恋三昧

【18禁】 BL小説取り扱い中。苦手なかた、「BL」という言葉に聞き覚えのないかた、18歳未満のかたはご遠慮ください。

2013年08月

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オー! マイ・シュールラヴァー! 夢の中で待っていて頂戴 (1)


 毎日暑い中、変態ばかりでは鬱陶しいかな…てことで、さわやか(?)に夏スペシャルです!
 タイトルは、ロレンシーさまからお借りしました。ありがとう!


 亮が、潤に誘われて部屋飲みをすることになったとき、バイトから帰って来た翔真に声を掛けたところまではよかったのだ。
 何がまずかったかと言えば、翔真がそれを快諾し、荷物置いてくるため自室に向かおうとしたところで、ちょうど風呂から上がって来た和衣と睦月に出くわしたことだろう。
 いつもは、一緒に風呂に行っても、長風呂できない睦月は和衣を置いて来るのに、今日に限って一緒に戻って来て、2人して「俺も飲みたい!」などと言い出したのが、運の尽きだったのだ。

 ………………。

「ひゃははは、何言ってんの、むっちゃんっ」
「かじゅちゃんが、何言ってんの、でしょっ?」

 …飲み始めてから1時間足らず。
 すっかり出来上がってしまった和衣と睦月は、何がおかしいのか、先ほどから2人して笑い転げている。
 一緒に飲んでいる亮や翔真、そして潤に比べれば、飲んだ量はかなり少ないのだが、もともと大して飲めない2人が酔っ払うには、十分な量だったのだ。

「…声デケェっつの」

 とっても嫌そうに潤が言ってみても、2人の酔っ払いには、まるで届かない。
 潤よりは和衣と睦月のことを知っている亮と翔真は、2人を止め切れなかったことを申し訳なく思いながら、顔を見合わせた。

 今思えば、風呂上がりの2人が、自分たちも飲みたいと言ってきたとき、今日は祐介がいないことに気付いていれば、こんな事態は避けられたのかもしれない。
 和衣は、酔ってだらしなくなった姿を祐介に見られたくないから、祐介の前では気を付けて飲むし、睦月も、あんまり酔っ払うと祐介に怒られると思って、1杯飲んだ後はコーラに変えるから。
 普段、祐介がいて飲めない分、今羽目を外しているというわけでないだろうが、ストッパーの祐介がいない今、気兼ねすることなく飲めることには違いない。

 それに和衣は、外では、羽目を外し過ぎたらいけないという自制心から、相当気を付けているのだが、今は気心の知れた仲間しかいない寮の一室だから、つい気が緩んでしまった。
 和衣がそんな状態となれば、加減の分からない睦月も、つい飲み過ぎてしまうわけで――――こうなることは、必死だったのだ。

「…コイツら、酔っ払うと、こんなに面倒くせぇんだな」

 運悪く睦月の隣に座ってしまった潤が、呆れたように言う。
 もちろんその後に、「起きてても十分に面倒くせぇんだから、酔えば当然か」という言葉を付け加えるのも忘れない。潤はこれまでに、何かと睦月から被害を受けているのだ。

 そんな潤を見ていると、今の席順――――潤の右隣に睦月、さらにその右に和衣がいて、テーブルを挟んだ向かい側に亮と翔真――――は、やっぱり間違っていたかなぁ…と、亮は思う。
 しかし、部屋に入るなり、なぜか睦月が潤の隣を陣取ってしまうから、どうすることも出来なかったのだ。



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オー! マイ・シュールラヴァー! 夢の中で待っていて頂戴 (2)


 昨晩から、アクセス障害で、ログイン画面に入れませんでした。更新遅くなってすみません。

「でも、むっちゃんがこんなに酔っ払うとか、ちょっと意外ー」
「そうか? コイツ、めっちゃ弱そうじゃん」

 伸ばした足をパタパタさせながら翔真が言うと、潤は手にしたビールの缶で睦月を差しながら、不思議そうな顔をする。
 潤は、睦月とは数回しか飲んだことはないが、どう見ても酒が強いようには見えないし、普段の性格からして、酔っ払って大人しくしているとも思えないのだが。

「だってむっちゃん、すぐ寝ちゃうもん、酔うとかいう以前に。ねぇ、亮」
「10時過ぎると、睡魔に耐えられなくなってる」
「ガキか!」

 潤はすかさず突っ込んだが、睦月は酒を飲んでいようといまいと、今どきの小学生よりもずっと早寝で、飲み会に出席しても、おねむの時間になれば寝てしまうのがパターンだ。
 そう言われてみれば、潤が一緒に飲んだ数回の飲み会でも、確かに睦月は早々に寝ていたっけ。あれは、酔い潰れたのでなく、いつもの就寝時間になったからだったのか。

「じゃあ、何で今日はこんなに元気なんだよ」
「知らないよっ」
「お前が知らなくてどうすんだよ」
「そんな!」

 尤もなことを言う潤に睨まれて、亮は慌てるが、知らないものは知らないのだから、仕方がない。
 それに、『お前が知らなくてどうすんだよ』の言葉の裏には、『恋人のくせに』が見え隠れしていて焦るが、恋人とはいえ、睦月の考えていることは、なかなか計り知れないのだ。

「何ゆってんの、カズちゃん、バッカじゃないの」
「バカじゃないもんっ」
「バカだよ、バーカ」

 しかし、そんな3人をよそに、睦月はまだ全然眠そうにしていないどころか、むしろいつもより元気いっぱいにも見える。
 いつもは、授業中だろうが、ご飯中だろうが、風呂に入っていようが、眠くなったら、いつでもどこでも寝てしまう睦月なのに、本当にどうして今日はこんなに元気なんだろう。

「むっちゃんっ、違うってばぁ!」
「違わないし」

 しかも、そんな睦月につられてか、和衣の元気もマックスで、くだらない悪口を言っている睦月にムキになっている。
 こんなことをサラッと受け流せないのが酔っ払いの性なのか、大体、和衣がムキになればなるほど、睦月がさらに和衣をからかうのはいつものことなのに、どうして何も学習しないのか。

「バカじゃないー!」
「にゃっ!?」

 そして、何の前触れもなくキレた和衣が、絡んでくる睦月の腕を振り払った。



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オー! マイ・シュールラヴァー! 夢の中で待っていて頂戴 (3)


 いや、和衣にしたら、しつこい睦月を払いのけたに過ぎなかったのだが、小中高と野球をやっていた和衣は腕力があるし、今は酔っ払って力の加減が全然出来なかったから、結果、睦月を思い切り突き飛ばす格好になってしまった。

「ッタ~…」
「わわわ、ゴメンね、むっちゃんっ」
「ん~らいじょうぶ~…」

 辛うじて後ろに引っ繰り返ることを免れた睦月は、フニャフニャになりながら、なぜか和衣の頭をよしよしと撫でてやった。シュンとなった和衣を、慰めているつもりなのだろうか。

「…大丈夫じゃねぇよ」

 えへへ、と酔っ払い2人が和み、その姿を亮と翔真が微笑ましく見ていたところに潤の低い声がして、視線を向ければ、潤の着ているシャツの前が、かなり濡れている。
 その理由に最初に気付いたのは翔真で、すぐに、あーあ…という顔になった。

 睦月の手に握られた、チューハイの缶。
 それを開けたのはほんの数分前で、まだたっぷり入った状態だったから、和衣に突き飛ばされた拍子に中身が飛び出し、潤に思い切り掛かっていたのだ。

「お前なぁ、ふざけんなよっ」
「じゅっ潤くん、ゴメンゴメンっ」

 キレかかった潤に慌てて謝ったのは亮で、素早くティシューの箱を渡してやった。
 なぜかは分からないが、何となく潤のことを怒らせてはいけないのだと、本能がそう言っているのだ。

「…………。潤くん…」
「あぁ?」
「ごぇんなさいっ! ――――うわっ、ぷっ」
「イテッ」

 潤と亮のやりとりを見ていた睦月は、ようやく自分のしたことに気付き、ブンッと音が聞こえそうなほど勢いよく頭を下げて謝った――――まではよかった。
 しかし、アルコールが回り、思うように体をコントロールできなかった睦月は、頭を下げた勢いのまま、潤の胸に飛び込んでいってしまった。

「ちょっ潤くんっ! 何してんのっ」

 そんな状況に声を上げたのは亮だ。
 恋人である睦月が他の男に抱き付いたとはいえ、酔ってバランスを保てなかっただけのことだし、潤にしてみれば、いきなり睦月に飛び付かれて、痛いし暑いし本当にいい迷惑なのに、非難されても。



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オー! マイ・シュールラヴァー! 夢の中で待っていて頂戴 (4)


 そして。

「うぅ~~…ごめんなしゃい……んにゃっ!?」

 何を思ったのか、和衣も潤に向かって頭を下げたが(元々の原因は和衣だから、謝って当然ではあるが)、酔っているのは和衣も同じで、下げた頭を起こせずに、そのまま睦月の上に覆い被さってしまった。

「かじゅちゃん、重いぃ~…」
「にぃ~…」

 突然和衣に伸し掛かられた睦月は呻き声を上げるが、一番重いのは、睦月に抱き付かれ、その上から和衣に乗っかられた潤だ。
 それなのに2人の酔っ払いは、苦しそうにしながらも、なぜか離れることもせず、潤にくっ付いている。

「ちょっ潤くん! 何でむっちゃんのこと抱き締めてんのっ!?」
「バカか、お前はっ」

 しかも亮までこの始末だから、本当に鬱陶しい。
 潤は決して好きでこんなことをしているわけではないし、そもそもからして睦月のことを抱き締めているわけでもないし、ホントもう、バカばっかりっ!

「いい加減にしろって!」

 理不尽にも亮に責められる潤は、もうホント勘弁してほしくて、思い切り睦月を振り払った。
 すると、意外なほどあっさりと睦月は潤から離れ、そのまま潤とは反対の方向に、和衣もろとも引っ繰り返ったのである。

「え?」

 振り払った手応えは、確かに重たかった。小柄とはいえ、大人の男2人分なのだから、それは当然だ。
 しかし、驚くほど抵抗が少なかったことを不審に思って、潤は睦月と和衣を覗き込む。払いのけたとき、どこかにぶつけたとか? …なんて、柄にもなく潤が心配したのに。

「……寝てやがる」

 一体どのタイミングで眠ったのかは知らないが、引っ繰り返った拍子に目を覚ますこともなく、2人はむにゃむにゃしている。
 倒れたときに頭をぶつけたとかいうこともなさそうだ。

「何なんだよっ、ホント」

 まさに電池の切れたおもちゃのように、急に大人しくなった和衣と睦月に、潤は苛立ちながら吐き捨てる。
 そんな潤を何とか宥めねば、と亮はアワアワしているが、そんな気のない翔真は、缶チューハイを煽りながらケラケラ笑っている。亮の本能が感じ取る潤の怖さは、翔真には分からないのだ。



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オー! マイ・シュールラヴァー! 夢の中で待っていて頂戴 (5)


 またもアクセス障害…。

「つかさ、潤くん。むっちゃんの足、退かしてあげてよ。思っきしカズのお腹に乗ってる!」

 何でこの状況で笑っていられるのかと亮は思うが、翔真はおかしくて堪らないようで(翔真も実はかなり酔っているのかもしれない)、睦月と和衣のヒドイ状態を指差し笑っている。
 寝返りを打った睦月が、両手両足を投げ出していて、その右足が思い切り和衣のお腹の上に乗っているのだ。確かにヒドイ。

「ぜってぇヤダ。蹴っ飛ばされそう」

 潤は眉を寄せて首を振る。
 起きていて、しかも素面でも、睦月は平気で人の頭に雪玉をぶつけるような男なのだ。酔って寝ているときにしたことなんて、絶対に悪びれることなどないだろう。
 そんなヤツの被害になんか、絶対に遭いたくない!!

「まぁ…それはあるかも。睦月、寝相悪いし」

 睦月と同室の亮は、普段の睦月の寝ている姿を思い出し、頷いた。
 飲み会で寝てしまった場合は、家でないことが頭の片隅にあるからなのか、床とテーブルの間に挟まって動けないからなのか、睦月は比較的ジッとしているのだが、いつもはベッドの上で、結構グチャグチャに動いている。
 和衣のために足を動かしてやろうと手出しすれば、確実に蹴られるだろう。

「ほっときゃ、そのうち動くだろ」

 そう言って潤は、睦月が動いたときに蹴られないよう、先ほどよりも睦月から距離をとった。
 そして、潤のその言葉のとおり、数分もしないうち、睦月はモゾモゾと動いて和衣の腹の上から足を退かすと、今度は抱き枕のように和衣に抱き付いた。

「…カズ、暑そー」

 翔真がポツリと呟いたが、抱き付いている睦月もやはり暑いのだろう、額に汗が浮かんでいる。この分だと、きっとまたすぐに動き出すに違いない。
 とりあえず潤は、自分に被害が及ばなければいいので、和衣が暑かろうが苦しかろうが、どうでもいい(だって、好きで2人で飲んだのだ。そこまでの責任なんか持てない!)。

「っとに。ホント、こんなヤツのどこが…」

 どこがいいんだ、と続けようとして、潤は口を噤んだ。亮の前で、このセリフは禁句だ。以前亮に、睦月の何がいいわけ? と言ってやったら、その後、散々惚気られたのは記憶に新しい。
 睦月のことになると、亮は嫌味すらも通じないのだ。

「でも亮、むっちゃんがカズにくっ付いてるのはいいんだね。潤くんのときはめっちゃ怒ったのに」

 睦月は汗を掻きながらも、ピトッと和衣に抱き付いているのに、言われてみれば亮は、先ほどの潤のときのように喚いたりしない。
 潤にしたら、何となく理不尽…。



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オー! マイ・シュールラヴァー! 夢の中で待っていて頂戴 (6)


「だってカズだし」
「何だよそれー。潤くんだと何かあるかもしんないけど、カズなら何もないてこと!?」

 亮の言い分に、翔真は大層ウケて、ゲラゲラと腹を抱えて笑い出したが、潤はおもしろくないのか、眉間のしわがさらに深くなっている。
 冗談でも、睦月との間に何かあるかも、とか思われたくないのに。

「カズなら、絶対何もない」

 亮はキッパリとそう言い捨てる。
 それは別に、和衣のことを下に見ているとかではなくて、和衣は祐介のことが大好きだし、特定の相手がいるのに何か出来るほど器用な性格でもないことを知っているから。
 大体、酔って足元の覚束なくなった睦月を連れて帰るのに手を繋いだだけで、ずっと気にしているような男なのだ。それこそ、冗談でも睦月と何かあるわけがない。

「…俺とだって、何もねぇよ」

 翔真の言葉ではないが、和衣とは何もないが、潤となら何かあるかもしれない、と思われたままなのは嫌なので、潤は一応付け加えておく。
 言えば、亮がまたうるさいので口には出さないが、潤には睦月のよさなんて、さっぱり分からないのだ。

「そうだよね。潤くんは、かわいい女の子といっぱい遊んでればいいもんね」
「おい、その言い方、何か棘があんぞ」

 何かにつけて、翔真の言い草がヒドイ気がするが、酔っ払いに何か言っても仕方がないと、若干諦めの気持ちも入る。
 かわいい女の子はもちろん好きだけれど、別に遊んでなんかはいない。まぁ…、声を掛けられれば乗ってしまうのは仕方がないだろう(だって男の子だもん!)。

「でも…、確かに言われてみれば、潤くんが女の子じゃなくて、男と飲んでるなんて…」
「お前もバカか」

 大真面目な顔で亮までそんなことを言い出して、潤はもうすっかり疲れ果ててしまった。
 もしかして今日の失敗は、睦月と和衣が一緒になったこと以前に、そもそもこの部屋飲みを企画したことではなかろうかと、潤は今になって思った。
 潤は、何となくの気軽さから、よく亮を誘って飲むけれど、今日は何だかいろいろ最悪だ。

「…ん」

 それでもがんばって、潤が亮の相手をしていたら、ベッドに寄り掛かっていた翔真の体がガクリと崩れて、クッションの上に落ちた。
 幸いにも、翔真が持っていた缶はすでに空だったようで、中身が零れることはなかったが、亮は翔真の手から缶を取ると、テーブルの上に置いた。



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オー! マイ・シュールラヴァー! 夢の中で待っていて頂戴 (7)


「ショウも寝ちゃった…」
「3時だからな」

 潤は時計を見ながら、床に転がっていた空き缶を1つ、つま先で蹴る。
 翔真が酔い潰れるなんて珍しいと思っていたら、もう夜中の3時を過ぎていたようだ。これなら、睦月でなくても眠くはなる。

「この辺でやめとくか」
「…だね」

 2人でまだ飲み続けていてもいいけれど、今日の部屋飲みはいろいろと面倒だったので、この辺で切り上げておくのが無難だろう。これ以上続けたら、何が起きるか分からない。
 睦月のことがなければ、亮と飲むのは楽しいんだけどなぁ…。

「つかお前、責任持って3人とも連れて帰れよ?」
「えっ、何3人て!」

 適当に空き缶を袋に纏めていた潤が、サラッとそんなことを言うので、亮はギョッとした。
 潤の言う3人とは、翔真、睦月、和衣のことだろう。睦月とは同室だから(そうでなくても恋人だし)、連れて帰るけれど、どうして和衣や翔真の責任まで亮が持たなければならないのだ。

「んだよ、何嫌そうな顔してんだよ。友だちだろ?」
「そーだけど! んなの、潤くんも一緒じゃん! みんな潰れてんだし、ここで寝かせてやってよ!」
「お前、この狭い部屋に、この人数寝かせとけっつのかよ」
「なら1人だけでも! 睦月は俺が連れて帰るけど、カズとショウのどっちかはここで寝かせてよ。そしたら俺、もう1人連れてくから。3人なんて無理!」

 潤に、友だち甲斐がないヤツだと言われっ放しなのは嫌だが、亮だって結構飲んでいる今、たとえこの寮の中の範囲だとしても、3人も連れて帰るなんて無理だ。
 どうせこの部屋のもう1人の住人は今日いないのだから、誰か1人くらい泊めてくれたって、悪くはないだろう。

「………………。じゃあ、ショウがベッドに近いほうにいるから、ショウのこと泊めるわ。お前、和衣のこと連れてけよ」
「ぜってぇ今、面倒くさくないほう選んだでしょ!」

 少しの間の後、翔真を選んだ潤に、亮はすぐさま噛み付く。
 酔い潰れたのはどちらも一緒だが、面倒くささなら雲泥の差だ。それに翔真なら、今起こせば目を覚まして、自力で部屋まで行きそうな気がするけれど、和衣は絶対に起きないと思う。
 ベッドのそばにいるからなんて、そんなの屁理屈だ。

「何だよ亮、冷てぇヤツだな、お前。いつも一緒にいるくせに、和衣のこと、そんなに邪魔がりやがって」
「そういうことじゃなくて!」

 先ほどまでの仕返しに、潤は少しだけ意地悪く亮に言ってやる。
 いくら部屋が狭いとはいえ、もう寝るだけなのだから、実際のところ、翔真と和衣の両方を泊めたところでどうということもないし、2人が起きないなら、潤はそうするつもりでいるんだけれど。



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オー! マイ・シュールラヴァー! 夢の中で待っていて頂戴 (8)


「んん~~~~…」
「え? 睦月?」

 時間も時間なので、2人ともそんなに大きな声で喋っていたつもりはないのだが、ずっと眠りこけていた睦月が、急に目をこすりながら動き出すから、まさか起こしてしまったのだろうか。
 まぁ、起きてくれれば、部屋まで連れて行くのが楽になるからいいんだけれど、眠いのに起こされて機嫌が悪いんだったら、ちょっと面倒かも…。

「………………ん……」

 ムクリと起き上がった睦月は、まだゴシゴシと目をこすっている。
 これで起きるならいいけれど、あんまり目をこすると…なんて、亮はお母さんみたいなことを思う。

「睦月、起きたなら部屋、戻…」
「…………マリ……」
「え?」」
「マリ、ご飯食べ…」
「…………………………え?」

 何やらもにょもにょと呟いた後、睦月は再びパタンと倒れて、眠りに就いた。どうやら寝惚けていただけで、ちゃんと目を覚ましたわけではなかったようだ。
 結局亮は、寝ている睦月と和衣と、何とかして部屋まで連れて行かなければならないらしい。

「――――て、そうじゃなくてっ!!」

 一瞬呆けていた亮は、我に返ると、デカい声を出してテーブルを叩いた。
 これに潤は、「うるせぇよ」と突っ込むこともなく、ニヤニヤしている。

「今コイツ、女の名前呼ばなかった?」
「ちょっ潤くんっ」
「プッ…」

 亮には申し訳ないが、潤は思わず吹き出してしまう。
 だって、亮がこんなに睦月のことを好きで、この間も、嫌と言うほど無自覚な惚気を聞いたばかりなのに、その睦月が、寝惚けて女の名前を口走るなんて。
 いや、睦月も過ぎるほど十分に亮のことを好きなのは分かるが、でも、女の名前呼んだし!

「誰だよ、マリて」
「し…知らないっ」

 ゼミにそんな名前の女の子はいないし、今までに睦月からそんな名前を聞いたこともない。睦月には姉がいるが、いつも「姉ちゃん」と呼んでいるから、それとも違うだろう。
 じゃあ誰…?



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オー! マイ・シュールラヴァー! 夢の中で待っていて頂戴 (9)


「おい。コイツこう見えて、実は結構やるんじゃね?」
「ううぅ…」

 たとえ冗談でも、潤の言葉が胸に痛い。

「俺もう立ち直れない…。部屋に戻る力がなくなった…。ここで寝る…」
「はっ!? ちょっ亮っ、バカ! コイツら連れて帰れって! 何でお前まで寝るんだよ、おいっ」

 潤の叫びもむなしく、亮は両手で顔を覆って泣きながらその場に横たわった。
 本当に泣いているのか、それとも泣き真似なのかは、潤にも分からない。ただ分かることは、結局4人をこの部屋に泊めて、朝まで過ごさなければならないことだ。

「ッ、ざけんなぁ~~~!!!」

 …やはり、どうあっても潤は、最終的には睦月からの被害を受けてしまうらしい。
 泣きたいのはこっちのほうだ…と思いながら、潤はもう考えることを放棄して、その場に引っ繰り返ったのだった。



*****

 翌朝、一番に目覚めたのは翔真だった。
 一番に…と言っても、もう10時を過ぎていて、すっかり日は高く昇っていたのだが。

「潤くんの部屋…。みんなここで寝ちゃったの…」

 重たい頭を何とか起こして、部屋の中を見回した翔真は、自分を含め、男5人が狭い部屋に雑魚寝している状況に首を傾げた。
 どうして部屋の主である潤まで、ベッドでなくて床で寝ているんだろう…。
 しかも睦月は、今度は足でなく、頭を和衣のお腹に乗せて、枕にしているし。

「むっちゃん、むっちゃん、それ枕じゃなくて、カズのお腹だから…」

 睦月の寝起きが悪いことを知りながらも、苦しそうにしている和衣がかわいそうで、翔真は睦月の肩を揺さぶる。
 朝、睦月を起こす苦労は、亮の話でしか知らないが、今の感じではとても起きそうにないから、翔真は今相当がんばらないといけないのだろう。

 それにしても、自分は一体いつ寝たのかと、翔真はふと思う。
 記憶の中では、亮や潤が寝たところを見ていないから、それより先に寝たのだろうけど、空き缶やらつまみやらがグチャグチャに投げ出されたままの様子からして、2人も酔い潰れたまま寝てしまったのかもしれない。

「…ん、にゃ…」
「あ、むっちゃん、ホラ、起きよ? カズ、苦しいって」
「ぅん…」

 睦月の眠りが浅くなったのに気付いて声を掛ければ、睦月は目を閉じたままコクリと頷いて、和衣のお腹から頭を退かした。
 睦月を起こす、という第一の目標は達成できなかったが、とりあえず、和衣を救ってやれたし、まぁいっか。



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オー! マイ・シュールラヴァー! 夢の中で待っていて頂戴 (10)


「…ん」

 ひとまず翔真は睦月を起こすのを諦め、散らばっていた空き缶を袋に入れる。いくつかが既に入っているところからして、潤か亮のどちらかが、夜のうちに少し片付けたのかもしれない。
 そうやって、翔真がのそのそとゴミを片付けていたら、潤がむくりと起き上がった。

「潤くん、おはよ」
「…おう」

 翔真の挨拶に短く答えた潤は、その後、部屋の惨状に思わず溜め息を零した。
 部屋で飲んで、片付けないまま寝てしまうことはよくあるから、面倒くさいけれどまぁいいとして、そういえば昨日は、結局全員がこの部屋で寝ていったのだ。
 暑いのに、この人数…。

「悪ぃショウ、片付けさせて」
「んーん、俺も今起きたとこだし。でも俺、昨日いつ寝たの? 何かよく覚えてない…。ゴメンね、自分の部屋戻んなくて」
「いや…」

 結局は全員がこの部屋で寝ることになってしまったが、亮が3人は連れて帰れないと言って、翔真はそのままこの部屋で寝かせておくつもりだったのだから、気にすることはない。
 今朝も自発的に起き、ゴミの後始末までしてくれている翔真は、昨晩飲んでいるときは若干鬱陶しかったが、やはり一番面倒くさくない。

「つか…、亮まで潰れるとか、珍しいね」

 昨日と同じ場所で丸くなって眠っている亮を、翔真は不思議そうに眺める。
 翔真は、今まで何度となく亮と一緒に飲んで来たけれど、アルコールに強い亮が酔い潰れたところなんて、もしかしたら初めて見るかもしれない。

「いや、潰れたっつーか…」
「ん?」

 翔真は、亮が酔い潰れたと思っているようだが、昨夜の事情を知っている潤は、何とも言い難い表情で口籠った。
 亮がここで寝たのは、寝惚けた睦月が、女の名前を口走ったことにショックを受けたからで、それまでは睦月を連れて部屋まで帰るつもりだったのだ。
 あのときは潤も酔っていたし、いろいろ言われてちょっとムカついていたから、つい意地悪く亮に言ったが、今そのことを、潤から翔真に話すべきではないだろう。

「亮、起きろー。起きて、片付けんの手伝えー」

 翔真はそれ以上は何も追及することなく、今度は亮を起こしに掛かる。
 先ほど睦月を起こそうとしたときよりも雑な感じなのは、きっと付き合いが長いからで、わざとというより、無意識の行動だろう。



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オー! マイ・シュールラヴァー! 夢の中で待っていて頂戴 (11)


「うぅ…」

 しつこく肩を揺さぶられ、亮がようやく覚醒し始める。

「………………え……? あれ? ショウ?」

 目を開けた亮は、どうして翔真が自分のことを起こすのか、そしてどうしてここが自分の部屋ではないのか、さらにはどうして床で寝ているのかさっぱり分からず、呆然となる。
 しかし、亮が起きたことが分かると、翔真はさっさと和衣を起こしに行って、亮の疑問に答えてくれようとはしなかった。

「…亮、起きたか」
「………………」

 昨日、睦月が見知らぬ女の子の名前を呼んだせいで、潤の部屋で泣き寝入りした亮は、潤に声を掛けられても、何も言えなかった。
 見れば、睦月はまだ寝ていて、真相を聞こうにも聞けない。それに、話を聞くにしたって、こんな、みんながいる前というのも、何だか聞きづらい。
 大体からして、こんなことを聞いて、睦月がバカ正直に答えてくれるのだろうか。

「カズー、起きるよー」
「んん~…ヤ…」

 亮のどんよりした気持ちなど知る由もない翔真は、小さい子を起こすような口ぶりで、和衣を起こす。
 和衣はそんなに寝起きの悪いほうではないのに、やはり昨日たくさん飲んだせいか、翔真が声を掛けても、わずかに反応するだけで、なかなか目を覚まさない。

「…起きない。ねぇ潤くん、この2人、置いてっていい?」
「やめてくれ!」

 起きない2人に(睦月のことは、さっき1度チャレンジしているから、最初から諦めている)、翔真が何でもない調子でそう言って振り返るから、潤は慌てて拒絶した。
 これから起きれば、さすがに酔いは醒めているだろうけど、ただでさえ手の掛かる睦月と和衣だけを残されるなんて、冗談じゃない。

「もっと一生懸命起こせよ、ショウ!」
「あはは、潤くんの嫌がりよう!」
「笑ってる場合か!」

 別に睦月や和衣のことが嫌いでなくても、昨日あれだけ散々な思いをさせられたら、とりあえず今日は、その元凶となった2人だけは置いていってくれるな、と思うのは当然の気がするが…。
 その辺りのところが、翔真は鈍感なのか、のん気なのか、慌てる潤を見て、ただ笑っている。



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オー! マイ・シュールラヴァー! 夢の中で待っていて頂戴 (12)


「う~~~…ぬぅ~~~…」

 亮が、寝起きのボンヤリした頭で、そんなことを考えていたら、先ほど翔真に起こされても目を開けなかった睦月が、俄かに部屋が賑やかになったせいか、モゾモゾと動き始めた。

「あ、ヤバい、むっちゃん起きちゃう! 帰んなきゃ!」
「何でだよっ」
「キャハハッ」

 完全に潤の反応をおもしろがって、翔真は爆笑している。
 さっき、この中では一番マシかも…と思ったこと、取り消したい…。

「ん~…」
「むっちゃん、おはよっ」
「……おぁよ…」

 頭をフラフラさせながらも、睦月は何とか体を起こす。
 翔真だってまだ起きたばかりだし、昨日だって散々飲んだはずで、今がそこまで気分爽快とも思えないのに、どうしてそんな爽やかな笑顔で挨拶できるのか……潤には果てしなく謎だが、まぁ睦月が起きてくれたので、いいことにする。

「…………ショウちゃん……。カズちゃんは…?」
「え、カズ? そこで寝てるけど…」

 目が覚めて、すぐそこに翔真がいることを不思議がらないということは、昨日の記憶がまったくないわけでもないのだろう、しかしどうして睦月は、亮でなく和衣のことを探しているのだろう。

「カズちゃん、カズちゃ…」

 片手で目をこすりながら、もう片方の手で、側で寝ている和衣の肩を揺さぶる睦月。
 どういう意味? と翔真は亮に視線を投げ掛けるが、亮にも意味は分からないようで、少し考えてから(…考える振りだったのかもしれないが)、首を傾げた。
 もしかして、昨日2人で散々潤に迷惑を掛けたから、実は反省しているとか? それで、早く和衣を起こして、後片付けをするとか、自分の部屋に戻るとか、考えているとか…?

「カズちゃーん」
「…ぅ、ん……にゃに…?」

 睦月にしつこく肩を揺さぶられ(こういうときの睦月はしつこいから)、和衣はようやく意識がはっきりしてきたのか、睦月の声に反応し始めた。

「あ、あれ…? むっちゃん? え、あれ?」

 ゆっくりと目を開けた和衣は、睦月と違って、今自分の置かれている状況をいまいち理解できていないようで、側に睦月がいることにひどく驚いている。
 さらには、ここが自分の部屋ではなく、睦月だけでなく、亮や翔真、そして潤までいることに気が付き、目を見開いた。



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オー! マイ・シュールラヴァー! 夢の中で待っていて頂戴 (13)


「あ、昨日…」

 グルリと部屋の中を見回した和衣は、やっと昨日の出来事を思い出したようで、恥ずかしそうに眉を下げた。
 確かに和衣は、酔って潤に迷惑を掛けたかもしれないが、ちょっと騒いで、潰れて、部屋に戻らず寝てしまっただけのことで、全然大したことないのに。
 しかし和衣は、わりと、『お行儀よく!』ということを、わざわざモットーにしているようなところがあるから、酔いが醒めてしまうと、昨日のことは大失態にしか思えないのだ。

「ねぇねぇカズちゃん」

 それに引き換え睦月は、まったく何も悪びれたふうもなく、やっと起きてくれた和衣を呼んでいる。
 ちょっと……和衣は潤に謝りたいんだけど…。

「あのさぁ、夢にカズちゃん出て来たよ」
「え? あ、そう…?」

 しかし、そんな和衣の気持ちなどお構いなしに、睦月はサラッと会話を続ける。
 だが、その言葉に、和衣は困ったような顔で首を傾げた。
 会話の切り出し方としては、何もおかしなところはなかったのだが、寝ていた人間をしつこく起こして、最初に言った一言がそれとなると、どう反応したらよいのやら…。
 まさか、そのことを言いたくて、一生懸命和衣のことを起こしてくれたのだろうか。

「むっちゃん、夢にカズが出て来たの?」
「うん」

 まだ呆けている和衣に代わって、翔真が聞き返してあげる。
 まぁ、昨日あれだけ2人でキャッキャして、寝ているときも、暑いのにあんなにくっ付いていたら、夢にも出るかもしれないが……しかし、そうだとしても、亮は何だか切ない…。
 だって以前も、飲み会で寝てしまったとき、睦月は、夢に和衣が出て来たと言ったのだ。夢の中のことまでとやかく言うようなバカではないが、それにしたって…!

 というか、夢に和衣が出て来たと言うなら、寝惚けて口走った、あの『マリ』という女は誰!?
 和衣……いや、睦月は和衣のことを『カズちゃん』と呼ぶから、カズちゃんとマリ……どうやっても、聞き間違えるような名前ではない。文字数も違い過ぎるし。
 あ、一晩にいくつも夢を見ることはあるから、和衣が登場したのと、マリが登場したのは、別の夢? いや、そうなるとやっぱりマリという女の存在が…。
 もしかして、夢にマリが出て来て、起きたらみんながいるから気まずくて、すぐに和衣を起こして、夢に和衣が出て来たとか、そんなことを言い出したとか? …て、いくら睦月でも、そこまで意味不明の行動はとらないだろう。寧ろ何も言わないほうが自然だ。

 じゃあ?



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オー! マイ・シュールラヴァー! 夢の中で待っていて頂戴 (14)


「うわあぁぁ~~~~もう分かんねぇ~~~~!!!」
「……え、何、亮」

 亮が突然頭を抱えて喚き出したので、翔真が訝しむように振り返った。
 傍から見れば、それはあまりにも突然の行動だったのだが、亮にしたら、いろいろ考えて、考えすぎて、頭の中がグルグルとなってしまった結果だ。
 ただ、昨日のことを知っている潤だけは、亮のその行動の意味が分かったのか、呆れた顔をしている。
 でもそんな顔をされたって、だってもう、睦月が何を考えているか、さっぱり分からないし!

「カズちゃんがね、ウチに来るの」
「ウチ…て、むっちゃんち? 実家?」
「うん」

 亮がこんな状態なのに、睦月がお構いなしに話を進めるから、翔真が聞き返せば、睦月はさらに亮に追い打ちをかけるような答えをしている。
 夢の中とはいえ、どうして和衣を実家に…。

「ウチね、犬飼ってんの、3匹。おっきいの」
「うん」
「でね、カズちゃんがご飯上げようとすんだけど、全然ダメなの。全然言うこと聞かないの」
「ワンコが?」
「そう」
「ひゃははは!」

 犬種は分からないが、和衣が大きな犬3匹に振り回されている姿を想像して、翔真はまた笑いが止まらなくなる。
 翔真はわりとクールな印象を持たれがちだが、意外とつまらないことにウケることが多いのだ。

「そんなことないよ! 俺、ちゃんとワンコにご飯上げられるよ! だって俺んちも犬飼ってるし!」

 夢の中の話なのに、和衣はムキになって反論する。
 もし睦月の家の犬が言うことを聞かないんだとしたら、きっとそれは躾の問題で、和衣のせいじゃない。

「だってカズちゃん、『出来ない…、ご飯上げらんない…』て、ずっとゆってんの」
「それ、夢の中の話でしょ!」
「しょうがないからね、俺が、『ちゃんとカズちゃんの言うこと聞いて』てワンコたちに言ってあげんの」
「そんなことしてもらわなくなって、出来るもん」

 とうとう和衣は、プンと顔を背けてしまった。
 機嫌を損ねると、また面倒くさいのに…。



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オー! マイ・シュールラヴァー! 夢の中で待っていて頂戴 (15)


「もぉ~カズちゃん、怒んないでよ。後でウチのワンコの写真、見せてあげるから。機嫌直して?」
「何それ、別に見たいくないし」
「そう? 超かわいいのに」
「しっ…知らないっ」

 和衣も犬好きだから、たとえ人の犬の写真でも、見せてくれると言うなら、嬉しくて仕方ないのに、最初に突っ撥ねたものだから、素直になれず、ツンとした返事しか出来ない。
 本当は見たくてウズウズしているの、バレバレなのに。

「むっちゃんちの犬、何て名前なの?」
「えっとねぇ、マリとー」
「マリ!?」

 素直になれない和衣に代わって翔真が尋ねた質問に、睦月が答えると、項垂れていた亮がいきなり食い付いてきたので、翔真も睦月も胡散臭そうに亮を見た。
 そんな顔をされても、今はそれどころではない。だって今、睦月の口から『マリ』という名が。

「マリて言った!? 今!」
「…言ったけど? 何?」
「犬の名前!? 睦月んちの犬の!?」
「そうだってば」

 テーブルを押し退けて睦月の前にやって来た亮が、睦月の両肩をガシッと掴んで何度も聞いてくるから、ますます不審だ。
 そういえば、犬の名前を亮に教えたことはなくて、なのに先に和衣に教えちゃって、それに怒っているんだろうか、と睦月は首を傾げる。

「マリ……犬……」

 亮の気持ちを知らぬ睦月が、見当違いなことを思っているうち、亮は睦月の肩から手を離すと、フラフラとそのままテーブルに突っ伏してしまった。

「…亮?」
「どしたー、亮ー」
「亮?」

 睦月と翔真、そして拗ねていた和衣まで、心配げに亮のことを呼ぶが、亮は頭を上げない。

 マリ――――その名に亮が、どれほど悩まされたことか。
 酔っ払いのたわいもない寝言だと受け流せず、泣きながら潤の部屋で眠りに就いて、起きてからも睦月の考えていることが読めずに、悶々としていたのに。

 それなのに、それが犬の名前だったなんて…!!

「亮、そんなに落ち込まなくても、亮にもマリちゃんの写真、見せたげるよ?」

 亮の落ち込む理由を勘違いしている睦月が、そう言って慰めるが、もちろん何の慰めにもなるはずがなく…。

「…ご愁傷様」

 1人事情を知っている潤は、ただ乾いた笑みを浮かべるしか出来なかった。


 ちなみに睦月の家の犬は、マリのほか、モモとコナというらしい。



*END*



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キャラメル・シュガーの王子様 (1)


「ねぇ翔真くん、あれ」

 デートというか……大型雑貨店の中を2人で何となくブラブラしていたら、少し先の陳列棚のところに睦月の姿があって、それに気付いた真大が、翔真の袖を引いた。
 睦月は、手にした箱のようなものを、何やら真剣な表情で見ている。

「むっちゃん」
「あ、ショウちゃん、ねぇねぇこれ見て!」

 ちょうど通り掛かるところにいるのに、無視して通り過ぎるのも…と思って翔真が声を掛けると、睦月はいきなり持っていた箱を翔真に見せ付けていた。
 相変わらず、行動が唐突だ。

「えっ何…?」
「バケツプリ~ン!」
「は?」

 睦月があまりにも箱を近付けてくるから、近すぎて逆に見えない…。
 何とか睦月から距離を取ってパッケージを見れば、そこには、バケツサイズのプリンが作れるキットだと書かれている。いかにも睦月が好きそうな商品だ。

「すっごいでしょ!? バケツプリン!」
「あ…うん、すごいね…」

 今の時代、売れそうなら何でも商品化しそうだから、商品自体をそれほどすごいと思わないが、睦月がとっても目を輝かせているから、それはすごいと思う。
 だって睦月は小学生でなくて、翔真と同じ21歳だ。
 翔真がチラリと隣の真大を見ると、口をポカンと開けていて…………彼が、商品自体と睦月、どちらに唖然としたのかは、まぁ聞かないことにする。

「すごいよね、普通のプリンの20個分だって! バケツプリン!」
「あっちょっむっちゃん!」

 今にも踊り出さんばかりの浮かれ具合で、睦月はそのバケツプリンのキットを持ってレジに向かおうとするから、翔真は慌てて睦月を止める。
 ヤバイ、本当に買う気だ!

「むっちゃん、それ買うの?」
「うん」
「でも普通のプリンの20個分なんでしょ? 誰が食うの!?」
「俺」
「……」

 翔真としては、そんなには食べられないでしょ、という意味で言った『誰が食うの!?』なのに、睦月が真面目な顔で返答するから、次の言葉を失った。
 いや、絶対に食べらんないから!

「大丈夫、ショウちゃんにもちゃんと分けてあげるから!」
「いや…」

 今黙ったのは、俺には分けてくれないの? と思ったからではないし、どちらかと言えば、甘いものはそんなに好きではないから、別にいらないくらいなんだけど…。



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キャラメル・シュガーの王子様 (2)


「ちょっと、むっちゃん、冷静に考えて。プリン20個、食べ切れると思う?」
「んー……でもさ、ショウちゃんたちでしょ、俺でしょ、亮でしょ…」

 何とか睦月を正気に返そうと、翔真が言ってみるものの、睦月は何やら人数を数え始め出す。
 睦月の言う『ショウちゃんたち』とは、翔真と真大のことを言っているのだろう、真大もすでに、バケツプリンパーティーのメンバーに数えられているらしい。

「あと、カズちゃんにー……蒼ちゃんもきっと来てくれるよね。これで6人…、6人なら20個くらい食えるよね!」
「食えねぇよっ!」

 翔真は普段、睦月にはあまりキツイ言葉遣いをしないほうなんだけれど、さすがに今ばかりは鋭く突っ込んだ。
 6人で20個のプリン。単純計算でも、1人3個以上は食べなければならない。

「じゃあ、あと潤くんとか誘おっか」
「いやいや、誘ったところでまだ7人だし。つか…祐介は?」

 そういえば、睦月が想定しているメンバーの中に、祐介の名前がなかった気がする。
 ここで、あと1人増えたところで何なんだ、という話だが、祐介は甘いものが好きだし、本気で睦月がバケツプリンを作るつもりなら、メンバーは多いに越したことはないのに。

「え~、ゆっちぃ~?」
「何…ヤなの?」

 数え忘れているだけかと思ったら、睦月のこの嫌そうな顔…………どうやら意図して祐介を外していたようだ。

「だって、ゆっちにバケツプリンとか言ったら、絶対に、何くだらないことしてんだ、とか言いそうだもん!」
「…………」

 いや…、確かに言いそうだけど…。
 つかむっちゃん、自分がやろうとしているのが、くだらないことだって、少しは自覚してたんだ…。

「でもさ、やるなら絶対多いほうがいいよっ…?」
「そう? じゃあゆっちも仲間に入れてやるか」

 別に祐介がメンバーになることを切望しているわけでもないのに、睦月は、まったく無駄に上から目線で言ってくる。

「ねぇ、翔真くん…」
「えっ…?」
「結局バケツプリン、作る方向になってるけど…」
「あっ」

 真大に肩を叩かれ、ハッとなる。
 そういえば、最初は翔真も、睦月がバケツプリンのキットを買うのを止めようとしていたのに、いつの間にか、出来上がったバケツプリンをどうやったら平らげられるかを考えていた。



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キャラメル・シュガーの王子様 (3)


「愛菜ちゃんたちも食べないかなぁ」
「あの、むっちゃん…」

 いつの間にか流されていたけれど、このままではマズイと翔真は気を取り直したが、睦月は、何人になったっけ? と、また一から人数を数え始めていて…………もう今さら止められない感じがする…。

「あ、いた! 睦月!」
「亮」

 翔真がほとほと困り果てていたら、通路の陰から亮が姿を現した。
 この2人も一緒に来ていたらしい。

「亮、見て見て、バケツプリン!」
「はぁ? 筆箱は? 筆箱買いに来たんでしょ? どれにするか決めたの?」
「まだ探してない」
「ちょっ」

 そういえば昨日、最後の授業を受けるときになって、筆箱がない! と睦月が騒いでいたっけ。
 その前にいた教室に戻って探してみたものの見つからず、探すのが面倒になったからか、睦月はあっさりと諦めて、新しいのを買うとか言っていたのだ。
 それで今日は、亮と2人で買い物に来ていたのだろうが、睦月は当初の目的である筆箱を探すよりも先に、このバケツプリンのキットを見つけて、心を奪われてしまったようだ。

「でね、これね、20個分のプリン作れるの。バケツプリン。でね、でね、俺と亮と、ショウちゃんと、カズちゃんと、潤くんと、」
「ちょちょちょちょちょ睦月、待って! 何、何そのメンバー!」
「え…」

 先ほどまでの翔真との会話で、睦月の中ではもう、バケツプリンパーティーを開催することは決定事項になっていて、なおかつメンバーも大体決まったから、後はそれを亮に報告するだけの状態だったのだ。
 けれど亮にしたら、筆箱を買いに来たはずの睦月が、まだそれを探していない上に、いきなりバケツプリンの話を始めるから、まったく以って意味が分からない。

「バケツプリンするの…」
「えっ…。バケツ……プリン…?」

 突然そんなことを言われたのだから、亮の反応は決して不正解ではないのだが、睦月は、亮が思ったほど乗り気でなかったことがショックだったのか、テンションがガタ落ちしてしまった。
 それを含めて、亮はまだ状況がまったく飲み込めず、助けを求めるように翔真と真大を見た。

「何かむっちゃん、それでバケツプリン作って、みんなで食いたいんだって」

 仕方なく翔真は、これまでのやり取りで分かっていることを、掻い摘んで亮に教えてやる。
 真大は、微妙な顔で口元を引き攣らせながら、笑っているだけだ。



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キャラメル・シュガーの王子様 (4)


「つか、みんな、て誰よ」
「だからぁ! この4人でしょ、カズちゃんでしょ、あと、しょうがないからゆっちとー、あと蒼ちゃんと、潤くんと、えっと、あと誰だっけ……あ、愛菜ちゃんたち!」
「え、それみんな、いいて言ってくれたの?」
「何が?」

 なぜかすでに亮もメンバー登録されているようだが、これまでに特に参加の意向を聞かれた覚えはない。とすれば、他のメンバーも、睦月が勝手に名前を挙げているだけなのでは…?
 そう思って亮が尋ねてみれば、やはり睦月はキョトンとしている。

 亮は甘いものは好きではないものの、睦月の頼みとあらば、少しくらいならプリンを食べるお手伝いをしてあげられるけれど、きっと潤は、絶対に嫌がるだろうなぁ…。
 睦月の中には、誘って断られるという発想がない(というか、もうみんな来てくれるものだと思っている)ようだから、断られたとき、どう宥めてやろうかと思う。

 …いや、睦月のことだから、1人2人欠けたところで、きっとこのバケツプリンパーティーを強行するに違いない。そうなると、1人当たりの食べる割り当てが増えるのは必至だ。
 今の1人当たり2個だって、亮にしたら十分キツイのに…!

「睦月、やっぱ無理じゃね? だってさ、10人もどうやって呼ぶの? 部屋、入んねぇじゃん?」
「無理やり」
「無理すぎる…!」

 ただでさえ狭い、寮の一室だ。
 本当に10人も入ったら、すし詰めもいいところなのに、本気で無理やり全員を部屋に入れる気なのだろうか。

「まぁ…、入れなかったら入れなかったで、そのとき考えよう」
「考える、て…」
「部屋の外で待っててもらうとか」
「…………」

 それこそ、無理やりもいいところだけれど、バケツプリンパーティーをやらない、という選択肢がない以上、たとえ無理矢理でも、どうにかするしかないのだろう。
 でもみんな、そこまでして、プリン食べたいのかなぁ…。

「でもむっちゃん…、誰が作るの? そのバケツプリン」

 これでとうとうバケツプリンパーティーの開催は決定か…と亮も真大も遠い目をしたところで、翔真が肝心なことに気が付いた。
 パッケージには、対象年齢8歳以上と書いてあるけれど、睦月は、まったくちっともさっぱり料理が出来ないのだ。8歳の子が作れたとしても、睦月が作れる保証はない。
 なのに、本人はいたってのん気なもので、「まぁ、大丈夫なんじゃない?」なんて言っている。

 ――――何その、まったく何の根拠もない自信…!!

 その場にいた3人全員が愕然としたが、睦月はすっかりその気になっているから参る。
 慌てて亮がパッケージを見れば、添付のプリンの素に牛乳を混ぜて火に掛けた後、容器に流し入れて冷やすだけ……とあるから、もしかしたら、睦月に出来ないこともないかもしれない。

 でも…!



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キャラメル・シュガーの王子様 (5)


「いや…むっちゃん。ホントにやるなら、俺がやってあげるから…」
「そう? 亮、作りたいの? じゃあ代わってあげる!」
「…………」

 睦月が作るところを想像しただけで、大惨事になることは目に見えているし、10人もの人間が食べるのに、食中毒でも起きたら大変だからと、亮は交代を申し出ただけで、別に、バケツプリンを作りたいという願望は少しもないのに。
 どうして、仕方がないから代わってあげる! みたいな雰囲気に…?

「じゃあ、明日はプリンパーティーね! バケツプリンパーティーね!」
「明日? 明日するの?」

 睦月のことだから、帰ったらすぐにでもそのパーティーを開催するのかと思ったら、意外にも明日という日取りを設定された。

「だって、固まるのに10時間掛かるて書いてある」
「10時間!?」

 さらに意外にも、睦月はちゃんと説明書きを読んでいたらしく、バケツにプリン液を流し入れた後、冷蔵庫で10時間冷やし固めなければならないことを知っていた。
 亮も翔真も真大も、日々の食事のために料理はするものの、今までにプリンなんて作ったことはないから、どのくらいの時間で固まるかなんてことは知らなかったし、考えたこともなかったのだが、そんなに大変な作業だったなんて…。

「今日帰ったら作るからさ、明日来て?」
「あ…うん…」

 呆然としながらも翔真は頷いてしまったが、そういえば他のメンバーの都合はまだ確認していなかった。
 睦月はみんなが来てくれる気になっているが、プリンが嫌とかでなく、何か別の予定が入っているなら来れない可能性もあるわけで…………そうなったら、誰が食べる? このバケツプリン!

「ねぇ亮、カズちゃんとかさ、愛菜ちゃんとかにさ、メールして? 明日バケツプリンパーティーしますよ、て。ね?」
「え、俺が?」
「うん」

 手にバケツプリンのキットを持ったままだが、睦月は何やらどこかに行こうとしている。
 バケツプリンパーティーをやりたいのは完全に睦月なのに、どうして人を誘うところは亮に任せようというのか――――しかし、その真相はすぐに分かった。

「俺ちょっと筆箱探してくる」
「えっ!?」

 そして睦月は、唖然とする3人を残して、当初の目的である筆箱探しへと行ってしまったのだった。



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キャラメル・シュガーの王子様 (6)


「はぁい、亮。来てやったわよ」

 亮が、バケツプリンパーティーへのご招待メールを送った翌日、まずやって来たのは、愛菜と眞織だった。
 やはりそこはスイーツ大好きな女の子というべきか、ノリのいい2人だったからなのか、バケツプリンパーティーの参加には、二つ返事でOKしてくれたのだ。

「あと誰が来るって? カズちゃんとショウと?」
「真大とー、蒼ちゃんとー、ゆっちとー、あとイク!」

 睦月の最初のプランで呼ぶはずになっていた潤は、亮の予想どおり、キッパリと拒絶されたのだが、蒼一郎に声を掛けたら、郁雅も呼びたいと言ってくれたので、人数は当初のとおり10人となったのだ。

「10人ねぇ」
「…1人2個だからな」
「分かってるわよ」

 参加人数を聞き、1人当たりのノルマを知ったら、逃げ出してしまうのではないかと亮は心配したが、そういえば愛菜も眞織も、強靭な胃袋を持っているのだ。
 亮は、人の心配をしている場合ではなかった。

「でもさぁ、よくみんな、来る、つってくれたよね」
「まぁ…若干苦労したところもありますけどね」

 翔真と真大は昨日の時点で、有無を言わさず参加が決定されていたし、蒼一郎や和衣なら、予定さえ空いていれば、おもしろがって来てくれそうだから、よかったのだ。
 問題は潤と祐介で…………案の定、潤は即行で拒否したし(今日もさっさと出掛けた)、祐介もまったくいい顔をしなかった上に、どうして睦月を止めなかったのだと、亮を責めた。
 それでもようやく祐介を説得し(『だったらお前が直接睦月を叱ってやれ』と言ったのが効いたようだ)、何とか10人のメンバーを揃えたのである。

「つか、むっちゃん、何モジモジしてんの? おしっこ?」

 そもそもバケツプリンパーティーをやりたがったのは睦月なのに、そのメンバーを集めるという面倒くさい部分は亮の役目なんだ……とは、何だかかわいそうで、愛菜も眞織も言えず、代わりに、先ほどから何だか落ち着かない様子の睦月に声を掛けてみた。

「違うよ! おしっこ、さっきして来たよ!」
「だって何かさっきからモジモジしてるから」
「早くプリン食いたいの!」

 待っているのが普通のプリンでなく、バケツプリンだから、待ち切れないのは分かるが、それでさっきから落ち着きがないのは、21歳としてどうなのかと思う。
 いや、それもそうだけれど、その仕草から、愛菜に、トイレを我慢していると思われるのも…(聞くほうも聞くほうだ)。



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キャラメル・シュガーの王子様 (7)


「むっちゃん、お邪魔~」
「いらっしゃいませ!」

 それから睦月が、部屋に女の子がいるからといって、特に気を遣うでもなく、いつもどおりのだらけっぷりで寛いでいたら、ようやくみんなが姿を現した。

「うわっ、すっげ狭い…」
「大丈夫、大丈夫。入る、入る」

 思わず漏れてしまった翔真の呟きに、睦月はのん気にそんなことを返すが、どう考えてもこの室内に10人もの人間を入れるには無理があるというもの。
 だが、早く全員が部屋に入って着席してくれないことには、バケツプリンパーティーが始められないから、睦月は「早く座って!」とみんなを促す。

「座れって…………どこに?」

 室内を見回した和衣が、尤もなことを言う。
 部屋の中央にはローテーブルがあって、それが結構場所を取っているのだが、バケツプリンを置くためには、それを片付けるわけにはいかず……本当に一体どこに座ればいいのだろう。
 真大なんて、まだ室内に入り切れていないのに。

「さぁさぁ、お座りください。プリンを出しますから!」

 だから、どこに座れと……と、後から来たメンバーだけでなく、愛菜や眞織も思うのだが、テンションの上がった睦月は、何だか変なキャラになっていて、手が付けられない。
 とにかく、どうにかして中に入って座らないことには、睦月の機嫌を損ねてしまいそうだから(そうなると、また面倒くさい)、みんなは顔を見合わせつつ、徐々に奥へと詰めた。

「……暑い…」

 エアコンのいない寮の一室は、普段から、窓を全開で扇風機をフル稼働させても死ぬほど暑いのに、今日はそこに10人がすし詰め状態なのだ、暑くないわけがない。
 そして、唯一の涼である扇風機は、全員が部屋に入るのに邪魔にならないよう、亮のベッドの上に置いてあるのだが、やはり部屋全体に涼しい風を行き渡らせるには至らない。

 しかしそんな中、亮はふと思った。
 とんでもなく寒がりでありながら、暑さにも滅法弱い睦月が、そういえば今日は、少しも暑いと愚痴を零していないのだ。
 まさか、バケツプリンが楽しみ過ぎて、暑さを忘れているとか…?

(恐るべし、バケツプリン…!)

 みんな、暑さから思考力が落ちているせいか、この驚愕の事実には気付いていないようで、人を掻き分けながら、ウキウキと冷蔵庫に向かう睦月を見つめている。
 そこでも、真っ先に気が付いたのは亮だった――――睦月が自分でバケツプリンを取り出そうとしている!!

「ちょっ睦月、待った!」
「ぅ?」

 睦月が冷蔵庫の扉に手を掛けたところで、亮が大声で睦月を止めた。



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キャラメル・シュガーの王子様 (8)


「何亮、急に……て、イタッ! 何よっ」
「イテッ、バカ、何だよっ」

 慌てて睦月を追い掛けた亮は、当然睦月同様に人を掻き分けねばならないのだが、遠慮なしに動いた亮は、側にいた眞織の手を踏み付け、翔真の背中に膝蹴りを噛ましてしまうはめに。
 申し訳ないとは思うが、今はそれどころではない。

「ちょっちょっ…むっちゃん待って……誰か止めて…」

 変な体勢で身動きが取れなくなった亮は、それでも何とか睦月を止めようと必死だ。

「何、亮。どしたの?」
「むっちゃんはいいから……座ってて…」

 急にバタバタした亮を不思議に思って、睦月は冷蔵庫を開ける前に亮を振り返った。

「あー…………睦月、出してやるから、お前は自分の場所に戻れ」
「…は? 何で?」

 奇行とも取れる亮の行動の意味に気付いたのは、睦月との付き合いが一番長い祐介だった。
 幸いにも彼は、冷蔵庫に一番近い位置に座っていたので、バケツプリンを冷蔵庫から出す役目を代わってやることを申し出たのだが、睦月は意味が分からず眉を寄せた。

 何しろ、スーパー不器用な睦月のことだ。
 たとえバケツプリンを冷蔵庫から出して、テーブルのところに持って行くだけだとしても、今の浮かれ具合からして、絶対に最後に転ぶか、落っことすか、とにかく何かやらかして、グチャッとしてしまう確率が高い。
 だって普段、食器の出し入れですら、危なっかしくて目を離せないのだから。

 亮はそれに気が付き、慌てて睦月を止めようとしたのである。
 そこまで過保護にならなくても……と思われるかもしれないが、睦月に関しては、このくらいは過保護のうちには入らない。睦月の不器用さは、世界を破滅させるレベルなのだ。

「むっちゃん、いいじゃん、やってもらったほうが面倒くさくないよ? それに、ここまでいろいろやったんだからさ、後はもうお客様でよくね?」

 亮と祐介の慌て具合に、ようやく事の次第を悟った翔真は、ただ闇雲に睦月を止めても、かえって不審がられるだけだと思い、別の角度からアプローチしてみる。
 睦月は面倒くさがりだしそう言えば納得すると思ったのだ。

「むっちゃん、こっちおいで?」

 せめて冷蔵庫のドアを開ける係りくらいやりたかったのに…と睦月が思っていると、何とか体勢を立て直した亮が、腕を広げて睦月を呼んだので、仕方なく元の位置に戻った。

 セーーーフ…。

 事情の分かっている人間だけが、ホッと胸を撫で下ろした。



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キャラメル・シュガーの王子様 (9)


「うわっ、結構重いな」

 冷蔵庫の中から、プリンのキャラがプリントされたバケツを取り出した祐介が、率直な感想を述べた。
 それもそのはずで、プリンの素に牛乳を混ぜて火に掛けるだけのお手軽プリンだが、容器を満たすだけのプリン液を作るのに、2リットル近くの牛乳を使っているのだ。
 バケツとしてはサイズは少し小さめだが、それがたっぷりのプリンで満たされているとなれば、見た目以上の重量があって当然である。

「すげぇ…、マジでバケツなんだ」
「普通のプリンの20個分て書いてある…」

 バケツプリンを作るためのキットを見るのも初めてのメンバーが、取り出されたバケツに驚きの声を上げる。
 このサイズのプリンを、これからみんなで食べるのだ。

「でもこれ、どうすんの?」
「どうする、て?」

 プリンの詰まったバケツをテーブルに乗せた祐介が、ふぅ…と息をついた後、そう言ったので、何のことかと亮が聞き返した。

「え、このまま食うの? バケツの中に入ったまま」
「ヤダ! ゆっち、引っ繰り返して!」

 祐介に言われて、確かにこのままでは、睦月が所望しているようなバケツプリンの形ではない…と思った途端、すぐさま睦月が声を上げた。
 まぁ睦月でなくても、ここまで来て、引っ繰り返さないまま食べることを望む者はいないだろうが。

「引っ繰り返すけど……皿は? これが入るだけのデカいのあんの?」
「あんの? 亮」

 祐介はこの部屋の住人でないから、もちろん所有している皿の種類まで知っているわけがないのだが、この部屋で生活しているはずの睦月も、そのことは分かっておらず、首を傾げながら亮を見た。

「あの、そこの棚のところにデカい皿あるから、誰か出して…」

 部屋の奥にいる亮が移動すると、また誰かに迷惑を掛けそうなので、今度は大人しくしていることにする。
 人の部屋の戸棚だが、家主の亮がいいと言っているのだからいいのだろうと、和衣が中から一番大きな皿を出してやった。

「引っ繰り返す前に、竹串とかで周りグルッとしたほうがいいんじゃない?」
「……」

 こういうとき、プリンが型にくっ付いているとうまくいかないから、型とプリンの間に竹串とかスプーンとかを回し入れると、キレイに型から外れるのである。
 愛菜も、これまでの人生で、それほど熱心に料理をしたり、お菓子作りをしてきたわけではないが、今までに何度かやってきた経験から、多少は知っているのだ。



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キャラメル・シュガーの王子様 (10)


「グルッと…?」
「竹串て何?」

 今どき、料理は女の仕事、なんて古臭い考え方はなかなか流行らないと思うのだが、それでもここにいる男どもには、愛菜の説明はピンと来ないのか、みんな曖昧な表情を浮かべている。
 というか、睦月にいたっては、竹串の意味も分かっていないようだし。

「あーはいはい。ちょっとスプーン貸して。つか…まだ使ってないから、私のスプーンでいい?」
「いいけど……何?」

 普段2人暮らしのこの部屋に、今日集まる10人分のスプーンなんてないから、各自でスプーンは持参するのが今日のパーティーだ。
 愛菜は自分の荷物からスプーンを取り出すと、バケツとプリンの間にスプーンを差し込んだ。

「愛菜ちゃん、何するの…!?」

 まさかこのまま食べちゃう気!? でも相手が愛菜だと、強く言えない……と、睦月はハラハラしながら、愛菜の行動を見守る。

「だから、こうやってプリンと型の周りをグルッてしたら、型から取れやすくなるから、つってんの!」
「………………。グルッと」

 ここでようやくみんな、先ほど愛菜が言った『竹串とかで周りグルッとしたほうが……』の意味が分かったようで、感心したように頷いた。
 もちろん眞織だってこのくらいのことは知っているから、みんな何を今さら…という気持ちなのだが。

「これで取れる? プリン取れる!?」
「祐介くんがうまくやれば」
「結局俺!?」

 ここまでやれば、後は絶対に大丈夫、という保証が付いたわけではないのか…と、祐介はギョッとする。
 最終的には、やっぱり祐介の腕次第なの?

「ヤバイ…、緊張する…」
「何だよ、ゆっちの意気地なし!」

 テーブルに置かれた大皿にプリンを空けようとして、もし出すのに失敗して、グチャッとなったらどうしよう…と思ったら、祐介は急に緊張してきた。
 だって、みんなが期待に満ちた目で見ているから…!

「お皿をふたにして、そのまま引っ繰り返せばいいんじゃない?」

 見兼ねて提案したのは、今度は眞織だった。普通はやってもフライパンサイズで、それがバケツプリンにも応用できるかは分からないが、そのほうが確実だと思う。
 というか、このサイズのプリンを取り出すのに、そのままお皿に向かってバケツを引っ繰り返すとか…………結構勇気がいる。



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キャラメル・シュガーの王子様 (11)


「…こう?」

 眞織や愛菜の様子を窺いつつ、祐介はドキドキしながら、言われたとおりのことをやってみる。
 祐介も自炊はしているけれど、それは一人暮らしになってから始めたことで、料理にそんなに詳しいわけではないから、自分がしていることが合っているかどうか分からないのだ。

「ゆっち、早くっ」
「分かってるってば!」

 緊張しているんだから、急かさないでほしい。
 もし失敗したら、落胆して激怒するのは睦月自身なのだから。

「これで……引っ繰り返す…」
「せーのっ!」

 考えてもどうにかなるものではない。
 睦月の掛け声に合わせて、祐介は皿ごとバケツを引っ繰り返した。

「出た!?」
「何となく……外れたような感触はあった」

 祐介は、そっと引っ繰り返したバケツプリンをテーブルに乗せた。
 ここまではいい。
 後は、このバケツを外したときに、キレイにプリンが姿を現してくれるかどうかだ。

「…外していい?」
「早くっ!」

 もうここまで来たら、最後までやるしかない……と、祐介は、ゆっくりバケツを引き上げていく。
 徐々に姿を見せるプリンに、否応なくみんなのテンションも上がってくる。

 そして。

「キャーーーーー!!! プリン~~~!!!」

 バケツからすべて抜け出た瞬間、まさにプルンと揺れ動いたバケツプリンに、睦月のテンションは一気に爆発して、そのまま後ろに引っ繰り返った。
 睦月の反応は大げさかもしれないが、しかし、さすがにこのバケツプリンを目にして興奮しない人間はいないわけで、みんなの口からも「おぉ~~~~」と感嘆の声が上がる。

「すっ…すごい亮! プリンっ!!!」
「分かっ…分かったから、睦月、ちょっ…」

 亮は、ジタバタする睦月を、何とか取り押さえる。
 あんまり暴れてテーブルでも蹴っ飛ばしてしまえば、大変なことになる。

「早くあれ掛けて、タレ!」
「タレ? カラメルでしょ?」

 興奮しすぎて、わけが分からなくなっている睦月に、優しい亮はそれでも突っ込んであげるが、多分睦月の耳には届いていないだろう。



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キャラメル・シュガーの王子様 (12)


 最後の仕上げぐらい睦月にさせてあげたいが(いくら睦月が究極に不器用でもこのくらいなら…)、このテンションだと、それすらも無理かも…と、結局祐介がやってあげることにした。

「キャーーー!! キャーーー!! 亮~~~~!!!」
「分かった、分かったから、むっちゃん! よかったね」

 完成したバケツプリンに感極まって、睦月はギュウ~~~と亮に抱き付いてきたので、亮は、みんなの前だ…と思いつつも、あやすように頭を撫でてやった。
 まぁ…ここにいる殆どが、亮と睦月が付き合っているのを知ってから、その様子を見たところで、このバカップルが…! くらいにしか思わないのだが。

「さぁさぁ食べましょう!」
「ちょっと待った、むっちゃん! その前に写メ…」

 シャキーン! とスプーンを構えた睦月を、愛菜が慌てて止めた。
 みんな、最初は内心睦月のことをバカにしていたが、こんなバケツプリンを生で見る機会は、きっとこれから先ないだろうから、写真に収めておきたくなったのだ。

「…………」

 みんなが揃ってスマホを構え出すから、睦月も何だかその気になって、ベッドの上に放り投げていた自分のスマホを手繰り寄せた。

「………………」
「睦月?」
「………………」
「写真撮らないの?」
「………………」
「睦月?」
「…………亮、やって」

 真剣な表情でスマホに向き合っていた睦月は、しばらくの後、ズイ…とスマホを亮のほうに差し出した。
 前に使っていた携帯電話が壊れ、新しくスマホに買い替えてからそこそこの月日が経つが、未だに睦月はその操作に四苦八苦しているのだ。

「…………出来た?」
「これでいいですか?」

 一応、大きさが分かるように、隣にペットボトルを置いて写真を撮ったから、結構分かりやすいと思うんだけど……と、亮は撮った写真を睦月に見せてやった。

「プッリ~~ン!!」
「睦月!」

 スマホを受け取った睦月は、「ひゃぁ~~~~!」と、わけの分からない奇声を発しながら、後ろに引っ繰り返った。
 とりあえず亮は、万が一の事態が起こらないよう、バタバタしている睦月の足を押さえ付けておく。



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キャラメル・シュガーの王子様 (13)


「これ! これ待ち受けにしてっ?」
「え、待ち受けにすんの? この写真?」

 そこまで? とは思うが、ここは睦月の気の済むようにしてあげるしかなさそうだ。
 起き上がった睦月は亮にキュウキュウと抱き付きながら、自分のスマホの待ち受け画面が、バケツプリンの画像になるのを見守っている。

「これからは、お腹空いたら、これを見るようにする」
「いや…、それはかえってお腹空くんじゃない?」

 睦月がいいならそれでいいけど…。
 いつもながら、とんちんかんなことを言い出す睦月に、みんなも笑っている。

「じゃあ、今度こそ食べましょう、みなさん!」
「それ、何キャラ?」
「はい、手を合わせてっ! いっただきまぁ~す!」

 何だかよく分からないが、睦月が元気よく号令を掛けるものだから、みんなもつられて合掌をし、小学校のときの給食のように、いただきますをした。
 まずプリンにスプーンを刺したのは睦月だ。
 誰も何も言わなかったが、やはりここはそうだろうな…と、みんなが察して、睦月が食べ始めるのを待っていたのだ。

「んんんんん~~~~~~~っっっ!!!!」
「え、むっちゃん? どうした? おいしい?」
「お・い・し・いっっっ!!!」

 スプーンを銜えたまま、睦月は再び後ろに引っ繰り返った。
 もう誰も、ハイテンションの睦月を止めることは出来ないのだ。

「はうぅ…、プリン…」

 仰向けに倒れたまま、睦月は夢見心地で呟いている。
 頭……ぶつけてないよね?

「むっちゃーん、あたしたちも食べていい?」
「ぁい…」

 プリンのせいなのか、暑さのせいなのか、頭の中がほんわかしているらしい睦月は、愛菜の言葉に、寝転んだまま返事をした。

「あ、ホント、マジでおいしい」
「おいしい、おいしい」

 単におもしろいだけの商品で、味は二の次なのかと思ったら、ちゃんと味もおいしい。
 物珍しさだけでなく、味もちゃんとしているので、みんな結構ハイペースで食べていっている。これなら10人で食べ切れるかも…。

「むっちゃん、起きて食べないと。まだ一口しか食ってないでしょ」

 睦月が未だに寝そべったままウットリしているから、亮はその肩を揺さぶってやる。
 まぁ、そんなに一瞬ではなくならないだろうが、結構みんな、すごい勢いで食べてるから…。



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キャラメル・シュガーの王子様 (14)


「おいしーね、カズちゃん」
「うんっ、おいひぃ。むっちゃんありがとう」
「何が?」
「お招きくださいまして?」

  バケツプリンでテンションが壊れていたのは睦月だけでなく、和衣もだったようで、プリンを頬張りながら、何だかわけの分からないことを言っている。
 まぁ一応……バケツプリンパーティーだから、お招きくださいまして、は間違いではないのかもしれないけれど…。

「つか…、俺もう…」

 はしゃいでいる睦月と和衣とは打って変わって、食べるペースの遅れ始めていた翔真が、こっそりと亮に耳打ちした。
 確かにバケツプリンはおいしいし、楽しい。
 しかし、もともと甘いものが苦手な翔真は、1人2個分というノルマを達成するどころか、1個分を食べるのもやっとだ。そこで、同じく甘いものの苦手な亮に、声を掛けたのである。

「…だよな」

 亮の気持ちは、翔真と同じだったらしい。
 そんな亮にホッとして翔真はスプーンを置き、眉を下げた亮もまた、心の中で『ごちそうさま』と呟いた。

 亮と翔真の次に根を上げたのは、郁雅だ。多分、1個以上は食べていると思うけど、2個は無理…。
 それから、もともと小食な和衣がリタイアし、真大と蒼一郎もギブアップした。
 多分祐介は、ノルマどおりに2個分くらいは食べたと思うけれど、いくら甘いものが好きでも、一気にそれ以上を食べることは出来ず、とうとう白旗を上げた。

 けれど。

「あーおいし」
「でももっとカラメルあったほうがよくない? 下のほう、カラメル足んなくなってる」
「むぐむぐむぐ」
「でもプリンだけでもおいしいけど」
「あーん」

 …まったくペースを落とすことなく、食べ続けている3人。
 しかも、愛菜と眞織は話をしながらだけれど、睦月にいたっては、大して喋ることなく、ひたすら食べ続けている。

 女の子2人が底なしの胃袋を持っていることは、亮や翔真といった同じゼミの仲間は知っていたのだが、素面で目の当たりにしたことはなくて、絶句する他なくなっていた。
 もちろん、一学年下の真大たちだって、然りである。

(女の子て、すごい…)

 世の中の女子すべてが、彼女たちの基準に当てはまるわけではないと分かっているつもりだが、それでもやっぱり女の子て、すごいと思う。



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キャラメル・シュガーの王子様 (15)


「むっちゃんも、すごいけど…」

 愛菜と眞織の食べっぷりにまったく動じることなく、それと同じペースで食べている睦月も睦月だ。
 普段から、平気でお菓子によってお腹をいっぱいにしてしまうような子ではあるけれど、それにしても、こんなに食べれるなんて…。

「あ、あと一口~…」

 とうとうお皿に残ったのはプリンは、、スプーン1杯分となってしまった。
 ノルマである2個分を食べられなかった者が半分もいる以上、最後まで食べていた睦月と愛菜、眞織が食べた量はかなりのはずなのに、睦月は名残惜しそうに、最後の一口を掬った。

「…食べていい?」
「どうぞ」

 一応、一緒に食べていた愛菜と眞織に気を遣ってみるが、睦月は大変食べたそうな顔をしている。
 これだけ食べればもう十分、と愛菜も眞織も、その最後の一口を睦月に譲った。

「はぁ~、満足満足」

 バケツプリンを食べ切って、睦月はご機嫌でスプーンを置いた。
 昨日、このキットを見つけてから、ずっとやりたくてやりたくて仕方がなかったのだ、そりゃ大満足でしょう。

「10人いても、絶対食い切れないと思ってたけど、食ったねぇー」

 甘いものの食べ過ぎで、若干グッタリしていた翔真が、空になった皿を見て、感心するように言った。
 本物のバケツプリンを見た瞬間はテンションが上がったけれど、翔真は、睦月がバケツプリンのキットを買うと言ったときから、今食べ切るのを見届けるまで、全部食べるのは絶対無理だと思っていたのだ。

「最終的には、3人で食べてた…」

 そう言った和衣も、自分に出来る精一杯のことはしたけれど、この3人には到底及ばなかった。
 バケツプリンを完食できたのは、やはり3人のおかげだろう。

「つか、ヤバいね」

 愛菜と眞織、そして睦月以外の7人がダウンしている中、そう口にしたのは眞織だった。
 平気そうにしていたけど、やっぱり食べすぎて、体調が悪くなった? そうだよね、いくら甘いもの好きでも、食べ過ぎだったよね? …と、男どもは今さら心配したのだが。
 そこはそれ。
 愛菜や眞織が、そんな簡単にへたばるわけがないのだ。

「今日の夜、飲み会だから、せっかくお昼軽めにしたのに、結局また食べちゃった」
「あ、そうだ」

 最初に『ヤバイね』と前置きしたはずなのに、その後に続いた言葉の言い方が、まったく全然ヤバそうでなかったから、どこまで本気なのかは分からないが、とりあえず、これだけ食べた後に、飲み会が控えていることだけは確かなようだ。
 和衣なんか、ゴメンナサイだけれど、夕ご飯はちょっといらないかも…とか思っているくらいなのに。



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