恋三昧

【18禁】 BL小説取り扱い中。苦手なかた、「BL」という言葉に聞き覚えのないかた、18歳未満のかたはご遠慮ください。

2014年03月

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ビターチョコレートに込めた甘い愛 (32)


 蓮沼さんの言いたいことはよく分かんなかったけど、それよりも徳永さんにメール、メール。
 とりあえず、ファミレスでご飯食べてる、て送っとこうかな。あ、ついてで、徳永さんが何食べてるか、聞いちゃえばいいんだ。それなら、さっきの疑問の答えも分かるし、一石二鳥。

「お待たせいたしましたー」

 さっそく俺がメールを打とうとしたら、店員さんがハンバーグとパスタを運んできた。
 こんなに混んでるのに、すごい早さだよね。

「ねぇねぇ直央くん、どうせならハンバーグの写真付けて送れば?」
「写真?」
「いろいろ練習したいんでしょ? 写真の添付の仕方、分かんないとかっつってたじゃん」
「それは…」

 確かにそうだ。蓮沼さんに、生チョコの写真送ってとか言われたのに、送り方が分かんなくて、諦めたんだったっけ。
 今だったら蓮沼さんに聞けるし、がんばってみよう。

「まずは?」
「写真撮らないと」
「そっか」

 そうは言っても、写真を撮るのだって、結構大変なんだから。
 カメラを起動させるのだって…。

「…ん、これでいいかな」
「目いっぱいハンバーグだね…」

 がんばって写真を撮って蓮沼さんに見せたら、何だか微妙な顔をされてしまった。
 俺的には、結構よく撮れてると思うんだけど。

「ダメ?」
「いや、直央くんがいいならいいけど、普通こういうのって、お皿とかも含めて、全体的に撮らない? ハンバーグだけをこんなにアップで写真撮る人、初めて見た」

 おいしそうなハンバーグだったから、画面いっぱいに撮ろうと思ったんだけど……ダメだったかな?
 でもまた取り直すのも面倒だし、まぁいいか(あ、でもこういう気持ちが、上達に繋がらないのかな。でも、早くメールしないと、ハンバーグ冷めちゃう…)。

「で、ここを選択して……ホラ、これで写真が添付されたでしょ?」
「うん」
「後は、普通に本文打って、送ればいいの」
「ふむふむ」

 本文、本文。
 お昼に、ハンバーグ食べて……んーと…。

「直央くん、先食べていい?」
「徳永さんは…」
「俺は蓮沼だけどね」

 徳永さんは、お昼、何食べてるの? ――――て、こんなこと聞いちゃって、俺、アホかな。やっぱ、やめておこうかな。でも、ただハンバーグ食べてる、て送るだけなのも…………まぁ練習だし、いいかな。でも…



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ビターチョコレートに込めた甘い愛 (33)


「直央くん、何そんなに悩んでんの? まだ内容決まってないの? このハンバーグ食べるよ、て送ればいいじゃん」
「それはもう書いた。徳永さんは何食べてるの? て聞いてもいいと思う?」
「………………。直央くんが知りたかったら、聞けば?」

 俺今、結構真剣に聞いたのに、何でそんな顔するの?
 でもまぁ、蓮沼さんもそう言ってくれたことだし、聞いてみることにしよう。文章が長いほうが、何かすごい感じするもんね。
 よし、今度こそ、絶対に間違いのない文章を送るぞ。今こそ、練習の成果を発揮だ!

「えーいっ!」
「…直央くんてさぁ、メール送るとき、いっつもそんな気合入れて送ってんの?」
「え、うん。だって、届かなかったら困るじゃん」
「いや、届くよ…」

 そんなの分かんないじゃん。
 途中でどっかに引っ掛かったらどうすんの?

「いただきまーす」

 俺がようやくハンバーグを食べ始めるころ、見れば、蓮沼さんはもう半分くらいパスタを食べちゃってた。
 俺の中では、結構早くメール打ったつもりだったけど、やっぱ時間掛かってたのかな。

「ねぇ直央くん、この後、何か用事あんの? どっか遊び行かない?」
「用事あるよー」
「え、そうなの? 残念…」
「これからね、ラッピングのヤツ、買いに行かないとなの」

 蓮沼さんと遊びに行くのはおもしろいけど、今日はラッピングのを買わないといけないからね。
 遊んでる場合じゃないんだ。

「ラッピングのヤツて、バレンタインの?」
「そう。こないだ純子さんに、どういうのを用意したらいいか教えてもらったからね、これから買いに行くの」
「その…純子さんと?」
「んーん、1人で」
「ヤッタ! マジで?」
「…マジだけど?」

 マジなのはいいとして、蓮沼さん、何か今、喜ばなかった?
 俺、1人でラッピングのヤツ選べるか、すごい心配なのに…。

「そのラッピングの買うの、俺も一緒に行く!」
「え、蓮沼さんも?」
「直央くん、1人で行くんでしょ? 俺も一緒に行ったらダメ?」
「別にいいけど…………蓮沼さんも、チョコ包むの?」
「は? ………………。いや…、あのね、別に俺も何か包むのにラッピングのがいるから、直央くんが買いに行くのについてこうとしてるわけじゃなくて…」

 俺が1人で買いに行くの、何で喜ぶの? て思ってたら、蓮沼さんが思い掛けないことを言い出した。
 しかも、蓮沼さんも何かラッピングのがいるから、一緒に来たがってるのかと思ったら、そうでもないみたい。
 でも俺今日は、ラッピングのしか買うつもりないし、いつもどおり作戦で、徳永さんより帰るのが遅くなんないようにしたいから、もし蓮沼さんが何か他に用事があっても、付き合えないかもだけど、いいのかな。



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ビターチョコレートに込めた甘い愛 (34)


「で、どこに買いに行くの?」
「分かんない…。純子さんは100均とかにもありますよ、て言ってたけど、ラッピング、100円のでいいかな、て気もするし…、かといって他にどこに行ったらいいかも分かんないし、そもそも100均だって、どこのがいいかも分かんないし…」
「つまり、何も分かんないだ?」
「…うん」

 いろいろ悩みを抱えてると思って言ったのに、何かあっさりと片付けられてしまった…。
 まぁ、早い話がそういうことなんだけど、買いたいものがどこに売ってるか分かんない、て結構致命傷じゃない?

「近くにデカい100均あるじゃん? そこでいいんじゃない? 俺も、ラッピングの売り場に行ったことないけど、大きいトコならいっぱいありそうな気がする」
「だよね。てか、100均のでいいと思う?」

 だって、上げる相手は徳永さんだ。
 持ち物食べ物やることなすこと、みんな高級なものばっかなのに、100均で買ったラッピングとか…。
 中身は俺なんかが作ったチョコで、全然パッとしないんだから、せめてラッピングぐらいちゃんとしたヤツにしたほうがいいんじゃないかな、て思うんだよね。

「ていうか、今さらだけど、ホントに俺なんかが作ったチョコ、上げてもいいと思う? 徳永さんに上げるんだから、もっと何かすごいヤツのほうがいいと思わない?」
「え…、何で急にそんなに原点に返ったの、直央くん」
「急にそう思った。だって、徳永さんなら、普段からいっぱいいろんなおいしいもの食べてるだろうに、選りに選って俺が作ったチョコなんか………………蓮沼さん?」

 俺にしては珍しく冴えてることを言ったつもりだったのに、なぜか蓮沼さんはポカンと口を開けていた。
 何か変なこと言ったかな?

「あのさ、直央くん…、あー…………えっと、気悪くしたらゴメンだけど、あの…直央くんて今までにチョコ貰ったことある? バレンタインの」
「ない」
「………………だよねー……」

 自慢じゃないけど、生まれてこの方、1回もバレンタインのチョコなんか貰ったことない。義理ですら!
 でもそれは事実だから、そんなんで怒ったりはしないけど、その後、蓮沼さんが「だよねー」て言ったのは、若干ムッ。ちゃんと聞こえてんだからね!
 そりゃ俺は、蓮沼さんみたいにイケメンじゃないけど、そんな納得しなくなっていいじゃんか!

「いやいやいや、あのね、そういうことじゃなくて」

 俺が怒ってんのが分かったのか、蓮沼さんがこっちに身を乗り出して来た。

「んー…、何ていうかさ、直央くん、自分がチョコ貰うときのこと、考えてみてよ」
「貰ったことないってば」
「そうかもだけど! もし徳永さんからチョコが貰えるとして、そりゃ徳永さんのことだから、うんと高級なヤツだってプレゼントしてくれるだろうけど、それと、徳永さんが手作りしたチョコと、直央くん、どっちが嬉しい?」
「えー?」



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ビターチョコレートに込めた甘い愛 (35)


 うんとお高いチョコと、徳永さんが作ったチョコかー。
 チョコの高いのて、どんくらいするのかなぁ。何千円とか? 何万円とか? どんな味がするんだろー。でも、チョコはチョコだから、そんなに変わんないのかな。

「…じゅる…」
「直央くん、直央くん」
「あ、えへへ」

 想像したら、何かすごい食べたくなっちゃって、じゅる、てなっちゃった。
 えっと、それと、徳永さんが作ったチョコだよね。
 うーん…、徳永さん、チョコなんか作るかなぁ。俺が純子さんとしたみたいなことするてことでしょ? 徳永さん、料理はするけど、チョコ作るなんて、ちょっと想像できない…。

「徳永さんはチョコなんか作んないと思うよ?」
「いや、俺もそうだとは思うけど! でもそんな、作んないはずの徳永さんが、直央くんのためだから、つって、作ってくれたらどう!? 嬉しくないっ!?」
「う、うん…」

 蓮沼さんが、あんまり力入れて聞いてくるから、思わず頷いちゃった。
 でもまぁ確かに、徳永さんがわざわざ俺にために作ってくれたら、嬉しい…ていうか、恐れ多い気がする。

「でしょ!? どんなに高いチョコよりも、好きな人が作ってくれたチョコのほうが嬉しいの! 分かった!?」
「分かったけど……徳永さん、めっちゃセレブだよ? セレブでも、それって同じ?」
「同じに決まってんじゃん! 直央くんの手作りチョコを喜ばないなら、徳永さんに直央くんを愛する資格なんてないねっ!」
「…………」

 やっぱり蓮沼さんて、変な人だなぁ。
 ホントに蓮沼さんの言うこと、信用していいか、不安になって来ちゃった…。

 でも、手作りチョコは、純子さんが提案してくれたことだもんね。
 そう思えば、俺が作ったチョコを徳永さんに上げるのだって、大丈夫な気がする。それに、作るときは純子さんがいるから、もし俺が何か仕出かしそうになっても、どうにかなりそうだし。

「分かった。ちゃんと自分で作ったチョコ上げる。で、ラッピングは、100均ので大丈夫?」
「…………」

 そういえば、そもそも聞きたかったのは、このことだったんだ。
 つい話が逸れちゃってた。

「もー! 直央くん、さっきまでの俺の話、何聞いてたの!?」
「え…、何、て……全部ちゃんと聞いてたよ?」

 突然声を大きくした蓮沼さんに、ギョッとなる。
 そんなに怒らなくたって、ちゃんと蓮沼さんの話は聞いてたってば。だからチョコは、自分で作ったヤツにする、て決めたじゃない。

「値段じゃないの! 直央くんが作ってくれたり、選んでくれたりしたヤツが、嬉しいのっ! もぉ~、何で分かんないかなぁ、直央くんは。鈍感なんだから! ホントに――――」
「蓮沼さん、ゴメ…」
「ますます好きになっちゃうじゃん!」
「…は?」



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ビターチョコレートに込めた甘い愛 (36)


 何か蓮沼さんのこと怒らせちゃったみたい、て思って、謝ろうとしたら、蓮沼さんが、また意味分かんないことを言い出した。もうホント、どこまでが本気なのか、全然分かんない。
 でも何かこれ以上何か言うと、余計に面倒くさいことになりそうだから、今日のところは蓮沼さんの言うことを、素直に聞いておこう。
 100均で買うにしろ、他の店で買うにしろ、蓮沼さんがいなかったら、どこでラッピングのを買ったらいいか、俺1人じゃどうにもなんないからね。

「じゃ、100均行ってみる。これね、純子さんが調べてくれたの。100均にこういうの、売ってるんでしょ? 俺が徳永さんに上げるには、ちょっとかわいすぎるかな、て気もするけど…」
「うーん…、確かにピンクとか、て感じはしないよね」

 こないだ純子さんが調べてくれた、ラッピングのが載ってる紙を、蓮沼さんに見せてあげる。
 徳永さんに見つからないよう、カバンの中にしまいっ放しなんだよね。

「蓮沼さん、一緒に来るからには、適切なアドバイスしてね!」
「何、適切なアドバイス、て」
「これぞ! てものを見つけたら、すかさず俺に教えて」
「えー…。だからぁ、直央くんが選ばないと意味ない、つったでしょ? ホントに話聞いてたの?」
「聞いてたよ! 最後は俺がちゃんと選ぶから! つか、アドバイスしてくんないなら、別に蓮沼さんが来る意味ないじゃん。俺1人で行くのと何が違うの?」

 そりゃ、買い物は1人で行くより2人のほうが楽しいけれど、今日は、そんな楽しいだけのショッピングじゃダメなんだから。

「分かったよ! ちゃんとアドバイスするから、一緒に行かせてください!」

 蓮沼さんが会計の伝票を手に席を立ったから、俺も立ち上がって、すかさずその伝票を奪い取った。



*****

 蓮沼さんに連れて来てもらった100均は、確かにすごくおっきかった。
 どうしよう、迷子になっちゃったら…。

「ラッピングの売ってるコーナー、どこかな――――て、どうしたの? 直央くん」
「蓮沼さん、先に行かないでよ! 迷子になったら帰れなくなっちゃうじゃん」
「いや、迷子には…………あ、じゃあ」

 スタスタと先に行っちゃう蓮沼さんを慌てて追いかけたら、なぜか蓮沼さんは俺のほうに手を差し伸べてた。
 意味分かんない、て思って蓮沼さんの顔を見れば、蓮沼さんは笑顔で、ますます意味が分かんない。

「…何?」
「手、繋ごうよ。迷子になんないように」
「なんないよ、子どもじゃないんだからっ!」

 いや、たった今、迷子になったらどうしよう、とは思ったけど。
 でもそんな、迷子になると困るから手を繋ぐとか、そんなの子どもみたいじゃん、恥ずかしい! 俺、もう24歳なのに!



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ビターチョコレートに込めた甘い愛 (37)


「迷子になったら困る、て言ったの、直央くんじゃん」
「蓮沼さんがさっさと行かなかったら大丈夫だもん」
「もぉー」

 ホントに大丈夫かどうかはちょっと不安だけど、俺がそう主張したら、蓮沼さんは手を引っ込めてくれた。

「ラッピングの、あっちみたいだよ、行こ?」
「うん」

 あっちってどっち? て感じだけど、蓮沼さんはもうラッピングのが売ってる場所を見つけたらしく、先に進んでくから、俺はその後に付いて行く。
 よかった、蓮沼さんが一緒に来てくれて。
 どんなのがいいか、アドバイスを聞けるのもそうだけど、俺1人でここに来てたら、ラッピングのが売ってる場所、一生見つけらんないよ。

「はわぁー…いっぱいあるねぇ」

 純子さんに見せてもらった紙にも、結構いっぱいいろいろ載ってたけど、実際にお店に来てみたら、いろんな種類のがいっぱいあった。
 どうしよう、俺、この中から見つけ出せるかな…。

「これとか、ふたにリボンが付いてるから、ふた閉めちゃえばラッピング完成するよ?」

 蓮沼さんが見せてくれた箱は、十字にリボンが掛かってるように見えるけど、それはふたに付いてるだけの飾りで、リボンを解かなくても、ふたが開けられちゃうんだ。
 これなら、包む紙とかリボンとかの組み合わせを悩まなくていいから、いいかも。俺のセンスが入り込む隙がないのがいい。

「でも、ピンクでいいかな?」
「水色とかもあるけど。直央くん、徳永さんの好きな色とか知らないの?」
「知らない」
「即答しないで、ちょっとは考えてよ」

 そんなこと言われたって、知らないものは知らないよ。
 今までに徳永さんと、好きな色について話したことないし。

「や…例えば、徳永さんがよく身に着けてるのとか」
「えー? んー…」

 そう言われて、普段の徳永さんを思い出してみるけど、ちょっとピンと来ないなぁ。
 仕事に行くときはスーツだし、お休みの日は、何か……おしゃれな格好してる…。

「あー……分かんないのね。分かった分かった」

 まだ何も答えてないのに、蓮沼さんはそう結論付けてしまった。
 まぁ実際、分かんないんだけどさ。
 だって徳永さん、何着ても似合うし。

「でもさ、こっちのピンクの箱、直央くん的には『これでいいかな?』て思ったわけでしょ? てことは、これは『なし』なんじゃない? そういうふうに選んでこうよ」
「んー…、でも俺のセンスだし? 当てになんないじゃん?」
「じゃあ、逆に直央くんが『これはないかも』て思ったヤツ選ぶ? あえて」
「なるほど。それがいいかも」



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ビターチョコレートに込めた甘い愛 (38)


 俺なんかが、いいかも、て思ったヤツなんて、きっとセンス的には全然ダメだろうから、逆を行くのはいい作戦かもしれない。
 さすが蓮沼さん、頭いい!

「この、ピンクのにする!」
「早っ! 他にもあるの、よく見なくていいの? ゴールドとかもあるし、こっちはホラ、チェック柄のとかあるよ?」
「そんな…、蓮沼さん、そんな惑わせないでよ。えっと…、何かこっちのほうが大人ぽいね。こういうののほうがいいのかな? あ、でも俺がいいて思ったのは、ダメだよね」
「いや…、別にダメなわけじゃないと思うけど…」

 蓮沼さんに言われてよく見れば、箱は他にも、無地のヤツとか、いろいろある。
 あーもう、せっかく決まったと思ったのに、また迷ってきちゃった…。

「あのさ、俺が言い出したのに、今さらゴメンだけど、人にプレゼントするのに、自分が『これはないかも』て思ったヤツを選ぶのもどうかと思うんだけど」
「ちょっ、蓮沼さん、マジで今さらだし!」
「ゴメン! だって直央くんが、あんまりにも、センスが…て言うから」
「だって、そりゃそうでしょ」

 俺なんかのセンスで選んじゃったら、大変なことになりそうだもん。
 けど、自分でいまいちだと思ってるのを送るのも、確かにどうかとは思う。

「ねぇねぇ蓮沼さん。俺が選んだ変なヤツと、俺的には『これはないかも』て思うけど、ちゃんとしてるヤツ、どっちがいい? 一般的にはどっちが喜ばれるの?」
「難しいね…。でも今選ぶのはプレゼントの中身じゃなくてラッピングだから、直央くんがいいと思って選んだヤツでいいんじゃない? 直央くんだって別に、わざと変なヤツ選ぶわけじゃないでしょ?」
「わざとは選ばないけど、俺が選んだヤツなんて、絶対変に決まってるし」
「何そのネガティブ方向の自信」

 蓮沼さんは何か呆れたような顔をするけど、でも俺には分かるもん。俺のことだから。

「ダメだ、直央くん、もっと真剣に選ぼう」
「ぅん?」

 なぜか急に気合を入れる蓮沼さん。
 えっと…、俺は最初からずっと真剣だったけど?

「直央くん、徳永さんの好きな色とか知らないんだし、直央くんの好みの色とか柄、選んでみたら?」
「俺のー?」
「そ。手作りチョコだしさ、こうなったら全部直央くん色で染めちゃうの」
「???」

 んーと。
 蓮沼さんの言うこと、よく分かんないんだけど…。

「この中だったら、直央くん、どの色がいいの?」
「俺の好きな色? んー……この中だったら、水色かな」
「じゃあ、これにしようよ」

 そう言って蓮沼さんが手に取ったのは、水色の地に薄いピンクの柄が描いてある箱で(何柄ていうか、よく分かんない…)、ふたに白いリボンが付いてるヤツだ。



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ビターチョコレートに込めた甘い愛 (39)


「俺が選んだヤツだよ? ホントに変じゃない?」
「変じゃないよ。直央くん、水色は徳永さんに似合わないと思う?」
「思わないけど…」

 徳永さん、ときどき水色のシャツとか着てるし、別に水色が似合わないとは思わないけど、ちょっとかわいらしい感じなのが、何となく恥ずかしい気も…。

「何かこれ、かわいすぎない? 上げるのが俺で、貰うのが徳永さんだよ?」

 一体どこにかわいさを盛り込む場面があるんだろう。
 確かに俺は水色が好きで、徳永さんも水色は嫌いじゃなさそうだけど、別にかわいさはいらない気がするんだよね。

「じゃあ、色じゃなくて、かわいい系とかクール系とか、そういうので選ぶ?」
「かわいい系じゃダメだってば」
「分かってるよ。かわいいじゃなくて、だからクールとかシックとか、いろいろあんじゃん。直央くん、どういうイメージがいいの?」
「かわいいじゃない系」
「そうだけど…、何かもっと具体的に言ってよ。徳永さんのイメージて、どんななの?」

 蓮沼さんに言われて、また悩んじゃう。
 俺が思うに、徳永さんのイメージは、『大人』だ。ときどき子どもみたいなことを言ったりしたりすることはあるけど、やっぱり徳永さんて大人だなぁ、て思うし。

「じゃ、大人な感じのにする」
「え、直央くんの、徳永さんのイメージて、『大人』なの?」
「うん。違う? あ、蓮沼さんは徳永さんに会ったことないんだっけ?」
「いや、1回だけある。まぁ、大人ちゃー大人だけど、余裕のない大人、て感じだったかな」
「ぅ?」

 余裕のない大人? それってどんな感じ?
 てか、それよりも、蓮沼さんて徳永さんに会ったことあんの? 一体いつ??

「ゴージャスかシンプルだったら?」
「えー? 例えばどれとどれ?」
「これとこれ」

 セレブのイメージていったら、やっぱりゴージャスかな、て思うけど、ラッピングで言うところのゴージャスは、何だかキラキラしすぎてて、ちょっと徳永さんの感じじゃない気がする。
 普段の徳永さんも、そんなにきんきらにしてないしね。

 てことは、シンプル…なのかな。
 蓮沼さんの見せてくれたもう一方は、無地の濃い灰色の箱に、シルバーのリボンが付いてるヤツ。今まで見て来たヤツを思うと、だいぶ地味な感じがするんだけど。

「でも蓮沼さん、これ地味すぎない?」
「んー…でも、かわいい系じゃなくて、ゴージャスでもなくて、大人な感じの、て言ったら、これになるよ? 後はモスグリーンとか」
「モス?」
「モスグリーン。これ」

 そう言って見せてくれたのも、やっぱり結構地味。柄がないからかな。
 でも蓮沼さんの言うとおり、大人な感じの、て言ったら、こういう感じだよね。



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ビターチョコレートに込めた甘い愛 (40)


「直央くんが、徳永さんのイメージ、『大人』て言うから、そういうの選んだんだからね。直央くんが思う徳永さんのイメージのにするか、直央くんの好きな水色にするか、全然違う方向でかわいい系にするか。どうする?」
「どうしよう…」

 徳永さんに合うイメージか、俺がいいと思うのにするか、俺的にはちょっとどうかなて思うヤツにするか…………そもそも徳永さんに合うイメージのだって、俺が勝手に思ってるだけで、ホントに合ってるかどうかなんて、分かんないんだけどね。

「蓮沼さんはどう思う?」
「最終的な判断は、直央くんがしてよ」
「じゃあ、この地味なヤツが、徳永さんのイメージに合うかどうかだけでも教えて! 合うて言うならこれにするし、そうじゃないなら、また一から考えるから!」

 俺もう、いろいろ考えすぎちゃって、わけ分かんなくなってるから。
 何がいいのか、全然分かんない…。

「俺が思うにさ、まぁ一般的に、徳永さんがどう思ってんのかは知らないけど、一般的にさ、男て、あんま派手なヤツて好きじゃないじゃん? あんまキラキラしてんのは、ちょっと……て思う」
「蓮沼さんも?」
「その子が一生懸命選んでくれたなら、それはそれでいいけど、あんま派手なのは、ちょっと気恥ずかしい気がする。直央くんはそうじゃない?」
「分かんにゃい…」

 そもそも俺、人からプレゼントなんて貰ったことないし。
 あ、徳永さんからは貰ったことあるか。でも、こういうふうにラッピングとか、そういう感じじゃなくて、直接お店に行って、その場で買ったりしたんだよね…。

「じゃ、直央くん、自分が貰うとして、これとこれとこれ、どれがいい?」
「これとこれとこれ? 自分が貰うとして? 誰がくれるの? 徳永さん? 蓮沼さん?」
「そこまで考えなくていいから! この中だったら、どれがいい?」
「んー……これかな」

 俺が選んだのは、水色のヤツ。
 もともと俺は水色好きだし、濃い灰色(…とは言うけど、殆ど黒)のはすごい地味だし、もう1個はすんごい派手派手だから。この中だったら、やっぱこれかな、て思う。

「じゃ、やっぱこれなんじゃない? ラッピングとはいえ、自分でいまいちだと思ってたら、上げても、やっぱ違うのにすればよかったかな、て思っちゃうよ、きっと」
「そっかぁ」

 俺、人からプレゼントを貰ったこともないけど、誰かにプレゼントを贈ったこともないから、そういうこと全然分かんないし、どういう気持ちになるかもよく分かんない…。
 でも結局、徳永さんの好みも分からなければ、似合う色も分かんない俺は、蓮沼さんの意見に従っておくのが、一番無難なんだと思う。

「俺が思うにね、徳永さんは、直央くんが選んでくれたら、きっとどんなのでも喜ぶよ」
「そうかなぁ。変なのだったら、何これ、て思うと思うよ?」
「そんなのダメ、許さない」
「そう言われたって…」



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ビターチョコレートに込めた甘い愛 (41)


 いくら蓮沼さんが許さなくたって、変なの貰ったら、何これ、てなるんじゃない?
 中身が中身だから、ラッピングぐらいちゃんとしようと思ったんだけど、ダメかな? あ、でも、外見があんまりいいと、開けて中見たときに期待外れでガッカリしちゃうから、このくらいがいいのか。

「じゃ、これにする。どうせ上げるのは俺の作ったチョコなんだし、このくらいでちょうどいいよね」
「え、直央くん、それどういう意味?」
「だってラッピングがすごいよかったらさ、中身すごい期待しちゃうじゃん? でも、開けたら俺の作ったチョコだよ? 何かガッカリ感、半端なくない? だから余計な期待をさせないためにも、これくらいでいいかな、て思って」
「あのさ、直央くん…、何でそんな卑屈なの?」
「ヒクツ?」

 ヒクツてどういう意味? て聞きたかったけど、蓮沼さんが「はぁ~」て大きく溜め息をついたから、何か聞ける雰囲気じゃなくなっちゃった。

「もー直央くん、もっと自信持ってよ! 直央くんが作ったチョコ貰って、嬉しくないわけないじゃん、バカッ!」
「……」

 いや、確かに俺はバカだけどさ。
 あ、バカだから、蓮沼さんの言うことに付いて行けないのか。

「蓮沼さん、そんなに興奮しないで…。とりあえず、これにするよ。深さもこんくらいあったら、ふた閉まると思うし」

 俺の頭じゃ、これ以上考えたところで分かんなくなるだけだろうから、この水色の箱にすることにする。
 生チョコの厚さよりも深くないとふたが閉まんない、て純子さんが教えてくれたからね、それにも注意して。

「あ、ねぇ、直央くん。だったら、このお揃いのバッグ、あったほうがよくない?」
「バッグ? 何で?」

 蓮沼さんが、側にあった箱とお揃いの柄の手提げバッグを手に取った。
 半透明の、ちょっとおしゃれなヤツ。

「この箱、ちょうど入るじゃん」
「入れたほうがいい、てこと?」
「だってこの箱、ふた重ねてるだけで、リボンはただの飾りだから、ふた持ったら簡単に開いちゃうじゃん。袋に入ってれば、そういうことないでしょ? それに、こうしたほうが、保冷剤入れられるじゃん」
「そっか」

 そういえば、蓮沼さんに試食のチョコ上げるとき、保冷剤が入ってたっけ。
 それに、袋に入ってたほうが、持ち歩くときにバランス崩さなそうで、いいかも。



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ビターチョコレートに込めた甘い愛 (42)


「後は何買う? カードとか?」
「カード? 何カード?」
「メッセージカード。これ、カードも同じような柄のがあるじゃん」
「メッセージ…………何書けばいいの?」
「いや、よく分かんないけど、プレゼントていったら、何かカードとか付けるかなぁ、て思って。直央くんの、徳永さんへの熱い想いを綴ったら?」

 徳永さんへの想い…。
 文章とか考えるの苦手だけど、蓮沼さんがそう言うなら、がんばって書いてみようかな。

「じゃあ、この3つで。お会計…………どこ?」
「あっちだよ。てかさぁ、直央くんて徳永さんと一緒に住んでるわけでしょ? 直央くんだけの部屋てあるの? 1人部屋」
「ないよ」

 ご飯食べるときはダイニング(ダイニングて言い方、カッコいいよね!)で一緒だし、寝るときも一緒の部屋だし、それ以外のときは俺、リビングにいて、徳永さんが自分の部屋にいるんでなければ、一緒にいる。
 徳永さんちはとっても広いし、部屋もいっぱいあるけど、そういう意味じゃ、普段は殆ど使ってない部屋ばっかりだ。

「何でそんなこと聞くの? 蓮沼さん」
「いや…、直央くん、自分だけの部屋がないなら、これ、どこ置いとくの? チョコ作るの、徳永さんに内緒なんでしょ? このラッピングの見られたら、ばれちゃうんじゃない?」
「ハッ…!」

 そうだった! 俺、今日これ買ったら、普通に持って帰るところだったけど、置いとく場所ないじゃん!!
 せっかく純子さんちでこっそり練習したり、なるべくいつもどおりを装ったりして、徳永さんにばれないように気を付けてんのに、これ持って帰ったら、一気にバレバレじゃん!

「どうしよう…。あ、カバンの中に入れてたらばれないよね?」
「でも、グシャってなっちゃわない?」
「…………」

 自分の持ってるカバンと、買い物カゴの中に入ってるラッピング用の箱を見比べてみる。
 何となく、入らないでもない大きさだけど、入れるためには、今中に入ってるものを出さないとダメそうだし、無理にでも突っ込んだら、確かにグシャってなりそう…。
 でも、これも純子さんちに置かせてもらうなんて、ちょっと迷惑掛け過ぎだよね…。

「本番の……チョコ作る日に買いに来ようかな。それまでに売り切れちゃわないよね」
「さぁ…、そればっかりは俺にも…。つか、それ面倒くさくない?」
「面倒くさいけど、そうするしかない。どうせ、チョコの材料も買ってかないといけないし、一緒に買ってく」
「一緒にったって、チョコの材料は別のお店でしょ? 2か所もお店寄ってる時間あるの? つか、その純子さんちに行くまでの間に、この100均あるの?」
「え、」
「売り切れてるかどうか以前に、違う100均行ったら、これと同じラッピングなんて売ってないよ?」

 蓮沼さんに尤もなことを言われて、言葉に詰まる。
 近所に100均はあるけど、ここと同じ店かどうかは分かんない。
 大体、スーパーと100均の両方に行くなら、最初に考えてたよりももっと早く家を出なきゃいけなくなるし、その時間だと、お店はまだ開いてないかもしれない。



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ビターチョコレートに込めた甘い愛 (43)


「やっぱ、カバンの中に…」
「いや、絶対無理だよ。直央くん、もっとおっきいカバン持ってないの?」
「これしか持ってない」

 だって体は1つだもん。カバンなんて1個あれば、それでいい…………て思ってたけど、こんなことになるなら、もう1個くらい持ってればよかった。

「そうだなぁ…、ねぇ直央くん、その純子さんちてどこにあんの? こっから遠いの?」
「純子さんちに置かせてもらうなんてダメ。ただでさえ迷惑掛けてんのに、これ以上…」
「いや、そうじゃなくて。直央くん、チョコはその純子さんちで作るんでしょ? そこがそんなに遠くないなら、このラッピングのヤツ、俺んちに置いたらどうかな、て思って」
「え、蓮沼さんち?」

 それは、まったく予想していなかった提案だった。
 でも、わざわざそんなことをしてもらうのも、どうなんだろう。

「直央くん、まだ俺んち来たことないよね? 直央くんがウチに遊びに来てくれるんだったら、当日まで俺んちにこれ置いててあげるよ?」
「でも…。今は徳永さんにバレンタインのことがばれないように、いつもどおりにしなきゃ、て…、だから遅く帰れないの。今日はこの買い物したら、すぐに帰らないとなの」
「今日じゃなくてもいいよ。こないだ直央くんからチョコ貰ったから、そこはおまけしてあげる。バレンタインが終わったら、ゆーっくりと遊びに来てくれたらいいから」

 何だろう…。
 すごく有り難い申し出なのに、すごく恩着せがましい感じが…。
 でも、今の俺が頼れる相手は、蓮沼さんしかいないわけで。

「分かった…。じゃあ、蓮沼さんちに置かせてもらうことにする」

 蓮沼さんちなら、お店と違って、開店時間はないからね。
 本番当日、純子さんちに行く前に寄って行ける。

「はぁ~あ、徳永さんはいいよね、ホント。こんなに直央くんに思われちゃってさ」
「何それ。蓮沼さんが最初にバレンタインて言い出したんだよ?」
「バレンタインのことだけじゃなくて。もっと全体的に!」
「全体的??」

 蓮沼さんすごい! とか思おうとするタイミングで、蓮沼さんが妙なこと言い出すから、尊敬していいのか、しなくていいのか、よく分かんなくなる。
 でもまぁ、俺にとって適切なアドバイスをしてくれるんだから、感謝はしないとだけど。

「あ~楽しみだな。直央くんが遊びに来てくれんの」
「……」

 後でこっそり行かないことにしようかな、て思ったのに、気付かれちゃったのかな。
 もう1回、しっかりと蓮沼さんに言われて、俺はやむなく頷いた。



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ビターチョコレートに込めた甘い愛 (44)


 今度蓮沼さんちに遊びに行くのと引き換えに、バレンタイン用のラッピングを蓮沼さんちに置かせてもらって、俺は例の『いつもどおり作戦』で、徳永さんより先に帰って来た。
 ひとまず14日は、蓮沼さんちに行ってラッピングのを受け取って、それからスーパー行ってチョコの材料買って、そんで純子さんちに行く、と。うん、完璧。

 あ、そういえば蓮沼さんに、夕ご飯の前にメールするのやめて、て言うの忘れちゃった。
 蓮沼さんがメールくれるのって、いっつも、ちょうど徳永さんが帰って来て、これからご飯だぞ、ていうタイミングなんだもん。
 メールマスターになるには、メールが来たら即返信だけど、これからご飯のときにメールばっかしてんのはヤダし、今は徳永さんも、いいよ、て言ってくれてるけど、ずっとこのままじゃ、そのうち、何してんだ? て思うようになっちゃうと思うから。

「よし」

 徳永さんが帰って来る前に、メールの練習も兼ねて、先に蓮沼さんにメールをしておこう。
 ラッピング買うの、付き合ってくれたお礼も言わないとだしね。

「んー…」

 今日はラッピング買うのに付き合ってくれて、ありがとう。これからは、ご飯の前にメールしないでね…………て、いきなりすぎるか。こんなこと、メールで何て言ったらいいんだろ。
 メールマスターへの道は厳しいなぁ…。

 とりあえず、これからご飯だから、今の時間にメールされてもすぐに返せない、てことは伝えなきゃだから、がんばって文章を考えて送ってみたら、ちょうど徳永さんが帰って来た。
 もしかして、素早く送ったつもりが、また時間掛かってたかな。

「お帰りなさ……むぐ」

 いつものように徳永さんをお出迎えしたら、徳永さんに抱き締められた。
 苦しい…。

「徳永さん!」
「だって今日は直央くんからメール来て、嬉しくて、早く直央くんに会いたいなぁ、て思ってたから」
「メール、ちゃんと送れてた?」
「届いたよ。だから返信もしたでしょ?」
「届いたとは思うけど! 間違いとか」

 変換ミスとかないようにがんばったけど、いつもそんなミスないように送ってるつもりが、変になってたりするからね。

「バッチリだったよ。しかも、写真も付いてたじゃん。写真、添付できるようになったんだね」
「えっ、うん」

 ハッ! そういえば俺、今まで、ケータイで写真は何とか撮れたけど、それをメールで送るとか、したことなかったっけ!
 いつもどおり作戦で行くはずが、いつもと違うことをしてしまった…!

「ハンバーグ食べたの? おいしそうだったね」
「ん」
「でも、直央くんが外食とか、珍しいね」

 ハッ!
 確かに俺、殆ど外食しないのに、今日に限ってどうして…!



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ビターチョコレートに込めた甘い愛 (45)


「今日あの、蓮沼さんが、」
「蓮沼と一緒だったの? メシ?」
「あ、うん…、ゴメンなさい…」
「いや、謝んなくてもいいけど。そりゃ、ちょっとは妬くけど…」

 そうだ、蓮沼さんと一緒にご飯食べたことを言ったら、徳永さんが何か言うかな、て思って、メールには蓮沼さんのこと書かなかったのに、今言っちゃったら、意味ないじゃん。
 俺のバカ!

「それで写真添付したんだ?」
「…うん。いろいろ出来るようになりたいから、蓮沼さんに教えてもらったの」

 ただでさえ、徳永さんに隠し事してて、何だか気持ちがモヤモヤしてるから、これ以上は嘘とかつきたくなくて、素直に本当のことを言う。
 俺はよく分かんないけど、みんな、メールで写真のやり取りとかしてるんでしょ? だったら俺だって、そのくらい出来るようにならないとだもんね。

「直央くんからの初めての写メだから、しっかり保存しとこう」
「え、何それ。俺、これからバンバン写真送るよ! バンバン!」
「あはは、期待してるよ」

 徳永さんは、笑いながら洗面所に向かった。
 何か……どうせ無理だ、て思われてる感じがする。むぅ…、がんばるもん!

「そのためには、写真の練習もしないとだな…。覚えること、いっぱいだ…」
「直央くん、何ひとり言言ってんの」
「あわわわわ」

 1人で気合を入れてたら、徳永さんが洗面所から戻って来た。

「徳永さんに写真のメール送るのに、写真の練習もしないと、て思って…」
「写真の練習? 撮り方なら、覚えたんじゃないの? まだ?」
「そうじゃなくて! 俺の写真、何か変じゃなかった?」
「そう?」

 だって、蓮沼さんに、ハンバーグをアップで撮り過ぎたの、言われたもん。
 あれはきっと、格好いい撮り方じゃなかったんだ。

「おいしそうに撮れてたよ? どこで食べたの?」
「ファミレス。飲み物ね、いっぱい飲めるしね、ハンバーグおいしいから」

 徳永さんはファミレスなんて行かないだろうから、ドリンクバーのこと、説明してあげる。
 きっと徳永さんは、俺の大好きな『お得感』とかなんて、どうでもいいと思うんだけど、念のため。

「直央くん、ドリンクバー好きなの? 確かに種類多いけど、そんなに飲み切れなくもない?」
「………………。あれ? 徳永さん、ドリンクバー知ってるの?」
「え、知ってるけど。もしかして、俺が知らないと思って、今一生懸命説明してくれたの?」
「うん」

 何だ、知ってるのか。
 そうだよね、徳永さん自身が行かないとしても、そのくらい知ってるか…。



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ビターチョコレートに込めた甘い愛 (46)


「外回りのときとかたまに行くけど、男1人で行くのは何か寂しいよね、ファミレスて」
「えっ、徳永さんもファミレス行くの!?」
「行くけど…」

 俺が本気でビックリしたら、徳永さんがポカンとなった。
 え、俺が変なこと言った? 違うよね? 俺の驚き、間違ってないよね? 普通、徳永さんなんて、ファミレス行くと思わないよね!?

「徳永さんがファミレス行くなんて信じられない…」
「直央くん、俺のこと何だと思ってんの…? てか、もしかしそれで今日、俺がどこでメシ食ってっか聞いてきたの? 昼」
「うん」

 徳永さんがお昼、どんなとこで食べてるか全然想像が付かなくて、メールのとき、聞いたんだよね。
 そしたら『社食』て返って来て、どこそれ、て蓮沼さんに聞いたら、『社員食堂のことでしょ』て教えてもらったんだっけ。

「社食て、社員食堂のこと」
「うん、そうだけど」
「徳永さん、社長さんなのに、社員食堂で食べるの?」

 社員食堂て、会社の中にある食堂で、社員さんとかが使うヤツだ。
 徳永さんは社長さんで、社員じゃないのに、社員食堂でご飯食べるの??

「社長が社食使っちゃいけない決まりは、ウチの会社にはないからね」
「社長食堂」
「いや…、何かちょっとそれ、おかしいよ」
「会社の中で、社長さんだけが使う食堂」
「俺1人だけだし! すっごい寂しい、それ!」

 でも、社長食堂だって、略せば社食だし、オッケーなんじゃないかな。
 社長さんは会社の中で一番偉い人だし、社員の人たちと一緒にご飯食べるほうが、何か想像付かない。食べてるものも違いそうだし、周りの社員さんも緊張しそうだ。
 だって俺も、バイトの店長さんと全然仲いいけど、一緒にご飯て言われたら、やっぱり緊張しちゃうし。

 てか、そういえば徳永さんは社長さんなのに、他の社員の人みたいに、外回りするんだよね。まぁ業種が業種だから、取り立てだけど。俺も昔はすごく怖い思いをした。
 でも、普通そういう仕事て、社員の人がするような気がする。
 すごく小さい会社なら分かんないけど、徳永さんの会社はすっごくおっきいから、社長さんがわざわざしなくてもいいと思うんだけど。

 ハッ…、もしかして徳永さん、社長さんじゃないとか!?
 だからご飯も社員食堂で…………て、いやいやいやいや。だったら、何でこんなにセレブなの。社長さんじゃないわけがない。

「直央くんが何想像してんのかよく分かんないけど、俺、別にメシにそんなこだわりないからさ、仕事のときのメシなんて、どうでもいいのよ。直央くんが一緒にランチしてくれるなら、張り切っちゃうけどね」
「でも、ドリンクバー、いっぱい飲もうと思っても、俺3杯くらいでダメになっちゃうの」
「いや…、そういう張り切りじゃなくてさ…。出来ればファミレス以外がいいなぁー…」



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ビターチョコレートに込めた甘い愛 (47)


 何か知らないけど、徳永さんが困ったように笑ってる。
 俺がファミレスで張り切っちゃうのは、ドリンクバー、いっぱい飲めるかどうかなんだけど、徳永さんはそんなことがんばんないのか…。セレブだもんね、そんなことがんばんなくても、おいしいご飯、たくさん食べられるもんね。

 そう思ったら急に、自分がバレンタインに仕出かそうとしてることが、すごく心配になって来た。
 蓮沼さんも純子さんもあぁ言ってくれたけど、俺なんかが作ったチョコを徳永さんに食べさせようとしてるなんて…。そもそも徳永さんは、ファミレスのドリンクバーで喜んでる俺とは、全然違うのに。

「直央くん、どうしたの? 何かすごい顔してるけど…」
「へぇっ!? 何、変な顔てっ!」

 そりゃ俺は、徳永さんみたいにイケメンじゃないけどっ!
 ぷんぷん。

「変な顔なんて言ってないから。じゃなくて、何か怖い顔してる。お腹空いたの? ご飯にしようね」

 怖い顔…。
 悩んでただけだけど。だって、悩むよね、そりゃ悩むよね!?
 でも今さら後には引けないし。

 こうなったら、当たって砕けろだ!



*****

 14日当日。
 仕事に行く徳永さんを見送ったら、俺も家を出るぞ、て思ってたのに、いつもの時間になっても、徳永さんが家を出ようとしない。
 いくら何でも、そろそろ行かないと、遅刻するんじゃないかと思うのに、徳永さんに焦った様子はなくて、どうしたものかと思う。今日は金曜日だから、休みじゃないよね。

「…徳永さん、お仕事行かないの?」

 こんなこと聞くのは不自然かな、て思ったけど、バレンタイン作戦に関係なく、不思議は不思議だから聞いてみる。

「行くけど、今日、会社行く前に寄ってくとこあるから、もうちょっとしたら行くよ」
「え、そうなの? え? 会社行く前に寄ってくなら、早く家出たほうがいいんじゃないの??」
「アポの時間があるから、早く出てもどうしようもないんだよね。場所が会社と反対方向だから、1回会社行ってからだと遠回りだし、結局家からなの」
「そうなんだ…」

 ガーン…。まさか、そんなことがあるなんて。
 しかもそれが、選りに選って今日なんて…。



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ビターチョコレートに込めた甘い愛 (48)


「どうしたの、直央くん」
「えっ…、えっと…、徳永さんお見送りしたら出ようと思ったのに…」
「直央くんも出掛けんの? あぁ、バイト?」
「え? あ、うん」
「じゃあ今日は俺が直央くんのこと、お見送りしよっかな」

 あわわわ。
 徳永さんに内緒で、こっそり純子さんちに行こうと思ったのに、出掛けること言っちゃった…。

 しかも、徳永さんはホントにお見送りしてくれる気なのか、玄関に向かう俺の後に付いて来た。
 俺、これからバイト行くわけじゃないんだけど…。でも、バイトじゃないなら何なんだ、て話になるから、そこは黙っておいたほうがいいかな。てか、勢いで『うん』とか言っちゃったし。

「じゃ、直央くん、お仕事がんばってね」
「…ん、はい…。何か…」
「何?」
「恥ずかしい…」

 こないだ、純子さんちに寄ってからバイト行くときも早く家を出たけど、あのときは徳永さんと一緒の時間に出たから、お見送りされたわけじゃなくて。
 こんなふうにお見送りされるのは初めてだけど、何かちょっと恥ずかしいていうか、照れ臭いていうか…。

「んふふ、こういうときは、行ってきますのキスとかしたほうがいいのかな」
「はっ!? な何言って…」

 ビックリしてる間もなく、徳永さんが俺の頬にキスして来た。
 ちょっちょっちょっ!

「今度からは、直央くんもお見送りのときに、してね?」
「なっ…、しなっ…、はぅっ…!」

 驚いた拍子に、『しない』て言っちゃいそうになったけど、そんなにキッパリ断るのもどうなの? て思って、言葉が続かなくなった。
 とはいえ、分かった、と了承するのも恥ずかしい。大体からして、徳永さんは冗談で言ってるだろうから、真面目に答えたら、何言ってんだ? て思われちゃうかもしれない。

「ホラ、直央くん、遅刻しちゃうよ」
「あ、うん」
「行ってらっしゃい、直央くん」
「は、はーい…」

 恥ずかしくて、ソワソワしながら家を出た。
 そういえば、徳永さんより先に家を出るなんて、これもいつもと違うことじゃん! いつもどおり作戦で行くはずが、当日の今日までこんな調子じゃ、ダメダメすぎる…。

「はぁ~…、もうっ…」

 えっと……今日はまず、蓮沼さんちに行って、それからスーパー行って、そんで純子さんち。
 蓮沼さんちには、こないだ1回行ったけど、念のため地図も送ってもらってるんだよね。見方は、前に純子さんに地図送ってもらったのと同じだから、大丈夫。
 最初からコケてたら、チョコ作り失敗しそうだから、迷わないように蓮沼さんちに行かないと。

「よしっ、がんばるぞっ!」

 俺は気合を入れ直して、マンションを出た。



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ビターチョコレートに込めた甘い愛 (49)


 蓮沼さんちでラッピングのを受け取って(家に引っ張り上げられそうになったけど、何とか逃げた)、スーパーで生チョコの材料買って、純子さんちに行く。
 買い物もね、ササッと出来たから、結構早く着いたと思うんだよね。

「いらっしゃい、直央さん」
「よろしくお願いしまっす!」

 こないだは純子さんのおかげで、何とか生チョコうまく出来たけど、本番は今日だからね。
 今日失敗しちゃったら、何にもなんないからね。

「これがラッピングの。で、こっちが材料……チョコ5枚でしょー、あと生クリーム!」
「あら直央さん、まだ何か入ってますけど」
「あ、」
「お大福…」
「えへへ」

 余計なものは買いません! て思ってたけど、何かすっごくおいしそうで、つい…。
 あ、でもちゃんと純子さんの分も買って来たからね!

「これからチョコ作るのに、お大福、いつ食べるんですか?」
「後でー。1個、純子さんのだから」
「ふふ」

「お大福は後にして、さっそくチョコ作りましょうか」
「はーい」

 手を洗ってうがいして、キッチンに立つ。
 この間もやったから、何となくは覚えてるけど、出来るかな。

「まずは……チョコ切るんだっけ?」
「チョコ切って、生クリームを温めた中に入れる。それをバットに入れて、冷やして固めたら、切ってココアをまぶす。後はラッピングしたら完成です」
「ラッピングはねぇ、箱にもうリボンとか付いてるヤツにしたの」

 チョコを刻みながら、こないだ蓮沼さんと一緒に買って来たラッピングのことを説明する。
 まぁ、俺の下手くそな説明より、実物を見てもらったほうが早いんだけど。

「でね、俺のセンスで選んだら大変なことになる、て思って、バイトの人と一緒に買いに行ったんだけどね、結局水色のにしちゃったの」
「水色じゃダメなんですか? 仁さんて、水色お嫌いでしたっけ?」
「徳永さんが嫌いかどうかはよく分かんないけど、水色は、俺の好きな色なの。だからきっと、ダメだろうなぁ、と思って」
「その理由…」

 なぜか純子さんがポカンとした顔をするけど、俺、水色の箱買っちゃったの、実は今でもちょっと心配してるんだよね。水色がダメてことじゃなくて、俺が選んだことがね。
 蓮沼さんの言うとおり、自分が納得してないものを贈るのはどうかとは思うけど、俺が選んだのだし…。
 もう買っちゃったから、今さらだけど、ホント、俺が選んだ変なヤツと、俺的には『これはないかも』て思うけど、ちゃんとしてるヤツ、どっちがいいんだろ。



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ビターチョコレートに込めた甘い愛 (50)


「切れましたね。じゃあ生クリームを温めましょうか」
「はいっ」

 お鍋に生クリームを入れて、火に掛ける。
 えっと…、確か、沸騰直前まで温めるんだよね。結構覚えてるじゃん、俺!

「生クリームがあったまったら、チョコ入れるんだよね?」
「はい。火を止めてからですけど」
「あ、そっか」

 いかんいかん。調子に乗って先走ったら、大変なことになる。
 何の間違いもなくやってこないだのレベルなんだから、一瞬たりとも気を抜いちゃいけないのに。

「沸騰直前になったら火を止めて、そんでチョコを入れる…………だよね?」
「はい。チョコを入れたら、よく混ぜてください」
「愛情込めて!」
「えぇ」

 生クリーム、周りがブクブク(フツフツだっけ?)して来たら、火を止めるんだよね。
 そろそろいいかな? そう思ってチラッと純子さんを見たら、純子さんが頷いたんで、オッケーだと思って、火を止めた。

「この中にチョコ…………にゃっ!」

 しまった、チョコ、零しちゃった!

「じゅ純子さん…!」
「大丈夫ですよ。先にこのチョコ、生クリームの中に入れてください」
「う、うん」

 純子さんが言うのは、まな板に敷いた紙の上に残ったチョコのこと。
 零れちゃったヤツが気になるけど、純子さんの言うこと聞いて、紙の上に残ってたチョコをお鍋の中に入れる。
 それで? それで?

「冷めないうちに混ぜて」
「でも、このチョコ…」

 零れた分だけ入れなかったら、こないだと味変わっちゃうんじゃないの?
 それはマズイよ、純子さん!

「これも入れますよ」

 あわあわしてる俺と違って、純子さんは落ち着いて、零れたチョコをササッと紙の上に集めて、お鍋の中に入れてくれた。そっか、そうやって集めればよかったのか。
 でもどうしよう…、絶対に失敗しないぞ、て思って始めたのに、さっそくこの有り様…。

「純子さん…」
「大丈夫。しっかり混ぜてください」
「でも…」
「直央さん。仁さんにおいしいチョコを食べてもらうんでしょう? 最後までがんばりましょう?」
「…ん。がんばるっ!」

 純子さんに励まされ、俺はがんばって生クリームとチョコを混ぜ合わせる。
 まだ失敗したって決まったわけじゃない。チョコ零しただけだもん。
 最後までがんばんないと!



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ビターチョコレートに込めた甘い愛 (51)


「混ざったら、ハチミツとブランデーを入れますからね」
「はいっ!」

 ハチミツとブランデーを混ぜたら、タッパーみたいのに入れるんだよね。バットだっけ?
 それに入れて、冷蔵庫で冷やす。1時間くらい。それから切って、ココアをまぶして完成。買って来たあの箱の中に入れればいいんだよね。

「ハチミツと、ブランデー…………純子さんてお酒飲むの?」
「え? 飲みませんけど」
「ブランデーてお酒でしょ? 飲まないの?」
「これはお菓子用で、風味を付けるためのものですから。普通に飲むのをお菓子作りに使ってもいいですけど、そんなにたくさん使いませんから、使い切れずに残っちゃいますよ」
「そっかぁ」

 お酒もお菓子も奥が深いなぁ、て感心しながら、ハチミツとブランデーを混ぜて、バットに流し入れる。
 今日はもうすでにチョコを零しちゃってるから、これ以上のミスをしないように、慎重にやらないと。

「平らにならしてくださいね。箱の深さは大丈夫ですか? チョコの厚み、」
「えっと…」

 そうそう、純子さんに言われてたから、それ、ちゃんと考えて箱買って来たんだよ。
 箱の深さよりチョコが厚かったら、ふたが閉まんないからね。

「この箱、この厚さなら大丈夫だよね?」

 こないだ買ったラッピングの箱を、純子さんに見せる。
 深すぎず浅すぎずで、ちょうどいいと思うんだけど。

「えぇ、大丈夫と思いますよ。それに、すてきな箱じゃないですか」
「そう? 俺のセンスだけど、大丈夫かな?」
「何も心配いらないと思いますよ」

 蓮沼さんだけじゃなくて、純子さんにもそう言ってもらえると、ちょっと安心する。
 でも、純子さんも優しいからなぁ…。

「ねぇ純子さん、厳しく採点してる?」
「はい?」
「だって、純子さん優しいから…。変だと思ってるなら、遠慮しないで言って?」
「変だなんて思ってませんよ。仁さんが水色お嫌いだって言うならあれですけど、そうでないなら、ちっとも変じゃありませんよ」

 純子さんにそう言われて、俺はようやく納得した。
 だって純子さんは、優しい人だけど、嘘をつくような人じゃないから。

「じゃあ、冷蔵庫に入れて、冷やしましょうね」
「1時間」
「はい」

 1時間冷やしたら、切ってココアをまぶすんだよね。
 固まるまでの間にここのお片付けして、ココアの準備するの。



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ビターチョコレートに込めた甘い愛 (52)


「あら、直央さん、袋の中にまだ何か……バッグとカードが入ってますけど?」
「あ、そうだった。あのね、蓮沼さんが、箱に入れた後、バッグに入れたほうがいいんじゃない? て。この箱、リボンも飾りでしょ? このままだと開いちゃうかもだし」
「確かにそうですね」
「それに、保冷剤も……あっ!」

 しまった!
 こないだ蓮沼さんにチョコ上げたときの保冷剤、蓮沼さんに渡したままだ!

「ゴメン純子さん、こないだの保冷剤!」
「え?」
「こないだ、ホラ、蓮沼さんにチョコ上げるとき、純子さん、一緒に保冷剤入れててくれたでしょ? あれ、まだ返してもらってないっ!」
「あぁ。いいですよ、保冷剤なんて。まだありますから」
「でも…」

 借りたままなのもよくないし…。
 今度バイト行ったとき、蓮沼さんに言うの、忘れないようにしないと!

「ところで、カードは、メッセージカードですか?」
「あ、うん。でも何書いたらいいんだろ…」

 蓮沼さんは、徳永さんへの想いを…とか言ってたけど、そんなの何か言っていいか分かんないし。
 分かんないけど、でもそういうことなんだよね。メッセージのカードだもん。

「ねぇ純子さん、これ何て書いてあるの?」

 二つ折りになってるカードの表のところに、何か書いてあんの。
 でも英語だから、読めない…(いや、俺が勝手に英語だろうな、て思ってるだけで、ホントに英語かどうかは分かんないんだけど。フランス語とか、イタリア語とか?)。

「何て書いてあるか分からないのに、買ったんですか?」
「箱と同じ柄だったから、いいかな、て思って」

 てか、蓮沼さんに乗せられた、て言ったほうがいいかもだけど。

「純子さん読める? てか、これ英語?」
「HappyValentine'sDayじゃありません?」
「ハッピー…」

 …どういう意味?
 ハッピーバースデーだと、お誕生日おめでとうでしょ? じゃあ、ハッピーバレンタインズデーは? バレンタインおめでとう??

 ……………………。

「直央さん、直央さん」
「はっ…!」
「あの…、多分HappyValentine'sDayは定型句みたいなもので、そんなに深く考えなくてもいいと思いますけど…」
「そうなの?」

 まぁ、もう買っちゃったし、今さらダメだって言ったところでどうしようもないし、100均とはいえ、お店で売ってるヤツなのにメッセージがダメとかはないよね。

「後は、俺が何て書くか、か…」
「そこが重要ですね」
「ですよねー」

 あー俺ってバカだなぁ。何で今日までに、カードに何て書くか、考えとかなかったんだろう…。
 でもこればっかりは、純子さんに頼らないで、自分の力で考えないとだよね。

「まぁ、チョコが固まるまでにはまだ時間がありますから、ゆっくり考えましょう」
「うん…」

 すっごく不安だけど、キッチンを片付けて、俺たちはリビングへと向かった。



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ビターチョコレートに込めた甘い愛 (53)


「さて」

 純子さんちのリビングで、俺は気を取り直して、カードに向き合った。
 とはいえ、何を書いたらいいか、全然思い浮かばないんだけどね。

「カードもこの大きさですし、そんなに長い文章でなくていいと思いますけどね」
「うーん…」

 徳永さんへの想いを、一言で。難しい…。
 かといって、長い文章だったら簡単に思い付くかって言ったら、別に全然そんなこともないんだけどね。
 徳永さんに対して何も思ってないわけじゃないのに、何でこうやって書こうとすると、いい言葉が思い付かないんだろうなぁ。

「手作りのチョコですからね。仁さんのことを想って作ったということを書いたらいいんじゃありません? 愛情を込めて作った、て」
「にゃるほど…」

 うむ…、確かに。
 チョコ混ぜるとき、愛情込めたからね。
 それは書いとかないとだよね。

 …………………………。

「直央さん?」

 にゃあ~~~恥ずかしいぃ~~~…!!
 ホントにそんなこと書くの? いや、確かに、愛情は込めましたけど! でもそれをあえて書く、ていうのが!
 何かずっごい恥ずかしくなってきて、俺はジタバタしながらテーブルに突っ伏した。

「純子さぁ~ん、やっぱりカード、書かないとダメかな…?」
「まぁそこは直央さんの気持ち次第だとは思いますけど…、カードだとか手紙は、普段、なかなか口には出来ないことを伝えるのに、ちょうどいいですからねぇ」
「ねぇ~」

 純子さんの言うことが、あまりにも尤もすぎて、どうしたらよいものやら…。
 カードを付けるか付けないかで言ったら、付けたほうがいいのは、バカな俺でも分かるんだ。何を書くか思い付かないだけで。

「ふふ、まだ時間はありますから、ゆっくり考えてくださいな。私、お茶を淹れてきますね」
「あ、お大福あるの、一緒に食べよう?」
「はい」

 普段、なかなか口に出来ないことかぁ…。
 俺、結構何でも徳永さんに言ってるような気がするけど…………まだ何か言ってないこと、あったかなぁ。しかも、メッセージカードに書くのに、相応しいようなことで。

「はい、お茶どうぞ。これ、お大福」
「食べよう、食べよう」

 俺がうにゃうにゃしてたら、純子さんがお茶を淹れて戻って来た。
 あー…どうしよう。純子さんは、時間があるからゆっくり考えればいい、て言ったけど、こんな調子じゃ、あっという間に時間が過ぎちゃうよ。



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ビターチョコレートに込めた甘い愛 (54)


「じゃあ、いただきますね」
「行ってきまーす」
「え?」
「あ、いただきまーす」

 言い間違えちゃったのが恥ずかしくて、俺はごまかし笑いをしながら、両手を合わせた。
 お大福の粉でカードを汚さないようにしないと。

「そういえば直央さん、仁さんのお出迎えしてますけど、朝もお見送りを?」
「え…、うん」
「仲がよろしいんですね」

 あわわわ、そうだ、こないだ、純子さんがまだ帰らないうちに徳永さんが帰って来ちゃって、慌ててお出迎えに行ったの、純子さんに見られちゃったんだ。
 俺は、純子さんに見られちゃって何か恥ずかしいな、て思ったのに、徳永さんてば、全然気にしてないんだもん。でも、純子さんもあんま気にしてないみたいだし…………俺だけ?

「直央さん、照れてらっしゃるんですか?」
「あぅ…。でも、徳永さん、全然そんなじゃないし…。こういうのは照れないのが普通なの? 俺、」
「まぁ、それは人それぞれかと…。直央さん、普段恥ずかしくてそういうことやったり出来ないなら、その気持ちも含めて、カードをお書きになったらいかがですか?」
「…ん」

 確かに…。
 俺にしたら、徳永さんてちょっとオープンすぎるかな、でもそれがセレブなのかな、て思ってたけど、徳永さんはそういうほうが嬉しいんだとしたら、俺は言わなすぎなのかな。
 恥ずかしくて、あんまそういうこと言ったりやったり出来ないけど、今それをカードに書いたらいいてことなんだろうか。
 俺、徳永さんみたいにそういうこと出来ないけど、ちゃんと好…好き、だ、よ……てっ…!!

「ううぅ~~~…」
「直央さん…、そんなに恥ずかしがらなくても…」
「らってぇ…」

 純子さんはそう言うけど、でもだって恥ずかしいっ…!

「けど、直央さんの気持ちの書かれたカードが添えられたら、仁さん、喜びますよ?」
「…ホントに?」
「ホントに」
「絶対?」
「絶対」

 何回聞いても純子さんの答えは同じで、俺はようやく観念した。
 いや、観念て言い方はちょっとおかしいけど…。でも、俺的には結構、覚悟を決めないと、て感じのことだから…。

「えっと…」

 お出迎えのときとか、徳永さんみたいに出来ないけど、ホントはちゃんと好きです…………ホントは? いやいや、『ホントは』とかいらないな。つか、『ちゃんと』てのも、おかしい気がする…。
 普通に『徳永さんのことが好きです』て書けばいいのか(うぅ…恥ずかしい…)。
 あと、『チョコを作りました』て………………あっ…愛情込めてっ…!!



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ビターチョコレートに込めた甘い愛 (55)


「…直央さん、顔赤いですけど、大丈夫ですか?」
「んっ…」

 全然大丈夫じゃないけど、俺はコクコクと頷いた。
 今考えた文章でいいかどうかは分かんないけど、これでいいかどうか純子さんに確認してもらうのも恥ずかしいし、第一、徳永さんへのメッセージを人にチェックしてもらうのもだよね…。
 内容的には、さっき純子さんが言ったことをちゃんと踏まえてるし、大丈夫なはずだから、これで行こう!

「えと…」

 俺、あんま漢字分かんないからな…。でも、ひらがなばっかりだとカッコ悪いけど、間違えて書くよりはいいよね。メールでも間違えてばっかりだから、気を付けないと。

「よしっ! ――――じゃないな…」

 もともと字は下手くそだから、せめて丁寧に書かないと……て思って、何とか書き上げたのを見れば、書き始めと書き終わりで、字の大きさが違う…。
 全然気付いてなかったけど、考えた文章、全部収めようとして、だんだん字が小っちゃくなってっちゃったんだ…。
 最初のほう、大きく書き過ぎてたんだね…。

「書けました? 直央さん?」
「あ、うん…」
「納得のいかない感じですか?」
「ちょっと、字が…。字の大きさが…」

 内容を見られるのは恥ずかしいけど、純子さんに書き上がったカードを見せる。
 はうぅ…。

「だんだん字が小さくなっていってますね…」
「やっぱりそうだよね!? 俺の目の錯覚とかじゃないよね!?」
「じゃないですねぇ…」
「ねぇ~…」

 ガクッ…。
 でも、もう書いちゃったのは直せないし、この変ななったカードを付けるか、カードはなしにするか、どっちかだよね…。

「カードを添えるかどうかは、直央さんの気持ち次第だとは思いますけど、せっかく書いたんですし、カードも渡したらいかがですか?」
「…こんな変なのでも?」
「喜ぶと思いますよ」

 ホントに喜ぶかなぁ…。
 純子さんのことは信用してるけど、さすがにこんなカード一緒に送られても、徳永さんは喜ばないんじゃないかなぁ…て思うんだけど。
 でも、せっかく買ったカードだし、がんばって書いたし、持ってくだけ持ってこうかな。チョコ上げて、雰囲気が微妙だったら、カードを渡すのはやめることにしよう。

「よし、完成」

 バッチリ! とは言い難いけど、まぁ一応カードはこれで良しとするか。
 これ以上、何をどうやっても、事態がよくなるとは思えないからね。



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ビターチョコレートに込めた甘い愛 (56)


「じゃあ、そろそろチョコも固まったでしょうし、見てみますか」
「え、もうそんなに経った!?」

 だってチョコ、1時間くらい冷やさないとだよね? もうそんなに経ったの!?
 信じらんなくて時計を見れば、確かに冷蔵庫に入れてから、もう1時間以上経ってる…。

「ちゃんと出来たかな…」
「大丈夫ですよ、この間だってうまくいったでしょう?」
「でも…、こないだうまくいったから、今回は油断して…」
「直央さん、油断したんですか?」
「してない…………と思う」

 気持ちの上では、油断はしてなかったと思う。ちょっと調子に乗って先走りそうにはなったけど。
 でも、ちゃんと言われたとおりのことをしたんだから、大丈夫のはず…………だと思う。

「ちゃんと固まってますね」
「ホント!? よかったぁ」
「じゃあ、切って、ココアをまぶしましょうか」

 こないだみたいにラップを引っ張って、おっきな生チョコを取り出す。
 あ~ヤバい、さっきお大福食べたばっかなのに、お腹空いてきちゃった。

「直央さん、待って。包丁を温めないと」
「あ、そっか」

 包丁を持って、さっそく生チョコを切ろうとしたら、純子さんに止められた。
 そうだった、キレイに切れるように、包丁を温めるんだった。
 さっき、油断してないと思うとか言ったのに、さっそくこれだ…。

「えへへ、お湯で温めて、ちゃんと拭くんだよね」
「そうです」

 後は、どう切るか…。
 こないだは、何となくの大きさで切ったけど、今回は箱に入る大きさにしなきゃだもん。

「まずこのサイズに切って、それから一口サイズに切り分けたらどうですか?」
「この大きさ? お箸の長さ?」

 純子さんが、お箸を生チョコに当ててる。
 何でその大きさに切ったらいいんだろ。

「お箸のここまでの長さです。箱の大きさ」
「あ、なるほど!」

 純子さん、お箸で箱の大きさを測ってくれたんだ…。
 そっか、箱の大きさが分かってれば、ちょうどいいサイズで切れるもんね。

「じゃあ切りまーす」

 温めて、よく拭いた包丁で、まずは箱の大きさにチョコを切る。
 まっすぐ切れてる? 大丈夫?



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ビターチョコレートに込めた甘い愛 (57)


「よし、切れた!」
「後はこれを一口サイズに切って、ココアをまぶしましょうね。あと、こっちの、箱に入れないところも切ってくださいね。そちらと混ざらないように」
「はーい」

 そうだよね、せっかく大きさ計って切ったのに、他の部分と混ざっちゃったら大変だ。
 さすが純子さん。
 俺なんか詰めが甘いから、絶対みんな混ぜこぜにしちゃって、箱に入れるときに、『あっ!』てなっちゃうと思う。

「ココア…」

 こないだココア零しちゃったから、今日は気を付けないと…………て、今日はもうすでにチョコを零してるんだったっけ…。
 じゃあ、なおのことココアも零せないよね!

「大丈夫ですから、この中にココアを入れて、切った生チョコを入れてください」
「うん」

 ここで箱に入れないチョコと混ぜこぜにしちゃったら、台無しだよね。
 箱に入れる分に、崩れないようにココアをまぶして……

「こんな感じだよね?」
「はい。箱に詰める前に、味見してみますか? まぁ大丈夫だとは思いますけど」
「でも、ちゃんと出来てなかったらまずいもんね。味見しよう、味見しよう」

 誰も味見してないヤツを徳永さんに上げちゃうなんて、無謀もいいところだ。
 よかった、純子さんが気付いてくれて。

「純子さんも食べてね?」
「はい、いただきます」

 箱に入れない部分の生チョコを、2人で味見する。
 さっきお大福食べたのに、甘いもの食べすぎかな。でも、味見だもんね。

「ん、おいしいですね」
「うん、おいひい。大丈夫! 大丈夫だよね!?」
「えぇ、大丈夫ですよ、この間以上においしく出来てます」
「ホント!?」

 それはちょっと褒めすぎなんじゃない?
 いくら1回練習したとはいえ、俺ごときが、そんなにすぐ上達するとは思えないのに。
 でもまぁ、殆どが純子さんの力だもんね。よっぽどのことがなかったら、おいしく出来るよね。

「徳永さんに上げられそうなものが出来た? 出来た?」
「これだけおいしいんですから、十分だと思いますよ」
「でも徳永さんはさぁ、おいしいものとかいっぱい食べてるじゃん? 高級なヤツとか」

 セレブだし…、何よりも、純子さんのおいしいご飯をしょっちゅう食べてるんだもん。
 俺なんかが作ったチョコ、ホントにおいしいって思ってくれるかなぁ…。



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ビターチョコレートに込めた甘い愛 (58)


「高級な料理はおいしいでしょうけど、仁さんのことを想って作ったものには敵わないと思いますよ?」
「でも徳永さん、純子さんのご飯も食べてるでしょ? しょっちゅう。純子さんだって、徳永さんのことを想って作ってるでしょ?」
「まぁ、それはそうですけど…、直央さんが作ったのは、仁さんにとって特別ですから、私の料理だって敵いませんよ」
「…………」

 純子さんの言うことは難しくて、何だか俺にはよく分かんない。
 俺が作ったのは、純子さんよりおいしいとか、あるわけないのになぁ。でも、純子さんがそう言うんだから、そういうことなのかなぁ。うーん…。

「好きな人の作ってくれたものは、他の何よりも勝ると思いますけどね」
「ぅん…?」
「直央さんも、私の作った料理をおいしいって言って食べてくださいますけど、それでも仁さんが作ったもののほうがおいしく感じるでしょう?」
「そう……かな?」

 まだ、徳永さんが作った料理、食べたことないからよく分かんないけど…。

「例えば直央さんが欲しがっていたもの、仁さんがプレゼントしてくれたのと、他の誰かがくれたのじゃ、受け取ったときの気持ちが違いません?」
「ん…、それなら何か分かる気もする…けど、」
「ふふ、きっとすぐに分かるようになりますよ。――――さ、早くチョコを包んじゃいましょう? 保冷剤も用意しないと、融けたら大変ですからね」
「あ、うん」

 徳永さんが喜んでくれるはずだから、てことで始めたチョコ作りなんだからね。
 俺が、そんなわけない、て思ってる場合じゃないよね。

「じゃあ、これ、箱に詰めてくださいね」
「この紙みたいのは? 敷いたままでいいの? あ、何か爪楊枝みたいのも入ってる」

 箱を袋から出して開けてみると、箱の中には何か紙みたいのが入ってた。
 そこに敷いとくヤツかな、て思うんだけど、そこの大きさよりもだいぶおっきいんだよね。

「敷いたまま生チョコを入れて、はみ出た部分を上に被せるんじゃありません?」
「なるほど…。試しにやってみるね」
「箱、正方形じゃありませんから、並べる順番に気を付けてくださいね。じゃないと入らなくなりますから」
「そうだよね!」

 ヤバイヤバイ、箱の大きさに合わせて切ったから、それだけで満足してた。
 そうだよね、切ったとおりの並べ方で入れないと、入んないよね。

「クッキングシートは敷いたままで……そのピックは出してからじゃないと…」
「ピック? これ?」
「手で食べてもいいですけどね、やっぱりこういうのに刺して食べたほうが」
「そっか」

 なるほど。それで最初から爪楊枝がセットになってんのか。
 プレゼントとは別に用意してもいいけど、最初から入ってたほうが便利だもんね。
 100均、侮れない。



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ビターチョコレートに込めた甘い愛 (59)


「入れるときに、崩さないように気を付けてくださいね」
「はいっ」

 うー…、最後の最後で失敗しちゃいそう…。
 俺ってそういうヤツだもん。

「直央さん、手が震えてます」
「だってぇ…………入ったぁ!」

 生チョコ崩れやすいって言われてたから、すっごい緊張したー。
 ここで崩しちゃったら、今までの努力が水の泡だもんね。

「直央さん…、箱に入れるだけでそんなに緊張してて、家までちゃんと持って帰れますか?」
「ねっ。大丈夫かな?」
「プレッシャーを掛けるつもりはありませんけど、気を付けてくださいね」
「うん」

 一応こないだ蓮沼さんに上げるとき、コンビニまでちゃんと持ってけたんだから、大丈夫だとは思うけど、転んだりしないように気を付けよう。

「じゃあ、このクッキングシートを上から被せて、それからふたをして…」
「おぉ~、プレゼントぽい!」

 100均で買って来た箱だけど、こうして見ると、ちゃんとプレゼントみたいに見える!
 中身は俺の作ったチョコだけど。

「このバッグの中に入れていくんですね? じゃあ、保冷剤も用意しましょうね」
「はいっ」
「家に帰ってから、仁さんに渡すまでに時間があるようでしたら、冷蔵庫に入れてくださいね」
「はいっ」

 はわぁ~…完成したぁ…。
 徳永さんに上げるチョコ!
 こんなんで徳永さんが喜んでくれるかな、て思ってたけど、完成してみると、何か嬉しい! まだ上げてないし、徳永さんの反応も見てないけど、すっごい達成感。
 あとは、浮かれて転んだりしないように気を付けるだけだ!

「直央さん、カード入れ忘れてますよ」
「あわわわわわわ」

 渡すかどうかはまだ迷ってるけど、持って帰らなきゃ、渡すに渡せないじゃん。
 しかも、こんなの純子さんちに置いて帰るなんて…………もし読まれちゃったら、恥ずかしすぎる!! ――――て、さっき字の大きさ確認してもらうとき、見てもらったんだった…。
 俺、あんなこと書いちゃったの、純子さんに…。あのときは、字の大きさのことにばっか気を取られてたからなぁ…。

「今度こそ完成ですね。後は仁さんに渡すだけです」
「まぁ、そこが一番の問題だけど…。ちゃんと持って帰って、徳永さんにちゃんと渡す。それが出来て、初めて完成と言えるっ!」
「直央さん、力入ってますね…」
「だってさ、ここまでやったのに、転んでダメにしたりしたら…」

 俺のことだけに、やりかねない!!

「大丈夫ですよ、自信を持って」
「うん。純子さん、いろいろとありがとうございました! 俺、がんばるね」
「はい」

 純子さんと蓮沼さんにこれだけ手伝ってもらったんだもん。
 最後までがんばんないと。
 そんで2人にいい結果を報告するんだ!



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ビターチョコレートに込めた甘い愛 (60)


 帰って来てすぐにチョコを冷蔵庫にしまって、夕ご飯の支度もして、徳永さんをお出迎えする準備はバッチリ。
 転ばないでお家まで帰って来れたしね!

 チョコ、どのタイミングで渡したらいいのかな。
 ご飯の前? でも、チョコ食べたら、ご飯食べられなくなっちゃうかもしんないから、ご飯の後かな。あ、でもそしたら、チョコが食べらんなくなっちゃうか…。
 うぅむ…、どうしよう…。

「…ただいま」

 あっ、徳永さんが帰って来た!
 お出迎え、お出迎え。

「徳永さん、お帰りなさいっ!」
「…ただいま」
「??」

 あれ?
 徳永さん、いつもと感じが違う??

「えと、徳永さん…」
「ぅん? あぁ、ちゃんと手洗ってうがいして来るよ」
「え、うん」

 あれあれ??
 いや、手洗いとうがいは正解だけど…。
 いつもだったら、あの、その……ねぇ?

「徳永さんっ」

 俺の横をすり抜けて洗面所に行っちゃった徳永さんを追い掛ける。
 洗面所で、徳永さんはしっかり手洗いとうがいをしてた。

「…何? 大丈夫だよ、ちゃんと手も洗ったし、うがいも3回くらいした。もっとしたほうが?」
「うぅん、大丈夫」

 3回もうがいしたら、大丈夫だよね。
 うがいはね、短いのを何回もするよりも、1回あたりの時間を長くしてやったほうが効果的だって聞いたんだけど、ホントかな――――て、それどころじゃなくて!

「徳永さん、どうしたの? 何か、その…」

 何かいつもと雰囲気違うのは分かるんだけど、それをどう聞いたらいいかが分かんない。
 こういうときはストレートに聞いたらいいんだろうか。

「…直央くん、今日バイトだったんじゃないの?」
「えっ!?」

 俺が、どう聞いたらいいんだろ、てゴチャゴチャ考えてたら、そんな気持ちを見透かしたみたいに、徳永さんのほうから話を切り出して来た。
 でもそれは、俺にしたら、すごい思い掛けない質問で、ビックリしすぎて固まってしまった。

「今日、外回りのときさ、直央くんのバイトしてるトコの近く通ったから、ちょっと寄っちゃったんだよね。そしたら、今日直央くんバイトの日じゃない、て言われちゃって」

 そういえば今日の朝、徳永さんに『バイト?』て聞かれて、思わず『うん』て言っちゃってたんだった…!
 てか、徳永さんに嘘ついたみたいになっちゃってヤダな、て思ってたはずなのに、純子さんと一緒にチョコ作るのが楽しくて、そんなこと自体、すっかり忘れてた…。



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ビターチョコレートに込めた甘い愛 (61)


「直央くんが出掛けるの、どこ行くのとか、いちいち言う必要はないけど、何かこう…ごまかされると、余計なこと考えちゃうじゃん?」
「それは…」
「ただでさえ、ここんとこずっと、直央くん、いつもと様子違ってたから」
「えぇっ!?」

 いつもと様子違う、て…………俺、ずっと、いつもどおり作戦で行ってたのに、もしかして、ずっとバレバレだったの?
 俺、徳永さんにチョコ上げたら喜んでくれるかな、て1人で浮かれてたけど、その間、徳永さんはずっとモヤモヤしてたんだろうか。

「何か事情があって、直央くんそう言ったのかな、て思うけど、直央くんに嘘つかれたのが悲しい…」
「……」

 確かに俺が嘘ついたことに違いはなくて、そんなつもりじゃなかったけど、でも、徳永さんのこと、悲しませちゃった…。ホントは徳永さんのこと、喜ばせたかったのに。
 てか、そもそも俺の作ったチョコだし、その時点で、喜ぶとかないよね。
 蓮沼さんとか純子さんがいろいろ言うから、ついその気になってた。

「ゴメ…」
「ゴメンね、直央くん」
「えっ」

 謝ろうと思ったら、徳永さんに先に謝られた。
 何で徳永さんが謝るの? 意味分かんない。
 俺が呆然としてたら、徳永さんに頭をポンポンて撫でられた。

「俺、直央くんのことになると、心狭くなっちゃうんだよ。ゴメンな、変なこと言って」
「…………」
「ご飯にしよっか」

 それはホントにいつもの徳永さんみたいな感じで、何かうっかり騙されちゃいそうになるけど、いくら俺が鈍感でも分かる。徳永さん、ホントはまだ言いたいことあるのに、話、終わらせちゃったんだ…。
 ずっと気にしてたみたいなのに、もういいの? どうでもよくなっちゃった?

「徳永さん…」

 でも、徳永さんがそのほうがいいなら、俺も何でもないふうにしたほうがいいのかな。
 これ以上、徳永さんに嫌な思い、させないほうがいいもんね。

 けど、チョコどうしようかな。
 今さら上げらんないよね…。
 別に俺の作ったチョコだし、上げなくたって、そんなのどうでもいいけど、でも、純子さんと蓮沼さんにお世話になったのに、上げないとか、どうしよう…。
 絶対に2人から、『どうだった?』て聞かれるよね。
 上げなかったなんて言えないし、でも、上げてないのに上げたなんて言ったら、また嘘つくことになっちゃう…。 

「直央くん?」
「あ、はい」

 徳永さんに呼ばれて、俺は急いでキッチンに向かう。
 ご飯にしなきゃ。
 でも今日は純子さんの来ない日だから、俺の作ったご飯なの。ゴメンなさい。



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