしまう。
亮は、熱い吐息を吐き出す睦月の濡れた唇にキスをすると、足を抱え直した。
「ゴメ…辛かったら言って?」
「っ、あっ…あぁんっ!」
ズンと奥まで突き上げたら、睦月の足の先がキュッと丸まって、その太ももが強張る。
睦月はいつの間にか、指先が白くなるほどキツくシーツを握り締めていて、亮はその手を解いて自分の首の後ろに腕を回させると、睦月の体を揺さぶった。
「あっ…あ…亮っ、りょぉ…!」
「むっちゃん、気持ちい…?」
「ん、ぅん…ん、気持ちイ…、亮っ、あぁっ…」
亮に尋ねられ、睦月は甘い声を上げる。
普段の睦月はマイペースで、あんまり亮の言うことを聞くタイプではないんだけれど、セックスに関しては、やはり亮のほうが経験があると分かっているので、素直なことが多い。
そのほうが気持ちいいと、体に覚え込まされた。
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one night in heaven (28) R18
「はぁんっ、んゃっ、ッ…ん」
抜けそうなほど腰を引いては、また奥まで押し込まれる。
敏感な内壁を何度も擦られ、堪らなくなって、亮にしがみ付いた。
突き上げられるたびに強い快感が押し寄せ、絶頂に手が届きそうになるのに、亮の唇は、耳たぶを食んだり首筋を辿ったりして、さらに睦月の快感を煽っていく。
「ひぅっ…んっ、んぁ…!」
もう思考が働かなくなるくらい快感の虜になって、頭の中もボーっとなっていたところで、急に亮が体内からいなくなって、え? と思う間もなく横向きの体勢にさせられる。
睦月が、わけも分からず枕にしがみ付くと、亮は片足の足首を掴んで、足を開かせた。
「え、何、ひぁっ…!? あぁっ、いやぁっ…!」
そのままの格好で再び横から挿入されて、睦月は堪らず身を捩った。
これまで結構いろんな体位でシテきたけれど、こういうのは初めてで、でも、恥ずかしいとか思うよりも、今までに感じたことのない場所に亮を感じて、それに戸惑ってしまう。
しかも、だって、すごく気持ちいいし。
「あぁんっ、ン、あっ、らめっ…!」
「ッ…むっちゃん…」
「イヤ、深っ…、あ、奥…! やっ、やぁっ、りょぉっ…!」
今までにないくらい感じまくっている睦月に、亮も理性を奪われて、全然優しく出来ずに、快感のまま激しく突き上げてしまう。
睦月の顔を隠してしまっている髪の毛を払うと、汗ばんだ首筋を舐め上げる。
「はぅっ…ん、ぅん、亮っ…」
抱えていた足を下して正常位に戻すと、もう限界にまで張り詰めていた睦月自身に指を絡めた。
睦月はもう、啜り泣くみたいになっていて、必死に亮に縋り付いた。
「あっ、あ…ヒッ…ん、イ、ぁ…」
「むっちゃんっ」
「あぁん、や…も、ダメ…!」
イキそうだと訴える睦月の中は、グネグネとうねるように亮に絡み付いて。
持って行かれそうになった亮は、追い込むように睦月自身を強く刺激してやる。
「ひっ…ひぃん…! いやぁ、も…」
ガクンッ…と、睦月の頭が仰け反るようになって、体が痙攣するみたいに大きく震えた。
亮の手の中で、睦月の熱が弾ける。
途端、亮を銜え込んでいた睦月の中が、キツく収縮して、さすがにこれには亮も堪え切れずに射精した。
「はっ…あ、ん…」
「むっちゃん…平気? むっちゃん…?」
「…ん」
亮は睦月の中から自身を引き抜くと、まだ呼吸の整わない睦月の顔を覗き込んだ。
睦月はぼんやりとした目で、亮を見つめている。意識が飛び掛かっているのかもしれない。
「亮…」
「ん? むっちゃん?」
亮はティシューで手を拭うと、シーツに投げ出されていた睦月の手を握った。
睦月は力なくもその手を握り返す。
「亮、好き…」
囁くようにそう言った睦月の唇に、亮はそっとキスを落とした。
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カテゴリー:Baby Baby Baby Love
アダルト指定について (追記あり)
fc2さんにおける「アダルト」ジャンルへの強制変更、BL小説を書かれている殆どのブログで行われてるみたいですね。
「ジャンル-アダルト、サブカテ-BL」ということで、これがfc2さんなりの、「アダルトはアダルトでも、みなさんが考えてる(男性向け)アダルトとは違うんですよ」という意思表示なんでしょうか。
どんなに騒がれても、ジャンルに関してはもうこれで変えません、ということであれば、それは一企業の方針ですので、利用者側で今後を判断するしかないですね…。
ただ、携帯電話のトップの広告だけは、何とかしてもらいたいですよね(>_<)
ブログ村の人気記事ランキングでは今、こういう内容を取り扱った記事が上位にあり、みんなすごく関心があるんだなぁ、と思う一方、何かすごく切なくなります。
みんなお話を書いたり読んだりするのが好きなのに、お話の記事がランクインしてない、て…。
書き手の方も、ホントはこういう記事じゃなくて、お話書きたいだろうに、て。
早くいつもみたいに素敵なお話が上位にランクするような状態に戻ってほしいなぁと思います。
あと、同じような内容を書かれている他のブログの記事も読みましたが、いろいろ嫌な思いや辛い経験をされている方もいらっしゃるようで、切ないです。
みんなBLが好きで、お話書くのが好きで、こうやってブログをやってるだけなんですけどね。
このジャンルでお話書かれてる人の多くは、やっぱりこのジャンルは、いわゆる「アダルト」とは違うのよー! と男性向けアダルトに抵抗感を覚えているでしょうし、逆に男性向けアダルトの記事を上げている人からしたら、ただ女性がお話の中心にいるアダルト小説を書いたり、女性の裸の画像をアップしてるだけなのに、そんなのに毛嫌いしなくても…と思ってるかもだし、女性向けも男性向けも関係なく、18禁の記事があればみんなアダルトだよっ! と思ってる人もいるかもしれません。
みんなそれぞれに思うところがあるので、一概に何がいいとかは言えないんですが、とりあえず私は、今までどおり楽しくお話がアップできて、読みたい人が読めて、コメントや拍手したい人が出来たらいいなぁと思います。
長々すみません。
恐れていたことですが、当ブログも、FC2さんによって勝手に「アダルト」ジャンルに変更されてしまいました。
おそらく、現在18禁の記事をアップしているからかと思います。
朝は普通だったんですが…。
これからFC2さんには連絡を入れ、ジャンルを元に戻してもらうつもりですが、それまでは特に携帯電話からの閲覧において、アダルト系の広告が入るかと思います。
不快な思いをさせてしまい、申し訳ありません。
今後のことは分かりませんが、とりあえず更新は続けていくつもりですので、「アダルト」ジャンルのブログでも平気! という方は、変わらず足を運んでいただければと思います。
取り急ぎ、ご報告まで。
H23.5.16 如月久美子
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one night in heaven (29)
男2人でも十分ゆったり入れるバスタブに身を沈め、睦月は亮の胸に背中を預けていた。
頭も体も亮に洗ってもらったし、お風呂から上がればデザートが待っているし、最高の気分。
「むっちゃん、はい」
「…ぅ?」
ガラス越しの夜景を眺めていた睦月は、気持ちよくて、ついウトウトしてしまっていたが、後ろから亮に何かを口元に運ばれ、はた、と目を開けた。
「あーん、して」
「あー」
よく分からないまま視線を落としたら、亮の手の中にはイチゴがあって、言われるがままに睦月は口を開けた。
「…あまい」
「甘い? おいしい?」
…ん、と睦月がコクリ頷いたら、今度はキウイが運ばれて来て、睦月は自然と口を開けた。
それにしても、どうしてフルーツがあるの? まぁおいしいからいいんだけれど。
「亮、亮」
「ん?」
「他には? 何があんの? フルーツ」
亮の手をゆさゆさと揺さぶって、睦月は続きをねだる。
キョロキョロしてみても、フルーツの在り処が分からない。
「あと、バナナとオレンジ」
「ん…オレンジ。食べる」
睦月が答えると、背後から亮の笑う気配がしたが、それを気に留める間もなくカットされたオレンジが口元に来たので、食べるのを先にする。
大きく口を開けてオレンジを食べたら、そんなつもりもなかったのに、亮の指まで口の中に入れてしまった。
「んふ、ん、にゃ」
「ちょ、むっちゃん」
指を吸われて、亮は擽ったそうに肩を竦めた。
口から亮の指が抜けると、睦月は体を起こして亮のほうを向いて、そのももを跨いだ。
初めのころは、寮以外で一緒に風呂に入ることは、恥ずかしいから嫌がることも多かったけれど、もう慣れてしまったのか、睦月はすぐに逆上せてしまうことを除けば、お風呂を一緒にすることを拒まない。
「むっちゃん、イチゴ食べる?」
「…ん。どしたの、フルーツ。お風呂に…」
「ルームサービスのヤツ。食べるかな、て思って持って来たの。てかむっちゃん、眠い? お風呂上がる?」
眠いよりも、逆上せてしまうことのほうが心配だが、お風呂の温度は温めだし、まだ大丈夫かなぁ? と、亮は睦月の様子を窺う。
「へーき。イチゴ…」
完全に眠たい口調だけれど、亮は素直に言うことを聞いて、イチゴを睦月の口元へ持っていった。
モグモグとイチゴを頬張っている睦月は、何となく小動物を連想させて、かわいいなぁ…と、亮は目を細めた。
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携帯電話から閲覧されているみなさまへ
あからさまな画像やイラストとなってしまい、驚かれたり不快な思いをされたりしているかと思います。
誠に申し訳ありません。
fc2さんにはジャンルを元に戻してくださるようお願いしていますが、「アダルト」ジャンルのサブカテゴリに「BL」というものが創設されたことから、元の「小説」には戻らないかもしれません。
そうなっても、トップの広告については改善していただけるようお願いするつもりですが、早急には変わらないと思います。
その場合、次の点にご注意ください。
トップの広告をクリックした後の接続先は、恋三昧とは一切関係ありません。
広告バナー(またはテキストリンク)をクリックするかどうかは閲覧者様の判断ですが、広告は今までと違い、「アダルト」系のものですので、十分に考えたうえでお願いいたします。
それと、上記のこととは別件ですが…。
携帯電話からの閲覧について、不具合があれば教えてください。
お話のタイトルをクリックしても、うまくお話に飛ばないとか…。
私も時々携帯電話から見てはいるんですが、なかなか変になってる部分を見つけられないので…。
うまくお話が読めない~! ということがあれば、ぜひ教えてください。
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one night in heaven (30)
「…ん?」
イチゴを飲み込んだ睦月は、そのまま亮に抱き付き、コテンと亮の肩に頭を乗せた。
甘えて来るその姿はかわいいんだけれど、どこまで理性が保てるのかと、亮は少々心配にもなる。
「すごいねぇ、亮。お風呂から景色見えて」
「ねぇ」
「…もったいないな、お風呂上がって、寝て起きたら、もう終わりだ」
睦月は少し寂しそうに、目を伏せた。
特別な時間が終わるのは、やっぱり寂しい。…夢の時間に終わりは付きものだけれど。
「じゃあ、また来ようね、むっちゃん。…ま、いつになるか分かんないけど」
「ここに? またここ来る?」
「ここがいいの?」
「んー…ここじゃなくても、どこでもいい。亮と一緒なら」
笑えるくらいにお家大好きで、お出掛けなんて言語道断の睦月が、少しだけ乗り気になっているのに気をよくして、亮がそう提案してみれば、睦月は想像以上の返事をくれる。
嬉しくなってキスをすれば、唇はイチゴ味。
睦月は基本的に面倒くさいことが大嫌いで、けれど、亮と一緒ならまぁいっかな、ていうスタンスなのが、実はちょっとどころでなく、嬉しい。睦月の特別でいられることが。
「…むっちゃん、好き」
「ぅ? …俺も好き、だけど?」
今更恥ずかしくなったのか、睦月はキョロキョロと視線を彷徨わせた後、ポツリと呟くように言った。
「あっ、てか亮! ッ、うわっ…!」
「え、何? て、ちょっ…」
亮の両肩に手を突いて、勢いよく睦月が立ち上がるものだから、うわーむっちゃん、大事なところが目の前に…と亮が焦ったのも束の間、いつもより温めの温度設定とはいえ、いつもより長く入っていたせいもあってか、睦月がクラリと足元をふら付かせた。
「大丈夫、むっちゃん!?」
「だいじょー…」
全然大丈夫じゃない人に、大丈夫? と聞くことほど無意味なことってあるだろうか。
睦月は、全然まったく大丈夫でない様子で、大丈夫と言おうとして、亮の腕に抱き留められた。
「ゴメン、ゴメン、長く入りすぎたよね? もうお風呂上がろうね、むっちゃん」
「それよりも、亮…」
睦月を抱き上げて風呂から上がろうとする亮の腕に、睦月の手が重なった。
その瞳は、まっすぐに亮を見つめている。
「え、むっちゃん、何?」
「出掛けるトコ……今度はあの遊園地……観覧車以外も乗るんだから…」
グッタリとしながらも、それだけはしっかりと言って、腕の中の睦月は目を閉じた。
遊園地? 観覧車以外?
そこから連想されることは、たった1つしかない。
亮の顔が蒼褪めていくのを、目を閉じてしまった睦月は、知る由もない。
「………………、えーっと…」
とりあえず、お風呂から上がったら、デザートでも食べよっか?
だってねぇ、今夜はまだ終わらない。
夢の時間はまだ終わらない。
まだまだ一緒に、甘い夢の続きを見ようよ。
「ね? むっちゃん」
「…ん」
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屋上の寂しい人 (1)
「ねー、何してんの?」
その一言で俺は、死ぬための、最後のチャンスをなくした。
屋 上 の 寂 し い 人
このビルの屋上。
鍵の管理が全然ダメで、いっつも簡単に忍び込める。
日当たりは最高。雨の日は貯水タンクの下で雨宿りすんの。
俺の、一番のお気に入りの場所。
だから、死ぬときは絶対、こっから飛び降りようって決めてたのに。
「…死に損ねた」
俺の不満はヤツには届かない。
胸の高さくらいまでのフェンスに身を乗り出して、「すっげー高い!」とかってはしゃいでる。
「ねぇねぇ、すっげぇ高いね!」
知ってるよ。
13階建て。他のビルよりかは、全然高くないけどね。
「…何しに来たの?」
はしゃぎすぎて、俺より先に下まで真っ逆さまにダイブしちゃいそうなそいつに声を掛ける。
「別にー。暇だから」
「暇だからって、勝手に人のビルに入っていいわけ?」
「これ、アンタのビルなの?」
「違うけど…」
「じゃあ、俺たち同罪だね?」
ニカッて笑う。
何か昔見た、コーラのCMみたいな、白い歯がキラリの爽やかスマイル。
「ねぇねぇ、俺ねぇ、理玖(リク)っていうの。アンタは?」
「…………」
「教えてよ。ここで会ったのも、何かの縁でしょ?」
何が縁だ。
後から勝手に割り込んできたくせに。
「教えたってしょうがない」
「何で?」
「もう俺帰るし」
「え、帰るの? じゃあ、また明日、だね?」
明日も来る気かよ!
冗談じゃない。
俺はこの場所が好きだけど、1人でいるのが好きなんだ。こんな鬱陶しいヤツとなんか、1秒だって一緒にいたくない。
…だけど、来るななんて言えない。ここは俺のお気に入りの場所だけど、俺の所有物じゃなくて、俺もコイツと同じ、不法侵入者。そんなこと言う資格なんかない。
「じゃあ、また明日ねー!」
バイバーイって、バカみたいに手を振ってる理玖を無視して、俺は屋上を後にした。
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カテゴリー:読み切り短編
屋上の寂しい人 (2)
アイツが昨日の言葉どおり、今日もあそこに言ってるかどうかは知らないけど、もし行っているんだとしたら、その期待を裏切りたかった。
俺が行かなくて、ガッカリするだろうか。それとも1人で伸び伸びしてるんだろうか。
別にどっちだっていいけど。
…でも俺にあそこ以外の居場所はなくて、結局3日後、俺は再び屋上に舞い戻った。
雨の水曜日。
貯水タンクの下で、理玖が寝ていた。
「…おい、」
腹の底から低い声を出す。
お前はその場所まで俺から奪い取る気か。
「……ん、あれ…?」
目を擦りながら、理玖が起き上がる。
キョロキョロした後、俺の姿を見つけ、どういうわけだか嬉しそうに笑った。
「お久し振り」
「会いたかなかったけどな」
「いいじゃんいいじゃん、さぁどうぞ、名無しの権兵衛さん」
「何だよ、それ! 俺には希海(ノゾミ)って名前が……あっ」
「ノゾミ? ふぅん、じゃあ希海て呼ぶね?」
………………。
うっかり名前を言っちゃった迂闊な自分も腹立たしかったけど、何で会って2度目の、しかも全然仲良しでもないヤツに、『希海て呼ぶね?』とか言うんだよ、コイツは!
つーか、どうぞじゃねぇよ!
貯水タンクの下は俺の場所! 何でお前が、俺に譲ってやる、みたいな態度すんだよ!
「希海が雨の日も来るなんて思わなかったー」
「…俺だってお前が来てるとは思わなかったよ」
「んふふー、だって、また明日ーってしたもんねぇ?」
「知るかよ」
とりあえず、傘を閉じて貯水タンクの下へ。
男2人で入ったんじゃ、結構狭い。
「雨の日は、町が曇ってて、あんま見えなくてつまんないね」
「だったら来んな」
「でも希海に会いたかったし」
「俺は会いたくなかった」
「また明日も会おうね?」
「ヤダよ」
*****
それからあそこには、行ったり行かなかったりしてるけど、行ったときは必ず理玖に会う。
しかも理玖はいっつも俺より先に行ってる。
多分、俺より暇人。
「だって希海に会いたいしー」
「あぁ、そうですか」
「希海だって俺に会いたいでしょ?」
「何でだよ」
「だって、いっつも来るじゃん」
「俺はこの場所が好きなの!」
「またまたぁ~」
ホント、バカ。
能天気にもほどがある。
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カテゴリー:読み切り短編
屋上の寂しい人 (3)
俺はいつものように屋上に向かう。いつもよりちょっと遅い時間だから、理玖は来てるだろうって思ってたのに、着いたら誰もいなかった。
日が暮れるまで待ってたけど、理玖は来なかった。
「何で来ないんだよ…」
………………。
「は?」
思わず漏れた呟きに、自分でハッとした。
別にいいじゃん、来なくたって。何、アイツのこと待ち侘びてるみたいな。
もともとここは俺だけの場所だし。
「……帰ろ…」
別にアイツのことを待ってたわけじゃない。理玖が来る前に、帰ってやる。
夜景に背を向けて、地上へと繋がるビルのドアに手を掛けた瞬間。
――――ガタンッ!
ドアを押そうとするのとは反対の力で、ドアがいきなり開いた。
俺がドアを開けようとするのと同じタイミングで、反対側から誰かがドアを開けたんだ。
まさかそんなことになるとは思っていなかった俺は、ノブを掴んだまま、体はそのままビルの中に引き込まれる。
バランスを崩した俺の体は、そのまま床に倒れて、運悪く階段を転がり落ちる……かと思った。
けれど俺の体は、階段を転がり落ちるどころか、床に叩きつけられもしない。
代わりに聞こえたのは、俺じゃない痛がる声。
「イテテ…」
俺の体の下。
その声にハッとして、そこを見れば。
「理玖!?」
俺の下敷きになってる、理玖の体。
ビルの中からドアを開けたのは、理玖だったのだ。
「おま……何して…」
わけが分からなくて、言葉が続かない。
とりあえず理玖の体の上から退いて、でも何かビックリしすぎて立てない。
「よかった、まだいて…。希海に会えなかったらどうしようって思って、超ダッシュで来たんだ。ねぇ、屋上出ようよ」
まだ力の抜けたまんまの俺の手を引っ張って、理玖が屋上に連れて出る。
月の明かりが眩しい。
先に屋上に出た理玖が、フェンスに凭れて座る。
月の明かりに照らされて、そこで俺は気が付いたんだ。
「お前、その傷…」
理玖の左の口元。唇の端が切れて、血が滲んでる。
この傷痕。どう見たって殴られた痕だ。
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屋上の寂しい人 (4)
「誰に!?」
「え? 親父? つーか、母ちゃんの旦那? 新しい」
わざわざ言い直した理玖の言葉のとおりに頭の中で系図を描けば、つまりは、理玖のホントのお父さんじゃないってことだ。
「何で……殴られたの?」
立ち入ったことを聞くつもりなんか、なかったけど。
コイツのことなんか、どうだっていいけど。
でも。
「俺さぁ、父ちゃん似なんだよね。だからきっと、それがおもしろくなかったんだろうね」
「そんな理由で? で、ケンカになったんだ?」
「んーん。一方的に殴られただけ。他人だけど、やっぱ親父だからさ、俺が殴ったら母ちゃん悲しむかなぁと思って。俺って、いい子」
「何言ってんだよ、バカ! こんなときまでヘラヘラしてんじゃねぇよっ!!」
ってか、何で俺が、こんな、悔しいみたいな気持ちになってんの?
確かに理玖が殴られた理由は理不尽極まりないけど、そんなの別に俺になんか関係ない。こいつが殴られようが殴られまいが、そんなのどっちだっていいじゃん。
なのにコイツは、それでもヘラヘラしてるし。
何でそんな、自分の感情を殺してんの?
「俺……希海が怒ってるの、初めて見た」
「…え?」
ジッと俺を見上げながら、徐に理玖が口を開いた。
理玖は投げ出していた足を少しプラプラさせた後、膝を抱えた。
「いや、俺がここに来るの、嫌そうにはしてたけど…………でも今みたいに、感情を露にして怒鳴ったり怒ったりしないじゃん」
「…………」
「いつも淡々としてたし」
確かに。
昔から感情を表に出すのは、苦手で。
かといって、何も感じてないわけじゃないのに、でも誰もそれに気付いてくれなくて――――結局、感情なんて無意味なもの、心の奥底にしまい込んだ。
「何か、希海はいつも寂しそうな顔してた」
俺と理玖の間を、冷たい風が吹き抜けた。
寒さに思わず首を竦めたら、理玖が自分の隣をポンポンと指した。ちょっと戸惑ったけど、理玖の横に座る。
「俺さぁ、ここしか居場所がないわけ」
寒いから、ちょっとだけ理玖のほうに寄り添って、俺は口を開いた。
「希海、お家は?」
「寝るところはある……かな。でも親父とお袋が揉めてっから、いづれぇんだ」
「そっか」
多分、親父もお袋も、俺がこんなとこに来てるなんて知らない。
お袋は俺の分のメシも作ってくれてるけど、多分、食べてなかったからって、俺が帰ってきてなかったからって、別にそんなの、どうだっていいんだと思う。
家の中はいつだってピリピリしてるし、怒鳴り声を聞くのもウンザリする。
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屋上の寂しい人 (5)
「お前はいっつもヘラヘラしてるよな。殴られてんのに」
「だっておかしいじゃん。いつの間にか知らねぇオッサンが親父になってるし、何かよく分かんねぇけど殴られるし。笑うしかなくね?」
「…そうだな」
「怒ってもしょうがないし、泣いてもしょうがないし、じゃあもう笑うしかないじゃん?」
「……そうだな、」
俺は、唇を噛んだ。
ただのバカな能天気じゃないってことは、薄々気付いてたけどさ。
あぁ、何て愚かで無力な俺たち。
「―――俺もさ……ホントはここに、死にに来たんだよ」
「え?」
理玖の思い掛けない言葉に、俺は顔を上げた。
「何か、もう全部どうでもいいかなぁ、って思って。ばぁーって空飛ぶみたいに落っこってったら、気持ちいいのかなぁって思って。でもそしたら、先客がいた」
「俺?」
「うん。で、思わず声掛けちゃった」
「バカ、お前のせいで死に損ねたんだぞ、俺」
「俺も希海のせいで死に損ねた」
顔を見合わせてたら、おかしくなって、2人して吹き出した。
おかしくて、おかしくて。
ひとしきり笑った。
笑い転げて、で、また2人で肩を寄せ合う。
「ねぇ希海。……居場所は、これから作ろうよ。自分たちでさ」
「ここじゃない場所?」
「ここはもうおしまい」
「…そうだな」
理玖の肩に頭を乗せたら、理玖の腕が俺を抱き寄せた。
男同士だけど、別に変だとか思わなかった。
っていうか、俺も抱き締めたいって思ったし、抱き締めてほしいと思った。自分のなくした欠けらを埋めるように、ピッタリと。
フェンスに凭れる理玖に、正面からぎゅっと抱き付いた。
「なぁ、まだまだしぶとく生きようぜ! 死に損ない同士」
*END*
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もうさようならの時間 (1)
昼食の時間帯、賑やかになる大学のカフェテリアも、始業のチャイムが鳴ると、人も少なくなって急に静まり返るが、この時間には授業を取っていない睦月たちはいつも、そのままカフェテリアでダラダラと時間を潰している。
今日も、睦月と和衣は2人で1つの雑誌を覗き込み、亮と祐介はサッカーの話で盛り上がり、そして翔真は真大にメールを打っていた。
「…あ、そうだ、亮。これ」
メールを送信し終えた翔真が、携帯電話をテーブルの上に置き、カバンの中を探ってCDを取り出した。
亮から借りていたCD。
「サンキュ。ずっと借りっぱでゴメン」
「んー? いや? わざわざ学校にまで持ってきてくれたんだ。ショウちゃん、優しー」
ずっと借りていた、と言っても、高々1週間くらいのことだし、同じ寮に住んでいるのだから、わざわざ学校にまで持って来なくても、返すチャンスなんてもいくらでもあるのに。
「いや、昨日、亮の部屋行ったら留守だったから。カバン中でも入れとかないと、また忘れると思って」
「留守? 昨日?」
「ん? 昨日。昨日の夜。だって亮、バイトじゃん。とりあえずむっちゃんに渡しとけばいいかな、て思ったんだけど、行ったらいなかったし。むっちゃん、出掛けてたの?」
「ん?」
亮と翔真の会話の中に自分の名前が登場し、水の入ったプラスチックのコップの縁をガジガジ噛みながら、睦月は顔を上げた。
今月、いろいろと無駄遣いしてしまったらしい睦月は、バイト代が出るまで苦しいので、飲みたかったアイスカフェラテをやめて、カフェテリアにあるサーバーから持って来た、無料の水で我慢しているのだ。
「いや、むっちゃん、昨日の夜、出掛けてたの?」
「…ぅ?」
小首を傾げている睦月が、単に話を聞き取れなかっただけだと思って、翔真はもう1度聞き直した。
昨日は睦月がバイトの日でないことは知っているし、風呂に行くにはまだ早い時間のうえ、睦月がいつも必ず一緒に風呂に行く和衣が部屋にいたので、それもないと思ったのだ。
トイレに行くくらいなら、部屋の鍵なんて閉めないから(几帳面な連中はそれでも施錠するけれど、睦月の場合、面倒がってそんなことしない)。
「えっと…」
いつの間にか、全員が自分のほうを見ていると気付いた睦月は、居心地悪そうに視線を彷徨わせた。
「えーっと…、昨日? ショウちゃん、それ何時くらい?」
「んー…俺が寮出るときだから、6時……前…くらい?」
「6時前? えと…あ、ちょうどコンビニ行ってたときかな、もしかして」
「ふぅん?」
何となく納得したようなしないような顔の翔真に、睦月は、あ、と思った。
バイト代が出るまで、お財布ピンチで、お昼に飲みたいカフェラテも飲めない睦月が、コンビニに行って、一体何を買うつもりだったというのだろう。
口八丁の睦月にしては、少々うまくない言い訳だった。
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もうさようならの時間 (2)
一瞬にして睦月の嘘を見抜いた翔真は、自分が何気なく尋ねたことが、とんでもない爆弾だったことを悟り、何も気付かないふりで、話を終わらせようとした。
だって、睦月を見ていた亮の顔に、表情がなくなった。
亮も、睦月の嘘に気が付いたのだろう。そして昨日の夜、自分がバイトに行っている間、睦月が出掛けていたことを今知ったに違いない。
睦月の行動すべてを把握したいだなんて、馬鹿げた束縛をする男ではないが、嘘でごまかされても、何をしていたのか気にならないほど鈍感な男でもないのだ、亮は。
「ショウちゃん、タイミング悪かったねー」
なのに和衣は、のん気そうに、そんなことを言っている。
和衣の空気の読めない愚鈍な性格を、こんなにも羨ましく思ったのは、20年生きてきて今日が初めてかもしれない、と翔真は思った。
これくらい鈍感なら、今のこの気まずい雰囲気にだって、平気で耐えられるだろう(いや、和衣自身は何かに耐えている自覚などないのだろうが)。
「ねぇむっちゃん、ページ捲っていい?」
「えっ…」
「ん? ページ。先進んでいい?」
「あ、…………、…うん」
確かに、最初に爆弾を落としたのは、翔真だったかもしれない。
しかしその後、その被害を拡大させたのは間違いなく和衣だったのに、そんなことまるで気付いていないのか、手元の雑誌をパタパタさせている。
睦月は何とも言えない表情で亮と翔真を見た後、雑誌に視線を落とした。
…やはり、和衣の空気の読めなさは、少しも羨ましくない、と翔真は思った。
*****
土日を抜かすと、睦月と亮のバイトが重ならない日は木曜しかなく、それ以外は、必ずどちらかがバイトに行っているという状態だ。
それは睦月がバイトを始めたときからずっとそうだったから、今まで何も気に留めていなかったけれど、今日の翔真の話を聞いて、亮は少なからず気になり始めていた。
まさか睦月に限って、亮のいない間に何か疾しいことをしているとは思えないが、何もなければ、あんな下手くそな嘘でごまかす必要なんてないはずなのに。
元から束縛は、するのもされるのも好きじゃなくて、自分と一緒でないときの相手の行動を、すべて知り尽くしたいなんて思ったこともないし、思われたくもない。
それは、相手に関心がないわけではなくて、相手を信用しているから。
だから亮は、睦月が亮のバイト中にコンビニに行こうが、部屋にいようが、誰か他の人と一緒にいようが、それを追及する気はない。
なのになぜかショックを受けた気になるのは、やはり睦月が自分に嘘をついたからだろう。
いや、実際のところ、昨日の夜、睦月がコンビニに行ったというのが、嘘なのかどうかは分からない。
あのときの言い方や雰囲気から、嘘だろうなぁ、と亮が勝手に思っただけで、本当に睦月は言うとおり、翔真が部屋を訪れた時間、コンビニに行っていたのかもしれない。
しかしそれを確認しようにも、あの場は、さっぱり状況の分かっていない和衣によって、無理やり一段落させられてしまったので(もちろん、和衣はまったくの無自覚だが)、どうすることも出来ない。
直接睦月に聞き直そうにも、学校にいる間はみんなもいるし、バイトから帰って来た睦月は、『お風呂行ってくるねー』と部屋を出て行ってしまったし。
これで今さら聞くのは、完全にタイミングを外している。
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もうさようならの時間 (3)
亮が心の中でそう罵った相手は、もちろん和衣だ。
いや、和衣はまったく何にも悪くはないのだが、つい恨み言が心に浮かんだ。
「あ、亮、まだお風呂行ってないー」
亮がベッドでウダウダしていたら、睦月が風呂から戻ってきた。
全然普通。
もう、昼間のカフェテリアのことなんて、すっかり忘れているんだろうか。
「カズちゃんが、早くお風呂入っちゃいなさい、て」
「え、何それ、お母さん…?」
大した突っ込みでもないのに、睦月は「ひゃははは」と受けまくっている。
和衣と違って亮は長風呂ではないから(睦月ほどのカラスの行水でもないが)、時間ギリギリになっても、入りそびれるということは、そうないのだが。
「…風呂、行ってくる」
言われたとおり風呂に行こうと、亮がベッドを降りると、睦月は冷蔵庫に頭を突っ込んでいた。
何か飲み物を探しているのだろう。
「…むっちゃん、入ってるコーラ飲んでいいよ」
「ホント!?」
冷蔵庫の中を見てみたはいいけれど、中のペットボトル飲料はすべて亮のもので、睦月は若干愕然としていたのだが、亮にそう言われて、現金にも睦月は笑顔でパッと振り向いた。
「ありがと、亮~。バイト代出たら、コーラいっぱい買ったげるねっ」
「いや、それが無駄遣いだから。まぁとりあえず、ごちそうさま」
睦月の無邪気な笑顔に見送られ、亮は部屋を出た。
…こうして見ていると、やはり睦月に、亮に隠しておきたい疾しいことがあるようには思えなくて。
昼間のカフェテリアでの話は嘘ではなくて、昨日の夜は、お金ないけれど、ど~しても読みたいマンガがあったとか、ど~しても食べたいお菓子があったとか、そんなで、コンビニに行ったのかもしれない。
そのほうが、今、亮が風呂に行っている間に、密かに誰か他の想い人に例えばメールをしている…と考えるよりも自然だ、と亮は思った。
*****
しかし、亮の儚い期待を裏切るように、出来れば知りたくなかった、悲しい事実に気付いてしまった。
――――睦月はやはり、亮に内緒で、こっそりどこかに出掛けている。
それは翔真に指摘された日だけでなく、それと同じ曜日の同じくらいの時間と、亮がバイトに行っている別の曜日も。
2人ともがバイトを入れている火曜日は、授業が早く終わる日で、睦月たちはその後すぐにバイトだけれど、亮は睦月が帰って来てからバイトに行く。そんな日は、亮が出て行った後で出掛けているのだ。
いくら亮が睦月のことを信じていたくても、これはいよいよ怪しい。
週1でしかデートしない彼女の浮気だって、男はそれなりにちゃんと気付くんだから(それは女の子も同じだろうけど)、一緒に暮らしていて、毎日顔を合わせている相手のことなら、すぐに分かる。
睦月だって、亮に黙って出掛けることならいくらでもあるだろうし、それだけで浮気云々を疑う気は更々ないのだが、何にしても睦月は、こっそり出掛けている事実を、亮にひた隠しにしているのだ。
だからこそ、怪しいと思ってしまう。
疑いたくないけれど、睦月を信じ切れずにいる自分がいる。
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もうさようならの時間 (4)
今まで付き合ってきた女の子とは、そういうのに気付いてしまうと、気分が白けちゃって、何となく距離を置くようになり、最終的には別れてしまっていた。
相手を束縛する気はないけれど、浮気を許せるほどの寛大さも持ち合わせていないから。
なのに今は。
今、睦月に感じている思いは、かつての彼女に抱いた疑念と同じはずなのに、睦月と離れたいだなんて、少しも思わない。
睦月の気持ちが、他の誰かに移っているのだとしたら、奪い返してやりたい。
「ただいまー、お帰りー」
亮がキュッと唇を噛み締めたところで、部屋のドアが開き、睦月が風呂から戻って来た。
ちなみに睦月の『ただいまー、お帰りー』の『ただいま』は、自分が部屋に帰って来た挨拶で、『お帰り』は、自分が風呂に行っている間にバイトから帰って来た亮への挨拶だ。
20歳を過ぎてもこんなことを言っている睦月に、亮は思わず笑ってしまいそうになって、慌てて頬を引き締めた。笑っていられる気分ではないのだ。
なのに睦月はお構いなしに、話を続ける。
「あ、亮、亮ー。あのね、カズちゃんにね、亮バイトから帰ってたら、早くお風呂入れ、て言って、て頼まれた」
「いや、アイツ、どんだけ俺の風呂の心配したら気が済むの?」
気持ちは有り難いが、どうして同い年の男に、そこまで風呂の心配をされなければならないのだろう(亮は、ちゃんと毎日風呂に入っているのに)。
何だかすっごく微妙な気持ち。
「カズちゃん、ホントは亮と一緒にお風呂入りたいのかな? ゴメンね、いっつも俺が一緒に入っちゃって」
「いや、そんなことないから。別に一緒には入りたくないから」
風呂場で一緒になる分には別に構わないが、わざわざ誘い合ってまで、和衣と一緒に風呂なんか、入りたくはない。
冗談なのか、天然の本気なのかよく分からない睦月に突っ込みつつ、亮は部屋を出た――――ら。
「――――亮」
和衣が、自分の部屋の前にいた。
和衣は風呂上がりの格好をしているが、しかしまさか本気で亮を風呂に誘おうという気なのだろうか。
しかしそれにしても、機嫌のよさそうな顔ではない。むぅ~と唇を突き出している顔は、流行りのアヒル口というヤツだ(さすがに和衣でも、そんなもの意識していないだろうが)。
「ちょっと話あんだけど」
「何カズ。俺、風呂行きたいんだけど」
寮の廊下。
目の前に立ち塞がる和衣に、亮は嫌そうにそう言ったが、和衣はその場を退こうとしないし、亮が和衣をよけて先に進もうとしたら、和衣も同じほうに動いて行く手を阻んだ。
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