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ドルチェ (前編)
2008.02.14 Thu
2月4日が相川さんの誕生日で、その1週間後の11日が俺の誕生日。
で、その3日後の14日はバレンタインデー。
何かイベントが目白押しすぎて、どうしていいか分かんない。
だって誕生日には、プレゼントあげて、お祝いしたし。
でもやっぱ、誕生日とバレンタインは別物?
俺はもともとそういうイベントを、あんまり重視しない人だっただから、どっちが喜ばれるのか、よく分からない。
でも、バレンタインにチョコ貰って、喜ばない男はいないよな。
(……手作り…?)
いやいやいやいや。
さすがにそれは、寒いから。
そこまで気合い入れても。
だいいち、全然料理なんてしないのに、チョコなんて。
(でも、融かして固めるだけだよな…)
お店、ちょっと覗くだけ。
何か良さそうなのがあったら、そっと買っていこう。
きれいにラッピングされたヤツ。
うん。
俺が作るより、そのほうが絶対いい。
絶対。
……て、思ってたのに。
「……何で俺はこんなところにいるんだ…。そして、何をしようとしてるんだ…」
「もう、慶太! グズグズ言ってないで、始めるよ? チョコ出して」
相変わらずな調子で、泡立て器とやらを振り回してるのは、真琴。
恋人に、どうしてもバレンタインのチョコを作ってやりたいんだとか(前に1度お会いした小沢さんという真琴の恋人は、モデルをしているというだけあって、恐ろしいほど男前だった)。
いや、気持ちは分からないでもないよ。
俺も一瞬、そうしようかな、て思ったからね。
あのときお店に入ったときも、ラッピングされてる高級そうなチョコのそばに、手作り用のキットとかがあって、ちょっと買っちゃおうかなーとか思ったけどね。
でもよくよく考えたら、どこで作るのか、って思ったわけ。
だってウチ、お父さんとお母さんいるからね。
バレンタイン間近に、1人息子が台所に籠ってチョコなんて作ってたら、余計な心配をかけかねない。
そう思ってたところで、真琴に声を掛けられて。
『俺んちで一緒に作ろうよ』
なんて、笑顔で言われて。
その後に、『ウチなら平気だから』とか付け加えるから。
てっきり、真琴が1人暮しなんだと思ったんだよ。
それなら誰に気兼ねするでもなく、作れるから。
なのに付いてきた先は、普通の一軒家。
驚いてる俺に構うことなく、上がり込む真琴(自分ちなんだから、当たり前だけど)。
え、じゃあ、今日はみんな留守? なんて、ほのかな期待を抱いたのも束の間。
「お帰り、マコ」
「お帰りー」
登場したのは、真琴によく似た顔×2。
「ただいまー、お兄ちゃん」
お兄ちゃん!?
お兄ちゃんが2人もいる家で、これからバレンタインのチョコ作り!?
「慶太、早く上がってー」
「あ、お邪魔、します…」
いまさら引き返せるわけもなくて、仕方なく俺は真琴の後に続く。
「真琴、兄ちゃん2人もいんの?」
「うん。あと弟」
「え、4人兄弟!?」
「そう」
他に兄弟が3人もいる家の、どこが平気なんだ!?
これなら、俺んちでやったほうが、まだマシだ…!!
「これから慶太とチョコ作るんだから、お兄ちゃんたち、邪魔しないでね!」
「はいはい。遥斗くんにあげるヤツ?」
「そう!」
え。
ちょっ…え?
今、普通に、さらっと会話してたけど。
「真琴」
お兄さんが出ていったのを見届けてから、声を潜めて尋ねる。
「真琴、自分の恋人が男だってこと、兄ちゃんに言ってんの?」
「うん。家族みんな知ってる」
「マジで!?」
「だってウチ4人兄弟だし、1番上のお兄ちゃん結婚して子どもいるから、もう孫の顔も見てるし。1人くらいホモでも平気かなー、て思って、もうずっと昔にカミングアウトしたよ。はーちゃんの前に付き合ってた人のとき」
「すげぇ…」
簡単に言うけど、お前のその発想は、とんでもなく大胆だぞ。
しかもそれを普通に話すお前もすごいが、それを普通に受け入れてる、家族も家族だ(いや、そんな家族だからこそ、真琴がこう育ったのかも…)。
ウチなら絶対、失神ものだ。
「じゃ、作ろっか」
「あぁ…」
作る前から、すでに疲労困憊なのは、なぜだ?
真琴が用意した雑誌に、バレンタイン用のチョコの作り方が載っている。
すでにページが少しボロボロになっているのは、何度か読み直したりしているからだろう。
「まずね、チョコを刻んで、湯煎に掛けてー」
て、真琴が説明してくれるけど。
「"ゆせん"て何?」
「分かんない」
「え、」
えっと、真琴、チョコ作ろうって言ったからには、作り方、知ってるんだよね…?
「とにかく! この本のとおりにやれば、きっと何とかなるはずだから! きっと!」
「……真琴、作ったことあるの?」
「ない! けど、うまくいくはず!」
どこからそんな自信が沸いてくるのかと思うけど、とにかくここまで来たら、やらないわけにはいかない。
本のとおり、チョコを刻んでみる。
でも悪いけど、包丁持つのだって、殆ど未経験ですからね、僕!
「真琴、家で料理とかすんの?」
「ぜーんぜん」
隣で、俺よりは多少慣れた手つきでチョコを刻む真琴に聞いてみれば、返事はこれ。
「前にはーちゃんにご飯作ってあげたとき、破滅的な味がする、て言われた」
……うん。
それは決して褒め言葉じゃないね。
「イテッ!」
て、さっそく指切ってるし…。
「慶太、大丈夫?」
「何とか…」
こんなんで、ホントに完成するのか…?
「全部刻んだ? そしたらこれを湯煎に…」
「で、結局湯煎て何なわけ?」
「えーっと、だからー、鍋にお湯入れるでしょ? その上に別のボウルを置いて、ボウルの中にチョコを…」
「お湯、沸かしてない」
「あ!」
真琴は慌てて、水を入れた鍋を火に掛ける。
その間に雑誌を覗き込めば、何か写真では、融けてるチョコの中に温度計が差してあって。
よく読めば、お湯は50~60度で、チョコを40~45度まで温めるとか書いてある。
「真琴、温度計なんて、あるの?」
「え? 温度計? 体温計じゃなくて?」
「……」
……ホントに完成するのか、このチョコ作り…。
「ちょっとお母さんに聞いてくる!」
温度計が必要だってことを真琴に言ったら、真琴がバタバタと台所を出て行った。
学校で会うといつもテンション高いヤツだけど、普段からあんななんだな…。
「温度計あった!」
真琴が戻って来たときには、鍋のお湯はグラグラと沸騰していて、見ただけで50度なんかじゃないってことは分かるけど。
とりあえず火を止めてから、温度計を突っ込んでみる。
何に使ってた温度計か知らないけど…………キレイなんだよね?
「とりあえずお湯が5,60度になったら、湯煎にかけてみよ?」
「うん。でも何か氷水もいるみたいだけど」
「え!?」
「チョコが40度になったら、今度はボウルを氷水につけて、冷ますんだって」
「分かった!」
同じように雑誌を覗き込んだ真琴が次の手順を確認して、冷凍庫から氷を出した…………途端。
「うわっ!?」
手を滑らせて、氷の入っていた入れ物を床に落っことし……床は氷だらけ…。
「わーー、どうしよ!」
「とりあえず早く拾えって!」
この氷を食うわけじゃないから、拾って使おうと思えば使えるはずだし。
テーブルの下にまで転がっていってる氷を、慌ててみんな拾って、ボウルに氷水を作った……はいいけど。
「あ、お湯の温度、下がりすぎてる!」
あたふたしてる間に、さっきまで100度近くまであったお湯は、すでに40度以下…。
風呂じゃないんだから…。
「もっかい沸かさなきゃ!」
再度、お湯を沸かして50度にまで上げて、今度こそ、湯煎。
「はぁ…疲れた…」
まだ、たぶん作業的には殆ど終わってないのに、すげぇ疲れた…。
とりあえず、ヘラでチョコを混ぜる作業は真琴に任せて、俺は雑誌の続きを見る。
湯気だとか水分をチョコに入れないように気を付けながら融かして、40度になったら今度は氷水のボウルに移し替えて、26度にする(細かいっ!)
でもそこまでしたら、あとは型に流し込んで固めるだけらしいから、そこまでいけば一段落す……
「真琴! チョコの中にお湯入ってる!」
「だって! 脇からお湯が入っちゃったんだもん!」
湯気ですら入れるなって書いてあるのに、何で思いっきりチョコの中にお湯入れてんだよ!
「あーん、もう無理ーー!!」
「無理って言うなぁー!!」
別に最初は乗り気じゃなかったけど、ここまで来たら、やり遂げたいし。
この融かした大量のチョコ、このまま捨てたらもったいないし。
「もう、お母さんに助けてもらおう」
「いいって! そこまでしなくても大丈夫だから! まずお湯捨てて、お湯がかかった部分だけよければ何とかなるって」
「うぅ~…」
今にも泣き出しそうな真琴を何とか宥めて、作業を再開する。
いくら何でも、こんなこと、お母さんに手伝ってもらうなんて、恥ずかしすぎる!
「融けた?」
「40度になったから、今度は氷水につけないと……氷水、零すなよ?」
「大丈夫!」
ホントかよ…とは思いつつ、今度はボウルを氷水のほうに移す…………けど。
「お前…、氷水のボウルのほうが小せぇじゃん!」
ボウルのサイズが明らかに、間違ってる。
どうやったって、チョコのほうのボウルの、底しかつけられない。
「おっきいボウルに移し替えよう!」
念のため、先にボウルの大きさを確認してから、氷水を移し替える。
「…」
少しずつ、そっと氷水をボウルに……
―――――ガッシャーン!!
「ギャーーー!!」
「あー……」
やっちゃった…。
床一面、水浸し。
「あーどうしようっ! どうしよー!!」
「とにかく雑巾!」
「チョコは!?」
「そんな場合かっ!」
とうとう真琴は泣き出してしまったけれど、ハッキリ言って泣きたいのはこっちだ。
「マコ、どうしたの?」
さすがにこれだけの物音がすれば、何事かと思ったのか、真琴のお母さんが台所に顔を出した。
「水がー! チョコーー!!」
全くわけの分からない説明だけれど、お母さんは台所を見ただけで、事態をすべて把握したらしい。
とりあえず真琴に雑巾を取りに行かせて、お母さんはチョコのほうをどうにかしてくれるようだ。
そして。
2人がかりで床をキレイにしたときには、もうすっかり疲れ果ててて。
とてもじゃないけれど、これからもう1回チョコを作れって言われても、とても無理…。
「2人とも。あとは型に流すだけだから。そのくらい出来るでしょ?」
真琴のお母さんに言われて、テーブルを見れば、キレイに融けたチョコレートがボウルの中に。
「お母さーん…」
でももうチョコも氷も何もないはずなのに、て思ったら、どうやら冷め過ぎたらもう1度、湯煎とやらにかけてやり直せばいいらしい。
しかも氷は、真琴の兄ちゃんが買いに行ってくれたらしい。
「型…」
まだ鼻をグズグズさせながら、真琴が買ってきた型を1つ俺に渡した。
俺は恥ずかしいから、ハート型とかはさけたんだけど、真琴はいかにもバレンタインのチョコ! て感じの、大きいハート型。
今度こそ慎重にチョコを流し入れて、ようやく完成。
「あとは固まるのを待つだけだね」
「何とかな…」
昔、付き合ってた彼女から手作りのチョコ貰ったことがあるけど、まさかこんなに大変だって思わなかった。
甘く見てた。
しかも、ボウルとか使ったヤツを片付けようとしたら、あとが大変だからって、真琴のお母さんがみんなやってくれて。
本当にすみません。
「出来たーーー!!」
キレイに固まったチョコを見て、真琴が声を大きくした。
ここまでの仕上がりになった9割は、真琴のお母さんの力だけどな。
「ラッピングもすんの?」
兄ちゃんに聞かれて、真琴は「これ!」て買ってきた包装紙を見せつけた。
確かに、自分で作るってことになれば、ラッピングだって自分でしなきゃなんだよな。
…ていうか、別にいいけど、ラッピングしてるところを、真琴のお母さんとか兄ちゃんたちに見られてるの、恥ずかしいんですけど…。
でも散々お世話を掛けたから、こんなトコでわがまま言えないし…。
つーか、ラッピングとか、したことないんですけど。
「これでいいわけ?」
お店とかの見よう見まねで包んでみるけど……何かやっぱ、ちょっと…。
きっちり包んだはずなのに、ちょっと緩いし。
ちらりと真琴の手元を覗けば、器用な真琴はキレイに包んでる。
「もっかい…」
そっとテープを剥がしてやり直してみるけれど、1回包んだことで紙がシワシワな分……さっきより変。
でもまた包み直したら、これ以上変になるのは確実。
「リボン掛ける?」
「えー? リボン?」
でも、リボン掛ければ、雑な包装はごまかせるかもしれない。
「……慶太って、意外と不器用?」
改めて言われなくても、分かってるって!
だってリボン、縦結びになってるし!
悔しいからもう1回解いて結び直してみるけど……やっぱり縦結び。
しょうがないから、無理やりリボンの形にした。
「へへ。きっと智紀さん、喜ぶよ?」
「そうかな?」
「そうだって!」
バレンタイン当日に、13日の内容を載せるって、どういうこと?
で、その3日後の14日はバレンタインデー。
何かイベントが目白押しすぎて、どうしていいか分かんない。
だって誕生日には、プレゼントあげて、お祝いしたし。
でもやっぱ、誕生日とバレンタインは別物?
俺はもともとそういうイベントを、あんまり重視しない人だっただから、どっちが喜ばれるのか、よく分からない。
でも、バレンタインにチョコ貰って、喜ばない男はいないよな。
(……手作り…?)
いやいやいやいや。
さすがにそれは、寒いから。
そこまで気合い入れても。
だいいち、全然料理なんてしないのに、チョコなんて。
(でも、融かして固めるだけだよな…)
お店、ちょっと覗くだけ。
何か良さそうなのがあったら、そっと買っていこう。
きれいにラッピングされたヤツ。
うん。
俺が作るより、そのほうが絶対いい。
絶対。
……て、思ってたのに。
「……何で俺はこんなところにいるんだ…。そして、何をしようとしてるんだ…」
「もう、慶太! グズグズ言ってないで、始めるよ? チョコ出して」
相変わらずな調子で、泡立て器とやらを振り回してるのは、真琴。
恋人に、どうしてもバレンタインのチョコを作ってやりたいんだとか(前に1度お会いした小沢さんという真琴の恋人は、モデルをしているというだけあって、恐ろしいほど男前だった)。
いや、気持ちは分からないでもないよ。
俺も一瞬、そうしようかな、て思ったからね。
あのときお店に入ったときも、ラッピングされてる高級そうなチョコのそばに、手作り用のキットとかがあって、ちょっと買っちゃおうかなーとか思ったけどね。
でもよくよく考えたら、どこで作るのか、って思ったわけ。
だってウチ、お父さんとお母さんいるからね。
バレンタイン間近に、1人息子が台所に籠ってチョコなんて作ってたら、余計な心配をかけかねない。
そう思ってたところで、真琴に声を掛けられて。
『俺んちで一緒に作ろうよ』
なんて、笑顔で言われて。
その後に、『ウチなら平気だから』とか付け加えるから。
てっきり、真琴が1人暮しなんだと思ったんだよ。
それなら誰に気兼ねするでもなく、作れるから。
なのに付いてきた先は、普通の一軒家。
驚いてる俺に構うことなく、上がり込む真琴(自分ちなんだから、当たり前だけど)。
え、じゃあ、今日はみんな留守? なんて、ほのかな期待を抱いたのも束の間。
「お帰り、マコ」
「お帰りー」
登場したのは、真琴によく似た顔×2。
「ただいまー、お兄ちゃん」
お兄ちゃん!?
お兄ちゃんが2人もいる家で、これからバレンタインのチョコ作り!?
「慶太、早く上がってー」
「あ、お邪魔、します…」
いまさら引き返せるわけもなくて、仕方なく俺は真琴の後に続く。
「真琴、兄ちゃん2人もいんの?」
「うん。あと弟」
「え、4人兄弟!?」
「そう」
他に兄弟が3人もいる家の、どこが平気なんだ!?
これなら、俺んちでやったほうが、まだマシだ…!!
「これから慶太とチョコ作るんだから、お兄ちゃんたち、邪魔しないでね!」
「はいはい。遥斗くんにあげるヤツ?」
「そう!」
え。
ちょっ…え?
今、普通に、さらっと会話してたけど。
「真琴」
お兄さんが出ていったのを見届けてから、声を潜めて尋ねる。
「真琴、自分の恋人が男だってこと、兄ちゃんに言ってんの?」
「うん。家族みんな知ってる」
「マジで!?」
「だってウチ4人兄弟だし、1番上のお兄ちゃん結婚して子どもいるから、もう孫の顔も見てるし。1人くらいホモでも平気かなー、て思って、もうずっと昔にカミングアウトしたよ。はーちゃんの前に付き合ってた人のとき」
「すげぇ…」
簡単に言うけど、お前のその発想は、とんでもなく大胆だぞ。
しかもそれを普通に話すお前もすごいが、それを普通に受け入れてる、家族も家族だ(いや、そんな家族だからこそ、真琴がこう育ったのかも…)。
ウチなら絶対、失神ものだ。
「じゃ、作ろっか」
「あぁ…」
作る前から、すでに疲労困憊なのは、なぜだ?
真琴が用意した雑誌に、バレンタイン用のチョコの作り方が載っている。
すでにページが少しボロボロになっているのは、何度か読み直したりしているからだろう。
「まずね、チョコを刻んで、湯煎に掛けてー」
て、真琴が説明してくれるけど。
「"ゆせん"て何?」
「分かんない」
「え、」
えっと、真琴、チョコ作ろうって言ったからには、作り方、知ってるんだよね…?
「とにかく! この本のとおりにやれば、きっと何とかなるはずだから! きっと!」
「……真琴、作ったことあるの?」
「ない! けど、うまくいくはず!」
どこからそんな自信が沸いてくるのかと思うけど、とにかくここまで来たら、やらないわけにはいかない。
本のとおり、チョコを刻んでみる。
でも悪いけど、包丁持つのだって、殆ど未経験ですからね、僕!
「真琴、家で料理とかすんの?」
「ぜーんぜん」
隣で、俺よりは多少慣れた手つきでチョコを刻む真琴に聞いてみれば、返事はこれ。
「前にはーちゃんにご飯作ってあげたとき、破滅的な味がする、て言われた」
……うん。
それは決して褒め言葉じゃないね。
「イテッ!」
て、さっそく指切ってるし…。
「慶太、大丈夫?」
「何とか…」
こんなんで、ホントに完成するのか…?
「全部刻んだ? そしたらこれを湯煎に…」
「で、結局湯煎て何なわけ?」
「えーっと、だからー、鍋にお湯入れるでしょ? その上に別のボウルを置いて、ボウルの中にチョコを…」
「お湯、沸かしてない」
「あ!」
真琴は慌てて、水を入れた鍋を火に掛ける。
その間に雑誌を覗き込めば、何か写真では、融けてるチョコの中に温度計が差してあって。
よく読めば、お湯は50~60度で、チョコを40~45度まで温めるとか書いてある。
「真琴、温度計なんて、あるの?」
「え? 温度計? 体温計じゃなくて?」
「……」
……ホントに完成するのか、このチョコ作り…。
「ちょっとお母さんに聞いてくる!」
温度計が必要だってことを真琴に言ったら、真琴がバタバタと台所を出て行った。
学校で会うといつもテンション高いヤツだけど、普段からあんななんだな…。
「温度計あった!」
真琴が戻って来たときには、鍋のお湯はグラグラと沸騰していて、見ただけで50度なんかじゃないってことは分かるけど。
とりあえず火を止めてから、温度計を突っ込んでみる。
何に使ってた温度計か知らないけど…………キレイなんだよね?
「とりあえずお湯が5,60度になったら、湯煎にかけてみよ?」
「うん。でも何か氷水もいるみたいだけど」
「え!?」
「チョコが40度になったら、今度はボウルを氷水につけて、冷ますんだって」
「分かった!」
同じように雑誌を覗き込んだ真琴が次の手順を確認して、冷凍庫から氷を出した…………途端。
「うわっ!?」
手を滑らせて、氷の入っていた入れ物を床に落っことし……床は氷だらけ…。
「わーー、どうしよ!」
「とりあえず早く拾えって!」
この氷を食うわけじゃないから、拾って使おうと思えば使えるはずだし。
テーブルの下にまで転がっていってる氷を、慌ててみんな拾って、ボウルに氷水を作った……はいいけど。
「あ、お湯の温度、下がりすぎてる!」
あたふたしてる間に、さっきまで100度近くまであったお湯は、すでに40度以下…。
風呂じゃないんだから…。
「もっかい沸かさなきゃ!」
再度、お湯を沸かして50度にまで上げて、今度こそ、湯煎。
「はぁ…疲れた…」
まだ、たぶん作業的には殆ど終わってないのに、すげぇ疲れた…。
とりあえず、ヘラでチョコを混ぜる作業は真琴に任せて、俺は雑誌の続きを見る。
湯気だとか水分をチョコに入れないように気を付けながら融かして、40度になったら今度は氷水のボウルに移し替えて、26度にする(細かいっ!)
でもそこまでしたら、あとは型に流し込んで固めるだけらしいから、そこまでいけば一段落す……
「真琴! チョコの中にお湯入ってる!」
「だって! 脇からお湯が入っちゃったんだもん!」
湯気ですら入れるなって書いてあるのに、何で思いっきりチョコの中にお湯入れてんだよ!
「あーん、もう無理ーー!!」
「無理って言うなぁー!!」
別に最初は乗り気じゃなかったけど、ここまで来たら、やり遂げたいし。
この融かした大量のチョコ、このまま捨てたらもったいないし。
「もう、お母さんに助けてもらおう」
「いいって! そこまでしなくても大丈夫だから! まずお湯捨てて、お湯がかかった部分だけよければ何とかなるって」
「うぅ~…」
今にも泣き出しそうな真琴を何とか宥めて、作業を再開する。
いくら何でも、こんなこと、お母さんに手伝ってもらうなんて、恥ずかしすぎる!
「融けた?」
「40度になったから、今度は氷水につけないと……氷水、零すなよ?」
「大丈夫!」
ホントかよ…とは思いつつ、今度はボウルを氷水のほうに移す…………けど。
「お前…、氷水のボウルのほうが小せぇじゃん!」
ボウルのサイズが明らかに、間違ってる。
どうやったって、チョコのほうのボウルの、底しかつけられない。
「おっきいボウルに移し替えよう!」
念のため、先にボウルの大きさを確認してから、氷水を移し替える。
「…」
少しずつ、そっと氷水をボウルに……
―――――ガッシャーン!!
「ギャーーー!!」
「あー……」
やっちゃった…。
床一面、水浸し。
「あーどうしようっ! どうしよー!!」
「とにかく雑巾!」
「チョコは!?」
「そんな場合かっ!」
とうとう真琴は泣き出してしまったけれど、ハッキリ言って泣きたいのはこっちだ。
「マコ、どうしたの?」
さすがにこれだけの物音がすれば、何事かと思ったのか、真琴のお母さんが台所に顔を出した。
「水がー! チョコーー!!」
全くわけの分からない説明だけれど、お母さんは台所を見ただけで、事態をすべて把握したらしい。
とりあえず真琴に雑巾を取りに行かせて、お母さんはチョコのほうをどうにかしてくれるようだ。
そして。
2人がかりで床をキレイにしたときには、もうすっかり疲れ果ててて。
とてもじゃないけれど、これからもう1回チョコを作れって言われても、とても無理…。
「2人とも。あとは型に流すだけだから。そのくらい出来るでしょ?」
真琴のお母さんに言われて、テーブルを見れば、キレイに融けたチョコレートがボウルの中に。
「お母さーん…」
でももうチョコも氷も何もないはずなのに、て思ったら、どうやら冷め過ぎたらもう1度、湯煎とやらにかけてやり直せばいいらしい。
しかも氷は、真琴の兄ちゃんが買いに行ってくれたらしい。
「型…」
まだ鼻をグズグズさせながら、真琴が買ってきた型を1つ俺に渡した。
俺は恥ずかしいから、ハート型とかはさけたんだけど、真琴はいかにもバレンタインのチョコ! て感じの、大きいハート型。
今度こそ慎重にチョコを流し入れて、ようやく完成。
「あとは固まるのを待つだけだね」
「何とかな…」
昔、付き合ってた彼女から手作りのチョコ貰ったことがあるけど、まさかこんなに大変だって思わなかった。
甘く見てた。
しかも、ボウルとか使ったヤツを片付けようとしたら、あとが大変だからって、真琴のお母さんがみんなやってくれて。
本当にすみません。
「出来たーーー!!」
キレイに固まったチョコを見て、真琴が声を大きくした。
ここまでの仕上がりになった9割は、真琴のお母さんの力だけどな。
「ラッピングもすんの?」
兄ちゃんに聞かれて、真琴は「これ!」て買ってきた包装紙を見せつけた。
確かに、自分で作るってことになれば、ラッピングだって自分でしなきゃなんだよな。
…ていうか、別にいいけど、ラッピングしてるところを、真琴のお母さんとか兄ちゃんたちに見られてるの、恥ずかしいんですけど…。
でも散々お世話を掛けたから、こんなトコでわがまま言えないし…。
つーか、ラッピングとか、したことないんですけど。
「これでいいわけ?」
お店とかの見よう見まねで包んでみるけど……何かやっぱ、ちょっと…。
きっちり包んだはずなのに、ちょっと緩いし。
ちらりと真琴の手元を覗けば、器用な真琴はキレイに包んでる。
「もっかい…」
そっとテープを剥がしてやり直してみるけれど、1回包んだことで紙がシワシワな分……さっきより変。
でもまた包み直したら、これ以上変になるのは確実。
「リボン掛ける?」
「えー? リボン?」
でも、リボン掛ければ、雑な包装はごまかせるかもしれない。
「……慶太って、意外と不器用?」
改めて言われなくても、分かってるって!
だってリボン、縦結びになってるし!
悔しいからもう1回解いて結び直してみるけど……やっぱり縦結び。
しょうがないから、無理やりリボンの形にした。
「へへ。きっと智紀さん、喜ぶよ?」
「そうかな?」
「そうだって!」
バレンタイン当日に、13日の内容を載せるって、どういうこと?
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コメントの投稿はこちらから ♥
COMMENT-FORM
イチゴ ⇒ 真琴くん!?
家庭事情にびっくりです。そしてどんだけ寛大なの兄弟たち&ママ!
そして慶太くん、誕生日はお祝いしたのね!その様子が知りたかったです!!
でもきっと、後半でオトメ相川さんが全開の笑顔を向けてくれる気がする!!
楽しみです!!
15日だけど…(笑
そして慶太くん、誕生日はお祝いしたのね!その様子が知りたかったです!!
でもきっと、後半でオトメ相川さんが全開の笑顔を向けてくれる気がする!!
楽しみです!!
15日だけど…(笑
- |2008.02.14
- |Thu
- |23:46
- |URL
- |EDIT|
如月久美子 ⇒ >イチゴさん
マコちゃん、家族中から愛されまくってます。
マコちゃんママも、1人くらい女の子が欲しかったから(爆)、可愛いマコちゃんを溺愛。
そういえば相川さんと慶太くんの誕生日を2月に設定してたのを忘れてて、バレンタインのほうにばっか気をとられてまして…。
バレンタイン企画、もうちょっと続きますよ~。
バレンタイン過ぎてからのUPのほうが多いかもです(苦笑)
マコちゃんママも、1人くらい女の子が欲しかったから(爆)、可愛いマコちゃんを溺愛。
そういえば相川さんと慶太くんの誕生日を2月に設定してたのを忘れてて、バレンタインのほうにばっか気をとられてまして…。
バレンタイン企画、もうちょっと続きますよ~。
バレンタイン過ぎてからのUPのほうが多いかもです(苦笑)