恋三昧

【18禁】 BL小説取り扱い中。苦手なかた、「BL」という言葉に聞き覚えのないかた、18歳未満のかたはご遠慮ください。

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7. 無邪気にはにかむ確信犯


 水瀬が風呂に入っている間に、グチャグチャになったシーツやら、脱ぎ散らかしたままになっていた水瀬の制服らを片付けていたら、石田の携帯電話が音を立てた。

「あーはいはい」

 ベッドに丸めたシーツを放り投げて、石田は急いでカバンから携帯電話を取り出した。

「………………。はぁ?」

 背面ディスプレイに表示された、発信者の名前―――――水瀬環。
 本当に、「はぁ?」だ。

(アイツ、風呂入ってんじゃねぇの?)

 訝しく思いながら、石田は水瀬かららしい着信を受ける。

『あ、石田ー』
「……何、お前。風呂入ってんじゃねぇの?」

 出てみれば、やはりその電話は水瀬からで。
 何が何だか、訳が分からない。

『あのさー、パンツ持って来るの忘れたから、持って来て?』
「はぁ?」
『だからー、パンツ!』
「ちょっと待て、お前、今どっから電話…」

 電話越し。
 妙に響いている水瀬の声。

「……お前、風呂から掛けてんの?」
『そう』
「待て待て待て。何で風呂にケータイ持ってってんだよ!」
『暇だから』
「…………」

 よく分からない理由を、さも当然のように言ってのけて、水瀬は『早く、パンツー』とデリカシーの欠けらもないことを口にする。

「あーもう! 今持ってくから!」

 何で携帯電話は持っていって、肝心の下着は忘れていくんだ!?
 それでも慣れた手つきでタンスを漁ると、石田は言われたとおりに下着と着替えを持ってバスルームに向かった。

「おー、ご苦労ご苦労」

 脱衣所とバスルームを仕切るドアを少し開けて、ご所望の着替えを用意したことを伝えれば、湯船の中の水瀬が満足そうにそう言った。

「ホントにお前は…」
「あ、石田。もう1個お願い聞いて?」
「はぁ? 何だよ」
「ケータイ、そっちに置いて? 濡れちゃう」
「……」

 だったら最初から風呂になんか持ってくんなよ! ―――――とは、言っても聞かないだろうから、あえて何も言わず、石田は携帯電話を受け取るため、バスルームの中に入った。

「水瀬、ケータイ」

 ホラ、と差し出された石田の手。
 ニヤリ。
 水瀬の口元が少し上がったのを、石田は見ていなかった。

「え? ――――うわっ!?」

 携帯電話を受け取るために伸ばされた石田の手は、なぜか水瀬にしっかりと掴まれて。
 しかもあろうことか、その手はグイと、湯船の中にいる水瀬のほうに引っ張られて。

 結果。

 ザッバーン! と、派手な音と水しぶきを上げて、石田の上半身は、そのまま湯船の中に上半身を突っ込んでしまった。

「~~~~~~…………おま……」
「ひゃはははは」
「笑ってる場合かーーーー!!!」

 石田の荒げた声は、バスルームということもあって、大きく響き渡ったけれど、水瀬はまったくそれに怯むことなく笑い続けている。

「つーかお前、ケータイは!?」

 上半身ずぶ濡れ。
 こんな状態にさせられてもまだなお、そうした張本人の携帯電話の心配をするあたり、石田のお人よし加減は大したものかもしれない。
 ハッと周囲を見回しても、水瀬の携帯電話らしき物体は見当たらなくて、まさか湯船の中に落としてしまったのかと、石田はさらに焦る。

「水瀬、ケータイ…」
「それはもういいの」
「もういいって…」
「だって、ケータイもう向こうに置いてあるし」

 そう言って水瀬が指差したのは、脱衣場の方向。
 石田は脱衣場と水瀬の顔を交互に見た。

「は?」
「ま、いいじゃん。石田もこんだけ濡れたんだから、風呂入んなきゃだろ? 入ろ?」
「…………」

 えっと。
 えっとー…。

 最初、一緒に風呂に入るのを断って。
 1人バスルームに向かった水瀬に、パンツがないから持って来いと携帯電話で呼び出され。
 濡れたら困ると携帯電話を受け取ろうとしたところで、湯船に上半身を沈められ(しかもすでに携帯電話は脱衣場に片付けられていて)。
 結果、一緒に風呂に入るはめに。

「……て、お前、わざとかーーーー!!!!」
「ひゃはははは!」

 パンツを持たずに携帯電話を持っていったのも。
 携帯電話を片付けろと、わがままを言ったのも。
 すべては、当初に断られた、『一緒にお風呂』を実行するための、伏線でしかなかったのだ。

「入るよね? 石田」
「………………」
「ね?」

 無邪気に笑っている、確信犯。

「…………はい」

 ヘタレ石田の、下克上への日は遠い。





*END*

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カテゴリー:高校生男子
テーマ:自作BL小説  ジャンル:小説・文学

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