智紀×慶太
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- 智紀×慶太 INDEX
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智紀×慶太 INDEX
2008.01.25 Fri
↑OLD ↓NEW
■ろくな愛をしらない (tittle:afaikさま)
01 / 02 / 03 / 04 / 05 / 06 / 07 / 08 / 09 / 10
11 / 12 / 13 / 14 / 15 / 16
■お陰様で清らかな生活を送らせていただいてますよ。 (tittle:セリフ100さま)
*会話SS
■ドルチェ (前編) (中編) (後編) *0214 happy VD
■Sugar Baby! (前編) (中編) (後編) *初エチまでの道のり編
■Sugar Baby! 2 (前編) (後編) *初エチまでのドキドキ編
■Sugar baby! 3
(1) (2) (3) (4) (5) (6) (7) (8) (9) *初エチ編
■慶タンの、初体験ご報告編 *会話SS
■バランス (前編) (後編)
■もう行かないと、不審に思われますよ。 (tittle:セリフ100さま) *会話SS
■他の人のコトなんて考えちゃダメ。 (tittle:セリフ100さま) *会話SS
■響かせてよメロウラヴ (前編) (後編)
(tittle:夜風にまたがるニルバーナさま)
■毒か蜜かも分からない (1) (2) (3) (4) (5) (6) (7)
(tittle:約30の嘘さま)
■好奇心は猫をも殺す (前編) (後編)
■砂糖漬けのくちびる (tittle:約30の嘘さま)
■それでも好きなんだよ (tittle:約30の嘘さま)
■forever you (1) (2) (3) (4)
■愛が致死量 (1) (2) (3) (4) (5) (6) (7) (8) (9)
(tittle:サディスティックアップルさま) *0214 happy VD
■ろくな愛をしらない (tittle:afaikさま)
01 / 02 / 03 / 04 / 05 / 06 / 07 / 08 / 09 / 10
11 / 12 / 13 / 14 / 15 / 16
■お陰様で清らかな生活を送らせていただいてますよ。 (tittle:セリフ100さま)
*会話SS
■ドルチェ (前編) (中編) (後編) *0214 happy VD
■Sugar Baby! (前編) (中編) (後編) *初エチまでの道のり編
■Sugar Baby! 2 (前編) (後編) *初エチまでのドキドキ編
■Sugar baby! 3
(1) (2) (3) (4) (5) (6) (7) (8) (9) *初エチ編
■慶タンの、初体験ご報告編 *会話SS
■バランス (前編) (後編)
■もう行かないと、不審に思われますよ。 (tittle:セリフ100さま) *会話SS
■他の人のコトなんて考えちゃダメ。 (tittle:セリフ100さま) *会話SS
■響かせてよメロウラヴ (前編) (後編)
(tittle:夜風にまたがるニルバーナさま)
■毒か蜜かも分からない (1) (2) (3) (4) (5) (6) (7)
(tittle:約30の嘘さま)
■好奇心は猫をも殺す (前編) (後編)
■砂糖漬けのくちびる (tittle:約30の嘘さま)
■それでも好きなんだよ (tittle:約30の嘘さま)
■forever you (1) (2) (3) (4)
■愛が致死量 (1) (2) (3) (4) (5) (6) (7) (8) (9)
(tittle:サディスティックアップルさま) *0214 happy VD
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カテゴリー:智紀×慶太
ろくな愛をしらない 01
2008.01.25 Fri
【久住慶太】
友人の松下歩(まつしたあゆむ)は、大学の同級生だが、1つ年上だ。
それは彼が1年浪人してから大学に入ったからで、聞きもしないのに歩は「俺、高3のとき、全然受験勉強しなかったんだよねー」と、あっさり打ち明けてきた。
それも入学式、たまたま隣になった俺に。
結局、そのまま仲良くなって、2年生になった今も一緒にいるんだけど。
そして俺は、歩の策略で学生会とやらに入らされて、結構忙しい大学生活を送ってる。
学生会ってのは、高校とかの生徒会みたいなもんで、各委員会やらサークル・同好会なんかを取り仕切ってる組織のこと。
2年の俺は結構中途半端な立場だけど、もともと人の上に立つような性質じゃないから、1年生に交じって雑用をこなすのが、主な仕事だ。
ちなみに、俺よりずっとチャラチャラとだらしない性格の歩が学生会に入ったのは、テンション高めの同級生、藤崎真琴に誘われたからで、真琴は、友だちの春原拓海さんがいるから入ったらしい(友だちって言っても、春原さんのほうが1つ先輩で、でも昔からの知り合いらしくて、全然、先輩後輩の雰囲気じゃない)。
それに、役員でもないのに、春原さんの友だちの相川智紀(あいかわともき)さんがしょっちゅう顔を出すせいで、意味もなく女の子の出入りが多い。
春原さんもそうだけど、とくに彼はキラキラオーラが強いから。
俺には無縁の世界だなぁーて思う。
だって、相川さんには彼女が3人いるだとか、いや4人だとか、金髪のハーフとホテルに入るトコを見かけただとか、とにかく女関係の噂の絶えない人だから。
そういう下世話な話題にはあんまり興味ないけど、自分とは世界が違うんだって、思う。
まぁ、この容姿だもんね。
最初から土俵が違うし。
でもそんな人を(しかも役員でもないのに)学生会室に入り浸らせて、関係ない女の子が好き勝手に出入りして、仮にも学生を代表する組織が、こんなことでいいのかな、とは思うけど。
……でも。
そんな無縁の世界にいるはずの人が、俺の隣で焼き肉食ってるんだよなぁ…。
俺の前には歩がいて、歩の横には春原さんがいて、その向かい、つまり俺の横には相川さんが座ってる。誠に変な組み合わせ。
歩とメシを食いに行く話をしていたところに春原さんが混じって、3人で店に行ってみれば、そこには腹を空かした相川さんがいたという。
「拓海、遅ぇんだよ。俺マジで腹減ってんだけど!」
挨拶もそこそこに、不満をぶつけてくる相川さんに驚いてるのはどうやら俺だけらしく、春原さんは「ゴメンゴメン」なんて言いながら席に着くし、元から物事を深く考えないたちの歩は、別に気にするふうもなく、春原さんの隣に座った。
そうなると必然的に俺は相川さんの横に。
今さら人見知りするほどの間柄ではないけれど、何となく緊張する。
今までそれほど話したことがあるわけでもないから、共通の話題もなくて、俺は歩と話すばかり。
春原さんと相川さんはもともと親友だから、話題が尽きなくて、結局4人でいるとは言っても、はっきりと2対2に分かれている状態。
まぁ、それはそれで別に良かったんだけれど。
なのに。
会計を済ませて店を出たところで、事態は一変した。
歩が、約束があるからって、先に帰ると言い出したのだ。俺もそれに乗っかって一緒に帰ろうとしたら、
「じゃあ、慶太、一緒にトモのウチ行こー」
春原さんにガシッと肩を組まれて。
トモって誰!? て思ったら、相川智紀の「トモ」らしい。いや、それは別にいんだけど。そうじゃなくて、何で俺を誘うの!?
ビックリして相川さんを見れば、「あぁ、いいよ」なんて簡単に了承するし、歩は助けるどころかあっさりと、「じゃあね~」なんて言いながら、帰っていった。
結局俺は断り切れなくて、春原さんと一緒に相川さんのお宅へ。
2人とも、別にただの大学生なのに、外見はまるでモデルのようだから、キラキラオーラ全開。
そんな2人に挟まれて…………何か居た堪れない。
俺もこんな顔だったら、なんて贅沢は言わないけど、でもやっぱり男としては憧れる。女の子がキャーキャー言うのも、無理ないよね。
「……なぁ、俺の顔、何か付いてる?」
「へ!?」
春原さんが携帯を持って部屋を出てから少しして、相川さんに急に声を掛けられて、俺はビクッと肩を跳ね上げた。
「な、にが…?」
「さっきから俺のこと、ずっと見てない?」
「そんなこと…」
……ないわけがない。
確かにずっと見てたけれど、まさか気付かれているとは思ってなかった。
でもずっと見てたなんて知られたら恥ずかしいし、とにかく俺は必死にごまかすための言葉を探した。
「違うの? 何か俺、すげぇ自意識過剰な奴みたいじゃん」
煙草を片手にそう苦笑する相川さんは、その仕草の1つ1つが様になってる。何て言うか、ドラマのワンシーンのような。
「お前さぁ、その顔、わざと?」
「は? 顔? 何がですか?」
俺、変な顔してたかな?
っていうか、アンタらの顔のせいで軽く落ち込んでるってのに、そんなこと言われたくないんですが。
ペタペタと両手で頬の辺りを触ってたら、相川さんがいきなり吹き出した。ベッドの上で腹抱えて……あの、タバコ危ないんですが。
ってか、この人こういうキャラなの?
「どうした? トモの声、外までだだ漏れだけど」
電話を終えた春原さんが、呆れ顔で戻ってきた。
とりあえず相川さんと2人きりって状況を抜け出せてホッとしたのも束の間、なぜか春原さんが帰り支度を始めて。
「拓海、どこ行くの?」
「帰るー。悠ちゃんからお呼び出し。バイト終わったって」
「あぁ、恋人さん?」
「そ」
ニヤッと口の端を上げて、春原さんが携帯をチラつかせる。あぁー…この人も日常の仕草がドラマだー…。
…って、そうじゃなくて!
「あ、じゃあ俺も…」
帰る、と続けるより先、
「じゃあ久住ー、2人で何するー?」
「はい!?」
思わず声に出してしまいましたよ。
だってそりゃそうでしょ? 何で相川さんが俺を引き止めるわけ?
「何だよ、嫌なのかよ」
イヤイヤイヤイヤ、あのですね、嫌だとか嫌じゃないとか、そういう問題じゃなくてですね。何でなのか、って話ですよ。
「トモー、慶太がめっちゃ驚いてる」
思考回路がパニック寸前の俺に、春原さんが助け船。でも顔が笑ってるんですが…。
「ま、とりあえず俺は帰るから」
「へ!?」
春原さん! 何で帰っちゃうんすか!?
「じゃーねー」
ヒラヒラと手を振って、春原さんが帰っていって……部屋には俺と相川さんの2人きり。
何なの!? この組み合わせ!
いや、親しくなるにはいいチャンスだけど、でも、でも!!
「はっはっ! お前、ホントおもしれぇヤツ! 俺と2人きりなの、そんなに嫌?」
「嫌とか、別にそういうわけじゃないですけど……相川さんこそ、俺なんかと一緒でおもしろいっすか?」
慣れた仕草でタバコを灰皿に押し付けて、相川さんが近付いてくる。隣に腰を下ろされて、距離が……近い。
相川さんて、何となくクールそうなイメージがあるから、こんな破顔したの、間近で見るなんて……そんなことを思ってたら、相川さんの眉間にしわが寄った。
「俺さぁ、さっきも聞いたよな?」
「え?」
溜め息混じりにそう問われても、よく分からない。
俺、相川さんの機嫌を損ねるようなこと、したっけ? だってほんの数秒前まで笑ってたんだよ、この人。
「その顔、わざとやってんのかって」
「か、顔って……何? そんな変な顔してます?」
「そうじゃなくて…」
もう1度、今度はもっと深い溜め息。
それからグイと、顔が急接近してきて。
「あ…相川さん??」
顔が…………近いっ!!
いくら男前の顔だって言ったって、ここまで近づけられれば、戸惑うし、逃げたくもなる。
自然と俺の背中は反って、相川さんの顔との距離を離そうとするけれど、ジワジワと近づいてくるその顔に、距離は遠くなるどころか、俺の背中のほうが先に限界を迎えた。
「ッ…、」
もうこれ以上反らせないってとこで、相川さんの両手が、俺の頭をガシッと掴んだ。
「な…な、に…?」
唇に感じる、相川さんの吐息。
じっと見据えられて。
「そんな顔でジッと見られてると、誘われちゃうんだけど」
「さそ…!? なっ…」
そんな顔ってどんな顔!? じゃなくて、誘われるって! 誘ってないし!
てか、何で!? あんた男でしょ!?
「ふはっ、分かりやす! 思ってること、みんな顔に出ちゃってる。かわいー」
イヤイヤ、だって!
俺だってポーカーフェイスくらい出来ますけど、こんな状況でそんなこと出来るわけないでしょう!?
それより、かわいいって!?
「あの、離し…」
「ね、キスしていい?」
「はい!?」
ビックリしすぎて、声が裏返った。
えっと、俺の聞き間違いじゃないですよね!? いや、むしろ聞き間違いであってくれたほうがいい!
「ダメ?」
「ダメて、あの、ちょっ……ん、」
俺がイイもダメも言う前に、相川さんは俺との距離をゼロにした。
「―――――…………」
唇が触れ合った瞬間、その近すぎる距離、俺は思わず目を閉じた。
いくら相川さんのほうが体格がよくて力があるって言ったって、俺だって男だし、本気で抵抗すれば逃れられないこともないはずなのに。
俺は相川さんからのキスを受け入れていて。
「……ッ…」
舌がっ…!
唇を割って入り込んで来た相川さんの舌に驚いて、俺は押し返そうと相川さんの胸に突っ張っていた手で、そのシャツを掴んだ。
逃げたいけれど、相川さんの手が許してくれない。
徐々に俺のほうに圧し掛かって来て、さっきまでにもう反らし切れないくらい背中を反らしていた俺は、そのまま床へと倒れ込んでしまった。
幸いにも柔らかなラグマットの上、頭はクッションに助けられ、体は痛くないけれど。
「あいか……んっ…」
首を捩って何とかキスから逃れて、喋ろうとしても、けれどすぐにまた塞がれる。
もう、冗談なんかで済まされるようなキスじゃなくて。
何で? 何で? 何で?
「ッ!?」
頭を押さえていた手が離れて、逃げようとしたけれど、それより先、脇腹を撫で上げる感触に体が震えた。
「なっ…」
驚いて目を開ければ、まだ吐息を感じるほどの距離に相川さんの顔があって。その口元がニヤリと歪んで。
「ちょっ、やっ…」
シャツの裾から相川さんの手が入ってくる。
その体を押しのけようとするのに、相手は利き手じゃない左手で俺の肩を押さえているだけなのに、少しも動かせなくて。
「相川さん!」
何なんだ? 酔ってるのか、この人は。俺は男だぞ。いや、酒なんか1滴も飲んでないはず。なのに何だって……
「ヤダッ…」
目の前がぼやける。
「…………久住……」
痛いほど力強く押さえ付けられていた肩への力がふと抜けて、その手が俺の眼尻に触れる。
……俺、泣いてる…。
こめかみのほうへと伝う涙を拭われて、ようやく気が付いた。
「あいか…」
肩で息をしながら呆然としていると、相川さんは俺のことバカにしたように笑って、乱れた前髪を掻き上げた。
相川さんの突然の行動に恐怖と驚きを覚えながらも、頭の片隅にどこか冷静な自分がいて、あぁ、どこまでも様になる人だ……なんて、今さらながらに思ってしまう俺はバカか?
相川さんが親指が、俺の濡れた唇を拭う。
熱い指の感触。
獣のような目だ。
「何で…」
「冗談だよ、バーカ」
友人の松下歩(まつしたあゆむ)は、大学の同級生だが、1つ年上だ。
それは彼が1年浪人してから大学に入ったからで、聞きもしないのに歩は「俺、高3のとき、全然受験勉強しなかったんだよねー」と、あっさり打ち明けてきた。
それも入学式、たまたま隣になった俺に。
結局、そのまま仲良くなって、2年生になった今も一緒にいるんだけど。
そして俺は、歩の策略で学生会とやらに入らされて、結構忙しい大学生活を送ってる。
学生会ってのは、高校とかの生徒会みたいなもんで、各委員会やらサークル・同好会なんかを取り仕切ってる組織のこと。
2年の俺は結構中途半端な立場だけど、もともと人の上に立つような性質じゃないから、1年生に交じって雑用をこなすのが、主な仕事だ。
ちなみに、俺よりずっとチャラチャラとだらしない性格の歩が学生会に入ったのは、テンション高めの同級生、藤崎真琴に誘われたからで、真琴は、友だちの春原拓海さんがいるから入ったらしい(友だちって言っても、春原さんのほうが1つ先輩で、でも昔からの知り合いらしくて、全然、先輩後輩の雰囲気じゃない)。
それに、役員でもないのに、春原さんの友だちの相川智紀(あいかわともき)さんがしょっちゅう顔を出すせいで、意味もなく女の子の出入りが多い。
春原さんもそうだけど、とくに彼はキラキラオーラが強いから。
俺には無縁の世界だなぁーて思う。
だって、相川さんには彼女が3人いるだとか、いや4人だとか、金髪のハーフとホテルに入るトコを見かけただとか、とにかく女関係の噂の絶えない人だから。
そういう下世話な話題にはあんまり興味ないけど、自分とは世界が違うんだって、思う。
まぁ、この容姿だもんね。
最初から土俵が違うし。
でもそんな人を(しかも役員でもないのに)学生会室に入り浸らせて、関係ない女の子が好き勝手に出入りして、仮にも学生を代表する組織が、こんなことでいいのかな、とは思うけど。
……でも。
そんな無縁の世界にいるはずの人が、俺の隣で焼き肉食ってるんだよなぁ…。
俺の前には歩がいて、歩の横には春原さんがいて、その向かい、つまり俺の横には相川さんが座ってる。誠に変な組み合わせ。
歩とメシを食いに行く話をしていたところに春原さんが混じって、3人で店に行ってみれば、そこには腹を空かした相川さんがいたという。
「拓海、遅ぇんだよ。俺マジで腹減ってんだけど!」
挨拶もそこそこに、不満をぶつけてくる相川さんに驚いてるのはどうやら俺だけらしく、春原さんは「ゴメンゴメン」なんて言いながら席に着くし、元から物事を深く考えないたちの歩は、別に気にするふうもなく、春原さんの隣に座った。
そうなると必然的に俺は相川さんの横に。
今さら人見知りするほどの間柄ではないけれど、何となく緊張する。
今までそれほど話したことがあるわけでもないから、共通の話題もなくて、俺は歩と話すばかり。
春原さんと相川さんはもともと親友だから、話題が尽きなくて、結局4人でいるとは言っても、はっきりと2対2に分かれている状態。
まぁ、それはそれで別に良かったんだけれど。
なのに。
会計を済ませて店を出たところで、事態は一変した。
歩が、約束があるからって、先に帰ると言い出したのだ。俺もそれに乗っかって一緒に帰ろうとしたら、
「じゃあ、慶太、一緒にトモのウチ行こー」
春原さんにガシッと肩を組まれて。
トモって誰!? て思ったら、相川智紀の「トモ」らしい。いや、それは別にいんだけど。そうじゃなくて、何で俺を誘うの!?
ビックリして相川さんを見れば、「あぁ、いいよ」なんて簡単に了承するし、歩は助けるどころかあっさりと、「じゃあね~」なんて言いながら、帰っていった。
結局俺は断り切れなくて、春原さんと一緒に相川さんのお宅へ。
2人とも、別にただの大学生なのに、外見はまるでモデルのようだから、キラキラオーラ全開。
そんな2人に挟まれて…………何か居た堪れない。
俺もこんな顔だったら、なんて贅沢は言わないけど、でもやっぱり男としては憧れる。女の子がキャーキャー言うのも、無理ないよね。
「……なぁ、俺の顔、何か付いてる?」
「へ!?」
春原さんが携帯を持って部屋を出てから少しして、相川さんに急に声を掛けられて、俺はビクッと肩を跳ね上げた。
「な、にが…?」
「さっきから俺のこと、ずっと見てない?」
「そんなこと…」
……ないわけがない。
確かにずっと見てたけれど、まさか気付かれているとは思ってなかった。
でもずっと見てたなんて知られたら恥ずかしいし、とにかく俺は必死にごまかすための言葉を探した。
「違うの? 何か俺、すげぇ自意識過剰な奴みたいじゃん」
煙草を片手にそう苦笑する相川さんは、その仕草の1つ1つが様になってる。何て言うか、ドラマのワンシーンのような。
「お前さぁ、その顔、わざと?」
「は? 顔? 何がですか?」
俺、変な顔してたかな?
っていうか、アンタらの顔のせいで軽く落ち込んでるってのに、そんなこと言われたくないんですが。
ペタペタと両手で頬の辺りを触ってたら、相川さんがいきなり吹き出した。ベッドの上で腹抱えて……あの、タバコ危ないんですが。
ってか、この人こういうキャラなの?
「どうした? トモの声、外までだだ漏れだけど」
電話を終えた春原さんが、呆れ顔で戻ってきた。
とりあえず相川さんと2人きりって状況を抜け出せてホッとしたのも束の間、なぜか春原さんが帰り支度を始めて。
「拓海、どこ行くの?」
「帰るー。悠ちゃんからお呼び出し。バイト終わったって」
「あぁ、恋人さん?」
「そ」
ニヤッと口の端を上げて、春原さんが携帯をチラつかせる。あぁー…この人も日常の仕草がドラマだー…。
…って、そうじゃなくて!
「あ、じゃあ俺も…」
帰る、と続けるより先、
「じゃあ久住ー、2人で何するー?」
「はい!?」
思わず声に出してしまいましたよ。
だってそりゃそうでしょ? 何で相川さんが俺を引き止めるわけ?
「何だよ、嫌なのかよ」
イヤイヤイヤイヤ、あのですね、嫌だとか嫌じゃないとか、そういう問題じゃなくてですね。何でなのか、って話ですよ。
「トモー、慶太がめっちゃ驚いてる」
思考回路がパニック寸前の俺に、春原さんが助け船。でも顔が笑ってるんですが…。
「ま、とりあえず俺は帰るから」
「へ!?」
春原さん! 何で帰っちゃうんすか!?
「じゃーねー」
ヒラヒラと手を振って、春原さんが帰っていって……部屋には俺と相川さんの2人きり。
何なの!? この組み合わせ!
いや、親しくなるにはいいチャンスだけど、でも、でも!!
「はっはっ! お前、ホントおもしれぇヤツ! 俺と2人きりなの、そんなに嫌?」
「嫌とか、別にそういうわけじゃないですけど……相川さんこそ、俺なんかと一緒でおもしろいっすか?」
慣れた仕草でタバコを灰皿に押し付けて、相川さんが近付いてくる。隣に腰を下ろされて、距離が……近い。
相川さんて、何となくクールそうなイメージがあるから、こんな破顔したの、間近で見るなんて……そんなことを思ってたら、相川さんの眉間にしわが寄った。
「俺さぁ、さっきも聞いたよな?」
「え?」
溜め息混じりにそう問われても、よく分からない。
俺、相川さんの機嫌を損ねるようなこと、したっけ? だってほんの数秒前まで笑ってたんだよ、この人。
「その顔、わざとやってんのかって」
「か、顔って……何? そんな変な顔してます?」
「そうじゃなくて…」
もう1度、今度はもっと深い溜め息。
それからグイと、顔が急接近してきて。
「あ…相川さん??」
顔が…………近いっ!!
いくら男前の顔だって言ったって、ここまで近づけられれば、戸惑うし、逃げたくもなる。
自然と俺の背中は反って、相川さんの顔との距離を離そうとするけれど、ジワジワと近づいてくるその顔に、距離は遠くなるどころか、俺の背中のほうが先に限界を迎えた。
「ッ…、」
もうこれ以上反らせないってとこで、相川さんの両手が、俺の頭をガシッと掴んだ。
「な…な、に…?」
唇に感じる、相川さんの吐息。
じっと見据えられて。
「そんな顔でジッと見られてると、誘われちゃうんだけど」
「さそ…!? なっ…」
そんな顔ってどんな顔!? じゃなくて、誘われるって! 誘ってないし!
てか、何で!? あんた男でしょ!?
「ふはっ、分かりやす! 思ってること、みんな顔に出ちゃってる。かわいー」
イヤイヤ、だって!
俺だってポーカーフェイスくらい出来ますけど、こんな状況でそんなこと出来るわけないでしょう!?
それより、かわいいって!?
「あの、離し…」
「ね、キスしていい?」
「はい!?」
ビックリしすぎて、声が裏返った。
えっと、俺の聞き間違いじゃないですよね!? いや、むしろ聞き間違いであってくれたほうがいい!
「ダメ?」
「ダメて、あの、ちょっ……ん、」
俺がイイもダメも言う前に、相川さんは俺との距離をゼロにした。
「―――――…………」
唇が触れ合った瞬間、その近すぎる距離、俺は思わず目を閉じた。
いくら相川さんのほうが体格がよくて力があるって言ったって、俺だって男だし、本気で抵抗すれば逃れられないこともないはずなのに。
俺は相川さんからのキスを受け入れていて。
「……ッ…」
舌がっ…!
唇を割って入り込んで来た相川さんの舌に驚いて、俺は押し返そうと相川さんの胸に突っ張っていた手で、そのシャツを掴んだ。
逃げたいけれど、相川さんの手が許してくれない。
徐々に俺のほうに圧し掛かって来て、さっきまでにもう反らし切れないくらい背中を反らしていた俺は、そのまま床へと倒れ込んでしまった。
幸いにも柔らかなラグマットの上、頭はクッションに助けられ、体は痛くないけれど。
「あいか……んっ…」
首を捩って何とかキスから逃れて、喋ろうとしても、けれどすぐにまた塞がれる。
もう、冗談なんかで済まされるようなキスじゃなくて。
何で? 何で? 何で?
「ッ!?」
頭を押さえていた手が離れて、逃げようとしたけれど、それより先、脇腹を撫で上げる感触に体が震えた。
「なっ…」
驚いて目を開ければ、まだ吐息を感じるほどの距離に相川さんの顔があって。その口元がニヤリと歪んで。
「ちょっ、やっ…」
シャツの裾から相川さんの手が入ってくる。
その体を押しのけようとするのに、相手は利き手じゃない左手で俺の肩を押さえているだけなのに、少しも動かせなくて。
「相川さん!」
何なんだ? 酔ってるのか、この人は。俺は男だぞ。いや、酒なんか1滴も飲んでないはず。なのに何だって……
「ヤダッ…」
目の前がぼやける。
「…………久住……」
痛いほど力強く押さえ付けられていた肩への力がふと抜けて、その手が俺の眼尻に触れる。
……俺、泣いてる…。
こめかみのほうへと伝う涙を拭われて、ようやく気が付いた。
「あいか…」
肩で息をしながら呆然としていると、相川さんは俺のことバカにしたように笑って、乱れた前髪を掻き上げた。
相川さんの突然の行動に恐怖と驚きを覚えながらも、頭の片隅にどこか冷静な自分がいて、あぁ、どこまでも様になる人だ……なんて、今さらながらに思ってしまう俺はバカか?
相川さんが親指が、俺の濡れた唇を拭う。
熱い指の感触。
獣のような目だ。
「何で…」
「冗談だよ、バーカ」
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ろくな愛をしらない 02
2008.01.26 Sat
翌日、授業を終えて、さっさと帰ろうと思ったのに、もうすぐ大事な会議があるから、その打ち合わせと資料作りがあるとかで、真琴に学生会室に連行された。
まだ全員が揃わない室内は、けれど相変わらずの騒がしさで、真琴はいつもどおりハイテンションだし、歩はそれ見て笑ってるし、春原さんも、この学生会の中では1番偉いポストの高遠さんも注意しないし、俺は寝不足で頭が痛いのに。
…………春原さん、笑ってる場合じゃないよ。俺、昨日アンタの親友に、冗談で襲われ掛けたんだよ。
相川さんが、女の子相手に(あんな乱暴じゃないにしても)そういうことをよくしてる人なんだとして、でも何で俺なの?
普通、冗談でも、しらふで男相手にキスなんてする? しかもあんな…。
真琴、うるせぇよ、少し黙れよ。
イライラする。周り、全部。
何で笑ってんの? 高遠さんも、春原さんも、歩も。何がおかしいんだよ。
頭痛ぇ。
何だって相川さんは俺にキスなんかしたんだ? だから冗談だって、バーカ。本気にすんなよ。いや、してねぇし。俺、男だし。キモイよ、変態。
あーイライラする。だから、うるせぇんだって。歌ってんじゃねぇよ。
俺は昨日、男にキスされたんだぜ。しかもディープなヤツ。それも春原さんの親友に。オーマイガッ、今時の大学生はこんなでいいの?
のんきに歌ってる場合じゃねぇんだって。うるせぇよ、マジうるせぇ。うるせぇって、
「―――うるせぇんだよ! 真琴!!」
思わず叫んでいた。
乱暴に立ち上がったせいで椅子が引っ繰り返って、テーブルを殴った音が学生会室に響いて。拳が痛い。
シンと静まり返った室内。
「慶太、」
「……ぁ…」
隣にいた歩に腕を引かれて、急に頭に上っていた血が冷めていった。我に返れば、みんなが驚いたような、キョトンとした顔で俺を見てる。
困ったような、泣きそうにも見える真琴の瞳と視線がぶつかって、こんなのただの八つ当たりだ、真琴が悪いわけじゃないのに。
「……ゴメ…」
どうしていいか分からなくて、俺は歩に掴まれていた腕を解いて、学生会室を飛び出した。
行く宛てなんかない。
とにかく学生会室を離れたくて、みんなから離れたくて、1人になりたくて。
駆け込んだのは、学生会室からうんと離れた自販機コーナー。
幸いにも誰もいなくて、俺は端のソファに腰を掛けた。
何やってんだ、俺は。
真琴に怒鳴ってどうする。あいつが悪いわけじゃない。悪いのは俺だ。いや、俺か? 俺は被害者だぞ。だって昨日…。でもだからって、真琴に当たってもしょうがないのに。
もう嫌だ、頭が痛い、誰か助けてくれ…。
カタン…。
不意に、自分以外が立てた音が響いて、ハッと顔を上げた。
「あ…」
どうせ歩あたりが様子を見に来たんだろうと思ったそこには、厳しいような、けれど心配げな顔をした春原さんがいた。
「慶太…」
「―――……あ…あぁ…、もう始まりますよね、今行きます」
春原さんが、時間になるからって俺を呼びに来たわけじゃないってこと、分かってるけど、何も追及されたくなくて、春原さんに何か言われる前に早口でそう言って、ソファを立った。
「慶太、」
なるべく春原さんと目を合わさないように、さっさと横をすり抜けようとしたら、通り過ぎ際、春原さんに手首を掴まれた。
「何すか? もう行かないと…、……真琴にも謝んなきゃ、」
解こうとした手は、けれど春原さんのほうが力があって、うまくいかなくて。
「春原さ……離し」
「昨日、俺が帰った後、トモと何かあった?」
「―――……何がですか?」
俺だって"ごまかす"くらいの演技は出来る。
何かあったかだって? あったに決まってる。でも、何もなかったふりをするしかない。あんたに何が分かるの? それとももう、相川さんから何か聞いてんの? 知っててそんな顔してるの?
「いや、俺、昨日途中で帰っちゃったから…」
「別に、何もないですよ」
もうこれ以上は答えたくないという気持ちを暗に込めてそう言うと、俺は隙を突いて春原さんの手を解く。
「ホントに何もないんで……だから、もう戻りましょう」
まだ何か言いたそうな春原さんに背を向けて、先に歩き出す。少し後ろに、春原さんの気配を感じる。今は何も話したい気分じゃなかった。
学生会室に戻ると、真琴が泣きそうな顔で抱き付いてきた。みんなが心配そうに俺らのほうを見てる。
「うぅ~ゴメンー、慶太ー」
「……いや、俺のほうこそゴメン」
かわいいな、真琴。同い年なのに。
……かわいいって、そういえば昨日、相川さんもそう言ってたっけ。
俺のどこ見てそんなこと言うんだろ。大体、男相手にかわいいとかあるかよ……って、あぁ、今俺もそう思ったか。
でも俺と真琴じゃ、全然違う。本質的に違う。
もし男にかわいいって使うのなら、それは真琴みたいなのに使うんだ。俺じゃない。
なのにどういうわけか、俺に向かってそんなことを言った相川さん。
…………どうせ冗談なんだろうけど。
まだ全員が揃わない室内は、けれど相変わらずの騒がしさで、真琴はいつもどおりハイテンションだし、歩はそれ見て笑ってるし、春原さんも、この学生会の中では1番偉いポストの高遠さんも注意しないし、俺は寝不足で頭が痛いのに。
…………春原さん、笑ってる場合じゃないよ。俺、昨日アンタの親友に、冗談で襲われ掛けたんだよ。
相川さんが、女の子相手に(あんな乱暴じゃないにしても)そういうことをよくしてる人なんだとして、でも何で俺なの?
普通、冗談でも、しらふで男相手にキスなんてする? しかもあんな…。
真琴、うるせぇよ、少し黙れよ。
イライラする。周り、全部。
何で笑ってんの? 高遠さんも、春原さんも、歩も。何がおかしいんだよ。
頭痛ぇ。
何だって相川さんは俺にキスなんかしたんだ? だから冗談だって、バーカ。本気にすんなよ。いや、してねぇし。俺、男だし。キモイよ、変態。
あーイライラする。だから、うるせぇんだって。歌ってんじゃねぇよ。
俺は昨日、男にキスされたんだぜ。しかもディープなヤツ。それも春原さんの親友に。オーマイガッ、今時の大学生はこんなでいいの?
のんきに歌ってる場合じゃねぇんだって。うるせぇよ、マジうるせぇ。うるせぇって、
「―――うるせぇんだよ! 真琴!!」
思わず叫んでいた。
乱暴に立ち上がったせいで椅子が引っ繰り返って、テーブルを殴った音が学生会室に響いて。拳が痛い。
シンと静まり返った室内。
「慶太、」
「……ぁ…」
隣にいた歩に腕を引かれて、急に頭に上っていた血が冷めていった。我に返れば、みんなが驚いたような、キョトンとした顔で俺を見てる。
困ったような、泣きそうにも見える真琴の瞳と視線がぶつかって、こんなのただの八つ当たりだ、真琴が悪いわけじゃないのに。
「……ゴメ…」
どうしていいか分からなくて、俺は歩に掴まれていた腕を解いて、学生会室を飛び出した。
行く宛てなんかない。
とにかく学生会室を離れたくて、みんなから離れたくて、1人になりたくて。
駆け込んだのは、学生会室からうんと離れた自販機コーナー。
幸いにも誰もいなくて、俺は端のソファに腰を掛けた。
何やってんだ、俺は。
真琴に怒鳴ってどうする。あいつが悪いわけじゃない。悪いのは俺だ。いや、俺か? 俺は被害者だぞ。だって昨日…。でもだからって、真琴に当たってもしょうがないのに。
もう嫌だ、頭が痛い、誰か助けてくれ…。
カタン…。
不意に、自分以外が立てた音が響いて、ハッと顔を上げた。
「あ…」
どうせ歩あたりが様子を見に来たんだろうと思ったそこには、厳しいような、けれど心配げな顔をした春原さんがいた。
「慶太…」
「―――……あ…あぁ…、もう始まりますよね、今行きます」
春原さんが、時間になるからって俺を呼びに来たわけじゃないってこと、分かってるけど、何も追及されたくなくて、春原さんに何か言われる前に早口でそう言って、ソファを立った。
「慶太、」
なるべく春原さんと目を合わさないように、さっさと横をすり抜けようとしたら、通り過ぎ際、春原さんに手首を掴まれた。
「何すか? もう行かないと…、……真琴にも謝んなきゃ、」
解こうとした手は、けれど春原さんのほうが力があって、うまくいかなくて。
「春原さ……離し」
「昨日、俺が帰った後、トモと何かあった?」
「―――……何がですか?」
俺だって"ごまかす"くらいの演技は出来る。
何かあったかだって? あったに決まってる。でも、何もなかったふりをするしかない。あんたに何が分かるの? それとももう、相川さんから何か聞いてんの? 知っててそんな顔してるの?
「いや、俺、昨日途中で帰っちゃったから…」
「別に、何もないですよ」
もうこれ以上は答えたくないという気持ちを暗に込めてそう言うと、俺は隙を突いて春原さんの手を解く。
「ホントに何もないんで……だから、もう戻りましょう」
まだ何か言いたそうな春原さんに背を向けて、先に歩き出す。少し後ろに、春原さんの気配を感じる。今は何も話したい気分じゃなかった。
学生会室に戻ると、真琴が泣きそうな顔で抱き付いてきた。みんなが心配そうに俺らのほうを見てる。
「うぅ~ゴメンー、慶太ー」
「……いや、俺のほうこそゴメン」
かわいいな、真琴。同い年なのに。
……かわいいって、そういえば昨日、相川さんもそう言ってたっけ。
俺のどこ見てそんなこと言うんだろ。大体、男相手にかわいいとかあるかよ……って、あぁ、今俺もそう思ったか。
でも俺と真琴じゃ、全然違う。本質的に違う。
もし男にかわいいって使うのなら、それは真琴みたいなのに使うんだ。俺じゃない。
なのにどういうわけか、俺に向かってそんなことを言った相川さん。
…………どうせ冗談なんだろうけど。
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ろくな愛をしらない 03
2008.01.27 Sun
【春原拓海】
「なー」
なるべくさりげなく、いつもどおりの雰囲気で。
トモの部屋。
勝手に転がったベッドで雑誌を読みながら、携帯電話を弄ってるトモに声を掛けた。
しっとりと雨の降る夜。
「何?」
携帯電話から顔も上げずに、トモが聞き返す。これもいつものこと。そう、すべてがいつもどおりだ。
「あのさぁ……お前、慶太と何かあった?」
人のことを詮索するつもりはないけど、今日のあまりにも慶太の様子がおかしかったから。
そんなにタフなほうじゃないから、疲れてる姿を見かけることはあるけど、だからってあんな風に人に当たるようなヤツじゃない。
昨日だって、メシ食いに行った先にトモがいたのに驚いて戸惑ってはいたけど、別にそれ以上のことはなかったはず…………少なくとも俺が帰るまでは。
「トモ?」
「慶太って……久住のこと?」
「そう。俺が帰った後、アイツに何かした?」
メールを送信し終えたのか、トモが顔を上げて俺のほうを向いた。
「別に」
あっさりと否定したトモは、携帯電話をローテーブルに置いて、ベッドに背中を預けた。
「でも珍しいじゃん。トモが慶太とメシ食いたいとか言い出して」
「そう? たまには違うメンツもいいかなと思って」
昨日、トモにメシを誘われたとき、たまたま慶太たちと先に約束があるからって伝えたら、一緒に行きたいだなんて言い出して。でも席に着いたら着いたで、トモは俺とばっかり話してるし。
「ホントに何もないんだな?」
「なーんも。俺が何かするわけないじゃん? あんなかわいくておもしろい子」
「…………お前、言い方がヤバイよ。何それ」
トモが、俺と違って男になんか興味がないこと知ってる。
なのに、この言い方。
慶太にかわいげがないとは言わないけれど、トモがわざわざ口に出してそんなこと言うなんて、不自然すぎる。
「……トモ。俺とお前は親友だよな?」
「何だよ、急に」
唐突な問いに、トモは苦笑いしてる。
でも俺はそれに笑い返してやる余裕もなくて。
「別に隠し事なんかしてないよな?」
「してねぇって。なぁ、また久住も誘って遊ぼうぜ?」
「はぁ!?」
思わずベッドの上で飛び起きた。
それを見て、トモはますます笑い出すけど。
「な、何で!?」
「何でって……お前こそ何なの、その反応。俺が久住と遊んじゃダメ?」
「そうじゃない、けど…」
今までこれと言って接点のなかったトモと慶太。
コイツは関係ないのにしょっちゅう学生会室に来てるけど、慶太と話なんかしてるとこ、見たことないし、プライベートで一緒になるなんて、きっと昨日が初めてだ。
でも、俺や歩がいる間に、2人がそんなに話してるようには見えなかったし、今日の慶太の様子からして、その後すごく仲良くなったようにも思えないんだけど。
「じゃあ、今度時間取れたらな? あ、俺、アイツの連絡先知らねぇから、拓海、うまく誘っといてよ。な?」
「あ……うん」
何これ。どうなってんの?
トモから話を聞き出すつもりが、何だかいいように丸め込まれてしまった…。
「トモー」
「あぁ?」
「何で慶太なの?」
「何が?」
分かっててそんな顔してるのか、本気で分かってないのか、トモは俺の質問に首を傾げるようにとぼけた顔をした。
あんな様子だったのに、慶太も別に何でもないふりをするし。
結局原因はトモじゃなかったってこと?
「何でもないならいいんだけどさ!」
ドサッとベッドに転がり、トモのほうを見る。
「だーってアイツ、おもしれぇんだもん」
ニヤリと笑ったトモの顔が、何となくだけど、知らない人の顔のように見えた。
「なー」
なるべくさりげなく、いつもどおりの雰囲気で。
トモの部屋。
勝手に転がったベッドで雑誌を読みながら、携帯電話を弄ってるトモに声を掛けた。
しっとりと雨の降る夜。
「何?」
携帯電話から顔も上げずに、トモが聞き返す。これもいつものこと。そう、すべてがいつもどおりだ。
「あのさぁ……お前、慶太と何かあった?」
人のことを詮索するつもりはないけど、今日のあまりにも慶太の様子がおかしかったから。
そんなにタフなほうじゃないから、疲れてる姿を見かけることはあるけど、だからってあんな風に人に当たるようなヤツじゃない。
昨日だって、メシ食いに行った先にトモがいたのに驚いて戸惑ってはいたけど、別にそれ以上のことはなかったはず…………少なくとも俺が帰るまでは。
「トモ?」
「慶太って……久住のこと?」
「そう。俺が帰った後、アイツに何かした?」
メールを送信し終えたのか、トモが顔を上げて俺のほうを向いた。
「別に」
あっさりと否定したトモは、携帯電話をローテーブルに置いて、ベッドに背中を預けた。
「でも珍しいじゃん。トモが慶太とメシ食いたいとか言い出して」
「そう? たまには違うメンツもいいかなと思って」
昨日、トモにメシを誘われたとき、たまたま慶太たちと先に約束があるからって伝えたら、一緒に行きたいだなんて言い出して。でも席に着いたら着いたで、トモは俺とばっかり話してるし。
「ホントに何もないんだな?」
「なーんも。俺が何かするわけないじゃん? あんなかわいくておもしろい子」
「…………お前、言い方がヤバイよ。何それ」
トモが、俺と違って男になんか興味がないこと知ってる。
なのに、この言い方。
慶太にかわいげがないとは言わないけれど、トモがわざわざ口に出してそんなこと言うなんて、不自然すぎる。
「……トモ。俺とお前は親友だよな?」
「何だよ、急に」
唐突な問いに、トモは苦笑いしてる。
でも俺はそれに笑い返してやる余裕もなくて。
「別に隠し事なんかしてないよな?」
「してねぇって。なぁ、また久住も誘って遊ぼうぜ?」
「はぁ!?」
思わずベッドの上で飛び起きた。
それを見て、トモはますます笑い出すけど。
「な、何で!?」
「何でって……お前こそ何なの、その反応。俺が久住と遊んじゃダメ?」
「そうじゃない、けど…」
今までこれと言って接点のなかったトモと慶太。
コイツは関係ないのにしょっちゅう学生会室に来てるけど、慶太と話なんかしてるとこ、見たことないし、プライベートで一緒になるなんて、きっと昨日が初めてだ。
でも、俺や歩がいる間に、2人がそんなに話してるようには見えなかったし、今日の慶太の様子からして、その後すごく仲良くなったようにも思えないんだけど。
「じゃあ、今度時間取れたらな? あ、俺、アイツの連絡先知らねぇから、拓海、うまく誘っといてよ。な?」
「あ……うん」
何これ。どうなってんの?
トモから話を聞き出すつもりが、何だかいいように丸め込まれてしまった…。
「トモー」
「あぁ?」
「何で慶太なの?」
「何が?」
分かっててそんな顔してるのか、本気で分かってないのか、トモは俺の質問に首を傾げるようにとぼけた顔をした。
あんな様子だったのに、慶太も別に何でもないふりをするし。
結局原因はトモじゃなかったってこと?
「何でもないならいいんだけどさ!」
ドサッとベッドに転がり、トモのほうを見る。
「だーってアイツ、おもしれぇんだもん」
ニヤリと笑ったトモの顔が、何となくだけど、知らない人の顔のように見えた。
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ろくな愛をしらない 04
2008.01.28 Mon
【久住慶太】
春原さんの口から「トモ」という言葉を聞いたときは、本当に卒倒しそうだった。いや、いっそ倒れてしまえれば良かったのかもしれない。
「トモがまた慶太と遊びたいって言ってた」
広い講堂で授業を受けた後、歩と待ち合わせしてる学食に向かおうとしたら、ばったり春原さんと出くわして。
ちょうど次にこの講堂で授業があるらしい。珍しく1人だから、相川さんはどっかでサボってんのかな。
「相川さんが、何て?」
「……また遊びたいって、慶太と」
「俺と? なん……俺と?」
遊ぶって何? 相川さんが言う"遊ぶ"ってさ。
またこの間みたいなことして、俺を困惑させたいの? そんで、冗談だって言って笑いたいの?
「よく分かんないけどさ、何か慶太と仲良くなりたいみたい」
「………………」
仲良くなりたいだって? どういうつもり?
おもしろいおもちゃを見つけたとでも思ってるんだろうか。
あぁそういえば、しきりに俺のことをおもしれぇヤツ、とか言ってたっけ。
「慶太?」
「……あ、いや…」
春原さんの手前、嫌だとか言えないし、かといって、ここでOKして、また相川さんとの場をセッティングされたら…。
「どうして相川さん、急に俺なんか」
「それが俺にもさっぱり。この前、一緒にメシに行ったのが、よっぽど楽しかったのかな」
「俺、相川さんとそんなに話した覚え、ないんですが…」
「俺もそう思うんだけど……まぁ、都合がついたら、また遊ぼうよ」
「…………はぁ、」
春原さん自身も、相川さんが何考えてるのかよく分かんないって感じで。
とりあえずが春原さんの言葉を社交辞令程度にとらえて、俺は曖昧に返事をしておいた。
"あの"日から何日も経って、俺もそれなりに忙しいし、春原さんも忙しいし、相川さんも忙しいみたいで("何"でとはあえて言わないけど)、春原さんが俺に言った言葉が実現することはなかった。
人間の記憶なんて便利に出来ていて、あんなに苦しく思っていたことも、日々に忙殺されて徐々に忘れていくもんだ。
あのとき相川さんが言ったみたいに、あの日のこと全部が冗談なんだって思えるような気がした。
全部冗談。
俺と相川さんの間には何もなかったんだって。
いっそあの日のこと全部が夢なのかもしれない。
「慶太ー、最近ちゃんと寝てるー?」
学生会室のソファのとこでグダグダしてたら、隣に歩がやって来た。
「寝てるよ。何、急に」
「いや、何かちょっと前まで、調子悪そうだったじゃん。目の下、クマとか作っちゃって」
「あー…」
やっぱ友だちなだけある。
歩は意外と面倒見のいいキャラだし、見てないようで結構いろいろ見ててくれる。
学生会室で真琴のこと怒鳴っちゃったってのもあるけど、それだけじゃなくて、このところ、さりげなく歩が気を遣ってくれてるの、分かってる。
「……ちょっと、疲れてたのかも」
いっそ、歩にでも相談してみようかとも思った。
でも、何て言う? 冗談で相川さんに襲われ掛けたんだけどー……って、歩の胃に穴が開いちゃうよ。
何も言わなくていい。
あのときのことは、静かにゆっくりと俺の記憶の中から消えていく。
もう元気だし、誰にも心配なんかかけない。真琴とだって相変わらずだし。
「拓海、ケータイ鳴ってるよー」
心地よさに任せて歩に寄り掛かってたら、テーブルの上の携帯電話が震えた。カバンにも入れずにその辺に放り出してるのは、たいてい春原さんか高遠さんしかいない。
機種から俺もそれが春原さんの携帯電話だって分かったけど、あれ以来、何となく自分から春原さんに声を掛けるのがしんどくて、黙ってた。
呼ばれてやって来た春原さんは、携帯電話のディスプレイを見ると、眉を顰めた。嫌な相手なのかな、とも思ったけど、春原さんは学生会室の外に出ることもなく、その場で電話に出た。
春原さんの電話の相手に興味はないし、何だかちょっと眠くて、俺は目を閉じる。すぐにふわふわしたような感じになって、電話する春原さんの声が遠くなった。
―――――けど。
「もしもし? いや、まだ学校だけど、え? 今日? いや、これが終れば何もないけど…………あぁ、いいよ。え? 慶太? 一緒だけど」
え?
春原さんと電話越しの相手の会話の中に俺の名前が出てきた瞬間、ハッと意識が戻って来た。
確かに"慶太"って言った。
いや、春原さんの友だちの中にそう呼ばれてるヤツがいるのかもしれないけど、その後に『一緒だけど』って言ったってことは、その"慶太"って、俺のこと?
「んー……聞いてみるけどー…………慶太ー、あれ? 寝てる?」
やっぱり俺のことだ。
どうしよう、寝たふりを続けようか。
「慶太?」
歩が少し体を動かす。
どうしよう、これ以上うまく寝たふりなんかできない体勢なんですが…。
「…………何ですか?」
仕方なく、今起きたふうな感じで顔を上げた。
「ねぇ慶太、今日これ終わった後、何か予定ある?」
「え? いや、別にないですけど…」
「じゃあさぁ、終わったらメシ食いに行かね?」
「あ、はぁ、いいですよ」
「トモがさぁ、慶太のことも誘えって、言うから」
「え?」
トモが。
―――トモ。
「なっ…ちょっ」
断ろうとしたときにはもう、春原さんは電話の向こうの相川さんに、「慶太もいいってー」と答えた後で。
慌てたって、後の祭り。
春原さんはもう電話を切っていた…。
「え? 都合悪かった?」
「あ、いや…」
どうしよう、今さら断る理由が思い浮かばない。
「いいなぁー俺も行きたい!」
そう言い出した歩が救いの手を差し伸べているように思えたのに、
「でも俺、この後、教授のとこ行かなきゃだった…」
ホンット、役立たず!
春原さんの口から「トモ」という言葉を聞いたときは、本当に卒倒しそうだった。いや、いっそ倒れてしまえれば良かったのかもしれない。
「トモがまた慶太と遊びたいって言ってた」
広い講堂で授業を受けた後、歩と待ち合わせしてる学食に向かおうとしたら、ばったり春原さんと出くわして。
ちょうど次にこの講堂で授業があるらしい。珍しく1人だから、相川さんはどっかでサボってんのかな。
「相川さんが、何て?」
「……また遊びたいって、慶太と」
「俺と? なん……俺と?」
遊ぶって何? 相川さんが言う"遊ぶ"ってさ。
またこの間みたいなことして、俺を困惑させたいの? そんで、冗談だって言って笑いたいの?
「よく分かんないけどさ、何か慶太と仲良くなりたいみたい」
「………………」
仲良くなりたいだって? どういうつもり?
おもしろいおもちゃを見つけたとでも思ってるんだろうか。
あぁそういえば、しきりに俺のことをおもしれぇヤツ、とか言ってたっけ。
「慶太?」
「……あ、いや…」
春原さんの手前、嫌だとか言えないし、かといって、ここでOKして、また相川さんとの場をセッティングされたら…。
「どうして相川さん、急に俺なんか」
「それが俺にもさっぱり。この前、一緒にメシに行ったのが、よっぽど楽しかったのかな」
「俺、相川さんとそんなに話した覚え、ないんですが…」
「俺もそう思うんだけど……まぁ、都合がついたら、また遊ぼうよ」
「…………はぁ、」
春原さん自身も、相川さんが何考えてるのかよく分かんないって感じで。
とりあえずが春原さんの言葉を社交辞令程度にとらえて、俺は曖昧に返事をしておいた。
"あの"日から何日も経って、俺もそれなりに忙しいし、春原さんも忙しいし、相川さんも忙しいみたいで("何"でとはあえて言わないけど)、春原さんが俺に言った言葉が実現することはなかった。
人間の記憶なんて便利に出来ていて、あんなに苦しく思っていたことも、日々に忙殺されて徐々に忘れていくもんだ。
あのとき相川さんが言ったみたいに、あの日のこと全部が冗談なんだって思えるような気がした。
全部冗談。
俺と相川さんの間には何もなかったんだって。
いっそあの日のこと全部が夢なのかもしれない。
「慶太ー、最近ちゃんと寝てるー?」
学生会室のソファのとこでグダグダしてたら、隣に歩がやって来た。
「寝てるよ。何、急に」
「いや、何かちょっと前まで、調子悪そうだったじゃん。目の下、クマとか作っちゃって」
「あー…」
やっぱ友だちなだけある。
歩は意外と面倒見のいいキャラだし、見てないようで結構いろいろ見ててくれる。
学生会室で真琴のこと怒鳴っちゃったってのもあるけど、それだけじゃなくて、このところ、さりげなく歩が気を遣ってくれてるの、分かってる。
「……ちょっと、疲れてたのかも」
いっそ、歩にでも相談してみようかとも思った。
でも、何て言う? 冗談で相川さんに襲われ掛けたんだけどー……って、歩の胃に穴が開いちゃうよ。
何も言わなくていい。
あのときのことは、静かにゆっくりと俺の記憶の中から消えていく。
もう元気だし、誰にも心配なんかかけない。真琴とだって相変わらずだし。
「拓海、ケータイ鳴ってるよー」
心地よさに任せて歩に寄り掛かってたら、テーブルの上の携帯電話が震えた。カバンにも入れずにその辺に放り出してるのは、たいてい春原さんか高遠さんしかいない。
機種から俺もそれが春原さんの携帯電話だって分かったけど、あれ以来、何となく自分から春原さんに声を掛けるのがしんどくて、黙ってた。
呼ばれてやって来た春原さんは、携帯電話のディスプレイを見ると、眉を顰めた。嫌な相手なのかな、とも思ったけど、春原さんは学生会室の外に出ることもなく、その場で電話に出た。
春原さんの電話の相手に興味はないし、何だかちょっと眠くて、俺は目を閉じる。すぐにふわふわしたような感じになって、電話する春原さんの声が遠くなった。
―――――けど。
「もしもし? いや、まだ学校だけど、え? 今日? いや、これが終れば何もないけど…………あぁ、いいよ。え? 慶太? 一緒だけど」
え?
春原さんと電話越しの相手の会話の中に俺の名前が出てきた瞬間、ハッと意識が戻って来た。
確かに"慶太"って言った。
いや、春原さんの友だちの中にそう呼ばれてるヤツがいるのかもしれないけど、その後に『一緒だけど』って言ったってことは、その"慶太"って、俺のこと?
「んー……聞いてみるけどー…………慶太ー、あれ? 寝てる?」
やっぱり俺のことだ。
どうしよう、寝たふりを続けようか。
「慶太?」
歩が少し体を動かす。
どうしよう、これ以上うまく寝たふりなんかできない体勢なんですが…。
「…………何ですか?」
仕方なく、今起きたふうな感じで顔を上げた。
「ねぇ慶太、今日これ終わった後、何か予定ある?」
「え? いや、別にないですけど…」
「じゃあさぁ、終わったらメシ食いに行かね?」
「あ、はぁ、いいですよ」
「トモがさぁ、慶太のことも誘えって、言うから」
「え?」
トモが。
―――トモ。
「なっ…ちょっ」
断ろうとしたときにはもう、春原さんは電話の向こうの相川さんに、「慶太もいいってー」と答えた後で。
慌てたって、後の祭り。
春原さんはもう電話を切っていた…。
「え? 都合悪かった?」
「あ、いや…」
どうしよう、今さら断る理由が思い浮かばない。
「いいなぁー俺も行きたい!」
そう言い出した歩が救いの手を差し伸べているように思えたのに、
「でも俺、この後、教授のとこ行かなきゃだった…」
ホンット、役立たず!
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- コメントや拍手、ありがとうございます。拍手の公開コメントへのお返事はこちらから。それ以外は、コメントをいただいた記事に返信いたします。
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