恋三昧

【18禁】 BL小説取り扱い中。苦手なかた、「BL」という言葉に聞き覚えのないかた、18歳未満のかたはご遠慮ください。

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ドルチェ (中編)


 バレンタイン当日は、学校で相川さんに会えなくて、外で待ち合せた。
 いつもは手ぶらって言っていいほど身軽な相川さんだけど、何か今日はいつもより荷物が多いみたい。

 外でご飯食べて、そのまま相川さんちに。

「お邪魔しまーす」

 いつも座ってるソファに腰を掛ければ、相川さんがローテーブルに、持ってた荷物を置いた。
 何の荷物かなって思ってたら。

 あ、チョコ。


「あの、相川さん」
「ん?」
「これ…」

 俺は袋から零れたパッケージを指差しながら、相川さんを振り返った。

「あ、チョコ? バレンタインだから」
「はぁ」
「断ったんだけど、何か結構強引に押し付けられて。1人受け取ったら、じゃあ私のも、みたいな感じになっちゃって」
「…」

 別にどうってことない感じで話す相川さん。
 そりゃそうだ。
 だって女の子にあれだけ人気のある人だもん。
 バレンタインにチョコくらい貰うって。

「まぁチョコっつったって、俺、甘いもん苦手だしさぁ」
「そ…なんですか? あ、でも、ちょっと食べてるじゃないですか」

 中に、包みの開けてある箱を見つける。
 ゴディバ。
 こういうことに疎い俺だって分かる、高級チョコ。
 俺が買おうとした"高級そう"なチョコとは全然違う、ホントに高級なヤツ。

「おいしかったですか?」

 何を聞いてるんだ、俺は。
 ゴディバのチョコがまずいわけない。
 他の開いてないヤツを見たって、キレイに包装されてるし。

「んー? まぁうまかったけど。でも当分甘いものはいいよ、マジで」
「…」
「ん? どうした?」
「…え、いや、何でもないです」
「まさか慶太も、チョコくれるとか!?」

 尋ねられて、言葉に詰まった。
 あげる、つもりだったけど。
 だって、別に、いらないでしょ?

「なーんてな。女の子じゃあるまいし」
「――――…ぁ、はい…」

 そうだった。
 俺、女の子じゃなかった…。

「慶太? どうした?」
「何でも…」
「そう? あ、ちょっと着替えてくるわ。さっきちょっとコーヒー零れたんだよね。落ちるかな」
「はぁ…」

 そして相川さんは、クロゼットのある部屋に消えていった。
 俺はそっと自分のカバンを開ける。

「女の子じゃあるまいし、か」

 別に…忘れてたわけじゃないんだけどね。
 これ、ムダになっちゃったかな?

 ラッピングだってこんなにシワシワだし…、きっとおいしいチョコ、いっぱい貰ってるだろうし。
 俺のも、真琴のお母さんが作ってくれたようなもんだから、おいしいだろうけど。

 今さら、いらないよね…。

「………………、ック…」

 鼻の奥の辺りがツンッ…て痛くなって、堪えてたのに涙が零れた。
 何か急に悲しい気持ちになって、涙が止まらない。

「……ヒック…」

 何で俺、女の子じゃないんだろ…。
 何でもっと料理とか上手じゃないんだろ…。
 何で…何で相川さん、俺なんかのこと、好きなんだろ…。


 ――――ガチャ。

「ぁ…」

 ドアの開く音。
 背中向けてるから分かんないけど、相川さんが来る。早く泣きやまないと、変に思われる…!

 慌てて手の甲で涙を拭って、ごまかそうとテレビを点ける。

「あ、」

 慌て過ぎてたせいで、リモコンが手から滑って、床に落ちた。

「慶太?」
「あ、えっと…」

 グッと相川さんが顔を覗き込んできた。

「泣いた?」
「……泣いてません」
「嘘」
「テレビで、ちょっと…、あの、感動し…」
「ニュース?」
「……」

 感動も何も、チャンネルはニュースで、しかも何かの特集なのか、楽しそうな笑い声しか聞こえない。
 泣いてる理由にならない。

「さっきまで、その…」

 言葉が続かなくて、俺は弾みで落っことしたテレビのリモコンに手を伸ばした。
 でも。

「相川さ…」
「慶太、どうした?」

 伸ばした手を相川さんに掴まれた。

「別にどうもしてません」
「じゃあ何で泣いてんだよ?」
「泣いてない」
「泣いてんじゃん」

 相川さんの指が、頬をなぞった。

「何かあった?」
「……ないってばっ」

 泣いたことがバレたせいで俺は慌てちゃって、乱暴に相川さんの手を振り払ってしまった。

「慶太?」
「……ゴメンなさ…」
「どうした? 何か今日、変だぞ?」
「何でもない……ホントに何でもないんです……ック…」

 どうしよう、また涙が…。

「慶太、どうしたんだよ? 俺、何かした?」

 俺は首を横に振った。
 別に、相川さんが何かしたわけじゃない。
 相川さんのせいじゃない…。

「慶太、なぁ、何で泣くんだよ?」
「何でもないって!」
「慶太っ!!」

 俺は泣きながら相川さんの腕を振りほどいて、体ごと相川さんから背けた。

「何なんだよっ」

 相川さんは俺から離れて、床に座った。

 どうしよう、相川さん、怒ってる。
 俺のせいだ、どうしよう…。

 ……こんなはずじゃなかったのに。
 ホントはチョコ上げて、喜んでもらうはずだったのに…。

 …って、こんなチョコじゃ。

「……ゴメンなさい…」
「謝んなよ、何で泣いてんのか教えてほしいんだよ」

 俺はまた首を横に振った。

 言えないよ。
 言えるわけない。
 だって…、そしたらこのチョコのことも話さなきゃいけなくなる。
 あんなキレイでおいしそうなチョコがあっても、甘いものはもういらないって言ってんのに…。

「ゴメ…」
「謝んなっ! 慶太、」
「ゴメンなさい……俺、帰ります…」
「慶太!? おいっ」

 俺は相川さんの声から逃げるように、部屋を飛び出した。廊下を突っ走って、エレヴェータに飛び乗って、走って走って外に出た。



「あ…雪…」

 真夜中。
 珍しく降った雪のせいで、みんな、俺が泣いてることなんて気付いてない。俺はトボトボと家に向かう。

「相川さん…」

 何でこんなことになっちゃったんだろ…。








 何とか電車に乗り込んで、家に着いたらもう日付が変わってた。
 ……あーあ、バレンタイン、終わっちゃった…。

 ベッドにカバンを投げ付けて、俺もベッドに寝転がった。


 ―――ケンカ、しちゃった…。

 どうしよう…。
 あんなこと言って、相川さんち飛び出して……絶対呆れられた。

 俺たち、どうなっちゃうのかな。
 このまま別れることになったら、どうしよう…。

「うぅ…」

 ヤダ…そんなのヤダよ。
 俺、相川さんと、別れたくない…。

 携帯電話を取り出して、相川さんの番号にかける。
 …でも、何回コールが鳴っても、相川さんは出てくれない。

(相川さん…)

 結局、電話はそのまま留守電に代わった。
 でも、どんなメッセージを残したらいいか分からなくて、何も言わないで切った。

「……はぁ…」

 もう…ダメなのかな…。

 カバンの中にはヨレヨレのチョコの包み。リボンもほどけてる…。
 俺はそっとそのチョコを手に取った。
 シワシワで、ヨレヨレで、リボンもほどけちゃってて…。中だって、溶かして固めただけの普通のチョコだし…(しかも自分じゃ殆ど何も出来てないし)。

 ポトッ…と包みの上に涙が落ちた。
 何で俺、もっと素直になれないんだろ…。


「相川さん…ゴメンなさい…」
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カテゴリー:智紀×慶太
テーマ:自作BL小説  ジャンル:小説・文学

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