恋三昧

【18禁】 BL小説取り扱い中。苦手なかた、「BL」という言葉に聞き覚えのないかた、18歳未満のかたはご遠慮ください。

2011年12月

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映画のような恋がしたい。(だって最後は決まってハッピーエンドだ。) (77)


「いーの、この子はコーラで! ねっ?」
「ちょっ、ちーちゃん!」

 どうしようか遥希が迷っていたら、千尋が突然、背後から勢いよく抱き付いてきた。
 最初に遥希がオレンジジュースを頼んだとき、キャラ作り? なんて皮肉っていたくせに、千尋だって十分かわい子ぶっているじゃないか、と遥希はチラリと千尋を見る。

「コーラ好きなの? じゃ、コーラのカクテルとかは?」
「カクテル、あんま分かんない…。ちーちゃん、何にしたの?」
「カンパリだけど」

 自分でも、当分アルコールは飲まないと決心していたし、千尋からも、コーラでいいの、と助け舟を出してもらっていたのに、結局遥希の気持ちはアルコールへと傾いてしまった。
 何か自分だけノリが悪いと思われるのも嫌だし、何よりも元からお酒は大好きだから(弱いけど)。

「はい」
「え、」

 遥希がぐずぐずしているうちに、匡平が勝手に何か注文したらしく、遥希の前にグラスが差し出された。
 氷のたっぷり入ったコリンズグラスに、琥珀色のドリンク。上にレモンとチェリーが飾られている。

「これ何?」
「コーラのカクテル。好きなんじゃないの? コーラ」
「…好き」

 お酒は好きだが種類はそんなに知らないので、種類のたくさんあるところではいつも迷ってしまうから、勝手とはいえ、決めてくれるほうが、実はありがたい。
 遥希は、受け取ったグラスに、少し口を付けてみる。

「どう? 飲めそう?」
「…ん。でも何か、コーラていうか、紅茶みたいな味する…」
「飲みやすいでしょ?」
「うん」

 結局、遥希がそのカクテルを飲むつもりなんだと分かって、心配そうに遥希の背中に張り付いていた千尋は、不安を残しつつも遥希から離れた。
 遥希はお酒に弱いから、千尋にしたら、遥希に自分で飲むものを決めてほしいのだ。でないと、こういう場だし、下心のある相手は絶対に強いお酒を勧めて来るから。

 千尋もそうだが、遥希もカクテルの種類にそんなに詳しくないから、知らないカクテルを出されると、その度数が分からないから、加減して飲むことが出来ずに、酔い潰れてしまいかねないのだ。

 けれどまぁ、遥希にしたら、これが今日の1杯目だし、何があったかは知らないが、遥希は今お酒に相当警戒しているようだから、恐らく大丈夫だろう……と信じたい。

「向こうで飲も?」

 自然に匡平は遥希の手を取って、歩き出す。
 強引…というほどではない、でも遥希は、引っ張って行ってくれる人が好きなので、こういうことをされると、千尋に単純と言われようと、思わずときめいてしまうのだ。



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映画のような恋がしたい。(だって最後は決まってハッピーエンドだ。) (78)


 もしかしたら、声を掛けて来た男2人にしたら、この時点でそれぞれに別れたかったのかもしれないが、遥希が、「ちーちゃん…」とぐずったので、結局4人で席に戻った。

「これ飲んだら、踊る?」
「ん…でも…」
「何?」

 ご馳走してもらったコーラのカクテルをチビチビ飲みながら、遥希が少し躊躇うような素振りを見せると、匡平は遥希の肩を抱いて、「イヤ?」と尋ねてきた。
 抱き寄せられながら、遥希は、そんなことない、と首を振る。
 …首まで振ってみせたのは、何となくキスされそうな雰囲気だったから、それを拒みたいという気持ちがあったからなのかもしれない。

(どうしよう…、俺、やっぱり琉のこと、気にしてる…)

 琉への気持ちを諦めるため、カッコいい人にナンパされるんだ、てテンション上げて来たのに。
 なのに、こうやって肩を抱かれて、琉のことを気にしている。

「遥希、踊りたくないの?」

 肩を抱く手が、スッと耳を掠めていく。
 あぁ…こんなふうに抱き寄せられるの、どのくらいぶりなんだろう。やっぱり、ひと肌が心地いい。

「…踊りたくない。もうちょっとこうしてたい。…ダメ?」
「全然。遥希、かわいいね」

 クラブに来ているのに、こんなまったりなテンションもないだろうと遥希自身も思うのだが、匡平の腕は温かくて優しいので、つい甘えてしまった。
 グラスの中身はもう半分以上なくなっていて、ちょっとペースが速いかな、と思ったが、口当たりもいいし、まだ1杯目だし…と、遥希は気にせず飲んでいたら、匡平の顔がすごく近くにあるのに気が付いた。
 さっきキスは拒んだのになぁ~…と、ふわふわする頭で考えていたら、匡平が近付いたんでなくて、遥希が彼に凭れる体勢になったから、顔が近付いたのだと分かった。

「…ん」

 頬にキスされる。
 スルリと背中を匡平の手が滑っていって、まだ愛撫というほどでもないけれど、他人にこんなふうに触られるのが久しぶりだったから、つい、体が震えてしまった。
 遥希の反応に気をよくしたのか、匡平の手はさらに大胆に遥希の体に触れてくる。

「は…」

 首にキスされて……少し強めに吸われる。もしかしてキスマーク? クラブのノリで、そこまで?
 というか、遥希も若い男の子らしく、気持ちいいことは大好きだけれど、こんなところで、これ以上したくない。
 キスやその先の愛撫くらいのこと、みんなしているし、誰も気に留めていないの分かっているけれど、遥希は嫌だ。せめてキスまで。

「ん、ヤ…」
「や? 気持ちよくない?」
「気持ちい…けど…」

 嫌だ、と匡平の体を押し返そうとするが、ビクともしない。
 というか、全然体に力が入らない。
 たかが1杯飲んだくらいで、そんなに? そういえば先週琉とご飯したとき、サワー1杯半で酔い潰れた、と言われたっけ。でもあれは琉や大和が一緒で緊張したからで…。



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映画のような恋がしたい。(だって最後は決まってハッピーエンドだ。) (79)


「ねっ、ちょっ、ハルちゃん大丈夫?」
「え…?」

 慌てたような千尋の声がして、遥希はそちらに視線を向けようとしたが、千尋の姿を視界に捉えることは出来なかった。
 カラフルな色がグルグル回っているのが見えるから、目は開けているはずなのに。

「大丈夫だよ、匡平いるし。ちーちゃんは俺と飲も?」
「ぅん…」

 千尋は、隣ですっかりグズグズになっている遥希を気にするが、大輔に肩を引き寄せられて、話を遮られてしまった。
 けれど、いくら遥希が酒に弱くても、たかがカクテル1杯で潰れるような子でないことは、千尋も知っている。そこまで弱いなら、絶対に酒なんか飲ませないし。

「2人ももういい感じじゃん。俺らは俺らで楽しもうよ」

 グイと腰を抱き寄せられ、耳にキスされる。
 ピアスごと耳たぶを食まれて、千尋は首を竦めた。でも、遥希のことが気になって、集中できない。

 遥希も千尋も、ナンパされるのが目的で今日はここに来て、こうして2人めでたくカッコいい男の子をゲットできたんだから、お互い、それぞれに楽しめばいいのは分かる。
 千尋だって、もちろんそうするつもりでいたのだ。
 しかし、遥希が酔っ払うのを通り越して、酔い潰れたような状態になったのを見ると、放っておけない。
 飲んでも、しっかりした状態でお持ち帰りされるのなら、ヤバくなってもどうにか出来るだろうけど、こんな状態では、絶対に好き放題にされてしまう。

「場所移んね?」
「ん…、でも…」
「ん? あの子、気になる? じゃ、4人で遊ぼっか」

 千尋が遥希のことを気にしているのが分かったのか、大輔はそう提案して、耳たぶを弄っていた舌を千尋の耳の中に忍ばせた。
 酔っ払うというほどではないが、酒が入ったせいでいつもより敏感になってい千尋は、ビクッと体を震わせて、堪らず大輔にしがみ付いた。

「かわい」
「ぁ…」

 まだ少し躊躇うような、イヤイヤする素振りはあるけれど、千尋の体が、素直に自分の愛撫に感じ始めているのが分かるので、大輔も後は押せ押せといった感じだ。
 嫌なら声を掛けられた時点でも、抱き寄せたときにでも、いつでも拒めたんだから、今さらだとでも言いたいのかもしれない。

「ん、ふ…」

 抱き寄せているのとは反対の手が、ズボンと素肌の境目をツッ…となぞって、そのまま下へと滑ると、確実な意味を持って、千尋のその部分で止まった。
 女の子と違ってミニスカートではないから、直に触られるわけではなくて、でも焦れったいような愛撫をズボンの上から繰り返されるだけの千尋は、いつの間にか、ねだるように大輔に体を預けていた。



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映画のような恋がしたい。(だって最後は決まってハッピーエンドだ。) (80)


「あ…?」

 もっと…と言うように、千尋も大輔の背中に腕を回したら、しかしそれを見計らったように、大輔は千尋のソコから手を離してしまった。

「もっと欲しい?」

 意地悪く、千尋の耳元で囁く。
 相手も男だ、千尋の体が今どんな状態かなんて、それこそ手に取るように分かるだろうに、そんなことを言って、ますます千尋をその気にしてしまう。

「ちーちゃん、気持ちいいの、好き?」
「ぅん…」

 モゾモゾと膝を擦り合せる千尋に、大輔は見透かしたようにニヤリと笑いかけ、耳の縁を舐め上げる。
 千尋が、耳が性感帯だってことは、この反応を見ていれば、考えなくても分かる。

「もっと気持ちいいの、あげよっか…?」
「ふぇ…?」

 アルコールと快楽に酔わされた千尋は、うつろに大輔を見つめる。
 何…? と考える間もなく、千尋の体はソファの背に押し付けられ、大輔の状態が覆い被さって来た。

「え、何…?」

 まさかこんなところで最後まで及ぶ真似はしないだろうけど、何となくヤバい気がして、千尋は立ち上がろうとしたが、鍛えているとはいえ小柄な千尋の体は、簡単に押さえ付けられてしまった。

「ちょっ…」

 大輔は自分の体で、千尋をフロアのほうから隠すようにすると、ポケットから何かを取り出した。
 それは大輔の手の中に収まる大きさだったので、千尋には何か見えなかったけれど、大輔が、取り出したそれをすぐに自分の口に入れたので、どういうものなのか、すぐに分かった。

「大丈夫だって、すぐによくなっから」
「ヤ…ヤダ…」

 ベ、と自分口の中を見せた大輔の舌の上には、白い錠剤が乗っている。
 まさか、こんなに人が大勢いるクラブのフロアで、堂々とこんなことが行われるなんて思ってもみなかったから、千尋はここまで危機的状況になるまで、そんなこと、想像もしていなかった。

「大丈夫、ヤバいヤツじゃないから」

 そう言って大輔は、千尋に顔を近づける。
 もちろん、その錠剤を千尋に飲ませるためだ。

「や…や、ちょっ…」

 飲んでもまだ多少冷静さを保っていた千尋ですらこの状態だ、酩酊している遥希は、一体どうなってしまったのだろう。
 千尋は恐怖で、ギュッと目を閉じた。

「あのさぁ、俺の連れが酔って迷惑掛けちゃったみたいなんだけど、そろそろ連れてってもいーい?」

 千尋たちがこんなことになっていても、合意の上なのか無理やりなのかはともかく、それは、ここでは日常の一部であり、誰も気になんか留めていないだろうに。
 しかしその声は、明らかに千尋たちのいるテーブルに向かって掛けられたもので、不意の声に、千尋を押さえていた大輔の力も弱まった。

「えっ、水落琉…!?」

 咄嗟に大輔の手を払った千尋は、その背後に立っている人物を目にして、仰天して声を上げたが、慌てて自分の口を塞いだ。
 千尋は実際に見掛けたことないけれど、芸能人とか、結構このクラブに出入りしてるという話なら聞いたことはある。琉がこのクラブの常連なのかは知らないが、しかし確かにそこに立っているのは、FATEの水落琉だった。



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映画のような恋がしたい。(だって最後は決まってハッピーエンドだ。) (81)


ryu


 遥希からメールが来ない~と大和に嘆いているうちに、遥希とご飯をした日から1週間が経ってしまった。
 大和が言うには、普段からあまりメールしない人なら、1週間くらいメール来ないことなんて、ザラにあることらしい。琉には絶対に信じられないけれど。

 そんな傷心気味の琉を、仕事終わりにクラブに誘ったのは大和で、もちろん琉は丁重にお断りした。
 この間、クラブの帰り、一緒だったモデルの子とのツーショット写真を撮られたばかりなのだ。もちろん彼女は友だちで、周りには他の仲間もいたのだが、バックはいいように消され、あたかも2人で仲良くしている写真になってしまった。
 こういうことはしょっちゅうあって、気にしていたら始まらないのだが、ファンの子は悲しむだろうなぁ、とは思うし、多かれ少なかれ琉だって傷付く。
 だから今は、夜遊びに関しては、ちょっとナーバスなのだ。

「でも潤也、東京帰って来てるって。遊びたいらしいよん」
「あー…潤也と最近会ってねぇなぁ」

 潤也は、琉たちと同じ事務所だが、他のグループに所属するアイドルで、琉とも大和とも仲のいい友人なのだが、東京・大阪と舞台公演があったため、ここしばらくは会っていなかった。

「そんな、ハルちゃんからメール来ない~てウジウジしてないで、気晴らしに遊び行こうぜ? な?」
「んー…」

 何となく大和に唆されたような気がしないでもないが、久々に潤也に会いたいのも確かなので、琉は少し考えてからOKした。

 それから、心配性なマネージャーの南條に見送られ向かったクラブは、別に琉に気を遣ったわけではないだろうが、この間パパラッチされたのとは違うところだった。
 VIPルームに行けば、すでに数人の女の子と、潤也を含む男性陣がいる。

「潤也、久しぶり~」
「おぅ、久しぶり」

 何となくノリで、潤也とハグ。
 そしたら大和が、「琉だけズルい!」とか何とか言って、その輪に加わってきたので、男3人で変なことになっている。

「つか、やっぱ莉乃、いねぇな」
「え、まさか琉に気ィ遣って?」

 莉乃とは、先日琉とのツーショット写真を撮られてしまったモデルで、このメンツのときは大抵来ている子だ。
 さすがに写真を撮られたばかりだから、琉が来るというなら…ということで、今日は遠慮したんだろうか。

「まっさかー! 莉乃が琉なんかに気ィ遣うわけないじゃん! 莉乃は今、ユカリンと旅行中~」

 気になって尋ねれば、すでに少しアルコール回り気味のミユが、笑いながらそう答えた。
 どうやら莉乃がこの場にいないのは、やはり別に琉に気を遣ったわけではなく、女2人でグアム旅行を満喫中なだけのことだったらしい。

 溢れる音楽。
 アルコールもうまいし、仲間と一緒にいるのは楽しいし、やっぱりこういうところで遊ぶのは好き。
 ちょっとナーバスになっていたし、遥希のことも気になっていたけれど、大和が言っていたとおり、来てみて気晴らしにはなったかも。



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映画のような恋がしたい。(だって最後は決まってハッピーエンドだ。) (81)


 VIPルームから望めるメインフロアには、男女問わず多くのお客がいて、思い思いに楽しんでいる。
 琉はもともとダンスが好きだから、本当はこういう場ではダンスや音楽を楽しみたいけれど、さすがにフロアで琉が踊ったら騒ぎになるから、残念ながらそれは出来ない。
 でも、こうやって眺めているだけでも、結構楽しめる。

 それにしても、ここは『ナンパ箱』と言われているだけあって、相変わらずナンパばっかりだ。
 女の子も、それを分かった上で来ているから、ナンパに応える子が殆どだけれど、2人きりになるのを待てずに、大胆な行為に及んでいることも少なくない。

 ゴシップ誌の中の水落琉は、ナンパも女遊びも大好きなことになっているけれど、実際の琉は、クラブでそういう遊び方をしたことはない。
 女の子は嫌いじゃないし、彼女でなくても、今みたいに女友だちとかと、一緒に飲んだり騒いだりするのは楽しいけれど、その場限りの恋や体の関係は楽しめない。
 そういうことが好きな人を否定はしないけれど、琉はやっぱり、恋は好きになった人とだけすればいいと思うから。

「え…?」

 好きな人かぁ…と、琉が遥希のことを思い出して、ほんのり切なくなっていたら、メインフロアに見覚えのある姿を見つけた。
 遥希だ。
 フロアに、遥希の姿がある。

「は? え?」

 疲れ過ぎ?
 遥希のこと、考え過ぎ?

 あまりにも遥希とクラブとが結びつかなくて、琉は見間違いをしたのだと思った。
 フロアは暗いし、VIPルームからフロアが見渡せるにしたって、この距離だ、そこまではっきりと見えるわけではないから、雰囲気の似ている子と間違えているに違いない。

(いや、だとして、どんだけ俺、ハルちゃんのこと思い過ぎてんの?)

 幻覚とは言わないけれど、好き過ぎて、遥希に見間違えてしまうなんて重症すぎる。

 遥希と思しき人物には連れがいて、VIPルームから近いバーのそばで、2人して顔を寄せ合って楽しそうにしているが、どうも相手は男のようだ。
 友人と遊びに来ているのだろうか。
 それにしては、男2人で随分楽しそうだ。

(やっぱり、ハルちゃん…?)

 こんなに大好きなのだ、見間違うなんて、あり得ないと思う。
 でもそうだとしたら、やはり遥希がこのクラブに遊びに来ているということになるわけで。

「琉、何見てんの? かわいい子でもいた?」

 フロアを見つめたまま、琉が1人でグチャグチャ考えていたら、大和が訝しむように尋ねてきた。



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「なぁ大和、あれハルちゃんに似てね?」
「はぁ? ハルちゃん、こんなトコいるわけないっしょ」

 やはり大和にしても、遥希がクラブになんか遊びに来るタイプではないと思っているのか、フロアを見る前から、あっさりとそう否定した。
 琉だってそう思う。
 けれど、世間のイメージと実際が異なることが大いにあるということは、琉自身が何よりも分かっているから。

「ちょっと見てみろって、大和! アソコ! バーの近くの」
「えー? あー…んー…、まぁ確かにハルちゃんに似てんね。うん、ハルちゃんかも」
「だよな? ハルちゃんだよな?」
「絶対とは言えないけど。でもいいんじゃね? ハルちゃんだって大学生なんだし、クラブにくらい遊びに来るっしょ」

 琉が言わんとする人物を見つけ、確かにそれが遥希に似ていることも認めた大和は、至極尤もなことを言ってのけた。
 似合う似合わないはともかく、年齢的にももう問題ないわけだし、遥希が何をして遊ぼうと、それは遥希の自由だ。

「一緒にいんの、友だちかね。あ、誰か声掛けてる。…男?」

 琉と一緒になって遥希らしき人物を眺めていた大和が、いちいち解説を入れてくる。
 しかし大和の言うとおり、男2人でいる遥希たちに声を掛けたのは、逆ナンの女の子ではなく、明らかに遥希たちよりもガタイのいい、男の2人組だった。
 いくらフロアが暗くても、余程それっぽい格好をしている人でなければ、男女を間違うこともないだろうに、女の子と間違えてナンパか?

「…何か、男4人で、超楽しそうに盛り上がってね?」
「うん…」

 男だけで飲んで騒ぐのももちろん楽しいけれど、クラブに来て、男だけで固まって楽しんでいる姿は、あまり見かけたことがない。
 どこのクラブにも、ゲイやビアンは多かれ少なかれ来ているから、もしかしたらあの4人も、そういうことなのかもしれない。

「でも、そうすると、そのうちの1人がハルちゃんかもなんだよな?」
「…」

 大和に言われ、琉はハタと我に返った。
 確かに、あれが遥希なら、そういうことになってしまう。

「…やっぱ見間違いじゃねぇの?」
「うーん…」

 琉の友人の中にもゲイやビアンは結構いるから、そうした性癖についてどうこう思う気持ちはないのだが、遥希がゲイで、クラブにも遊びに来ている、という姿が、あまりにも想像付かなくて、つい考えてしまう。



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映画のような恋がしたい。(だって最後は決まってハッピーエンドだ。) (83)


 そうしている間にも、遥希を含む4人は、バーのほうへ移ってドリンクをオーダーしている。
 これってもう、完全にナンパの流れだ。
 声掛けて、ドリンク1杯くらい奢って仲良くなって…て、やっていることがあまりに教科書どおりすぎて、いくら琉がクラブで女の子をナンパしたことがなくても、分かった。

「りゅー、テンション低い~!」
「イテッ」

 琉がフロアのほうばかり見て、全然会話に乗ってこないことに気が付いたミユが、バシンと思い切り琉の背中を叩いた。
 フロアを見ていたのなら大和だって同じことなのに、被害の及ばなかった大和は、叩かれた琉のことを見て、ゲラゲラ笑っている。

「何? 誰DJ、フロア何かあんの?」

 実に大胆な格好で、ミユが琉と大和の間に割って入って、メインフロアを眺める。
 琉も大和も、その他男子全員も、もちろんミユのことは女の子として見てはいるんだけれど、こういうことがあまりに日常的になっていて、今さら『ちゃんとしろ』と言う人間がいない。
 どうせ、パンツが見えると言ったところで、見せパンだし、と返されるのがオチだ。

「何もないじゃん」
「何もないよ」
「じゃあ何で琉、フロアばっか見てんの?」
「何か知り合いが……知り合いに似てる子がいたから」

 それは間違いなく本当のことなのだが、琉がそう言っても、ミユは本気にしていないのか、「はぁ?」とグラス片手に首を傾げている。

「何か……新しい感じの、ナンパのセリフ?」
「新しくない、新しくない、全然」

 琉の言葉にピンと来ていないミユが言えば、潤也が残念そうに首を振った。
 人違いだと分かっていて、知り合いだと間違えて声を掛けるなんてナンパのパターン、何十年も前からあるし、今どきなかなかお目に掛からない。

「いや、それが却って今は新しい感じかもじゃん」
「リバイバル的な?」
「キャハハハ」

 一体何がリバイバルなのかは分からないが、話はリバイバルから発展して、昔のアニメが新たに映画化されただとか、有名なシリーズのテレビゲームがまた発売されるとかで盛り上がり始めた。

「…ちょっとフロア、行ってみる」
「え、マジで? じゃあ俺も行く!」

 遥希たちのことが気になって、いても立ってもいられず琉が立ち上がると、大和までそんなことを言って席を立った。絶対におもしろがっているだけだ。

「バッ…お前はここいろよ、大和」
「いいじゃん、いいじゃん」



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映画のような恋がしたい。(だって最後は決まってハッピーエンドだ。) (84)


 琉1人だって目立つ可能性があるのに、FATEが揃ってフロアに行ったらどうなってしまうのか。
 琉は大和を押し戻そうとしたが、「2人してどこ行くの~?」という声に、「連れション~」とのん気に答える大和に背中を押され、結局大和までVIPルームを出て来てしまった。

「お前なぁ」
「だって気になんじゃん、ハルちゃん。大体、琉が最初にハルちゃんがいるとか言い出したんだからな」

 ニヤニヤと笑いながらも、大和はサングラスを装着した。これで完璧な変装とはいかないが、クラブにはこんな雰囲気の男はたくさんいるので、目立たなくはなっている。
 琉はどうしようかと迷ったが、大和と違って、サングラスを掛けてメディアに登場することの多い琉は、掛けても琉だということがバレバレなので、やっぱりやめてハットを被るだけにした。

 琉たちがフロアに出ると、遥希たちはもうバーのところから、壁際のソファの席に移動していた。
 しかも、遥希とその友人とが、声を掛けてきた2人組の男のそれぞれとカップルみたいに寄り添って座り、遥希は男に肩を抱かれて、甘えるようにしているではないか。

「ちょっ、え、あれマジでハルちゃん? やっぱ人違いだろー?」

 男の腕の陰になって、顔がよく見えなくなってしまったので、遥希かどうかより判断しにくくなったけれど、琉だって大和の言うように、人違いだと信じたい。
 けれど、先週一緒にご飯したとき、酔っ払った遥希がやたら甘えて来たのを知っているだけに、あながち人違いではないのかもしれない、という思いもある。

「声、掛けてみる?」
「いやバカ、ハルちゃんじゃなかったらどうすんだよ」

 それに、たとえ遥希だとしても、彼氏なのかナンパ男なのかは知らないが、2人で楽しんでいるんだとしたら、とんだお邪魔虫だ。

 …一体自分は、何のつもりでこんなところまで出て来てしまったんだろう。
 遥希がクラブでどんな楽しみ方をしようと、琉には関係ないのに。

「なぁ、でもちょっとヤバくね? ハルちゃんもだけど……向こうの子」
「へ?」

 琉が1人で落ち込んでいたら、大和が琉の肩を揺さぶった。
 最初から一緒にいた遥希の友人らしい男の子は、男とソファの間に挟まれた状態で、逃げ場を失っている。
 男の立ち位置のせいで、周りからは死角になっているようだが、大和は彼が男に対して抵抗していることに気が付いていた。

「声、掛けてみっか」
「…南條、泣かすことになるかもだけど」
「泣いてもらおう」
「ハゲちゃうかも」
「ハゲてもらおう」

 この場にいない不憫なマネージャーの南條について勝手なことを言いながら、琉と大和は、遥希たちのいるソファのほうへ向かった。



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映画のような恋がしたい。(だって最後は決まってハッピーエンドだ。) (85)


「ハルちゃん…」

 そばまで来てみれば、やはり最初に思ったとおり、それは遥希だった。
 けれど酔い潰れてしまったのか、ソファでくったりしている。そして大和が気が付いた遥希の友人の男の子は、完全にヤバい状態だった。

 ポンポンと、その男の肩を叩いたのは大和。
 邪魔するなとでも言いたげに、面倒くさそうに振り返った男に声を掛けたのは、琉。

「あのさぁ、俺の連れが酔って迷惑掛けちゃったみたいなんだけど、そろそろ連れてってもいーい?」

 もちろん2人とも、琉の連れではない。
 しかしこの危機的状況を、出来るだけ穏便に片付けるためには、そう言うしかなかった。店のスタッフでもないのに、他のお客の行動を注意するのは、トラブルのもとだから。

「えっ、水落琉…!?」

 琉が声を掛けたことで、押さえ付ける男の力が緩んだのか、咄嗟に男の子はその手を振り払ったが、視線の先に琉の姿を認めると、驚いた表情で琉の名を呼んだ。
 まさかこんなところで琉に会うとは思っていなかっただろうし、ましてやこんな状況を助けてくれるなんて、ゆめゆめ想像していなかっただろうから。
 しかし自分が名前を呼んだことで、周囲に琉がいることがバレたらマズイとでも思ったのか、男の子は慌てて自分の口元に手をやった。

「え…水落、琉…?」

 男の子を押さえ付けていた男も、遥希を押し倒し掛けていた男も、琉の姿に驚愕している。
 たとえ嘘でも、琉は2人のことを『連れ』と言ったのだ。その連れに手を出したとなると、へたをしたら大きなトラブルになりかねない。
 トラブルがご法度なのは芸能人もそうだが、そこから発展したトラブルに巻き込まれるのは御免だと思っているのか、大きく騒ぎ立てることもせずに、その場から去って行った。

「ゴメン、何かヤバそうだったから声掛けてみたんだけど……お邪魔だったのかな?」
「あ…いえ、そんなこと…、ありがとうございます…」

 男の子は、今自分の身に降り掛かったことがまだ信じられないのか、呆然としていたけれど、何とかお礼の言葉を言った。
 とりあえず彼が無事だと分かって、琉も大和もホッとした。

「あっ、てか、ハルちゃん!」

 呆然としていた彼は、突然、思い出したように遥希の名前を口にしたかと思うと、ぴょんとソファから飛び上がって、横たわっている遥希の前にしゃがんだ。

「ハルちゃん、大丈夫!?」
「ん…にゃ…、ちーちゃん…?」

 遥希のことが心配なのは琉も大和も同じなので、声を掛けられた遥希の反応を気にしたが、遥希はむにゃむにゃと目をこすりながら起き上がり、目の前の友人の姿を見つけると、そちらに抱き付くようにして再び目を閉じてしまった。



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映画のような恋がしたい。(だって最後は決まってハッピーエンドだ。) (86)


「ハルちゃん、ハルちゃん、うぅ…重い…」

 体の力が抜けた遥希が伸し掛かるような状態になってしまったので、屈んでいた友人の彼はまともに体重を掛けられてしまい、ツライ体勢に眉を寄せた。

「大丈夫? よいしょ…と」

 琉は友人くんから遥希を引き剥がすと、肩を貸して立たせてやった。

「えっと…ちーちゃん? ハルちゃんのお友だち?」
「あ…千尋…、村瀬千尋です…」

 遥希が『ちーちゃん』と呼んだのを聞いて琉が尋ねれば、彼はホッと息をついて立ち上がり、自己紹介した。

「千尋くん、俺、ハルちゃんがこんななって心配だから、連れて帰りたいけど……ダメかな?」

 これじゃあ、休憩する? て言ってホテルに連れ込むどこかのナンパ男と同じようだと思ったが、遥希が心配なのも確かなので、琉は千尋に言ってみた。
 一緒に来ていた千尋だって、すごく遥希のことを心配しているのが分かるから、彼を無視することは出来ない。

「ダメではないですけど…」
「じゃあ、そうする。裏にタクシー回してもらうから、一緒に来て」

 戸惑っている千尋にそう言うと、琉は遥希に肩を貸して歩き出す。
 酔い潰れてへたっている人間なんていくらでもいるから、琉たちが特別目立つわけでもない。

「大和、潤也たちに帰るつっといて」
「メールしときゃいいじゃん。俺も行くし」
「はぁ? じゃあメールしといてよ」

 トイレに行くと言ってVIPルームを出て来てしまっているから、このまま戻らないのもマズイと思ったのに、大和は自分も付いてくるとか言い出す始末。
 大和が、言い出したら聞かない性格なのはよく分かっているので、琉はこれ以上言うのをやめてお願いした。琉は遥希を支えているから、メールどころではないのだ。
 ちなみに千尋は、琉が来てくれたことにも驚いたけれど、まさか大和までいるとも思っていなかったから、ポカンと口を開けていた。

「ハルちゃん…、何でこんな…」

 外に出るとすぐにラブホ街だし、人通りも多いから、外でタクシーを拾うのをやめて、スタッフに行ってタクシーを呼んでもらう。
 扉を隔てて、中の爆音がいくらかおだやんだ場所で、タクシーを待つ間、千尋が心配そうに遥希の顔を覗き込んでいる。

「だってハルちゃん、相当お酒弱いでしょ? 飲めばすぐ潰れちゃわない?」
「でも1杯しか飲んでない!」

 何で1杯だけでこんなになるの? と千尋は困惑した表情だが、琉にしたら、先週一緒にご飯したとき、サワーの1杯半で酔い潰れている遥希を見ているから、それは何となく自然のことのように思える。
 しかし千尋は、それには納得していないようだった。



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映画のような恋がしたい。(だって最後は決まってハッピーエンドだ。) (87)


「弱いけど、1杯くらいで潰れたことない。それに今日、何か飲んですぐにこんななっちゃったし…。普通じゃないよ!」
「もしかして、相当強いヤツ飲んだんじゃない? お酒弱いのに、強いの飲んじゃったから、1杯で潰れたとか。ハルちゃん、何飲んだの?」

 もし飲んだお酒が、アルコール度数の高いものだとしたら、普段1杯くらいで潰れない人でも、こんなふうになってしまうかもしれない。
 それは、遥希でなくたって、よくあることだ。

「分かんない…。さっきのアイツらが奢ってくれたの。何かコーラのカクテルとか言ってたけど……嘘だったのかな?」
「コーラで割ったヤツだって、強いのあるよ? えっと…、ロングランドアイスティー? だっけ?」
「アイスティー? 何かハルちゃん、紅茶みたいな味する、て言ってた!」
「じゃあそれだ。あれ、紅茶みたいな味するけど、ウォッカとかテキーラとか、いろいろ入ってっから、かなり強いよ」

 遥希と同じく、そんなにアルコールに詳しくない千尋は、遥希が何を飲んだのか分からないけれど、あのときは、最初に遥希がコーラにすると言い、千尋もそうするように言ったのだが、結局、コーラのカクテルを渡されてしまったのだ。
 コーラで割るカクテルなんて他にもあるのに、そんな強いお酒を飲ませるなんて、やはりあの2人は、遥希たちを酔わせてどうこうするだけのつもりだったのだ。

「でも多分大丈夫だと思うよ。寝てるだけで、意識あるし」

 琉も大和も医療の分野は素人だが、急性アルコール中毒になった人間を見たことがあって、でも今の遥希の様子はそうでもないから、その点なら心配ないと思う。
 そう言ったのに、しかし千尋の表情は暗いままだ――――ふと、嫌なことを思い出したから。

「千尋くん?」
「そういえば、アイツ……何か薬みたいの…!」
「え、」

 泣きそうな顔で訴えた千尋の言葉に、琉も大和も顔色を変えた。
 千尋の言う『薬』というのが、単なる風邪薬だの胃薬だのを言っているわけではないことは、2人にもすぐに分かる。

「ハルちゃん、何かそういうの飲まされたの?」
「分かんない…、ハルちゃんは分かんないけど、でも俺、何かそういうの、飲まされそうになった…!」

 あのときは自分のことで精いっぱいで、遥希がどんな状態だったのかまで、見ている余裕がなかった。
 噂には聞いたことがあるけれど、ドラッグとかそういうのが、自分の身にも降り掛かって来るとは、夢にも思っていなかったから。
 でももし、遥希のほうに言い寄っていた男も、同じようにそういうものを持っていたんだとしたら…。

「行き付けにしてる病院があるから、念のため、そこに連れてこう。…大丈夫、連絡すれば、すぐに診てもらえるから」

 蒼褪めている千尋にそう言って落ち着かせると、琉は到着したタクシーに遥希と一緒に乗り込んだ。

「はい、ちーちゃんも乗って」

 立ち尽くしている千尋の背中を押したのは大和で、千尋をタクシーの後部座席に押し込めると、自分は助手席に乗った。
 タクシーの中はずっと無言で、琉は遥希の体を自分に凭れさせていたが、そんな遥希の手を、千尋はギュッと握っていた。



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映画のような恋がしたい。(だって最後は決まってハッピーエンドだ。) (88)


 向かったのは琉たちがよく利用している病院で、事前に連絡していたおかげで、着くとすぐに診察してもらえることになった。
 千尋は心配そうに診察室のほうを窺っていたが、そばに大和もいたので、琉はその間に南條に電話をすれば、南條は案の定、『はぁ~~~!!???』と、卒倒しそうな声を上げた後、絶句した。
 しかし、琉たちが必要以上のトラブルに巻き込まれていないことが分かると、冷静になって、『とりあえずこっちは手回ししとく』と言って電話を切ったのだった。

 診察や検査の結果、遥希は何かしらの薬物を摂取させられていることもなく、急性アルコール中毒の恐れもないことが分かって、一同をホッとさせた。
 入院の必要はないが、心配なら泊まっていってもいい、と顔見知りの当直医に言われたものの、それも何だか落ち着かないので、結局連れて帰ることにした。

 行き先は琉の家。
 千尋は、これ以上迷惑を掛けたくないので、遥希を自分の家に連れて行くと言ったのだが、琉はこのまま遥希と離れたくなかったから、タクシーの中で千尋が寝てしまったのをいいことに、行き先を変更したのだ。

 先のクラブで千尋は、突然琉が登場したことには驚いたものの、琉が遥希のことを知っているのには、少しも驚いていなかった。きっと、琉と遥希が知り合いであることは、遥希から聞いて知っているのだろう。
 事情が分かっているなら、このまま千尋も一緒に連れて行っても構わないとも思ったので、行き先変更に躊躇いはなかった。

「つか、お前も来んのかよ」

 だから、琉がそう言った相手は、千尋でなく大和なのだ。
 琉の家の近くに止まったタクシーから、なぜか大和まで一緒に降りようとするから。

「いいじゃん、いいじゃん。ちーちゃん寝ちゃったんだろ? 俺が部屋まで連れてってやるよ」

 大和は尤もらしいことを言いながら、千尋をタクシーから降ろしてやった。
 千尋も、あんな目に遭ってからずっと気を張っていたのだろう、遥希が無事だと分かって安堵したに違いないから、確かに起こさずに部屋まで連れて行けるのなら、そのほうがいいのかもしれない。

 先週は、琉と遥希の2人だったので、酔い潰れた遥希を1人には出来ないという思いもあって、遥希を琉と一緒のベッドに寝かせたけれど、今日は千尋や大和もいるので、そうするわけにもいかないのだろうと、結局、千尋と遥希をゲストルームのベッドに寝かせた。

「え、てことは俺、琉と一緒のベッドてこと?」

 2人を窮屈でない程度に簡単に着替えさせてやって、さぁ部屋を出ようというところで、大和はハタと嫌なことに気が付いた。
 琉の家には、来客用に、ベッドの他にふとんもあるけれど、今さら敷くのも面倒くさいし。

「勝手に付いてきたくせに、文句言うな。つか、ソファで寝ろよ、お前」
「えー、扱い悪ぃー。俺だっていろいろお手伝いしたのに~。琉、ヒドイ!」
「ならお前、俺と一緒のベッドで寝たいわけ?」
「寝たくない」

 ソファとは言っても結構大きいし、座り心地も寝心地もいいもので、そこまでごねるほどの代物ではないことは、大和もよく知っている。単に、そう言って琉を困らせたいだけのことなのだ。

「つか琉」
「あ?」
「今度、潤也とまた飲み直そうね?」

 ピラピラと携帯電話を琉に見せながら、大和は、勝手知ったる琉の家、バスルームに向かう。
 琉はそこでようやく、久々に会った潤也に、大和から送信してもらったメールだけで、何の挨拶もなしに帰って来てしまったことを思い出した。



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chihiro


 確かに千尋は病院を出た後、遥希を連れて自分の家に行くと言ったはずなのに、目が覚めたら自分の家ではない部屋のベッドの上、遥希と一緒に朝を迎えていた。
 もちろん、酔って知らない人に付いて行ったわけではない。
 この部屋に見覚えはないが、千尋は昨日の記憶がしっかりとあるので、大体の想像は付く。きっとここは、水落琉の家だ。タクシーで寝てしまった隙に、連れて来られたに違いない。
 起こしてくれればよかったのに…とは思うが、気を遣ってくれたのかもしれないし、単に遥希が心配で放っていけなかったのかもしれない。

(だって…あのときの水落の心配の仕方ったら)

 酔い潰れた上に、危ない薬を飲まされたかもしれないとなれば、そりゃ心配はするだろうけど、普通は店の人に言って対処してもらうくらいだろう。
 友人だとか恋人だとか、一緒に来た人がそうなれば、あそこまでするかもしれないけれど、琉と遥希はまだ会って間もないわけだし、ましてや芸能人なら、無用なトラブルは避けたいだろうに。

(それだけ、ハルちゃんのことが心配、てこと…?)

 広いベッドの上、のん気そうにまだ眠っている遥希の顔を眺める。
 遥希は、琉と友人でいることすら恐れ多い…みたいな雰囲気だけれど、自分からメールアドレスの交換を申し出たくらいなだけあって、琉はそれなりに遥希のことを気に入っているのかもしれない。

 遥希は、琉への恋愛感情を断ち切って諦めるんだ、て言っていたけれど、こんなに遥希のこと気に入ってくれて、心配してくれる人のこと、諦められるんだろうか。
 もう2度と会わない関係ならそれも可能だろうけど、琉はこれからも、遥希と友人として付き合っていくだろうから、もう会わないなんて無理なわけで。
 LOVEで好きなのに、友人としてしか想ってくれない人と一緒にいる、て……千尋だったら絶対に耐えられない。

「ハルちゃん、ハルちゃん」

 とりあえず遥希の肩を揺さぶりながら、千尋は起き上がる。
 よく見れば千尋も遥希も、昨日着ていた服でなく、Tシャツとスウェットパンツに着替えさせられていて、まさかあの水落琉が、こんな甲斐甲斐しいことをしてくれたんだろうか。
 千尋は、『FATEの存在を知っている』程度のごく普通の20代男子なので、琉の人となりなんて、テレビや週刊誌が伝えるくらいにしか知らないから、琉がこんなことしてくれるなんて、あんまり想像できない。
 でも遥希を心配する態度や、初めて会った千尋にまでこんなに良くしてくれるなんて、本当は根の優しい人なのかもしれない。

「ハルちゃん、起きてよ」
「ん…」
「ハールーちゃん!」
「や…お母さん、あと5分…」
「……」

 誰がお母さんだ。
 というか、1人暮らし始めてもう3年目なのに、何で寝惚けて、お母さんに起こしてもらってるとか思うわけ?



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 これ以上遥希のことを起こすのも面倒くさいので、とりあえず放っておくことにして、千尋は部屋の様子を窺いつつ、ベッドを降りる。
 広い部屋には、男2人で寝ても狭いと感じさせないベッドの他にテレビやソファもあるが、あまり生活感がないから、ここは普段使っている部屋でなくて、お客を泊める部屋なのだろう。

「セレブ…」

 千尋もファッション業界で働く者の端くれとして、ほんのちょっとばかし有名なデザイナーさんのお宅に伺ったことはあるけれど、ここまでセレブな感じではなかった。
 遥希がFATEの大ファンだから、今回の新曲もミリオンだったとか、千尋にしたらどうでもいい情報が入ってくるので、琉が金持ちだってことは想像に難くないが、やはり思っていたよりずっと、格が違ったようだ。

 千尋はコソコソとドアに近付くと、そぉーっとドアを開けて、外の様子を窺った。
 泊めてもらっている以上、ここにいるのは悪いことではないのだから、別にコソコソする必要はどこにもないのだが、何となく気配を殺してしまう。
 けれど、わずかに開けたドアの隙間から頭を出してキョロキョロしてみたが、誰もいない。

 勝手に家の中をウロウロするのも何だし、琉たちが来るまで、ここにいたほうがいいんだろうか。
 でももし仕事とかあって、千尋たちが起きてくるのを別の部屋で待っているだとしたら、早く起きたほうがいいとも思うし。

 でもまぁ、とりあえず遥希を起こさないことには始まらない…と、千尋は面倒くさそうに、まだ眠りこけている遥希を振り返った――――と、

「おはよう、千尋くん」
「うわっ!」

 誰もいないと思っていたのに、急に声を掛けられて、千尋はビクンッ! とマンガくらい大げさに飛び上がった。

「ッ、水落琉っ…!」

 声を掛けてきたのは、おそらくこの家の家主であろう水落琉で、その後ろには同じくFATEの大和もいた。そういえば大和は、病院にも一緒に来てくれて、その後も同じタクシーに乗り込んだのだ。
 こんなツーショットがいきなり目の前に現れたら、ファンでなくても、女の子はメロメロだろうなぁ。あ、あと遥希も。
 同じゲイでも、千尋は別にドキドキもしないし、メロメロにもならないのは、やっぱり好みのタイプではないからだろうか(イケメンなことは認めるが)。

「ゴメン、驚かせちゃって。起きたかな、て思って様子見に来たんだけど」
「あの、ここってやっぱり…」
「俺んち。ゴメンね、千尋くんち行こうとも思ったんだけど、寝ちゃったから、場所分かんなくて。起こすのも何かかわいそうだったし」
「それに琉、ハルちゃんが心配で、ほっとけなかったんだよね!」

 ゴメン、と両手を合わす琉の後ろで、大和が(なぜか)楽しそうにそう言って、琉の背中に貼り付いた。

「ハルちゃんのこと、心配…?」
「え、そりゃもちろん! …あ、千尋くんのことももちろん心配したけど!」
「……」

 別に、遥希のことだけが心配で俺のことは心配じゃないの? というつもりで言ったわけではないのに、琉はそう受け止めたのか、慌ててフォローしたが、それが却って、千尋のことをオマケぽく言っているように聞こえる。
 実際のところ、あのときは、遥希に比べて千尋はしっかりしてたから、遥希の心配をしたくなるのも分かるけれど。



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「それであの…具合はどう? えと……2人とも」
「…………。…俺は普通だけど、ハルちゃんはまだ寝てる」

 やっぱりどうも、琉の中では千尋のことは2番手なのか、付け足しのように言っているような気がしてならない。
 千尋的には、琉なんて別に興味ないから、何番目でもいいけれど、裏を返せば、それって、琉は遥希のことが特別気になる、てこと?

「ハルちゃん、まだ寝てるの? 具合、相当悪いとか?」
「具合……てか、ただ眠いだけだと思うけど」

 二日酔いにはなっているかもしれないけれど、顔色も悪くないし、心配するほどではないだろう。
 しかし、遥希はまだ寝ているから、琉を部屋に入れてもいいものかと、千尋はふと思う。

(ハルちゃん、寝起き、ブサイクだからなぁ…)

 千尋が、親友とは到底思えないようなことを思うのは、遥希がしょっちゅう『俺、寝起き、顔ヒドイから、彼氏とお泊りしたら、絶対先に起きないとダメなの!』と、乙女なことを言っているからだ。
 千尋にしたら、琉が遥希の寝起きの顔を見ようがどうしようが構わないが、後で遥希に恨まれたら面倒くさいので、やっぱり琉たちを部屋に入れる前に、遥希を起こすことにした。

「えと…、ちょっとそこで待っててください」
「は? え?」

 琉と大和を再び部屋の外に追いやって、千尋は部屋のドアを閉めようとしたが、どうして締め出しを食らうのか分からない琉が、ドアを掴んで閉めさせてくれない。

「え、何? 何で? 部屋入れてくんないの?」
「すぐにハルちゃん起こすんで、それまでちょっと入らないでほしい…」
「??? え、ゴメ…ちょっと意味が…」
「すぐ起こすから、入んないで!」

 意味不明…と琉が戸惑っている隙に、千尋はさっとドアを閉めてしまった。
 ドアを閉めたとはいえ、部屋に鍵はないから、琉だってドアを開けようと思えば開けられるのだが、そこは忠実に千尋の言うことを守ってくれるらしく、ドアの開く気配はしない。

「ハルちゃん、起きて!」
「ん~…にぃ~…」
「起ーきーろーーー!!」
「ん…ん…」

 千尋は、今度は容赦なく遥希の体を揺さぶり、ブランケットを引っぺがす。
 その猛攻に、遥希はようやく意識を取り戻して来たのか、目をこすりながらモゾモゾと動き出した。

「後5秒で起きないと、擽りの刑です」

 まだ目も開けず、まったく覚醒していない遥希に、千尋は静かに刑の執行を告げる。
 もちろん、何も分かっていない遥希がそれで起きるはずもなく。

「ごーお、よーん、さーん、にーい、いーち…………ゼロ!」
「ギャッ!」

 千尋は、起きない遥希に飛び掛かると、馬乗りになって遥希の脇腹を擽り始めた。



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「ひぁっ! やっやっいやっ何!? にゃ~~~~~!!!」

 いきなりの擽り攻撃に、さすがの遥希も目を開けたが、抵抗しようにも上には千尋が乗っているから、手足をバタバタさせるくらいしか出来ない。
 しかも千尋は、相手が抵抗すればするほど燃えてしまうドSなので、一向に擽る手を止めようとしない。

「やっ、嘘、ちーちゃん!? なん…ちょっ、ひゃはっ、やめ、」
「起きる!? ねぇハルちゃん起きる?」
「起きる! 起きるからぁ~~~!!!」

 遥希が完全にギブアップしたところで、千尋は満足そうに擽る手を止めて、遥希の上から下りた。

「何なの、ちーちゃん、ヒドイ…」
「だってハルちゃんが起きないんだもん」

 若干涙目になりつつ、遥希が不満げに起き上れば、千尋はシレッと言い返した。

「ところでハルちゃん」
「ん?」

 遥希が、ボサボサの頭を掻きながら辺りを見回していると、至極真面目な顔をした千尋が、声を潜めながらベッドに乗っかって来た。

「ここさ、水落琉の家で、部屋の外で水落と大和が待ってんだけど、どうする?」
「…………………………。………………は?」
「え、聞こえてるでしょ? 何で聞き返すの?」

 もちろん遥希は千尋の言葉が聞こえていたけれど、『聞こえなかったから』だけが、話を聞き返す理由ではない。意味が分からなくたって、聞き返すことはあるのだ。
 だって、本当に意味が分からない。
 ここが琉の家で、部屋の外に琉と大和が??

「え、何で琉の家にいんの? ちーちゃんも? え、てか俺、昨日…」
「昨日一緒にクラブ行ったじゃん。そんで何か変な奴にナンパされて、ヤバいことになりかけたの。覚えてる? 覚えてないか」
「何か声掛けられて、お酒奢ってもらったよね?」
「その後ハルちゃん、すぐ酔っ払って潰れちゃって、俺も何かちょっとヤバかったんだけど、そしたら水落と大和が助けてくれたんだよ」
「嘘…」

 2人組の男にナンパされて、お酒を奢ってもらったことは覚えているようだが、そこから先の記憶はあまりないらしい遥希は、千尋の話を聞いて呆然となる。
 琉や大和が現れたというのももちろん驚きだが、ナンパされてヤバいことになるなんて、そんなの想像もしていなかった。

「俺だって、あんなヤバくなるとは思ってなかったよ。ハルちゃん、すぐ潰れちゃうし、超怖かった」
「それで、琉と大和が助けてくれたの? 俺らを?」

 2人が同じクラブに来ていたのだってすごい偶然なのに、あんなにたくさん人がいる中から、困っている遥希たちを見つけ出して、助けてくれるなんて。



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「スゴイ、琉…。ヒーローみたい…」
「いやハルちゃん、キュンてなってる場合じゃないから」

 偶然が重なったり、琉が遥希のことを気に掛けていてくれたりしたことが、今へと繋がっていて、遥希も千尋も無事でいられるのだけれど、琉への想いを断ち切るためにクラブに行ったはずの遥希が、今までよりもさらに琉にときめいてしまっては、何にもならない。

「そうだけど…、でも琉、カッコいい…」
「いや、まぁ……うん」

 確かに、あのとき登場した琉は、ヒーローみたいで格好よかった。遥希にも見せてやりたかった。
 でも一緒にいた大和も、同じくらい格好よかったし、いろいろしてくれたのだが、遥希は琉に対して盲目的すぎて、そこまで気が回っていないらしい。

(…………。それって、水落と同じじゃん?)

 遥希のことばかり気に掛け過ぎて、千尋のことがあまり目に入らない琉と、琉のことが大好き過ぎて、大和のことに気が回らない遥希。
 結局は、似た者同士ということか。

(いや、相思相愛だ…)

 愛情と友情。
 LOVEとLIKEの違いはあるけれど。

「ハルちゃん…。水落のこと諦めるとか言うの、やめたら? 無理じゃん」
「無理じゃないよ。てか、無理でも諦めなきゃだもん」
「諦めて、それからどうすんの? 俺が見る限り、水落はハルちゃんのことかなり気に入ってるからさ、これからも会いたがると思うよ? 友だちとして会うの?」
「…うん」
「ハルちゃんのドМ」

 千尋にはとても耐えられないことだが、遥希は本気で、琉と友情を育んでいくつもりらしい。
 琉への気持ちが完全に友情に代わってから会うなら、辛い気持ちなしに仲良くやっていけるかもだけど、遥希は現在進行形で琉のことが好きな上に、またヒーローみたいなことをされて、さらに気持ちが強くなっているというのに。
 まったく、ドМにも程がある。

 千尋が呆れて溜め息をついた、その瞬間だった。

『ねぇ、ハルちゃんまだ起きない?』

 ドアをノックする音と、琉の声。
 千尋と遥希は2人して、ビクッと肩を震わせた。
 部屋の外で琉と大和を待たせていたのを忘れて、つい話し込んでしまった。

「ちょっ、ちょっと待って! ハルちゃん、ホラ頭直して、ボサボサ!」
「ちーちゃんもここ寝癖!」
「俺はいいから!」

 千尋は慌てて外に向かって返事をすると、遥希の髪を直してやる。
 せっかく寝起きの顔を見られないようにと気を遣ってやったのに、何もしないで琉の前に出たのでは、まったく意味がない。



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「ちーちゃん、オッケー? 俺、大丈夫?」
「大丈夫、大丈夫。いつもの『中の下』くらいのかわいさには復活したから」
「ダメじゃん!」
「もういいの!」

 琉の前にブサイクな顔出るのは、遥希の乙女心が許さないが、『中の下』と評価した千尋も、これ以上時間を掛けることを許してくれない。
 だったら、嘘でももっと高評価をしてくれたらいいのに!

「お…お待たせしましたー」

 2人でバタバタとベッドを降りて、部屋の外に向かう。
 ドアを開けたら、そこには琉と大和がいて、そのキラキラ具合に遥希は早速「はぅっ…!」とやられてしまった。朝から眩しすぎる。

「おはよ、ハルちゃん」
「お…おはよーごさいますっ!」

 琉に挨拶されて、遥希の顔は嬉しそうに綻ぶ。
 自然とこんな表情になってしまうくらい琉のことが好きなのに、無理でも諦めるだなんて、よく言えたものだ。

「ハルちゃん、大丈夫? 具合とか。さっきすごい悲鳴みたいなの聞こえたけど…」
「え、あ、はい、大丈夫です! さっきのは…」

 琉が聞いた悲鳴とは、おそらく千尋に擽られて、思わず上げてしまった声のことだろう。
 本当のことを言うのは恥ずかしいし、心配してくれる琉が呆れそうなので、遥希は何となくごまかした。

「でもハルちゃん、元気そうで安心した」
「ああああの、いろいろ迷惑掛けたみたいで、助けてもらったり、あの、ありがとうございます!」
「うぅん、ハルちゃんが無事なら、それでいいし」
「でも俺、また琉に家まで連れて来てもらって…」

 琉と遥希が顔を合わせた途端、そばにいる千尋と大和の存在などまるで消え失せたように、2人の世界が出来上がってしまい、千尋はウンザリしてしまう。
 やっぱりどう見ても、2人は相思相愛じゃないか。

 でも、それはいいとして。

「…ハルちゃん、『また』てどういうこと?」
「え?」

 遥希がうっかり口走ってしまった『また琉に家まで連れて来てもらって…』の、『また』の部分を聞き逃さなかった千尋が、2人の世界に割り込んで、鋭く突っ込んだ。
 千尋は、遥希が琉とベタな少女マンガみたいな出会い方をして、友だちになったことは知っているが、琉の家に来たことがあるなんて、聞いていない。
 しかも、『連れて来てもらった』ということは、酔い潰れたとかしたのを、琉の家まで連れて来てもらったということか。
 そういえば、琉も遥希がお酒弱いことを知っていたし、遥希が昨日、お酒をあまり飲みたがらなかったのは、そういうことだったのか。



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「いや、あのっ、あのね、ちーちゃんっ…」
「違うんだよ、千尋くん。先週一緒にご飯したとき、遅くなっちゃって。俺んちのほうが近いから、て俺んち来たの」

 怖い顔で詰め寄る千尋にタジタジになる遥希に助け舟を出したのは琉で、隣で大和も頷いている。
 千尋はすぐに、琉が遥希を庇っているのだと分かったけれど、それを追及したところで得られるものはないと思い、騙されてやることにした。

「ゴメンね、ちーちゃん」
「俺に謝るんじゃなくて、水落に『ありがとう』て言いなよ」

 千尋は溜め息をつくと、ゴメンね? と引っ付いてくる遥希を、嫌そうに引き剥がした。

「じゃあハルちゃん、これ以上迷惑掛けないうちに、お暇しようね。2人とも忙しいだろうし」
「えっ、もう帰るの!?」

 もう帰ろう、と千尋が言えば、なぜか琉が驚いた声を上げた。
 千尋が、『何?』と視線を向けると、琉は曖昧に笑う。

「いや、あの……メシでも食ってったら? お腹空いてない?」
「…………」
「えっと、あの…」
「…………。芸能人て、案外暇なの?」
「…………」

 琉が喋れば喋るほど、千尋の眉間にはしわが刻まれていって、やっぱり勝手に遥希たちを連れて帰ったこと、すごく怒っているんだろうかと焦ったら、真剣な顔でそんなことを尋ねられた。
 本当に純粋に、遠慮していただけのようだった(そのわりには、質問の内容は随分と失礼だ)。

「ちーちゃん…!」
「だって、芸能人て、朝から晩までずーっと働き詰めなんじゃないの? 休みとかなくてさ。俺らとのん気に飯なんか食ってていいのかな、て思って」

 思ったことをつい口に出してしまうのは千尋の悪い癖で、遥希は慌てて千尋の腕を引いたが、千尋は解消されない疑問に、う~ん、となっている。

「いや、仕事も十分してるけど…」
「今日はまだ時間あるから、2人ともご飯食べてきなよ。琉が作ったので良ければ」

 琉と千尋のやり取りが余程おかしかったのか、大和が大層ウケながら2人をご飯に誘う。琉の家で、琉の作る料理にだが。

「俺は別にいいけど、ハルちゃん、朝ご飯なんて食べない子じゃん。どうすんの?」
「た、食べるよ、朝ご飯」
「嘘。食べないじゃん」
「食べるようになったの!」
「あっそ」

 遥希が朝ご飯を食べるようになったのが、琉の影響だなんて知らない千尋は、慌てて言ってくる遥希に、あっさりと返した。

「じゃ、ご飯にしよ? つか、今作りかけだから、すぐ出来るし」
「ふーん」

 水落琉も料理するんだぁ…と、最初は遥希も思ったことを、やはり千尋も思ったが、いちいち言うのも面倒くさかったので、それは心の中に留めておいた。



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ryu


 どうも、遥希の友人である千尋のことは、苦手なような気がする…。

 作り掛けの朝食作りを再開した琉は、背中に感じる千尋の視線に、何となくそう思った。
 別に千尋のことを嫌いなわけではないし、相手からも嫌われているようには感じないのだが、何となく見透かされているというか、先手を打たれているというか。

(もしかして、俺がハルちゃん好きなこと、気付いてるとか…?)

 それで、大切な親友を守るために、ああいう態度だとか?
 だとすると、琉が遥希に想いを伝えるまでのハードルは、さらに高くなったような気がする。
 大体、酔っ払った遥希は琉に甘えてくれたけど、今日になったらまた敬語に戻っていたし、なかなか琉の気持ちには気付いてくれなそうで、それだけでも試練なのに。

「ねぇねぇハルちゃんは、こないだ水落んちに来たときも、水落の作ったご飯食べたの?」
「た…食べたよ?」

 2人はコソコソと話をしているが、この距離だから、もちろんすべて聞こえる。
 何ともかわいらしい会話だが、それにしても千尋は、どうして琉のこと『水落』て呼ぶんだろう。
 会ったことのない芸能人をそう呼ぶのは何となく分かるが、実際に本人を前にして、しかも初対面の相手から、名字を呼び捨てにされたのは初めてかも。
 それってちょっと失礼なんじゃ…? と思うが、千尋が言うとそういう感じがしないから、今まで全然気付いてなかった(それによく考えたら、最初からずっとタメ口だし)。

「なぁ琉」
「…んだよ」

 琉の手伝い(をする真似)をしていた大和が、ニヤニヤしながら近づいてきた。
 絶対におもしろがっている!

「お前さぁ、ブハッ」
「笑うなっ…!」

 千尋にタジタジになっている琉のことが、おかしくて仕方ないのだろう。
 大和にしても、千尋みたいなタイプに会うのは初めてのはずがだ、随分と千尋のことを気に入っているようだ(そういえば大和も、初めて会ったときから『ちーちゃん』と呼んでいる……似た者同士?)。

「ねぇ、何か誰か来たぽくね?」
「え? お客さん? でも勝手に入って来てるんじゃ…」

 ダイニングに近付いてくる足音に気が付いた千尋と遥希が、ドアのほうを振り返っている。
 誰が来たのか分かる琉と大和は、大して驚きもしない。

「水落、一ノ瀬、お前ら~~~」
「あ、南條おはよ」

 うるさくドアを開けて入って来たのは、FATEのマネージャーである、かわいそうな南條だった。
 夜中、遥希を病院に連れて行ったときに、念のため、琉は南條に連絡しておいたのだ。



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映画のような恋がしたい。(だって最後は決まってハッピーエンドだ。) (97)


「何のん気にメシなんか作ってんだ! あぁもうっ、俺がどんだけ心配したと…」
「いや、だって、ゴメン。でも無事だから。俺も大和もハルちゃんも、千尋くんも」
「え?」

 疲労困憊気味ながら、精一杯の怒っている顔を作って南條が詰め寄れば、琉はそう説明した。
 そこで南條はようやくダイニングの中を見回し、琉と大和以外に人の姿があることに気が付いた。

「え、あ…小野田くん…………と、え、千尋?」
「ん?」

 遥希とは以前に会っているから、南條が知っているのは当然だが、どうしてか南條は、その隣にいる千尋のことも知っている様子で、彼がここにいることにひどく驚いた表情になった。

「ちょっ…千尋、何でお前がここにいんの?」
「これから朝メシをごちそうになろうかと。あ、もう昼か。つか、お前こそ何でこんなトコいんの?」

 慌てた南條が千尋に尋ねれば、千尋は南條が琉の家に現れたことには驚いた様子ながら、相手が自分のことを知っていることには驚かない。
 つまり、2人は知り合いということか。

「え、ちーちゃん、南條さんのこと知ってるの?」
「高校んとき、同じクラスだった」
「「「はぁ~~~~~~~?????」」」

 千尋の答えに、遥希と琉、大和は揃って大きな声を出した。
 まさかそんな繋がり、一体誰が想像しようか。

「嘘、俺そんなの初めて聞いた! ちーちゃん、何で言ってくんなかったの!?」

 ずっと琉のファンだった遥希にしたら、千尋がFATEのマネージャーと知り合いだってこと、もっと早く教えてもらいたかったことだろう。
 それは琉にしたって、同じことだった。
 この2人が知り合いなら、もっと早く遥希と出会えたかもしれないのに。

「え、ハルちゃん、俺の高校の同級生、知りたいの?」

 しかし、遥希に詰め寄られた千尋は、わけが分からないというふうに首を傾げ、微妙に的外れなことを答えている。
 しらばくれているのか、本気で分かっていないのか、それは琉には見分けられなかった。

「え、何? 何で俺、南條のために、ハルちゃんにこんなに怒られないといけないの? つか、何で南條、こんなトコいんの? 勝手に入って来たの、いいの?」
「俺は鍵持ってんの、ここの! マネージャーだから!」
「マネージャー? 水落の?」
「FATEの!」

 南條にそれだけ説明されても、まだなおピンと来ていない様子の千尋に、遥希もようやく千尋がとぼけているのではないと気が付いた。



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映画のような恋がしたい。(だって最後は決まってハッピーエンドだ。) (98)


「え、ちーちゃん、南條さんのお仕事、知らなかったの?」
「うん」
「もしかして、高校出てからずっと会ってなかったとか、そういうこと?」

 それならば、いくら高校のころ同じクラスでも、今の仕事を知らないということはあり得る。
 そういうことか…と、琉や大和も納得した……のだが。

「え、結構しょっちゅう会うよ?」

 千尋は、あっさりとそうのたまった。

「はぁ? しょっちゅう会うのに、何で知らないの!?」
「だって別に、南條の仕事になんか興味ないもん」
「……」

 まったく悪びれたふうもなく言う千尋に、その場にいた全員が絶句したが、これが千尋という人間なのだと、琉はようやく悟りを開いた。

「とにかくさ、メシ食おう? な? もう出来たし」
「うん」

 場の雰囲気を取り戻そうと、努めて琉が明るく言えば、千尋が返事をした(…)。



*****

 先週遥希が泊まったときのメニューがトーストだったので、今日は和食。
 誰にも言わないし、きっと誰も気付かないだろうけど、琉の中の小さなこだわり。

「すげぇ、普通にうまい」

 お米大好きの千尋は、小柄な体に似合わず、食欲旺盛にご飯を平らげているが、今はそれでも朝ご飯を食べるようになったのだという遥希は、やはり食が細い。
 口に合わないかな?
 朝ご飯あんまり食べない人は、トーストくらいのほうがよかったんだろうか(時間的にはもう昼だが)。

「南條、食わないの?」
「もう食って来た」

 相変わらずコーヒーの飲めない南條は、ティーバックで淹れた紅茶を飲みながら、少し離れたソファのところでノートパソコンを広げている。
 南條を振り返っていた千尋は、今度は遥希に視線を向けた。

「ハルちゃんは? 食べないの? この卵焼き、おいしくない?」
「おいし……ん、」

 おいしいなら、お食べ? と、千尋が変な箸の持ち方でつまんだ卵焼きを、遥希の口元に持っていく。
 遥希はそれを戸惑うことなく口に入れたが、向かい側に座っていた琉は、その光景に絶叫しそうになった。

(ちょっ…! かわいいけど、そんなの他の男にやらせないでよ!)

 多分遥希が口を開けたのは、親鳥からエサを貰うヒナのような感覚だったのだろうが、琉にしたら、その親鳥の役目を自分にやらせてくれ、というものである。
 何か言いたいけれど言えずに、琉がピクピクしていたら、遥希が卵焼きを咀嚼するのを見ていた千尋がチラッと琉を見て、フフンと鼻で笑った(ような気がする)。



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映画のような恋がしたい。(だって最後は決まってハッピーエンドだ。) (99)


「そういえばちーちゃんて、何してる人なの? 俺、ハルちゃんと同じ大学とかそういうことなのかと思ってたけど、南條と同級生てことは、もう大学生じゃないの?」

 最近、炭水化物控えめで、すでに食事を終えてコーヒーを飲んでいる大和が、ふと尋ねた。
 琉が千尋に対してタジタジなのをおもしろがってはいるが、琉の恋を応援するつもりはあるのだ。そのためには、少しでも千尋の情報を仕入れて、攻略法を見出さないと。

「もう働いてる人です。withていう、服売ってるお店」
「ちーちゃん、服のデザインもするんですよ~」

 千尋は、ファッション系の店で働いていることしか言わなかったのに、隣の遥希が、まるで自分のことのように、自慢気にそう付け加えた。
 遥希にとって、千尋は自慢の友だちらしい。

「ふぅん。じゃあハルちゃんとは、学校の友だちじゃないんだ。どういう繋がりなの?」
「知り合いの知り合い、みたいな」
「お客さんと店員さんじゃないんだ?」
「ハルちゃんは、1回も買ってくれたことがない。薄情者」
「だってちーちゃんトコの服、高いんだもん!」

 薄情だと言われ、遥希はむぅと唇を突き出して、反論した。
 確かにセレクトショップは、大学生が買うには高い値段の商品が置いてあることもあるから、遥希にはまだ手が出ないらしい。

「てかハルちゃん、喋ってないで食べなよ。ホラ」
「た、食べるよ。てか、食べられるよ!」

 また千尋に食べさせられそうになって、遥希は琉や大和がその様子を見ているのに気付いて、自分の箸でご飯を食べる。
 いつの間にか、食事を終えていないのは、遥希だけになっていた。

「千尋くんも、コーヒーか何か飲む?」

 千尋のご機嫌取りをするつもりではないが、自分の分だけ淹れて、千尋に何も聞かないのも悪いかと、琉は一応聞いてみる(大和と南條は、いつものように勝手に自分でやった)。

「…………。じゃあ、コーヒーで」

 一瞬、微妙な顔をしてから、千尋がそう答えた。
 ずっとそうなんだけれど、千尋は、琉に名前を呼ばれると、何とも言えない顔をするのだ。

(やっぱり嫌われてんのかなぁ…)

 千尋は、姫を守るおとぎ話の騎士さながらに、ナンパ男から遥希を守る意気込みなのかもしれない。
 もちろん、そのナンパ男の中には琉も含まれているから、千尋の琉に対する態度は、ずっとこんななのだ。

(ハルちゃん攻略するより、この子を説得するほうが難しそう…)

 密かに打ちひしがれつつ、琉は千尋にコーヒーを渡した。



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君を覆うやさしい銀河 (1)


 プレゼントの中身を確認する前に、みなさまに注意事項がございます。
 必ずお読みになってから、用法・用量を守ってお進みください。

注意1
 お話は、「君といる~」シリーズですが、なぜか突然のパラレルストーリーです。むっちゃんとかが、大学生じゃないし、何かいろいろアレです。
注意2
 BLていうか、え、BL? え? みたいな感じです。BLじゃなくね? みたいな。
注意3
 どうしても今日中に全部アップしたかったんで、1話辺りがいつもの倍くらいの長さです。ゴメンなさい。それでも5話になってしまいました。いつもの長さで10話のほうがよかったですかね…?

 以上の注意点を理解し、許してくださる方のみ、お進みください。
 ダメそうな方は…すみません、24日分の通常更新はこちらです。続きは26日となります。

 タイトルは、約30の嘘さまからお借りしました。ありがとう!







 みなさん、サンタクロースって知ってます?
 あ、知ってる? それは失礼しました。そりゃ知ってますよね、サンタさんくらい。

 え? 子どものころ、本気で信じてた?
 いやいや、ちょっと待って。その言い方じゃあ、まるでサンタクロースが、本当はいないと言ってるようじゃないですか。
 え、そう言ってる? もしかしてあなた、サンタクロースを架空の生き物だと思ってらっしゃるんですか?

 はぁ~…。
 時々いるんですよね、そういう人が。サンタクロースが苦労して置いてったプレゼントも、お父さんかお母さんがコッソリ置いたものだと思い込んでる人。
 あぁ、サンタさんてホント、報われない。

 ここではっきりと申し上げましょう。
 サンタクロースは、本当にいるんです。

 クリスマスの夜、いい子にしていた子どもたちにプレゼントを配っているのは、お父さんでもお母さんでもなく、サンタさんなんです。







「さ゛ーむ゛ーい゛ー」

 ズビズビと鼻を啜りながら、コートの前をしっかりと上まで上げ、嫌そうに顔を顰めながら身を竦ませているのは、サンタの睦月。
 ただでさえ寒いのは苦手だというのに、24日の今日に限って、雪まで振り出す始末。本当に、やっていられない。

「ちょっと、むっちゃん! 荷物の確認、一緒にしてよ!」

 自分たちが配るプレゼントが載ったリストを片手に、睦月に向かって声を張り上げたのは、同じくサンタの翔真。
 睦月は今晩、彼と一緒にプレゼントを配りに行くのだ(一人前のサンタは1人で全部こなすけれど、若いサンタはみんな、ペアで仕事をするのだ)。

 ちなみにここは、クリスマスにサンタクロースが子どもたちに配るプレゼントを保管・管理しているセンター。
 どのサンタも、自分の担当地区の子どもたちをリサーチして、クリスマスまでにプレゼントを用意したら、ここでソリに積んで、子どもたちに配りに行くのである。
 誰にどのプレゼントを配るのかはコンピュータ管理されているけれど、先に回る家のプレゼントが手前に来るように積まないといけないから、最終確認は、そのソリのサンタが自分たちで行わなければならないのに、睦月は先ほどから寒がってばかりで、何もしていない。

「むぁ~~~、ショウちゃん、寒い~~~!!!」
「しょうがないでしょ、冬なんだから。サンタが寒がってどうすんの! ホラ、早く確認して、ソリに積も? 遅れちゃう」
「ん゛ん゛~~~」

 サンタだって寒いものは寒いのに、翔真はまったく相手にしてくれなくて、睦月はしょんぼりとしながら、翔真から手渡されるプレゼントをソリに積み込んでいく。
 ソリの見た目は小さいが、実は中にいっぱい積み込める仕様になっていて、この1台で、結構な数のプレゼントを配ることになる。
 つまりサンタクロースは、へたな運送屋よりも、よっぽど仕事をこなさなければならないのだ。

「でもそれだって、一晩だけのことでしょ。運送屋さんは、雨が降っても雪が降っても、毎日配んなきゃいけないんだから。はい、あと10個で終わりだから、むっちゃん、ガンバ」
「にゃ~~~」

 翔真から、何の慰めにもなっていない慰めの言葉を貰いつつ、睦月は、あと10個も入るかなぁ…? と残りスペースを見ながら、若干心配になってくる。
 ソリは、たくさんプレゼントを積める構造にはなっているが、魔法のポケットではないので、スペースには限りがあって、ちゃんと考えて積まないと、積み切れないという事態にもなる。
 実は睦月は去年それで失敗して、残り6個が入らなくて、全部積み直したという前科があるのだ(プレゼントをソリに積む練習なら、学校でもするのに…)。

「えと、ショウちゃん、あと何個て…?」
「むっちゃん、ホラ、早く積んで! え、何?」

 睦月が恐る恐る聞き返した言葉は、翔真には届いていなかったようで、次のプレゼントを手渡してくるから、睦月は慌ててストップを掛けた。
 次に見えてるプレゼント、デカすぎるって!

「むっちゃん? え、まさかもう入んないとか…?」

 翔真ももちろん、睦月の前科を知っているのだが(去年も睦月とペアだったから)、睦月が1年掛けて、プレゼントをきっちり積み込む練習をしてきた(いや、させられてきた)のを知っているから、大丈夫だと思って、積み込み作業を任せたのに。

「え、まさかもう入んないとか?」

 翔真も相当ビックリしているのか、同じセリフをもう1度言って来た。
 去年は残り6個までがんばれたのに、1年練習して、今年は残り10個でアウト?

「だ…大丈夫だよショウちゃん! ここまだ入る! ギュッてすれば」
「ちょっと待った、むっちゃん! ギュッてしちゃダメ!」

 中身は子どもたちに配るプレゼントなのだ。
 考えなしにギュッと詰め込んだら、プレゼントが潰れたりグチャグチャになったりしてしまう。

「ちょっと待って。ここのをこっちにずらして…」

 このまま睦月に任せていたら、無理やりにでもプレゼントを押し込めてしまいそうだと思い、翔真は、中の荷物を少しずつ動かしてスペースを作っていく。
 それにしてもこの積み方は、ちゃんと練習の成果が出てるのかなぁ…。

「よし、これでまだ入る。むっちゃん、次のプレゼント貸して?」
「…ん。でもこれ、超デカいよ? 入る?」

 先ほど睦月がビビったとおり、次に積むべきプレゼントは、結構かさばっていて、これを入れると、その次のものが難しそう。
 それとも、翔真に任せればどうにかなるのだろうか。

「んー…、じゃあその次の貸して? そのデカいのは一番最後にしよ」
「そう?」

 よく分からないが、翔真がそう言うのだから間違いないのだろう、と睦月は素直にその次のプレゼントをチェックして、翔真に手渡す。
 先ほどまで、あと10個なんてとても無理! と思っていたはずのスペースに、どんどんとプレゼントが積み込まれていく。やっぱり、睦月に任せなくて正解だった。

「ショウちゃん、最後はこのデカいヤツだよ? 入りそう?」
「うーん…、さすがにそれは厳しいかも…」
「マジ? どうする? 置いてく?」
「いやいや、置いてっちゃダメでしょ」

 サンタさんなのに、プレゼント置いてってどうするの、と翔真は頭を抱える。



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君を覆うやさしい銀河 (2)


「とりあえずこれ、最初のほうで配るヤツだから、むっちゃん、抱えてってくれる? クマのぬいぐるみだって。重くないから平気でしょ?」
「えぇー!」
「去年みたいに、最初から全部積み直すよりはいいでしょ!?」
「はい…」

 一応、非難めいた声は上げたが、去年の苦労なら、睦月が一番よく分かっている。
 またあんな思いをするくらいなら、このプレゼントを抱えていったほうが、まだマシだ。

「よし、荷物はみんな積んだし、準備オッケーかな。あとは出発の順番を待つだけ……て、むっちゃん、いい加減コート脱ぎなよ」
「え、何で?」
「何でじゃなくて! コート着ちゃったら、制服見えないでしょ」

 サンタクロースの制服である赤い上着とズボンの上から、もこもこの白いコートを着ている睦月は、どう見てもサンタには見えない。
 一応、赤い帽子は被っているけれど……うん、すごくミスマッチ。

「だって寒いじゃん。てか、どうせ人間になんて俺らのこと見えないんだから、服装なんて何だっていいじゃんねぇ?」
「でも決まりなんだから、ちゃんとしないと。それに、サンタさんのこと信じてる子には見えるって言うし」
「そんなヤツいねぇよ。人間なんて、俺らのこと全然信じてねぇもん」

 睦月はそう言って、抱えていたクマのぬいぐるみの包みを、ギュッと抱き締めた。
 サンタクロースなんて、こんなに大変な思いをしてプレゼントを配っているのに、人間はその存在を全然信じようとしてくれない。こんな理不尽、納得いかない。

「あーあ、何で俺、サンタになんかなったんだろ…」
「おいおい、むっちゃん。今ここでそれを言う? これからプレゼント配りに行くのに」
「だってさぁ、そう思わない? プレゼント配ったとこで、人間なんて、誰もサンタのことなんか信じてないし」
「えー? じゃあむっちゃん、マジで何でサンタになったの? 他にもいろいろあったのに」

 サンタクロースは、大まかに言うと妖精の一種なのだが、他にも妖精は、雪の精とか花の精とか、とにかくいろいろな種類がいる。
 生まれたての妖精は、実はまだ何の精かは決まっていなくて、最初に普通の学校に通った後、それぞれの精の学校に進学して、何かしらの精になるのだが、何の精になるかは自由だから、睦月も、サンタが嫌なら別の妖精にだってなれたはずだ。

「だって何かさぁ、亮がサンタになる、て言うから。そっかぁ、じゃあ俺もなろうかな、て」

 亮というのは睦月の恋人であり、彼もまたサンタクロースである。
 睦月と亮は最初の学校のときに出会って恋人同士になったのだが、卒業後、亮がサンタクロースの学校に行くと言うので、睦月もそうしたのだ。

「え、そういう理由なの? マジで?」

 たいていサンタになりたがる妖精は、『人間はサンタクロースの存在を信じている』と思っていて、子どもが好きで、その喜ぶ顔を見たいから、というのが理由なのに。
 でもまぁ、いささか動機は不純だが、恋人を追い掛けて同じ進路に進むのだから、睦月も意外と一途のようだ――――と翔真が思ったのも束の間。

「うん。それに、サンタの仕事なんて、年に1回じゃん? 何か楽そうだなぁ、て思って」
「むっちゃん…」

 亮と一緒だから、ていうのも、本当はどうでもいいの?
 楽そうだから、サンタになったの?

「でもさぁ、なってみたら超メンドイし、人間なんてサンタのこと、ぜ~んぜん信じてないしさぁ。…はぁ~あ、サンタなんもうか辞めちゃおっかなー」
「えー、むっちゃん、マジ? でも今日のプレゼント配るのだけは、とりあえずちゃんとやってよね? 一応、まだサンタなんだから」
「分かってるよぉ」

 サンタに限らず、妖精のことを信じない人間は多くいるから、サンタを辞めた睦月が何の妖精になるかは知らないが、今のやさぐれた気持ちが解消されるとは思えないのだが。
 とりあえず今日の仕事だけは、ちゃんと終わらせてもらわなければ困る。

「むっちゃん、もうすぐ出発するから、コート脱いで」
「えーマジ!? 雪降ってるよ? ねぇショウちゃん、雪降ってるよ?」
「降ってても」

 寒い~! と縋り付いてみても、翔真の返事はすげなくて、睦月は渋々コートを脱いだ。

「てかさぁ、ショウちゃーん、去年のクリスマスも雪降ってなかった? 何なの、もぉー!」
「クリスマスだから、雪の精も張り切ってんだろ?」
「ふざけんなよ、サンタの身にもなってみろ!」

 人間の世界では、ホワイトクリスマス、なんて言って、クリスマスに雪が降ったら喜ばれるのに、寒いのが嫌いな睦月には、相当ウケが悪いようだ。
 そういえば去年も同じ光景を見たなぁ…と、翔真は溜め息を零す。

「人間を喜ばすのが妖精の仕事なんだから、文句言わない。ホラ、もう出発するよ?」
「に゛ー…」

 ショウちゃん優しくないー…と、恨めしそうな顔をした睦月を無視して、翔真はソリを発進させた。







 サンタクロースは煙突からやって来ると思われがちだが、実際はそうではない。
 この時代、煙突のない家はたくさんあるし、それ以前にサンタクロースは妖精なので、別に煙突がなくても、玄関の鍵が閉まっていても、家の中に入ることは出来るのだ(不法侵入ではない、妖精なので)。

「むっちゃん、はい」
「ん」

 眠っている子どもの枕元に、そっとプレゼントを置いていく。
 睦月は、人間なんて誰もサンタクロースのことを信じてない! と主張するが、信じている人にはサンタクロースの姿は見えると言われているので、慎重に行動しなければならない。
 翔真が思うに、サンタクロースを信じているのは主に子どもだが、しかし子どもは、サンタが来るような時間にはもう寝ているから、結局のところ、サンタの姿を見える人がいない――――誰もサンタを信じていない、という結論に達するのだと思う。

「よしオッケ。次行こ」
「んー」

 時間的にもうすでに眠くなってきているのか、段々と睦月の口数が少なくなってきている。
 大体睦月は、寒いのも苦手で、夜はすぐに眠くなるのに、一体どうしてサンタが楽な仕事だなんて思ったんだろう。

「むっちゃん、ソリに乗ってる最中に寝ないでよ? 落ちたら危ないから」
「寒すぎて眠れないよ」
「寒さと睡魔なら、寒さのほうが勝つんだ?」
「間違いなくね。ねぇショウちゃん、マジでコート着ちゃダメなの? もうこれだけの数配って来たけど、1回も誰にも気付かれなかったんだからさ、服なんかどうでもよくない?」
「ダーメ。つか、このサンタ服だって、結構あったかくない?」

 人間がコスプレで着るサンタ服と違って、本当のサンタが着る服は、それだけでちゃんと防寒できるだけの機能が備わっているから、睦月がこれだけ寒がるのもどうかと思うが。

(ていうか、寒がりの妖精て…)

 睦月曰く、サンタだって寒いものは寒いんだ! …らしいのだが、でもやっぱり、妖精なのに寒がりというのは、同じ妖精として、いまいち理解しがたいところだ。



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君を覆うやさしい銀河 (3)


「ねぇショウちゃん、次が最後だよね? これ配ったら終わりだよね?」

 寒さと睡魔なら寒さが勝つと言いながら、やはり睡魔にも勝てそうもない……というか、戦う気もないらしい睦月は、あくび混じりにプレゼント配りをこなし、ようやく最後の1軒にまでたどり着いた。

「そだね」
「ヤッター!!」

 後ろの席で、本気で喜んでいる睦月に、翔真は何度目かの溜め息を零し、最後の1軒の屋根の上にソリを停めた。

「むっちゃん、最後だからって、あんま浮かれてると…」
「ギャッ!」
「えっ!?」

 危ないよ、と続けようとした翔真の言葉は、睦月の悲鳴によって掻き消された。
 慌てて翔真がそちらを見れば、冷えて凍った屋根の斜面に足を滑らせた睦月が、尻餅を突いている。

「イッテー…」
「むっちゃん…」

 あぁもう、どうしてこの子は、こんなにお約束どおりのことをするんだろう。
 しかも、自分が悪いので、当たる相手がいないことは、睦月自身もちゃんと分かっているらしく、「何だよ、もぉ~!!」とか言いながら、滑った屋根をドタドタ踏んでいる。

「むっちゃん、行くよ」
「あぁ~もうっ! これ配ったら、絶対サンタなんか辞めてやるんだからっ」

 サンタを辞める理由が、屋根で滑って転んだからだというのは、どうにも間抜けな気がするが、睦月がその気なら仕方がないか。

「えーっと、和衣くん、か…。あ、靴下置いてある」

 最後のプレゼントを持って子ども部屋に入ると、その部屋の主である和衣はベッドで気持ちよさそうに眠っていて、その傍らには、かわいらしい靴下が置いてあった。
 きっとこの子は、サンタクロースのこと、信じてくれてるんだろうな。

「むっちゃん、プレゼント……て、何してんの…!」
「え、せっかく靴下置いてあるからさ、入れといてあげようかと」

 靴下の中にプレゼントは確かにそう言われているけれど、子ども用の靴下の中に、このプレゼントが入るわけがない。
 分かっていてボケているのか、本気でそうしようとしているのか、とにかく翔真は、靴下の中にプレゼントを入れようとしていた睦月を止めた。

「ぅん…」

 まさか睦月たちの話し声が聞こえたわけではないだろうに(睦月にしたら、人間はサンタクロースを信じていないから、絶対に見えるはずがないと思っているわけで)、しかしタイミングよく和衣がモゾリと動いたので、睦月も翔真も息を殺して動きを止めた。
 サンタクロースが人間に見つかったらいけないという決まりはないのだが、見つかるといろいろ面倒なので、大抵のサンタは気付かれないように気を付けているのだ。

(おおおおお起きた!?)
(いやいやいやいや起きてない起きてない起きてない)
(起きるな起きるな起きるな)

 2人は目だけで必死にそう会話をして、何とかこの状況をやり過ごそうとしたが、しかし現実はそんなに甘くはなかった。

「うぅん…」

 和衣のまぶたがピクピク動いて、とうとうその手が目をこすり始めた。
 ヤバい、このまま起きる気配だ。
 いや、でも待て。もし和衣がサンタクロースの存在を信じていなければ、起きたとしても2人のことは見えないはずだ。もしかしたらやり過ごせるかもしれない。

「…ぅ?」

 …しかし、現実はやはり、そんなに甘くはなかった。

「あっ、サンタさん!?」

 パチリと目を開けた和衣は、視線の先に睦月と翔真を見つけ、ぴょんとベッドから飛び起きた。
 やはり和衣には、サンタクロースが見えるのだ。

「キャー、サンタさん! 来てくれたの!」

 ベッドを下りた和衣は、トタトタと2人のところに駆け寄って来て、嬉しそうに足元に纏わり付いた。

「サンタさん!」
「あー…と、こんばんは、和衣くん」
「サンタさん、和衣のこと知ってるの!?」

 翔真が屈んで和衣に目線を合わせてやると、名前を呼んでもらった和衣は、それだけでキャ~と舞い上がっている。
 あぁ、やっぱり子どもってかわいいな。

「ねぇサンタさん、何で2人? 和衣がいい子にしてたから、2人で来てくれたの!?」
「違う違う、俺らはまだ半人前で……ふがっ」
「はん…??」

 一人前のサンタになるまでは、2人1組でプレゼントを配るのが決まりになっているのだが、それは子どもの和衣は知らなくていいことだ。
 翔真は、隣に屈んで、そんな大人の事情をばらそうとする睦月の口を慌てて塞いだ。

「そうだよ、和衣くんがいい子にしてたから、2人で来たんだよ」
「しゅご~いっ!」

 翔真の言葉を信じた和衣は、目をキラキラと輝かせる。
 妖精が嘘はいけないが、この場合は仕方ないだろう。

「ねぇねぇサンタさん、どこから来たの? お空? お空から来たの? 和衣のお家、煙突ないのに、どっから入ったの!?」

 サンタクロースに会えてすっかり興奮気味の和衣は、睦月の腕のしがみ付きながら、2人を質問攻めにする。
 思い掛けない展開に睦月は動揺するが、まさかサンタクロースが、そばに来た子どもを振り払って蔑ろにするわけにもいかないので、大人しくされるがままになるしかない。

「サンタさんはね、煙突がなくても来れるんだよ、いい子がいるところには」
「和衣、いい子!?」
「うん。和衣くんがお父さんとお母さんの言うこと聞いて、いい子にしてたの、ちゃんと知ってるよ」
「キャー!」

 そう言って翔真が頭を撫でてやると、和衣はピョンピョン飛び跳ねて喜んでくれる。
 サンタクロースを信じていない人間が多いことは、翔真だって重々承知していて、だからこそ、和衣にこんなに喜んでもらえるのは嬉しい。
 しかし、和衣があまりはしゃぎ過ぎて騒いでいると、お父さんやお母さんに和衣が起きていることがバレるかもしれない…と、翔真は和衣をベッドに向かわせようとする。

「和衣くん、いい子はもう寝る時間だよ? おふとんに行こ?」
「ぅー…」

 翔真に言われ、和衣は困ったような顔をした。
 まだまだサンタさんとお喋りをしていたいけれど、『いい子は』と付け加えられると、素直な和衣は、やっぱりもうおふとんに行かなければ、と思ってしまう。
 それに、サンタさんの言うことは、ちゃんと聞かないと。



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君を覆うやさしい銀河 (4)


「あ、でもちょっと待って!」
「え?」

 2人のサンタクロースに促され、ベッドに向かい掛けた和衣だったが、何かを思い付いたのか、急にその脇をすり抜けて、部屋の隅にある引き出しに向かった。
 睦月と翔真が、何事? と思っていると、和衣は何やらゴソゴソと引き出しを漁っている。

「和衣くん?」
「はい! これ、サンタさんに上げる!」

 クルリと振り返った和衣は、引き出しから取り出したものを2人のほうに差し出した。
 見れば、それは厚紙で作った王冠とメダルの付いた首飾りで、折り紙で作ったの飾りが貼り付けてある。

「ホントはね、これね、両方で1個なんだけど、サンタさん2人だからね、」

 どうして王冠とメダルなのかは分からないが、とにかく和衣は、サンタクロースにプレゼントするため、これらを作っておいたようで、本当は、王冠とメダルでセットなのだが、思いがけずサンタクロースが2人来たので、1人に王冠、もう1人にメダルを上げることにしたらしい。

「これくれるの? 俺らに?」
「うん! サンタさん来たらね、上げようと思ってたの。でもね、ママが、サンタさんは和衣が寝てからじゃなきゃ来ないから、上げるのは無理よ、てゆったからね、上げらんないかな、て思って、しまってたの」
「そうなんだ」
「サンタさん、ありがとう」

 まさか本当にサンタクロースにお礼の品を上げられるとは思ってもみなかったのか、和衣は嬉しそうに、翔真の頭に帽子の上から王冠を被せ、睦月の首にメダルを掛けてあげた。

「ありがとう、和衣くん」

 クリスマスの朝、プレゼントを開けた子どもたちが喜んでいる姿を見るだけでサンタクロースになってよかったと思えるのだけれど、こうやって感謝の気持ちを表されれば、やっぱり嬉しい。
 翔真は和衣の頭を撫でると、ギュッとその小さな体を抱き締めた。

「…じゃあ、もうおふとん入ろっか」
「はいっ」

 睦月は、首に掛けられたメダルを、まだ物珍しそうに見ていたが、翔真は和衣の背中を押して、ベッドに向かわせる。
 今日の出来事にすっかり感激している和衣は、翔真の言うことを、今度こそ素直に聞いて、ベッドに上がった。

「これ、プレゼント?」
「そうだよ。でも、開けるのは朝になってから。今はもう寝るんだよ?」
「はーい」

 当たり前だが、和衣は枕元のプレゼントを気にするが、翔真にそう言われると、和衣は素直にふとんに潜った。

「じゃあ、目閉じて?」
「…ん。あ、サンタさん!」
「えっ!?」

 目を閉じた和衣は、しかし次の瞬間、またパッと目を開けると、手を伸ばして、睦月のサンタ服の裾を掴んだ。
 手の届く位置に立っていたのが睦月だったから、たまたまそうなったのだろうが、服を掴まれた睦月はビックリして、まじまじと和衣の顔を見た。

「サンタさん、来年もまた来てくれる…?」

 和衣は、2人のサンタクロースを見つめながら、おずおずと尋ねた。
 これが最初で最初の出会いになってしまったら、どうしよう。もしそうなら、悪い子になって、まだ起きてる。

「…和衣くんがいい子にしてたら、来年もまた来るよ」

 翔真はベッドサイドに屈むと、まだ睦月の服を掴んでいる和衣の顔を覗き込んだ。

「ホント?」
「ホント」

 ホントにホント? と視線を向ける和衣に、翔真は小指を差し出した。
 指切りの手。
 和衣はぱぁ…と笑顔になると、睦月のサンタ服から手を離し、翔真の小指に自分の小指を絡めた。

「約束ね、サンタさん」

 和衣が、翔真と小指を解いてもまだ手を出したままでいるので、睦月は視線を彷徨わせつつも、和衣と指切りをした(いくら睦月でも、ここで指切りを断るほど、空気の読めないサンタではないのだ)。

「サンタさん、来年もまた来てね。和衣、いい子で待ってるから! それに、今度はちゃんとプレゼント2人分、作る!」
「う…うん」

 張り切ってそう言う和衣に、睦月はコクンと頷いた。

「来年もまた、2人で来るよ。だから和衣くんも、お父さんとお母さんの言うことを聞いて、いい子で待っててね」
「うん」

 翔真は和衣の頭を撫でてから、その腕をふとんの中にしまってあげた。
 睦月は離れた手をどこにやっていいか分からなくて、何となく貰ったメダルを弄っている。

「おやすみ、和衣くん」
「ぅん…」

 目を閉じた和衣が眠りに就いたのを確認して、睦月と翔真は和衣の部屋を出て行った。







 睦月と翔真がプレゼントセンターに戻って来ると、すでに配達を終えたサンタクロース仲間たちがだいぶ帰って来ていて、センターは混雑していた。
 配達が終わったことを報告して、ソリを片付ければ、今年のお仕事は終了。後はゆっくりとお正月休みを迎えるだけだ。

「で、むっちゃん、これからどうすんの?」

 大事な役目を終えたソリをキレイにして、ガレージにしまうと、翔真は睦月を振り返った。

「これから? とりあえず、帰って爆睡」
「いや、その『これから』じゃなくて、今後のこと。むっちゃん、サンタ辞めるんでしょ? 次、何の精になるの?」
「あ…」

 翔真に尋ねられ、睦月はピタリと固まった。
 そういえば睦月は今日、出発前からずっと、もうサンタクロースなんて辞めてやる! と言い続けていたのだ。

 一旦何かの精になっても、やはり向いていないからと、途中で職種替えする者は少なからずいるので、睦月がサンタクロースを辞めることについて、翔真は別に咎めるつもりも、何か言うつもりもないのだが、友人として、睦月を気に掛ける気持ちはある。
 睦月は、いろいろと心配な子だから。



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君を覆うやさしい銀河 (5)


「え…えと…」
「ん?」

 翔真は、別に睦月を問い詰める気なんてないし、ただ何となく聞いただけなのに、なぜか睦月は戸惑ったように言葉を詰まらせている。
 まだ考えていないのなら、それはそれでいいのに。

「ま、まぁ、どうしよっかな。ホラ、あの子とも約束したしっ…」
「ぅん?」
「あのっ、だから、来年も行く、つったじゃん!?」
「あぁ、和衣くん?」

 急にあたふたし出した睦月を不思議に思いながら、翔真は最後にプレゼントを置いてきた和衣のことを思い出した。
 純粋にサンタクロースのことを信じている和衣には、翔真も感動したし、来年もまた行くと言った約束は、もちろん守るつもりでいるが、睦月がそのことを気に掛けていたなんて、ちょっと意外。

「むっちゃん?」
「いや、まぁ、だからっ…、サンタが約束破ったらマズイじゃんっ、でしょっ?」
「え、まぁ…うん。…………。ぅん?」

 睦月の言い分は尤もで、いやそれは翔真も分かっているのだが、どうして急にそんなことを主張し出したのか分からず首を捻れば、睦月は、何で分かんないの!? 悟ってよ! とでも言わんばかりに翔真を睨んだ。

「え? え?」
「ちょっ、もぉ、何ショウちゃんっ、来年1人で行く気なのっ? べ、別に1人でもいいけどさっ、そんな、一人前になれば1人なんだしっ…」

 すっかり慌てふためいている睦月を見ていたら、翔真はようやく、睦月が言わんとすることに気が付いた。
 和衣と約束した以上、サンタクロースがそれを破るわけにはいかない……というのはまぁ口実で、要は、サンタを辞める宣言を撤回したいのだが、それを素直に言い出せないのだ。

 ただ、慌てながらも、その右手に和衣がくれたメダルをしっかり握り締めている辺り、睦月に気持ちの変化を与えたのは、他ならぬ小さな和衣に違いない。
 …信じてくれる気持ちが、1人のサンタの心を、こんなにも大きく動かすのだ。

「むっちゃん、俺あの子に『来年もまた、2人で来る』て言っちゃった。むっちゃんがサンタ辞めちゃうと、俺、約束破ることになっちゃうよ」
「なっ…、ダ、ダメじゃん、ショウちゃん! サンタが約束破っちゃ…!」
「うん。だから、俺が嘘つきにならないためにも、むっちゃん、サンタ辞めないで? 来年もまた、一緒にプレゼント配りに行こ? お願い、むっちゃん」
「ッ…、ま、まぁ、ショウちゃんがそこまで言うなら、別にいいけどっ…!?」

 素直になれない睦月のために、翔真がうまく話を持って行ってやれば、睦月はツンデレ全開でそう言って、最後は恥ずかしさのあまり、顔をぷいっと背けてしまった。
 まったく本当に、素直じゃない。

「よかった。来年もよろしく、むっちゃん」
「…ん」

 翔真が睦月のほうに手を差し出せば、睦月はチラッと翔真を見てから、その手を取った。

 …と。

「あぁ~~~~、ショウ~~~!!! てめぇ、何むっちゃんの手なんか握ってんだよっ!!」
 睦月と翔真が約束の握手をしていたら、その背後から、アホみたいな声が響いて、振り返ればそこには、睦月の恋人である亮が地団駄を踏みながらいた。
 亮もプレゼントを配り終え、ソリをしまって来たところらしい。
 あまりのタイミングに、睦月も翔真も吹き出してしまった。

「何だよっ、何笑ってんだよっ、俺怒ってんだぞっ!!」
「知らねぇよ、バーカ。何しに来たんだよ」
「何、て……むっちゃんのこと迎えに来たんでしょーが!」

 何となく邪魔者扱いされても、亮はめげることなく、過保護にせっせと睦月にコートを着せてあげる。
 何だかんだ言っても、亮には素直で甘い(…というか、甘やかされることに慣れている)睦月は、大人しくされるがままになっている。

「ホラ、むっちゃん、お家帰るよ!」
「…ん」
「はいはい、じゃーな、亮」

 無理やり睦月の手を取った亮は、バイバイ、と翔真に手を振る。

「じゃあね、むっちゃん。また来年もよろしくね」
「ん。来年までに、ソリにプレゼント積むの、もっと練習しとくね」

 亮に手を繋がれたまま、睦月は反対の手を翔真に振り返す。
 しかし亮は、2人の会話に、ん? と眉を寄せる。来年?

「え、来年てどういうこと? むっちゃん、来年もショウと一緒にプレゼント配りに行く気?」
「そうだよ」
「なっ何で!? 来年は俺と一緒に行こうよ! 去年だってショウと一緒だったじゃんっ!」
「うっさい亮。俺はショウちゃんと一緒に行くのっ! もう約束したんだから!」

 情けない声を上げる亮を一喝して、睦月は亮の手を引いてぐんぐん進んでいく。
 相変わらずな調子の2人の後ろ姿を、翔真はおもしろそうに眺める。

 …と、だいぶその姿が小さくなったところで、クルリと睦月が翔真のほうを振り返った。
 翔真ももう帰ろうと歩き出すところだったから、え? と思って足を止める。

「ショウちゃ~んっ!! サンタクロースもさぁ、何か悪くないねーっ!!」

 結構離れたところから、でも翔真に聞こえるようにと大きな声で、しかもわざわざ亮と繋いでいた手を解いて、ぶんぶん両手を振りながら、睦月は翔真にそう告げて来た。
 睦月たちのそばにも、もちろん翔真の周囲にも、まだ多くのサンタクロースたちがいたから、みんなが翔真たちに訝しげな視線を向ける。

「ちょっ…むっちゃん…」

 本当にまったく、目を離したら何を仕出かすか分からない睦月に、翔真は苦笑しつつも手を振り返した。
 亮が、慌てて睦月を押さえようとしているのが見える。

「…来年もよろしくね、むっちゃん」

 亮に取り押さえられ、連れて行かれる睦月に見つめながら、翔真は、うん、やっぱりサンタクロースって悪くないよね、と和衣から貰った王冠にキスをした。









あなたのところにも、サンタさんは来ましたか?





Merry Christmas...





back




 お疲れ様でした。いきなりのパラレルファンタジーですみません。クリスマスてことで、許してください。
 ちなみに最初は、むっちゃんとカズちゃんがサンタさんだったんですが、あんなに純粋にサンタさんのことを信じててくれる子はカズちゃんしかいない…! て思って、ショウちゃんと交代しました。
 交代要員がショウちゃんだったのは、お小言を言われたときに、むっちゃんがキレずに言うことを聞くのは、カズちゃんでなければ、ショウちゃんしかいないな、て思って…。
 私的には、クリスマスに張り切って雪を降らす雪の精が、ゆっちさんだったらいいな、と思います。

 タイトルは約30の嘘さまから、イラストはすべてポカポカ色さまからです。ありがとう!
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映画のような恋がしたい。(だって最後は決まってハッピーエンドだ。) (100)


chihiro


 琉は遥希たちを家まで送ると主張したが、さすがにそれは時間が許さず、2人は普通に電車で帰って来た――――遥希の家に。
 千尋はもちろん自分の家に帰ろうとしたのだが、遥希が千尋といろいろ話したいと言うので、仕方なく遥希の家に付いてきたのだ。

「もぉ~、俺、帰って寝たかったのに~」
「いいじゃん、お願ぁ~い」

 グズる千尋を宥めつつ、遥希は千尋を家に上げた。
 それから遥希は、「コーラ飲みたい、コーラ!」と言う千尋にコーラと、自分用にお茶のペットボトルを冷蔵庫から出してきた。

「そんでハルちゃん、これからどうする気? 本気で水落と友だちでいる気?」
「う、うん…。ダメかな?」
「別にハルちゃんがいいなら、いいんじゃない? 俺には到底真似できないけど、そんなドMなこと」

 遥希は、たとえ無理でも、琉への恋愛感情は諦めると言っているが、先ほどの琉の家での様子を見ていると、『たとえ無理でも』というより『本気で無理』だと千尋は思う。
 恋愛感情を諦められないまま、遥希のことを友人としてしか見てくれない水落琉と一緒にいるとか、そんなのツラいだけなのに。

「つか、俺が見る限り、水落、ハルちゃんのこと、超~~~好きだと思うけど」
「まさか。ちーちゃん何見てんの?」
「…少なくともハルちゃんよりは、よく見えてると思うけど」

 だって琉の中で、千尋の存在なんて、完全に二の次だった。
 千尋が遥希に卵焼き食べさせてやったときも、嫉妬丸出しの顔をしていた。

「まだ会ったばっかで、俺のことが物珍しいだけだよ」
「そんなの、だったら俺だってそうじゃん。でも俺、別に水落からメアドとか聞かれなかったけど? 水落はハルちゃんのこと気に入ってるから、会ってすぐにメアド聞いたり、メシ誘ったりするんだって」
「そんなの…」

 これだけ琉に気に入られて、甘やかされているくせに、一体どうして千尋の言うことを信じないんだろう。

「…琉が俺のこと気に入ってくれてんだとしても、それは友情だし…。やっぱ俺は琉に恋愛感情なんか、持ってちゃダメだと思う。ちーちゃんだって、友だちだと思ってた人から、LOVEで好きなんだって告られたら、困るでしょ?」
「それは相手にもよるけど」
「でも琉はノン気じゃん。男に告られたら、普通引くでしょ?」

 遥希は自分がゲイであることを卑下も悲観もしていないけれど、ゲイであることを打ち明けて、相手に引かれたり気持ち悪がられたりしたら傷付くから、本当にそういうことに理解してくれている人にしか言わないし、そういう素振りも見せないことにしている。
 ノン気の男の子を好きになることもあるけれど、少しくらいはノッてくれそうな人と、全然ダメな人は、話してると分かるから。



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