恋三昧

【18禁】 BL小説取り扱い中。苦手なかた、「BL」という言葉に聞き覚えのないかた、18歳未満のかたはご遠慮ください。

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君のことが好きだっていう話! (14)


「はぁ~~~っ、すごかったね…」
「うん、すごかった。プラネタリウム、こんなに進化してる、て知らなかった」

 和衣はまだ十分には覚醒していなかったけれど、祐介が立ち上がったので、一緒に立ち上がった。

「もうホントすごくて、すごくて、もぉ、ふわぁ~てなった」
「え? うん、すごかったけど…………ふわぁ?」

 感動のあまり、和衣は興奮気味に捲し立てたが、どうも言い方がおかしかったようで、祐介は不思議そうな顔をしている。
 『ふわぁ~』て何? と聞かれても、正直和衣も答えられないのだけれど、今の心境を聞かれたら、それが一番当て嵌まるのだ。とにかくすごかった。ふわぁ~てなったのだ。

「てか、和衣、終わってからもボーっとしてるし、寝てるのかと思った」
「起きてたよー。でも夢の世界に旅立ってた感はあった」
「…それはそれで大丈夫?」

 プラネタリウムがこんなにすごいなんて、知らなかった。
 これじゃ、本物の星空を見ても、うんとすごいのでないと、感動しないかもしれない。大丈夫かな。

「あっ、短冊に書くの、考えるの忘れちゃった!」

 余韻に浸りながらプラネタリウムを出たところで、七夕飾りが目に入り、和衣はハッとして声を上げた。そういえば入場する前、見終わったらすぐ書けるように考えておく、て言ってたんだった。
 けれど結局、そんなこと考えていられないくらい、プラネタリウムに夢中になっていた…。
 まぁ、せっかくプラネタリウムを見に来たのに、短冊に書く願い事を考えるのに集中していたのでは本末転倒だから、これでよかったのかもしれないけれど。

「後もう時間あるし、ゆっくり考えればいいじゃん」
「今日中に書けるかな…」
「いや、閉館するまでには、何としてでも書いて、和衣」

 和衣の性格を知らなければ、つまらない冗談として流されるセリフだったが、それが決して冗談の類でないことを、祐介はよく分かっているから、真面目な顔で答えて来た。
 放っておいたら、本気で和衣は閉館時間になってもまだ、短冊を書き終えずにいるだろう。

「んん…、どうしよ…。祐介、何書く?」
「…秘密」

 七夕飾りのところに向かいながら、和衣はこっそり尋ねた。別にこっそりする必要はなかったんだけれど、つい…。
 そのせいなのか、祐介も声を潜めて答える。しかし、その答えは和衣を満足させてくれなかった。



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君のことが好きだっていう話! (13)


 上映が始まるというアナウンスの後、場内が暗くなる。
 メインとなるプログラムの上映の前に、まずは、スタッフによる星空の解説。今の季節に見られる星座を映し出しながら、単なる星座の解説だけでなく、七夕の話や宇宙の話も聞かせてくれる。
 最初和衣は、こういう学習系のは盛り上がらないんじゃないかと勝手に思い込んでいたけれど、スタッフの人の喋りがうまいこともあって、すごく楽しめるものだった。

 スタッフによる解説が終わり、いよいよ本編が始まる。
 静かな音楽とともに、天井に星空が浮かび上がる。落ち着いた声のナレーションが、映し出された星座を紹介していく、波音が聞こえて来て……ここはビーチリゾートらしい。
 次第に空が明るくなり、美しいビーチが見える。漆黒とはまた違う、薄い青色をした空に浮かぶ星。美しい海と心地よい音楽。海辺に咲いていた花が、一気に天空に広がる。そしてまた日が沈み、深い闇に包まれると、壮大な星空が広がる。

(す…すご…)

 きっと本物の星空もうんと素晴らしいに違いないけれど、こんなふうに現実にはない演出で見せられて、和衣はすっかり夢見心地だ。

(こんな…海と星、すごい…!)

 最初は、プラネタリウムなのに何で海?? と思っていた和衣だったが、海がキレイなのももちろんだが、海辺で見る星空というのがロマンチックで、和衣のテンションを上げる。
 祐介と一緒に本物の星空を見に行くときは、絶対に海だ! と和衣は心に決めた。そしてそのときこそ、場所も日程も、全部和衣が決めるのだ。

「はぁ~…」

 和衣が心から感動しているうちに番組は終了し、場内が明るくなる。
 周囲の席の人たちは立ち上がり、出口へと向かっていくが、和衣はまだ呆けていて立てずにいた。

「…大丈夫?」
「え…………?」

 隣の祐介に肩を揺すられて、ようやく若干我に返った。

「あ…? あれ、終わっ…?」
「終わった終わった。出るよ? 大丈夫?」
「だいじょー……ぶ…」

 これは全然大丈夫じゃないな、ということは祐介にも分かったが、次の回の入場が始まる前には出なければならない。
 出入口付近の混雑を避けて席に残っている人もまだいるが、和衣の場合そうではないから、今のうちに声を掛けておかないと、と思われたようだ。



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君のことが好きだっていう話! (11)


 何か勘違いしているらしい和衣は、人に見られたら叶わない何かがあると考えているらしい。
 確かに、寺社でお参りした際、その願いを人に言うと叶わないとか、絵馬を見るのは、神様へのお願いを盗み聞きしているからよろしくないとかいう話は聞く。
 しかし、願い事を人に言うと叶わないというのは、話した相手がその願い事に対して否定的な反応をすると、自分もネガティブになるから叶いにくくなる、という説から来ているらしい。つまりは、参拝者自身の気持ち次第ということだ。
 絵馬のほうも、デリカシーや配慮という点で、人が書いたものを勝手に見るのは気持ちのいいものではないが、起源から考えるだに、見られることを想定しているものだから、見ても構わないとも言う。
 どちらにしても、和衣がここで誰かの短冊を見ようが、神社で誰かの絵馬を見ようが、見られた誰かの願いが叶わなくなるということは、少なくとも、広く世間に広まっている説の中にはなさそうだ。

「どうする? 今書く?」
「あ、え? あ、どうしよう、何書こう、考えてなかった」
「うん、だろうね」

 和衣が短冊を見たばっかりに、その人の願い事が叶わなくなったら大問題だから、七夕飾りの短冊を見てもいいかどうか考えることは重要なことではあるけれど、それよりも今は自分の願い事を考えるほうが先だったのに、そのことは結局何も考えていなかった。
 それを素直に祐介に打ち明けたら、あっさりと頷かれた。やはり祐介は、和衣の性格をよく分かっている。

「てか、短冊見られたら叶わなくなるとかだったら、和衣、書かないほうがいいじゃん」
「だよね!」

 短冊に願い事を書きたくてここまで来たけれど、それを人に見られたら叶わなくなるのでは、書いて飾っている場合ではなかった。
 至極当たり前のことだけれど、祐介にツッコまれて、和衣はようやく気付いた。

「だよねー!」
「どうする? 書かないにする?」
「んーん、書く。大丈夫、人に見れても、叶うよ!」

 自分に言い聞かせるようにそう言う和衣に、祐介は笑った。

「えっと、何書く…、あ、時間! 大丈夫?」
「すぐ書けば大丈夫だと思うけど」
「すぐ書けない! まだ何も考えてない!」

 テーブルのほうへ向かおうとした和衣は、頭を抱えた。
 余計なことばかり考えて、肝心なことが進まなくなるのは、和衣にしたらよくあることだ。



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君のことが好きだっていう話! (12)


「後にする…」
「そんなに凹まなくても」

 そんなに大したことでもないのに、大体いつも和衣はネガティブの沼に沈み込んでいくのだ。
 先ほどの、願い事を人に言ったら叶わないという説、和衣には間違いなく当てはまりそうな気がする…。

「帰りに書けばいいじゃん、時間いっぱいあるし」
「…ん。すぐ書けるように、ちゃんと考えとくね!」
「いや、プラネタリウム見てる間は、プラネタリウムに集中しなよ」

 和衣の妙な方向の勤勉さに、祐介は苦笑する。
 プラネタリウムを見に来たのに、それよりも七夕の願い事を考えるほうに精を出していたのでは、世話がない。

「どこにする…?」

 中に入ると、映画館のように配列された座席には、すでに人が座り始めている。
 早くからポジション取りをしている人の席のそばは、やっぱり見やすいのだろうか。

「あんまり前すぎると見づらいらしいけど」
「そーなの?」
「めっちゃ上向かないと、全体が見えない」
「あ、そっか」

 実際に祐介が上を見上げてくれて、和衣はそのことに気が付いた。
 きっと、本当の星空を見上げるときはこうするんだろうけど、今はそれに拘る必要もないだろう。

「やっぱ、真ん中の列かな?」

 和衣は、見やすい座席のことなんて、全然まったく何にも考えていなかったし、調べもして来なかったけれど、何となく映画と同じで、中央列が見やすいのかなぁ、と思ったのだ。
 それに、何となく真ん中の列から席が埋まって行っているようにも見えるし。

「じゃ、あそこにしよ?」

 でも、真ん中って言ってもどこ? どこがいいの?? と和衣がモタモタしているうちに、祐介が席も決めてくれた。
 2人が席に着けば、すぐに周囲の席も埋まって来る。どうやらこの回の上映も満席になりそうだ。

(ぷらねたりゅーむ…)

 睦月には全然まったく興味がないと言われたけれど、もうすぐプラネタリウムが始まる期待に、和衣のテンションは俄然上がって来る。
 映画を見に行くのもいいけれど、こうして2人で並んでプラネタリウムを見られるのも、すごく嬉しい。



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君のことが好きだっていう話! (10)


 何かにつけて優柔不断の和衣は、こういうときも、何を書いたらいいか悩んで悩んで悩みまくって、なかなか書けないのだ。
 それは別に今に始まったことではなく、和衣も十分にそれを自覚しているのだが、分かっているくせにそのことを忘れがちで、今回も祐介に言われて気が付いた。

「見るだけ見て来る? すぐ書けそうなら、書けばいいじゃん」

 和衣の優柔不断ぷりからして、あと15分で書き上げて笹に飾るのは、絶対に無理だ。
 もちろん、開場と同時に入らなくてもいい。上映が始まってしまえば入ることは出来ないが、ギリギリに滑りこむことは可能だから、とすれば、あと30分くらいは余裕があると言える。
 しかし、今日の混雑具合からして、あまり間際に入場したのでは、見やすい席は埋まっているだろう。せっかく来たからには、やはりいい席で見たいと思う。
 それでも、和衣が名残惜しそうに七夕飾りを見ていたのが分かったのか、祐介がそう提案してくれた。

(祐介、かっこいい…!)

 蒼一郎とプラネタリウムのことを色々と調べているうち、和衣がちゃんといろいろ調べて、祐介のことをリードしなきゃ! という気持ちが生まれ、すっかりその気になっていたのに、結局、どこのプラネタリウムに行って、どのプログラムを見るかということまで、祐介が全部やってくれたし、今もこうして、グズグズしている和衣のことをリードしてくれる。
 祐介、何でこんなにスマートで格好いいの!? と和衣は1人でその魅力にメロメロになるのだった。

「みんな、何書いてんのかな…………あ、これ、短冊、人が見ちゃったら、お願い叶わなくなっちゃうんだっけ!?」
「え、そうだっけ?」

 プラネタリウムの上映が終わって退場してきたお客さんたちが、七夕飾りのところに流れたせいで、短冊を書くスペースも結構混雑している。
 その人混みをよけて、笹に飾られた短冊に目を向けた和衣がそんなことを言い出したので、祐介は首を傾けた。そんなの初耳だ。

「あれ? 違ったっけ?」
「違うんじゃない? 人に見られて願い事が叶わなくなるなら、こんなところでみんなに短冊書かせないでしょ」
「あ、そっか」

 この時期になると、ショッピングセンターのような人の多く集まる場所には七夕飾りが設置されるし、訪れた人が短冊を書けるようになっているところも多い。
 それなのに、人に見られたら願い事が叶わなくなるとか…、叶わなくなる率が相当高い。

「あれだっけ、おみくじ見られたらダメなんだっけ?」
「いや、それも聞いたことない。だって、引いた後、見せない? 一緒に行ったヤツに」
「見せる…」



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君のことが好きだっていう話! (9)


「はいっ」

 祐介が財布を出すより先に、和衣は券売機にお金を突っ込む。何もかも祐介任せにしたくないのだ。
 隣で祐介の笑う気配がしたけれど、和衣は構わずチケットを2枚買った。

「ありがと」

 こんなことくらいで得意げになってもどうしようもないけれど、ちょっとは格好いいところが見せられたかな、と思う。
 チラッと横目で祐介を見たら、祐介と目が合って、やっぱり笑われた。 

 それほど待たないうちに、上映中だったプログラムが終わり、中からお客が退場してくる。和衣が思っていたより、結構多い。想像以上に、プラネタリウムというのは人気があるようだ。

「あそこ、笹あるね」
「ぅ?」

 和衣が出て来る人たちに気を取られていたら、祐介がプラネタリウムの入場口とは少し離れたところにある七夕飾りを見つけていた。
 そういえば和衣は、七夕だから祐介と星が見たいと思っていたんだっけ。

「何かめっちゃ人いる」

 遠目で見ても大きな七夕飾りとはいえ、意外なほどに人が集まっている。

「あれ、短冊書いて飾れるんじゃない?」
「えっ嘘、書きたい!」

 どうも和衣は注意力というか観察力が足らないのか、同じところを見ているのに、そんなことにも気付けていない…。
 でも確かに、笹の周囲に集まっている人たちは、七夕飾りを見ているだけでなく、何かテーブルのようなところに頭を寄せ合っている。

「え、今?」

 気持ちのままに、七夕飾りのほうに向かおうとした和衣は、祐介のちょっと驚いたような声に足を止めた。

「え、ダメ? ヤダ?」
「じゃなくて。すぐ書ける? あと15分くらいで入場だけど…」
「あ、………………無理かな」



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君のことが好きだっていう話! (8)


 和衣が心配していた、祐介が本当はあんまり星に興味がないんじゃないか問題は、まったくの杞憂に終わった。
 和衣が思っていたよりもずっと、祐介は星が好きだったし、プラネタリウム行きも積極的に賛成してくれた。
 一口にプラネタリウムと言っても様々なプログラムがあるのだと、蒼一郎のパソコンで調べた情報を打ち明ければ、祐介は言われるまでもなくそんなことも知っていたし、結局どこのプラネタリウムの、どのプログラムを見るか決め切れない和衣に代わって、いろいろ調べて、全部決めてくれたのだ。
 和衣にしてみれば、思っていた手順と何か違うぞ? という感じだが、最終的に祐介とプラネタリウムを見に行けることになったから、まぁいい。

(えへ、祐介とぷらねたりゅーむ、ぷらねたりゅーむ!)

 嬉しさのあまり、バイトの帰りに、祐介と一緒にプラネタリウムに行くことを睦月に自慢したら、本気の本音で『全然興味ない』と返されて、和衣が凹んだのが5日前のこと。
 そして週末、ようやく待ち望んだ祐介とのプラネタリウムデートの日がやって来た。

 ちなみに前日、いつものように睦月をファッションチェックに付き合わせたら、いつの間にか睦月が寝ていて、どうやっても起きないし、肩を貸すなり引っ張っていくなりして部屋に連れ戻そうとしてもうまくいかないし、そんな日に限って亮は飲み会でいないしで、結局睦月と一緒に寝るはめになってしまった。
 寝起きの悪い睦月は、和衣が出掛ける時間になっても起きないから、今度こそ部屋に亮を呼びに行こうとしたら、寮の集合玄関で待ち合わせしようとしていた祐介と鉢合わせして、結局祐介が睦月を部屋まで連れて行ってくれた。
 細くても腕力には自信のあった和衣は、自分に出来なかったことをあっさり祐介がやってのけたことに少しばかりショックを受けたし、祐介、そんなにむっちゃんにくっ付かないでよ…と余計な嫉妬心を芽生えさせてしまったし、待ち合わせもうまくいかなくて、落ち込み掛けたのだけれど、それも、これから祐介と一緒にプラネタリウムを見に行けると思ったら、消し飛んだ。

「次の回の、まだチケットあるみたいだけど、どうする? 夜の回のにする?」
「へっ!? あ、えっと、」

 ぼんやりと幸せに浸っていたら、急に声を掛けられて、和衣は我に返った。
 和衣たちが訪れたプラネタリウムは、平日の午前中は幼児向けや学習投影が中心で、午後から一般向けとなるが、土日は投影回数も増え、午前中にも一般向けのプログラムが投影される仕組みだ。
 和衣的には、祐介と一緒に星が見れたらそれで満足だったのだが、和衣の性格をよく分かっていると思われる祐介が、こういうヒーリング系のもおもしろいよね、とさり気なく提案してくれたので、和衣がすぐにそれに飛び付いたのだ。
 夜に来るのもすてきだと思ったけれど、早く見たい気持ちが勝って、結局すぐ次の上映を選んだ。蒼一郎とプラネタリウムを調べたときに、星なのに海てどういうこと?? と和衣が首を傾げたプログラムだ。



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君のことが好きだっていう話! (7)


「何でそんな顔してんの? そんなに祐介くんに言いづらいの? 自分の行きたい場所に祐介くん誘うの」
「そうじゃないど…。いっつもね、お出掛けするときね、祐介が決めてくれるからね、今回はね、俺が星見たい! て思ったから、俺がしっかり決めて、祐介を誘いたかったの」
「いっつも祐介くんが決めてんの? カズちゃん、自分が行きたいとことか、祐介くんに言わないの?」
「言わなくはないけど、何か全然決めらんなくてね、結局、最終的に祐介が決める」
「なるほど…」

 『どうやって祐介のこと誘ったらいいかな!?』と本気で悩んでいる和衣が、先ほど蒼一郎に見せたような姿を祐介の前で晒すとは思えないが、行き先を決められなくて唸っている姿なら、想像に難くない。
 そういえば睦月が時々、和衣の優柔不断さについてぼやいていて、それを聞くたびに、大袈裟な…と思っていたのだが、存外そうでもないようだと、蒼一郎は今回、身を以てそれを知った。
 1人で何も決められないくせに、人の意見にすんなり従うかといえば、『それもいいけど、こっちも捨てがたい』みたいな感じで、延々と悩み続けるタイプだ。
 あの気の短い睦月が、よく付き合ってやっているものだ。

「まぁ、カズちゃんが自分で決めて祐介くんを誘おう、てのを止めるつもりはないけど、だったら、お願いだから自分1人で決めてね」
「あぅ…」

 和衣の優柔不断ぶりに嫌気が差して、一緒に探すのを拒んだわけではない(…わけでもない)が、もし蒼一郎が一緒に探してくれるとなったら、結局和衣は最終的な決断を蒼一郎に委ねるような気がするのだ。
 別に選んでやってもいいけれど、それを和衣と祐介が見に行くというのは、やはり違う気がして。蒼一郎が自分で体験したことがすごくよくて、2人に勧めるのとは違うし。
 しかも、蒼一郎が選んだのが2人の好みでなかったら…、それこそ2人とも優しいから、そのことで何か言うことはないだろうけど、蒼一郎の気持ち的にもやっぱり嫌だ。

「や…やっぱ祐介に言おっかな、ぷらねたりゅーむ見たい、て…」
「そのほうがいいんじゃない? そのほうが、祐介くんの好みも反映できるじゃん」

 やはり1人で決められる自信はないようで、和衣は眉を下げてそう言った。
 もしかしたら、結局いつもどおり、最後は祐介が決めることになるかもしれないけれど、それが2人の自然な姿なのなら、それを無理に変える必要なんてない。
 蒼一郎が思うに、和衣が気にするほど、祐介は和衣の優柔不断に付き合わされるのを嫌がってはいないだろう。

(何ていうか…、そういうところも含めて好きになった的な?)

 何か俺、今うまいこと言った! と蒼一郎が1人満足気な顔をしているのに気付かず、和衣は「師匠、ありがとう!」と言いながら、部屋を飛び出していった。
 蒼一郎と和衣は、最後まであまりうまく噛み合わないままだったのかもしれない。



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