恋三昧

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「こっちの、前菜のほうから、ちょっとずつ取ってくんだよ?　取ったら、あっちのテーブルで食べようね?」
「はい!」

　一応、基本的なマナーは来る前にちょっと話したんだけど、実際に会場に来てみないと分かんないこともあるだろうから、こっそり直央くんに教えてあげる。
　直央くんは、まるで生徒さんみたいに、素直に返事をした。

「いただきま～す」

　お皿を持ったままだから、手は合わせられないけれど、直央くんはいつもどおりちゃんと挨拶してから、料理を食べ始める。
　聞かなくても、その表情で、ご飯がおいしいんだって分かって、こっちまで嬉しくなる。
　最初はどうなることかと思ったけど、やっぱり連れてきてよかった。

「んふふ、おいし」
「そう?　よかった」
「…でもね、」
「ん?」

　おいしいと言った後、『でもね』と声を潜めるから、何事かと耳を傾けたら、「純子さんの作ったご飯のが、おいしいよね?」とこっそり言ってくるから、思わず笑ってしまった。
　確かに、それはそうかも。

「あ、仁じゃん」
「は?」

　おいしそうにしてる直央くんに和んでたら、馴れ馴れしく名前を呼ばれる。
　でも、嫌そうに返事をしたのは、その馴れ馴れしさじゃなくて、もう嫌ってくらい聞き慣れた声だったから。
　振り返った先にはやはり、思ったとおりのイケメンが立ってた。

「仁、何で1人なの?　メシなんか食っちゃって、めっずらしー」
「うっせ、ミヤ。どっか行け」

　声を掛けてきたのは、『ミヤ』こと、宮田伊吹(みやた いぶき)。
　コイツの親父も、そこそこデカい会社の社長だったりするから、そこを継ぐべくいろいろがんばってんだけど、実は俺の幼馴染み。
　同じような境遇で育って来てるから、昔から気が合って、ずっと一緒にいる腐れ縁だ。

「ねぇ、マジで1人でメシ食ってんの?　何で?」
「1人じゃねぇよ」

　普段は、嫌でも誰かに声掛けなきゃいけなかったり（こういうパーティーのマナーとして）、まぁメシもそんなに興味ないから、こんなトコいないしね、ミヤが不思議がるのも無理はない。
　でも今日は、1人じゃないから。



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