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溺れてしまえ (10) R18
互いの腹は、翔真の放った精液で濡れている。
「…イッちゃった」
翔真はノロノロと腕を動かして、真大の腹にも飛び散っていた自分の精液を指で掬い上げた。
「イッちゃったねぇ」
最後のほう、翔真はずっと真大の首に腕を回していたし、真大もずっと翔真の腰を支えていたから。
だからつまり。
真大の言葉どおり、翔真は昂ぶった前に触れることなく、絶頂に達してしまったわけで。
「擽ったいよ」
擽ったがる真大に構わず、翔真は、指先に絡めた精液をツッ…と真大の鎖骨に伸ばした後、その指で、まるで紅を引くように真大の下唇に指を滑らせ、そのまま口の中に指を押し込んだ。
青臭い味に、真大は少しだけ眉を寄せたが、入り込んできた2本の指を丁寧にしゃぶっていく。
「ん…ん、」
自分から仕掛けておきながら、翔真のほうが先に我慢できなくなったようで、ピクンと腰が震え、まだ繋がったままの中が蠢いた。
「ちょっ、ひょ、ひょーま、くっ…」
「うは、言えてねぇー、んぁっ!」
指を銜えているんだから、うまく喋れるわけがない。
自分でそうしておいて翔真が楽しそうに笑っているから、ちょっと仕返しがしたくて、真大は軽く腰を突き上げた。
「あ、あっ…バカ…」
真大の口から指を引き抜いて、翔真は慌てて真大の肩に縋った。
「バカ、バカッ…、真大ぉ…!」
「ゴメ…ゴメンてばっ! ちょっ締めないでよっ…!」
翔真がバシバシ真大の肩を叩いてきて、それは全然力が入っていなくて痛くも何ともないからいいけど、繋がった状態でそんなに暴れられると、そっちのほうがヤバイ。
あれだけやったのに、また反応してしまいそう。
「も…ムリ…、あ、はぁっ…」
弱々しい抵抗の後、翔真は再びくたんと真大に凭れ、その肩に頭を乗せた。
これ以上、意地悪をするのもかわいそうなので、真大は翔真をベッドに横たえると、中から自身を引き抜いた。
「はぁっ…ん…」
翔真の体は、真大のモノが抜け切る瞬間にブルリと震えたきり、くったりとしたままは動かない。
ちょうど横向きになって、顔に髪が掛かっているので、その表情が読み取れない。
「翔真くん?」
真大はコンドームをゴミ箱に捨てると、翔真の隣に横になって、前からその体を抱き寄せた。
顔に掛かっていた髪を払い除け、赤く濡れた唇にそっとキスをすれば、翔真の腕も真大のほうへと回ってきた。
「も…ぜってぇ明日、腰とか痛ぇと思う…」
キスの合間に、翔真がぼやくように小さく呟いた。
しかし、シタいと言って、わりと無理やり始めてしまったのは自分なので、あまり文句を言えないのは分かっている。
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溺れてしまえ (11)
髪を撫でながら尋ねれば、翔真はまた1つ、鼻を啜る。
今日は結構泣いていたから、まだ鼻がグズグズしているようだ。
「…シタかったの。いーじゃん!」
「別にいいけどさぁ。翔真くん、1人でシないの?」
「シねぇ。だって寮…。途中で慶が帰って来ちゃったら、どーすんの?」
「あはは」
いくら同室の慶一郎が、恋人である成亮のところにしょっちゅう行くからといって、いつ帰って来ないとも限らない。
翔真はオナニーにそんなスリルを求めていないし、それこそ真っ最中に帰って来られても、お互い気まずいだけで、何のいいこともない。
「てか、疲れた。眠ぃ…」
そう言った翔真の瞳は、本当に今にも寝てしまいそうなくらい、トロンとしている。
真大は女の子じゃないから、セックスの後に彼氏がさっさと寝たって、別に憤りはしないけれど、寝るなら、風呂に入るか、せめて体に付いている精液くらいは拭いたほうがいいのでは? とは思う。
「翔真くん、ちょっと待って、ね、ちょっと離して」
「ヤダ…」
「ヤダじゃなくて。お風呂入んないの?」
「うー…」
翔真に抱き付かれたままの今の状態では、風呂どころか、ティシューも手が届かないし、一体どうしたものか。
このまま寝たら、起きたとき、絶対にひどい。
「ベタベタのまま寝んの、ヤでしょ? お風呂入ろうよ。洗ったげるから」
「…ん」
今すぐにでも眠りに落ちてしまいそうになりながら、翔真はようやく決心したのか、頷いた。
日ごろから寮でみんなと風呂に入っているせいか、元からの性格なのか、翔真は普段から、真大が恋人的な意味で風呂に誘っても、恥ずかしがらない。
昔の彼女とも…なんて、嫉妬しないばかりではないが、今ばかりは手が掛からなくて助かったと、本気で思った。
「真大ぉー」
「ぅん? てか、起きるくらい自分で起きてよ!」
起こして、と両腕を真大に向って伸ばしている翔真に、真大は文句を言いつつ、その手を引っ張ってあげる。
「ねぇ、真大。ねぇねぇ」
「何?」
「お風呂でもする?」
「はいー!?」
それは大変魅力的なお誘いではあるけれど、先ほどから、疲れただの、眠いだの言っていたのは翔真のはずなのに。
恐らく真大をからかいたいだけだとは思うけれど、今日の翔真は、スイッチの入りどころがよく分からないから、気を付けないと。
「…しないよ、お風呂だけ」
「マジかよー」
それでもケタケタ笑いながら、翔真は真大にくっ付いている。
もしかして、風呂場まで連れて行け、とか言いたいんだろうか。
「翔真くん、ちょっ、自分で立ってよっ」
「んだよ、連れてけよー」
「お風呂、そこじゃん!」
いくら翔真が疲れているとはいえ、風呂場までは徒歩10歩ほどだ。そのくらい立って歩けないはずがない。
なのに、翔真は真大に負ぶさらんばかりに引っ付いて、離れようとしない。
「ねぇちょっと翔真くん!」
「いーじゃん、くっ付いてたいんだよ、お前と!」
「、」
ずっと。
ずーっと、ね!
*END*
back
ずっと書きたかった翔ちゃんの欲求不満ネタ。
大好きなAV女優さんのDVD見たら、それがめっちゃかわいくて、これが翔ちゃんだったら…て妄想した。
こういうプレイの作品ではなかったんですけどね。ていうか、それ以前に性別も違うんですけどね。
でも妄想は容易い。
それにしても、私が書くと、エロがエロくないっていうマジック。
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指切りげんまん
2人でいっぱい愛し合った後、シャワーを浴びて、ベッドの中でまったりとしていたら、突然悠ちゃんが指を絡めてきた。
「どうしたの?」
けれど悠ちゃんは何も答えず、1本1本、指を絡めて。最後に小指同士を絡げた。
「悠ちゃん?」
何も言わない。
悠ちゃんは視線を上げて、俺の目をジッと見つめた。
「どうしたの?」
「指切り」
「ん? あぁ、そうだね」
「指切りげんまん、嘘ついたら針千本飲まーす」
決して軽やかとは言えないリズムでそう歌い上げた悠ちゃんが、「指切った」って言って、2人の小指を離した。
「何の指切り?」
「さっき言ったこと」
「さっき?」
「嘘だったら、針千本ね?」
きっと俺はよほどキョトンとした顔をしているんだろう。悠ちゃんはクスクス笑いながら、胸元に擦り寄ってきた。
「さっき言ったでしょ? 拓海」
「いつのさっき?」
「さっきはさっき。お風呂入る前」
お風呂入る前? って、あぁ、セックスしてるときのことね。
何言ったかな?
結構いろいろ喋ってると思うけど…………指切りさせられるような、大事な何か、言ったっけ?
「さっき、言ったじゃん…………『ずっと一緒にいよう』って……」
言って恥ずかしくなったのか、悠ちゃんは耳まで赤くして、俺の胸に顔を押し付けてきた。
かわいい。
「あのさぁ、悠ちゃん」
「……な、に…?」
「そんなの、指切りするまでもねぇんだけど」
「……え?」
今度は悠ちゃんがキョトンとする番。
不思議顔で俺のことを見上げてきた。
「そんなことしなくたって、ずっと一緒に決まってるでしょ?」
離れた小指、もう1度絡めて。
ずっと、一緒にいよう。
*END*
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Queen Beeの眠れぬ夜 (1)
湿気っぽい臭いの体育倉庫で、重ねられたマットの上に座った水瀬は、ボンヤリと思っていた。
隣に座っているのは、1学年上の先輩。男。
水瀬の肩を抱いて、何やらしきりに喋り掛けているが、殆ど頭に入って来ていなかった。
この倉庫は、マットとか跳び箱とか、本当に体育の授業でしか使わない道具しか置いておらず、ボール類はもう1つの準備室にしまわれているから、昼休みに体育館で遊ぶ生徒たちは、こちらには来ない。
そんなところに、意味ありげに水瀬を連れ込んだ理由は1つしかないだろうに、今さら何を緊張しているのやら、先輩は汗ばんだ手で水瀬を抱き寄せたきり、無駄に喋っているだけだった。
(何か、コイツとすんの、面倒くせぇ)
水瀬はチラリと、隣の先輩を見遣った。
頬の辺りが、ニキビでデコボコしている。何だか見た目も全体的にむさいし、ちょっと暑苦しい。
まぁ、はっきり言うと、水瀬の好みのタイプではなかった。
恋愛対象として本気で好きになるなら、外見なんて二の次だけれど、体だけの関係を楽しむのなら、やはり見た目は非常に重要だと思う。
それか、テクニック。セックスのテクだけでなくて、いろいろな面で、もっとスマートに行動するとか。
少なくとも、あまり時間のない昼休みに、連れ込むだけ連れ込んで、一方的に喋って無為に時間を費やすような男は、対象外もいいところだった。
(でもご飯、ご馳走になっちゃったしなぁ…)
実は昨日、学食で一番高いメニュー+一番高いデザートのプリンをご馳走になってしまった義理があるのだ、水瀬には。
彼が下心ありで近付いてきているのは、もちろん分かっていたのだが、そのときはどうしてもそのプリンが食べたかったので、素直に奢られてしまった。
ご飯くらいで、逃げ出そうと思えば逃げ出せるけれど、食べ物の恨みは怖いと言うし、こういうタイプはうまく扱わないと後々面倒くさいことにもなりそうだし……と、水瀬は仕方なくその場に留まっていた。
「…ねぇ先輩」
「えっ!?」
今まで1人でベラベラと喋っていた先輩は、水瀬に声を掛けられて、声を引っ繰り返して返事をした。
「俺、お喋りするなら、こんなトコじゃヤダ。別のトコ行こうよ」
「いやっ、あのっ」
分かっていて水瀬がそう言えば、先輩はあからさまに焦り出した。
彼とて、水瀬とお喋りがしたいから、こんなところに連れて来たわけではないのだ。
わざわざ水瀬に声を掛けて来て、体育倉庫に連れ込んだくらいなのだから、恐らく童貞ではないだろうけど、きっと経験は少ないんだと思う。
ベッド以外でシたことないのかな? などと思いながら、水瀬は先輩のももに手を置いた。
「他にシたいことあるなら、早くシようよ。お昼休み、終わっちゃう」
5時間目に体育の授業があったとしても、グラウンドでやるだろうから、ここには誰も来ないだろうけど、どうせやるならさっさとやって、こんなカビ臭いところからは早く出たい。
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Queen Beeの眠れぬ夜 (2) R18
「う…うん」
先輩が、ゴクリと喉を鳴らしたのが分かった。
それからゴツい手が、水瀬の体をまさぐり始めた。キスされそうになって、何となく嫌で顔を背けたら、唇の端に先輩の唇が押し当てられた。
(ちょっ…もーコイツ、がっつきすぎっ!)
ブレザーの中にも手が入って来て、シャツの上から胸を撫でられる。手付きがガサツで乱暴だから、さらに嫌気が増した。
基本的に水瀬は、セックスでは主導権を取りたいタイプだし、相手が男だったら、もっとお姫様扱いされたいのだ。
「ねっ…先輩っ…」
「んぁっ…」
水瀬はスラックスの上から、昂り始めた先輩のモノを握った。
途端、先輩の動きが大人しくなる。
「シてあげるから、そこ座ってて」
水瀬は先輩を押し退けてマットから下りると、椅子に腰掛けるみたいな体勢でマットに座っている先輩の足を開き、スラックスの前を寛げた。
「…デカイね、先輩の」
先輩の足元に蹲り、硬さを増してきている彼のモノを擦り上げながら、水瀬は上目遣いに見上げた。
瞳が欲望でギラギラしている。
「ッ…」
タラッ…と、その昂りに唾液を垂らし、滑りを良くして、さらに手を動かす。
頭上から、先輩の荒い息が聞こえる。
「ね、マジ先輩の、デカイね。…こんなデカイと、俺ん中、入んないかも…」
水瀬がそう言えば、先輩は困惑したように水瀬を見ていた。
そう言われても、どうしたらいいかが、きっと分からないのだろう。この昂ったモノを、このままにされても困るし。
「ウンと慣らせば入るかもだけど、そんな時間ないし…………口でシてあげるから、それで許してくれる…?」
「ぇ、あっ…」
「…ダメ?」
たっぷりと雰囲気を作って顔を覗き込めば、先輩の喉が上下した。
その間も、水瀬の慣れた手が、先輩のモノを擦り上げ、高みへと上らせていく。
「口で…?」
「…ん。ダメ? ヤダ?」
戸惑っている先輩に、水瀬はベェー…と、赤い舌を覗かせた。
先輩はもう一度喉を鳴らすと、「じゃあお願い」と、何ともか細い声で言って来た。
「ふふ、先輩、彼女から口でシてもらったこと、ないの?」
「ないっ…」
「ふーん。じゃあ、俺が1番だね」
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Queen Beeの眠れぬ夜 (3) R18
誘うように笑って、水瀬はブレザーのポケット取り出した飴を口に含むと、硬くなっている先輩のモノを口に入れた。
息を詰める音。
フェラが未経験というのは本当らしく、先輩はやり場のない手を、マットの上でギュッと握り締めていた。
だったら話は早い。
これだけ興奮しているし、イイトコロだけを攻め上げたら、あっという間に達してしまうに違いない。
「ひぇんはい」
「ンッ、く、ちょっ…」
昂ったモノをしゃぶりながら水瀬が喋り掛けるので、焦った先輩の手が水瀬の頭に掛かった。
銜えられたまま喋られて、いろいろと感じてしまって慌てたのだろうが、水瀬の頭を引き剥がそうと伸びた手に思いのほか力が入っていたので、引っ張られた髪の毛が痛くて、水瀬は眉を寄せた。
(もー、コイツ最悪っ!)
段々とイライラも募って来て、水瀬は本気の舌遣いで先輩を攻め立てた。
さっさとイカせて、さっさと終わらせよう。
「あっ、ッ、ちょっ、水瀬、くっ…」
口に入り切らない部分を指で擦り上げながら、陰嚢も揉み込めば、切羽詰まった声がして、水瀬の口の中のモノが、ビクンビクンと震える。
それでも水瀬は休むことなく頭を動かして、唾液を絡めてわざと音を立てながら吸い上げた。
「――――ッ…」
水瀬の舌の上で、とうとう熱が弾けた。
先輩の精液が口の中に流れ込んで来て、水瀬は飲み込みこそしなかったけれど、すべて口で受け止めてあげた。
「はぁっ…はぁっ…、あ、ちょっ、ゴメ…!」
初めてのフェラで、相手の口の中に放出してしまって、先輩も相当慌てていた。
この様子なら、飲まなくても平気だな、と判断して、水瀬は持っていたティシューの中に精液を吐き出した。
「水瀬くん、あのっゴメンねっ」
「…へーき、別に。つか量多いね。溜まってたの?」
先輩のモノもキレイにしてあげて、スラックスを整えてあげた。
これだけサービスすれば、もういいだろう。
「あ、あの、水瀬くんは…?」
「え? …あぁ、別に平気」
何を尋ねられているのかと思ったら、どうやら彼は、水瀬の下半身の心配をしているようだった。
自分だけ気持ちよくしてもらって、相手をないがしろにするのは…と、彼なりの紳士的精神だったらしいが、絶対に下手そうだし、もう係わりたくないので、水瀬は丁重にお断りした。
気分が乗っていれば、フェラしていて自分も感じて来ることはあるけれど、今日に限っては、間違ってもそれはなかった。
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Queen Beeの眠れぬ夜 (4)
早くイカせようとしていたのも事実だが、それにしたって早漏すぎると思う。
彼女とするときもこんななの? つか、彼女いんのか? なんて、さっきまでフェラをしてあげていた男に対して、水瀬は大変に失礼なことを思っていた。
「あ、チャイム…。これ予鈴だよね?」
「うん」
「先輩、先行って? こっから一緒に出てくトコ、誰かに見られたくないでしょ?」
この時間、絶対に用事のない場所から2人して出て来れば、何かあったのだと勘繰られても止むない。
嘘か誠かこの先輩も彼女持ちのようなので、余計な噂が立っても困るだろうと気遣うふりをして、さっさと先輩を体育倉庫から追い出した。
(あー…ダルイなー。次何だっけ。サボっちゃおっかなぁ)
水瀬は、英語以外は成績優秀で、テストでも80点以下は取ったことがないし、裏ではこんなことをしていながら、表面上は素行が悪くないため、教師受けもいい。
授業をサボるということも滅多にないから、1時間くらいサボったところで、どうということもないだろう。
水瀬は精液まみれのティシューを放り投げると、舐めていた飴も吐き出した。
本鈴が鳴り、周囲が静まり返ったのを確認すると、水瀬はこっそりと体育倉庫から出た。ここならサボるのに見つからないかもしれないが、ゆっくりするには環境が劣悪過ぎだ。
時間を潰せる場所と言ったら、やはり保健室だろう。適当な理由を付けて、ベッドで寝かせてもらおう。
「お邪魔しまーす」
先生の声や、時々生徒の笑い声の漏れる廊下を通って保健室まで行くと、水瀬はソッと戸を開けた。
「ぅん? 何? サボりか?」
水瀬が声を掛ければ、机に向かっていた保健医の野田佳織(ノダ カオリ)が振り返った。
もちろんサボり目的で来たのだけれど、一応『先生』なんだから、そんなこと軽々しく言わないでもらいたい。
「お腹痛いの。寝かして」
「ん。2年…何組だっけ?」
「3組、水瀬環」
「2年3組水瀬環、はらいた。はい、ベッドそっち」
佳織はベッド使用者の受付簿に、水瀬の名前と症状を書き込むと、ボールペンの先でベッドを差した。
「薬飲むか?」
「いらない」
「そりゃそうだ」
薬はいらないけれど、さっきフェラしてやってから口も濯いでいないということに気が付いて、水瀬は流しのところで何度かうがいをしてから、ベッドに向った。
水瀬がもそもそとベッドに潜り込むと、佳織はその周りを囲むカーテンを引いてくれる。
これだけ物分かりのいい保健医だというのに、意外にも隣のベッドは空いていて、サボりで来たのは水瀬だけだったらしい。
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Queen Beeの眠れぬ夜 (5)
高校生くらいの男子なら、彼女目当てに、意味もなく保健室を訪れそうな気もするが。
水瀬は、5時間目を休むと同じクラスの篠崎にメールすると、心地よいベッドのスプリングに、満足そうに目を閉じた。
やっぱり体育のマットの上じゃ、寝るにもやるにも、ダメすぎる。
先ほど口でシてやった先輩の顔は、もう忘れていた。
*****
「――――……なせ、水瀬、起きろよ」
「んー…」
…………。
……お母さぁーん、あと5分…。
「…て、誰がお母さんだっ!」
「ギャッ」
ガバッ! と温かなふとんを剥ぎ取られ、水瀬は軽く悲鳴を上げて、身を縮こまらせた。
気持ちよくぬくぬくしていたのに、一気に寒くなって、水瀬は慌てて目を開けると、周囲を見回した。
「あ、あれ? 石田?」
「お前なぁ、寝過ぎ」
気持ちよく眠っていた水瀬を揺り起していたのは、母親でも何でもなくて、幼馴染みの石田だった。
しかもここは家でなくて、学校の保健室で。
水瀬はもそもそと起き上がって、目を擦った。
「…何で石田がいんの?」
「何で、て。迎えに来てやったのに、その言い草?」
本当にわけが分からなくて水瀬が尋ねれば、石田は嫌そうな顔をした。
見れば、石田の手には、自分のカバンの他に、水瀬の荷物もある。
え、もしかしてもう放課後?
「教室行ったら、篠崎に保健室だ、て言われたから」
「それで迎え来てくれたんだ。ご苦労ご苦労」
わざと偉そうに言って、水瀬は石田から荷物を受け取った。
ベッドから下りて、保健室の壁掛け時計を見れば、確かにとっくに今日の授業は終わっている時間だった。
「センセー、何で起こしてくんなかったの? 俺、6限は出るつもりだったのに」
「頼まれてない」
佳織はシレッとそんなことを言って、携帯電話から顔を上げた。
最初から水瀬がサボり目的で来たことは分かっているので、特に病状を心配する素振りも見せない。
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Queen Beeの眠れぬ夜 (6)
「帰るもん」
パチンと閉じた佳織の携帯電話が、意外とかわいらしいタイプだったので、水瀬は何となく笑った。
まだちょっと眠いけれど、石田も迎えに来てくれたし、授業も終わっちゃったし、今日は帰ることにしよう。
「センセイ、さよーならー」
「はい、さよーならー」
小学生の挨拶に返すように、佳織ものろのろと手を振って、2人を見送った。
「石田、今日ウチ来る? 来るよな?」
「え、お前んち? いいけど腹は? 痛ぇんじゃねぇの?」
「は? 腹?」
何のこと? と水瀬は首を傾げたが、よく考えたら水瀬は、『腹痛』という理由で保健室にいたんだった。
あんなに雑に水瀬のことを起こしておいて、もしかして石田、本気にしているんだろうか。とりあえず、いろいろ言うのも面倒くさいので、もう治ったということにしておいた。
*****
別に、石田を家に呼ぶことに、特に意味はなかった。
意味はないと言うか、いつものことすぎて、意味を持たせる必要もないというか。
相変わらず両親は留守で、水瀬の家は空っぽで。
水瀬は自分の部屋に石田を連れ込むと、なぎ倒すように、石田をベッドに上げる。
…まぁつまり、そういうこと。
「相変わらず、がっついてるね、あなた」
ベッドに押し倒し、腹の辺りを跨いで乗っかって来た水瀬に、石田は嫌がるでも呆れるでもなくそう言った。
目的も言わずに石田を家に呼ぶときは、大体がこのパターンであることを、石田は腐れ縁とも言うべき長い付き合いの中で学習済みだ。
しかも、口数が少ないときは、甘やかしてほしいとき。
石田にとって、水瀬はとっても分かりやすい。
「…ん」
石田の腹に乗ったまま、彼のシャツの襟を掴み上げて、唇を奪う。
そうすると頭が浮き上がってしまい、体勢が苦しいので、石田は片方の肘を突いて少し体を起こすと、もう一方の手で水瀬の頭を抱いた。
癖のないふわふわの髪を撫でていたら、水瀬はキスを解いて、石田に抱き付いて来た。
どうやら今日は、本格的に甘えたいらしい。
水瀬が襟から手を離してくれたので、石田はもう1度、背中をベッドに預けると、片手で頭を撫でながら、反対の手を腰の辺りに彷徨わせた。
(…気持ちい…。…石田のクセに)
心の中で勝手な言い掛かりを付けて、水瀬は再び石田にキスを仕掛ける。
舌を入れようとして、でも石田が口を閉ざしていて、ムカつくから乗っていた腹の辺りに体重を掛けたら、『やめなさい』という感じに、ポンと頭を叩かれた。
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Queen Beeの眠れぬ夜 (7) R18
「…石田、口開けろ」
命令。
石田は少し笑ってから、言われたとおりに口を開けた。
「ん…」
水瀬は自分の唇を舐めてから、満足げに石田の口に舌を忍び込ませた。
石田はすぐに、水瀬の好きなように舌を絡めてくれる。
そう言えば、今日の昼休みに相手をした先輩とは、キスをしなかったことを水瀬は思い出した。
だって、何か嫌だったし。
キスは嫌なのに、フェラは出来るのか、と突っ込まれると返事のしようがないけれど、でも何か嫌だった。下手そうだったし。
キスもセックスも、やっぱり気持ちいいのが好き。
石田とキスをするのは、気持ちいいからに違いない。うん、石田のキスは気持ちいい。キスがうまいのかな?
「ぁっ…」
石田の口の中を舐め回して、舌を絡めていたら、不意に舌先を噛まれて、ビクッと肩が跳ね上がった。
石田の足がわずかに動いて、その膝が水瀬の中心に押し当てられる。
「なぁ…、お前もう感じてんの? キスだけで」
少しだけ唇を離され、石田が問い掛けて来る。
認めたくはないけれど、しかしそれは紛う方ない事実で。
(…だって、気持ちいーし)
キスだけで、と言われても、それは仕方がない。
お昼休みの彼には、何だか申し訳ないんだけれど。
「ヤッ…ちょっ石田っ、んぁっ…」
グリ、と強く膝で押されて、水瀬の体が跳ねた。
膝で刺激され、ジワリジワリと快感が広がっていく。
逃げたくても、石田に腰を抱かれていて、出来ない。石田なんて、水瀬より背が高いだけで、筋肉も力もてんでなくて、負けるわけがないのに。
「…もっと、ちゃんとして」
何で俺がおねだりしなきゃなんないの?
そんなの、言わなくたって、みんなしてくれんのに。してくれるようなヤツじゃなきゃ、やりたくないのに。
でも石田相手には、それが通用しなくて。
なのに、石田とセックスしたいなんて、何でなの。
「石田、」
「…ん」
石田はごまかすみたいに水瀬の頬にキスをすると、体を起こして、丁寧な仕草で水瀬の制服のネクタイを解いて、ジャケットも脱がせてくれる。
「寒い?」
シャツ1枚になって、少しだけ水瀬が体を震わせたのを見逃していなかったらしい。ボタンに手を掛けていた石田が尋ねて来た。
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Queen Beeの眠れぬ夜 (8) R18
目聡い石田が悔しくて、「別に平気だし」と強がったのに、石田はリモコンに手を伸ばして、エアコンを点けてくれた。
「平気、て言った」
「俺が寒いんだよ」
素直になれない水瀬に、別に何でもないって顔で自分のせいにして、石田は水瀬のシャツのボタンを外し、下着ごとスラックスを足から抜いてやる。
水瀬も石田のジャケットを脱がし、ネクタイに手を掛けた。
「石田ー、口でシてやろっか?」
ネクタイの両端をそれぞれ持って、グイグイと引っ張りながら、言ってみる。
上からなのは態度だけでなく、石田のももを跨いでいる体勢のせいで、目線も。
「苦しいってば。締めんなよ」
ネクタイを外すんでなくて、さらにキツク締め上げたら、石田が手を重ねて来た。
キレイな手。
水瀬より、少しだけ大きい――――指が長いせい。
「ちょっ、水瀬、締まる締まるっ」
苦しがる石田に、なぜか水瀬の中のS心に火が点いてしまって、おもしろがって水瀬は手に力を込めた。
焦った石田の顔。
ホラ。石田だって、俺の思いどおりになるんだから。
「――――うわっ!?」
急に、天地が引っ繰り返った。
水瀬の目の前には石田の顔があって、でも、その向こうには壁があったはずなのに、今見えるのは白い天井。背中には、柔らかなベッド。
「…いー加減にしろって」
さっきまで、石田の上には水瀬が乗っていたのに。
形勢逆転。水瀬はベッドに押し倒されて、覆い被さるように、上には石田がいる。キツくなりすぎたネクタイを片手で緩めながら、水瀬を見下ろしている。
石田が、男の顔を、してる。
「ん…んっ」
外したネクタイをベッドの下に放って、石田が深いキスをして来る。
さっき石田がしたみたいに、舌の侵入を拒んでやろうとして、でも唇を舐められたら体が震えて、呆気なく断念。水瀬は夢中で、舌を絡めた。
その間にも、石田の手は、滑らかな水瀬の肌の上を滑って行く。
水瀬は懸命に手を動かして、石田のベルトのバックルを外そうと必死になる。自分だけがもう素っ裸なのが嫌だ。さっきの石田の指摘どおり、キスだけですっかり感じてしまっていて。
ベルトを外して、中からシャツを引っ張り出して、……何で俺、こんなに必死なわけ?
早く石田が欲しいみたいになってて、何だかすごく悔しい。
「もっ…脱げよ、石田もっ」
癇癪を起したみたいに喚いて、水瀬が石田の肌蹴たシャツの裾を引っ張れば、石田は少し笑ってから、着ていたものをすべて脱ぎ去った。
一糸纏わぬ姿になった石田に満足して、水瀬は石田の下腹部に手を伸ばし、まだ熱も硬さもないソレを擦り上げる。
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Queen Beeの眠れぬ夜 (9) R18
「やっ、ふ…」
首筋に舌を這わされながら胸を弄られて、水瀬は堪らなくなって身を捩った。
だって水瀬の体は、殆ど石田に開拓されたようなものだから、何をどうされても、グズグスになってしまうのだ。
「水瀬、ちゃんとしてよ」
「…ッ、らって…」
もう、舌が回らなくなっている。
石田がじれったい愛撫しかしてくれないから、こんなになっちゃうのに。
「コレ、水瀬の中に入れるんだよ? だから、もっとちゃんとして?」
「分かってるっ…!」
少し濡れ始めたモノを水瀬のももに押し当てれば、ブワッ…と水瀬の腕が粟立った。
石田に突き上げられるときの熱を、思い出してしまった。
「やぅ…いし、ら、ん…」
自分のモノも弄ってほしいのに、石田の手は水瀬の胸を弄ったまま、反対の手の指を水瀬の口の中に押し込んだ。しかも、人差し指と中指の2本。
急に口の中がいっぱいになって、苦しくて水瀬は眉を寄せたが、石田にもう1度「ちゃんとして」と言われ、丁寧に指をしゃぶっていく。
「ふぅ、ん、んっ…」
口の中を犯され、まるでフェラをしているような気になってきて、でも手の中には、石田の熱いモノ。
何だかイケナイ気持ちになって来る――――今さらだけど。
「ん、ぐっ…、ぁ」
もう無理、顎痛い……と水瀬は舌で石田の指を押し出そうとしたけれど、石田はそれを許してくれなくて、舌を押される。
口の端から溢れた唾液が流れていき、時おりそれを指で拭われ、また口の中に戻される。
「いしら…」
うまく喋れない。
石田に触ってほしい場所はそこじゃなくて、もどかしくて。
水瀬はもう我慢できなくて、自ら足を開くと、触れられてもいないのにダラダラと蜜を零している自身を、自分の手の中にある石田のモノに擦り寄せた。
「ぅんんっ…、グ、んっ!」
胸を弄っていた石田の手が、ようやく水瀬の中心に触れる。指フェラと胸への刺激だけで、水瀬のそこはもうすっかり硬く勃ち上がっていて。
石田は、水瀬の口から指を引き抜くと、顎がだるくなってしまったのか、だらしなく開けたままの水瀬の口にキスを落とす。
それだけで、水瀬のモノがビクンと跳ねた。
「いしら…」
「イキたい? イキそ?」
キスの合間に尋ねられ、水瀬は必死にコクコクと頷いた。
自然と腰が揺らめいてしまう。
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カテゴリー:高校生男子
Queen Beeの眠れぬ夜 (10) R18
「石田、おねが…あっあ、んっ!」
水瀬が言い終わる前に、石田の手の動きが激しくなる。
追い上げられながらも、耳元で石田の感じ入った息が漏れたのが分かって、自分も石田を気持ちよくさせられているんだって分かって、懸命に手を動かす。
イキたいし、イカせてあげたい。
「ひっ、う、んっ…」
「ッ…」
手の中に、雄一の精液が溢れて、ぼやけた頭の中で水瀬は、あぁコイツ、イッたんだ……と感じた。
そしたら石田の手が水瀬から離れ、どうしたのかと思ったら、水瀬自身もイッていた。
「あ゛ー……俺、イッてるー…」
「イッたよ。何だよ、ヤなのかよ」
夢中すぎて何だかわけ分からないうちに、イッてしまっていたのだと気付いた水瀬は、半ば呆然としたように自分の下腹部に目をやった。
水瀬を潰さないように体を動かした石田は、少々憮然としながら、精液で汚れた手をシーツで拭う。
「ちょっ、やめろよ、これ俺のベッド!」
「…お前のベッドだけど、シーツ洗うの俺だろ、どうせ」
水瀬が焦って石田の手を払ったが、石田はとっても冷静だった。
確かにこれは水瀬のベッドで、シーツも水瀬のもので。今はまだ無事なそれも、最後まですれば精液やら汗やらでベッタベタになるけれど、しかし最終的に洗濯をするのは石田の役目。
腰痛いー、動けないー、これじゃ寝らんないー、お前のせいだ洗えー!! と、女王様は命令するんだ。
「それに、半分はお前んだからな」
「…っさい!」
そんなこと言われなくても分かってる! と石田を蹴っ飛ばそうとしたら、その足を石田に掴まれた。
離せー! とジタバタしてみても、石田の手は離れない。
何で石田相手だと、何もかんも、うまくいかないの?
「もーホラ、暴れんなってば」
「うー…」
宥めるようにふくらはぎにキスされて、足を下ろされる。
石田は手を伸ばして、ローションのボトルを取った(いつでもヤれるように、ベッドのそばにも、ソファの下にも、いろいろなところにローションを常備しているのだ、水瀬は)。
「それで、続きはしてもよろしいんでしょうか? お姫様」
半分ほど中身の入ったボトルが、ペチッと水瀬の濡れた太ももに当てられた。
「…んなこと、俺の口から言わせんのかよ、石田」
水瀬は口角を上げて、石田を見遣った。
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Queen Beeの眠れぬ夜 (11) R18
はっ…と熱い息を零し、水瀬は目の前にあった枕を手繰り寄せ、ギュッとしがみ付いた。
羽毛のふかふかの、気持ちいい枕。お気に入り。
でも今は、水瀬の、抑えることの出来ない、甘く熱い吐息を吸収している。
「やっ、ぁ、ふ…、石田っ…」
四つん這いだった体勢は、水瀬の肘が崩れてしまった時点でグズグズで、腰だけを高く上げる格好になっていた。
バックの体勢は、ヤるのには楽だけれど、やっぱりちょっと恥ずかしい。…恥ずかしいなんて考えていられるのも、最初のうちだけれど。
「あぁっ、んぅ…んっ」
ローションを絡めた石田の指が、もう3本も入り込んで、水瀬のいいところばかりを刺激していた。
背中や腰に何度もキスされて、水瀬は気持ちいいような、もどかしいような感覚の中を泳いでいるようだった。
「やぁっ、ぅんーっ! んんっ、んぅ」
じれったくて、早く石田が欲しくて、訴えようと後ろを振り返ろうとしたのに、身を捩ろうとしたとき前立腺を押されて、強い快感に、水瀬の体はそのまま崩れ落ちた。
自分の体が、痙攣したように震えているのが分かる。
でもそれを止めることも出来ない。自分の体なのに、自分ではどうすることも出来ない。
「やぁっ、やら、いしだぁ…、うぅんっ…!」
「ぅん? 何?」
何、じゃねぇよ、バカ! バカバカバカーーー!!! て思うのに、息も上がっているし、涙もボロボロ零れているしで、もう少しもうまく喋れなくて。
水瀬のことをこんなに乱れさせておいて、石田は全然普通な様子だし。でも、背後の石田のことは見えない。今、どんな顔、してるの?
「いし…ん、いしだ…」
「…ん?」
過ぎる快感に水瀬がしゃくり上げていたら、石田が身を屈めて、背中に覆い被さった。
背中に石田のぬくもりを感じて、水瀬はようやく大きく息をついた。
「も…ヤダ、ゆび…」
「ヤダ? 俺の、入れてほし?」
「…ぅ」
「水瀬?」
分かっているくせに。石田だって、入れたいくせに。
なのに、石田は言葉を欲しがって。
お前なんかいらねぇよ、て言ってやれたら、どんなにいいだろう。
「…ぅ、ん…」
ペロ、と濡れた目尻を舐められて。
それだけで、中の石田の指を締め付けてしまう。
――――もう、ダメ。
「もっ…入れ、入れろよっ! もぉーっ!」
「ッ、ちょっ水瀬っ…」
「突っ込まれたいのっ、俺はっ! 石田のっ」
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Queen Beeの眠れぬ夜 (12) R18
とんでもないことを喚き散らしながら、水瀬は何とか体を捻って、石田の頭に手を置いた。
本当は引っ叩いてやろうと思ったのに、そんな気持ちとは裏腹に、手はとっても優しく、石田の髪に触れるだけだった。
「分かったってば」
宥めるような、ごまかすようなキスをして、石田は水瀬の腰を引き上げると、体勢を整えた。
やっぱり今日はバックなんだ……とか、水瀬は頭の片隅でちょっと思う。
ギュッと枕の端を掴んだら、その上から、石田に手を重ねられた。
「…入れるよ?」
耳にキスされて、背中がゾワッてなる。
首筋に、石田の吐息が掛かる。
腰を掴まれて、よく慣らされたソコに、石田の、その熱の先端が押し当てられて――――侵入される。
「ぅん、クッ、んっ…」
「バッ…息吐けって…」
いつもなら、どうしたらいいか、受け入れるのにどうやって力を抜いたらいいかなんて、考えるまでもなく出来るのに。
今日はもう、体が言うことを聞いてくれない。
「やぁっ、石田、ん、ぅ…」
「水瀬、みーなーせ。息吐いてみ?」
全然うまく出来なくて、自分から誘ったのに全然ダメで、水瀬自身もどうしたらいいか、もうよく分からなくなっているのに、石田は呆れることも、怒ることも、焦ることもなく、水瀬のこめかみや首筋に、優しくキスを落としてくれる。
「ぁ…はっ…」
ググッ…と粘膜を押し広げて、ゆっくりと石田が入って来る。
あやすように前を弄られて、水瀬は懸命に力を抜く。ようやく呼吸の仕方を思い出した。
「あっ…あぁっ…」
一番太いところを飲み込んだ後は、然して抵抗もなく奥まで入って行く。
途中、止めることなく腰を進められて、体勢のせいか、いつもより深いところにまで石田がいる気がする。
「ぁ…入った…」
「入ったよ。分かんだろ? 入ってんの」
「ふぁ…ぁ、ん…」
スルリと、まるで猫にそうするように、石田が水瀬の喉元を撫でると、水瀬はとろけるような声で顔を上げた。
石田はすぐにでも動くと思ったのに、いつもだったらそうするし、水瀬のほうが我慢できなくて、早く早くと腰を揺らめかすのに、今日はちゃんと待っていてくれる。
「は、ん…、石田…」
水瀬は背後の石田を振り返った。
石田は、水瀬が言わなくても、キスをくれた。
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Queen Beeの眠れぬ夜 (13) R18
「石田…っ、もっ…いーから…、動いて、突いてっ…!」
「クッ…」
わざとでなく、本当にそうしてほしいことを口走ったら、何だか変に煽るような、安っぽいAVみたいなセリフみたいになってしまった。
石田はもう1度グイッと水瀬の腰を引き寄せてると、今度は我慢しないで強く腰を打ち付けた。
もう無理、と思うよりももっと奥のほうまで、石田が入り込んでくる。
「やっ、ぁ、深っ…!」
「、でも、好きだろ? 奥、深いのっ」
「ん、んっ…好きっ、ぁ、きもちぃ…」
奥深くまで突き刺さったモノをギリギリまで引き抜けば、ヤダヤダ、と水瀬が舌足らずな声で喚いて、その中は逃がすまいと締め付けて来る。
すべて抜けてしまう前に、再び根元まで差し込むのを何度か繰り返していたら、水瀬はグチャグチャにシーツを引き寄せ、縋り付きながら感じ、乱れた。
後ろから突き上げられて、もう呼吸もままならない。ガクガクと揺さぶられ、内壁を擦られて、気持ちよくてどうにかなりそう。
「――――ぇ…? アッ…ああぁぁっ!!」
「ッ、はっ…」
「あっ…ぁ…」
シーツを掴んでいた手を石田に引き剥がされた、と思った、次の瞬間。
ふわりと体が宙に浮くような感じがして、深かった結合がさらに深くなって、気付けば石田の上に座っていた。背面座位の体勢。
急な体位の変化に付いていけずに、水瀬はビクビク体を震わせながら、石田の胸に背中を預けた。
「や…こんなっ…」
「でも、ヤじゃないんだろっ…? すげぇ締まっ…」
「んぁっ…いしらぁ…」
こんなの恥ずかしい、と口先でなく思っているはずなのに、石田の言うとおり、水瀬の体は正直に感じていて、内壁はうねるように石田に絡み付く。
石田の片手は水瀬の腹の辺りに回され、その体を支えてくれるけれど、もう一方の手は、胸を撫で回し、乳首に爪を立てる。
「はぁ、ぅ…んっ、ダメ、ァ…らめっ…!」
「何っ? 何がダメ…っ?」
深く突き刺した状態で、奥を掻き回すみたいにされて、ぐちゅぐちゅと濡れた音が耳を犯す。
水瀬が、抜き差しされるよりも、こうされるほうが好きなのを、石田は知っているから。
「ぁ…、も、イッちゃう、イク、ね、イッていい…?」
別に禁止されているわけでもないし、水瀬自身の手は空いているのに、しかし水瀬はしゃくり上げながら、石田に許しを願い請う。
石田の言葉を、待っている。
「いしだっ、おね、おねが、」
「もう我慢できない?」
「できなっ、ひぅ…っ、イキた、い…!」
限界なんて、もうとっくに超えていて。
水瀬は、泣きながら喘いでいた。
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Queen Beeの眠れぬ夜 (14) R18
「んぁっ! ぁん、ん…ふっ」
「水瀬っ…」
腹に付くほど勃ち上がり、反り返っている水瀬自身に手を掛ければ、それだけで水瀬は髪を振り乱して体を震わせる。
石田に、それとは反対の手で顎を掴まれ、半ば無理やり首を捻られて後ろを向かされる。水瀬は自分からキスをし、舌を覗かせれば、石田の舌に絡め取られた。
「ひッ、イク、やっ――――ああぁっ…!」
中も自身も、気持ちいところだけをたくさん攻められて、キスも気持ちよくて、水瀬はすべてを石田に委ね、絶頂へと駆け上がる。
そして、それとほぼ同じくして、石田も水瀬の中に射精した。
*****
ゴウンゴウンと、洗濯機の回る音がする。
シーツの洗濯は、やはり石田の役目だった。水瀬が風呂に入っている間に、シーツは新しいものに取り換えられ、キレイにベッドメイクされていた。
冷たいミネラルウォーターも手の届く範囲にあるし、エアコンの温度もちょうどいいし、ブランケットもふわふわでぬくぬくで気持ちいい。
「何か着ろよ、お前」
ベッドに素っ裸で転がっている水瀬に、石田は目のやり場に困る、といったこともなく、呆れたように言った。
水瀬は、「ぁー」だか「ぅー」だかよく分からない適当な返事を返し、うつ伏せの状態でポフッと枕に顔をうずめた。顔だけ横を向けるとかでなく、顔面から行っている。
「え、苦しくねぇの?」
苦しくないわけがないが、石田は一応聞いてみる。
水瀬は何も答えず、モゾモゾと動いて寝返りを打った。
「何着んの? これでいい? 洗濯終わったら、ウチ行ってメシ食おうぜ」
石田は勝手にクロゼットを漁り、適当に水瀬のスウェットの上下を取り出す。
仕事で両親が不在がちな水瀬は、よく石田の家でご飯を食たり、面倒を見てもらったりと、本当の息子のように扱われているから、そんなに格好を気にする必要もない。
石田は、水瀬の部屋に置きっ放しにしていたジャージを着ていた。
「…メシ、食いたくねぇ」
「何で。腹減ってねぇの? つか、腹痛いんだったっけ?」
「痛くねぇよ」
保健室で休んでいたことを、石田はまだ引き摺っているのだろう。
あんなに激しいセックスをしておいて、今さら何を言っているのやらだ。
「…いしだ」
水瀬はクタリと横になった状態で、石田を手招きする。
下着とスウェットをベッドに放った石田は、几帳面にも、脱ぎ散らかされていた2人分の制服を、丁寧に畳んだり、ハンガーに掛けたりしていた。
「いーしーだー」
水瀬の声に苛立ちが混じったところで、石田はネクタイをポイッと椅子の背面に引っ掛けてベッドに向かう。
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Queen Beeの眠れぬ夜 (15)
もちろん、何も身構えていなかった石田は、勢いのままにベッドの上に――――水瀬の上に倒れ込んでしまう。
「痛ぇよ、バカッ」
「お前がやったんだろ」
理不尽にも怒りをぶつけて来る水瀬に、石田は一応突っ込みを入れて、水瀬を潰さないよう両手をベッドに突っ張り、膝を突いて彼の腹を跨いだ。
先ほどまで散々ヤッたというのに、また何だか押し倒すような格好になっている。
「石田。何で今日、俺が保健室いたか、知りたい?」
「…腹痛くねぇなら、サボり?」
「そう」
言い訳するでもなく、水瀬はあっさりと認めた。
品行方正とは言い難いが、高校生なら1度くらいはそんな経験をするだろうし、石田も別にそれを咎めなかった。
「何かダルかったから、保健室で寝てた」
「あっそ」
「昼休み、いろいろしたから」
水瀬は、ジッと石田の目を見つめた。
石田は無表情ではなかったけれど、怒っているようでもなかったし、楽しんでいるようでもなかった。
「知りたい? 昼休み何してたか。ねぇ石田、知りたい?」
「…知りたくねぇよ、別に。つか、いい加減、離せって。――――ちょっ」
水瀬の腕を解こうとして、なのに水瀬は引き寄せる腕に力を込めるから、石田の肘がカクンとなって、顔がさらに近付いた。
唇は、触れそうだったけれど、触れなかった。
「野球部で、ピッチャーやってる先輩。石田、知ってる?」
「知らねぇ」
「その人とね、昼休み、」
言いながら、水瀬は石田のジャージの前ファスナーを下ろそうとしたけれど、それはやんわりと石田に止められた。
指と指を絡めて、貝殻繋ぎみたくなる。
あの先輩とは、こんなことはしなかった。
手も繋がなかったし、背中に腕も回さなかった。キスもしなかった。
「石田、聞きたくねぇの? 俺が、何してたか」
「…聞いて、どうなんの?」
「さぁ。どうする?」
水瀬は挑発的に笑ってみせたが、石田は何も動揺しなかったし、何も言い返さなかった。
ただ、水瀬の顔を見ていた。
「教えてあげる、石田に」
「いいよ、別に聞きたくない」
「ダメ、教える」
どうして水瀬がそこまで教えたがるのか。いや、本当は別に、そのことを教えるとか教えないとか、そんなことはどうでもいいんだ。
嫌がる石田に、無理やり教えようとして、楽しんでるわけでもなくて。
「石田。…聞きたくないなら――――」
水瀬は石田の首に回していた手を解いた。片手は繋いだまま。
「聞きたくないなら、言わせないようにすればいいじゃん」
「…、」
「言わせないように、してみろよ」
自由なほうの手の指で、石田の唇をなぞる。
かさついた唇に、指が引っ掛かる。
「石田」
「――――あぁ、そうするよ」
石田は無理やり繋いだ手を解き、水瀬の顎を押さえる。
水瀬は、にんまりと口の端を上げる。
これ以上流されてはダメだと、石田の頭の中では、警鐘が鳴り響き続けているけれど。
石橋を叩いて渡る性格のはずなのに、自ら危険へと飛び込んでいく。水瀬の罠を、十分に分かり切っていながら。
「もうこれ以上、何も言わせねぇよ」
石田は、うるさい水瀬の口を塞いだ――――キス。
夜は、終わらない。
*END*
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one night in heaven (1)
基本的に睦月は、おいしいものいっぱい食べられたら幸せ! とか、眠いときに寝れたら幸せ! とか、幸せバロメーターがとっても分かりやすい。
しかも睦月の1番のお気に入りメニューは、大学のカフェテリアのサラダうどんだし、眠れるなら寮のボロっちいベッドだろうが、床でクッションを枕にしようが構わないという手軽さ。
だから毎日の生活の中で、睦月が幸せを感じる瞬間は、非常に多いと言っていい。
しかしだ。
そんな睦月を喜ばせる方法も簡単かと言えば、実はそうではない。
単純であるがゆえに、難しい。
今どきの若者らしく、無意味な贅沢に興味がないので、ブランド品も高級料理も関心なし。物欲もそんなにないし、遠出する気もない。
加えて、記念日やらイベントといった、恋人同士の定番行事への関心度が低いので、『特別な日の特別なプレゼント』という観念が睦月の中には端からない。
なので睦月は、特別なプレゼントや演出ももちろん嬉しいけれど、それより普通に実用的なもの(それもノートとかシャーペンとかいうレベル)とか、買おうと思っていたマンガの新刊とか貰えたら、それだけで幸せ100%になってしまう。
つまり、『特別な日だから』という理由で睦月を喜ばせることは、非常に難しいことなのである。
――――さぁここで、恋愛経験値の高いあなたに質問がある。
こんな睦月を旅行に誘う場合、一体どこに何をしに行ったら、喜ぶだろうか。
ヒント、睦月は旅行がそんなに好きではない。
「ショウー…、俺マジで分かんねぇ…」
椅子の上にあぐらを掻いて、ネットで旅行関係のサイトを散々見て回った後、亮はとうとう根を上げて、マウスを手放した。
もう目が痛いし、頭が痛い。両手でゴシゴシと目をこすって、大きく伸びをすれば、「あぁ?」と気のない返事をする翔真が逆さに見えた。
「ショウ、ショウ! ねぇっ!」
「何だよ」
「だから、旅行の行き先!」
「知るかよ、お前とむっちゃんの旅行だろ? 何で俺に聞くわけ? つーかそれ以前にお前、何時間、人の部屋に居座れば気が済むわけ?」
あー分かんねぇ、分かんねぇ、と喚き散らす亮に、翔真の態度は冷ややかだ。
それもそのはず。
亮がすでに何時間も向かっているパソコンは翔真のものだし、それと同じ時間だけ居座っている部屋も翔真と慶一郎の部屋なのである。
亮にパソコンを貸すのは別に構わないんだけれど、さっきからずっと、1人で「あー!」とか「やっぱここは…」とか言っているので、とっても鬱陶しい。
亮だって自分のパソコンを持っているのだから、わざわざ翔真の部屋まで来てネットをしなくてもいいのに。
「しょうがねぇだろー、自分の部屋だと睦月がいるんだし」
「いたっていいじゃん。どうせむっちゃんと一緒に行くんだし」
旅行の計画を立てるのに、一緒に行こうとしている恋人が同じ部屋にいて、一体何の不都合があるだろう。
というか普通そういうのって、恋人同士、一緒に計画するのも楽しみの1つなのでは?
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one night in heaven (2)
「……へぇー…」
何だかよく分からない独り芝居とかを始められ、翔真はドン引き気味だが、亮はそれに気付かず、「ショウ、どこがいいと思う!?」と縋り付く。
和衣からは、恋愛エキスパートのように思われている亮だって、いくら恋愛経験が多めと言ってもまだ20歳の男子大学生だから、色恋沙汰で誰かに縋ったり頼ったりしたくなることなど、いくらでもあるのだ。
「なぁ、ショウー」
「えー? むっちゃんの行きたいような場所? 旅行で? てか、そういうの、カズに頼めば? バイトのときとかに、こっそり探り入れてもらうの」
「カズはダメ! 探り入れるとか、そんな器用なまねがアイツに出来るわけがない。そんで、絶対うっかり睦月に喋りそう」
「あー…想像付くな、それ」
口が軽いわけではないが、和衣は、"ついうっかり"が多い。
ましてや気心の知れた睦月相手なら、それはなおさらだろうし、口下手で嘘やごまかしが下手くそだから、絶対に睦月にバレるに決まっている。
「でも別に、どうしてもむっちゃんに内緒にしとかなきゃいけないわけじゃないんだし、いいんじゃね? バレても。何でサプライズ?」
「…たぶん睦月のことだから、旅行の計画とかすんの、面倒くさがりそう」
「あーそうね、確かに」
「どうせ1人で計画しなきゃなんないのに、睦月に旅行誘おうとしてんのがバレバレなのは虚しい」
「虚しいね」
「だったらいっそ、睦月に内緒で事を進めたい」
睦月の場合、デートの行き先なんて何でもいいけれど、本当のところ、面倒くさいから出来ればお出掛けしたくない、という典型的なインドアタイプだ。
そんな子を旅行に誘おうとしているのだから、行き先を考えるのも、どう事を進めるのか考えるのも一苦労だ。
「大体さぁ、睦月、旅行そんなに好きじゃねぇんだって」
「はぁ? じゃあ誘ったって、『わーい、いいよ!』は、ねぇじゃん」
それはサプライズ以前に、とっても根本的なところで、亮は何かを間違えているのでは?
まぁ、恋人と一緒に旅行に行きたいと思う気持ちは、翔真にも分かるけれど。
「でもカズが女装コンテストで貰った旅行券。俺、睦月の分も預かっててさぁ」
「はい?」
「何か睦月に預かってて、て言われて。そんとき、亮が連れてってくれるなら行ってもいい、て言われたんだよね」
「うわぁー、ツンデレ全開だー、むっちゃん」
たとえツンデレ全開だろうと、睦月がそう言ったのは確かだから、亮が旅行に誘ったら、『ヤッター!』はなくても、『まぁいいけど』くらいは言ってくれると思うのだ。
「ショウだったら、どこ行く?」
「え、真大と?」
「うぅん、睦月と」
「いや、むっちゃん旅行になんか誘わねぇし」
恋人との旅行にはどこに行くのか、という意見を参考に聞きたいのかと思えば、翔真が睦月を旅行に誘うとしたらどこにするのか、という超ピンポイントな質問だった。
みんなで行くならまだしも、翔真が睦月と2人で旅行に行くなどあり得ないのだから、答えてみようがない。
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one night in heaven (3)
「あーはいはい。てかお前、面倒くせぇな」
翔真にしたら、睦月がそんなに旅行が好きでないとか、それ自体を今知ったのだ。
昔、絶叫系のアトラクションに乗れない亮の代わりに、睦月と遊園地に行ったことがあるけれど、そういえば旅行の話なんてしたこともないし、はっきり言って睦月がどこに行きたいかなんて、まったく見当もつかない。
「でもショウしか頼る相手がいないの! 祐介にも聞いたけど、『睦月、旅行嫌いじゃね?』とか言って、あっさり片付けられたし! 分かってて聞いたんだっつの!」
「分かった、分かった」
椅子を飛び降りた亮は、翔真のベッドのそばに行き、興奮気味にベッドを殴る。
睦月のことを何でも知っている人トップ3に、常にランクインの祐介の答えは、『睦月は旅行が好きでないのだから、行きたい場所なんかない』で決まっているようで、ちっとも亮の参考にはならなかったらしい。
「てかさ、ショウ、真大とどっか行ったの? アイツも旅行券貰ったじゃん。一緒に行ってねぇの?」
「…行ったけど?」
「マジで!? どこっ?」
「…………、温泉、とか………………普通に」
微妙な間を挟みながら、翔真はボソリと答えた。
どうも視線をちゃんと亮に合わせないところが、何となく怪しい。
「ショウちゃ~ん、どこの温泉行ったの~?」
「…そんなの聞いてどうすんだよ」
「参考にする」
ニヤニヤしている亮に、翔真はひどく嫌そうな顔で聞き返すが、亮はシレッとそんなことを言う。
普段からシャワーだけで済まそうとしては、和衣に湯船に無理やり沈められている睦月を、温泉なんかに誘って色よい返事が貰えるとは、到底思えないのに。
「お前にはぜってぇ教えねぇ」
「何でっ、ショウのケチ!」
「うっせ」
翔真は手にしていたマンガ本で、亮の頭を叩いた。
亮は非常におもしろくなさそうな顔をしたが、はっきり言って、これ以上亮の相手をするのは面倒くさい。無視だ、無視。
そう思ったのに。
「…………。ショウが教えてくんないなら、真大に聞いちゃおっかなーイテッ!」
無視を決め込んだ翔真に、亮が軽く脅しを掛ければ、即行で返事の代わりのキックが飛んで来た。
いくら強気な性格の真大でも、亮は先輩だし、絶対に内緒にしておかなければならないほどの内容でもないから、聞かれれば絶対に答えてしまうに違いない。
別に知られたからどうということもないが、やっぱり恥ずかしいし、だからこそ、今聞かれるまで、真大と旅行に行ったこと自体を黙っていたのだ。知られてたまるか。
「お前は自分の心配しろよ。むっちゃんと旅行行きてぇんだろ?」
「行きたい」
「ならもっと真剣に考えろ」
ついつい話が脱線してしまうが、もとはと言えば、亮が睦月を旅行に誘いたいと言い出したのが始まりだ。
これだけ翔真の部屋に入り浸って、何時間もパソコンに向かっていたのだから、いい加減けりを付けてもらいたい。
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one night in heaven (4)
「いや、何で同じこと2回言ったの、亮」
あくび混じりに翔真は体を起した。
「つか、そこまでしてサプライズにしなくても、普通にむっちゃんと一緒に考えれば? 一緒に計画立てなくても、せめてどこ行きたい? とか聞いてさぁ」
「うー…」
何となく、『どこでもいい』と答える睦月の姿は想像できるが、行き先が思い付かないのなら、それはやっぱり翔真に聞くより、睦月と話したほうがいいと思う。
翔真は本当にそう思って、アドバイスした。
――――決して、亮に部屋に居座られることに嫌気が差したわけではない。
*****
「むっちゃーん、おいでおいで」
「…ぅあ?」
バイトの帰りに買って来たドーナツを食べながら、マンガ本に夢中になっていた睦月は、亮に呼ばれても生返事しかしない。
亮はそれでもめげずに睦月の背後に回ると、後ろから睦月を抱き寄せた。
「んー…何、亮」
テーブルに置いたマンガ本を、背中を丸めて読んでいた睦月は、腰に回った亮の腕に体を起こされ、亮の胸に背中を預ける状態で、膝の上に乗せられた。
ドーナツを手放さないように気を付けていたら、マンガ本から手が離れて、読んでいたページが閉じてしまった。
「ね、ちょっと聞いて?」
「何ー?」
睦月はとりあえずドーナツを全部食べて、指先に付いた粉砂糖を舐めようとしたら、ご丁寧に亮がティシューで指を拭いてくれた。
しかし睦月がまたマンガ本に手を伸ばそうとすると、その手に亮の手が重なって、やんわりと阻止されてしまう。
「前、カズが女装コンテスト出たときに貰った旅行券あるでしょ?」
「あぁ、うん。そういえばそれ、どうなったの? 亮、どこ連れてってくれるの?」
「えっと、だから…」
翔真に散々鬱陶しがられながら、亮も一生懸命に調べたのだが、どうしてもいい案が思い浮かばなくて。
結局、睦月に直接聞くのがいいのかなぁ…と思って声を掛けたのだが、今の睦月の口振りからして、亮と一緒に旅行に行く気はあるものの、やはり自分で行き先を考える気はないようだ。
「睦月は、どういうとこ行きたい?」
「えー…分かんないー」
聞き返されると、睦月はむぅーと唇を突き出した。
前から言っているように、面倒くさいので、睦月は旅行自体がそんなに好きではないし、どちらかと言うとインドア派なので、行きたい場所を聞かれても非常に困ってしまう。
「俺、あんま旅行なんてしたことないし」
「でも全然したことないわけじゃないんでしょ?」
「子どものときはあるけど……ちっちゃいころだったから、どんなだったか忘れちゃった」
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one night in heaven (5)
ただ、今となっては、行ったという記憶はあっても、それ以上には覚えていないのが現実だ。
「そんなにちっちゃいときしか、旅行してないの?」
いくら睦月がそんなに旅行好きでないにしても、それって凄くないか? と、亮は目を瞠る。
睦月は、驚いた様子の亮を振り返って頷いた。
「修学旅行は? 中学とか高校のとき行かなかったの?」
「うん。高校は修学旅行自体なかったから。中学のころは……うん、行かなかったの」
中学のころは例の事件もあって、体調に自信がなかったから、残念ながら修学旅行を欠席した。
過保護な祐介は、自分も一緒に休むと言ったのだが、睦月は無理やり祐介を修学旅行に行かせたけれど。
「…じゃ、やっぱ旅行はそんなに行きたくない?」
「んー? でも今は、単に面倒くさいからだけだから。別にそんな深刻な理由じゃないし、平気だよ? これで亮と一緒に旅行行ったら、旅行、超大好きになるかもしんないよ?」
睦月よりずっと深刻そうな顔をしている亮に、睦月はえへへと笑い掛ける。
過去のことについて、睦月が思っている以上に、周囲がとても心配していることは知っている。でも睦月にしたら、みんなが心配している以上に、全然平気なんだよ、と分かってもらいたい。
事件の直後は、今まで出来ていたことでも、出来なくなってしまったことがたくさんあったけれど、今は殆ど何でも不自由なく出来るのだ。
ただ、人より興味の幅が狭いので、積極的に何かをしようと思わないだけのこと。
「そっか。じゃあ、いいとこ選ばないとだなー」
「だなー」
亮の言葉尻をマネして、睦月はクスクス笑っている。
しかし亮にしたら、そんなにのん気に笑っていられても困る。
睦月がそんなに旅行を好きでない理由が、深刻なものでなかったのはいいけれど、結局、睦月は一体どこに行くなら喜ぶのか、さっぱり分からないのだから。
「ねぇ睦月ー。大体でいいからさぁ、どんなのがいいとかないの? 海とか山とか、……街?」
「街?」
「うーん、街?」
海や山といった自然のものでなくて、夜景が一望できるようなアーバンホテルをイメージしたのだが、うまい言葉が出て来なくて、思わず『街』の一言で片付けてしまった。
やはり睦月はピンと来ていないようなので、亮はノートパソコンを開いて、旅行関係のサイトで自分のイメージしているものを見せた。
「夜景?」
「あんま興味ない?」
しげしげとサイトを見つめる睦月の顔は、しかし特別乗り気なふうでもない。
やはり夜景なんて、腹の足しにならないものには興味なかったか…と、亮はちょっとだけ残念に思った。
亮も、和衣のようなロマンチストではないから、部屋からの眺めにそんなにこだわりはないが、恋人と一緒にこういうところに泊まるのも悪くはないかな、と少しは思ったので。
「そーじゃなくて……こういう高そうなトコは、何か緊張する…。ちゃんとした格好で行かないと、入れてもらえないんじゃないの?」
亮に後ろから顔を覗き込まれ、睦月は、嫌なんじゃなくて……と、自分の思っていることを伝えた。
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one night in heaven (6)
「んー…まぁ部屋によっては高いのもあるけど、そんなに気にしなくていいんじゃない? レストランとかなら、多少ドレスコードはあるだろうけど、ホテルに入るくらいなら」
「そう?」
夏だと、ダメージジーンズとか、膝丈で切りっ放しのジーンズとかを履いている睦月だが、冬は寒がってそういう格好をしないので、服装は特に問題ない気がする。
食事のマナーなら、亮だってそんなに詳しくはないから、緊張で味が分からなくなるようなところに行くつもりもないし。
「おいしいご飯食べて、眺めのキレイな部屋に泊まるの。どう? それなら海とか山と違って、季節そんなに関係ないし、遠くないよ?」
「そっかー、冬だと海入れないもんね」
「睦月、海行きたいの?」
「んー…夏になったら行きたくなるかもだけど、今は別に。夏までずっと待ってんのも何かあれだし」
それよりも、すてきなホテルのほうに、ちょっと興味ある。
少しは乗り気になって来たのか、睦月は亮の膝の上、旅行関係のサイトで検索された眺めのいい部屋のあるホテルを、興味深そうに見ていく。
「俺らがよく行くホテルとは、雰囲気違うねー。でも広くて、マンションとかのお部屋みたーい」
「…俺らがよく行くホテルはラブホでしょ」
確かにホテルには間違いないけれど。
2人がよく使っているラブホテルは、わりと部屋もベッドも大きめのところだが、そういう目的のためのホテルだから、部屋からの眺望へのこだわりはそうないだろうし、客室の雰囲気だって違うに決まっている。
だから、そこと比較されても、ちょっと困る。
「だってよく分かんないしー」
「じゃあ、こういうとこ、泊まってみる? 睦月、海が見えるとこがいいの?」
「んー…、海は…見えても見えなくてもいいけどー、あんま緊張しないとこがいい」
何件か見たところで、やっぱり面倒くさくなったのか、睦月はマウスを投げ出した。
想像したとおりだと、亮は心の中で思っておかしくなったが、亮の胸に背中を預けているのをいいことに、睦月が甘えるように頬を擦り寄せてきたので、それはちょっと嬉しい誤算だ。
「だーいじょうぶ。俺だって行くのに、自分が緊張するようなとこ、選ぶわけないっしょ? おいしいの食べて、キレイな景色が見えるとこにお泊りしよ?」
「…ん、分かった。亮とお泊りする」
そのままムギュッと亮に抱き付いた睦月は、亮の唇にキスを落とした。
*****
すてきなホテルにお泊りすることが2人の旅行の主な目的で、遠出するわけでもないから、『朝はゆっくり起きて、のんびり出掛けようよー』と睦月にねだられて、午後になってから寮を出た。
チェックインまでには時間があるからと、最近リニューアルした複合施設で、ショップを冷やかしながら覗いて回った後、休憩がてらカフェに入る。
オープンテラスのほうが雰囲気はよかったけれど、寒いから絶対に嫌! と睦月が断固拒否したので、店内の窓際の席に案内してもらった。
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one night in heaven (7)
ミートパイをボロボロ零しながら食べていた睦月は、窓の向こうに観覧車を見つけ、目を輝かせながら指差す。
亮は、睦月の口元に付いているパイ生地の欠けらを取ってあげてから、指差す方向に視線を向ければ、ビルの向こうに観覧車の一部が見えた。
「いいけど……観覧車だけだよ?」
亮は念のために、そう付け加える。
高所恐怖症ではないので観覧車は平気だが、睦月が大好きな絶叫系のアトラクションは、残念ながら何をどうがんばっても、亮は無理だ。
観覧車に乗りに行ったら、それ以外にもいろいろ乗りたくなって、睦月が絶叫系に乗りたいと言い出したら困るので、亮は先手を打った。
「他のには乗らないの? 亮?」
「乗らないの」
「分かった、今日は観覧車だけにする。絶叫系はまた今度行ったときね?」
「…まぁ、……ん」
出来れば、その『また今度』が来ないことを願いつつ、亮は曖昧に頷いた。
「じゃ行こ、亮」
「はいはい」
食べ終わると早速、睦月はコートを手にして立ち上がった。
今日のホテルに、宿泊をお断りされるほどのドレスコードはないけれど、睦月はやはり気になるのか、和衣のように服選びに迷わない睦月が、珍しく考え抜いて選んだコート。
カジュアル過ぎず、堅苦し過ぎないシャツとパンツ姿の睦月は、クールな印象を受けないでもないが、襟元と袖口にふわふわのファーが付いた白いコートを羽織ると、一気にかわいい感じになる。
『亮ー、ねぇねぇ亮ー、このカッコで大丈夫ー?』
『大丈夫だよ、かわいい、かわいい』
出掛ける直前まで、クロゼットの扉の内側に貼り付けてある鏡を、いつもより入念に覗き込みながら心配げに尋ねる睦月に、亮は頬を緩めながら、つい本音を漏らしてしまった。
『…かわい?』
『かわいくて、格好いい』
"かわいい"という言葉に、振り返った睦月の眉が少し寄っていたので、亮は笑いながら付け加えた。
睦月に"かわいい"は禁句だけれど、でもかわいいんだから、仕方がない。
「あ、睦月、それ」
先に準備を整えた睦月が、会計伝票を持って、さっさとレジへ向かってしまう。
亮としては、ランチくらい奢るか、少なくとも半分は出すつもりだったのに、睦月は亮の呼びかけに気付かないのか、もしかして分かっていて無視したのか、亮が追い付いたときには会計を済ませていた。
「睦月、会計早いよ。いくらだった?」
「教えない」
「何で」
「亮が旅行連れて来てくれてるから、先取りでお礼なの」
財布を出そうとする亮を制して、睦月はそう言った。
しかし、亮が睦月を旅行に連れて行っていることになってはいるが、交通費や旅行券をオーバーした分の旅行代は折半しているので、お礼をされる覚えはないのだが。
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one night in heaven (8)
「そうなの? じゃあ、ありがたくゴチになる」
お礼をされるほどのことをしたとは思っていないが、睦月が喜んでくれているからなのだと思って、素直に受け取ることにした。
「観覧車行こー、亮、亮ー」
寒さから、もこもこふわふわの襟元に首をうずめながら、睦月は、早く早くと亮を急かす。
そんなに急がなくても、観覧車はもちろん逃げないのだが、待ち切れない睦月は、今にも駆け出さんばかりの勢いだ。
「睦月、そんなに…」
「うわっ」
「あぶなっ」
よそ見してると転ぶよ、と亮が声を掛けようとした矢先、前も足元も全然見ていなかった睦月は、案の定、タイルだかに躓いて転び掛けている。
咄嗟に亮が睦月の腕を掴んだので、何とか転ぶことだけは免れたけれど。
「睦月、大丈夫?」
「えっへっへー、大丈夫ー」
きっと危なかったことよりも嬉しさのほうが大きいのだろう、睦月は危機感ゼロに、ヘラヘラ笑いながら答えた。
まったく浮かれすぎもいいところなのだが、睦月の嬉しそうな顔に、亮も何も言えなくなってしまう。
ちょっとしたお出掛けなら今までにもあるけれど、遠くもないホテルにお泊りとはいえ、今日は旅行だし、何だか妙に浮かれた気分になるのも分かるから。
「チケットあそこ! 早く並ぼ?」
「分かったから、睦月、ちょっ…」
つい今し方、躓いて転び掛けたというのに、睦月は無邪気に亮の腕を引っ張って、券売機の列に向かう。
旅行面倒くさいとか、インドア派とか、そんなの嘘でしょ? と思わず亮が思ってしまうほどの、睦月のはしゃぎっぷり。
これが、亮と一緒だから、という理由だったら、とっても嬉しい限りだけれど。
「今度来たときは、他のも乗るんだからね?」
「…はい」
観覧車のチケットを買った後、お金を入れていない状態で、他のアトラクションのチケットのボタンをカチカチ押しながら、睦月は念を押すようにねだった。
亮は一応返事をするが、睦月が押しているのボタンが、普通にジェットコースターなのがちょっと気になる。
「亮ー?」
「ホントに分かったってば!」
疑わしげな視線を向けられ、亮は仕方なしにそう言い放った。
睦月は、こういう約束なら絶対に忘れなそうなので、きっとそう遠くない未来、睦月と一緒に絶叫系のアトラクションに乗るはめになるのだろう。
若干暗い気持ちになりつつ、亮は睦月を連れて観覧車へと向かった。
「あんま並んでないね、よかった」
観覧車には乗りたいけれど、この寒い中、並んでずっと待っているのは、ちょっと耐えられない。
普通そういうことはチケットを買う前に確認すべきなんだろうけど、今日は浮かれていたせいか、肝心なことを忘れていた。
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one night in heaven (9)
扉が閉まって2人だけの空間になると、睦月は亮の隣に移動してきた。
基本、スキンシップ過多な睦月だが、やはり亮は恋人だから、2人だけになるとさらに甘えたがりになる。亮は、ピトッと寄り添う睦月の肩を抱き寄せた。
「つかさ、睦月、前にショウと絶叫系の、乗りに行ったじゃん?」
「んー? 前? うん、ずっと前ね」
「そんとき、ショウと一緒に観覧車乗った?」
亮に、絶叫系のアトラクションは絶対無理! と言われた睦月は、翔真を誘って遊園地に出掛けたことがある。
そのとき合計15回も絶叫系に乗ったと言うから、亮は誘われなくて正直ホッとしていたのだが、今思うと、乗ったアトラクションが絶叫系だけとも思い難い。
まさか2人きりで観覧車にも乗っていたりして…。
「亮、気になんの?」
「別に、」
「ふぅん?」
「…気になります」
気にならないふりをしようと思ったけれど、やっぱりそんなの無理。
しかし、睦月と翔真が一緒に出掛けたのは、亮が絶叫系のアトラクションに乗れないのが原因だし、しかも睦月からのお誘いを断っておきながら、自分は真大とサッカーの試合を見に行っていたのだ。
何か言える立場ではないけれど、でも、絶対に気になる!
「もしショウちゃんと一緒に乗ってたら、どうすんの?」
「のっ乗ったの?」
「むふふ」
亮の焦った顔を見て、睦月は足をバタつかせながら笑い出す。
睦月と翔真は、あのころも今もただの友だちだし、亮だってただの後輩の真大とは一緒に出掛けたし、でも観覧車に2人きりとか、そんなの。
別に何かを疑うわけじゃないけど、でも翔真にもこんなふうに甘えたとか?
「睦月、」
「グフフ、秘密ー」
「えっ何で!?」
そこ、もったい付けるところ!?
そんなこと、普通に教えてもらえると思っていたのに、なぜか秘密にされてしまって亮は慌てるけれど、睦月は笑いが止まらなくなっている。
やっぱり乗っちゃったの?
帰ったら、翔真を問い詰めようか。
「うはは! 嘘だよ、乗ってないよ」
あまりに亮が切なそうな顔をしていたのか、睦月は笑いながら秘密を明かして、亮の頭を撫でてやった。
「乗りたーい! て言ったんだけど、ショウちゃんが、観覧車は亮と乗ったほうがいいよーて言うから、乗んなかったの」
「そ…そうなの?」
睦月に流されず、そこはちゃんとしてくれた翔真に、ひとまずは感謝。
そうなると、あとは自分が絶叫系のアトラクションに乗れるようになるだけか…。
(………………。でも無理。そんなの無理。一生無理っ…!)
さっき睦月には、今度来たときは…と返事をしてしまったけれど、そんなこと想像するまでもなく無理だし。
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one night in heaven (10)
亮が1人で打ちひしがれていたら、睦月がのん気そうにゴンドラの外を指差す。
しかもわざわざ、自分のほうでなくて、亮のほうへと身を乗り出して。
「…てっぺんまで来たら、キスする?」
「んー? んふふー?」
睦月がバランスを崩して転げ落ちないように支えながら、亮はノリでそう提案してみる。
せっかくだから、そういうベタなことをしてみるのもいいかな、と思って。
「睦月?」
亮に抱き付いた……と言うよりは、亮に抱き抱えられた状態で、睦月は、いいも嫌も返事をしないまま、クフクフと笑っている。
観覧車に乗り込んでからずっと高いテンションのおかげで、クシャクシャになってしまった睦月の髪を直してあげて、頬のキスを落とす。
ねぇ、唇にもキス、していい?
「ん…」
はむ、と唇を食むようにキスすれば、睦月の長いまつ毛が震えた。
さっきまで無邪気にはしゃいでいたのが嘘のよう、睦月はキュウと亮にしがみ付いて、甘いキスを貪る。
てっぺんは通り越して、今ここまで来たのと同じだけの時間で下まで降りてしまうから、これ以上キスに溺れているわけにはいかないけれど。
「…続きは、また後でね?」
「あと?」
唇は濡れて艶めいているのに、表情はあどけない。
睦月のことだからきっと無自覚だろうし、亮もそれを分かっているのだが、つい煽られてしまう自分がいて。
「そ、また後のお楽しみ」
もう1度キスしてから、睦月の濡れた唇を親指で拭ってやった。
*****
約15分間の2人きりの時間が終わって地上に戻れば、冬の日暮れは早くて、太陽はもう随分と西に傾いていた。
時間的には、もっと遊んでからでもよかったけれど、観覧車の中で2人だけの甘い時間を過ごしてしまったら、早く2人きりになれるところに行きたくなってしまって、結局そのままホテルへと向かった。
「何かちょっと…とっても緊張しゅる…、、、…する」
ホテルの敷地に足を踏み入れた途端、その重厚な外観に圧倒されたのか、睦月は立ち竦んで亮のコートの袖を掴んだ。
しかも、全然どうでもいいところで噛んでしまって、それもすごく恥ずかしい。
初めてラブホテルに行ったときは、亮が焦るくらいに浮かれてはしゃいでいた睦月も、さすがに今は、そんな気分にはならないらしい。
大丈夫だよ、と亮は睦月の肩をポンポンと叩いた。
「広い…」
亮のコートを掴んだまま中に入った睦月は、天井が高くて、広くて明るいロビーをキョトキョトと見回す。
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one night in heaven (11)
正面玄関から入ってまっすぐのところにあるロビーラウンジには、小さな子どもがいるのが見えて、そんな年からこういうホテルに泊まるって、どんなお家なんだろう、と思ってしまう。
たぶん、住む世界が違うとはこういうことを言うのだろう。
「睦月、こっち」
「…ん」
コートを掴む睦月の手を無理には解かず、亮はフロントのほうへと向かう。
全然自慢にはならないが、睦月は今まで自分でホテルや旅館のチェックインをしたことがないから、本当に亮にすべてをお任せするしかない。
(おねーさん、えーご喋ってる…)
亮がチェックインをしている間、睦月はその後ろにひっ付きながら、フロントの中の様子を窺っていれば、格好いい制服に身を包んだフロントレセプションの女性が、英語でお客さんと話している。
外国人宿泊客も多いから、英語くらい話せないと勤まらないのかもしれない。
「お部屋までご案内いたしますね」
ロビーアテンダントの女性が、笑顔で2人の荷物を預かり、エレヴェータのほうへと案内してくれる。
睦月にしたら、荷物なんてほんの少しだし、全然平気で持てるのに……なんて思ってしまうあたり、やっぱり一般庶民なのかも。
「さんじゅーはちかい…」
エレヴェータが停まると、階数表示をずっと見上げていた睦月は、思わず到着した階を口に出して言ってしまった。
しかも自分では気付いていなかったが、見上げている間中、ずっと口をポカンとさせていたようで、睦月は慌てて口元を引き締めた。
「こちらでございます。お部屋の説明はいかがいたしましょうか?」
ドアまで開けてもらい、部屋の中に通されると、その広くて明るい室内に、睦月は思わず「わぁ~すご~い!」と駆け出しそうになったが、そこはグッと堪えた。
それにしても、部屋の説明て? と睦月は、亮とロビーアテンダントの女性を交互に見る。
早く2人きりになりたいと思っていたけれど、せっかくだから聞いてみようかな、とお願いしてみれば、内線の掛け方やセキュリティボックスの使い方、電動カーテンの開閉の仕方まで、丁寧に教えてもらった。
「では、ごゆっくりお寛ぎください」
深々と頭を下げ、リビーアテンダントの女性は部屋を出ていくと、「ふ、ぁ……緊張した…」と、睦月は気が抜けたように大きなベッドの片方に腰を下ろして、仰向けに寝そべった。
「そんなに? でも平気だったでしょ?」
亮も、睦月と同じベッドに座って、目を閉じている睦月の頬に触れた。
「平気だったけどー…でも緊張した」
「部屋の説明聞くって、睦月、自分でお願いしたじゃん?」
「何か…せっかくだから? こーゆーチャンスはもうないかもだから、経験しとこうと思って。ぐふふ」
猫が甘えるみたいに、亮の手に頬をすり寄せた。
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one night in heaven (12)
「へーき…。ね、すごい部屋だね、めっちゃ広い。ベッドもおっきーし、景色もすごい…」
「ホントだね」
「亮も、来て?」
睦月は亮のコートの袖を引っ張って、隣に寝そべらせた。
セミダブルサイズのベッドは、いつも使っている寮のとは違って広いのに、睦月は寄り添う亮にキュッとしがみ付いた。
「ぅん? どうしたの? むっちゃん?」
「えへへー」
何だか急に凄く甘えたくなったみたいで、亮に『むっちゃん』と呼ばれても、睦月は怒りもせずに笑っている(最近では亮のむっちゃん呼びに寛容な睦月だが、眠いときや機嫌が悪いときは、平気で鉄拳が飛んでくるのだ)。
「睦月?」
「……まださ、旅行……ここにお泊りして、夜景見て、それがメインで……まだ始まったばっかで何もしてないのに、……何かすっごい嬉しくて、楽しーの、俺」
「そっか」
ふにゃふにゃと笑っている睦月を抱き寄せて、頬に何度もキスをすれば、睦月は嬉しそうに足をパタパタさせながら、さらにキツク亮に抱き付いてきた。
「…ん」
大人の時間にはまだ早いと分かっているのに、睦月のほうから唇にキスして来てくれたら、何となく止まれなくて、亮はそのままキスを深くする。
「りょぉ…」
「…ん?」
「観覧車の続き、するの…?」
キスの合間を縫って、睦月が尋ねる。
ベタに観覧車のてっぺんでキスとかして、危うくそのキスに溺れそうになって、何とか理性を繋ぎ止めたのだけれど。
「続き、するよ。イヤ?」
「…景色、見ないの? それに…」
あとご飯……と言い掛けて、さすがにこの状況でご飯の話を出すのはムードがなさすぎると思い、睦月は口を噤んだ。
睦月が黙ってしまったから、残されたのは沈黙だけで、見つめ合っているのも恥ずかしくて睦月が目を伏せると、亮はクシャリと睦月の前髪を掻き上げて額に唇を寄せた。
「むっちゃん、おいで?」
自分が起き上がるのと一緒に睦月の体も起こしてやって、ベッドを降りる。
豪華のソファとテーブルセットの間をよけて窓辺に行けば、そこはバルコニーになっていて、外に出られるようになっていた。
「え、開けんの?」
当たり前のように鍵に手を掛け、バルコニーへ出ようとする睦月に、亮が驚きの声を上げてば、睦月は「は?」と振り返った。
「開けなきゃ外出れないじゃん」
「え、外出んの?」
「は? 亮、出ないの?」
…どうもいまいち話が噛み合っていないような気がする。
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