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恋は七転び八起き (54)
2015.10.28 Wed
まだそれほど遅い時間でもないのに、駅のホームには、すでに酔っ払いの姿も混ざっている。鬱屈した気持ちの槇村には、楽しそうでいいものだ、とひねた考えを持ってしまう。そして、そんな自分に嫌悪。最悪のループだ。
槇村の気持ちが最底辺まで落ちたところで、ホームに電車が滑り込んで来た。ある程度の乗客を吐き出した後、それと同じくらいの乗客が乗り込んでいく。
「はぁ…」
すし詰めとは言わないが、それなりに混雑した車内に、槇村は電車が発車すると同時に溜め息を漏らした。電車通勤のサラリーマンの宿命とはいえ、1週間の疲れを背負った体に満員電車はキツい。それでも槇村は、家と会社を乗り換えなしで、幾駅も乗らずに通えるのだから、まだいいほうだと思わなければならないだろう。
いくつか目の駅で、ようやく隣にいた長身でがたいのいい男が降りたので、槇村は安堵した。どうせならかわいい女の子の側がいいなんて思わないけれど、疲れているところにこの圧迫感はきつい。
槇村はホッと息をついた。そして、広がった視界の先に視線を向けた瞬間、今度は驚愕に息を詰まらせた。何ということだ、神はどこまでも槇村のことを嫌っているようだ。
(――――央…!?)
何人かの乗客の向こうに見えたのは、紛れもなく央だった。この1週間、槇村の頭を悩ませ続けた央に間違いない。いや、間違いであってほしいと何度も目を凝らしたが、間違いではなかった。そばに圭人や七海の姿はない。
幸いにも央はこちらを向いておらず、槇村の存在に気付いていない。今のうちに央に背中を向けようと思ったが、それでいいのかという思いが足を止めさせた。
謝ったほうがいいのではないかとずっと思っていて、謝るためには、まず央に連絡を取るか、直接会うかしなければならないと思っていたのだ。その央が、今そこにいる。それなのに、気付かなかったことにして流してしまっては、苦悩の週末を過ごすはめになる。
とはいえ、声を掛けようにも、この混雑した車内で動くのは迷惑極まりないわけで、移動するとすれば、次の駅で電車が停まり、乗客が動いたタイミングだろう。
だが、次の駅までの数分が、槇村の決意を鈍らせる。やっぱり今さら謝るなんて…とか、この満員電車の中で声を掛けるのか? という気持ちが、どうしても湧いて来てしまうのだ。
どうしようかと悩んでいるうち、槇村はふと、央の妙な様子に気が付いた。妙と言っても、今まで槇村が見て来た央と雰囲気が違というだけで、あからさまにおかしいというわけでもない。現に、央の周りにいる人たちも、まぁスマホの画面に夢中になっているからかもしれないが、特に何も気付いていない。
しかし、俯き加減の央はギュッと唇を噛んで、眉を寄せていて…………まだ槇村とのことを引きずっていて、落ち込んでいるのだとしても、それだけのこととは思えない表情だった。
そんな状況で声を掛けるのもなぁ…と槇村が逃げ道を探そうとしたところで、電車が駅に到着した。
ままよ、と槇村は降りる乗客に併せて央に近付こうとしたが、ここで、まったく以て計算違いのことが起こった。人の流れが、槇村が動きたい方向とは反対に動き出したのだ。槇村が思っていたのとは反対側のドアが開いたのである。
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槇村の気持ちが最底辺まで落ちたところで、ホームに電車が滑り込んで来た。ある程度の乗客を吐き出した後、それと同じくらいの乗客が乗り込んでいく。
「はぁ…」
すし詰めとは言わないが、それなりに混雑した車内に、槇村は電車が発車すると同時に溜め息を漏らした。電車通勤のサラリーマンの宿命とはいえ、1週間の疲れを背負った体に満員電車はキツい。それでも槇村は、家と会社を乗り換えなしで、幾駅も乗らずに通えるのだから、まだいいほうだと思わなければならないだろう。
いくつか目の駅で、ようやく隣にいた長身でがたいのいい男が降りたので、槇村は安堵した。どうせならかわいい女の子の側がいいなんて思わないけれど、疲れているところにこの圧迫感はきつい。
槇村はホッと息をついた。そして、広がった視界の先に視線を向けた瞬間、今度は驚愕に息を詰まらせた。何ということだ、神はどこまでも槇村のことを嫌っているようだ。
(――――央…!?)
何人かの乗客の向こうに見えたのは、紛れもなく央だった。この1週間、槇村の頭を悩ませ続けた央に間違いない。いや、間違いであってほしいと何度も目を凝らしたが、間違いではなかった。そばに圭人や七海の姿はない。
幸いにも央はこちらを向いておらず、槇村の存在に気付いていない。今のうちに央に背中を向けようと思ったが、それでいいのかという思いが足を止めさせた。
謝ったほうがいいのではないかとずっと思っていて、謝るためには、まず央に連絡を取るか、直接会うかしなければならないと思っていたのだ。その央が、今そこにいる。それなのに、気付かなかったことにして流してしまっては、苦悩の週末を過ごすはめになる。
とはいえ、声を掛けようにも、この混雑した車内で動くのは迷惑極まりないわけで、移動するとすれば、次の駅で電車が停まり、乗客が動いたタイミングだろう。
だが、次の駅までの数分が、槇村の決意を鈍らせる。やっぱり今さら謝るなんて…とか、この満員電車の中で声を掛けるのか? という気持ちが、どうしても湧いて来てしまうのだ。
どうしようかと悩んでいるうち、槇村はふと、央の妙な様子に気が付いた。妙と言っても、今まで槇村が見て来た央と雰囲気が違というだけで、あからさまにおかしいというわけでもない。現に、央の周りにいる人たちも、まぁスマホの画面に夢中になっているからかもしれないが、特に何も気付いていない。
しかし、俯き加減の央はギュッと唇を噛んで、眉を寄せていて…………まだ槇村とのことを引きずっていて、落ち込んでいるのだとしても、それだけのこととは思えない表情だった。
そんな状況で声を掛けるのもなぁ…と槇村が逃げ道を探そうとしたところで、電車が駅に到着した。
ままよ、と槇村は降りる乗客に併せて央に近付こうとしたが、ここで、まったく以て計算違いのことが起こった。人の流れが、槇村が動きたい方向とは反対に動き出したのだ。槇村が思っていたのとは反対側のドアが開いたのである。
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