恋三昧

【18禁】 BL小説取り扱い中。苦手なかた、「BL」という言葉に聞き覚えのないかた、18歳未満のかたはご遠慮ください。

2008年05月

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10. その、あたたかさ (前編)


「何で追っ掛けてきたの?」
「和哉のこと、好きだから」
「冗談って言ったくせに」
「ゴメン」

 さっき改札であれだけ大騒ぎして、5分もしないうちにまた同じ駅に行くなんて恥ずかしいって和哉が言い張るから(俺はもう別にどうだって良かったけど)、向かったのは近くの公園。
 時間も時間だから、もう誰もいない。

「……ゴメン、知らなかったんだ、その、和哉が…」
「ゲイだってこと?」
「あ…」
「章ちゃんから、聞いたんでしょ? じゃなきゃ、追い掛けてくるわけないもんね?」
「…………あぁ。だから昨日、思わず言っちゃって、どうしようって…」

 でもそれが余計に和哉のこと傷付けるなんて、夢にも思わなくて。

「別に、いいけどね。俺だって別に、自分がゲイだってこと、言って歩いてるわけじゃないし」
「ゴメン」
「だから、謝んなくていいってば」
「昨日言ったの、冗談なんかじゃないから」
「余計タチ悪いよ。前に言ったでしょ? 俺、もう誰も好きにならないって。ましてやノン気の男なんて…………絶対、好きにならない」

 俺を見据えてそう言った後、和哉は俯いた。

「でも俺は本気で和哉のこと、好きなんだ」
「……みんなそう言うよ。お前のことが好きだって。でも結局、最後は女のほうがいいっつって、逃げられちゃうもん。ノン気と付き合ったって、絶対ロクなことない。もうヤなの!」
「俺はそんなことない!」
「嘘ばっか。女の子と、いっぱい遊んでるくせに」

 もどかしい。
 どうすればこの思いが和哉に伝わるんだろう。
 でも今までの自分のレンアイを指摘されれば、反論の余地はなくて。
 やっぱりもう…………ダメなのかな。

「目、覚ましたほうがいいよ、大樹。お前は女の子のほうが好きなんだって。だから俺とは友達でいよう?」

 ……………………。

「……いや、今さら友達は無理でしょ。俺、お前に告って振られちゃったんだぜ? なのにこれからも今までみたいに、"いいお友達"で、一緒に出掛けたり、メシ食いに行ったり…………そんなの出来ると思ってんの? つーか俺が無理」
「だって…」
「―――ゴメン、和哉のこと責めたいわけじゃないんだ」

 いつもいつも、うまくいく恋愛ばっかじゃないってこと、知ってる。
 ただ今までは、うまくいかなくたって、それほどまでに固執してなかっただけ。ダメならダメで、他を探してたから。
 ただ……和哉に会って、他の誰かじゃダメなんだってことに気付かされて。

「俺、和哉のことすげぇ好きだし、お前の願ってることなら何でも叶えてやりたいって思うけど…、こんな気持ち抱えて、これからも今までみたいに"友達"として和哉と会うのは無理だよ」
「……」


「―――――だから……ゴメン、もう会わないにしよ?」
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カテゴリー:恋のはじまり10のお題
テーマ:自作BL小説  ジャンル:小説・文学

10. その、あたたかさ (中編)


 ―――――もう会わないにしよ?

「…………ん、」

「ゴメンな、今まで振り回して、傷付けて…………ゴメン。でも俺、和哉と一緒にいれて、すげぇ幸せだった。…………ありがとう」
「…………ぅん…」

 俯いたままの、和哉のつむじを見つめて。
 あぁ……このまま時間が止まっちゃえばいいのにって思った。ずっとこのままでいれたらいいのに。

「……大樹、俺……も、帰る、ね?」
「うん。あ、送る!」

 反射的に俺は和哉の手を取った。

「いいよ、駅、すぐそこだし! 大丈夫だから!」

 俺、女の子じゃないし! って言われて、俺は掴んでいた和哉の手を離した。

「じゃあ、ね」
「……あぁ」

 和哉は背を向けて、歩き出す。
 段々とその背中が小さくなっていって。

 走ってって、あの背中を抱き締めて、やっぱり好きだって思いを伝えたい。

「ハッ…」

 あまりに女々しい思いに、自嘲する。
 もう、終わったんだ……。

 俺は足の力が抜けて、ベンチにドサリと身を投げる。
 項垂れて、頭を抱える。


 あぁ、まだこんなにも好きなのに。
 こんなにも胸が痛くて。



 いつかこの想いも、痛みも、繋いだ手のぬくもりも、みんな忘れてしまうんだろうか……。
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テーマ:自作BL小説  ジャンル:小説・文学

10. その、あたたかさ (後編)


 和哉と別れて1週間。
 別れて……ってか、別に付き合ってたわけじゃないけど。

 俺は仲村にその後のことを話してないし、和哉も話してないのか、仲村は何も言ってこない。もしかしたら、分かってて何も言ってこないのかもしれないけど、どっちでも良かった。

 和哉のこと忘れたくて、女でも抱いてみようかと思ったけど、何かむなしいからやめた。ダチから合コンのお誘いもあったけど、行かない。

 和哉がいなくなった世界は、あまりに陳腐で、色褪せていて、何もかもがどうでも良かった。 




 ♪~~~♪~~~♪

 頭と体が重くてベッドに転がっていたら、ローテーブルに投げ出していた携帯電話が音を立てた。
 悪いがとても電話に出る気分じゃなくて、そのまま放っておいたら、しばらくしてプツリと途切れた。でもすぐにまた掛かってきて。
 イライラする…。
 電源を切ってやろうと思って、ベッドを降りると、携帯の小さな液晶画面に表示されていたのは、和哉の名前。

「えっ!?」

 そういえば番号とか消すなんてこと、してなかったっけ。思い付きもしなかったっていうか。

「ぁ、ッ、と」

 慌てて出ようとして、でもそれより先に留守電になって、電話が切れる。今度は俺のほうから掛け直した。

「和哉!?」
『バカッ!』
「え?」

 何だ? 何でいきなりキレられてんの、俺。

『バ、カ……大樹のバカ……ヒック、何で…』
「どうし……おい、どうしたんだよ!?」

 電話口で泣いてる和哉。
 何で? 俺のせい?

『何で……何で、手、なんか掴んだんだよ、ック…』
「は? え? 何? 手がどうしたって?」
『も……大樹のこと、忘れてやろうって思ったのに……』
「和哉、分かんない。何で泣いてんの? 手がどうしたんだよ?」
『あのとき……大樹が、手…掴むから……ヒック…』

 あのとき?
 手を掴んだって…………あ。
 あの別れ際。
 送るって言って、思わず掴んでしまった和哉の手。もしかして、そのことを言ってるんだろうか。

「和哉、手がどうしたの?」

 泣きじゃくる子供をあやすように、和哉に声を掛ける。何度もしゃくり上げながら、和哉はまだ俺にバカバカ言ってる。

「和哉、」
『だって……だって、もう1週間も経つのにっ……まだ、消えないんだもん…ック……』
「消えないって、何が?」

 そんなに強く掴んだつもりはないけど……まさか、ケガしたとか!?

「かず…大丈夫なのか!?」
『も……無理。大樹が掴んだとこ……熱くて、』
「え?」
『ずっと……熱が消えない…。毎日、大樹のこと思い出して……もぉヤダよ……』

 え……それって…。

『俺…………やっぱ、大樹のこと―――――好きだ……』
「和哉…」
『好き……好きだよぉ…』
「……俺で、いいの? 俺、ゲイじゃなかったんだぜ? 和哉が絶対好きにならないって言った、ノン気の男なのに」
『それでもっ…………だって、好き、だしっ…! 離れてる間、1週間なのに……すごい苦しかったっ…』
「俺も、和哉に会えなくて……苦しかった…。―――愛してる」

 そう言うと、和哉は声を上げて泣き出してしまった。

『……そ…そんなこと言われたら、信じちゃうっ…!』
「信じろよ。信じて。俺は和哉のこと、愛してる」
『ふぇ…』
「和哉、愛してるから…………だから、今度はちゃんと恋愛しよう? 冗談なんかじゃなくて、友達でもなくて」
『…………うん』


 …………ようやく手に入れた、本気の恋。
 今度こそ、絶対に手放したりなんかしない。






*END*









 はぁ~…何とか終わりましたよ、このお話。
 いかがでしたでしょうか。
 気付けばもう5月。だらだら長々とすみません。

 拍手、コメント、ランクリしてくださったみなさん、ありがとうございました。
 大変励みになりました。

 今後も恋三昧、よろしくお願いします。
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カテゴリー:恋のはじまり10のお題
テーマ:自作BL小説  ジャンル:小説・文学

Don't kiss me, baby!


 拓海が2度寝から目覚めたとき、すでに悠也はベッドの中にはいなくて。
 寝癖の付いた頭を掻きながら洗面所に向かうと、上半身裸の悠也が、鏡とにらめっこ中。

(悠ちゃん、何真剣に、鏡覗き込んでんの…??)

 などとのん気なことを思いながら、その背後に近付くと、鏡に映る姿に拓海の存在を認めた悠也が振り向きざま、シュッ!! と自慢のこぶしを拓海の顔面に放った。

「ッ!! ………………えー……っと…」

 鼻先寸前。
 顔まで、後ほんの数ミリの距離にある悠也のこぶしに、両手を小さくホールドアップした状態で、拓海はたじろぐ。

「お、おはよう、悠ちゃん」

 とりあえず、挨拶はしないとね―――って、そんな状況じゃないし!!

「何、コレ」

 不機嫌そうに悠也は自分の胸を指差した。

「何って…………あ」

 視線を向けた先。
 悠也の鎖骨の上辺りに残る、赤い痕。間違いなく、夕べ、自分が付けた、

「どういうつもり? このキスマーク!」
「あー……ホラ、隠れる位置だしぃ」
「……言いたいことはそれだけ?」

 あ、脇締めて、こぶしを構え直して……ヤバイ。

「あ、あのー、あのですねぇ! あー……ごめんなさい!! つい、そのっ……」
「…………今度やったら、絶対許さないからね」

 ひたすらに頭を下げる拓海に、悠也は不機嫌そうに顔を歪ませたまま、一応の許しを出した。

「すみません……―――ゲッ」
「……何?」

 ホッとして顔を上げた拓海の上げた変な声に、悠也は訝しむような視線を向ける。

「な……何でもないです…」

 言えない…。
 絶対に言えない……。

(うっかり背中にもキスマークを付けてたなんて……!!)

 絶対に言えない!!
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カテゴリー:拓海×悠也
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sugay in honey (前編) R15


*ぬるいですが、そんな雰囲気を醸し出してますんで、R15てことで。15歳未満のかた、そういったものが苦手なかたは後遠慮ください。

 真琴がシャワーを浴び終えて髪を拭きながらリビングに戻ると、遥斗はスウェットパンツに上半身裸という格好のまま、ソファで携帯電話を弄っていた。

「はーちゃん」

 真琴はソファの後ろから、遥斗の背中に抱き付いた。

「どうしたの?」

 メールの送信を終えた遥斗は、携帯電話を放って、首元に擦り寄ってくる真琴の頭を撫でた。

「も、いいの? ケータイ」
「仕事のだよ」
「別に気にしてないし」

 気持ちを見透かされて、真琴は頬を膨らませる。遥斗は上体を反らせて、真琴の湿った髪に指を滑らせた。

「…ん、くすぐったいよ…」

 遥斗の手に引き寄せられるまま、真琴は顔を近づけ、キスをした。

「マコ、こっち来て」

 唇を離した真琴は、言われたとおりに遥斗の前に回って、ももを跨いで座った。

「重くない?」

 別に平気だって言ってるのに、真琴はいつもそう聞く。遥斗はキスすることで、それに答えた。

「はーちゃ…もっと…」

 鼻に掛かった甘い声でねだられて、遥斗は真琴の下唇を舐めてから、舌を滑り込ませた。

「ふ…ぅん…」

 キスに夢中になる真琴は、遥斗の頬を挟んでさらに深く繋がろうとする。遥斗もそれに応えて、真琴の柔らかな髪に指を絡ませる。
 角度を変えて、互いの唇を貪り合って。

「はーちゃん…好き…」

 唇を離すと、真琴はとろけた瞳で遥斗の首筋に顔をうずめた。

「ん…好きだよ…」

 真琴は舌先で遥斗の鎖骨をなぞった後、徐々に下へと下がっていく。

「くすぐったい…」

 真琴はクスクス笑いながら、辿り着いた遥斗の乳首にチュッとキスをした。

「…ッ、」

 さすがに遥斗もピクリと体を震わせた。それに気を良くしたのか、舌先でペロッと舐めて、いつも遥斗がしてくれるみたいに愛撫。

「マコ、」
「…ん、気持ち良くない?」
「くすぐったいって。いたずらしないの」
「やーだよ。もっといたずらしてやる」

 真琴は遥斗のももを降りて床にぺたんと座ると、遥斗の足の間にカラダを納めた。形の良いへそにキスをして、スウェットパンツのウエストに手を掛ける。

「あぅ」

 スウェットパンツを下ろそうとしたところで、遥斗のももが真琴の体を挟んで、それを阻止した。

「やぁん、はーちゃん」
「ダメだって。さっきしたでしょ?」
「イヤイヤ。まだするの」
「ダメ。明日学校早いんでしょ?」

 もう時間も時間だ。これからまたやったら、間違いなく明日に差し支えてしまう。

「むぅ~…」
「ホラ、こっちおいで」

 遥斗が自分の両ももを叩くから、真琴は仕方なくノロノロと先ほどと同じように、遥斗のももに跨った。
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カテゴリー:遥斗×真琴
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sugay in honey (後編) R18


*R18です。18歳未満のかた、苦手なかたはご遠慮ください。ぬるいけど……15禁じゃない気がする…。

「ホントにしないの?」

 艶を帯びた真琴の瞳。遥斗の喉が鳴る。真琴がそれに気付かないはずがない。

「はーちゃん…」

 真琴は遥斗の喉仏に小さく歯を立てた。

「マコ…」
「んんっ…!」

 遥斗は真琴の後ろ髪を掴んで顔を上げさせると、そのまま噛み付くようにキスをした。唇を合わせたまま真琴の体をまさぐってパンツの中に手を差し込むと、お尻の丸みを撫で、蕾へ指を這わす。

「すごいヒクヒクしてる…。これじゃ、我慢できるわけないよね」

 ニヤリと口の端を上げて遥斗は笑ったが、真琴はもう恥ずかしがっている余裕もなくて、「もっとぉ…」とさらにおねだりする。

「中、まだ熱いよ…。俺の指、飲み込んでく…」

 遥斗が指をさらに進めると、真琴の中はそれを逃がすまいとキュウキュウに締め付けてくる。
 遥斗はホントにこのまま真琴の中にぶち込んでやりたいような衝動に駆られたけれど、かろうじて理性を繋ぎ止めた。
 真琴の体をソファに倒して、中に指を入れたまま、真琴自身を口に含んだ。

「はーちゃ…あ、あぁんっ!」

 ビクンと真琴の体が跳ね上がる。

「や…イッちゃ…」
「イイよ、イキなよ」
「やぁ…はーちゃんのもする…」

 半ば意識の飛びかけた真琴が、それでも体を動かそうとするので、遥斗はいったん真琴を口から出して、自分から体を移動させた。
 狭いソファの上。
 自分が気を付けていないと、真琴もろとも床に落ちてしまう。

「ん…」

 真琴は快感に震えながら、熱く濡れた遥斗を口に含んだ。
 男として自慢できるかどうかは疑問だが、口でするのは好きだし、遥斗に気持ち良くなってほしくて、真琴は懸命に舌を這わせた。

「あ…、ん、んー…はーちゃっ…」

 限界が近いのか、とうとう真琴は泣き出してしまった。

「イッていいよ…俺ももうイキそう…」
「はーちゃ…~~~~っ…!」
「ッ…!」

 ドクリと熱い液体が互いの口の中に流れ込んでくる。
 遥斗は口の中に受け止めたそれをティシューに吐き出したが、ふと見れば、真琴はそれを口の中に溜めたまま、グッと眉を寄せていた。

「うぅ~~~…」

 がんばって飲み込もうとしている真琴に気が付いて、遥斗は慌てて体を起こした。

「ちょっマコ、無理しなくていいから!」

 遥斗は慌ててティシューを何枚か引き抜いて、真琴の口元に当ててやるが、真琴は首を振ってそれを拒否した。

「マコ、」

 そのうちに真琴の喉がゴクリと鳴って、ようやく真琴は口を開けた。

「はーちゃん…」
「無理して飲まなくてもいいんだよ?」
「いいの、俺がしたかったんだから。俺、はーちゃんの飲むの、好きだよ?」

 真琴は遥斗の口元に付いていた自分の精液を舌先で舐め取った。互いにまだ青臭い唇を寄せて、舌を絡ませる。

「ね、好きだよ…」

 遥斗の胸に顔をうずめ、囁くように真琴は呟いた。

「…ん、知ってる」
「遥斗は言ってくんないの?」
「好きに決まってる」

 クシャリと真琴の髪をかき混ぜ、そのまぶたに、頬に、そして唇にキスをして。

「愛してる…」

 このまま2人、とろけてしまいそう。
 甘い、カラダ。




*END*







 「恋のはじまり~」がやや切なめ+片思い話で、イチャイチャ・ベタベタしてるとこが書けなかったから、反動で…。
 マコちゃん、かわいいのぉ。
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カテゴリー:遥斗×真琴
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もう行かないと、不審に思われますよ。


「ん~…」←慶太をギュウゥ~~~
「ちょっ、相川さ……ね、もう行かないと…、教授に呼ばれてるんじゃ…」
「まだこうしてる」
「でも、もう行かないと、不審に思われますよ?」
「だってずっと会えなかったじゃん。俺、かなりの慶太不足だもん。補給しないとがんばれない!」
「ッ… (そんなこと、普通に言わないでよ…照れるっ…!!)」
「慶太、好き」
「…………俺も、好…」

「高遠ー、トモ、いたー?」

 ビクッ。

「いない。ったく、教授に呼ばれてんのに、何してんだ、アイツ」
「トモー?」

「………………」
「……チッ、…アイツら…」
「………………」
「………………」

 ちゅっ。

「、」
「じゃ、慶太、また後でね?」
「ッ… (コクリ)」

 バタバタバタ…。

「………… (好き、て言いそびれちゃった…)」





 慶タン、一応20歳なんだけどな…。

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ラビューラビュー (前編)


「……拓海、顔に締まりがなくなってる」

 その声にハッとして顔を上げると、鏡越しに、ものすごーく呆れた顔をした高遠と目が合った。
 視線を鏡の中の高遠から自分へと移すと、確かにそこには緩みきった表情をした俺がいて。

「だってさぁ、高遠、聞いてよ」
「ヤダ」
「えっ!? ちょっ…ねぇねぇ、聞いてよ!」

 あっさりきっぱり断られて、俺は昔の芸人さんみたいにガクッとこける真似をする。

「聞かなくても分かる。今日悠ちゃんとかって恋人に会うんだろ?」
「そうなんだよ、もうさ、2週間ぶりなわけ。悠ちゃんと会うの」

 煮詰まってたレポートが、何とか完成して、さっき教授に提出してきて。
 ようやくこの地獄のように日々から、解放されるってわけ。

「あっそ。良かったね」
「あっ、冷たいなー高遠。いつの間にそんな冷たい人になっちゃったんだろ。俺の知ってる高遠は優し~い人だったのに」
「良かったじゃん、知らない俺の一面が見れて。つーか、お前のほうがキャラ違ぇよ」

 人の揚げ足を取ることに生きがいを感じてる高遠にしては、あっさり話を終わらせようとし過ぎな気がする。

「あ」

 もしかして。

「彼女とケンカでもしたとか?」
「………………」

 あ、図星だ。
 基本的に、誰に対しても無敵な高遠だけど、どうも彼女には頭が上がらない部分があるらしい(でも、俺が見た限りじゃ、おとなしくてかわいい感じの女の子なんだけど)。

「…………で、言いたいことはそれだけ?」
「あ…」

 ものすごく苛付いた高遠の声に、しまった、と思ってももう遅い。
 あとで何倍返しにされることやら、なんて思って焦ってたら、ちょうどいいタイミングいで携帯電話が音を立てた。

「あ、ちょっ…電話、電話鳴ったから!」
「……あっそ。勝手にすれば」

 低い声でそう言い捨てて、高遠は出ていった。
 怖い…。

 って、電話!

「あ、悠ちゃんからだ」

 カバンから出した携帯電話の液晶画面には、愛しい恋人の名前。

『遅いっ!』

 慌てて掴み損なった電話に急いで出ると、ものすごぉ~っく機嫌の悪い悠ちゃんの声。

「ゴメン、今終わって帰るとこなんだ」
『今、どこだよ』
「どこって、学校…」
『はぁ!? まだそんなとこいんの!?』

 いや、だって、今終わったとこって言ったよね? 最初に。

『早く来てよぉ! もう待ちくたびれた!』
「すぐ行くよ、ゴメン!」

 電話越しに謝りながら、俺はバタバタと教室を出る。幸い廊下には誰もいなかったので、そのまま電話を続ける。

『ホントにすぐ来る?』
「行くって。だからもうちょっと待ってて?」
『じゃ、今すぐ来て。5分以内』
「はい!?」

 えっとー…俺の聞き間違いじゃないよね? 間違いなく『5分以内』って言ったよね? 悠ちゃん。

「あ、あのさ、5分って、あの…」
『5分経ったら帰るから』
「え? え?」

 何これ。何の仕打ち? 俺が何したっての?
 どんなにがんばったって、学校から俺んちまで5分でなんか行けるわけがない。しかも今日に限ってバイクもないし。

 でもしょうがない、かわいい悠ちゃんちゃんのためだ。

「絶対行くから! チクショー、待ってろよ!」
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カテゴリー:拓海×悠也
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ラビューラビュー (後編)


 何か見えない力が働いてるとしか思えない…。
 駅に行ったら、何か事故で電車が止まってるとか言い出して。しばらく待ってみたけど、復旧のめどが立たなくて、別の線に乗り換えて何とか家に着いたけど………………約束の時間を2時間も過ぎてたわけで。

「ただいまー…」

 『5分以内』なんて言ったのはやっぱ冗談で、ドアを開けたら悠ちゃんがかわいくお出迎えしてくれるかなぁー……なーんて思いは甘すぎたみたいで。
 玄関もリビングも真っ暗。人の気配もなし。

「おいおい、マジで帰ったのか…?」

 5分は無理だとしても、やっぱ2時間はちょっと時間がかかり過ぎたか…。
 盛大に溜め息をついた後、適当に壁を殴ってリビングの明かりをつける―――直後。

「うおぅっ!!」

 素でビビって、思わず飛び上がった。心臓、バクバクいってるよ。

「ゆ…悠ちゃん…?」

 リビングのソファの上にいたのは、紛れもなく、5分以内に来なきゃ帰ると言っていた悠ちゃんで。
 しかもめちゃくちゃ気持ち良さそうな顔して眠ってる…。

 1度寝てしまった悠ちゃんがちょっとやそっとじゃ起きないことは、よく知っているし、経験上、無理に起こせばさらに機嫌が悪くなることもよく心得ている。
 2人で過ごす時間が少なくなるのは残念だけど、しょうがない、今日はもう起こすのは諦めるか。

「ん?」

 眠ってる悠ちゃんをベッドに連れて行こうとしたとき、ふと気が付いた。
 悠ちゃんの左手。
 しっかり携帯電話が握られてる。

「ん…、…たくみ…?」

 かすかに悠ちゃんのまつげが動く。寝言? それとも起きた?

「ただいま。遅くなってゴメンね」
「…ぉそいよぉ…」

 まだ頭が半分眠ってるみたいで、目を閉じたまま、けれど悠ちゃんの右手がしっかりと俺のシャツを掴む。

「ゴメン」
「ん…。でも…待ってたよ、拓海…絶対行くって、ゆったから…」
「うん、絶対行くよ」

 悠ちゃんが待っててくれるなら、いつだって。どこにだって、ね。
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pray (1)


 じゃ、今度のはーちゃんの誕生日、絶対一緒に過ごそうね?



 うん。



 約束だよ?



 はいはい。



 絶対ね。



 分かったって、マコ。約束する。







 約束―――……。
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pray (2)


side:遥斗

 事の発端は些細なことだった。
 お互い、少し心にゆとりがなかっただけのことかもしれない。



 真琴と食事の約束をしていた遥斗は、時間どおりに終わりそうもない仕事に少し焦っていた。
 真琴の授業は、もうとっくに終わっているはずで。それに対して自分の仕事は……一向に終わる気配を見せない。

 多少時間が押すかもとは言っておいたが、あまり長引くようなら真琴に連絡をしたい。
 しかしちょっとした休憩の時間にも打ち合わせが行われ、真琴に連絡が取れないまま仕事が終わったのは、約束の時間を3時間もオーバーしてからだった。

 やっと終わって真琴に謝罪の連絡をしようとしたところに、スタッフがやって来て、打ち合わせエトセトラ、エトセトラ。
 ようやく解放されたと遥斗が安堵したのも束の間、今度は会社のお偉方に食事に誘われてしまった。断るに断り切れず、遥斗はそれについていく羽目になってしまったのだ。


 そのことを伝えようと電話をした途端、ヒステリックな真琴の声が電話越しに響いてきた。

『だったら何でもっと早く電話してくれなかったの!? 俺、ずっと待ってたんだよ!?』
「だからゴメン! ホントにゴメン!」

 こればかりは遥斗が謝るしかない。急かされた遥斗は、とにかく仕事で断りきれないのだと何度も言い訳して電話を切った。
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pray (3)


 食事を終えた遥斗は、急いで真琴に電話を掛けた。きっと傷ついて、1人で拗ねているに違いない。いや、悪くしたら泣いているかも…。

 本当は電話よりも先に会いに行きたかったけれど、すでに日付も変わった時刻。
 1人暮らしの自分ならまだしも、家族と同居している真琴の家に行くのは憚られて、先に携帯電話を手にした。

 もしかしたら出てくれないかも……という遥斗の不安とは裏腹に、1コールで電話は繋がった。

「あ、もしもし、マコ!? あの、」
『……謝るつもりで掛けてきたの? それともこれからご飯食べに行くの?』

 強気な口調とは裏腹に、声には涙が混じっていて、遥斗の胸が痛む。

「……謝ろうと…」
『…』
「ゴメン、マコ」
『……仕事…遅れるなら、電話ぐらいしてくれればいいのに…』
「ゴメン」
『俺、ずっと待ってたのに。仕事、押すとは思ってたけど…でも、終わったらすぐ来てくれると思った』
「ゴメン、どうしても断れなくて…」

 どうしようもない自分の言い訳に、遥斗は自身に腹が立ってくる。
 恋人同士とはいっても、互いに忙しくて一緒にいられない日が続いていたから、真琴が今日の夜をとても楽しみにしていたことも分かっていたのに。

『無理なら最初から約束なんかしないでよっ…』
「そうじゃない、ホントに会いたかったんだ!」
『でも無理だったじゃん!』

 そう声を荒げた後、真琴は大きくしゃくり上げて。
 必死に涙を堪えているのが分かる。

「だからそれは仕事で…」
『俺はどうでも良かったの?』
「そうじゃない、何でそんなこと言うんだよ!」
『だってそうじゃん! どうでもいいから全然連絡もしないで、そんで俺のことほっといてご飯食べに行ったんでしょ!?』
「だから仕事でしょうがなかったんだって!」

 逆ギレなんて、最低だ。
 心の中の冷静な自分がそう言っているのに、遥斗はそれに耳を傾けようともせずに、声を荒げた。
 真琴なら仕事のことだって分かってくれると、どこかで甘えていたのかもしれない。

『もういいよっ! はーちゃんのバカ!!』
「もういいって、何だよ! 話をっ…」

 分かってもらえないもどかしさに、遥斗もつい声を大きくしてしまう。

『もう知らない!』
「ちょっ…」

 慌てる遥斗をよそに、ブチッと電話が切れる。
 その後、何度掛け直しても電話は繋がらなくて

「はぁ~…」

 謝るつもりだったのに、結局真琴を余計に怒らせて、挙げ句の果てに着信まで拒否されて。
 遥斗は深い溜め息をついて、項垂れた。
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カテゴリー:遥斗×真琴
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pray (4)


side:真琴

 もう何度目になるか分からない真琴の溜め息に、拓海は読んでいた雑誌を閉じた。
 久々に真琴が遊びに来た休日。
 以前はしょっちゅう遊びに来ていたのだけれど、拓海に恋人が出来てからは、気を遣ってか、殆ど来なくなっていた。

「真琴、少し疲れてる?」
「―――え…?」

 声を掛けられて、初めてそこに拓海がいることに気が付いたように、真琴はゆっくりと拓海のほうを見た。

「何か考え込みすぎて、寝てないんじゃない?」
「…大丈夫」

 ―――遥斗くんとケンカした?

 拓海は心当たりのある原因を聞こうとしたけれど、しかし言い出せなかった。真琴が拓海のいるソファに腰を下ろし、甘えるように膝枕をしてきたから。
 こんなところを悠也に見られたら、どれほど怒られるか分かったものではないが。

「へへっ」

 拓海を見上げてきた真琴は、悪戯っ子のような笑顔で笑っていて、いつもの真琴に戻っていた。
 ……というより、いつもどおりに振舞って、先ほどまでの話に終止符を打とうとしているのが分かって、拓海は何も言えなくなってしまったのだ。

「少しだけだよ」

 そして自分もいつもどおりに真琴を甘やかす。
 いつもどおりに。

「……拓海…」
「ん?」

 名前を呼ばれて真琴を見ると、目を閉じていた真琴は「ゴメン、やっぱいい」と首を横に振った。

「そう?」

 拓海はそれ以上聞き返さずに、雑誌を広げた。
 様子がおかしいことを分かっていながら、そっとしておいてくれる拓海が有り難かった。今はとにかく自己嫌悪でいっぱいで、うまく話せそうもない。

 あの日、どうして遥斗にあんなことをしてしまったのか。それだけが真琴の頭の中を、嫌と言うほど繰り返している。

 遥斗の仕事が押すなんてこと、ざらにあるし、そんなこと承知で付き合っている。
 それにほかのスタッフに誘われたのならまだしも、会社の偉い人に食事に誘われて、次に仕事もないのに、断るなんてそう出来ることじゃない。

 分かってる。
 分かってるのに。
 でも、遥斗を責めた。

 深夜。
 疲れているのにわざわざ謝罪の電話をくれた遥斗を、ひどい言葉で責めて、電話を切った。
 その後、何度も掛け直してくれたのに、出なかった。
 しなくてもいいケンカをして、そしてまだ、仲直りも出来ていない。

「もうすぐ遥斗くん、誕生日だね」

 不意に漏らした拓海の言葉に、真琴はギョッとして顔を上げた。

「それまでに仲直りしないとな」

 優しく頭を撫でる拓海に、真琴は不覚にも涙を零しそうになった。

「……分かってる…」
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pray (5)


 遥斗の誕生日、当日。
 にもかかわらず遥斗は仕事が入っていて、家には不在だ。両手いっぱいの荷物を地面に下ろすと、真琴はニンマリと笑って鍵を取り出した。

「へへっ」

 小さなキーホルダーの付いたそれは、真琴の誕生日に遥斗から貰ったプレゼント。この部屋の合鍵だ。
 実はずっと使おうと思っていたけれど、なかなか勇気が出せなくて、1度も使ったことがなかった。

 結局、遥斗と仲直りが出来なくて誕生日が来てしまったけれど、この日をきっかけに謝ろうと真琴は考えたのだ。
 でも手ぶらで誕生日を祝うわけにはいかない。
 ただプレゼントを渡すのも何だし……と真琴が考えたのが、手料理。
 破滅的と表現されるほどの料理ベタな真琴だが、お母さんから自分にでも出来る簡単レシピを教えてもらい、この日のために密かに練習もしてきた。

 そして初めて合鍵で部屋に入り、料理を作って遥斗の帰りを待つ、それが真琴の考えた仲直りの作戦だ(弟からは絆創膏を一箱貰ったけれど)。

(ケンカはしたけど……約束は約束だもんね)

 真琴の誕生日、合鍵という思い掛けないプレゼントを貰って、泣き出しそうなくらい嬉しかったから。
 真琴は遥斗の誕生日にも、同じようにプレゼントしたいと思って親に話したら、「遥斗くんなら」と、合鍵を渡すのを許してくれた。
 そして遥斗の誕生日、一緒に過ごしたいと言ったら、ちゃんと約束もしてくれて、舞い上がるような気持ちだった。

「よっし。そろそろ始めなくちゃ!」

 腕まくりをして、持参したエプロンを着けて、気合は十分だ。
 さすがにケーキまでは作れないので店で買ってきたが、小さなバースデーケーキには『HAPPY BIRTHDAY』のチョコレートプレートも付いている。それを冷蔵庫にしまうと、真琴は材料をキッチンカウンターにバラバラと広げた。

 お母さんに習ったレシピを書いた紙も、練習のたびに調味料やらを零していたせいで、もうボロボロになっている。
 それを真剣な表情で見ながら、真琴は危なっかしい手つきで、野菜を切り始めた。




*****

 真琴が調理を始めて数時間、ようやくテーブルの上には料理らしきものが並び始めた。

「10時半か…。何とか間に合ったかな」

 料理に使った鍋やボウルを片付けた真琴は、大げさに息をついて椅子に座った。
 決して大絶賛するほどの出来栄えではないが、なかなかのものだと思う。味見をしてもまずくはなかったし。

 後は遥斗が帰ってくるのを待つだけだ。いくら仕事が押したとしても、明日は仕事があるし、真琴が起きているうちには帰ってくるだろう。
 ……この際、多少日にちが過ぎてしまっても目を瞑ろう。

 真琴は料理を並べた席に腰を下ろすと、家主の帰りをじっと待った。
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pray (6)


 待って、待って、待って。
 本当に日付けが変わってしまう…と焦りを覚えるくらいまで待って――――11時50分。
 11時を過ぎたあたりから、時計をジッと気にしてはいたが、あと5分、あと5分待とうとしているうちに、12時まであと10分を切ってしまった。

「まだ、終わんないのかな…」

 もし間に合わないのなら、せめて今日中に『おめでとう』くらい言っておきたい。たとえ留守電だったとしても。
 真琴はカバンから携帯電話を取り出し、リダイヤルの中から遥斗の番号を表示させた。
 もしまだ仕事中だとしたら留守電になるだろうから、仕事の邪魔にはなったりはしないだろう。
 大きく息をついて、遥斗に電話を掛けると、しかし予想外にも、電話はすぐに繋がった。

『―――もしもし?』

 ガヤガヤとざわついた電話の向こう。何となく仕事現場の雰囲気とは違うことに真琴は気が付いていた。

「あ、あの、ゴメン、今大丈夫?」
『平気だけど…』
「あの、あのね、」

 まずは先日のことを謝ったほうがいいのか、やはり誕生日を祝ってやるのが先か、それとも今どこにいるのか尋ねるべきか、真琴が逡巡していると、

『遥斗くーん、何してるのー?』

 受話器越しに聞こえる酔っ払った女の声。それに遥斗が『すいません、ちょっと』と答えている。

『どうしたの? マコ』

 その声に急かされたせいか、遥斗は慌てたように真琴に用件を求める。

「ゴメン、忙しい?」
『あ、いや…ホラ、今日俺、誕生日だから…。そしたらスタッフさんとか、他のモデルの人とかが祝ってくれて、今』
「―――そ…なんだ」

 スゥーッと、心の中が冷たいような、それでいて熱く重たいような感覚になっていく。それは一瞬のうちに全身に広がっていって。

『マコ?』
「あの…誕生日、おめでと…、一応、今日中に言っとこうかと思って…」
『あぁ、ありがとう』

 みんなに、祝ってもらってるんだ。
 よくあることだよね。はーちゃん、人気あるし。そういう現場で誕生日だって分かれば、祝おうってなるよね。

「……ゴメン」

 分かってるよ。仕事のことだし、はーちゃんの誕生日なんだし、抜けられるわけないよね。分かってたよ。

「ゴメンね…」

 バカみたい、泣いてるなんて。分かってたのに。

『マコ?』

 これ以上遥斗の声を聞いていたら泣き出してしまう。もうこれ以上、遥斗のことを困らせたくはなかった。

「ゴメン…」

 真琴は遥斗が何か喋ろうとしていたのが分かったけれど、もう1度謝ると、一方的に電話を切った。

「―――ヒック…」

 涙でぼやけた視界に稚拙な手料理が並んでいて、それがどうしようもなくおかしかった。
 こんなもので遥斗の誕生日を祝おうとしていた自分が最高におかしくて、惨めで、誰もいない部屋で、真琴は声を殺して泣いた。
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pray (7)


side:遥斗

 様子のおかしい真琴の電話に遥斗は、だいぶ酔いが回ってきて何の会だか分からなくなりつつある自分の誕生日を祝う会を、こっそりと抜け出した。

 真琴の家に向かうべきか、それとも自分の家に行くべきか、散々迷った挙げ句、遥斗は自分のマンションの住所をタクシーの運転手に告げた。

 もしかしたら、という思うが遥斗には1つだけあった。
 誕生日は一緒に過ごそうと約束していたのだ。
 しかしその直前にケンカをして、仲直りも出来ないまま当日を迎えてしまい、そんな約束、うやむやになってしまったものだと思い込んでいたけれど。



 運転手に1万円札を押し付けてタクシーを降りると、遥斗は急いで自分の部屋に向かった。
 かすかな希望を持って開けたドアの向こうは、漆黒の世界だった。
 焦る指先で玄関の電気を点け、リビングに進むが、そこも真っ暗で人の気配はない。

 やはり真琴は来ていなかったか……そう思って覗いた台所で、遥斗は妙な違和感を覚えた。
 どこか雑然としたそこは、朝出掛けていくときと、何となく違う気がする。

「…、」

 出した覚えのない食器が水切りカゴの中に入っていて、ゴミ箱の中に作った覚えのない料理の残骸があるのを目にした瞬間、遥斗はようやく事の次第を悟った。

「マコっ…」

 確かに真琴はいたのだ。約束どおり、この部屋に。
 1人で遥斗を待っていたのだ。

「何してんだ、俺は…!」

 自分のバカさ加減に、呆れてしまう。これではあのときと同じだ。また、真琴のことを傷付けてしまった。
 遥斗は真琴に連絡を取ろうと、カバンの中の携帯電話を取り出そうとした。

「…ぇ、」

 そのとき、テーブルの隅できらめいたそれに、思わず手が止まった。
 安っぽい、小さなキーホルダー。ただ鍵を渡すのが恥ずかしくて、そんな飾りをつけて渡した、この家の合鍵。
 丁寧にテーブルに置かれたそれは、単に忘れて帰ったわけではないことを主張しているようで。
 遥斗はそれを握り締めると、急いで真琴に電話を掛けた。


 ―――しかし、何度かのコールの後、電話は無情にも留守番電話に切り替わった。
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pray (8)


 あれから何度か真琴に電話を掛けて、そのたびに留守電の女の声を聞いて、ようやく朝が来て、しかし遥斗はまだ気持ちを仕事モードに切り替えられなかった。

「どうしたの、その顔」

 現場に到着すれば、メイク担当のアキが、開口一番、そう言った。

「寝不足?」
「あー…まぁ、」

 遥斗は曖昧に言葉を濁した。
 今朝、鏡を見たとき、自分でも思ったことだ。

「遥斗くん、いつも自己管理しっかりしてるから、あんま何も言わないけど、今日はひどいわよ? 目の下もクマが出来てるし」
「メイクで、ごまかせそう?」
「プロですから」

 アキの言葉に、余計に自己嫌悪が増した。



*****

 あまりにひどい天候のせいで、撮影が中止になったことは、遥斗にとっては幸いなことだった。
 この時間なら、真琴はまだ大学にいる。
 アキには早く帰って寝ろと言われたが、真琴と会って話すまでは、そんなことも出来そうになかった。


 大学の来客用の駐車場に車を停めて、校内に入ろうとしたとき、見覚えのある顔が出てきた。
 拓海とその隣には、友人らしい男性。

「あれ、遥斗くん」

 拓海も遥斗の存在に気が付いたらしく、向こうから声を掛けてきた。

「どうしたの? 何? 真琴のお迎え?」
「あー…えっと、まぁ…。一緒じゃないの?」

 学年が違うから、とっている授業も違って、同じ時間には帰らないのかもしれない。
 それでも遥斗は、今頼れるのは拓海しかいないと、尋ねてみた。

「真琴? アイツ、もう帰ったんじゃね?」

 そう言ったのは、拓海の隣、智紀だった。
 拓海も遥斗も、何でそんなこと知ってるの? という顔で、智紀のことを見た。

「慶太からメール来たんだよ。真琴送ってくから、一緒に帰れないって」
「送ってくって? あー…何か最近、疲れてる感じだったしね、真琴。何、遥斗くん、まだ仲直りしてないの?」
「え、」

 まさか真琴から何か聞いているのだろうか。
 そう思ったが、拓海は、「そんな雰囲気だったから」と、言葉を続けた。

「真琴って能天気なくせに、ときどき考え込みすぎちゃうことあるからさぁ。ケンカしたとかは言ってなかったけど、真琴があれだけ落ち込むって、アンタが絡んだときくらいっしょ?」

 拓海の言葉に、何も言い返せなかった。
 自分では、真琴のことを1番に分かっているつもりだったけれど、これでは拓海のほうがよっぽど理解している。

「大丈夫、ちゃんとするから…」
「あっそ。頼んだからね」

 もうそれ以上は何も言わず、拓海は智紀と一緒に帰っていった。

「大丈夫……大丈夫、か…」
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pray (9)


side:真琴

 ―――逃げてる。

 あれから遥斗が何度も電話をくれたのに、怖くて、それに出ることも出来ずに逃げてしまった。

 一方的に電話を切って、相手からの電話には出ない。この間と同じだ。
 このことで、遥斗はきっと呆れ果てただろう。
 話を聞こうともせず、逃げ出した自分に。

(もう、ダメなのかもしれない…)




*****

「お前、どうしたの、その顔」

 隣に座った慶太の言葉に、真琴は首を傾げた。

「俺、変な顔してる?」
「変な顔じゃなくて、顔色! 白いぞ」
「…………、……えーっと、美白中?」
「そんなつまんない冗談言う暇があったら、帰って寝ろよ」

 本気で心配そうな顔をする慶太に、これ以上ごまかしはきかないと思って、真琴は「…そうする」と席を立った。

「送ろうか?」
「え、いいよ。慶太、授業出なよ」
「お前、フラフラしてるから!」

 慶太に無理やり手を取られて、真琴は教室を出た。

「いいの? 智紀さんと一緒に帰る約束してたんでしょ?」
「でも、具合の悪いヤツ、ほっとけないし。後でメールする。言って分かんないような人じゃないし」
「……ありがと」

 いつもは智紀の話をすれば照れてばかりの慶太だが、何だかんだですごくうまくいっているのが分かって、羨ましかった。

「すげぇ天気…」

 渡り廊下の向こうに見える外の天気は、嵐。
 まるで今の2人の中のように思えて、真琴は少し自嘲した。
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pray (10)


 いつもよりずっと早い時間に家に帰ってくれば、家族はみんな留守で、真琴は少しホッとして部屋に上がった。
 親や、特に心配症の兄には、こんなこと知られたくない。

「はーちゃん…」

 真琴はベッドに伏したまま、零れ落ちそうになる涙をグッと堪えた。

 もう本当にダメになるかもしれない。
 本気でそう思った。
 今まで何度かケンカはして来たけれど、ここまでこじれたことはなかったから。

(でも、全部俺のせいだ…)

 遥斗には遥斗の事情があるのに。
 学生の自分より、ずっと忙しいところ、いろいろ都合をつけて会いに来てくれるのに。
 わがままを言うのは、いつも自分で。

(こんなヤツ、嫌いにならないほうがおかしいよ…)

 普段ならプラス思考に持って行ける真琴だけれど、今回ばかりは完全に落ちてしまって、悪いほうにしか考えられない。

 何度も掛けてくれた電話に出れないのは、決定的な言葉を言われるかもしれないという恐れから。
 もし遥斗から別れを告げられたら、きっともう、立ち直ることなんて出来ないから。
 逃げだとは思っても、それを避けることしか出来ない、卑怯な自分。

 もしかしたら、もう愛想を尽かして、それっきりになってしまうかもしれない。

「ふぇ…」

 とうとう涙が零れ落ちて、枕に染み込んだ。
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pray (11)


 ―――ピンポーン…。

 不意に鳴ったインターフォンに、真琴はビクリと肩を竦ませた。
 時間を確認すると、仕事に行っている親や兄が帰ってくる時間ではないし、部活で遅くなる弟でもない。第一、家族なら勝手に鍵を開けて入ってくるはずだ。
 だとしたら、何かのセールスか、宅配便か。
 こんな顔で出れるわけもないのだからと、真琴は居留守を決め込んだ。どうせ普段なら、本当に留守の家なのだ。

 そのうち、何度か鳴っていたインターフォンを途切れ、どうやら訪問者は帰っていったようだ。
 しかし真琴がホッとしたのも束の間、今度はマナーモードになっていた携帯電話が震え出した。

「何、もぉ…」

 もしかしたら、さっき別れた慶太が心配して掛けてきたのだろうか。
 真琴は重い頭を起こして、携帯電話に手を伸ばした。

「―――え…」

 携帯電話の背面ディスプレイに表示された名前に、真琴の思考回路は一瞬、停止してしまう。

「はーちゃ、ん…?」

 そこには今一番会いたくて、でも会いたくない、いとしい人の名前。

「何で…?」

 呆然としていると、電話は留守電に切り替わって、そして切れた。
 もしかしてインターフォンを鳴らしていたのも、遥斗だったのだろうか。真琴は携帯電話を手にしたまま、フラフラとベッドを降りて玄関に向かった。

 再び震え出す携帯電話。表示は同じく"小沢遥斗"。
 モニターで外の様子を窺うと、そこには寒そうに肩を竦めた遥斗が携帯電話を耳に当てて立っているではないか。
 こんな天気の中、わざわざ自分に会いに来てくれたのだろうか。

「はーちゃん…」

 真琴は震え出しそうになる手でドアチェーンを外すと、ゆっくりとドアを開けた。
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pray (12)


side:遥斗

「マコ…」

 留守電になってしまった電話を切ったところで、目の前のドアは開き、中からはいないと思っていた真琴が登場した。

「はーちゃん…どうし…」
「マコに謝ろうと思って…。学校に行ったら、拓海に会って、もう帰ったって言うから…」
「そんな…だって、だって…ック」

 悪いのは自分だと言おうとして、しかし今まで堪えていた涙が溢れ、言葉に詰まってしまった。

 冷たい雨の混じった強い風が吹き付けてくる。
 車は家のすぐそばに停めたはずなのに、遥斗の髪も服ももうすっかり濡れていることに気が付いて、真琴は慌てて遥斗を家に上げた。

「は…ちゃん…、はーちゃん、ゴメンなさい、ゴメンなさ…うぅ…」
「謝るのは俺のほうだよ」

 遥斗は泣きじゃくる真琴を抱き締めた。

「約束破ってゴメン。ずっと待っててくれたのに」
「ちが…俺が、俺がはーちゃんのこと困らせ…ック、うぅ…」
「マコ、もう泣かないで。愛してる…」
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pray (13)


「やっぱ、ちょっと目腫れちゃったね…」

 濡れたタオルを外した真琴の顔を見て、遥斗は困ったように言った。

「明日には戻るよ」

 泣き濡れた顔をまじまじと見られ、真琴は少し顔を赤くして俯いた。遥斗はそんな真琴のまぶたにキスを落とす。

「あ、そうだ。これ、ありがとう」
「あ…」

 遥斗が見せたのは、小さなケーキボックス。昨日、遥斗の家の冷蔵庫に置いたままにしてきたものだった。

「あ、あの、ゴメン、勝手に…」
「何で謝るの? いいんだよ、合鍵渡してあるでしょ?」
「でも…」
「はい、これ。忘れもの」

 そう言って遥斗は、真琴の手の中に何か押し込めた。

「え?」

 真琴は手の中からはみ出た見覚えのある小さなキーホルダーに、慌てて中のものを確認する。

「これ…」

 間違いない。昨日、遥斗の家に置いてきた合鍵。

「どうして…」
「だって、それはマコのものでしょ?」
「はーちゃ、ん…ふぇ…」

 再び涙を瞳いっぱいに浮かべる真琴に、遥斗は優しく笑いかけながら、そっとそれを拭ってやった。

「1日遅れだけど…ケーキ食べよっか?」
「…ん。あっ待って、はーちゃん!」

 箱を開けようとした遥斗を呼び止め、真琴はいそいそと引き出しの中から何か取り出した。

「ん?」
「あ…あのさ、これ…」

 先に付いているのは、似たようなキーホルダー。真琴は恥ずかしそうに遥斗を見た。

「誕生日、プレゼント…。俺、貰ったときすごい嬉しくて、あの…だからね、」

 焦りと気恥ずかしさで、何を言いたかったのか分からなくなってきて、真琴は押し付けるようにそれを遥斗に渡した。

「ここの…合鍵…、あの、その、いらないなら別に、あの…」
「え、俺が貰っていいの?」

 耳まで赤くなった真琴が、無言のまま何度もコクコクと頷く。もう言葉が出てこなくなったのだろう。

「俺、マコみたいに遠慮しないで、毎晩来ちゃうかもよ?」
「い…いいよ!」

 最高に男前の顔でそう言われて、真琴は何度も見ているはずなのに、今さらながら、顔を赤くした。

「ありがとう、最高に嬉しい」

 顔を赤くしたままの真琴を抱き締める。
 その優しいぬくもりに、真琴はそっと目を閉じた。






*END*
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高校生男子 INDEX


attention!!
 基本的に「高校生男子」はエロ前提で書いてます。エロを書きたいがための「高校生男子」ですので、18歳未満のかた、そういった表現が苦手なかたはご遠慮ください。

↑OLD ↓NEW

■裏的生徒と教師 (教師ver.) (tittle:モノクロメルヘンさま) : 先生×生徒
 1. 「特別に個別授業をしてやるよ」 (前編) (後編)
 2. 「先生に逆らうんだ?」 (前編) (後編)
 3. 「たっぷり教えてやるよ。体にな」 (前編) (中編) (後編)
 4. 「自分でやらなきゃわからないだろ?」 (前編) (後編)
 5. 「理解できたか? 淫乱ちゃん」 (前編) (後編)

■裏的生徒と教師 (生徒ver.) (tittle:モノクロメルヘンさま) : 生徒×先生
 1. 「教えてよセンセー」 (前編) (後編)
 2. 「そんなんじゃ分かんないよ」
 3. 「俺が教えてあげよっか」 (前編) (後編)
 4. 「可愛い生徒の頼みだよ?」
 5. 「センセーって意外と…」 (前編) (中編) 1 2 (後編)

■思わせぶりな君と僕 (tittle:Fortune Fateさま) : 幼馴染み
 1. 気持ちイイコト、しようよ
 2. 弱い部分をひと握り (前編) (後編)
 3. 欲しいと言えない (前編) (後編)
 4. もっと声を聞かせて、呼んで (前編) (後編)
 5. 熱いのは好き?
 6. いくらなんでもはしたない
 7. 無邪気にはにかむ確信犯

■女王様のバレンタイン : 幼馴染み
  (1) (2) (3) (4)

■Queen Beeの眠れぬ夜 : 幼馴染み
  (1) (2) (3) (4) (5) (6)
  (7) (8) (9) (10)
  (11) (12) (13) (14) (15)



ちなみにこんなカプですよー。
*裏的生徒と教師 (教師ver.) : 栗原×水瀬
*裏的生徒と教師 (生徒ver.) : 篠崎×片倉
*思わせぶりな君と僕 : 石田×水瀬

 水瀬クンの名前が2回出てきてますが、その辺はアレです。同一人物です。
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1. 「特別に個別授業をしてやるよ」 (前編)


*まずは教師バージョンです。

 ―――ガタンッ…!!

 昼下がりの教室。
 数人の生徒がいる、けれど静かな教室に、大きな音が響いて。全員の視線が、その音の発生源へと向く。

「いてぇ…」

 けれど、視線を向けられた生徒は、それをまるで気にすることもなく、少し長めの前髪の下、ぶつけた額をさすっている。

「みーなーせー」

 地を這うような低い声。英語教諭の栗原だ。

「あ、栗原」

 呼ばれた生徒―――水瀬は、不機嫌を露にした栗原にも動じることなく、のん気に声を掛けた。

「栗原じゃねぇ! お前、今が何の時間か分かってんのか!?」
「えーごのほしゅー」
「……よく出来ました」

 本来ならば日曜日。お家でゆっくりのんびり過ごしているはずなのに。けれど今は、中間テストで赤点を採った生徒に対して行われる補習授業の真っ最中。
 本日の科目は英語。

 実は成績優秀 水瀬くん。1教科を除いて80点以上しているのだが、どういうわけか、英語だけは28点というビックリするような点数を採ってしまって、あえなく英語の補習に参加していたのだが。

 先ほどから栗原の喋る言葉が心地良い子守唄となって襲い掛かり、水瀬は頬杖をついたまま夢の世界へ。そしてグラグラと船を漕いでいた頭が、頬杖から落ちて―――ガタンッ! というわけだ。

「分かってんだったら、ちゃんと話を聞け」
「だって栗原が言ってること、全然分かんないんだもん」
「先生って呼べ!」
「…………。栗原センセーが言ってること、全然分かりませーん。だからみんな日本語で喋って?」
「これは英語の補習だー!!」

 どっちが大人で、どっちが子供だか分からない。
 栗原と水瀬のやり取りはいつだって、こんな調子だ。一緒に補習を受けていた生徒たちも、クスクス笑っている。

「とにかく! 補習の続きするぞ!!」

 大げさに溜め息をついて、栗原は教壇に戻った。
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1. 「特別に個別授業をしてやるよ」 (後編)


 朝の8時半から、お昼を挟んで3時までみっちり補習。補習、補習、補習。英語、英語、英語漬け。

「うぅー……終わった……」

 ようやく3時を迎えて、本日の補習は終わり。
 生徒たちは、ようやく解放されたとばかりに帰り支度を始めるが、すっかり脳が溶けてしまっている水瀬は机に突っ伏したまま起き上がれない。

「水瀬、じゃーなー」

 友人たちが1人2人と帰っていく教室。水瀬の席に近付いてくる足音。栗原だ。水瀬は重い頭を起こした。

「Explain today's important part. (今日の重要な部分を説明しなさい。)」
「は?」
「Where is the most important part while I taught it today? (今日の授業の中で、どこが一番重要な部分でしたか?)」
「えーっと……い、いえす?」

 妙にニコニコした笑顔を貼り付けた栗原に、水瀬は口元を引き攣らせながら答える―――もちろん適当に。

「お前なぁ、"where"で聞かれてんのに、何で"yes"で答えるんだよ」

 丸めたテキストで水瀬の頭を叩く。

「だって、英語マジで苦手なんだもん。俺、日本人だし…」
「俺だって日本人だよ。ったく、水瀬は英語さえがんばれば、全教科バッチリなのになぁ」
「それってきっとあれだよ。栗原の教え方が悪い」
「何だとー!」
「だってその証拠に俺、他の教科、成績いいし」

 しゃあしゃあとそんなことを言ってのける水瀬に、栗原は心底呆れた顔をする。

「これから社会に出れば、英語だって超役に立つのに」

 ちょっといじけた顔をする栗原に、"この人ホントに俺より年上?"と、何度となく思ったことを水瀬はまた思う。そしてその表情は水瀬のS心を刺激して。

「でも苦手なもんは苦手なの」

 キッパリと言い放つ。

「あ、」
「何?」
「英語が苦手な水瀬くんのために、特別に個人授業してやるよ」
「ふぇ?」

 名案とばかりに表情を明るくする栗原。

「だからおいで、俺んち」

 腕を、掴まれた。






 あの…英語の部分、私の翻訳力でやってますから、違ってたらすいません…。一応、ネットの翻訳機能で確認もしたんで、大丈夫だと思うんですが…。
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2. 「先生に逆らうんだ?」 (前編)


「ホラ、早く乗りな」

 助手席側のドアを開けられ、「早くしろ」と促される。水瀬はシャツの襟をちょいちょい弄りながら、まだ逡巡していた。
 断わるなら今しかない。
 せっかく補習が終わったというのに、どうしてわざわざ栗原の家にまで行って勉強の続きなんかしなきゃいけないんだ?

「やっぱ行かな…」
「先生に逆らうんだ?」
「う…」

 いつもはフレンドリーで、男子にも女子にも人気の栗原先生。こんなときだけ、先生の特権を振り翳すなんてズルイ。

「さっさと乗れ」
「はーい」

 渋々水瀬は栗原の車の助手席に乗った。

「栗原んちって、どこ?」
「先生って呼べっつてんだろ」
「もー、いちいち細かいなぁ」
「少しは先生のことを敬いなさい」
「無理」
「お前なぁ」

 わざとからかったり、冗談を言ったり。でも栗原は本気で怒らない。呆れたように返してくるけど。水瀬はその反応が楽しくて、ついいつもそんな態度をとってしまう。

「センセー、お腹空いたー」
「……こんなときだけ、先生呼ばわりかよ。コンビニ行くついでに、何か買ってやろうか? 何がいい?」

「え? マジでいいの!?」
「いいよ」

 車がコンビニの駐車場に滑り込んで。水瀬は栗原に付いて、コンビニに入った。
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2. 「先生に逆らうんだ?」 (後編)


「センセー何買うの?」
「タバコ」
「何だ」
「何だって何だよ」
「エロ本でも買うのかと思った」
「バーカ」

 頭を小突かれて、「早く決めろ」ってうるさいから、水瀬は結局、肉まんにした。

「あ、やっぱピザまん」

 店員のお姉さんが中華まんの入っているケースの扉を開けて取り出そうとしているのに、水瀬はまだ迷っているのか、言い直した。

「おい、どっちだよ」
「んー」
「ったく、じゃあ、肉まんとピザまん両方お願いします」
「マジでいいの!?」

 パァッと水瀬の顔が明るくなる。中華まんの1つや2つで単純なヤツだ、と栗原は思ったが、言わない。安上がりな幸せも、悪くはない。
 肉まんとピザまんの入った紙袋を手にして、上機嫌の水瀬が車に乗り込む。

「こんな時期に肉まんて」
「いつ食べたっておいしいもん。あー、幸せ」

 車の発進と同時に、水瀬はさっそく肉まんを頬張っている。

「お手軽なヤツだな」
「あー、これで英語の補習がなければ、もっと幸せ」
「おい、じゃあ何のために俺んち向かってんだ?」
「ぐふふ」

 まったくもってかわいげのない笑い方をして、助手席のかわい子ちゃんは肉まんを平らげる。

「もうすぐ着くから、ピザまんはお家に着いてからにしなさい」

 ガサガサ。
 まだホカホカしているピザまんは、紙袋の中。
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3. 「たっぷり教えてやるよ。体にな」 (前編)


「じゃあ、テキスト広げて」
「先生んちって、結構広いんだね」

 通されたリビングのローテーブルに向かい合うように座る。水瀬はキョロキョロしながら、ブレザーを脱いだ。

「テキストを広げなさい」

 けれど水瀬が取り出したのは、冷めかけのピザまん。

「みーなーせー」
「だって冷めちゃう」
「後でチンしてあげるから」
「3時のおやつ」
「1つ食えば十分だ」
「ケチィ」

 それでも水瀬はゴソゴソとピザまんを紙袋に戻して、カバンからテキストを取り出した。

「じゃあここの文章、訳して」
「えー、いきなり難しすぎ!」
「いきなりじゃなくて、この間、習っただろーが」
「忘れた…」

 ポテッと、広げたテキストの上に頭を乗せる水瀬。アルファベットの羅列を見ただけで、脳細胞が死んでいくような気がする。

「水瀬~」
「んっ!」

 栗原が耳元で名前を呼ぶから、その吐息が掛かってくすぐったくて、水瀬はピクンと肩を竦ませた。

「どうした?」
「くすぐったい…」

 耳に手を当て、チラリと栗原のほうを見る。

「何、お前、耳ダメなの?」
「くすぐったいんだもん。あんま耳元で喋んないでよ」

 水瀬は耳を押さえていた手で、近い位置にある栗原の顔を追い払った。

「お前がそんな格好してるからだろ? ちゃんと起きなさい」
「もぉやりたくない」
「もうって、まだ全然やってねぇじゃねぇか」

 無理やり体を起こされる。
 この調子じゃ、本当にやるまで帰してもらえそうもない気がして、水瀬は仕方なくシャーペンを手に取った。

「センセー、分かんない」
「どこ?」
「全部」
「ざけんな」

 だってホントに分かんないんだもんと言う水瀬に、栗原は1つ1つ単語の意味を教えながら、日本語訳をさせていく。
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カテゴリー:高校生男子
テーマ:自作BL小説  ジャンル:小説・文学

3. 「たっぷり教えてやるよ。体にな」 (中編)


「センセ、くすぐったい!」

 隣で同じテキストを覗き込んで解説をする栗原の吐息が耳元に掛かってくすぐったい。水瀬は、栗原の体を少し押した。

「何言ってんだよ、早く訳せって」

 そして、耳元で「はぁ~」なんて溜め息をつくものだから。

「ひゃっ!」

 水瀬は変な声を上げて、栗原から離れた。

「もう、くすぐったいってば!」
「何言ってんだ」

 そう言って、栗原は水瀬の体を引き寄せると、その耳元にふぅっと息を吹き掛けた。

「やっ…ちょっ、うわっ!?」

 くすぐったさから水瀬が怯んだ隙に、栗原はその腕をグイと引いて、どういうわけか自分の膝の上に乗せてしまった。

「……何してんの、センセ」
「ホラ、シャーペン持って」
「何これ」

 どうして先生のお膝に乗っかって、お勉強?
 よく分からないけれど、もともと深く物事を考えるのが嫌いな水瀬は、(まぁ、あったかいし、ちょうどいいやー)くらいな気持ちで、そのままテキストに向かう。

「じゃあ次の文。これはここに関係代名詞があるから……」
「ふぁ…」
「おい、ちゃんと説明聞けよ」
「ぅん…」

 どうも日本語でない言葉が耳に入ってくると眠くなってしまうようで、水瀬は小さくあくびをしている。

「ちゃんと説明聞かないと…………」

 え? 水瀬が思う間もなく、栗原の顔が近付いてくる。

「あっ…!」

 首筋を、ちゅう…と吸われて。水瀬はハッとして肩を竦めた。

「何すっ…」

 栗原に何をされたのか気付いた水瀬は、顔を赤くして彼のほうを向いた。

「ホラ、続き。この文章、訳してみ?」
「え? あ、…ッ、」

 フッ…と耳に息を掛けられ、腿から落ちないように水瀬の腹部に回された腕が、何やら不穏な動きを始める。

「やっ、センセ、何してんの…んっ」

 サワサワと、シャツの上から胸や脇腹を撫でるから、変な声が出そうになって、水瀬は慌てて唇を噛んだ。

「水瀬、訳」

 水瀬にしてみたら、もうそれどころではないのに、栗原はあくまでも水瀬に補習の続きをさせるつもりらしく、声色ひとつ変えていない。
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3. 「たっぷり教えてやるよ。体にな」 (後編)


「センセ…」

 シャーペンを持つ手が震える。

「はぁっ…」

 水瀬は熱い息を洩らした。

「どうした?」

 しれっとした顔で問い掛けてくる栗原。その間も、胸をまさぐる手は止まらなくて。水瀬は悔しくて、「何でもない!」と言うと、シャーペンを握り直した。

 えーっと、だから、これが関係代名詞で…………えーっと、えーっと……。

 ただでさえ理解し難い英語なのに、まったく集中できなくて、いつまで経っても水瀬のシャーペンは進まない。

「センセェ……も、ダメ…」

 とうとう水瀬は根を上げた。それなのに。

「何が?」
「うぅん……ちゃんと、触って…」

 水瀬は上体を捻って栗原のほうを向くと、そのまま栗原の唇に自分のそれを重ねた。

「ん…」

 栗原は水瀬の体を支えながら、そのキスに応える。絡んできた舌を強く吸い上げると、水瀬の背中が震えた。

「センセ……お願い…」
「んー?」

 少しだけ唇を離して、水瀬はねだるように栗原を見つめる。なのに栗原は、気付いていないふりで、軽く受け流そうとする。
 水瀬はモジモジと膝をすり合わせる。

「何で、意地悪すんの…?」
「意地悪? だって今はお勉強中だろ?」
「ふぇ…」

 いや。もう我慢できないのに。
 水瀬の目から涙が零れる。

「ふ、」

 栗原は口元を緩ませると、その涙を舌で掬って。

「たっぷり教えてやるよ。体にな」
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