恋三昧

【18禁】 BL小説取り扱い中。苦手なかた、「BL」という言葉に聞き覚えのないかた、18歳未満のかたはご遠慮ください。

2011年05月

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もうさようならの時間 (5)


「…亮、むっちゃんのこと、ちゃんと信じてよね」
「は? 何言ってんの、お前」

 まるで亮の心を見透かしたようなことを言う和衣に、亮は少なからず動揺したが、それを悟られないように聞き返す。若干、早口にはなってしまったが。

「亮、ちょっと来て!」

 和衣は、有無を言わさず、亮の腕を引いて、自分の部屋に入った。
 廊下は誰が通るとも知れないし、他の部屋の人にまで話が聞こえかねないから(壁が薄いとはいえ、まだ室内のほうがマシなのだ)。
 一応和衣も、そのくらいの気は遣えたらしい。

「そんで? 何だって?」
「…亮、むっちゃんが夜とか出掛けてんの、何か勘違いしてんでしょ? どうせ亮のことだから」
「おい」

 随分とひどい言われようだ。
 けれど、わざわざ亮を呼び止めてこんなことを言ってくるくらいだから、和衣が何か知っているのは間違いなくて。
 そう思ったら、亮は和衣を無視して部屋を出ていくことが出来なかった。

「でも別に、全然そういうんじゃないから、むっちゃんのこと、ちゃんと信じてよね」
「は? お前、何知ってんの?」
「ッ…それは…別にどうでもいいじゃんっ」
「いいわけねぇだろ」

 和衣に何か言われなくたって、睦月を信じようとは思っているけれど、自分の知らない何かを和衣が知っているのは嫌だ。
 そう思って問い詰めようとしても、和衣はぷんっ! と顔を背けてしまった。

「カーズ、言えよ」
「言わないっ! だってそんなのっ…、むっちゃんが言わないの、内緒にしときたいからなのに…、俺が言ったらダメなんだもん」
「はぁ? じゃあ何で、そういうんじゃないとか、そーゆーのは言えるわけ? それって半分バラしてるようなもんじゃん」
「ッ…!」

 亮の追及は鋭くも何ともなかったけれど、和衣は困ったように視線を彷徨わせた。和衣は、想定以上に質問を重ねられると、それだけでいっぱいいっぱいになってしまうのだ。
 もちろん亮は、それを分かっていて言ったのだけれど、別に和衣を言い負かそうとか、追い詰めようとか、そんな気はなくて、ただ本当のことを知りたいだけ。

「…だって、言っちゃダメだけど、でも、そういうんじゃないよ、てこと亮が分かんなかったら、亮、ずっとむっちゃんのこと、疑ったままなんでしょ? そしたら亮、むっちゃんと別れちゃうかもじゃんっ…」

 グズッ…と鼻を啜ったかと思ったら、和衣の目にはうっすら涙が浮かんでいた。
 高校のころとか、亮がどういう状況で彼女と別れるに至ったか、それは亮自身だけでなく、ずっと一緒にいた和衣や翔真だって、よく知っていることで。
 だから和衣は、今回もこんな状況の中で、睦月に対する気持ちが冷めていってしまうのではないかと心配になって、余計なことと分かっていながらも、亮に声を掛けずにはいられなかったのだ。

「俺だってこんなの言いたくない、だってむっちゃんのことだし…。でも亮、むっちゃんに聞きそうもないし、むっちゃんも自分からは何か言いそうもないし、そしたらずっと分かんないまんまで…」
「…」

 和衣はギュッと眉間を寄せて、亮を睨んだ。
 すごく怒っているような顔、けれど亮は分かった。和衣は怒っているんじゃなくて、泣くのを我慢しているのだ。



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もうさようならの時間 (6)


「とにかく! むっちゃんのこと、ちゃんと信じてってば!」
「分ぁーかってるよっ」
「分かってないっ!」
「イテッ」

 興奮気味の和衣が、バシンッ! と亮の胸を叩いた。
 こういうとき力加減の下手くそな和衣は、思い切りの力で叩いて来るから、すごく痛いのだ。

「俺が言うの、変だけど……気になるなら、ちゃんとむっちゃんに聞いて! 疑ったままにしないでっ…」

 そのまま和衣は俯いてしまった。
 鈍感で、空気の読めない子だけれど、友人を思う気持ちは、人一倍強い子だから。自分のこと同じくらいに、亮や睦月の幸せも望んでいるから。

「…分かった、分かったよ。俺だって別に、睦月と別れたいわけじゃねぇし。…ちゃんと話す」
「絶対?」
「絶対」

 ようやく顔を上げた和衣に、亮はそう約束した。


 それでも疑わしげな視線を向ける和衣の部屋を出た亮は、そのまま風呂場へは向かわず、再び自分の部屋へと戻った。
 もちろん、和衣との約束を果たすため。

「ねぇむっちゃん、ちょっと話…」
「ッ、んぁっ!?」

 亮がドアを開けると、ベッドの上で、壁に寄り掛かって足を伸ばしていた睦月の体が、ビクンと跳ね上がった。
 それは何も、疾しい関係の相手との連絡の真っ最中に亮が戻って来たから、とかそういうんでなくて、単に眠くてウトウトしていたから、ビックリして体が反応しただけのことだった。
 その証拠に、睦月の携帯電話は、テーブルの上に投げっ放しだ。

「ふぇ…? え、亮、もうお風呂上がったの? もうそんな時間経った…?」
「いや、風呂はまだなんだけど、」
「うぅん? カズちゃんが、早くお風呂入んなさい、て…」

 眠いのか寝惚けているのか、睦月は目をこすりながら、そんなことを言っている。

「それはそうなんだけど、あのさむっちゃん、やっぱちょっと話があって…、ちょっと聞いて?」
「…ぅ? にゃに…?」

 亮はドアを閉めると、モソモソとベッドを降りようとしている睦月を、ベッドの縁に座り直させた。
 睦月は素直に言うことを聞いて、大人しくしている。

「ねぇむっちゃん、教えて? 俺に内緒で、夜、時々どこ行ってんの?」
「えっ」

 ピクッ…と、かすかに睦月の眉が動いた。
 睦月は口八丁だし、時々本当にどうでもいいような嘘はつくけれど(宇宙人に会った的な)、だからと言って、嘘つきというわけではない。
 和衣が嘘やごまかしが下手くそなのと同じように、やはり睦月だって、好きな人を前にして、まったく何でもないふうに、平然と嘘なんてつけないのだ。



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もうさようならの時間 (7)


「えっ何急に…、…………、…カズちゃん?」

 キョロキョロと視線を落ち着かなくさせていた睦月は、ふと1つのことに気付いて、亮を見つめた。
 亮が、和衣からの伝言により風呂に向かい、それから何分もしないうちに戻って来た……このタイミングからして、和衣に何か言われたことは間違いなかった。
 それに。
 …それ以外にも睦月は、和衣が絡んでいるのだと、思い当たる節があったから。

「…犬」
「へっ?」

 しばらくの沈黙の後、睦月が視線を落としたまま呟いた言葉は、残念ながら亮には聞き取れなかった。
 いや、聞こえたことは聞こえたんだけど、何か『犬』て聞こえたような…。

「え、ゴメ…何?」
「…だから、犬……散歩しに…」

 え、犬?
 亮はもう1度聞き返したい気分だったが、聞き返したら絶対キレそうなので、やめておいた。

 亮が何も言わないでいたら、睦月がムッとした顔で睨み付けて来た。
 睦月はベッドに座っている状態なので、その前に立っている亮を睨むと、ちょうど上目遣いみたいになって、あんまり怖くない。
 別に亮が黙ったのは、睦月の言葉を今さらまだ嘘だと思ったわけではなくて、話があまりにも突拍子なかったから、少々面食らっただけのこと。それともこれも、宇宙人的な壮大な嘘?

「ゴメン、むっちゃん! でもだって犬て! え、どこの犬? だってここじゃ飼えないじゃん」
「…おばあちゃんち」
「おばあちゃん? 睦月のおばあちゃん?」
「そーじゃないけど…」

 そう言って睦月は、ようやく事の次第を語り始めた。

 睦月はある日、バイトに行く途中にある家で、犬が飼われていることに気が付いた。その犬はかわいくてかわいくて、一目惚れしてしまった。
 犬は玄関先に繋がれていたが、その敷地内に立ち入らずとも手の届く位置にいたので、睦月は時々こっそりとその犬を構いに行っていた。

 それにしてもその犬は、ここ最近飼われ始めた感じがしなかった。
 もう成犬だったし、人にもよく慣れていて吠えない。それに、犬小屋やエサ用のボウルも新しくはなくて、長年使われているようだった。
 誰か飼えなくなった人から、必要な道具ごと貰い受けたのだろうかとも思ったが、とりあえず犬さえ構えれば、睦月にとってはそんなこと、どうでもよかった。

 そんな睦月に転機が訪れたのは、その犬を構いに行き始めてから、1か月もしないうちだった。
 こっそり犬を構っていたのが、その家の人にバレてしまったのである。

 構うと言っても、声を掛けたり頭を撫でたりする程度だったのだが、黙って勝手に人の犬を構っていたのは事実で、飼い主にしたら不愉快なことだったかもしれない。
 第一、敷地に入っていないとはいえ、しょっちゅう人の家の前にやって来ては、コソコソと犬を構って帰るなんて、はっきり言って不審者も同然だ。
 現れたおばあさんに、睦月はこっそり犬を構っていたことを素直に謝ったが、おばあさんは睦月のことを少しも怒らず、寧ろ犬を構っていたことになぜかお礼を言った。



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もうさようならの時間 (8)


 知らない人と話すのは苦手だが、どういうことなのか気になった睦月が話を聞いてみると、おばあさんは一人暮らしで、ずっとこの犬と一緒にここで生活していたのだという。
 ところが先日、ちょっと躓いて転んだのが、思いのほか小さくないケガだったようで、とうとう彼女は、杖なしでは歩くのが困難になってしまったのである。
 こうなると、犬の散歩もままならない。
 犬はもともと玄関で飼っていたのだが、散歩にあまり行けないとなると、景色もロクに見えない玄関に繋いでおくのはかわいそうだと、日中は外に出しておくことにしたらしい。

 こうして、今までずっと犬の気配を感じなかった家に、ある日突然、長年飼われていたような犬が出現し、睦月をメロメロにしてしまったのである。

 犬の名前は『三郎さん』。『さん』までが名前で、これなら呼び捨てにされても、さん付けされているみたいだから、というのが理由だ。
 ちなみに名前の由来は、彼女の好きな有名演歌歌手からいただいた(だからこそ、呼び捨てにされたくないらしい)。

 その日はこれでおばあさんと三郎さんと別れた睦月だったが、翌日、再び彼女の家を訪問すると、自分が代わりに三郎さんの散歩をすると申し出た。
 会って間もない人に自分から声を掛けるのは、睦月にしたら相当の勇気を必要としたが、三郎さんを散歩に連れて行きたかったし、犬に十分な散歩をさせてあげられない飼い主の悔しい気持ちを晴らしてあげたかったから。

 おばあさんはかなり驚いていたし、わざわざそんなことをしてもらうのは申し訳ないとも言ったのだが、睦月の熱意を感じ取ったのか、睦月の生活の負担にならない程度なら、と受け入れてくれた。

 三郎さんを散歩に連れて行けるのは、睦月が寮の誰にもバレず、1人になれる時間しかなく、そうすると、自然とそれは、亮がバイトに行っている時間ということになる。
 睦月は綿密に2人のスケジュールを擦り合せ、三郎さんを散歩に連れていける時間を割り出すと、亮のいない時間、こっそりとおばあさんの家に向かっていたのである。

「それで、犬の散歩…」
「…ん」

 亮は膝を折って身を屈めると、睦月と目線を合わせた。
 すべてを知られてしまった睦月は、シュンとしている。

「でもさ、何でみんなに黙ってたの? そのこと」
「…」

 別にベラベラと喋り立てるほどのことでもないが、最初にカフェテリアで翔真に昨晩どこに行っていたのか聞かれたとき、無理に嘘なんかつかなくても、本当のことを話せばよかったのに。
 けれど睦月は、わざわざ亮がバイトでいない時間を選んで犬の散歩をしに行き、その行動自体をずっと隠そうとしてた。

「…だって、ダメ、て言われると思ったから…」
「え?」
「だって夜だし、1人だし……言ったらみんな、そんなん危ないからダメ、て言うと思ったんだもん。亮だって、絶対そう言うでしょ? 反対するでしょ?」
「それは…」

 確かにみんな、睦月に対しては過保護な面が強くて、特に和衣や祐介は、夜に睦月が1人で出歩くことを過剰なまでに心配する。
 それは睦月の過去の出来事に起因しており、睦月もその心配は分かるのだが、もう大丈夫だということも分かってほしかったし、三郎さんの散歩だけは反対されたくなかった。
 だからこっそりと二重生活を送ることを決意したのだ。



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