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恋は七転び八起き (55)
2015.10.29 Thu
しかも、聞こえてきた車内アナウンスが、槇村をさらに絶望的な気持ちにさせた。次はもう、槇村が降りるべき駅なのだ。央に話し掛けていたら、槇村はそのまま乗り過ごしてしまうし、かといって央を連れて降りるのもおかしな話だ。
こんなことなら、央に気付いたときに声を掛けておけばよかった。槇村は、この手の後悔を何度もしている。
こうなったら、もう意地だ。この際、他の乗客には多少の迷惑を掛けるけれど、央のもとへ行かせてもらおう。もし槇村が逆の立場だったら、結構大きめの舌打ちとかしてしまうだろう。本当にゴメンなさい。
周りに嫌そうな顔をされつつ、今度こそ央に近付いた槇村は、央の後ろに立つ男の距離感が明らかにおかしいことに気が付いた。いくら電車が混んでいるとはいえ、密着しすぎだ。それに、その手の伸びる先は、吊り革でも手すりでもなく、央の下腹部――――
「――――央、」
先ほど感じた央の妙な様子の原因が分かった槇村は、先ほどまでうじうじと悩んでいたことも忘れ、央に声を掛ける。ポンと肩に手を置くと、央は大げさなくらいビクッと肩を跳ね上げた。
状況が状況だったせいもあり、弾かれたように槇村のほうを向いた央は、嫌そうな顔はせず、縋るような目で槇村を見た。
「槇村く…、槇村くんっ…」
絞り出すような声で槇村の名前を呼びながら、央はギュウと槇村のスーツの前を掴んだ。指先が震えている。こうなったら話どころではない。とにかく央を痴漢の手から救い出すのが先だ。
槇村は央の腕を引いて、出来るだけ男からその体を離そうとしたが、男もそれに気付いたのか、さらに央に身を寄せて来る。周囲にばれたのに、それでも行為を続けようとは、大胆な痴漢だ。
いい加減にしろ、と声を上げようとしたところで、電車が速度を落とす。捕まえるなら今しかない。今なら、取り押さえた後、すぐに電車を降りて、駅員に通報できる。
しかし、槇村が男の手を掴もうとしたところで、央がガクガクと震えながら槇村にしがみ付いて来たので、それは叶わなかった。やはり、自分が痴漢をされていたことを、周りに知られたくないのだろうか。
電車が停まる。槇村は舌打ちをすると、央を連れて電車を降りた。もともとここは槇村が降りるべき駅で、央が降りるのはまだ先だったが、あのまま央を電車には残しておけなかった。
「まっ…槇村く…、俺っ…」
「大丈夫だ央、もう大丈夫だから」
乗降客の邪魔にならない位置まで央を連れて行くと、震えながら縋って来る央を落ち着けるように、槇村は何度も大丈夫だと繰り返す。気休めの言葉かもしれないが、少なくともあの痴漢男は、ここにはいない。
「ちがっ…違くてっ…」
「ん? 何だ? 何が違うって? もう大丈夫だから、言ってみ?」
槇村の声は、極めて優しかった。それは自分でも驚くほどだったが、自然と出たものだった。
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こんなことなら、央に気付いたときに声を掛けておけばよかった。槇村は、この手の後悔を何度もしている。
こうなったら、もう意地だ。この際、他の乗客には多少の迷惑を掛けるけれど、央のもとへ行かせてもらおう。もし槇村が逆の立場だったら、結構大きめの舌打ちとかしてしまうだろう。本当にゴメンなさい。
周りに嫌そうな顔をされつつ、今度こそ央に近付いた槇村は、央の後ろに立つ男の距離感が明らかにおかしいことに気が付いた。いくら電車が混んでいるとはいえ、密着しすぎだ。それに、その手の伸びる先は、吊り革でも手すりでもなく、央の下腹部――――
「――――央、」
先ほど感じた央の妙な様子の原因が分かった槇村は、先ほどまでうじうじと悩んでいたことも忘れ、央に声を掛ける。ポンと肩に手を置くと、央は大げさなくらいビクッと肩を跳ね上げた。
状況が状況だったせいもあり、弾かれたように槇村のほうを向いた央は、嫌そうな顔はせず、縋るような目で槇村を見た。
「槇村く…、槇村くんっ…」
絞り出すような声で槇村の名前を呼びながら、央はギュウと槇村のスーツの前を掴んだ。指先が震えている。こうなったら話どころではない。とにかく央を痴漢の手から救い出すのが先だ。
槇村は央の腕を引いて、出来るだけ男からその体を離そうとしたが、男もそれに気付いたのか、さらに央に身を寄せて来る。周囲にばれたのに、それでも行為を続けようとは、大胆な痴漢だ。
いい加減にしろ、と声を上げようとしたところで、電車が速度を落とす。捕まえるなら今しかない。今なら、取り押さえた後、すぐに電車を降りて、駅員に通報できる。
しかし、槇村が男の手を掴もうとしたところで、央がガクガクと震えながら槇村にしがみ付いて来たので、それは叶わなかった。やはり、自分が痴漢をされていたことを、周りに知られたくないのだろうか。
電車が停まる。槇村は舌打ちをすると、央を連れて電車を降りた。もともとここは槇村が降りるべき駅で、央が降りるのはまだ先だったが、あのまま央を電車には残しておけなかった。
「まっ…槇村く…、俺っ…」
「大丈夫だ央、もう大丈夫だから」
乗降客の邪魔にならない位置まで央を連れて行くと、震えながら縋って来る央を落ち着けるように、槇村は何度も大丈夫だと繰り返す。気休めの言葉かもしれないが、少なくともあの痴漢男は、ここにはいない。
「ちがっ…違くてっ…」
「ん? 何だ? 何が違うって? もう大丈夫だから、言ってみ?」
槇村の声は、極めて優しかった。それは自分でも驚くほどだったが、自然と出たものだった。
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