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恋は七転び八起き (38)
2015.10.12 Mon
「………………」
1人になり、静けさに耳が痛くなる。ほんの1分ほど前には、ここに央がいて、圭人もいて、苛立ちから槇村は声を大きくしてしまった。きっと近所にも聞こえている。高校生の男子と言い争いをしていたなんて、変な噂が立たなければいいけれど。
…そう思ったところで、こんなときでさえ、考えるのは周囲の目なのかと、自分を嗤いたくなった。いい大人が、一回りも年の離れた子どもを傷付けたというのに。
きっともっと他に言い方はあった。少なくとも、央の話を聞くぐらいしてもよかった。何か言うのは、それからでも遅くはなかったはずだ。
けれど、今さらどうすることも出来ない。追い掛けて央に謝ればいいのだろうけど、足が動かないのだ。先ほど央に放った言葉とは違った意味で、槇村は今、央の顔を見たくはないと思った。合わせる顔がない、というヤツだ。
しかし槇村は、こんな状況だというのに、なぜかホッとしている自分がいることに気付いていた。自分の言動が央を傷付けた事実は、槇村に大きな罪悪感をもたらしたが、それと同時に、ようやく央から解放されたという気持ちも抱かせたのだ 。
さすがにこれで央も槇村のことを嫌いになっただろうから、何度告白を断っても再び槇村の前に現れた今までのように、これからはやって来ないだろう。ひどい幕切れだが、これでもう、央に会わなくて済む。
(央…。俺はお前が好きになってくれるような、かっこいい大人でも何でもないんだよ…)
だって、こんなにも傷付けてしまった。そのうえ、それなのに、やっと自由になれた、なんて思っている。近所で変な噂が立たないか、気にしてばかりいる。何て嫌な大人だと、自身を嫌悪するしかない。
こんな大人から離れることが出来て、きっと央はよかった。もっと早く、そうなるべきだった。こんなに傷付ける前に。世の中の大人がみんなこうではないから、どうかまっすぐに生きてほしいと思う。
(ゴメンな、央…)
*****
翌朝、槇村は再び自己嫌悪に陥ることになる。昨晩は、何もかもを忘れたくて酒に逃げてしまい、1人だというのに深酒をした結果、目を覚ましたらひどい二日酔いだったのだ。
朝食を取る気にもならず、ヨロヨロと家を出て、いつもより幾分遅い電車で会社に行くと、すでに何人かが出勤していた。
別に一番で出勤することに命を懸けているわけでも何でもないので、先に誰がいようと構わないのだが、周囲はそうとも思っていないようで、『珍しいですね~、槇村さんがこんな時間に。何かあったんですか』なんて言って来る。遅刻したわけでもなし、何時に来ようと勝手だろう、とはさすがに言えないので、槇村は適当に笑って受け流した。
こんなことですら苛付いてしまうなんて、まったくもって精神状態が穏やかでない。
「何だ槇村、寝不足か? 隈すごいぞ」
「おぉ…」
槇村がどんな状態であろうと、気にせずいつもの調子で声を掛けてくるのが逢坂だ。彼にとって、槇村の出勤が早いのも遅いのも、どうでもいいことなのだ。
しかし、それだけではただの鈍感な男に過ぎないが、逢坂はその実いろいろと見ていて、今もこっそりと槇村の机の上に水のペットボトルを置いていった。槇村の持っていたものが、すでに空であることに気付いたのだろう。『寝不足か?』なんて声を掛けてきたのも、槇村が二日酔いであることを分かっていながら、あえてそのように言葉を選んだに違いない。
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1人になり、静けさに耳が痛くなる。ほんの1分ほど前には、ここに央がいて、圭人もいて、苛立ちから槇村は声を大きくしてしまった。きっと近所にも聞こえている。高校生の男子と言い争いをしていたなんて、変な噂が立たなければいいけれど。
…そう思ったところで、こんなときでさえ、考えるのは周囲の目なのかと、自分を嗤いたくなった。いい大人が、一回りも年の離れた子どもを傷付けたというのに。
きっともっと他に言い方はあった。少なくとも、央の話を聞くぐらいしてもよかった。何か言うのは、それからでも遅くはなかったはずだ。
けれど、今さらどうすることも出来ない。追い掛けて央に謝ればいいのだろうけど、足が動かないのだ。先ほど央に放った言葉とは違った意味で、槇村は今、央の顔を見たくはないと思った。合わせる顔がない、というヤツだ。
しかし槇村は、こんな状況だというのに、なぜかホッとしている自分がいることに気付いていた。自分の言動が央を傷付けた事実は、槇村に大きな罪悪感をもたらしたが、それと同時に、ようやく央から解放されたという気持ちも抱かせたのだ 。
さすがにこれで央も槇村のことを嫌いになっただろうから、何度告白を断っても再び槇村の前に現れた今までのように、これからはやって来ないだろう。ひどい幕切れだが、これでもう、央に会わなくて済む。
(央…。俺はお前が好きになってくれるような、かっこいい大人でも何でもないんだよ…)
だって、こんなにも傷付けてしまった。そのうえ、それなのに、やっと自由になれた、なんて思っている。近所で変な噂が立たないか、気にしてばかりいる。何て嫌な大人だと、自身を嫌悪するしかない。
こんな大人から離れることが出来て、きっと央はよかった。もっと早く、そうなるべきだった。こんなに傷付ける前に。世の中の大人がみんなこうではないから、どうかまっすぐに生きてほしいと思う。
(ゴメンな、央…)
*****
翌朝、槇村は再び自己嫌悪に陥ることになる。昨晩は、何もかもを忘れたくて酒に逃げてしまい、1人だというのに深酒をした結果、目を覚ましたらひどい二日酔いだったのだ。
朝食を取る気にもならず、ヨロヨロと家を出て、いつもより幾分遅い電車で会社に行くと、すでに何人かが出勤していた。
別に一番で出勤することに命を懸けているわけでも何でもないので、先に誰がいようと構わないのだが、周囲はそうとも思っていないようで、『珍しいですね~、槇村さんがこんな時間に。何かあったんですか』なんて言って来る。遅刻したわけでもなし、何時に来ようと勝手だろう、とはさすがに言えないので、槇村は適当に笑って受け流した。
こんなことですら苛付いてしまうなんて、まったくもって精神状態が穏やかでない。
「何だ槇村、寝不足か? 隈すごいぞ」
「おぉ…」
槇村がどんな状態であろうと、気にせずいつもの調子で声を掛けてくるのが逢坂だ。彼にとって、槇村の出勤が早いのも遅いのも、どうでもいいことなのだ。
しかし、それだけではただの鈍感な男に過ぎないが、逢坂はその実いろいろと見ていて、今もこっそりと槇村の机の上に水のペットボトルを置いていった。槇村の持っていたものが、すでに空であることに気付いたのだろう。『寝不足か?』なんて声を掛けてきたのも、槇村が二日酔いであることを分かっていながら、あえてそのように言葉を選んだに違いない。
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