恋三昧

【18禁】 BL小説取り扱い中。苦手なかた、「BL」という言葉に聞き覚えのないかた、18歳未満のかたはご遠慮ください。

2009年09月

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10. こんな気持ちは知らなかったよ (5)


 部屋の鍵は閉めたけれど、同室者が帰って来ればそんなこと意味がないのに、けれど腕の中、甘えるように懐いている和衣を手放せない。
 だって、こんなにも好きだし。

「…俺、和衣のこと、好き」
「うん、え、何急に…」

 もちろん和衣だって、どうしようもないくらい祐介のことが好きだし、こうやって言葉にしてもらえるのは、すごく嬉しいけれど、何の前触れもなくいきなりそんなことを言われて、和衣は少し戸惑った。

「ずっと思ってたんだけどさ」
「ぅん?」
「和衣に告白してOKしてもらったとき、すっごい嬉しくて幸せで、これ以上の幸せとかないな、て思ってたけど、……何だろ、もっと好きになった、ていうか…」

 言っていて自分でも恥ずかしくなったのか、祐介は和衣から目を逸らした。

「祐介…、それホント?」
「え? いや、うん、ホントだけど?」

 照れて目を合わせてくれない祐介に、和衣は「ふふ」と笑いを漏らした。

「え、何?」

 何笑ってんの? と訝しむ祐介が、ようやく和衣のほうを見た。
 和衣ははにかむように笑っている。

「俺も祐介と同じこと考えてた」
「え?」
「どんどん祐介のこと、好きになってくよ?」

 和衣にまっすぐに見つめられ、祐介はもう目を逸らすことは出来なかった。
 だって、それはこっちだって同じこと。
 想いが通じ合う幸せと、そして今また同じ気持ちでいられる幸せ。

 こんな気持ち、知らなかったよ。

「…好き」



*****

 祐介の部屋を出た亮は、その前でバッタリと和衣と出くわした。
 まさか亮が本気でトイレに行っていたと思っていたわけではあるまい、けれど部屋から出て来た亮に、ひどく驚いた表情をした。

「何で祐介の部屋にいたのー? とか言うなよ?」
「うぅ…」

 もちろんそう問い詰める気満々だった和衣は、亮に先手を打たれて、言葉をなくす。
 だいたい和衣には、亮と睦月が一緒にいたところを、思い切り邪魔したという前科があるのだ。

「知らない!」

 睦月にもそうだけれど、亮にもやはり口では勝てない。
 和衣は悔しそうに頬を膨らませて、亮を追い払った。

 亮は苦笑いしながら、自分の部屋へと向かう。
 ポケットの中、携帯電話。
 睦月からのメールを思い出せば、また口元がにやける。

"任務完了! 亮、早く帰って来てー(ーー゛)"

 疲れ切った様子のメールが、悪いとは思うが笑える。
 理由はどうあれ、睦月が会いたがってくれているのだ。早く戻ろう。

(俺も、アイツらにあてられてんのかぁ…)

 思わずこみ上げてきた、改めて思う、睦月を好きだという気持ち。
 素直に伝えたら、どんな顔、するかな。




*END*
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カテゴリー:Baby Baby Baby Love
テーマ:自作BL小説  ジャンル:小説・文学

好奇心は猫をも殺す (前編)


「お邪魔しまーす…」

 授業が終わって、約束どおり智紀の家にやって来れば、「どうぞー、兄ちゃんしかいないし、勝手に上がっていいよー」なんて、ちょうど出掛けるところだった智紀の弟に言われ、慶太は静まり返った家の中、そっと智紀の部屋に向かった。

「相川さーん、入りますよー?」

 普段なら、出迎えるとまではいかなくとも、慶太がやって来れば顔くらい見せてくれるのに、今日は部屋のドアをノックしても返事がない。
 これで、玄関で弟クンに会わなかったら、どうなることだったかと、慶太は変なところで胸を撫で下ろす。

「入りますよー?」

 もう1度ノックをして、結局返事はなかったけれど、智紀の部屋以外にいる場所もないから、慶太はそっとドアを開けた。

「相川さん?」

 覗いた部屋の中も静かで、少しだけ開けたドアの隙間から様子を窺えば、部屋の隅にある大きめのソファの上に丸くなっている、愛しい人の姿。

「…寝てるの?」

 ドアの外から声を掛けても返事はなくて、慶太は足音を忍ばせながら室内に入れば、クッションを2つも枕代わりにした智紀が寝息を立てていた。

「何だ…」

 よほどぐっすりと眠っているのか、慶太が覗き込んでもまったく起きる気配を見せない。

「相川さーん」

 耳元で名前を囁いても微動だにしない智紀に、慶太のいたずら心が顔を出す。
 そういえば前もこんな状況があったけれど、全然起きなかったっけ。
 寝起きの悪い智紀を思い出し、慶太のいたずらは徐々にエスカレートしていく。ソファの足元にペタンと座り、柔らかい髪を撫でたり、頬に触れたり。

「ん…」

 慶太の指先が襟の隙間から覗く首筋をなぞると、ピクッと智紀の体が動いて、反射的に慶太は手を引っ込めたが、智紀からの反応はそれだけだった。

「ふふ」

 慶太は再び手を伸ばし、今度は静かな寝息を漏らす唇に触れる。人差し指の先で下唇を辿ると、抑えきれない欲求が湧いてくる。

(キス、したい…)

 唇から手を離すと、誰に見られているわけでもないのに、キョロキョロと辺りを見回してから、慶太はそっと智紀の唇に自分の唇を重ねた。

「ふ…」

 すぐにその唇は離されたけれど、何だかひどく悪いことをしているような気がして、心臓が痛いくらいドクドクと打ち付けている。

(まだ、起きてない…な)

 胸の鼓動を沈めようと大きく深呼吸してから、慶太は大胆にももう1度キスをする。そして薄く開いた唇の間から、舌を差し入れた。

「…、」

 さすがにこれ以上進めたら智紀が起きてしまうと、慶太が体を離そうとした瞬間、慶太の背中と後頭部に大きな手が回されて押さえ付けられた。
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カテゴリー:智紀×慶太
テーマ:自作BL小説  ジャンル:小説・文学

好奇心は猫をも殺す (後編)


「んっ…んん…」

 さらに深く唇を重ねられ、息が詰まるほどのキス。
 何が何だか分からない。
 けれどキスはどんどん深くなっていって、忍び込ませた舌を絡め取られて――――気持ちはいいけれど。

「あ…はぁ…」

 やっと唇を離され目を開けると、そこにはパッチリと目を開けた恋人の顔が。

「あ。相川さん」
「『あ』じゃねぇよ。何やってんだ、お前」

 体を起こそうとする慶太を抱き締めたまま、智紀は低い声で問う。
 智紀の上に乗ったままのこの状態は、押し倒しているみたいで、何となく居心地が悪い…と、慶太は目を伏せる。

「慶太、」
「…お邪魔しまーす」
「そうじゃねぇだろ。何してんだ、人が寝てるときに」

 何、て。
 そんなの言うまでもなく、 

「キス」
「……。何でしたの?」
「したかったから?」

 子どもに言って聞かすような智紀の言葉に、けれど慶太は素直に答えた。
 いつもは純情キャラのくせに(慶太自身、純情ぶっているつもりなんかサラサラない。どちらかと言えば男らしく堂々とありたいと思っているくらいだけれど)、どうしてこんな大胆なことを。
 しかも全然悪びれたふうもないし。

「だって相川さん、寝てるから。何か寝顔見てたら…」
「欲情しちゃった?」
「はっ? ななななな何言ってるんすかっ」

 ニヤリと笑った智紀に、慶太は途端に慌て出す。
 だって本当に恥ずかしい。
 よく考えてみれば、恋人とはいえ、寝ている相手を見てキスしたくなるだなんて。しかもその欲求を抑えることもなくしてしまった。

 けれど、ものすごい勢いで慌てる慶太を見て、智紀は笑いたくて仕方がない。本当にこれだから、ついからかいたくなってしまうのだ。

「て、ていうか、いつ起きたんですか!? なんっ…寝たふりとか!」

 恥ずかしさからか、逆ギレ状態で声を上げる慶太に、智紀は苦笑する。

「慶太が濃厚なキスしてきた辺りからかな?」
「の…濃厚…。大体相川さんこそ、寝起きのクセにあんなっ…」
「あんな、何?」
「ッ…もう、うるさい! 離して!」

 必死にもがく慶太だが、力ではどう考えても智紀には及ばない。しっかりと智紀に抱き締められたまま、再び唇を重ねられて。

「んっ…やぁ…」

 背中に回された手が、シャツの裾から忍び込んでくる。
 このままでは、完全に智紀のペースだ。
 いや、別にしたくないわけではないけれど、でもここは智紀の家で、あ、でも家族の人は出かけてて……いやいや、そういう問題じゃ…。

「相川さん!」

 何とかキスを中断させた慶太は、恨めしそうな視線で智紀を睨んだ。

「何だよ、嫌なのか?」

 先ほどまでのからかうような表情ではない、真っ直ぐな視線。慶太はそのまま動けなくなった。

「嫌なのかよ、慶太」
「…ずるい、相川さん」

 そんな顔で。そんな目で見つめながら、そんなこと言われて、慶太が断れるはずがないのに。

「何とでも言え。先に仕掛けてきたのはお前なんだからな」

 そう言って、慶太の文句の続きをキスで封じ込める。
 それほど大きくもないソファの上。みだらに動く2つのシルエットが重なり、リビングの床に映る。


 そして2人が極みに達する瞬間、慶太の脳裏にある言葉がよぎった。



Curiosity killed the cat.  ―好奇心は猫をも殺す―
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カテゴリー:智紀×慶太
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息子に質問攻めバトン


 かわいいお話いっぱいの「BL風味のさくらんぼ」の柚子季さんとこから強奪してきました「息子に質問攻めバトン」です。
 息子て言っても、出てくる子たちのジュニアくんじゃないですからね。なぁーんつって、いきなり下ネタから攻めてみました。誰もそんなこと考えないっつーの!

 てな感じで、一人突っ込みも済んだんで、どうぞー!


Q1 名前、年齢、職業は?

悠也「橘悠也、24歳独身です」
真琴「悠ちゃん、職業、職業!」
悠也「うっせーな、フリーターだよ」
慶太「…何か今日はやさぐれてますね。えと、久住慶太、20歳、大学生です」
真琴「藤崎真琴でーす。20歳で、大学2年生でーす。ねぇ悠ちゃん、ご機嫌直った?」
悠也「機嫌は悪くない。面倒くさいだけ」
真琴「そうなんだー、よかったぁ」
慶太「(いや、それはそれで大問題なんじゃ…?)」


Q2 相手の第1印象は?

悠也「相手、て? 何の相手?」
真琴「恋人のことみたい。拓海の第一印象は?」
悠也「……、何だったっけ? 忘れちゃった」
真琴「えー…」
慶太「★カップリングなりきり100の質問で、『超いい人』て答えてましたよ?」
悠也「あぁ! そうそう、最初は酔っ払って潰れたとこ、介抱してくれたんだー、て思ってて、超いい人! て思ってた! でも実際は、酔った勢いでヤッちゃってたんだけどねー、あはは」
真琴「それって笑い事…?」

慶太「真琴は?」
真琴「俺はねぇ、はーちゃん、ちょ~~~~カッコイイッッ!!! て思った」
悠也「アイツ、モデルだもんな。顔でメシ食ってんだから、当たり前じゃん」
真琴「もぉ~、何でそんな言い方すんのぉ! 何か今日の悠ちゃん、意地悪…」
悠也「だって眠いんだもん」
真琴「理由になってなぁ~いっ!」

悠也「はいはい。ちゃっちゃと行こうぜ。お前は? えっと、慶太? だっけ?」
真琴「(悠ちゃんにあしらわれた…)…で、慶太は? 智紀さんの第一印象て何?」
慶太「(もしかして悠也さん、俺の名前、まだうろ覚え…?)えっと、最初は住んでる世界が違うなー、て思ってた。一生かかわんないと思ってました」


Q3 好きになったきっかけは?

真琴「悠ちゃん、ちゃんと覚えてる?」
悠也「えぇ? つーか、何で俺が最初なの? お前から行けよ」
真琴「…いいけど、何で?」
悠也「お前らが答えてる間に、考えてるから」
慶太「考えるって…、きっかけを言うだけですよ?」
悠也「しょうがねぇじゃん、忘れちゃってんだから!」

真琴「じゃあ、俺から言うけどー……はっきり言って一目惚れだから! 初めて見た瞬間に、超カッコイイ! 大好き! て思った。慶太はー?」
慶太「えーっと…まぁ、いろいろなことがあって…」
真琴「いろいろ、何?」
慶太「何か…離せば長くなる系?」
悠也「何だそれ」
慶太「いろいろあったんですよ!」

真琴「じゃ、最後、悠ちゃんね」
悠也「えー? じゃあ俺も、いろいろあった系で」
真琴「何それー。2人ともしっかりしてよぉ」
悠也「いいじゃん、きっかけなんて。今好きだってことが大事なんだろ! 過去のことなんかどうだっていいんだよ!」
慶太「何かちょっとカッコイイこと言ったみたいな雰囲気ですね」
悠也「雰囲気かよ! いいこと言っただろ!」
真琴「そうかなぁ…?」


Q4 相手のからだのどこが好き?

悠也「腹筋」
慶太「超ピンポイント突きますね」
悠也「筋肉好きなの、俺」
真琴「拓海って、何か鍛えてたっけ?」
悠也「知らん。でも鍛えてなくてあの腹筋なら許せない~」
慶太「いや…そのくらいは許してあげてくださいよ…」

真琴「慶太は?」
慶太「えー…背中、かな?」
悠也「背中ぁ? 何で? 哀愁漂ってる系?」
慶太「違いますよ!」

悠也「じゃあお前は? やっぱ顔?」
真琴「顔もいいけどー、でもやっぱ…」
慶太「どこ?」
真琴「ここで言うの恥ずかし~!」
慶太「…え、今さらお前が恥ずかしがるようなことなんて、あんの?」
悠也「×××とかなんだぜ、きっと」
真琴「悠ちゃん!」


Q5 相手が言った言葉で思い出に残っているのは

悠也「もー、思い出とかさぁ、昔のこと聞くなって! 覚えてねぇから!」
真琴「ちょっとは覚えてよーよ…」
慶太「いいこといっぱい言われて、覚え切れないとか?」
悠也「お! それいいな、それで行こう!」
真琴「行こうとかじゃなくてー! もぉー!」
慶太「じゃあ、無難に『好き』とか?」
悠也「じゃ、それで」
慶太「はい」
真琴「えー…何この2人…(意外に気が合うの…?)」


Q6 相手としてみたいこと

悠也「それって、エッチな方面で答えるの?」
真琴「普通でいいんじゃない? てか悠ちゃんて、結構すぐにそっち方面で答えたがるよね?」
悠也「そういうキャラを目指そうと思って」
真琴「何で!」
慶太「とりあえず、普通な感じで答えませんか?」
悠也「じゃ、とりあえず普通な感じで答えて、その次にエッチな方面で答える?」
慶太「えー…」

真琴「俺ねぇ、もっとはーちゃんとお出掛けしたい」
慶太「よく出掛けてね?」
真琴「出掛けるけど、はーちゃん、すぐ女の子にキャーキャー言われて、全然イチャイチャできないんだもん」
慶太「外なんだから、イチャイチャしようとか考えるなよ」

真琴「慶太は? 智紀さんと何したいの?」
慶太「何だろ…。そんな、これぞ! みたいのはないけど…」
真琴「一緒に合コン行くとか?」
慶太「ヤダよ!」
悠也「ギャハハハハー! 恋人と一緒に合コンて……どんなプレイだよ!」

慶太「じゃあ……悠也さんは?」
悠也「えー…カーセックス?」
慶太「ぶはっ」
真琴「悠ちゃん! いきなりエッチな方面で答えてる!」
悠也「いいじゃん。つーかさ、お前、俺のこと、下の名前で呼ぶんだ?」
慶太「え…ダ、ダメですか?」
悠也「別にいいけど。だってお前、彼氏のこと、『相川さん』とか言ってなかった?」
慶太「あ、」


Q7 相手にやめてもらいたいと思っていること

悠也「何だろーなぁ。あ、アイツ、手とか繋ぎたがるんだよなー。それをやめてもらいたい」
真琴「えー、いいじゃん、何で!?」
悠也「バッカ! いい年して、外で手なんか繋げるかよ」
真琴「俺も手とか繋ぎたい~! でもはーちゃんが外じゃダメて言う…。それをやめてもらいたい」
慶太「俺は……合コン行くのとか、バレないようにしてほしい」
悠也「バレなきゃ行ってもいいんだ?」
慶太「何かしょうがないかな、て」
真琴「慶太、大人だなぁー…」


Q8 もし、相手がぬいぐるみになってしまったら?

悠也「キモ!」
慶太「即答っすね」
真琴「いいじゃん、はーちゃんのぬいぐるみ。超かわいいと思う~」
悠也「売り出せば?」
真琴「何で! ヤダよ! だってさ、俺の恋人なのに、みんながはーちゃんのぬいぐるみを持つなんて、そんなの絶対許せない~。慶太だってそう思うよね!?」
慶太「えー…でも、ぬいぐるみになるとか……そんなの後100年生きたってあり得ないし。そういうの、考えらんない」
真琴「慶太の現実主義ー」


Q9 浮気の現場を目撃しました。

悠也「はい」
真琴「え、何返事してんの?」
悠也「え? 質問、これで終わり? 何かまだ続くのかと思ったから」
真琴「てか、浮気とか~~~!!! 泣いちゃう…」
悠也「泣くなよ、浮気くらいで」
慶太「じゃあ悠也さんは、どうするんですか?」
悠也「刺し違えます」
慶太「(こわっ!)」
真琴「(悠ちゃんの場合、冗談に聞こえない…)えっと…慶太は?」
慶太「まぁしょうがないかな、て思う。ヤダけど。相手が女の子だったら勝ち目ないし」
真琴「そんなことないよ! 慶太、女の子より魅力的だよ!」


Q10 相手に一言。

悠也「特になし」
真琴「そこは言おうよ!」
悠也「眠い」
真琴「相手にだってば!」
悠也「えーっと…、眠いから、今日は拓海んち行っても、エッチしないで寝るね」
慶太「そんな報告、この場でしないでください」
真琴「はーちゃん、ずっと一緒にいようね! はい、慶太も!」
慶太「え? じゃあ…出来るだけ長く一緒にいてください」
真琴「ずっとって言いなよ! そのくらい夢見なよ!」
悠也「あーねむ…」





 てことで、柚子季さんとこから強奪してきたバトンなんですけどね。メインカプでいかが? てことだったんで、調子に乗って、この3人で書いてみました。
 メインカプも、君といる~のメンバーも、恋人カプの組み合わせも好きだけど、友情カプも好きなんですよねー。
 悠ちゃん・相川さん・はーちゃんの、全然繋がりないトリオで、気まずいトークもやってみたい。
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カテゴリー:質問+小ネタ
テーマ:自作BL小説  ジャンル:小説・文学

落下星 (1)


 今回のお話は、「君といる十二か月」「恋するカレンダー12題」の番外編となります。本編を読んでいなくても多分通じると思いますが、カップリング等のネタバレにはなりますので、ご注意ください。

 今度はむっちゃん番外編です~。時期はセカンドシーズン6月くらい。カズちゃん編より、ちょっと前になります。



「そういえばさー、最近カズ、超張り切ってるよね」

 睦月が和衣とバイトに出掛けた部屋に上がり込んで来た翔真は、勝手に亮のベッドでマンガ本を読んでいたかと思ったら、いきなりそんなことを言い出した。
 翔真に居場所(とマンガ本)を取られた亮は、部屋の真ん中で、おもしろくもない番組ばかり映すテレビを、チャンネルを変えながら見ていたのだが。

「…何が?」

 意味が分からなくて、眉を顰めながら亮が聞き返せば、翔真はマンガを読み終えたのか、それを枕元に置いて、亮のほうを向き直った。

「むっちゃんのことは、俺が守んなきゃ! みたいな感じじゃん。バイト行くときとかさー」
「アイツ、思い込んだら一直線だからなー」
「亮、熱意が負けてんじゃね?」
「はぁっ?」

 翔真の言葉に、亮はイラッと声を荒げたが、言った本人は涼しい顔をしている。
 それが、あながち間違いでもないから。

 今でも時おり睦月を苦しめる、忌わしい過去。
 去年の秋、バイト帰りに睦月が過呼吸で倒れてしまって以来、それを目の当たりにした和衣は、祐介以上の過保護さでそばに付いている。
 もちろん恋人である亮のことは尊重しているので、それを差し置いて出しゃばるまねはしないが、翔真に言われるまでもなく、和衣の熱意が半端ないことは、亮だって気付いていた。

「ただでさえ亮、祐介には負け気味なのにさぁ」
「うっせ」
「だーって、相変わらずむっちゃんのヒーローは、祐介なんだろ?」
「うっせぇ、つーの!」

 亮は喚くが、反論が出来ない。
 それも、決して間違いではないから。

 真大に誘われて亮がサッカーを見に行った日の夜、過去の辛い出来事を思い出す夢を見た睦月が助けを求めたのは、泣きながら呼んだ名前は、亮ではなく――――祐介だった。
 過去のあの日、実際に睦月を助けたのは祐介だし、過保護と言われようと、ずっと睦月を支え、ここまで立ち直らせたのも祐介だから、今でも睦月の中で、祐介が大きな存在を占めていても不思議はない。

 亮はそれを仕方ないと思いつつ、歯がゆくも思う。
 過去に共有した時間の長さや重さでは敵わないけれど、今、誰よりもそばにいて、睦月を支えているのは自分だと思いたいのに、けれど敵わない相手。

「そりゃ、祐介のほうが誠実だし、頼りがいあるからなー」
「うぅ…」

 確かに誠実でしっかり者の祐介は、かといって真面目一辺倒でもなくて、中身も外見もトータルでいい男だと思う。そりゃ男の和衣だって惚れるだろうし、いつまで経っても睦月が頼りにするのも無理もない。

 もしかして、同じ土俵に乗ろうとすること自体、大きな間違い?
 ひょっとして、とんでもない相手をライバル視しようとしてる?

「勝ち目ねぇ…」

 テレビのリモコンを手放して、亮はローテーブルに突っ伏す。
 顔よし、性格よし、それにプラスして、睦月からの信頼度もばっちり獲得している祐介に勝とうなんて、100万光年ぐらい早かったかもしれない。
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カテゴリー:Baby Baby Baby Love
テーマ:自作BL小説  ジャンル:小説・文学

落下星 (2)


「でも、むっちゃんてさぁ、ホント愛されてるよねぇ。何だかんだ言っても、祐介は未だにむっちゃんに甘いし、カズもむっちゃん大好きだし。お前の出る幕ねぇじゃん」
「うっせぇよ!」

 けれどそう言われると、祐介のみならず、睦月の様子が違うことを敏感に感じ取って、懸命に睦月を守ろうとする和衣にも、本気で勝てない気がしてくる。

「うぅ…カズには負けたくないー…」
「お前、そこはがんばれよ。祐介はともかく、カズとはスタートライン一緒なんだから」

 翔真の言うとおり、睦月とは去年の春、ファストフード店で衝撃的な出会いをし、大学の寮で再会を果たしたときも、亮と和衣、そして翔真は一緒にいたのだ。
 それなのに、恋人である自分が、和衣より遅れを取るわけにはいかない。

「ショウ~、俺、どうすればいいー!?」
「ウゼェー!」

 わーん! と、ベッドの翔真に泣き付けば、すごく面倒臭そうに足蹴にされる。
 けれど、本当に分からないのだ。
 亮は年齢のわりに恋愛経験は豊富だが、睦月のようなタイプとは出会ったことがなくて、どうすれば睦月の気持ちをもっと満足させてあげられるのか、どうやったらもっと睦月の心の支えになってあげられるのか、分からない。

 祐介の過保護の賜物か、睦月は自分の欲求にとても素直で、仰天するほどの世間知らずだけれど、かといって、「あれが欲しい」とか「これ買って」とか、そんな分かりやすいわがままを言うわけでもない。
 単純かと思えば、すごく複雑。

「別にいいじゃん、どうもしなくて。むっちゃんもお前のことが好きなんだし、お前だってむっちゃんのこと好きなんだから」
「そうだけど! それは分かってるけど! そうじゃなくてー!」

 子どものようにジタバタし出す亮に、自分から話を振っておいて、翔真はちょっと面倒くさくなる。
 和衣も相当の恋する乙女だが、もしかしたら亮もそれに匹敵するかもしれない。

(コイツって、もっと器用なヤツじゃなかったっけ…?)

 殊に恋愛に関しては。
 以前の亮だったらこんなこと、悩みもしなかっただろうし、それ以前に思いも付かなかったに違いない。
 相思相愛でも、いや、だからこそ感じる不安。
 今まで亮が不誠実だったとは言わないが、恐らく亮がここまで一途に想った相手は、睦月が初めてだろう。これまで亮と付き合ってきた女の子たちには悪いが。

「俺が思うにさー、むっちゃんの中で祐介って別枠なんじゃねぇの? 何つーか、家族的な? だから恋人がいたって、祐介に頼ったり、助けてもらったりするのに抵抗がないっつーか。だって家族なら、どんなときだって頼りにすんじゃん」

 恋人である亮よりも祐介を頼りにしたり、祐介に恋人がいても自分のほうを向かせようとしたり、何か他意があるわけではなくて、単純にそれでいいと思っている。
 ひどく子ども染みた独占欲だけれど、長年かけて形成された睦月の性格が、亮と出会ったからと言って、そう簡単に変わるとも思えない。

「それを変えるのが、愛の力だろ!」
「……、何か恥ずかしいヤツだな、お前」

 コブシを握って力説する亮に、翔真は口元を引き攣らせた。
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テーマ:自作BL小説  ジャンル:小説・文学

落下星 (3)


 いつの間にやら長期予報が修正されたのか、空梅雨だと言われていた6月は、結局例年どおり、連日、雨の降り続く天気へと変わっていた。
 鬱陶しい雨に、睦月だけでなく亮の気も滅入ってくる。

 愛の力で――――とか、翔真にはみごとな心意気を語ったが、実際のところ、何をどうすればいいかなんて、亮にも分かっていなかった。
 自惚れでなく、睦月が亮のことを好きなのは分かるが、それと同時に、睦月が亮以上に祐介を頼りにしているのも分かる。
 それでも前に比べて良くなったのは、代わりに亮を頼りにするようになったからではなくて、単にヤキモチ妬きの和衣がうるさいからに他ならない。

(それって結局は、カズにも負けてるってこと…?)

 自分で辿り着いた答えに、亮はベコベコに凹んだ。
 翔真の言葉を信じれば、睦月の中で祐介は家族的ポジションであり、恋人と自分の支えになってくれる人はイコールで結ばれていないからだということだが、だとしたら和衣に負ける理由などないはずなのに。

 …やっぱり熱意の問題?
 翔真の言ったことを気にしているわけではないが、つい余計なことを考えては不安に陥ってしまうという悪循環を、ここ最近の亮はずっと繰り返している。
 それに加えて、相変わらず睦月のご飯係だとからかわれても、うっかり反論も忘れて落ち込む始末だし。

(そりゃご飯係なら、こんだけ無防備に寝れるわなー…)

 睦月の寝顔を見て、亮は溜め息をついた。
 亮のベッドの上。
 睦月は、何の危機感もない表情で、ぐっすり眠っている。

 風呂にも入って、パジャマ代わりのスウェットに着替えた睦月は、眠い眠いと言いながら、亮がベッドにいるにもかかわらず、マンガ本を持って同じベッドに上がって来たのだ。
 眠いのにマンガ読むの? 自分のベッドで寝ないの? とは聞けず、ベッドの半分以上を占領しながらマンガを読み出す睦月を甘んじて受け入れれば、ものの数分もしないうちに眠ってしまった。

 かわいい寝顔が見れるのは嬉しいが、その反面、亮にとってはある意味、拷問? 修行? とにかくこの状況は、精神の鍛錬と言っても過言ではない。
 だいたい亮は、睦月と出会うまでに付き合ってきた彼女と、こんなにのん気に1つのベッドで寝たことなんか、1度もないのだ。加えて年相応の男子らしく、好きな子を前に欲情しないわけもないのに。

 なのに睦月の場合、あまりに無防備というか、警戒心がなさすぎて、逆に手を出せない。
 ――――そう。
 今年の初めに、ようやく互いの想いを通じ合わせてから既に半年。今までの亮では考えられないことだが、実はまだ1度も睦月に手を出していないのだ。

 男同士だからという単純な理由ではなくて、やはり睦月は性的な接触が苦手なのではないだろうかと思うから。
 睦月の女性経験は知らないけれど、男とは辛い経験がある。とすれば、男である亮に触れられるのは、そのときのことを思い出させるかもしれない。
 自分との行為が辛い過去を思い出させるなら、無理には進めたくはない。

 けれどそんな想いとは裏腹に、体と精神は素直なもので、欲求不満が高じて思わず事に及んでしまわないか、亮は自分を戒めるのが大変なのだ。
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落下星 (4)


 こんなこと相談する相手なんて、結局のところ翔真しかいないから、ぼやき半分に言ってみれば、

『いくらむっちゃんだって、何するか分かんない、てことはないでしょー。そんな気にすることねぇって』

 と、無責任な返事をされてしまった。
 分からないことはないかもしれないが、知っているのと自分がするのではわけが違うから、わざわざ相談したというのに。
『でも過去は過去じゃん? お前、むっちゃんの恋人よ? そんな拒絶とかねぇって』
『でも睦月があんだけ無防備なのは、俺が何もしないと思ってるからじゃね? なのにそんな素振りとか見せたらさぁ、怖がって拒絶するかもじゃん。俺、睦月に拒否られたら…』
『勃つモンも勃たなくなるわなー』
『ワーワーワー!!! ショウ、やめてー!!』

 20歳でインポになった自分を想像して、翔真の前でさんざん喚き散らした亮だったが、勃つ勃たないは抜きにして、でも睦月のこの態度、やはりそういうことなのだと思う。
 恋人だから体の関係にまで進まなければならない、ということはないけれど、それは互いの意見が一致してこそのこと。性生活の不一致が原因で……なんて恐ろしい言葉が、亮の頭の中を駆け抜ける。

『大げさだっつーの。愛の力で変えんだろ? 当たって砕けちゃえ』
『砕けられるかー!』
『けど、何もしなきゃ、何も変われなくね?』
『……』

 確かに翔真の言い分はもっともだ。
 亮の欲求不満はともかく、何かを変えるには、きっかけが必要で。
 もしかしたら、2人にとって、今がそのときなのかもしれない。

(ねぇ睦月、分かってんの? …うりゃ)

 まったく子どもみたいな寝顔で気持ちよさそうにしている睦月の頬をむに、とつまめば、睦月は「んぁっ…」と声を上げて、その手を払うような仕草をする。

(……寝てても拒絶ですかい!)

 ベッドインして拒絶されるのも傷付くが、これはこれで、ものすごい凹むんですが…。

 睦月の場合、単に安眠を妨害されるのが嫌だったからで、別に亮の手と分かって払ったわけではないだろうが、やはりショックは受ける。
 亮が気にしすぎているだけなのかもしれないが、このところ、睦月のささいな言動や行動に、翻弄されっ放しなのだ。

『でもさぁ、むっちゃんて結構、複雑な子だと思うよ、俺』

 喚く亮を散々迷惑そうにしていた翔真が、最後にそう漏らした。

『感情がすぐ顔に出るし、無理してんの隠そうとしてもバレバレで、そういうの見てると分かりやすいなぁ、て思うけど、実はいろいろ考えてるし。それに、感性もちょっと独特だよね』
『まぁ…』

 確かに睦月のちょっと浮世離れした思考に、戸惑わされることならある。
 別にそれで、睦月の考えていることが分からない、なんてことはない(はずだ)けれど。

「むーっちゃん」

 ねぇ今、どんなこと考えてるの?
 知りたいよ。
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落下星 (5)


「ぅ…?」

 何か眠いなー、て思いながらマンガを読んでいたはずなのに、ふと気付いたら、部屋の中が真っ暗になっていて、どうやら本を読んでいるうち、睦月はいつの間にか眠ってしまっていたらしい。
 まだ夜? もっと寝てても大丈夫? と時間を確認しようと、枕元に置いてあるはずの携帯電話を探すが、どうしても見つからない。
 何かもう面倒くさいし、もし学校に間に合いそうもなかったら、きっと誰かが起こしてくれるはずだから、やっぱりもう1回寝よう…と睦月が携帯電話探しを諦め掛けたときだった。

「…何ゴソゴソしてんの…?」
「うわぁっ!!」

 思いも寄らないところから亮の声がして、睦月はとんでもない声を上げて、ビクンと身を竦ませた。
 寝惚けていたせいもあって、全然気付かなかったが、隣のベッドで寝ているはずの亮が、同じベッドの中、睦月のすぐ横にいたのだ。

「何つー声……睦月…?」
「え、亮?」

 心臓をバクバク言わせながら、睦月が隣を見やれば、確かにそこには亮がいて、ひどく眠そうに目をこすっていた。
 狭いベッドの上、睦月があまりにモゾモゾ動くものだから、どうやら目を覚ましたらしい。

「何で亮、ここに…」
「ここ、俺のベッドだけど? 今何時…?」
「分かんない…ケータイ…」

 そういえば時間を確認しようとしていたのだ。
 携帯電話が見つからないと訴えれば、亮は仕方なく自分の携帯電話を開いて、まだ2時半だと教えてくれた。

「亮ー…、俺のケータイは?」
「分かんね。自分のベッドか、机んとこじゃね?」

 ついでに聞いたら、そんな返事しか返って来なくて、睦月はとりあえず携帯電話の行方を確かめるのは諦めた。
 この部屋のどこかにあるのは分かっているのだ。
 朝になってから探そう。

「うーん…、俺、寝ちゃってたの? ここで?」
「マンガ読み始めたら、すぐ寝たじゃん」

 もう亮のベッドに上がった辺りから記憶があやふやなのか、睦月は、そうだっけ? とか言いながら、コシコシと何度も目をこする。
 やっぱりまだ眠い。

「ふぁ…やっぱ眠い…。寝る」
「え、睦月、ここで寝るの?」

 いつもなら、狭いだの暑いだの言って、同じベッドでなんか寝たがらないくせに。
 だから亮が思わず聞き返せば、「…ダメなの?」と、睦月に睨まれてしまった。

「ダメじゃないけど…」

 …ダメなような気もする。

 先ほどまでは、同じベッドとは言え、亮は狭いながらも微妙な距離感を保っていたものの、どういうわけか、1度目を覚ました睦月は、ピットリと亮にくっ付いて眠りに落ちようとしているのだ。
 とっても嬉しいことだけれど、いろんな意味で、これはヤバい。
 だってこのところ亮は、ただでさえ欲求不満気味なのに。
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落下星 (6)


「あのね、睦月」
「何? ダメなの?」
「いや、そうじゃないけど…」
「ならいいじゃん」

 弁解の余地すらない。
 睦月は亮にキュッと抱き付いたまま、目を閉じてしまった。どうやら本当にこのまま寝てしまうらしい。
 それこそいつもだったら、『なら、もういいよ!』とか言って、亮が止めるのも聞かず、拗ねて自分のベッドに戻りかねないのに。

「睦月?」
「…んだよ」

 何が睦月の神経に触ったのか、少し苛立ちの混じった低い声が返ってくる。
 けれど、亮のシャツをしっかりと掴んだ手は、そのままで。
 パチリと開けた目は、まっすぐに亮を見ている。

「いいじゃん、亮、俺のこと好きって言ったじゃん」
「え、言ったけど、え? え?」
「なら、一緒に寝るくらいいいじゃん! 何だよ、もー」

 癇癪を起こした子どものよう、睦月が亮の腕の中で暴れ出す。

「イタタ、分かった、分かったから。ちょっ暴れんなって…!」
「うっさい、もぉバカッ…」

 すっかり感情的になっている睦月を何とか落ち着かせようと抱き寄せれば、それすらも気に食わないのか、その腕を振り払ってジタバタしながらぐずり出して。

「もー亮のバカ、バカー、うーん…」
「分かったから、一緒に寝よ? ね?」
「……、寝る…。寝よ?」

 亮が一緒に寝ると言えば、それで満足したのか、睦月はすぐに大人しくなって、「寝よぉ…」とか、むにゃむにゃ言っている。

(寝惚けてるだけか…?)

 そうは言っても、まだ夜中の2時半。
 目を覚ましただけで、頭のほうは完全には覚醒していなかったのかもしれない。
 眠くてまたぐずっても困るので、このまま寝かせてしまおう、と睦月をあやしながら亮も目を閉じようとした、そのときだった。

「亮はぁ…俺の気持ちなんか、分かってなぁい…」
「えっ?」

 思い掛けない睦月の言葉に、亮はハッと目を開けてそちらを見遣ったが、今度こそ完全に寝てしまったのか、睦月は寝息を立てていた。
 それでもと思って、亮は様子を窺うが、やはり寝ている。

(何、今の…)

 バクバクと心臓がうるさく鳴り出す。
 だって。
 睦月は最後に何て言った?

 気持ちを分かってない?
 睦月の?

 亮は冷静になろうと、深呼吸を1つする。
 今の睦月のセリフ。
 ただ寝惚けていただけ? いや、寝惚けていたからこその本心?

 なら、睦月は一体何を考え、思っているというのか。
 自分のベッドはすぐそこにあるというのに、何を思って亮のベッドに上がってきた?

(ホント、睦月の言うとおりだよ。お前の気持ちが、全然分かんねぇ…)

 亮はそのまま、眠れぬ夜を過ごした。
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ふしだらな男


 文章が書けるうえに、絵も描けるってすてきですね。
 というわけで、麗しいイラストとすてきな小説でおなじみの、「ひまつぶし」伽羅さまのすてき企画に参加しました。
 ていうか、これから参加表明しに行くんですけどね。短編てことなのに、全然短くない辺りが、許してもらえるのか分かりません。
 テーマは『中秋の名月』で、お題は『月齢』です。



 居待月。

 座って待つ月の出。
 立って待つには、長すぎるから。


 待って、待って、待ち焦がれた先に出でた月は、誰のもの?





*****

「アーキーちゃん、あーそーぼ」

 まるで小学生が家に遊びに来たような千早(チハヤ)の声に、面倒臭そうに玄関に向かっていた明歩(アキホ)は、ギョッとしてドアを開けた。

「…千早」
「来ちゃった。ダメ?」
「ダメじゃないよ。入って」

 明歩が拒否するなど微塵も思っていないであろう千早の笑顔に、明歩は肩を竦めつつも、千早を中に通す。

「久し振りだよね、千早がウチ来るの」
「だってアキちゃん、最近ずっと忙しかったじゃん」

 適当に荷物を放って、千早は勝手に明歩のベッドに飛び乗った。

「その間、千早はお家で大人しくしてたんだ?」
「んー……まぁ、晴希のとこ行って癒されたり、啓介んとこ行って甘やかされたり?」
「ふーん。波乱万丈だねぇ」
「もう慣れたから」

 勝手に飛び乗ったベッドで、勝手に明歩のブランケットを抱き込んで丸くなる千早。
 その仕草の1つ1つが殺人的にかわいい。そりゃ、晴希も啓介も、すんなり千早を家に上げるわけだし、それは明歩とて例外ではない。

『佳史(ヨシフミ)が女と浮気した』

 恋人である佳史の不貞のたび、そう言っては友人のところへ転がり込む千早。
 最初こそ戸惑った明歩だが、『相手が浮気をしたら、俺もする!』と公言する千早を拒む術はなかった。

(千早が前にウチに来たのって……2か月くらい前だっけ?)

 その間に晴希と啓介のところに行っていたわけだから、佳史の浮気は少なくとも2度。

(月1のペースで浮気ですか)

 それでも佳史は千早に愛していると嘯くし、千早も好きだって言う。

「…変なの」
「ん? どした、アキ」

 ポツリと洩らした明歩の言葉に反応して、千早が枕に顔を埋めたまま上目遣いに明歩を見た。

「何でもないよ。で、今日はどうする?」

 ベッドの縁に腰掛けた明歩は、長くなった千早の後ろ髪に指を絡ませ、掻き上げて覗いた項にキス。ピクリと震えた千早の肩に気を良くして、明歩はツーッと舌先を耳元のほうへと滑らせた。

「やぁん、アキぃ…」
「何? ヤなの?」

 覆い被さるような格好で、そのまま千早を背後から抱き締める。

「ねぇ、今日はアキちゃんが上になってー」

 明歩の腕の中で体勢を入れ替え、仰向けになる千早。すぐに不満そうな明歩と目が合った。

「えぇ~? 俺、千早とするとき、ここ3回くらいずっとタチなんですけど」

 所詮ネコ同士。女を抱いたことがないわけでもなく、入れるほうでもそれなりに快感を得られるが、やはり受身のほうがずっと気持ちいいことを知っているから、こんな些細なことで意見が合わなかったり。
 おまけにわがままっぷりを遺憾なく発揮するB型同士だ。

「やだぁ~、アキちゃんに抱いて欲しいのー」
「俺もやぁだー」

 全然収拾がつかない。

「む~…」
「んー……あ、じゃあジャンケンする?」
「……ん、」

 それほど建設的とは思えないが、このままムダに時間を費やすよりはまだマシな明歩の意見に、千早は渋々頷いた。

「俺、アキちゃんに慰めてもらいにきたのにー」
「はーい、ジャーンケーンポン」

 ブツブツ文句を言う千早にキスして、否応なしにジャンケンを始める。

「やった、俺の勝ち♪」

 嬉しそうに、出したグーをそのままガッツポーズに変える明歩と、憮然とした表情でチョキを出している千早。
 けれど、勝負は勝負、負けは負けだ。千早はもそもそと明歩の腕の中から抜け出た。

「いいじゃん、千早、晴希にも啓介にも抱いてもらったんでしょ?」
「何、アキちゃん、欲求不満なの?」
「……、別にー」

 自分で気付いているのかいないのか、アヒル口になっている明歩に、千早はにんまり笑って口付けた。

「…ッ、ぅんっ…!」

 すぐにそれは深い口付けに変わって。
 無理やり唇を割って、中に舌を差し入れる。

「ん、んんーっ」

 千早の体を押し返そうとしていた明歩の手は、いつの間にか、きゅうっと千早のシャツを掴んでいる。
 角度を変えて、何度も、深く。口の中を好き勝手に蹂躙する千早の舌。
 ジャンケンでの敗北が、元来の負けず嫌いな千早の性格に火を点けたらしい―――つまりは、千早の深層にある、上に「ド」が付くほどのSな性格に。

「ん、ふっ…」

 さすがに息苦しくなってきたのか、明歩の手が千早の背中をバンバン叩く。

「はぁっ…」

 ようやく唇を離してやったときには、明歩はもうすっかりくったりとなっていた。

「アキちゃん……やっぱ、よっきゅー不満なんじゃないの? それとも俺のキスがうまいのかな?」
「……え…? ―――あっ…!」

 千早の言葉の意味が分からずボンヤリしていると、いきなりスウェットパンツの上から自身を握られた。

「もう勃ってる…フフ」
「だって……気持ちいいから…」

 キスだけで感じてしまったのが恥ずかしいのか、明歩はほんのり頬を赤らめて横を向いた。

「そんなにかわいいことしちゃダメ。抑えが効かなくなる」
「…へ? 何、千早…」
「クフフ、そうだよね、久々にアキちゃんのこと抱くんだもんね。たーっぷりかわいがってあげる」

 語尾にハートマークをいくつもくっ付けたような千早の言葉に、その裏に隠された千早の本性を嫌と言うほど感じ取った明歩は、一気に蒼褪めた。

「あ……あー、やっぱ俺がタチになろっか…?」
「んーん、アキちゃんが勝ったんだから、素直に俺に抱かれなさい!」

 かわいい顔には似つかわしくないような男らしい言葉をのたまって、千早は一気に明歩の服を剥ぎ取った。





*****

「―――……ん…」

 ふと睡眠が途切れ、夢から現実へと引き戻される。
 明歩はゆっくりと目を開けた。

 窓際に寄せたベッド。窓が開いているのか、薄いカーテンが、ふわりと風に舞う。
 月明かりだけが照らし込む薄暗い室内。

 うっすらと開けた視界の端で、千早が携帯電話を弄っている。
 キレイな裸体が、月の明かりに映えていて。

「……千早…?」
「あ、アキちゃん、起きた?」
「さむ…」
「ゴメン、窓開けてた。ホラ、月出てる」

 カーテンを開けた千早が指差す先。
 満月よりかは少し欠けた、歪な形の月。
 オレンジ色の淡い光。

「何時…? 今」
「もうすぐ2時半」

 メールの送信を終えたのか、千早は携帯電話を閉じて、ブランケットの中に潜り込んできた。

「アキちゃん、今日は何時起き?」
「はち…時?」

 冷えた千早の体。
 ぬくもりを分け合う。

 ……ずっとこうしていられたらいいのに。

「8時ね。そうなんだ。じゃ、俺帰るけど、時間になったらちゃんと起きるんだよ?」
「千早、帰っちゃうのぉ…?」
「うん。何か佳史が俺んち来るって」
「……。いーじゃん、佳史なんてどうだって」

 ――――どうせ、女のとこから来るんでしょ?

「でも、待ってなきゃ。俺、アイツの恋人だしぃ?」
「…千早、健気」
「そうなの、健気なの、俺って」

 クスクス笑いながら、戯れるようにキスをする。ふわふわ。
 佳史とも、こんなキスするの?
 みんなとこんなキスするの?

「じゃ、アキちゃん。俺帰るね」

 ベッドを抜け出た千早は、引き止めようとする声を掛ける間もなく、服を身に着け始める。
 静かにドアが閉まる。
 健気でふしだらで、佳史の恋人である男が帰っていく。



「千早…」





 満月よりも少し欠けた居待月。
 月の出を、立って待つには、長すぎる。

 待って、待って、待って………… 

待ち焦がれた末に出た月は、





 窓を閉じた明歩は、カーテンを引いた。

 





居待月 立って待つには遅すぎる時間に月が出るので、座って待つことから付いた名だそうです。天体のことは全然知りません。
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落下星 (7)


 昨夜の、いや日付の変わった真夜中の、睦月の発言の真意を知りたくて、けれど朝起きると、睦月はそんなことすっかり忘れているのか、それとも気付かないふりをしているのか、何でもない様子でいるから、亮は声を掛けるタイミングを失ってしまった。

 やっぱり寝惚けていただけかなぁ、とも思うが、だとしても、少なからず睦月は亮に対してそう思っている部分があるからこそ、あんなことを口走ったわけで。

『亮はぁ…俺の気持ちなんか、分かってなぁい…』

 昨夜の睦月の言葉が、耳から離れない。
 確かに分かっていないのかもしれないが、そんなことを言われたら、一体どういうつもりで、いきなりそんなことを言ったのかなんて思い始めて、余計に睦月の考えていることが分からなくなる。

 いきなり――――いや、言ったのはいきなりでも、そんなことを言い出すからには、ずっとそういう思いがあったのかもしれない。
 寝惚けていたのだとしても、昨日の睦月の態度は、いつもと違っていたし。

 このままうやむやにはしたくないけれど、もしかしたら睦月は、言ったこと自体を覚えていないんじゃないかとも思うし、それ以前に、授業が始まる前の講堂で、そんな話を切り出せそうもないし、それでもと思って睦月を見れば、昨日途中で寝てしまって読み掛けで終えたマンガに夢中になっているし。
 何だかもう、すべてのタイミングが悪い気がしてならない。

「亮、どうしたよ」
「あ?」

 どうしたものかと亮が1人でヤキモキしていれば、隣に座っていた翔真が、シャーペンの先で亮の腕をつついた。

「…んだよ、ショウ」
「目、据わってんぞ、お前」
「うっせ」

 そういえば翔真には、睦月とのことをボヤキ半分に相談していたのだ。
 その彼にこの態度はないな、と亮は少々反省したが、翔真は特に気にするふうもなく、「とうとう当たって砕けちゃった?」と、逆に切り返された。

「砕けてねぇよ、…………まだ」
「"まだ"、ねぇ」
「うるせぇっつの」

 ニヤリと口元を歪ませた翔真の頭を1発ど突いてやれば、大げさな素振りで亮から離れた。

「はぁ…」

 当たって砕けるどころか、睦月の気持ちが余計に分からなくなっているというのに。
 元気付けようとしているのか、からかおうとしているのか分からない翔真の言葉にさえ、心を折られてしまって。

(砕けてねぇよ、まだ)

 砕けるほども、何も進んでいない。
 何も変わっていない。

 ふと睦月に視線をやれば、その前の席に座った和衣が後ろを振り返り、マンガを読んでいる睦月にちょっかいを出しては、鬱陶しがられている。
 相変わらず和衣は、睦月を守ってあげなきゃ! という意識をバンバンに醸し出していて、負けたくはないが、本気で負けそう…と亮はまた弱気になる。

(つーかアイツ、自分のほうこそ、大丈夫なわけ?)

 恐らく嫉妬からだろう、苛付いた表情をしている祐介に、和衣は気付く様子もなく睦月にかまけている。
 確かに和衣は昔から、1つのことを思い始めると、そればかりにひた向きになるタイプだったから、今も他のことにはあまり気が回らないのだろう。
 後で泣かなきゃいいけど…と、亮は気持ち一直線な幼馴染みのことを思いつつ、視線を外した。
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落下星 (8)


「ねぇむっちゃん」
「ぅ?」

 いつもなら亮が「むっちゃん」なんて呼べば、嫌そうな顔をするくせに、食後のデザートとテレビに気を取られていた睦月は、素直に亮を振り返った。
 最近お気に入りのミルフィーユを頬張っていた睦月の口元には、パイ生地の欠けらが付いていて、亮は苦笑しながらも、甲斐甲斐しくティシューでそれを拭ってやれば、そうされることに照れはないのか、睦月は大人しくしている。

「何、亮」

 口元をきれいにしてもまだ、そのフェイスラインに手を添えたままの亮に、睦月は、どうしたの? と小首を傾げる。
 不思議に思っても、嫌そうに身を引かれなかっただけでもよかったと、亮は内心ホッとしている自分に気が付いた。

「亮、何? どうしたの?」
「んー? あのさ」

 キョトンとしている睦月を抱き寄せて膝の上に乗せれば、睦月は嫌がりもせず亮の腕に抱かれている。
 こんなに素直な睦月はちょっと珍しくて、何かかわいいなと思う。まぁ、素直じゃない睦月もかわいい、て思っているから、はっきり言えば盲目なだけなのだけれど。

「ね、むっちゃん、キスしてい?」
「えっ何急に…」

 その顔を覗き込んで、視線を合わせて尋ねれば、睦月は目に見えて動揺する。
 拒まれないとは思ったけれど、亮は睦月の返事を聞く前に、その唇をキスで塞いだ。
 一瞬、睦月は身を硬くして、けれど角度を変えて何度も合わせているうち、段々と身を委ねてくる。

「ん…」

 舌先で唇を舐めると、睦月はおずおずと口を開けるから、そのまま舌を腔内に滑り込ませた。
 甘い。
 クリームの味。

「ん、ぁ…」

 睦月の甘い舌を十分に堪能した後、名残惜しくも唇を離せば、睦月の戸惑う瞳と視線がぶつかった。

「…んだよ、急に」

 照れ隠しなのか、急なキスに機嫌を損ねてしまったのか、睦月はぶっきらぼうに返して来る。
 けれど、そのまま腕から抜け出てしまうかと思ったが、睦月は大人しく、腕の中でちょこんとしていた。

「俺、睦月のこと、好きだよ」
「だから何だって、急に」
「好きだからさ、睦月が何考えてるか分かんないとか、そういうのは嫌なわけ」
「……」

 亮の言いたいことが伝わらないのか、睦月は訝しげに亮を見つめる。
 もしかしたら睦月は、真夜中に自分が放ったあの言葉は覚えていないのかもしれない。それならいっそ、このまま話すのをやめてしまおうかと思ったけれど、睦月が、「どういう意味?」と聞いてくるから、亮は言葉を続けた。

「…そのままの意味。だって睦月、言ったろ? 『亮は俺の気持ちなんか分かってない』て」
「…………」
「だから、俺が何も分かってないんなら、教えてよ。何考えてんのか」
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落下星 (9)


 睦月はジッと亮の瞳を見たまま、何度か瞬きはするけれど、少しも視線を逸らさない。

「それって……今俺にキスしたのと、関係あるの?」

 睦月からどんな答えが返ってくるのかと思っていたら、まったく予想だにしない言葉が飛び出してきて、亮は面食らった。
 あまりにも脈絡がないと思った。
 やはり答える気なんてなくて、はぐらかすつもりなんだろうか。

「亮は、俺のこと好きだから、キスするの?」
「……、そうだよ」
「一緒に、おんなじベッドで寝るのも、好きだから? 好きだから、一緒に寝ても平気なの?」
「それこそ…、それってどういう意味で聞いてんの?」

 睦月の気持ちを聞き出すつもりが、ますます分からなくなる。
 先に尋ねたのは亮のほうなのに、睦月は次から次に質問して来て、けれど亮の答えで何か確信を得ようとしているようにも見えて。

「睦月?」
「亮、俺のこと抱くの、気持ち悪い?」
「えっ」

 あまりに思い掛けない睦月の言葉に、亮の思考は一瞬、完全にストップした。





 雨の音がする。



「俺、男だから」
「むつ…」
「男同士でエッチすんのって、気持ち悪い?」

 茫然としている亮をよそに、睦月はジッと亮を見据えて、さらに驚愕させるようなセリフを続ける。

「…………、それが……睦月の考えてたこと…?」

 亮は、やっとの思いで、言葉を吐き出した。

 亮が、男同士で体の関係に至ることを気持ち悪いと考えているから、今まで睦月に少しも手を出さなかったとでも思っているのだろうか。
 睦月の過去を懸念していたからだとは、少しも思ってなかった?
 ただ戯れに、好きだと囁いたり、キスをしたりしてたのだとでも思っていた?

 何だか急に、ズンと胸から腹の奥まで重くなるような気がして、愛しい恋人を腕に抱いているなのに少しも気は晴れなくて、いや、睦月にまっすぐに見つめられる、その視線に、かえって気持ちがモヤモヤする。

「睦月、お前、」

 睦月は亮に、気持ちを分かっていないと言ったけれど、そんなこと、同じセリフを返してやりたい。
 一体亮の、何を分かっているのか。

「俺がどんだけ…」
「だって、みんな、気持ち悪いって言うから」
「え?」

 思わず声を荒げそうになった亮の次の言葉を遮って、またも睦月は亮を仰天させるようなことを言った。
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10万Hitしてました。ありがとうございます。


*本日のお話の更新は、1つ前の記事です。

 ふとカウンターに目をやったら、10万Hitを超えてました。
 いつもお出でくださるみなさま、本当にありがとうございます。

 恋三昧は、2008年1月1日にオープンしたんですけど、1周年のとき、5万Hitくらいだったんで、単純計算で、2周年のときには10万Hitになるかしら、なんて思っていたのですが、それよりもずっと早いペースで10万Hitを迎えることが出来ました。
 訪問してくださるみなさんのおかげです。

 みなさんのところに訪問しても足跡すら残さない不義理な引きこもりブログですが、遊びに来てくださるみなさん、本当にありがとうございます。
 また、拍手やコメント、ランクリをしてくださるみなさん、大変励みになっています。ありがとうございます。

 キリ番とか、おもしろい企画とかも何もない、つまんないブログですが、これからも毎日更新することが、10万Hitを迎えることの出来たお礼ということで、許していただけたらな、と思います。

 これからも「恋三昧」をよろしくお願いいたします。
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落下星 (10)


「え? 何、え…?」
「みんな、男同士でエッチするとか気持ち悪いって言うから、だから亮も、気持ち悪いのかな、て思って。好きだからキスとか出来るけど、やっぱエッチは気持ち悪いのかな、て」

 驚くようなことを話しながら、けれど睦月の表情は特別変わりはしない。
 自分の思っていたことを、ただ話しているだけで。

「俺は気持ち悪いとか思わないけど、みんなは気持ち悪いって言うから、俺、変だし、亮は…」
「ちょ、ちょっと待ってよ! 睦月、何、誰が言ったの? 気持ち悪いって、睦月に言ったの?」

 先ほど湧いたモヤモヤした重たい気持ちはもうなくて、それよりも、睦月がそんなふうに思うようになった、そのいきさつが気になって、思わず睦月に問い詰めてしまう。

「みんな、友だちとか」
「睦月に言ったの?」

 まさか、睦月の過去を知って、そんな言葉を投げ掛けたのだろうか。
 そんなヤツらを、睦月は"友だち"と呼ぶ気なのだろうか。

「俺に言ったわけじゃないけど…、高校のころ、何かそんな話になって」

 確か前夜のテレビ番組の話をしていた。
 同性愛者を特集した番組で、登場した男性が、磨りガラス越しながら自分がゲイであることを告白したり、ゲイのカップルが登場して自分たちの生活を話したりした、そんな番組。
 クラスメイト数人で会話が進むうち、誰かが言ったのだ。

『でも男同士でセックスとか、気持ち悪くね?』

 高校で睦月の過去を知っているのは祐介以外いなかったから、それは睦月へ向けられた悪意の言葉でなく、子どもながらの残酷さに満ちた、偏見から来る一言でしかなかった。
 睦月はクラスメイトの言葉に傷付かなかったし、むしろ、みんなが言うのだから、男同士のセックスって気持ち悪いんだー、と知った気分だった。

 だから、クラスメイトが思うようには感じない自分は、きっとどこか変なのかもしれないと祐介に言ったとき、祐介がそれを必死に否定するのがなぜなのか、睦月には分からなかった。
 祐介が睦月のためを思って怒ってくれているのは理解できても、みんなとは考えていることが違うし、変なのはやっぱり自分なんだろうなぁ、と思っていた。

 祐介は、睦月のことを心配しているからこそ、男性との性的な話題には敏感で、それによって睦月が傷付かないか常に気にしていたし、そういう話になると不機嫌になった。
 そのころ睦月には、本当に心を許して話が出来るのは祐介しかいなかったから、祐介の機嫌が悪くなる話題を自分からはしなかったし、他の誰かとそんな話をすることもなかったから、睦月はずっと、男同士のセックスは気持ち悪いことで、そう思わない自分がおかしいのだと思い続けていた。
 それがあまりにも非好意的で、偏った考えだとしても。

 だから、亮と付き合うようになってからも、亮は自分と違って変じゃないから、きっとセックスは気持ち悪くて出来ないんだろう、と睦月は思っていた。
 なのに亮は時々、欲望の滲んだ瞳で睦月のことを見るし、エッチなキスはするし、睦月は亮が気持ち悪がると思っていろいろ我慢してるのに、それには全然気付いてくれないし、ずっとヤキモキしていたのだ。

「…それが、睦月の思ってたこと?」

 過去の様々な出来事に憤慨するわけでもなく(けれど、亮が全然自分の気持ちを分かってくれてない! てところは力強く話し)、睦月は最後、亮の言葉にコクリと頷いた。
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落下星 (11)


 睦月の思っていることは何でも知りたいと思ったし、だいたいは分かっているつもりでいたけれど、さすがにこんなことを考えているとは、ゆめゆめ思わなかった。
 睦月に、気持ちを分かってないと言われても、まったく仕方なかった。

 亮は、何度も瞬きをしながら、睦月を見つめた。

「ねぇ睦月」
「何?」

 腕の中の睦月を、抱き直す。
 扇風機が静かに回るだけの部屋の中は少し蒸し暑くて、抱き合うには向いていないけれど、睦月は嫌がることなく抱かれている。

「じゃあさ、睦月は俺が何考えてたか、分かる?」
「ぅ?」
「俺は確かに睦月の気持ち全然分かってなかったけどさ、…睦月は、俺がどんなこと考えてたか、分かる?」
「……」

 その顔を覗き込めば、睦月は考え込むように視線を逸らした。
 やはり亮も男同士のセックスは気持ち悪いと思っていて、だから睦月とそういうことをしないのだと思っているのだろうか。愛し合っている者同士なのに。

「睦月?」
「…分かんない」

 睦月は困ったように、亮を見た。

「俺はね、睦月のことを、傷付けたくないんだよ」

 分かんない、亮の考えてることなんか分かんない、と困惑気味の顔をしていた睦月は、亮のその言葉を聞いてもまだ、首を傾げている。

「睦月はさ、何で祐介が怒ったり不機嫌になったりしたかは、分かってる?」
「んー…うん。まぁ…」

 睦月は少し考えてから曖昧に頷いたけれど、やはりいまいち分かってないらしい。

 祐介は、睦月のだらしないところとか、いい加減なことをしてしまう部分を咎めることはあっても、むやみに相手の考えを否定したり、不機嫌になって話を聞くこと自体を拒んだりすることはまずない。
 だから、祐介が自分のことを心配して、気に掛けてくれているのは分かっても、なぜその話題になると機嫌が悪くなるのか、睦月には理解できなかった。
 自分は変かもしれないと言う友人に、そうだと肯定する輩はいないだろうが、何も怒らなくても、という思いだった。

「睦月が、傷付くと思ったからだよ」
「ぅー…うん」

 たとえあのときのクラスメイトたちが、睦月のことを知っていて、わざとそんな話題を上らせたり、ひどい言葉を口にしたりしたのではないにしても、不可抗力で男と経験してしまった睦月が傷付かないわけがない。
 いや、不可抗力だからこそ、望んでやったセックスではないからこそ、睦月の傷は深まると思ったから。

 けれど睦月は、傷付きはしなかったけれど、自分の思っていたことは間違いであり、人とは違う考えを持っている自分はおかしいのだと思い込んでしまった。
 祐介がどんなに否定しても、睦月にそれは伝わらない。
 だったらいっそ、そんな話題に近づけないほうがいい――――まさかその後、睦月に男の恋人が出来るだなんて予想もしていなかった祐介は、2人の間でその話題が上らないようにしていた。

 その方法が正しかったのかなんて、誰にも分からないことだけれど、祐介が睦月のことを大切に思い、守ろうとしたことは確かで。
 それと同じように、亮も睦月を傷付けるあらゆるものから、睦月のことを守ってやりたいと思うのだ。
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落下星 (12)


「でも俺は祐介とは違うし、睦月のことLOVEって意味で好きだし、恋人だし、……やっぱその話題を避けて通れないと思うわけ」
「うん」

 睦月は、ジーッと亮の顔を見つめながら、その言葉の1つ1つを真剣に聞き入っている。
 今度こそ、言っていることの意味が分からないままでは終われないのだ。

「俺はね、男同士だろうと男と女だろうと、恋人同士がするセックスに、気持ち悪いなんてこと、ないと思ってるよ」
「うん」
「でも世の中にはいろんな人がいるじゃん?」

 中にはやはり、同性同士のセックスを歪なことだと捉える人もいるだろうし、逆に異性とではうまく行為に及べない人だっている。
 様々なセクシュアリティがあり、日本でも昔ほど偏見や差別はなくなってきているけれど、自分が同性愛者であることを大っぴらに言えるほど、自由な風潮でもなくて。
 だからこそ、祐介は余計に神経を過敏にしていたし、亮もこのままではいられないと思っていた。

「もしかしたら、また睦月に『男同士なんて気持ち悪い』て言うヤツがいるかもしんないけど、俺はそうは思わないから、だから、睦月はそんなヤツの言葉じゃなくて、俺のこと信じてほしい、て思うし、」

 まだ言いたいことはあったけれど、亮はそこでいったん言葉を切った。
 信じてほしいだなんて、あのとき、祐介の言うことですら睦月は信じなかったのに。
 ――――それでも俺の言葉を、信じてくれる?

「亮は、男とすんのが気持ち悪いから、俺とエッチしないんじゃないんだ?」
「違うよ、そうじゃない」
「じゃあ何でしないの?」

 自分の考えと、亮の思いと、あのとき必死に否定した祐介のこととか、クラスメイトとか、いろんなことが睦月の頭の中をグルグル回る。
 何が正しくて、何が間違っているのかなんて分からないけれど、何を信じるかは、自分が決めなければいけないこと。
 亮の答えは、いったい何?

「……睦月は昔、辛い思いしたじゃん? だから男の俺に迫られるのは、俺とそういうことすんのは、やっぱ怖いのかな、て思ったから」
「…」
「昔のこと思い出させるなら、それでまた睦月に辛い思いをさせるなら、手出さないほうがいいんだろうな、て」

 今でも時おり夢に現われては、睦月を苦しめる過去。
 亮がその欲望を睦月に向けるということは、つまり過去のその男と同じことで。

「言ったでしょ、睦月のこと、傷付けたくないって」

 睦月はまっすぐに亮のことを見つめる。
 亮の言葉の意味を、必死に考える。

「俺、傷付くのかな?」

 しばらく考え込んでから、睦月が口にした言葉は、何ともとんちんかんなセリフで。
 人が聞いたら、「自分のことなのに、分かんないの?」と言われそうなことを、睦月は真剣な表情で亮に聞いてきた。
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落下星 (13)


「…どうかな。俺は、睦月がそんなこと考えてるなんて知らなかったから、そう思ったんだよ。睦月を怖がらせるって」
「でも、亮じゃん」
「ぅん?」
「亮は、亮じゃん。あのときとは違うし、アイツとは、だから別に怖いとか、」

 まだ自分の考えていることが纏まらないのか、けれどそれでも睦月は、一生懸命に言葉を探した。
 自分の今思っていることを、きちんと亮に伝えられる言葉を。

「分かんないけど、やってみないと。でも平気かもしんないし」
「睦月は受け入れてくれるの? 俺のこと」

 ん? と睦月の顔を覗き込めば、睦月は視線を彷徨わせながら、答えを考えている。

 亮の精神修行は続くけれど、睦月が無理だと言うのなら、強引に事を進める気はない。
 だからちゃんと考えて、睦月の考えていることを、ちゃんと亮に伝えてほしい。

「いいよ」
「睦月?」
「亮がヤじゃないなら、亮とエッチする」

 睦月を好きになってから、もしかして俺って修行僧になれる…? と思うくらいストイックな生活を送っていた亮には、まさに青天の霹靂としか言いようのない、睦月の言葉。
 亮が己の欲望をちゃんと意思表示すれば、もしかしたら睦月は、素直に受け入れるまでいかなくとも、激しい拒絶はないかもしれない…くらいには思っていたけれど、まさかそんなにはっきりと言われるとは。

『亮がヤじゃないなら、亮とエッチする』

 亮の胸に顔を預け、ジィと亮を見上げたまま、睦月は確かにそう言ったのだ。

「えっと…、睦月、ちゃんと意味分かって言ってる、よね…?」
「うん」

 心配になって亮が聞き返せば、即答で返事が返ってきた。
 今さら、何をするかが分からないなんてことはないだろうから、もう問い直したりはしないけれど。

「いいよ。…しよ?」
「ッ…」

 真正面に亮のことを見つめたまま、そんな殺し文句みたいなこと、サラリと言わないでほしい。
 亮は思わずゴクって鳴りそうになった喉を、中途半端な咳でごまかして、睦月の体を抱き締めた。

 何度もキスをしながら、亮はテレビのリモコンにそっと手を伸ばして、電源を落とす。
 梅雨時の湿った空気に汗ばんだ睦月の首筋に唇を落とせば、「ん…」と小さな声を漏らして、睦月が身を捩った。

「ぅん? ヤ?」
「くすぐった…」

 口では『いいよ』て言ってくれたものの、やっぱり無理かも…と思われても仕方がないと亮は思っていたが、尋ねても睦月は少し恥ずかしそうな素振りをするだけで、やめたいとは言わなかった。
 睦月の体をベッドに横たえ、その上に伸し掛かる。

「このまましていい?」

 部屋の電気が点いたままで、明るい室内を嫌がるかな、と思ったけれど、睦月はあっさり「いいよ」と返事をした。
 亮は啄ばむようなキスをしながら、睦月を怖がらせないよう、シャツの裾から手を忍ばせた。
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落下星 (14)


「ん、ふ…」

 しっとりとした肌を撫で上げれば、睦月の体がピクンと反応するが、特に怖がる様子も、拒む様子もないので、亮はそのままシャツの前を肌蹴させた。
 それこそ睦月の裸なんて、風呂のときでも、着替えるときでも、しょっちゅう見ているというのに、いつもと違う状況のせいか、妙な興奮を覚える。
 ぎらついた欲望が剥き出しになりそうで、亮は気を落ち着けるため、大きく息をついた。

「何か亮が緊張してる」
「そりゃするよ」
「変なの」
「何で」

 相変わらずなことを言う睦月に思わず苦笑する。
 今さら緊張することもないはずなのに、睦月を好きだって思いが込み上げて来て、すごく胸がいっぱいになる。

「睦月、好き」
「うん。でも…」
「何?」

 キスを遮り、何か言い淀む睦月に、亮は首を傾げる。

「何、睦月」
「廊下、声する…。誰か外いる…?」
「え、え?」

 睦月の言葉にハッとして、閉ざされたドアのほうを見れば、もちろんドアに鍵は掛かっているが、外の廊下を歩く人の話し声が確かに聞こえる。
 それは亮や睦月を呼ぶものではなくて、単に廊下で話しているうち、声が大きくなったもののようだが、亮は大変なことに気が付いた。

 とってもいい雰囲気なのでうっかりしていたが、廊下の声が部屋の中に聞こえるということはつまり、部屋の中の声も外に聞こえるということ。
 もちろんシンと静まり返った真夜中でもなければ、普通の会話くらいなら聞こえないが、このまま睦月と事を進めるには、あまりにもスリリングすぎる状況だ。

「亮?」

 ドアのほうを見つめたまま固まってしまった亮に、睦月は不思議そうにその服の裾を引く。

「ぁ…睦月、あの…」
「どしたの?」
「いや、あの、」

 どうした、じゃなくて!
 この焦る亮の心を全然分かっていないような、のん気な雰囲気の睦月に、一体どこから、そんなふうに説明したらいいのかと、思わず頭を抱えたくなる。
 別に男同士で付き合っているとか、体の関係があることが知れるのが嫌なのではなくて、セックスをしている最中の声やら物音を聞かれたいとか、そんなプレイをしたくないだけだ。

「あのね」

 廊下の声はすでに聞こえなくなっているけれど。
 キョトンとしている睦月の上から退いて、その体を抱き起せば、睦月は「何?」という感じで小首を傾げながら、亮を見ている。
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落下星 (15)


「ここでこれ以上すんの、無理だから…」
「何で?」

 肌蹴てしまったシャツの前を閉じようと、亮がそのボタンに手を掛ければ、睦月は少し抵抗するように、亮の手に自分の手を重ねた。
 亮が視線を上げると、やっぱ俺とすんのヤなのかなぁ…て不安そうな表情をしている睦月と目が合う。

「いや、そうじゃなくて……睦月、今、廊下の声、聞こえたでしょ?」
「うん」
「それに、ときどき隣の部屋の声も聞こえるし」
「あぁ、隣の部屋のヤツ、騒いでてうっさいよね、ときどき」
「まぁ……うん」

 いや、今はそんなことを言いたいんじゃなくて…。
 外の声や隣りの部屋の物音だけが聞こえて、亮たちの部屋の音が外に聞こえないなんて、そんな都合のいい部屋の作りは、もちろんしていない。
 それを伝えたいのだが。

「むっちゃん、エッチの声、隣の部屋のヤツに聞かせたいの?」
「えー…ヤダ」
「でしょ?」

 これで俺の言いたいこと、分かった? ねぇ分かった? と、亮は睦月の反応を窺えば、睦月は何か考え込んでいる様子だ。

「じゃあ亮、……どうすんの? やめるの?」

 睦月は亮をまっすぐに見つめたまま、そう尋ねてきた。
 亮的にも、もちろんこのままで終わるのは大変つらいし、そんな目で見つめられたら、また睦月をベッドに押し倒しそうになるのだけれど、そういうわけにはいかない。

「だって…このままじゃ出来ないでしょ? ね?」
「じゃあ、やめるってこと?」
「うぅ…」

 お願い、分かって! と亮は睦月を宥めすかすように言ってみるが、どうも通用していないようだし、睦月の言い方はまるで「やめないで」と言っているようにも取れるし、亮はほとほと困り果てた。
 若い肉体に、この据え膳を我慢しろと言うほうが、無理な話なのだ。

「じゃあー…、……別のトコでする?」

 名案というほどでもないが、この状態を打開する策は1つしか浮かばなくて、恐る恐る睦月の様子を見れば、亮の想像とは裏腹に、睦月は目をキラキラさせていた。

「え、むつ…」
「別のトコ、て!?」

 興味津津な顔で、睦月が亮に抱き付いてくる。
 いや、それはいいのだが。
 むしろ「え…?」とか言って引かれなくて、本当に有り難いのだけれど。

(シャツの前が肌蹴たままなのですが…!)

 クラリと目眩すら覚えた亮の心境など、あどけない表情で笑っている睦月には伝わっていないのだろうと、亮は小さく溜め息をついた。
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落下星 (16)


 まさかこうもあっさりと、睦月が亮の提案に賛成してくれるとは思ってもみず(亮としては、「バッカじゃね?」とか言って、蹴っ飛ばされるくらいの覚悟はしていた)、覚束なくなりそうな手で睦月のシャツのボタンを留めてあげて、一緒に寮を出た。

 雨はいつの間にか止んでいたけれど、空気は蒸し暑い。
 睦月は「あちー」とか言いながら、亮の後ろをちょこちょこ付いてくる。本当は手でも繋ぎたかったが、暑くてヤダ、とか言われそうだったので、やめておいた。
 これからホテルに行って、冷房の効いた部屋に入れば、手を繋ぐぐらいいくらでも出来るだろうし。

「亮ー、まだ歩くのー?」

 水たまりにわざと足を突っ込みながら歩くのに飽きたのか(ビーチサンダルを履いた睦月の足は、既にびしょびしょだ)、睦月は少し先を歩く亮の背中に問い掛けた。

「もうちょっと」

 立ち止まって振り返れば、睦月は小走りで亮に追い付く。

「もうちょっと歩く?」
「歩くよ。てか、睦月、足びっちょびちょじゃん」
「だって」

 ロールアップのジーンズだったので、そちらにまで被害は及んでいないが、海帰りでもあるまいし、その濡れ具合はどう考えても、20歳の男子の足元ではない。
 しょうがねぇなぁ、なんて思う反面、そんな睦月をかわいいとか思うあたり、亮自身、本当にしょうがない。

「もうすぐ着くから、もう水たまりん中、入んないでね?」
「ラジャ!」

 すっかりご機嫌の睦月は、手を繋ぐのすら遠慮していた亮なんてお構いなしに、ピットリと寄り添って、その腕を組んで来た。

「亮、ラブホ行くの何回目?」
「えっ」

 いや、ご機嫌なのは分かるが、笑顔でそんな微妙な質問、しないでほしい。
 睦月のことだ、単なる好奇心で聞いてきたのだろうが、行った回数が多くても少なくても、恋人としてその心境は複雑なのではないだろうか。

「俺、ラブホ行くの、初めてだよー」
「え、あ、そう?」

 まさか睦月のほうから、そんなことを告白されるとも思わず、亮は返事に困る。
 男として、そういうのは嘘でも慣れたふりをしたいのでは? 少なくとも、行ったことがないのを打ち明ける必要もないのでは? と思うが、睦月はラブホに行くという初めての経験にご機嫌なようで、気にならないらしい。

 まぁそれならば、睦月に服を着せて寮を出るまでの間に、亮が頭の中のコンピュータをフル稼働させて思い当ったラブホテルは、正解だったかもしれない。
 料金のわりに部屋はキレイで広いし、何といっても、人のいるフロントを通らなくていい。
 男同士のセックスは別に気持ち悪いことじゃないんだよ、と睦月には伝えたものの、自分たちがそういう関係であることを周囲に大っぴらに言えるほど大らかなお国柄でもなく、男2人でラブホテルに堂々と入るにはやはり抵抗があるから。

「はい、着いたよ……て、睦月、また!」

 睦月は亮の先ほどの言い付けを忘れたのか、ラブホテルの前まで来て、「でやっ!」とまた水たまりを蹴っ飛ばした。

「だって、おもしろいんだもん」
「小学生じゃん!」

 これからラブホテルに入るという雰囲気は、まるでなくて、もしかして、遊園地かどこかに遊びに行くのと勘違いしているんじゃなかろうか、なんて思えてくる。
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落下星 (17)


「むっちゃん、おいで」

 通りにはそんなに人はいないが、だからこそ睦月があまりはしゃいで騒いでいると、目立ってしょうがない。
 亮は睦月の腕を引いて、さっさとラブホテルの中に入った。

「うわー…すげぇ」
「ちょっ、睦月…!」

 明るくキレイなフロントフロアに、睦月のテンションが上昇し始める。
 確かにこういう雰囲気は、ラブホテルにでも行かないと味わえないから仕方がないが、こんなところでチョロチョロされたら、とっても困る。
 見たところ他に客はいないが、ウェイティングブースにはいるかもしれないし、フロントもすぐそこだし、第一、防犯カメラだって作動しているだろうから、誰に見られるとも限らない。
 亮は睦月を背後から抱くように捕まえると、部屋を選ぶため、タッチパネルのところへ向かった。

「何これ」
「これでお部屋を選ぶの。睦月、どれがいい?」

 近未来的なオブジェにはめ込まれたタッチパネルの画面を、睦月はワクワクしながら覗き込む。
 睦月を背後から抱いている亮は、真剣に部屋を選んでいる睦月に、こういう部屋もあるよ~、と説明してあげる。
 はしゃぎ過ぎて目立つのは困るが、睦月が楽しそうにしているので、何だか嬉しい。

「んーとね、これがいいかも」
「じゃ、押して?」

 ピッ、と口で言いながら、睦月は選んだ部屋のボタンを押した。
 レシートを受け取ると、ノリノリの睦月を連れてエレヴェータに乗り込む。

「フロントとか行かなくていいの?」

 エレヴェータの扉が閉まると、睦月は不思議そうに背後の亮を見上げるように振り返った。

「ここはね。そういうトコのほうがいいでしょ?」
「うー…うん。フロント寄らなきゃいけないラブホもあるんだ?」
「ホテルによっては」

 昔よりは明るくオープンになっては来ているが、やはりそういう目的の場所だから、スタッフとばっちり対面するタイプでなく、顔が見えないように配慮されているところも多い。
 そう考えると、そんなにいろいろ悩まずに、睦月と行けるラブホテルは結構あるかもしれない(これから先、睦月が嫌がらなければ)。

「亮、詳しいね、すごいね」
「…そう?」

 恋人から、ラブホテルの事情に詳しいことを褒められても、内心微妙だが、睦月は他意なく本気ですごいと思って賞賛しているようなので、あえて突っ込みはしなかった。


「はい、着きましたよー」

 フロントに寄らないタイプなので、部屋の前の機械で料金を払って室内に入れば、その途端。

「キャー、すっごーい!!」

 ドアを閉めたか閉めないかのうち、テンションMAXになった睦月は亮の腕を離れて、部屋の真ん中まで駆けて行った。
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落下星 (18)


「部屋、超広い! キレイ! 何これっ!」
「睦月、はしゃぎ過ぎ……て、わっ」
「ベッドもおっきい~!」

 捕まえようとする亮の手をすり抜けて、睦月は部屋の中に鎮座ましましているベッドに、ポーンと飛び乗った。
 華奢な睦月の体が、ベッドのスプリングにバウンドしたところで、亮はその上に乗っかって、ようやく睦月を腕の中に捕まえた。

「むっちゃん」
「エヘへ、だって」

 はしゃぎ過ぎ、と亮に言われてもまだ、睦月はテンションが上がったままなのか、クフクフ笑いながら抱き締めてくる亮の腕にじゃれ付く。

「だってね、何か想像してたのと違う」
「…どんなの想像してたの?」

 唇を舐めたり、啄ばむようなキスをしたりしながら、近い距離で睦月の顔を見つめる。

「何かー、部屋の真ん中に丸いベッドがあってー、回転すんの」
「で、天井とかが鏡張り?」
「そうそう! そんで、お風呂はガラス張りで、部屋から丸見えなの」
「風呂はガラス張りだと思うよ?」

 亮は睦月から少し体を離して、ちょうど背後にあるバスルームのほうを親指で指した。

「あっホントだ!」

 せっかく腕の中に閉じ込めたというのに、ガラス張りのバスルームを発見した睦月は、ピョーンとベッドを降りて、ベッドのほうへ駆けて行ってしまった。

「うわ、すっげ。広いねー」

 ガラス張りと言っても、睦月が思っていたのとは違って、何だかおしゃれな雰囲気だ。
 しかもバスルームの中も広くて、うんとおしゃれで、カッコイイ。
 寮の風呂場も広いが、あれは大人数で入ることが前提の広さだし、少しもいい雰囲気は漂って来ない。

「お風呂すごいねー。入ったら、気持ちよさそう」
「入るよ? 一緒に」
「え、ヤダよ」

 バスルームを覗く睦月のもとに行った亮は、後ろから睦月を抱き締めながら耳元で囁けば、即行で拒絶された。

「何で? 一緒に入ろうよ」
「だって恥ずかしいじゃん」
「いっつも一緒に入ってんのに?」
「妙な言い方すんなよ、バカ亮! だいたいこんなトコで一緒に入ったら、明日から寮の風呂入るの、恥ずかしくなる…」

 こんないい雰囲気のバスルームで、普段お風呂に入るようなことだけをして上がるわけがないと、いくら睦月でもそのくらいのことは分かる。
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落下星 (19)


「亮、入りたいなら、1人で入ればいいじゃん」
「えー…こんなトコに1人で入んの、切なすぎる…。なら、シャワーだけでいいよ。一緒にシャワーしよ?」
「一緒じゃなくてもいいじゃん!」
「時間節約のため」

 宿泊ではないから、時間だって限られている。
 お風呂でイチャイチャ出来ないなら、さっさとシャワーを済ませて、ベッドに上がってくっ付いていたい。

「お…俺シャワーしないから、亮だけして来て」
「ダメー。いっぱい汗かいてるでしょ? それに睦月、さっき水たまりバシャバシャしたんだから」
「うぅー…」

 何を言っても亮は意見を変えてくれず、結局睦月は渋々折れた。
 ホテルに入って、エアコンのおかげでだいぶ汗は引いたが、確かに亮の言うとおり、蒸し暑い空気の中、汗で睦月も亮もベタベタなのだ。
 2人で入るのは何だか納得がいかないが、亮がシャワーをしている間、1人で待っているのも落ち着かないし…と、それ以上抵抗するのはやめた。

「大丈夫、変なことしないから…」

 睦月を前から抱き締め直すと、その額にキスを落とす。
 さっきまでテンション上がりっ放しではしゃいでいた睦月は、途端に大人しくなって、キュウと亮に抱き付いた。

(かわい…)

 抱き締めれば、いつもよりずっと速く打っている睦月の心臓の音が分かる。
 首筋や耳に唇を寄せてから少し体を離して、睦月のシャツのボタンに手を掛けた。このボタンを外すのは、今日2回目だ。

「睦月、俺のも脱がせてくれる?」

 睦月の服を全部脱がせたところで、少し身を屈めてそう言えば、睦月は困ったように視線を彷徨わせてから、コクリと頷いた。
 亮の様子を窺いながら、Tシャツを脱がせ、ベルトに手を掛けたけれど、緊張と、普段自分がするのと逆向きだということも手伝って、なかなかベルトのバックルが外れない。

「ん…」

 やっとベルトを外して、睦月は震える手で亮のジーンズの前を寛げた。
 脱がせるって? 分かんない、これでいいの? と、ジーンズのウェストを掴んだまま亮を見上げれば、亮とバッチリ目が合ってしまって、恥ずかしくて睦月は思わず手を離して俯いてしまった。
 どうしよう…なんて思っているうち、亮は自分でジーンズと下着を脱ぎ捨てると、睦月を抱き寄せた。

「そんな怖がんないで。怖いこと、何もしないから…」
「んっ…」

 耳元で囁いて、かわいい耳たぶに少し歯を立てれば、それだけで睦月の体はピクリと震えた。

「やっ…変なことしないって…、ヤダ、一緒に入んない、や…」
「…ゴメン、睦月、かわいかったから。もうしない、ゴメン。だから一緒に入ろ?」

 思わず感じてしまったのが恥ずかしかったのか、睦月は真っ赤な顔をして、亮の腕の中から逃げ出そうとする。
 泣き出しそうな声になった睦月に少し胸を痛めつつ、かすかな抵抗を見せる睦月を抱いて、亮はバスルームに入った。




 風営法の改正で、回転ベッドは禁止になったんだそうです。なので、それ以降に建てられたラブホには回転ベッドは設置されてないんですって。確かに最近聞きませんね。ちなみに鏡張りの部屋も、新風営法では禁止なんだそうです。
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落下星 (20)


 約束どおり、本当に汗を流すだけのシャワーをして、亮は睦月を連れてバスルームを出ると、部屋に備わっているバスローブを睦月に着せてやった。

「バスローブとか、何かセレブの人みたい」
「安いセレブだな、おい」

 亮が本当にバスルームで何もしなかったのと、汗を流してサッパリしたことで、ご機嫌が回復してきたのか、睦月はようやく笑顔を見せてくれた。

「じゃあ、セレブっぽい雰囲気ついでに、ベッドまで抱っこしてってあげよっか? お姫様抱っこ」
「何それ、恥ずかし……うわっ」
「別に誰も見てないよ」

 返事を貰う前に亮は睦月を抱き上げれば、一瞬、睦月は足をバタつかせて抵抗したが、大人しく亮にしがみ付いた。
 亮の腕の中は、温かくて気持ちよくて、すごく安心する。
 ずっとこんなだったらいいのに。
 でも。

「はい、とうちゃーく」

 もうずっとこのままでいいのに。
 ずーっとこのままピットリくっ付いていられれば幸せなのに……部屋が広いとは言っても、バスルームからベッドまでなんて、10秒もあれば到着してしまって。
 先ほど睦月が無邪気に飛び跳ねた大きなベッドに、そっと下ろされる。

 でも、まだ、離れたくない。

「睦月?」

 ベッドに下ろしてもまだ、亮にしがみ付いている睦月に、亮もそのままベッドに上がった。
 睦月を抱き寄せたまま、寄り添うように隣に寝れば、睦月はさらに密着してきた。
 亮は急かすことなく、ローブの上から睦月のボディラインに手を滑らせたり、覗く項にキスを落としたりする。そのたび、睦月はかすかな声を上げたり、ピクと体を震わせたりはするが、亮の動きを拒否することはなかった。

「むっちゃん、ギュッてしてくれるの嬉しいけどさ、ちょっと顔見せて? 睦月の顔見たい」

 亮の胸に顔を押し当てたままでいるので、睦月の表情は少しも窺えない。
 単に緊張しているだけ?
 それともやっぱり不安で怖いの? ――――その不安は、初めての行為に対してのものだけなのか、それとも過去を蘇らせるもの?

「睦月」
「ヤ…」
「ん? や?」

 甘やかすように聞き返せば、睦月は少しだけ首を横に振る。
 もしかしたら睦月の中でも、この先に進みたい気持ちと、躊躇う気持ちがせめぎ合っているのかもしれない。

「亮…」
「ん? あ、やっとむっちゃんのかわいい顔、見れた」
「かわいくな…」
「かわいいよ。ね、キスしてい?」

 むずかる子どものよう、睦月は首を振ってまた亮の胸に顔をうずめようとするから、その頬を押さえて自分のほうを向けさせた。
 少し見つめ合ってから、睦月が抵抗しないので、そのまま唇を寄せた。
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落下星 (21)


「ん…」

 啄ばむようなバードキスの後、舌先で睦月の唇をつつくと、睦月は少しだけ口を開いて、おずおずと亮の舌を迎え入れてくれた。
 亮は睦月を脅えさせないよう、優しく舌を絡ませる。
 肩甲骨から背骨を辿って、睦月の腰を抱く。

「ん、んんっ…」

 息も出来ないほどのキス。
 その息苦しさも快感に変わるころ、ようやくキスから解放された。

「はぁ…」

 濡れた唇を、亮の指が拭う。
 その仕草1つ1つを、乱れた息のまま見つめる睦月の瞳に不安の色が浮かんでいて、亮は手を止めた。
 けれど。

「…亮、俺、大丈夫だよ?」
「ん?」
「大丈夫だから。だから続きして。早くして」

 睦月は急かすように、積極的なセリフを吐く。しかしその裏に、睦月の不安や恐怖が見え隠れしていて。
 睦月からは焦りと不安と、そして逸る気持ちが伝わって来て、なのに睦月は先を急ぐように亮のバスローブの胸元を広げようして。
 亮はその手に自分の手を重ねて、動きを止めた。

「亮、何で止めんの? ヤリたいんでしょ? しよ?」
「そりゃしたいけどさ……最初に言ったでしょ? 俺は睦月に無理させたいわけじゃないんだよ?」
「無理くない!」

 亮が思うようにしてくれないのがおもしろくないのか、駄々を捏ねる子どものように、睦月は手足をバタバタさせる。

「何でっ、しないの? やっぱヤなの? 亮っ…」

 泣き出しそうな表情で続きを求める睦月の体を、ギュッと抱き締める。
 もしかしたら睦月は、最初に亮が言った『男同士のセックスを気持ち悪いとは思わない』という言葉を、まだ信じ切れていないのかもしれない。
 だから実際にやってみて、本当なのか、証明してほしいのかもしれない。

「ヤダなんて言ってないじゃん」
「じゃあ何でしないの? ヤじゃないならしてよっ…!」

 半ば自棄になって、睦月は亮の胸を叩く。

「睦月…」

 今、睦月を抱くことは、きっと簡単なことだ。
 確かに亮は睦月のことが欲しいし、睦月も亮のことを求めてくれている。

 ――――けれどそれとは裏腹に、2人の気持ちは同じほうを向いてはいなくて。

「俺はね、睦月のこと好きだから、睦月のこと全部欲しいから、睦月のこと抱きたいの」
「…」
「睦月も同じ気持ちでいてくれてる?」
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落下星 (22)


 亮が睦月のことを欲しいのは、睦月とセックスしたいと思うのは、別に既成事実を作りたいからじゃない。
 男同士のセックスについてどう思っているか、証明したいからじゃない。
 そんなことじゃなくて、本当に単純に、睦月のことが好きだから。ただ、それだけのこと。

「ふぇ…」
「俺は睦月のこと好きだから、キスしたり、抱き締めたり、セックスしたりしたいの。……ゴメン、泣かないで」

 この世から、睦月を泣かせたり、傷付けたり、悲しませたりするもの全部、みんな排除したいのに。
 なのに、そう思っている亮自身が、睦月に涙を浮かべさせてしまって。
 ポロポロと零れる睦月の涙をそっと拭ってあげる。

「俺、も……亮のこと好き、だけど、分かんな…亮のこと、信じてないわけじゃない、けど…」
「うん。…ゴメン、睦月が不安なの、分かってるのに。責めてるわけじゃなくて、でも俺の気持ちも分かってほしくて」

 しゃくり上げながらも、睦月は一生懸命に気持ちを伝えてくるから、亮も何も隠さず、自分の思いを伝える。

「睦月がね、ホントにセックスしてみないんじゃ、俺の言葉を信じられないって言うなら、ちゃんと証明してあげるよ? でも分かって。俺が抱くのは、そのためだけじゃないって。睦月のこと好きだからなんだよ、てこと、知ってて?」
「…ん」
「だいたい、好きな子とエッチすんのがヤなわけないじゃん」
「ッ…」

 亮は膝で睦月のバスローブの裾をずらして捲ると、少し兆しを見せ始めている下腹部を、睦月の太ももに押し当てた。
 途端、睦月はビクッと身を竦ませる。

「ね、これでも怖くない? 続けてもいい?」
「いっ…いいよ」

 声が上擦っている。
 一瞬、目を逸らしたけれど、睦月はすぐに視線を戻して、まっすぐに亮を見つめる。

「亮とだから、平気な気がする」

 そう言って睦月は、亮の背中に回した腕に力を込めた。
 怯えを十分に隠し切れていないくせに、無自覚にそんな殺し文句を吐くのだから、まったく参ってしまう。

「…いっぱい愛してあげる」

 そう言って亮は、バスローブを脱ぐと、深いキスで睦月の唇を奪い、口内に舌を滑り込ませる。逃げようとする舌を追い掛けて、いっぱい絡めて。
 細い腰を抱き寄せて、体中を弄る。

「ふ…ん、ぅん…」

 怖いのか、もどかしいのか、亮の腕の中で睦月が身を捩るから、どんどんローブの前が肌蹴ていってしまう。
 亮はもう片方の手で、脱げ掛けている睦月のローブのヒモを解くと、腕から袖を抜いて全部脱がせる。
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落下星 (23) R18


*R18です。18歳未満のかた、そういったものが苦手なかたはご遠慮ください。

「んぁっ…」

 息苦しさすらも快感に変わるころ、ようやく長くて深いキスから解放されて、睦月はギュッと瞑っていた目を開いた。
 そのトロンとした瞳に、それだけで亮の熱は高まるのに、2人の唇の間を糸のように繋がっていた唾液を、睦月が真っ赤な舌でペロリと舐め取るから、ますます欲を煽られる。
 亮はその姿に思わずゴクリと喉を鳴らしてしまったが、睦月にしたらまったくの無意識の行動だったらしく、ぅん? と亮を見つめている。

(ヤベ…優しく、出来ないかも…)

 絶対に睦月のことを怖がらせない、傷付けない、て思っていたのに、睦月のしどけない姿に、思わず欲望のまま突き動かされそうになって。

「ん、っ…」

 亮は睦月の上に覆い被さって、首筋に顔をうずめる。
 耳の後ろから首筋まで唇と舌で辿って鎖骨の窪みを舐め上げると、思わずといった感じで、睦月の手が亮の肩を押さえた。

「はぁっ…や、ん…」

 ビクビクと睦月の体が震えている。
 ただ怖がっているだけでなく、睦月が感じてくれているのだと分かり、滑らかな肌に手を這わせながら、体中にキスしていく。

「ん…亮っ…」

 胸の飾りに吸い付くと、ガクリと喉のを仰け反らした。意図したわけではないが、亮のほうへ胸を突き出す形になり、愛撫はますます濃厚になる。

「ふ、ぅ…ん」
「睦月…」

 いくら睦月が華奢で小柄とはいえ、女の子ではないから、その体は少しも柔らかくはないし、おっぱいもないのに、けれど気持ち悪いなんて思うはずもなく、どんどん夢中になっていく。
 舌でなぶるのとは反対側の乳首を指先で押し潰せば、睦月はギュッと身を硬くした。

「はっ、ぁ、ん…亮っ…!」

 睦月の手が弱々しく亮の頭を押し返すが、亮は愛撫の手を止めない。
 さらに腰を引き寄せると、睦月の熱く濡れた下腹部が亮の腹に触れて、亮は確かめるように睦月自身に手を伸ばした。
 まだ完全に硬く勃ち上がっているとまではいかないが、熱く芯を持ったそれは、睦月がちゃんと感じてくれていることを、亮に伝えた。

(よかった…、睦月、ちゃんと感じてる…)

 直接的な刺激を受けているのだから、体がそれなりの反応を返すのは当然だが、受ける愛撫に嫌悪感を抱けば、こんなふうには感じてくれないはず。

「ふ、ぅ…ん、んっ…」

 性急に求めて睦月を怖がらせないよう、何度もキスを与えながら、ゆっくりと睦月自身を刺激する。
 亮の手のひらは、睦月の先走りで濡れ始めている。
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落下星 (24) R18


*R18です。18歳未満のかた、そういったものが苦手なかたはご遠慮ください。

「ッ…ね、睦月、俺のも、触ってくれる…?」
「ふぇ…?」

 熱に浮かされたように亮の愛撫を受けていた睦月は、その言葉に、キョトリと視線を向けた。

「手でいいから……触って?」

 情けない話だけれど、今までの修行僧みたいな禁欲生活と、ここに来ての、睦月の予想以上のあだめいた姿に、亮の欲望はすぐにでもはち切れそうになっている。

(これはヤバイって、マジでっ…)

 こんなの、絶対に持たない。
 間違いない。

「亮、の…?」

 睦月は不安そうに、亮に視線を向けた。
 やっぱり、初めてでいきなりは無理だったかな…と、亮はちょっと反省する。
 切ないけれど、こうなったら自分でするしかないのかも…。だって1回抜いておかないと、絶対にマズイし。

(俺、こんなに余裕がないの、初めてなんですけどっ…!)

 間違っても暴走しないためには…と、亮は仕方なく自身に手を掛けようとした。

「する…」
「えっ」
「亮の」

 睦月は恐る恐る亮のモノに手を伸ばした。

「むっ…」
「平気…。怖いんじゃなくて、あの、その……亮、気持ちいい…?」
「ッ…!!」

 たどたどしい手付きで亮のモノに触れながら、睦月が無意識の上目遣いで聞いてくるものだから、亮は一気に汗が吹き出すのを感じた。

(ヤベー、ヤベー! マジでイクっつーの!!)

 みこすり半とか、絶対に情けなさ過ぎる。
 そう思っているのに、睦月は切ない吐息を吐き出しながら懸命に亮のモノを刺激してくるから、あっという間に我慢の限界に到達してしまいそう。

「亮…?」
「ヤベェって。気持ちよすぎ…。睦月は? 俺に触られるの、イヤ?」
「ヤじゃな…」

 すごく気持ちいい…と、睦月は甘い吐息混じりに、亮にそう伝える。
 実際、手の中の睦月自身は、どんどんと硬さを増していっていて、その言葉が嘘でないことを教えてくれる。

「ね…、亮の、おっきいね」
「…ッ、サンキュ…」
「これ…俺ん中、入るかな…?」
「、、…どうかな。入れたい、な…」

 感じているまま、思っていることを素直に口にしてくれるのは有り難いが、まったく睦月は、あどけない顔をして何を言い出すのだろう。
 亮は奥歯を噛んで何とか堪えたが、睦月にしたらまるで計算なんかじゃないから、余計にタチが悪い。
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