2009年08月
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02. 理性と欲望の葛藤 (6)
「う…」
顔を近づけたまま囁くように尋ねれば、和衣はうろたえるように視線を彷徨わせる。
きっと頭の中、グルグルといろんなことを考えているんだろう。
「祐介…俺と、シたいの…?」
いっぱい、いろんなことを考えた末の和衣の言葉が、これ。
プラス上目遣い。
計算でなくやっているのだから、本当にタチが悪い。
「そんな、誘うような顔、しちゃダメ」
「誘ってない…」
真っ赤になって否定したところで、何の説得力もない。
祐介は、すっかり飽和状態になっている和衣の頬やこめかみにキスを落とす。
「ゆう…」
うっとりとした表情で和衣に見つめられ、祐介の心拍数も、バカみたいに高くなっていく。
それをごまかすように、何度もキスを繰り返す。
けれど。
――――ドンドンドンドンッ!
そんな最高の雰囲気をぶち破る、無粋なノックの音。
ビクン! と和衣の肩が震える。
『カズちゃーん、忘れモンだよー』
しつこいノックを無視しようとした矢先、ドア越しに掛けられた声にギクリとして、2人して固まった。
睦月だ。
祐介の部屋だというのに、和衣の名前を呼ぶあたり、何だかすべてを見透かされている感じがしてならない。睦月は自分のこと以外には、案外敏感なのだ。
『カズちゃーん』
せっかくのいい雰囲気だったのに……祐介は居留守を決め込もうとしたが、諦める素振りのない睦月に、祐介は溜め息をついてドアに向かった。
「…何?」
「カズちゃんは? あ、カズちゃん、忘れモンだよー」
祐介の不機嫌な様子に気付かないふりをして、睦月は、おいでおいで、と和衣を手招きする。
「はい。これ忘れてったでしょ?」
忘れもの、何? と小首を傾げながら、素直に両手を差し出した和衣の手の上に乗せられたのは、睦月の部屋に置いて行ってしまった2本のDVD…!
「ちょっ!」
和衣は慌ててそれを睦月に返そうとしたが、亮のベッドの上に置きっ放しにしてしまったお泊りセットと一緒に、意地悪な笑顔で無理やり押し付けられた。
「あ、寮の部屋、壁薄いからね。一応、忠告しとこうと思って。…いいタイミングだったでしょ?」
「う゛…」
もっともなことを言う睦月の言葉に、口元を引き攣らせたのは祐介で、和衣はただ、手の中のDVDに呆然としたままだ。
けれど確かにこのまま雰囲気に流されて事に及んでいたら、どんなに声を我慢したって、絶対に隣の部屋の住人にバレるに決まっている。
お節介ながらも、ありがたい忠告をしたした幼馴染みは、満足そうに笑いながら、「てことで、お邪魔しましたー」と部屋を出て行った。
「…………」
「…………」
再び2人きりになった部屋。
和衣は無駄なこととは思いつつ、恥ずかしいから、祐介に見えないようにDVDをギュッと胸に抱えた。
「続きはまた今度ね」
残念だけど…と、祐介は苦笑してから、和衣を抱き締めて、もう1度キスした。
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03. 誰のもの? (1)
そのたびに和衣は恥ずかしくて堪らないし、無意識にそんなことを思い出してしまうなんて、やっぱり変態さんなのではなかろうかと、ちょっと落ち込む。
それにしても、祐介は『続きはまた今度』て言ったけれど、その"また今度"は一体いつなの? と和衣は思う。
そんなことばっかり思っていると、頭の中がホワホワしてきて、睦月にも『カズちゃん、口開きっぱになってるよ』と言われることが多い。
今さらだけれど、でもそれでも睦月に、そんなこと考えているなんて思われたくないから、ごまかすのが大変だ。
(でも、また今度って言ったって、全然また今度になんないもんっ)
睦月は何となくそんな雰囲気になるものだと言ったし、和衣もそれは認めるけれど、でも全然そんなふうになんかならない。
それってやっぱり、和衣がそういう雰囲気を作るのがへたくそだから? それともそういう雰囲気に気付いていないだけ? それか、考えたくはないけれど、
(俺って全然色気ない…?)
――――ガーン…。
確かに幼馴染み2人に比べたら、和衣はカッコいいというよりかは、かわいいという感じだし、年齢より幼く見られがちだし、そういう意味では、悲しいけれど色気はないのかもしれない。
別に色気たっぷりに、いろんな女の子とお付き合いしたいわけではないけれど、せめて好きな人を落とせるくらいの色気は欲しいのに。
(別にむっちゃんだって、そんなに色っぽいとは思わないけどなー)
そんな失礼なことを思いながら、チラリと視線を向ければ、睦月は何やら祐介と言い合っていた。
実は、昨日の倫理学の授業で、これでもかと言うくらい爆睡していた睦月は、案の定、ノートなんか少しも取っていなくて、それを見せてほしいと祐介におねだりしているのだ。
もちろんそんな理由で、祐介が簡単にノートなんか見せてあげるはずもなくて、睦月は自分が悪いにもかかわらず、「ゆっちのケチィ」とか言って喚いている。
(むぅ…むっちゃんのバーカ)
基本、嫉妬深い和衣は、無意味だと自分でも分かっているのに、ついつい睦月にまでヤキモチを妬いてしまう。
だって、嫌だし。
たとえ睦月だとしても。
2人にそんな気がないのは、百も承知だとしても。
(嫌なもんは嫌なんだもんっ…!!)
むんっ、と和衣は、サラダの中に入っていたミニトマトに、フォークを突き立てた。
けれど、トマトが嫌いな和衣はそれを食べることも出来ず、勢いよく突き刺さったミニトマトをフォークから抜こうとしてもうまくいかず、余計にイライラが増す。
「何してんだよ、お前――――て、むぐっ…」
うーうーと、ミニトマトと格闘していた和衣は、それに気が付いて声を掛けた亮の口に、無理やりそのミニトマトを押し込んだ。
「カズ、おま…」
「うっさい!」
苛立ちに任せて亮に声を荒げると、和衣はサラダの残りを平らげた。
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03. 誰のもの? (2)
でもやっぱり、好きだから、独占したい。
自分だけのものにしたい。
(もう…俺、バカみたい…)
別に、体を繋げることで、何もかも1つになれるとか、そんなふうには思わないし、全部を自分のものに出来るなんて思わないけれど。
でも、そんなふうに独占できたらいいのに、祐介のこと。
「ねぇカズちゃん」
祐介との話が決着したのか(睦月の満足そうな顔を見る限り、ノートは見せてもらえることになったらしい)、そばに寄ってきた睦月が、和衣の肩に顎を乗せた。
「何、ちょっ、くすぐったいんだけど」
「カズちゃん、ダメだよ~、他の男にア~ン、なんてしちゃ」
「なっ…!」
和衣にしか聞こえないくらいの声で、睦月に意地悪く囁かれ、和衣は言葉を詰まらせた。
だってあんなの、アーンのうちに入らないし、だいたい睦月が祐介とイチャイチャしてたのが、そもそもの原因なのに。
「、ッ…、……、…むっちゃんこそ、ヤキモチ?」
「はっ? 何それ、違うし」
「俺が亮にア~ンとかしたから、ヤキモチ妬いてんでしょ?」
和衣と違って、睦月はそんなことでヤキモチなんか妬かないけれど、そうでも言わなかったら、睦月の冷やかしからは逃れられない。
それに、思った以上に睦月が焦り出すから、和衣は反逆の術を見つけたとばかりに、ニヤニヤと詰め寄った。
「違うってば。カズちゃんのバカ」
「そんなの、むっちゃんのほうだもん」
むっちゃんのヤキモチ妬き~、て、自分のことは思い切り棚に上げて、和衣はここぞとばかりに睦月をからかう。
普段は睦月に、なかなか口で敵わないから。
「お2人さん、彼氏ほっぽって、何イチャイチャしてんの?」
「え? あ、ショウちゃん」
ベー、て睦月に舌を出していたら、頭をポンポンとされて、ビックリして振り返れば、それは翔真だった。
「ショウちゃん、あのね、カズちゃんがね、亮と」
「むっちゃんね、ヤキモチ妬いてんだよ」
「アーンとかしてさ」
「いや、あの…いっぺんに喋られても…」
何だか分からないけれど、もしかして巻き込まれた? と、翔真は思わず声を掛けてしまったことを、若干後悔してしまう。
まぁ、内容的には、ケンカにもならないようなことではあるが。
「カズちゃん、欲求不満だからって、そんなことで八つ当たりしないでよね~」
翔真にも聞こえないように、和衣の耳元に手を当てて、睦月がこっそりと囁けば、途端に和衣は頬を染める。
「むっ…むっちゃんのバカ!!」
やっぱり口で勝とうなんて、100年早かった。
真っ赤な顔で睦月を突き飛ばせば、その勢いで翔真まで引っ繰り返り、何事かと亮と祐介は訝しげな視線を向けた。
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03. 誰のもの? (3)
和衣としても、こっそり祐介の行きたい場所をリサーチして、連れて行ってあげたいと思うのに、なかなかうまくいかない。
出来れば、祐介みたくスマートにエスコートしたいのに。
今日の映画デートだって、そうだ。
もともと祐介も映画が好きだから、祐介のほうから『映画見に行かない?』て誘ってくれたけれど、実はそれは和衣もずっと見たいと思っていたものだった。
(うむむ…なかなかうまくいなかない…)
こういうときに、うまくさり気なく出来ないから、エッチもうまく誘えないのかな? そういう雰囲気が作れないのかな? と和衣がこっそり溜め息をついていたら、暗くなった映画館、祐介がそっと和衣の手に自分の手を重ねた。
「!? え、ゆう…」
ビックリして和衣が祐介を見ると、隣の席の祐介は、繋いでいないほうの手の人差し指を口の前で立てて、シーって静かにするように言う。
「大丈夫だよ…」
耳元でそっと告げられて、吐息のくすぐったさに和衣は肩を竦ませたが、祐介の顔が離れた後も、その甘い声が耳に残っているような気がして、落ち着かなかった。
(…心臓の音、うるさい)
バクバクと音を立てる和衣の心臓。
手を繋いでいることが周りにバレるんじゃないかっていう、そんなドキドキなんかじゃなくて、繋いだ手の温度、祐介から伝わる温もりが、和衣の鼓動を速くさせる。
(どうしよう…)
――――ドキドキしすぎて、全然映画に集中できない…!
手を繋ぐぐらい…と、和衣は自分に言い聞かせるけれど、でもやっぱりドキドキする。
チラリと盗み見た祐介は、当たり前だけれど、ジッとスクリーンを見つめていて、その横顔に、和衣は余計に心拍数を上げてしまった。
このままじゃいけないと和衣は一生懸命映画に向かうが、すごく楽しみにしていた映画なのに、少しもストーリーが頭の中に入って来ないどころか、気付くと祐介のほうを見ている始末。
(だって祐介の横顔、カッコいいんだもん…)
そんなもの、わざわざ映画館まで来て見なくたって、大学だろうと寮だろうと、好きなだけただで見れるのに。
――――でも。
でもやっぱりカッコいいし!
睦月に知れたら、「まーたカズちゃんの乙女まっしぐらが始まったー」て呆れられること必至なことを真剣に思いながら、和衣はどこまで進んだかまったく分からなくなってしまった映画に向き直った。
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03. 誰のもの? (4)
「え? うん」
映画館を出て、祐介にそう言われたとき、和衣は、"どこが"とは言えず、曖昧に返事をした。
和衣が見た限りの中では、確かに映画はおもしろかった。
おもしろかったけれど、上映時間の大半を祐介の横顔を見るのに費やしてしまった和衣は、映画のシーンが細切れのカットのような印象にしか残っておらず、ストーリーもろくに答えられそうになかった。
「この後、どうする?」
「んー…」
「どっか見る? それとも何か食べる?」
祐介の問い掛けに、和衣は何となく口籠ってしまい、うまく返事は出来なかった。
今日は、映画以外のプランを特に決めていなかったから、このままブラブラ見て回ってもいいし、もう暗くなってきたから、ご飯でもいい。
でも今日は、映画を見て、買い物をして、ご飯を食べて終わりにするつもりはない。
今日こそは、蒼一郎師匠と睦月先輩から学んだことを、実践に移したい。
(この後、どうする? ――――て、それで『ホテル行きたい』とか言っちゃったらダメだよね…。うまい誘い方、うまい誘い方…)
「和衣?」
「はい!?」
「どうしたの? さっきからずっと上の空じゃない?」
「そ…かな…?」
つい考え込んでしまっていたが、内容が内容なだけに、祐介には打ち明けられなくて、和衣は適当に笑ってごまかした。
だいたい、暗くなってきたとは言っても、まだそこまで真っ暗ではないし、時間的にもそんなに遅くはないのに、ホテルがどうだのという話題に持っていくのは、いまいちな気がする。
それじゃあ、本当に欲求不満な人みたいだ。
「疲れた? ご飯にする?」
「…ん。あんま人が多くないところがいいな」
映画の間はずっと座っていたから、本当はそんなに疲れてはいなかったけれど、さっきの映画館のときみたく、ちょっとでも寄り添える場所に行きたい。
「じゃ、行こっか」
そう言った祐介が、少し和衣の手を引いて、自分のほうに引き寄せる。
何? と和衣が思っていたら、祐介は和衣の耳元に顔を寄せた。
「…和衣、そういう顔、しちゃダメて言ったでしょ? いろいろ我慢できなくなるから」
「えっ…」
その言葉に驚いて、ハッと祐介を見やれば、困ったような顔で苦笑している。
「ゆう…」
「ご飯、行こっか」
和衣も相当困惑した表情をしてしまったらしく、祐介は少し笑って和衣から離れた。
「……、祐介、待って!」
和衣は慌てて、先を歩き出した祐介の腕を掴んだ。
「和衣?」
「…ご飯、……じゃなくていい」
「えっ」
クイ、と祐介の服の裾を引く。
「…じゃなくていいよ…?」
何て言っていいか分からないし、たぶんスマートな答え方ではないけれど、でもそれが素直な気持ちだから。
祐介が、嫌じゃないなら。
「いいよ、て言ったの!」
恥ずかしいんだから何回も言わせないで、と和衣は真っ赤な顔で、祐介の袖を離した。
薄暗がりの中だけれど、祐介の顔もほんのり赤みが差しているのが分かる。
「……和衣、」
「行こ?」
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04. ずっと、こうしたかった (1)
ただ祐介と並んで歩いているだけなのに。
でも向かう先は、食事でも、買い物でもなくて。
(ホテル…)
祐介の少し後ろを歩きながら、和衣はゴクッと、口の中に溜まっていた唾液を飲み込んだ。
ホテル…。
俺、これからホテルに行くんだー……と、ボンヤリながら、頭の中を漂う。
睦月にも言われたけれど、やはり寮の一室ではバレるリスクが高いし、かといって、普通のホテルなら宿泊代を払わなければならなくて、お金が掛かりすぎる。
睦月から無理やり聞き出した情報だと、普段2人はラブホテルに行っているらしいから、やはりそこが1番無難なのだろう。
でも和衣は、ラブホテルに行くのは初めてではないけれど、ふざけてでも男同士で入ったことなんて、ただの1度もない。
お客なんだから、男同士だとしても、きっと追い返されないだろうが、でもバレたらやっぱり恥ずかしい。
祐介は、何かバレないための秘策でも持っているのだろうか、それとも和衣は部屋に行くまでの間、バレないようにずっと下を向いていたらいいのだろうか。
だいたい和衣は、ラブホテルに行ったことがあるとは言っても、たったの1回だけだ。
しかもそれは、Wデートと称して翔真たちと一緒に出掛けたときに、翔真たちがホテルに行くとか言い出して、何だかよく分からないまま、和衣たちも行くことになってしまった1回。
彼女よりも緊張してしまった和衣の代わりに、翔真が受付とかをしてくれたから(もちろん部屋は別々だった)、和衣は未だにラブホテルの仕組みがよく分からない。
そういえば睦月からは、『人のいるフロント通らなくてもいいとこ、あるんだよ~。パネルでピッピッて部屋選んで、そのまま部屋まで行くんだよ~』と聞かされたことがある。
もしかしたら祐介は、そういう場所を知っているのかもしれない。
…と、そこまで考えたとき、祐介がどうやってそんな場所を知ったのか、和衣のいらない嫉妬心が芽生えそうになって、慌てて頭の中から追い遣った。
*****
日の落ちた通りはもう暗くて、よほど意識して見なければ、寄り添って歩く2人が男同士だとは気付かれない。
それでも和衣は緊張してしまって、誰かが歩いてくるたび、身を硬くしてしまって、だから祐介に「ここにしよ?」て言われたときも、祐介のシャツの裾を掴んで、コクリと頷くのが精一杯だった。
入ったそこに他のお客はいなくて、和衣はそれだけで少しホッとしたけれど、顔を上げられなくて、祐介に寄り添ったまま俯いているしかない。
バレてないよね? こんなことなら、もうちょっと女の子に見えるような服装のほうがよかったかな? と、和衣の頭の中はグルグルし出す。
「、」
不意に、繋いでいただけの祐介の手が離れ、和衣の肩を抱いた。
ビックリして和衣は身を竦ませたけれど、祐介は和衣の頭を抱き寄せて、「大丈夫」と耳元で囁いた。おかしな話だけれど、それだけで和衣は変な気持ちになりそうで、ちょっとヤバい。
でも確かにこうすると、華奢な和衣の体は祐介の腕の中にすっぽりはまってしまうし、顔も周りから見えなくなるから、逆にバレる心配はなくなるようだ。
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04. ずっと、こうしたかった (2)
「え…、えと…」
やっと顔を上げれば、タッチパネルの画面があって、これが睦月の言っていた『パネルでピッピッて部屋選んで』云々のことかと、分かった。
分かったけれど、どこがいいかと言われても、すでに頭の中が飽和状態の和衣には、それを選べるだけのキャパはない。
「何でもい…、ゆう…」
別に誰も自分たちに変な視線を向けてはいないけれど、緊張してしまって、何でもいいから早く部屋に行って2人きりになりたいと、和衣は顔を真っ赤にしながら訴える。
祐介はその気持ちが分かって、手早く部屋を選ぶと、和衣を連れてエレヴェータに乗り込んだ。
「もう、大丈夫だよ」
まだ部屋には着いていないけれど、和衣を安心させるように、2人だけになった空間、祐介は和衣の肩を抱いていた腕の力を緩めた。
もうそれだけで和衣は力が抜けてしまって、その場にへたり込みそうになる。
「和衣、部屋、そこだから」
「う、ん…」
そうだ。
まだ部屋にまでも辿り着いていないのに、こんなとことでホッとしている場合じゃなかった、と和衣はフラフラになりそうな足に力を入れた。
部屋に入れば、和衣が想像していた以上に広い室内と、明るい照明、大きなベッド。勝手にいかがわしい雰囲気だと思い込んでいたけれど、全然そんなことはなくて、和衣はそれだけですごくビックリしていた。
けれど部屋の内装は、安いシティホテルとは違っていて、やっぱりそういうホテルに来ているんだなぁ、と実感させられる。
「ゆ…」
勝手が分からなくて和衣がキョロキョロしていたら、正面から祐介に抱き締められた。
こんなことくらいで、とは思うけれど、心臓がバカみたいにうるさい。
髪を撫でられて、つられるように顔を上げたら、そのままキスをされた。祐介の指が耳の後ろから項まで辿っていって、そのたびに和衣の体はビクビクと震える。触れられたところが、熱い。
「ん…ぅん…」
唇を舐められたかと思うと、開き掛けの唇の間を割って、祐介の舌が口内に滑り込んで来る。
ピクンと和衣の体は反応したけれど、和衣はすぐにキスに夢中になって、祐介の首に腕を回して、もっと、と求める。
もっと。
もっと欲しい。
「ゴメ……何か、がっついてるよね、俺…」
「…うぅん、俺も欲し…」
祐介も欲しがってくれていることが、嬉しい。
「ぁっ…?」
いきなり足の力が抜けて、和衣はカクリと膝を折ったが、祐介が受け止めてくれて、床に崩れることは免れた。
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04. ずっと、こうしたかった (3)
親指の腹で口元を拭われて、唾液が伝っていたことに気付き、和衣は急に恥ずかしくなった。
恥ずかしくて、嫌々するように首を振ったけれど、すっぽりと腕の中に収められて、身動きできない。
でも、祐介の腕は温かくて、心地よくて、和衣は何だかうっとりしてしまう。
だって、ずっと、こうしたかった。
「祐介…好き…」
キュッと祐介にしがみ付けば、耳元で「俺も好きだよ」て囁かれて、体の熱が上がる。
(俺…変かも…)
和衣は、今自分の中で湧き起って来る感情が、不思議でならなかった。
やっぱり男だから、出来れば挿入する側がいいかも…とか、ベッドの上で『どっちがいい?』て祐介に聞くのは、最高に空気読めてない感じかな? とか思っていたけれど、こうやって祐介に抱き締められて、キスされたり、優しく愛撫されたりしていると、祐介に抱かれたい、と思えてくるのだ。
DVDで見たように、うまくいかなくて、もしかしたら苦しくて断念してしまうかもしれないけれど、それでも祐介に抱かれたい。
「祐介…」
「ん?」
何て言ったらいいか分からなくて、困ったように、腕の中から祐介のことを見ていたら、もう1度深く唇を合わせられた。
もう、何もかも、持って行かれそう。
部屋に入って、まだベッドまでも辿り着いていないのに、もうこんなにグズグズになってしまって、自分は本当にどうにかなってしまったのかもしれない。
でももう我慢できなくて、和衣は祐介の瞳を見つめたまま、消え入りそうな声で思いを伝えた。
「俺ね、祐介に、抱かれたい…」
*****
実は和衣が蒼一郎師匠のもと、睦月まで巻き込んでこっそりとお勉強していたころ、祐介は祐介で、頭を悩ませていた。
いくら真面目だとはいえ、祐介だって年相応の男子らしく性欲だってあるのだが、天然で一生懸命な性格のかわいい恋人は、そこを分かっているのかいないのか、無自覚に誘うような表情をするのだから、タチが悪い。
しかも後で知ったことだが、和衣は、祐介と一緒にいても全然そんな雰囲気いならないー! どうしてー!? と、真剣に悩んでいたらしい。
こちらは己の欲望を曝け出さないよう、必死だったというのに。
そしてそんな祐介の密かな悩みに気付いてくれたのは、意外にも亮だった。
気付いたというよりは、亮が勝手に睦月とのことをベラベラ喋っているうち、そういえば祐介と和衣はどうなの? という話になったのだ。
「別に…どうもないけど」
そんなつもりはなかったが、思わずぶっきら棒な返し方になってしまった。けれど亮は気にするふうもなく、「お前って、案外辛抱強いのな」と、ニヤリと笑った。
そんなの、それこそ『別に』だ。
もっと、うまいこと出来るような、器用な性格だったらよかったのに、と何度思ったことか。
祐介が1人でこっそり落ち込んでいたら、亮は何を思ったのか、お勧めのラブホテルまで紹介してくれた。
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04. ずっと、こうしたかった (4)
「……」
普段、『むっちゃん』なんて呼んだら、ウザいとかキモイって言われるくせに。
しかも亮と睦月がよく使うところなら、下手したら、そこでバッタリ遭遇するなんていう、最悪な状況にもなりかねないのに。
「…ていうか、お前ら、ホントにヤってんだな」
祐介のノートの端に、勝手に汚い地図まで書いてよこした亮に、思わず呟きが漏れてしまった。
それこそ亮も睦月も健康な肉体に健全な精神を宿した男の子だから、当然のことだろうけれど、しかし睦月は、過去の忌まわしい出来事から、一時期は父親ですら男の人に触れられるのは苦手だったのに。
睦月はゆっくりと時間を掛けて、相手の気持ちを無視して力ずくで事に及ぼうとする男は、実はそういないのだと分かり、ようやく心の平穏を取り戻したのだ。
ただそれは、セクシャルな意味を持って睦月に接しようとする人間が周囲にいなかったからで、だからこそ睦月は、みんなに心を許すようになったのだと、祐介は思っていたけれど。
亮とは、その一線さえも越えて触れ合い、抱き合う。
普段はご飯係だのと散々に言われてはいるが、結局のところ、本当に睦月の心を開かせたのは亮で、今何よりも睦月に必要な人は彼以外いないのだと思う。
「ったりめぇだろ、恋人同士なんだから!」
言ってみて恥ずかしかったのか、亮は祐介の肩をバシンと叩いた。
けれどその直後、亮は平然と爆弾を落とした。
「つーかさ、お前、男同士のやり方とか、知ってんの?」
「はぁ!?」
何を言うのかと思ったら、ズリズリと身を乗り出して来た亮が、声を潜めてそんなことを尋ねて来て、普段の祐介には似つかわしくない大きな声を張り上げてしまった。
「なっ…何、は? 何言って…」
「いや、別に俺、お前が今日まで寂しい童貞くんだとは思ってねぇけどさ、男となんかしたことねぇだろ? さすがに」
動揺しまくる祐介をよそに、亮は真面目な顔でとんでもないことを言い出すから、祐介はますます焦る。
確かに亮の指摘は間違っておらず、女性との経験はあっても、男とそんな関係に至ったことは、今まで1度だってない。だいたい、和衣だからこそ好きになっただけで、別に祐介は、女性より男のほうが好きというわけではないのだ。
「ホテル行ったはいいけど、やり方分かんなくて出来ませんでしたーじゃ、ドン引きじゃね?」
「…………」
言葉には詰まるが、しかし亮の言い分を間違っているとは思わない。
ドン引きかどうかは別として、うまくいかなければ、互いに気まずい思いをするのは目に見えている。
だいたい、自分は男の体に反応するのか?
それで自分がショックを受けるだけならいいが、和衣を傷付けるようなまねはしたくないし。
「おいおい…、や、そんなに深刻そうな顔すんなよ。別に平気だって。ヤることは女と一緒だからさ」
使う場所が違うだけで、と亮は、こんな真っ昼間にする話じゃないだろうということを、こっそりと付け加えた。
そう言われて、祐介だって、「え、じゃあどこ使うの?」と聞き返すほど間抜けではない。ないけれど、ただ、そう言われても、実感が湧かないだけだ。
女性とだって、ノーマルなセックスしかしたことがないし、本当に和衣とそんなことが出来るのだろうか。
「だから、そんなに深刻になんなって。平気、へーき」
そう言って亮は、聞きもしないのに、男同士のセックスのやり方を祐介にレクチャーし始めた。
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04. ずっと、こうしたかった (5)
そして一通り聞き終えて、祐介はふと気付いたのだ。
「亮、お前…それは俺がヤる側だと前提して話してるよな?」
「ぅん? だけど? え、まさかカズがヤるほうなの? そうなの? お前、突っ込まれてぇの?」
「いや、そうじゃないけど! でも和衣だって男なんだし、ヤられるのは…」
「あー…まぁ、そうだけど…。でも俺、睦月にヤられたことないから、逆の立場は分かんねぇや」
…ということは、セックスにおいての2人の立場は、亮が挿入する側で、睦月が受け入れる側だということだ。
「よく睦月が、それを許したな…」
「うーん…まぁ。抵抗されてまでするつもりはなかったけど、何か別にいいよ、みたいな感じで…」
亮だって、睦月の過去を知らないわけではない。
だからそうなったときに、抵抗されてまで無理に先へ進もうとは思っていなかったけれど、睦月はこちらが拍子抜けするほどあっさりと、亮を受け入れてくれた。
『亮とだから、平気な気がする』
サラリと、無自覚にそんな殺し文句を吐いて、睦月は亮に腕を伸ばしてくれたのだ。
「ま、俺は、お前らのどっちがどっちでもいいけどさぁ」
ひどく深刻そうな顔をしている祐介に、亮はわざとのん気そうに声を掛ける。
男同士のセックスで、どちら側の役割になるかは、きっととても重要なことだけれど、愛し合う2人なら、乗り越えられない問題ではない。
「あー、でもさぁ、」
――――お前がヤられるほうだったら、どんなだったか、感想教えて?
せっかくいいことを言った後なのに、亮はそんなことを付け加えて、その直後、思い切り祐介にど突かれた。
*****
まさか亮と祐介の間でそんなやり取りがあったことなど露ほども知らない和衣は、睦月と一緒にゲイのDVDまで見て勉強していたわけだが、その成果が表れたのか、それとも祐介の隠し切れない情熱や欲望が伝わってしまったのか、何と和衣のほうから誘われてしまった。
祐介は、たまたま場所が近かったからだと自分に言い訳をして、亮から教わったラブホテルへと向かった。
亮の言っていたとおり、タッチパネルで部屋を選んだ後、フロントで鍵を受け取らなくてもいいシステムだったので、それだけは心底ホッとした。
どんな部屋がいいか選ばせようとしたら、和衣は緊張でガチガチになっていたので、出来るだけ普通の感じの部屋を手早く選んで、和衣を連れてエレヴェータに乗り込んだ。
部屋に入るまでの間、和衣はバレたら困ると思っているのか(それは祐介も同じ気持ちだが)、ずっと俯いて身を小さくしているから、何だかひどく悪いことをしているような気分になって、その肩を抱き寄せた。
和衣の体なら、何度も抱き締めたことはあるけれど、抱き寄せた肩は思いのほか華奢な気がして、腕の中にすっぽりと納まるその体に、愛しさがこみ上げる。
「ゆ…」
やって来た部屋で、物珍しそうにキョロキョロしている和衣の体を抱き締めれば、いつもより速い調子で鳴っている自分の鼓動に、和衣の心臓の音が重なる。
キスをすれば夢中で返してくれるし、些細な愛撫にも敏感に反応する、和衣の体。
全部いとおしい。
ずっと、こうしたかった。
「祐介…好き…」
腕の中、とろりと蕩けた瞳で見つめられ、祐介は剥き出しになりそうな自分の欲望を何とか堪えて、「俺も好きだよ」と返す。
そして戸惑うような瞳の和衣は、キスの後、消え入りそうな声で、
「俺ね、祐介に、抱かれたい…」
けれどはっきりと祐介に、そう告げたのだった。
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05. 嫌だ、怖い (1) R18
シャワーを浴び終えたばかりの体は、しっとりと色香立っている。
広いベッドの上、2人とも生まれたままの姿で抱き合い、キスを貪る。
「ふ、ぅ…んっ」
舌を絡め取られ、その付け根を強く吸われると、和衣の細い体がビクリと跳ね上がった。
キスだけでこんなに感じたことはなくて、和衣は恥ずかしくて身を捩ったけれど、容易く押さえ込まれ、さらに深く口付けられる。
(キス…気持ちい…)
和衣は、口の中に溜まった唾液を、コクリと喉を鳴らして飲み込んだ。
多分もう、どちらのものともつかないけれど、不思議と、他人の唾液を飲み込むことに抵抗はなかった。
「和衣…」
「ぅん…ヤ…」
キスから解放され、口内から甘い舌が去ると、和衣は不満そうな声を上げて、祐介の首に回した腕を引き寄せた。
「ん?」
「や…キス…」
まるでおもちゃをねだる子どものような、そんな幼い表情で、和衣はキスの続きをせがむ。
ねだられるままにキスを与えながら、祐介の手は下へと滑っていき、熱を帯び始めた和衣の下腹部に触れた。
その間も祐介の手は優しく和衣の肌の上を辿って行き、和衣の熱を煽っていく。
祐介に触れられたところが熱くて、和衣は、本当は自分だって祐介のことを気持ちよくさせてあげたいのに、そのためにいろいろ勉強したのに、その熱に翻弄されて、少しも思うようにならない。
「はぅ、っ…ん、や…ゆう…」
祐介の首から手を離した和衣は、困ったように祐介の手に自分の手を重ねた。
「ん? ヤ? 和衣?」
男の体に、そういうつもりで触ったことなんて1度もないから、祐介だってよくは分からないけれど、男として感じる部分は自分と同じだろう。
そう思って、すでに反応を見せ始めている和衣の中心に触れれば、困ったような顔で止められてしまった。
「ちが…俺も、する…」
和衣は今にも泣き出しそうな表情をしていて、もしかしたら自分に触られるのは嫌なのだろうかと、悲しい予感が浮かんだけれど、和衣は頬を赤くして、吐息とともにそんな言葉を吐き出すから、不覚にもそれだけで祐介の熱も高まってしまった。
たどたどしい手付きで祐介のモノに触れた和衣は、祐介の肩口に縋りながら、懸命に手を動かした。
「は…ん、」
祐介のもう一方の手は、相変わらず胸やら項やら背中を撫でて行って、和衣はもう息も絶え絶えなほどになっているけれど、自分の名前を呼ぶ祐介の声も上擦っているし、手の中の祐介自身もちゃんと反応を見せていて、ホッとする。
自分でもちゃんと、祐介を気持ちよくさせてあげられてるんだ。
「かず…」
「ふ…ぅ、ん…」
和衣の懸命な仕草に心を揺さぶられつつ、祐介は、和衣の首筋に舌を這わせた。
その白い肌は、少し吸っただけで痕が付きそうだったけれど、こんな目立つ場所にキスマークなんか付けられないと、祐介は自重した。それ以前に、寮の風呂は共同で、みんなの前で裸になるのだから、服で隠れる場所だとしたって、付けるわけにはいかないのだけれど。
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05. 嫌だ、怖い (2) R18
「ひゃっ…や、あん…!」
不意に祐介の指先が和衣の胸の突起に触れ、和衣の口からあられもない声が飛び出した。
「ひ、ぅ…」
思わず口をついて出た、自分でも聞いたことのないような甘ったるい声に、和衣は恥ずかしくて堪らなくなったけれど、耳を塞ぐことも、唇を噛み締めることも出来ず、ただただ首を横に振る。
少し長くなった黒髪が、パサパサと揺れ、濡れた首筋に張り付く。
「や…ゆう、やぁっ…!」
「…ん」
イヤイヤするのに、そこが和衣の感じる場所だと祐介に知れてしまって、チュッと唇で愛撫されてしまう。
舌先に優しくなぶられて、ガクリと和衣の喉が仰け反った。
「や、やぁっ、そ…しないでっ、ゆう…!」
和衣は反対の手で、必死に祐介の肩を押して抵抗する。
男のくせに胸なんかで感じちゃって、そんなの絶対変だと思うけれど、そんな和衣の体を祐介はいとおしそうに愛撫するし、その手の中、和衣の熱ははち切れそうなほど膨れ上がっている。
「あっ…ゆう、待って、んんっ…!」
ビクンと和衣の白い体が跳ね上がって、祐介の手の中に欲望を放ってしまう。
「ふ…く、待って、て言った、のに…」
感じるままに解放してしまった自分が恥ずかしくて、和衣は目を潤ませながら祐介の手を払って、身を小さくした。
「ゴメン、和衣…でもかわいかった」
「かわいくな…」
力の抜けてしまった和衣の体をもう1度組み敷いてキスを繰り返せば、スンスンと鼻を鳴らしながらも、和衣はそのキスに応える。
祐介も、本当は和衣に優しくしたいと思っているのに、思わず涙を零してしまった和衣の泣き顔をかわいいと思ったり、もっと泣かせたいと感じてしまったりするなんて、自分でもどうかしているような気がするけれど、でも止まらない、衝動。
「和衣…続けていい?」
「…」
「もう…嫌になっちゃった?」
コツリと額を合わされて、唇に吐息が掛かるほどの距離で尋ねられる。
分かってやっているわけではないだろうけれど、そんな表情をするなんてズルイと和衣は思う。
それでNoとなんて言えるわけがないのに。
「祐介…」
和衣は両腕を伸ばして、祐介に背中を抱いた。
触れ合う素肌。
(あったかい…)
あんまりにも心地よくて、和衣は一瞬、すべてを満たされてしまったかのような気がしたけれど、でも本当に求めていたのはこれで終わりじゃなくて、和衣は蕩けてしまいそうな体を何とか動かして、祐介の体のラインに指を這わせた。
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05. 嫌だ、怖い (3) R18
「祐介にも…気持ちよくなってほし…」
「気持ちいいよ? すごく」
嘘…と、和衣は声にならない声で呟く。
絶対自分ばかり気持ちよくなっているし、欲しがっていると思う。
「ゆう…」
特別鍛えているわけでもないなのに、キレイに筋肉の付いている祐介の体。
祐介に触れられて、和衣が持て余すくらい体の熱を上げてしまったように、自分がそうすることで、祐介が気持ちよくなってくれたり、熱に翻弄されてくれたりしたらいいのに。
「かず…」
「…ん? ぁん…」
首元に感じる、祐介の熱い吐息。
祐介の手が、和衣の太ももの内側に触れる。ゾワリとした感覚が背中を這い上がってて、和衣は思わず祐介に抱き付いた。
「な、に…? や…」
戸惑うような和衣の声がしたのは分かったけれど、祐介は手を止めることが出来なくて、恥ずかしさから閉じようとする和衣の足を押さえる。
何? 何? と当惑した様子の和衣を怖がらせないように、片手で和衣の髪を撫でてあやしながら、太ももを撫でていた手を双丘へとずらす。
「ゆう…?」
不安そうに、和衣は祐介を見上げたときだった。
「あっ、いやっ…!」
祐介の指が明確な意図を持って、その双丘の間に触れた瞬間、ビクンと大きく和衣の体が跳ね上がり、図らずも和衣は祐介を拒んでしまった。
「あっ…ゴメ…!」
和衣の言葉に、弾かれたように祐介は身を引いた。
「…………」
「…………」
和衣は、起き上って自分から離れてしまった祐介を見て、ようやく自分が何をしたのかに気が付いた。
自分から祐介に抱かれたい、て伝えたのに。
なのに、拒絶の言葉を以って、祐介を突き放してしまった。
「ちが…祐介、違うの…、俺…」
慌てて取り繕うとしても、うまくいかなくて、思わず涙が溢れてしまう。
「ゴメン、和衣、ゴメ…」
「や、ちが…ふぇ…」
離れてしまった、祐介のぬくもり。
それが怖くて、和衣は祐介のほうへと手を伸ばそうとしたけれど、涙が止まらなくて、それを必死に拭う。
「ヒック…うぅ…」
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05. 嫌だ、怖い (4) R18
ちゃんと出来るように、あんなに勉強したのに。祐介に抱かれたい、て本当に心から思ったのに。
でも結局こんなことになってしまって、自分のダメダメさに、和衣は悲しくて涙が止まらない。
祐介を気持ちよくさせてあげることも出来ないし、ちゃんと先にも進めないし、しかもこんなふうに泣いてしまって、きっとすごく面倒くさいって思われてる。
「ゆう…ゴメ、俺…」
ボロボロと涙を零しながら、和衣は両腕で顔を覆って、身を小さく縮こまらせた。
本当に、自分の空気の読めなさに泣けてくる。いや、泣いているから、空気はぶち壊しなのだ。
ここでやめるにしろ、このまま続けるにしろ、和衣が泣いていたら、どちらにも進めないのに。
「和衣…こっち見て?」
「や、や…」
祐介の優しい手が、和衣の頭を撫でる。
まるで子供をあやすような仕草。
けれど和衣は、首を振ってそれすらも拒んでしまう。
「和衣、お願い」
震える体を抱き締める。
冷たくなった指先に口付けると、和衣はヒクンと体を震わせ、怯えたように祐介に視線を向けた。
「…ゴメン、怖がらせて」
「ちが…祐介、俺…」
ちゃんとしたいよ。
祐介と、この先も。
伝えたいのに、うまく言葉にならない。
こんな最悪な空気にしてしまって、それでも祐介が優しくしてくれるから、余計に泣けてくる。
「祐介…続き、しよ…?」
「え、でも…」
「や…するの…」
まだしゃくり上げながらも、和衣は懸命に祐介に腕を伸ばした。
「和衣、無理しなくてもいいんだよ?」
「無理じゃな、い…! ビックリ、しただけ、だから…」
――――嫌いにならないで…?
それは、和衣が一番怖かったこと。
たぶん祐介は、セックスがうまくいかなかったくらいで、和衣のことを嫌いにはならないだろうけど、でもあんなに和衣が拒絶したら嫌気が差すかもしれない。
祐介に嫌われてしまったら、和衣は、もう絶対生きていけない。
「嫌いになんかなるわけないよ」
「でも…」
「ならないよ」
涙に濡れた和衣の頬を拭って、祐介はその目をまっすぐに見つめたまま、ハッキリと言った。
「和衣…好きだよ。こんなことくらいで、嫌いになったりしないし、……さっきのも、和衣がビックリしただけだって分かるから…」
「…ん」
「俺もちょっとビックリしたけど…」
「…ゴメンなさい」
和衣が素直に謝れば、祐介の笑う雰囲気が伝わって来た。
「ね、和衣…」
「え…?」
「和衣が続き、ホントにしたいって思ってるなら…」
「ぅん?」
――――もう、イヤだって言ったって、止めないよ?
和衣の返事は、そのまま祐介のキスによって塞がれた。
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06. 余裕はないけど (1) R18
「は…ぁ、ん…」
ベッドに横たえられると、首筋に、胸に、脚に、全身に祐介のキスを受け、和衣は両手で顔を覆って、その淫らな快楽に体を震わせた。
こんな、与えられるばかりの快感なんて、と和衣は思っていたけれど、祐介は「俺が和衣に触れたいの。キスさせて?」と瞳を覗き込んでねだるから、その目に弱い和衣は、コクリと頷いたのだった。
「ふ、ぅ…あぁっ…」
太ももの内側、柔らかい部分をベロリと舐め上げると、快感に弱い和衣の体がビクッと揺れた。
自分の与える愛撫で、こんなにも感じてくれる和衣に嬉しくなると同時に、和衣が祐介のことも気持ちよくさせてあげたいの! と躍起になる気持ちが少し分かった。
なのに和衣ときたら、祐介が和衣に触れられたがらないのは、やっぱり自分がへたくそで、祐介のこと、全然気持ちよくさせてられてないからなのでは? なんて1人で切なくなっているから、そんなわけないでしょ、と隠していた顔を暴いて、頬を引っ張った。
「和衣は、何でそんなに自分に自信がないの?」
「…だって」
「俺のこと、こんなにメロメロにしてるのに?」
和衣が祐介のことをよくしてあげたいと思うように、祐介だって和衣に対してそう思ってるからだって、どうしてそうは思わないの?
「だって、そんな…」
それでも和衣はまだ、何だか納得していないみたいな顔をしている。
和衣は、自分では何にも出来てないみたいに、1人で勝手に落ち込んでいるけれど、そのしどけない姿を見ているだけで、祐介は欲望を突き動かされて、平気な顔をする余裕なんて全然なくなってしまうのに。
「余裕なんか、全然ないよ」
「ぁ…」
甘やかすようなキスをしながら、祐介は和衣の足を開いた。
祐介は、和衣がDVDやネットで見て驚愕したような大胆な格好はさせなかったけれど、好きな人の前で足を開くのはやっぱり恥ずかしい。
和衣は反射的に足を閉じそうになって、けれどそれは、やんわりと阻まれた。
そういえばさっき、もう止めないと言われたのだ。
「ふ、ぅ…」
祐介の濡れた指が、先ほどは拒んでしまったソコに、再び触れた。
一瞬、和衣は体を強張らせたけれど、先ほどのような激しい拒絶はなく、縋るように和衣は祐介の腕を掴んだ。
「大丈夫だから、和衣、力抜いて…?」
「…ん、ゆう…、あっ…」
先ほどのように驚かさないよう、和衣の双丘の間にローションを垂らせば、冷たさと初めての感覚に和衣の体はビクリと震えて固まった。
「和衣?」
「へ…き、だから…」
少しずつ入り込んで来る祐介のキレイな指先に、和衣は固く目を瞑って息を詰めた。
思わず嫌だと言ってしまいそうになり、和衣は慌てて唇を噛む。それに、そうしていないと、あられもない声を上げてしまいそうなるから。
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06. 余裕はないけど (2) R18
「和衣、唇噛んじゃダメ」
「らっ、て…」
祐介は空いているほうの手で、和衣の噛み締めた唇に触れた。
もう舌も回らなくなっている自分に戸惑いながら、和衣は恨めしげに祐介を見る。
「ダーメ」
「あぁんっ……んん…」
さらに奥まで指を進められ、唇を噛み損ねた和衣は甘い声を上げてしまうが、和衣が手で口を塞ごうとするより先、祐介がキスを仕掛けて来るから、行き先をなくした和衣の手は、そのまま祐介の背中を抱いた。
甘い舌が、和衣の大好きな祐介の舌が滑り込んで来て、唇を噛むどころか、口だってまともに閉じられない。
「うぅん…」
指を増やされ、中を掻き混ぜられる。
どうしたらいいか分からなくて、和衣は祐介の背中に回していた手に力を込める。こんなことしたって、祐介に縋ったって、今和衣をこんなふうに追い詰めているのは祐介なのに。
「ひっ…く、ぅ…」
痛いというわけではないけれど、体内には異様な異物感があって、本当にこの先に快楽が待っているとも思えないし、けれどそれでも、このままやめてしまうなんて出来なくて、和衣は必死にそれに耐えた。
だって祐介は、嫌だと言っても止めないと言ったけれど、和衣が本気で嫌がれば、きっとその先へ進むことはやめてしまうだろう。
そんなのイヤだ。
祐介と1つになりたい。
「ふぅ…んぁっ…!」
不意に祐介に指が触れた場所に、意識もせずに和衣の体が跳ねた。
ビックリした拍子に歯を食い縛りそうになって、でもそうすると祐介の舌を噛むことになるから、それにも驚いて、和衣は首を振ってそのキスから逃れた。
「和衣?」
明らかに様子の違う和衣に、祐介は手を止めてその顔を覗き込んだ。
「ぅん? 痛い?」
「ちが…ちが、あ…ぁ…」
和衣は上擦った声で、そうではないとそれだけは否定するけれど、祐介は心配になって、和衣の体内に埋め込んだ指を引き抜こうとした。
「ヤッ…!」
すると、意図せず和衣の中は、逃がすまいとでもするように、その指を締め付けてしまった。
無意識とはいえ、そんなことをしたのは和衣自身にも分かったらしく、途端に顔が真っ赤になる。
「何、ヤ…俺、何か変…」
「変じゃないよ。和衣、痛くない?」
「ない、けど……だって、ぁん…何か変…だもん、俺…」
「中?」
先ほど掠めた和衣の中、祐介はもう1度、その場所に触れる。
「あっ、あぅっ…!」
引きずり出される快感。
そんな、今まで誰にも(もちろん自分でだって)触れたことのないところなのに。
未知の快楽を紛らわすように、和衣は首を振る。
「あぁ、ぅん…」
イヤイヤするような仕草だけれど、和衣が本当に嫌がっているわけではないことは分かる。というよりもむしろ、淫らに、艶やかに、和衣は体をしならせる。
祐介は宥めるようにキスをしながら、和衣の感じる場所をさらに探っていく。
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カテゴリー:Baby Baby Baby Love
テーマ:自作BL小説 ジャンル:小説・文学
06. 余裕はないけど (3) R18
「ヤダ、ヤ…」
「嫌? ホント?」
嫌だと言う言葉とは裏腹に、ずっと触れていなかった和衣の中心は、再び熱を持って擡げ始めていて。
「分かんな…、ヤッ、こわ…」
「和衣、拒まないで……俺見て?」
「あっ…あ、ん…」
けれど、キュウと固く閉じたままの、和衣の瞳。
まなじりにキスを落とすと、ヒクリと濡れた長いまつ毛が震えた。
「和衣…」
「ひ、ぅ…」
まるで追い上げられるような感覚が怖い。
直に触られているわけでないのに、下腹部にどんどんと熱が集まっていって、自分の体なのに、何だか全然分からない。
「や…も、ヤダ…やめ…」
「…ダメ。もうやめない、て言った」
「んぁ…!」
ハラリと零れた涙を舐め取って、祐介は和衣の中から指を引き抜いた。
ようやく体内からなくなった異物感に、和衣はホッと息をついたけれど、このまま祐介がいなくなってしまうような気もして、寂しくて、ゆっくりと目を開けた。
「ゆ、う…」
「…ん?」
何も心配しなくても、祐介はそこにいてくれた。
優しく和衣の髪を掻き上げ、額にキスを1つ。
「ゆ、すけ…」
「ここにいるよ?」
祐介は和衣を落ち着かせるように、シーツの上に投げ出されていた手を取って、指と指を絡める。
心臓の音が重なって、けれどすごく速く高鳴っているのは自分だけではないと、和衣は気付いた。祐介も、すごくドキドキしてる。
余裕はないと言った祐介の言葉は、口先だけではなかった。
「当たり前でしょ、和衣のこと、こんなに好きなんだから…」
「…ん」
下唇に軽く歯を立てられた後、唇を食むようにして深く口付けられる。
どうしても祐介のキスには、弱い。
指まで絡めて手を繋いで、瞳を閉じない、見つめ合ったままのキス。
(どうしよう…すごい好き…)
もう何度も思って来たことだけれど。
祐介のことが好き。
大好き。
「祐介…」
キスの合間に名前を呼べば、祐介はすごく嬉しそうに微笑んで、好きだと言ってくれる。
2人同じ気持ちでいられることが、ひどく嬉しくて、和衣は自分のほうからもう1度キスをする。
キスで繋がっているだけで、こんなにも満たされるのに、祐介と1つになれたら一体どんな感じなんだろう。
繋いでないほうの手が膝裏に差し込まれて、片足を抱え上げられる。
恥ずかしいような気もしたけれど、もうよく分からない。
「ぁ…」
先ほどまで指で慣らされていたソコに、祐介の熱が押し当てられて、和衣は少し身を竦ませたけれど、もう祐介を拒もうとはしなかった。
いい? とキスの合間、吐息とともに尋ねられ、和衣は小さく頷いた。
もう、止められない。
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07. 止まれない衝動 (1) R18
*R18です。18歳未満のかた、そういったものが苦手なかたはご遠慮ください。
ローションを垂らしながら、和衣の中に少しずつ指を埋め込んでいけば、思った以上に狭いソコに、一瞬だが不安がよぎった。
最初のように和衣は拒まなかったけれど、指1本ですらこんなにキツイ場所に、本当に自分のモノが入るのか。
そう思ったけれど、固く目を閉じて、痛みかはたまた違和感に堪えるように祐介の腕に縋って来る和衣に、その不安が伝わらないようそっと和衣の頬を撫でた。
「大丈夫だから、和衣、力抜いて…?」
「…ん、ゆう…、あっ…」
大丈夫だからなんて、経験もしたことのない祐介が言ったって、何の説得力もないけれど。
気休めにしかならないと分かっていながら、和衣を怯えさせないように指を進めれば、和衣は声を我慢したいのか、キュッと唇を噛み締めた。
「和衣、唇噛んじゃダメ」
「らっ、て…」
反対の手で和衣の唇に触れれば、舌足らずな声と恨めしげな視線で和衣は反論してくる。
キツク目を瞑っていたせいか、うっすらと潤んだ瞳に、それだけにすら、祐介は欲望を揺さぶられる。
一体どうして、自分のことをよくしてあげられないと、和衣が嘆くことがあるだろう。
「ダーメ」
「あぁんっ……んん…」
声を聞きたいというだけでなくて、そんなに唇を噛んだら傷になってしまうと、祐介はキスで和衣の唇を塞いだ。
指をさらに奥までうずめると、和衣は祐介の背中に腕を回して来る。
和衣はキスが好きだから(祐介だってもちろん好きだけれど)、唇を割って舌を忍ばせれば、途端にその体から力は抜けて、祐介はその隙に指を増やした。
「ひっ…く、ぅ…」
キスの隙間に漏れた声に和衣の顔を盗み見れば、辛そうな表情をしていて、けれどそれがバレないように必死に堪えているのが分かるから、余計に胸が痛む。
祐介だってこんな状態でやめてしまうのは大変辛いけれど、和衣に無理をさせてまで続ける気はない。
でもきっと和衣は、ここでやめられるのを嫌がる。
拒みたいわけではない。ただ、初めての感覚に、体と頭が付いていかないだけで。
祐介にもそれが分かるから。
だから、もうやめない。
「ふぅ…んぁっ…!」
ゆっくりと探るように和衣の中を掻き混ぜれば、突然和衣の体が大きく跳ね上がった。
首を振ってキスから逃れる和衣の様子が、今までとまるで違うから、心配になって祐介はその顔を覗き込んだ。
「ぅん? 痛い?」
「ちが…ちが、あ…ぁ…」
口では痛くないと言うけれど、ビクビクと体を震わせている和衣を見れば、とても大丈夫そうには見えなくて、いったんその指を引き抜こうとした、けれど。
「ヤッ…!」
反射的にか、和衣の中は祐介の指を締め付けて、祐介は驚いて手を止めた。
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07. 止まれない衝動 (2) R18
最初は何とか祐介の指を押し出そうとしていたのに、今度はその指を逃がすまいとでもするように、ギュッと強く締め付けてくるから。
「…」
和衣の反応に驚きつつも、祐介は衝動に突き動かされそうになる自分を何とか抑えて、首筋まで真っ赤に染めて恥ずかしがる和衣の中に指を進める。
「何、ヤ…俺、何か変…」
「変じゃないよ。和衣、痛くない?」
「ない、けど……だって、ぁん…何か変…だもん、俺…」
「中?」
痛くはないと言う和衣の言葉を信じて、祐介は様子を探りながら、今和衣が大きく反応した場所に、もう1度触れてみる。
「あっ、あぅっ…!」
指を動かせば、和衣は首を振って嫌がるような素振りを見せるけれど、中は絡み付くように蠢いているし、キレイにしなるその体は艶めかしい。
仰け反った白い喉に思わず歯を立てたくなって、そんな衝動に苦笑いするしかない。
「あぁ、ぅん…」
そんな場所、誰にも触らせたことなんてないだろうに、今自分はそこで和衣の快感を導き出していて。
何とも言えない高揚した気持ち。
今まで誰にも感じたことない。
「ヤダ、ヤ…」
「嫌? ホント?」
和衣があまりにも嫌だと言うから、心配になって尋ねれば、けれど和衣の体は口よりもずっと素直で、ずっと触れていなかったのに、1度は萎えたはずの和衣の中心は再び熱を帯びている。
「分かんな…、ヤッ、こわ…」
「和衣、拒まないで……俺見て?」
「あっ…あ、ん…」
未知の快感が怖いのか、けれど嫌だと言っていた口からは艶めいた声が零れて。
固く閉じた和衣の瞳。
その目を開いて、自分を見てほしい。
「和衣…」
「ひ、ぅ…」
怖がらせているのは分かっているけれど。
でも、止められない。
もっと和衣を追い詰めて、追い上げて、もっと自分だけに溺れさせたい。
「や…も、ヤダ…やめ…」
「…ダメ。もうやめない、て言った」
「んぁ…!」
まなじりから零れた落ちた涙を舐め取って、和衣の中から指を引き抜く。
呼吸が整わないまま、和衣は頑なに瞑っていた目を開けて、不安そうに祐介の姿を捜している。
ねぇ、俺だけを、見て?
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07. 止まれない衝動 (3) R18
「ゆ、う…」
「…ん?」
汗で張り付いた前髪を掻き上げて額にキスを落とせば、和衣はホッとした顔で祐介の名前を呼ぶ。
掠れた甘い声が、耳を擽る。
「ゆ、すけ…」
「ここにいるよ?」
クタリとシーツの上に投げ出された、和衣の細い腕。
そういえば高校のころ、野球部でピッチャーだったと前に聞いたけれど、こんな細い腕で? と思わず聞きたくなってしまう。聞いたら聞いたで、拗ね拗ねになるのは分かるから、今まで1度も言ったことはないけれど。
そんな細い腕を辿って、指を絡める。
和衣はまだ、祐介に余裕があるとでも思っていたのか、抑え切れない祐介の欲望に気が付いて、少し驚いたような顔をする。
余裕なんてあるわけないのに。
「和衣のこと、こんなに好きなんだから…」
「…ん」
濡れて赤く色付いた和衣の唇に、衝動的に深く口付ける。
溢れ出す思いを込めて。
「祐介…」
キスの合間に名前を呼ばれ、繋いだ手から、逸らさない瞳から、好きだという感情が伝わって来る。
今、和衣と同じ気持ちでいれることが、嬉しい。
1つになれることが。
「好きだよ、和衣」
思いを伝えれば、和衣は幸せそうに目を細める。
和衣からのキスに応えながら、繋いでいないほうの手で和衣の膝裏を救う。片足を抱え上げれば、和衣は恥ずかしそうに一瞬目を逸らしたけれど、ゆっくりと瞬きした後、祐介のことをきちんと見つめ直す。
祐介はいつの間にか口の中に溜まっていた唾液を飲み込むと、熱く高ぶった自身を、和衣のソコに押し当てた。
「ぁ…」
ヒクリと和衣の体が緊張で固くなったのが分かったけれど、もう止める気はない。
宥めるように頬や耳元に口付けながら、少しずつ身を進める。
「和衣…」
「ぁ…ぅ、ん…」
それこそ指ですら初めて受け入れた場所だ。どんなに和衣ががんばってみても、思うように体は開いてくれない。
祐介はそれをもどかしいとは思わなかった。困惑しつつも受け入れようとする和衣が愛おしくて、手をもう1度繋ぎ直すと、和衣の細い腰を抱き寄せた。
「んー…」
「和衣…カズ…」
「ふ、ぅ…ゆう…」
今までの中で、1番近くに相手を感じる。
ずっとずっと近い場所。
「好き…」
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08. 大事に壊して (1) R18
思ったとおりというか、想像以上にというか、指で十分に慣らしたとはいっても、和衣の中はずっと狭くて、祐介はグッと奥歯を噛んで堪えた。
「ぁ…ん、ヤ…痛…」
もう絶対に拒みたくはないけれど、先ほどまでの指とは違う圧倒的な質量に、和衣は無意識のうち、逃げ出すように身を捩った。
けれど祐介は、繋いでいないほうの手で優しく和衣の腰を抱いて、宥めるように、あやすように腰骨の辺りをなぞる。
「和衣、ゴメ…もっと力抜いて…」
「ひ、ぅ…、ん…」
祐介がキツイのが分かって、和衣は一生懸命体の力を抜こうとするけれど、自分の体なのに全然思うようにならなくて、祐介に縋り付きながら首を振る。
和衣の頭の中には、睦月と一緒に見たDVDとか、ネットで調べたこととか、いろんなことがよぎるけれど、それこそあんなに勉強したのに、どうしてか、全然うまく出来ない。
祐介と1つになれるんだ、て思えば、この苦しさも辛くはないけれど、でもこんな体、すごくもどかしい。
「う…ん」
首筋を、祐介の唇が滑っていく。
祐介だって、きっとすごく辛いはずなのに、こんなにも優しく和衣のことを扱ってくれて。
お願いだから、自分ばかりを、こんなに甘やかさないでほしい。
その欲望に忠実に、貫いてほしい。
「だ、って…、そんな、したら……和衣、壊れちゃうよ…?」
「壊れな、い…、あぁ…!」
うぅん、壊してくれていい。
いいから。
「祐介…お願…」
繋いでいた手、絡めた指先に力を込める。
瞳を開ければ、涙がこめかみへと伝っていく。
「…ん、分かった、から……和衣、息吐いて…?」
「ぅ、ん…」
緊張と不安でガチガチになっていた和衣は、もう息を吸うことも吐くこともままならない状態だったけれど、言われたとおり、何とか息を吐き出した。
手の甲で頬を撫でられながら、浅い呼吸を繰り返していると、ゆっくりと、押し開くように祐介が中へと侵入して来た。
(中…、祐介のが…)
すべてを暴かれるような感覚。
祐介の熱が、伝わる。
「ゆ、う…!」
「ゴメ…もうちょっと…」
手のひらで頬を包まれ、キスを落とされる。
全部繋がりたくて、和衣は自分から祐介の口へと舌を差し入れる。
息が苦しい。
呼吸して、体の力を抜いて、ちゃんとしなきゃいけないのに、でも、
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08. 大事に壊して (2) R18
「はぁっ…」
ズルリと一気に奥まで祐介が突き進んで来る。
痛いのか苦しいのかよく分からないけれど、中が祐介でいっぱいに満たされている。
「和衣、ッ…」
「あ、あ…、ゆ…怖…」
あり得ない場所に祐介の熱と質量を感じて、嬉しいはずなのに混乱してしまって、和衣はもがくように手足を動かす。
だって、どうしよう。
どうしよう、どうしよう、どうしよう…。
痛い、痛い……俺の体、どうなるの? 怖い…。
「和衣、かーずい」
祐介の声が耳元を掠める。
変な話だけれど、それでようやく祐介がそばにいるんだって、気が付いた。
当たり前だ、今2人は繋がっているんだから。
「大丈夫だから、目…開けて?」
「あ、ぅ…」
嘘、全然大丈夫くない。
怖い、ヤダ、どうしよう…。
「和衣、お願い。目開けて、俺のこと見て…?」
「ぇ…?」
優しく頬を撫でられて、和衣は怖々と目を開けた。
「ゆ、すけ…?」
「…ん、ここにいるよ?」
「ぁ…」
視界に広がるのは愛しい人の顔。
和衣の体は、本人が思っている以上に素直で、祐介がそばにいるのだということが分かると、すぐに緊張が解けていく。
汗で額に張り付いた前髪を掻き上げられ、そっとキスを落とされる。
「和衣、辛くない?」
「…ん。ぁ…中、いっぱいな感じ、する…」
「うん、全部入ったから…」
「ホント…?」
体勢的に和衣がそれを確認することは出来ないけれど、でも確かに自分の内部は祐介でいっぱいで、少しの隙間もないような気がする。
(本当に、祐介と1つになれたんだ…)
ついさっきまで軽くパニックを起こしていたなんて嘘のように、和衣は本当に嬉しくて、安心して、全部蕩けていきそうになる。
(嬉し…)
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08. 大事に壊して (3) R18
「ふ…ぅ…」
「えっ、ちょっ、和衣!?」
ようやく1つになれたのに、安心したように自分を見つめていたはずなのに、突然和衣の瞳に涙が溜まって、やはり我慢しているだけで、実はすごく痛かったのだろうかと、祐介は多いに焦った。
けれど和衣は、ボロボロと涙を零しながら、首を横に振る。
「和衣? カズ? 痛い?」
「ふぇ…うぅ…ちが…違くて、ヒック…」
「じゃあ、どうしたの? ね、教えて?」
止まらない涙に、和衣はそれでも違うと繰り返す。
「嬉し…」
「え?」
「祐介と、こういうふう、になれて……すご…嬉しくて…」
だって、ずっと夢見ていた。
ずっとこんなふうに、繋がりたかった。祐介と1つになりたかった。
だからこんなふうに、自分の中に祐介を感じて、こんなに近くに、きっと誰よりも1番近くに祐介を感じて、すごく嬉しくて。
そう思ったら、胸の中、すごくいっぱいで、わーっとなってしまって、気付いたら涙が溢れていた。
「和衣…」
「変なの、俺…。嬉しいのに、すごい泣けて、きた…」
何とか一生懸命笑おうとして、でも涙が止まらなくて。
きっと、すごいブサイクな顔してる。
今日はずっと、泣き顔ばかり祐介に見せている。
「ゴメ…祐介…」
泣いてばかりいるのが恥ずかしくて、和衣が涙を拭おうとしたら、動かそうとした右手が、まだちゃんと祐介と繋がっていた。
「あ…」
ずっと。
ずっと繋がってた。
和衣が望んでいた形でなくても、そんなこと以前に、2人はずっと繋がっていた。
「ゆ、う…」
祐介が、繋いでいる手に、そっとキスを落とす。
「好き」
もう何度言ったか、何度思ったか分からないけれど。
本当にこの人のことが好きなんだ。
どこもかしこも、みんな繋がっちゃいたいくらいに、大好き。
「祐介…ゆうす…好き…」
「…ん」
繋いだ手はそのままに、反対の手を祐介の背中に回す。
もうこれ以上は近づけないと思うほど、それでももっと抱き寄せて。
「和衣…、続き、していい?」
「う、ん…大丈夫…」
熱い。
互いの欲望を、剥き出しにして。
和衣はもう1度、祐介の手を強く握り締めた。
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09. 愛ゆえに。 (1) R18
「んっ…あ、」
祐介には大丈夫と言ったけれど、中で少し動かれるだけで、和衣は思わず息を詰めてしまう。
頭では力を抜かなければと分かっているのに、それに体が付いていかない。
「和衣、息止めないで…」
「あ、く、ぅ…」
怖がって和衣が体に力を入れてしまうと、中の祐介を締め付けてしまって、ただでさえもうずっと我慢している祐介にしたら、情けない話だけれど、本気で辛い。
これでも一応、男の子だし。
「ゴメ…動くよ…?」
「あ、ん…ぅん…」
和衣はもう、呼吸の仕方すら分からなくて、言われたことにただコクコクと首を縦に振れば、ズルリと中の祐介が動き出す。
「あ、ぁ…あぁっ…!」
中でいっぱいだと思っていたものが、ゆっくりと動いて、あ、抜ける…て思ったところで再び押し込まれる。
強い衝撃に、和衣は思わず両手に力を入れてしまった。
「ッ…」
片方の手はまだ繋いだままだったけれど、もう片方は祐介の肩を掴んでいたから、力を入れた拍子に爪を立ててしまって、小さいけれど傷を作ってしまう。
肩口にピリリとした痛みを感じて、祐介は引っ掻かれたのだと分かったけれど、和衣が懸命に縋っているから、その手を外すのをやめた。
「ふ、ぅ…」
「強く、するよ?」
「ん…」
きっとよく分かっていないんだろう、けれど和衣は祐介を見つめたまま、和衣はコクリと頷いた。
祐介は、チュッと和衣の唇にキスを落としてから、片手で和衣の腰を抱え直す。
「はっ、あっ」
とっても深いところまで祐介が入って来たかと思うと、抜けそうなくらいに引かれて、そしてまた奥まで押し入られる。
項に、祐介の荒い吐息が掛かる。
背中に回した腕にギュッと力を込めれば、強く腰を抱き寄せられた。
「ひ、ぅ、ぅん…!」
最奥のほうをズンズンと突かれて、もう声が止まらなくなる。
注がれていたローションが溢れて、グチュグチュと卑猥な音が耳を犯す。
「ん、ん、んっ…」
「かず…」
「んぁ…」
名前を呼ばれた後、大好きなキスが降ってきて、もっと欲しくて、和衣は夢中で舌を絡める。
上も下も、全部繋がっている。
「ん、ふっ」
和衣の腰を掴んでいた手が感じる場所を辿っていって、胸の突起を弄られれば、痺れるような快感が這い上がっていく。
ついさっき覚えたばかりの、甘い快感。
こんな、どこを触られても気持ちよくなってしまって、自分の体は一体どうなってしまうのかと思う。もしかしたら、祐介に触れられてからずっと、和衣の体は毒に侵されたように、おかしくなっているのかもしれない。
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09. 愛ゆえに。 (2) R18
「ゆ…ゆぅ…んぁっ」
「え、かず、」
「やっ、やぁ、あぁんっ…!」
「ちょっ…クッ…」
和衣の中を何度か突き上げているうち、いきなり和衣が大きく反応して、体を仰け反らせた。
当然それによって、中の締め付けもキツクなって、持っていかれそうになった祐介は、慌てて奥歯を噛む。
「和衣?」
「んっ…や、ぁ…そこ、ひっ…」
「え、ここ?」
「やっ、らめぇ…!」
それは先ほど指で撫でられて和衣が堪え切れなくなった場所で、ダメダメと繰り返すのとは裏腹に、和衣自身は硬く勃ち上がる。
体の反応からして、痛みや辛さがあるようには見えなかったが、こんなところで、こんなに追い上げられるなんて思ってもみなかったのだろう、和衣はパニックを起こしたように暴れ出した。
「ぁ、や、怖っ…何? やぁっ…!」
「和衣、かず、ッ」
「や、ゆうっ、んぁっ!」
もう、声を抑える術も分からない。
自分の中に祐介を感じて、それだけでもすごく気持ちよかったのに、いきなり体中に電流が走ったみたくなって、祐介にそこを突かれるだけで、イキそうになる。
こんなの変。
怖い。
気持ちいい。
「あぁっ、あ…、ゃ…あ、んっ…」
「かずっ…」
和衣の中が、今までよりもずっとキツク締まって、蠢いて、祐介を煽る。
「やっ、いっ…ぅ、」
もうこれ以上、強い刺激はやめて、て思うのに、あろうことか祐介は、高ぶっている和衣のモノに指を絡める。
我慢できずに和衣は、祐介の肩に置いた手に力を込めた。
「ひっ、やめっ…ん、あぁっ…!!」
「ッ、和衣っ…」
強くても後ろへの刺激だけではイケそうもなかったのに、直接の刺激を受けて、一気に射精感が高まる。
こんなの、知らない。
全部がいっぱいに満たされていて、今まで女の子とヤッたときも、1人で慰めたときも、こんな感覚になんて、なったことがない。
「や、ぁっ…、ゆうっ、もぉ…っ!」
「かずっ、ッ…」
「ひ、ぁ…っ、んんっ…!」
固く瞑った目の裏が、真っ白に弾ける。
まるで高いところから落っこちるような感覚がして、怖くて和衣は祐介にしがみ付いた。
祐介の手の中に、和衣の熱い欲望が溢れ、腹にまで飛び散る。
「ゴメ…かずっ…」
「ぁ…、え…? あっ…やっ、待っ…」
和衣は快感の余韻で震えているけれど、その中はキュウキュウと締め付けるから、さすがにもう我慢なんて効かなくて、祐介は和衣の細い腰を掴んで狭い中を突き上げた。
イッたばかりの和衣には刺激が強すぎて、体を仰け反らせて首を振る。
「和衣、好き…」
「ッ…はぁっ…」
好きと言われた瞬間、和衣は被膜越し、祐介が自分の中へと解き放ったのを感じた。
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09. 愛ゆえに。 (3)
気持ちいー…。
「――――……んー…」
「かーずい、ねぇ、和衣?」
いー気持ちなのに、起こさないでよぉー…
「和衣!」
「…う?」
「大丈夫?」
「………………、あ、れ…?」
ふわふわと気持ちよく漂っていたのに、何だか一生懸命に名前を呼ばれて、仕方なく目をこじ開けたら、ちょっと必死な顔の祐介が、そこにいた。
「よかった…」
「何が…?」
和衣が目を開けると、祐介は心底ホッとした顔をするから、わけが分からなくて小首を傾げた。
「だって和衣、気が付いたら意識飛ばしてんだもん。すげぇ焦ったよ」
「ウソ…」
「1分くらいだけど、でも目開けなかったらどうしようって、本気でビビったよ…」
あのふわふわした感、もしかして気を失ってたから? いい気持ちだったけど、祐介に心配掛けちゃった…、と和衣はちょっと反省する。
いやけれど、反省するも何も、よく考えたら和衣が気を失ったのは、祐介との初めてのセックスが激しかったせいで……
――――て!
(あわわわわ…)
ようやく事情が飲み込めて来た和衣は、途端、顔が熱くなるのを感じた。
だって、エッチが激しくて意識を飛ばすとか……そんなの絶対恥ずかしいし!!
「え、和衣?」
目を覚まして祐介をホッとさせたばかりだというのに、真っ赤な顔をした和衣は、そのまま固まっている。
祐介にしたら、初めてなのに無理させすぎたかな? やっぱりそうだよね? と内心慌てているのだが、それ以上に和衣が心配なので、焦っている暇もない。
「ぅ…うぅ…」
「かず?」
「恥ずかし…」
「え? は?」
どうしよう。
確かにずっとこういうふうになりたくて、祐介と1つになれて本当に嬉しいんだけど、これから先、恥ずかしくて、まともに祐介の顔を見れる自信がない…!!
「和衣?」
「あぅ…」
「大丈夫? 体、辛くない?」
祐介がひどく心配そうに見つめるから、和衣はとりあえずコクリと頷いた。
初めての男同士のセックスで、体がまったく辛くないと言ったら嘘になるけれど、それ以上に心のほうに余裕がない。
「起きれる?」
「…ん」
祐介は、和衣が思っているほど恥ずかしくはないのか、ティシューを数枚引き抜いて、甲斐甲斐しく和衣の体を拭ってやった。
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09. 愛ゆえに。 (4)
「あ…」
ゴミ箱のほうに腕を伸ばした祐介の肩、和衣はふと、赤くなっている傷を見つけた。
小さな傷だけれど、真新しい。
一体いつの間に? と和衣は首を傾げたが、ハタと気が付いた。
(俺が付けたんじゃん! その傷!!)
セックスの最中、祐介の肩を掴んでいた和衣が、思わず手に力を入れてしまった拍子に、引っ掻いてしまったのだ。
「ん? 和衣?」
「あ、ぅ…、祐介、ゴメン、これ…」
「え? あぁ」
呆然とも困惑ともつかない表情の和衣の指先が、肩口の傷を差しているのだと気が付いて、祐介は気にしないで、と和衣の頭を撫でた。
「だ…だって、俺じゃん、これ…」
「別にいいよ、こんくらい」
「よくないし! うー…」
そんなところにまで気を遣う余裕なんて少しもなかったとはいえ、まさかこんな傷を作ってしまうなんて…。
「何で泣きそうになってんの、平気だって」
まるでこの世の終わりみたいな顔で絶望している和衣に、祐介は思わず吹き出してしまった。
けれど和衣にしたら、こんなにショックを受けているのに、どうして笑うの? と、わけが分からず眉を寄せる。
「…祐介?」
「気にしなくていいから」
「う?」
祐介、何かちょっと嬉しそう? 何で?
怒ってないのはいいんだけれど、決して喜ばれるようなことはしていないはずなのに。
「ん? 何、かず」
「…ん」
何となく納得のいかない表情をしつつ、和衣は祐介のほうに身を乗り出してくる。
何かと思っていたら、和衣は赤い舌を覗かせて、ペロリとその傷を舐め上げた。
「ちょっ」
祐介はビックリして身を引いたけれど、和衣はそれを追い掛けて、まるで猫のようにペロペロとその傷に舌を這わす。
「ゆぅ…ゴメンね?」
「…………」
「祐介?」
今度は祐介が、赤くなって固まる番だ。
まったく、この天然な恋人ときたら、どこまで自分をメロメロにしたら気が済むんだろう。
だいたいこの傷だって、祐介にしたら、ちょっと嬉しいくらいだし。…いや、20歳にもなって、セックスで付けられた爪痕を喜ぶのも何だけど。
(……俺、浮かれてるなぁ…)
まだ傷を気にしている和衣を肩から離し、正面から抱き締めた。
「ゆ、ぅ…?」
「好きだよ」
「ッ!」
いつも突拍子もないことをして驚かせてくれるけれど。
そんな君を愛してる。
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10. こんな気持ちは知らなかったよ (1)
「うわぁーーーー!!! イデーッ!」
和衣が人の部屋に来るのにノックがないことを、今さら咎める気はないが、それにしてもいきなり飛び込んで来て、部屋にいた睦月を死ぬほど驚かせた上に、この暑いに抱き付かれれば、不満も露わになる。
まったく身構えていなかった睦月は、勢いよく抱き付かれた拍子に後ろに引っ繰り返り、後頭部を強かぶつけたのだから。
「何カズちゃん! イッター…もぉー!」
「えへへ、ゴメンゴメン」
口では謝りながら、和衣は全然悪びれたふうもなく、頭を押さえている睦月の上から退いた。
「ねぇ聞いてよむっちゃんあのね」
「おい、カズ、おま…」
「あれ?」
捲し立てるように話し出した和衣にストップを掛けたのは、睦月ではなく、そばにいた亮だった。
部屋に入って一直線に睦月に突進した和衣は、あれ? 亮、いたの? とでも言うように、声を掛けて来た亮を見た。まったくもって眼中になかったのだ。
「えー…っと、亮…」
睦月も暑がっているし、恋人が目の前で他の男に抱き付かれていては亮もいい気がしないだろうから、ひとまず和衣は睦月から離れたけれど。
それにしても、今は睦月に話したいことがあるから、亮、部屋出てってくんないかなぁー…とか、いくら和衣が空気の読めない子でも、言ったらまずいことは分かるのだが、でも睦月と2人きりで話がしたい。
「はぁ~…」
「ぅ? 亮?」
「ベーンージョ」
こちら、和衣と違ってしっかり空気の読める亮は、何も言わなくても和衣の表情と、訴え掛けるような目線に、その意味をしっかり感じ取って、わざと大げさな溜め息をついて立ち上がった。
亮、トイレ行くのにケータイ持ってくの? と、気を遣って部屋を出て行こうとする真意を汲み取っていないのか、和衣は不思議顔で亮を見送った。
「…で、何? カズちゃん」
2人だけになった部屋。
疲れたように睦月に尋ねられ、和衣はようやく気が付いた。
亮が部屋を出て行ったのは、トイレに行くためなんかじゃないと。
「あ、うん、あのね。…えっと、もしかして亮とラブラブだったとこ、…………邪魔しちゃった?」
「………………」
亮と睦月が2人でいたところに割り込み、あまつさえ亮を部屋から追い出すようなまねをしてしまった。
今さらながら、自分はとんでもないことをしてしまったのではないかと、和衣はようやく我に返った。
「ゴゴゴゴゴメンね、むっちゃん…!」
「…………、今度カズちゃんがゆっちとラブラブしてるとこ、邪魔してやるー」
「ううぅ…それは、ヤダ…」
睦月の低い声に和衣は慌てるが、次の瞬間、睦月がニヤリと笑った。
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10. こんな気持ちは知らなかったよ (2)
「え?」
「だって俺マンガ読んでたし、アイツ、何かゲームしてたもん」
呆然としている和衣に、睦月は引っ掛かったー、と腹を抱えて笑い出した。
「ッ…、むっちゃんのバカッ…! 本気で焦ったのにー!」
「もとはと言えば、カズちゃんがいきなり部屋に入ってくるからでしょー? 亮のこと追い出すしー」
「だからそれはゴメンてば!」
和衣は両手を合わせて、頭を下げた。
もしこれが逆の立場だったら、和衣は本気で睦月のことを恨みかねないのが、自分でも分かるから(ヤキモチ妬きな性格を治そうとは思っているのだが、なかなか功を奏するに至らない)。
「そんで、結局何なの?」
「あ、うん、えっとー…。…………えへ」
「え、何?」
何か言いたいことがあってやって来ただろうに、なぜか和衣は頬を染めて口籠ってしまった。
「何? カズちゃん?」
「むっちゃん…」
「ん?」
「俺ね、今……ちょーーーーーーー幸せなんだけど!!」
「……………………、…は?」
散々もったいつけた上のセリフが、それ?
幸せ? そう? よかったね。
…で、だから何?
「むっちゃん? 聞いてた?」
睦月から全然反応が返って来ないことに気が付いた和衣が、んん? と小首を傾げて睦月の顔を覗き込んだ。
「聞いてた。声おっきくて、耳痛くなるくらいに聞こえてた。で、何だって? 幸せ? は?」
「うん。俺、今、超幸せなの」
「…………。…そう、よかったね」
何のことかよくは分からないが、幸せなのなら、それに越したことはない。
残暑の中、暑いのに抱き付かれた甲斐があった。
「…んふ、んふふふふふ」
「カズちゃん、気持ち悪い、気持ち悪い」
「ん、ふはっ! だって! だってだってぇ~!! あのね、聞いて! 俺、祐介と…」
「え? あぁ、とうとうゆっちとエッチしたの?」
「…………」
睦月に言い当てられ、和衣は真っ赤な顔で頷いた。
まったく、純情スイッチの入りどころが、全然読めない。
「よかったね、カズちゃん」
「…ん」
ポンポンと頭を撫でられ、和衣は少し照れたように笑った。
祐介と付き合えることになったとき、これ以上の幸せはないって思ったのに。
今またこんなにも幸せで。
(――――こんな気持ち、知らなかったよ?)
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10. こんな気持ちは知らなかったよ (3)
もちろん和衣のように、ノックもなしにいきなり部屋に飛び込みはしない。
あくびをしながらドアを叩けば、すぐに返事が返ってくる。
「よぉ」
部屋には祐介しかいなかったので、亮は気軽に上がり込むと、勝手に部屋の真ん中に座った。
祐介は、どうした? みたいな顔をしたが、特に嫌だとも言わず、パソコンの電源を落とした。
「…つーかさぁ、何で何も言ってくんなかったわけ?」
「は? 何が?」
人の部屋なのに堂々と寛いでいる亮は、ちょっとふて腐れるような表情を作って、祐介を見遣った。
ノートパソコンを閉じた祐介は、椅子を反転させて亮のほうを見たが、言われたことの意味が分からなかったのか、小首を傾げる。
「お前がカズにヤられるほうだったら、どんなだったか教えてくれっつったのに、何の連絡もないってことは、やっぱお前がヤるほうだったってこと?」
「………………」
ピタリ。
首を傾けたままの状態で、祐介はビシッと凍り付くように固まったが、口元がピクピクと引き攣っている。
「祐介?」
「ッ…」
「あ?」
「アホかお前はー!!」
普段、そんなに大きな声を出す人間ではないのに、このときばかりは、祐介は声を張り上げて亮に突っ込むと、椅子を蹴散らして立ち上がった。
ただ、亮のほうはそんな祐介の反応をそれほど意外とも思わなかったのか、何も言わずニヤニヤしている。
1人で勝手に熱くなったのが恥ずかしくて、祐介は溜め息1つでごまかして、転がった椅子を直した。
「カズとヤったんだろ? いいじゃん、教えてくれたって。俺だって教えたのにー」
「お前が勝手に喋ったんだろうが。…つーか、ヤったとかヤってないとか、何でお前知って…」
まさかとは思うが、和衣が亮に話したんだろうか。
確かに和衣は祐介と違ってオープンな性格だし、単純だから、亮の口車に乗って、どんなだったのかを事細かに話したかもしれない。別に黙っていようと示し合せたわけではないし、十分あり得る…。
「いや、違う違う。カズから聞いたわけじゃないって。別に何も聞いてないけどさ、アイツ、すっげぇ浮かれまくってっから」
「…そう」
何となく事情を知っている亮にしたら、直接話を聞かなくても、あの態度だけで十分伝わってくる。
だから和衣から何か聞いたわけではないから気にするな、と深刻な顔で固まったそう祐介には言ったが、きっと今ごろ自分の部屋で睦月に語りまくっているだろう事実は、伏せておこうと思った。
「で? で? 結局どっちだったんだよ」
ニヤニヤと亮が近付いて来て、祐介は嫌そうに身を引いた。
だいたい亮は、どうしてそんなことに興味津々なのだ。
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