恋三昧

【18禁】 BL小説取り扱い中。苦手なかた、「BL」という言葉に聞き覚えのないかた、18歳未満のかたはご遠慮ください。

暴君王子のおっしゃることには!

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暴君王子のおっしゃることには! (10)


「うっせっ! 仕事しないヤツはクビにすんぞっ!」
「何だとぅ! ふとうかいこ、反対! ろーどーキジュンホウで、」
「自分でも言えない言葉使うな!」

 …確か一伽は、航平に何か話したいことがあって声を掛けたはずだったのに、いつの間にか全然違う方向に2人で盛り上がっている。
 2人は別に仲が悪いということは全然ないのだが、口を開けば、いつもこんな感じだ。

「2人ともー。俺、もう帰りたいんだけどー…」

 パソコンから顔を上げ、騒いでいる2人に視線を向けたのは、同じくozで働く小松崎志信(こまつざき しのぶ)。ずり落ちたメガネを面倒くさそうに押し上げながら、さらに面倒くさそうに航平と一伽を見遣った。

「あっ、店長! 志信が掃除しないで帰ろうとしてます! ダメダメダメ~!」

 普段は『店長』なんて呼ばないくせに、こんなときばかり航平のことをそんなふうに呼んで、一伽は逃がすまいと志信のシャツを掴む。
 志信にだって、掃除させるんだから!

「えー…じゃあ今度から俺が店の掃除するから、一伽くん、オンラインのほうの管理やってよ」
「うぐっ…」

 別に志信は閉店後、パソコンに向かって遊んでいたわけではない。
 ozのオンラインショップ版の管理は、殆どすべて志信が行っていて、今も受注や在庫の確認を終えたばかりなのだ。
 もともとパソコンを弄るのは嫌いではないので、この仕事を任されることは嫌じゃないけれど、閉店後の掃除と比べたら、責任や大変さの度合いは大きい。
 一伽が変わってくれると言うなら、喜んで変わるけれど。

「志信くん、お疲れ様ー」

 さっと志信のシャツから手を離し、一伽はバイバイするみたいに志信に手を振った。

「…まぁいいけどね。てか、一伽くん、航平くんに何か話しようとしてたんじゃないの? まさかホントに掃除が嫌だってだけの話だったの?」
「あっ違うっ! 違う違う、つか志信も聞いて!」
「えー…、俺帰る、て言ってんのに…」

 志信に言われて、一伽はようやく肝心なことを思い出した。
 航平に話したいことがあって声を掛けたのに、ケツキックはされるわ、面倒くさいネットショップの管理をさせられそうになるやらで、忘れていた。

「あのさー、俺さー、昨日とうとう男の血、吸っちゃったんだよねー…」

 一伽は遠い目をしながら、昨日の夜のことを打ち明けた。

「はぁ? とうとうお前、宗旨替えしたのか」
「へぇ、じゃあ一伽くん、今度から男も女もイケちゃうんだ」

 航平も志信も、一伽が吸血鬼であることは知っているから、今さらその事実には驚かないが、かわいい女の子限定でしか血を飲まなかった一伽が、とうとう男にまで手を出すようになったとなれば、やはり驚く。
 …が、驚いたものの、2人ともその驚きの部分はサラッと流して、真面目な顔でボケのような突っ込みをした。



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暴君王子のおっしゃることには! (11)


「ちっがーう! 昨日はぶっ倒れちゃうくらいお腹が空いてたから、やむを得ず! ホントは女の子のほうがよかったの!」

 なのに、ご飯を横取りされちゃうし、侑仁てヤツはなぜかめっちゃ怒るし、後から来た海晴や店長にいろいろ説明するのは面倒くさかったし、やっぱり男の血なんて吸うもんじゃない。
 …ということを一生懸命説明したのに、なぜか航平も志信も、あまり一伽に同情的ではない様子。

「いや、それはお前が悪いんじゃね? 俺がその男だとしても、めっちゃキレるぜ」
「何で? 何でー!?」
「まぁ…無理やりだからねぇ。怒られるだけで済んで、よかったんじゃない?」
「俺、怒られるようなこと、してないっ!」

 せっかく2人から慰めてもらおうと思ったのに、全然そんな感じにならなくて、おもしろくなくて、一伽はプン! と顔を背けた。
 一伽にしたら、ご飯をしただけで、何の悪いことをした覚えもないのだ。

「いや、でも無理やりはよくないよ、無理やりは」
「お前、今までいきなり血吸って、怒られたことねぇの?」
「ないよっ! 無理やりつーか、いきなりつーか、だって普通そうじゃね? 俺、吸血鬼だよ? 血を吸わなくてどうすんの?」

 雪乃のように、見ず知らずの人を襲うなんて出来ない! という輩もいるが、基本的に吸血鬼は人の血を吸うのが仕事なので、それを否定されると、ちょっと困る…。

「いや、そこは否定しないけど。つかお前、普段どうやって血吸ってんだよ、女の子に。そんときは全然怒られねぇんだろ?」
「えー、怒られないよぉ、全然。だって普通に声掛けて、何かちょっと、いろいろ……ねぇ? 何か気持ちいい感じになって、そんで、ガブッ! て」
「……最悪だ…」
「タチの悪いナンパだね」
「何でだよっ!」

 いきなり女の子に襲い掛かってもいいんだけれど、でもやっぱ、何かいい雰囲気みたいのも楽しみたいし? てことで、一伽の普段のお食事は、大体こんな感じだ。
 女の子のほうも気持ちよくなっちゃっているので、怒られたことも、文句を言われたこともない。

「えー…、じゃあ、昨日のその男にも、そういうふうにしたら怒られなかったんじゃない?」
「バッカ、腹減りすぎてたんだって! つか、男相手に、何でそんなことしなきゃなんないわけ? そこまで動けるなら、他の女の子探すに決まってんじゃん!」

 何だか全然理解してもらえなくて、本当におもしろくない。
 大体昨日のヤツも、女の子をナンパしようとしていたくらいだから、男に興味なんてないんだろう。そんなヤツに、いつも女の子にするみたいのことをしたら、余計に怒りそうだ。

「まぁ…。いろいろ大変だったね、一伽くん。てことで、俺はもう帰るね。掃除がんばって」
「えっちょっ、志信っ! あー!! この薄情者~~~!!!」

 ポン、と一伽の肩を叩いた志信は、喚き立てる一伽に聞く耳持たず、さっさと裏へ引き下がってしまった。

「うぅ~…航平く~ん…」
「…………、まぁ、早く掃除しろ。モタモタしてると、また腹減り過ぎて倒れるぞ?」
「そうなったら航平くん、血吸わせてよ」
「イヤだ」

 まったく何の慰めの言葉も掛けてくれない航平に甘えてみたが、やはりキッパリと断られてしまった。



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暴君王子のおっしゃることには! (12)


雪乃 と 光宏

 たとえ志信に『タチの悪いナンパだね』と言われようと、毎回ちゃんと自分でご飯にあり付いている一伽と違って、雪乃は大抵一伽に血を吸わせてもらっているのだが、それ以外にも雪乃のことを理解し、血を吸わせてくれる人が何人かいる。
 でないと、一伽と一緒でないとき、ご飯が出来ないからだ。

 その理解者 兼 ご飯の1人が霜村光宏(しもむら みつひろ)
 光宏は、雪乃がバイトしている本屋の近くにあるカフェ『cafe OKAERI』の従業員で、2人ともが互いの店を利用するうちに知り合い、仲良くなった間柄だ。

 ちなみに、吸血鬼である雪乃は、血さえ吸っていれば、人間が食べるようなものを口にしなくても生きていけるが、食べたからと言って何か害になるわけでもない。
 だから、友だちとの付き合いとかで人間の食べ物を食べることはあるし、単純に味がおいしいからという理由で、カフェに行くこともあるのだ。

「みっく~ん、来たよ~」

 雪乃が住んでいるところより、少し新しくて、きれいで、広い、光宏の住んでいるアパート。
 買い物袋を両手に下げた雪乃は、がんばってピンポンを押した後、ドア越しに光宏に声を掛けた。
 ちなみに、『みっくん』というかわいらしいあだ名は、酔っ払った雪乃が勝手に付けた呼び方で、光宏のことをこう呼ぶのは今のところ雪乃だけだ。

「…いらっしゃい」

 少しだけ眠そうな顔で、光宏は雪乃を出迎えてくれた。
 今日は、光宏からご飯をごちそうになる日。
 ごちそうになる…というか、雪乃は光宏から血を飲ませてもらう代わりに、光宏のために夕ご飯を作ってあげるのだから、お相子だ(光宏は、ご飯を作ってくれなくても、血くらい飲ませてやると言ったのだが、それでは雪乃の気が済まなかったので)。

「何かユキ、買い物多くね? 何そんなに買ってきたの?」

 雪乃の手にある2つの買い物袋を、光宏は怪訝そうに見る。
 2人で食事なのに、それにしては量が多いのでは?

「いろいろー。材料の他にね、おいしそうなスイーツとかあったから、買っちゃった。後で食べようね?」
「そうなの?」

 光宏も実のところ、甘いものは嫌いではないので、おいしそうなスイーツがあるなら、ちょっと嬉しいかも。
 とりあえず買い物袋の1つを持ってやり、雪乃を中に通す。

「ねぇねぇ、パスタとグラタン、どっちがいいー?」
「パスタとグラタン? え、それ関連性低くね? どっちも作れるだけの材料、買って来たの?」
「ジャガイモがねぇ、おいしそうだったからさぁ」

 買い物袋をガサガサ漁りながら、雪乃はまずスイーツを冷蔵庫にしまい、それから次々の食材を取り出していく。

「パスタにするなら、ジャガイモ、ポテトサラダにでもしようかな、て。みっくん、ポテトサラダ好き?」
「うん、まぁ…普通」
「普通て何だよ、普通て!」
「だって」

 普通は普通だし、と言う光宏に、雪乃は「じゃあ肉じゃがにする!」と言い出す。
 肉じゃがも嫌いではないけれど、……パスタと肉じゃが?



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暴君王子のおっしゃることには! (13)


「つかみっくん、それより先に、血飲ませて!」
「え、あ、うん」

 光宏から血を吸わせてもらい、代わりにご飯を作ってあげる、という中で、どのタイミングで吸血するのがいいかいろいろ考えたのだが、どんな人間も、血を吸われた後は多少体力が消耗してしまうので、先に血を吸い、雪乃がご飯を作っている間に光宏には休んでもらって、それからご飯を食べて元気を取り戻す、というのがいいのでは? と思ってからは、この順序にしている。
 雪乃的には、空腹の人間よりも、お腹いっぱいで栄養の行き届いている状態の人間のほうがおいしいし、雪乃も十分な栄養を補給できるのだが、こちらはお願いしている身なので、あまりわがままは言わないようにしているのだ。

「じゃあ、いただきま~す」

 血を吸っている間に、光宏がクラッと来て倒れてしまっては危ないので、ベッドの縁に座らせてから、雪乃はその両肩に手を置くと、首筋目がけて口を大きく開けた。

「――――ッ…」

 光宏は雪乃に、血くらい好きに吸っていいよ、と言ってくれるのだが、極度の痛がりで怖がりなので、雪乃の牙が近付いてくる瞬間は、ギュッと目を瞑り、この世の終わりみたいな顔をする。
 本人にその自覚はないらしいのだが、雪乃は少し胸が痛むのだが、結局は食欲に敵わなくて、その白くてきれいな首筋に牙を立ててしまう。

「はぁっ…」

 チューチューと存分に光宏の血を味わってから、雪乃はその首元から顔を上げた。
 雪乃が血を吸った痕に限らず、ほんのちょこっとの傷でも、血を見ると光宏は大げさに騒ぐので、雪乃は十分に光宏の首元を拭い、自分の口元に血が付いていないかを確認する。

「ごちそうさまでした」

 お腹いっぱいになって、満足そうに雪乃は両手を合わせた。
 光宏は、本当は血を吸われるのは、何度経験してもちょっと怖いんだけれど、それでも雪乃を見過ごせない気持ちはあるし、ごちそうさまのときの幸せそうな顔を見るのは嫌でないので、雪乃の吸血を拒もうとは思わない。

「みっくん、平気? クラクラする?」
「いや別に、そこまでじゃない」

 光宏は、体格的にはやせ気味……というか、やせ過ぎ? という感じだから、雪乃が調子に乗って血を吸い過ぎると、貧血ぽくなってしまうことも…。
 1度そんなことがあってから、雪乃はすごく気を付け、気に掛けている。だって光宏は絶対に、『大したことないし、気にしないで飲んでいいから』て言うから。

「ご飯作るから、ちょっと待っててね? つかみっくん、しんどかったらマジで言ってよ!?」
「だから平気だって。で、何作ることにしたわけ?」
「パスタと肉じゃが!」
「…マジか」

 作ってくれるというのに文句を言うつもりはないが、そのメニューの組み合わせに、雪乃自身は何の違和も感じないのだろうか。
 光宏は若干心配しつつも、張り切って台所に立つ雪乃の背中を見送った。

 雪乃の料理の腕前はというと、基本的に本人が食べなくても平気という人(吸血鬼)が作っていることもあってか、食べられないほどマズイことはないが、料理は大得意です! と言えるほどでもない。
 まぁ、20代前半の男子が作るにしては上出来か? というレベル。
 それでも、作ってやりたい! という気持ちだけは人一倍あるので、回を重ねるごとにはうまくはなっているのだが。



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暴君王子のおっしゃることには! (14)


「…何か手伝おうか?」

 しばらくベッドで横になっていた光宏だが(別に貧血を起こしたわけでなく、することがなかったので)、やはり暇を持て余し、台所へとやって来た。

「もぅ、みっくんが手伝ったら、お返しになんないじゃん!」
「そうだけど、…パスタ茹でるの、お湯沸かす?」
「あ、うん、沸かす沸かす」

 手伝わなくていいよ! と向きになり掛けた雪乃は、しかし光宏の言葉に、あっそれもしなきゃいけないんだ、と気を取られ、あっさりと光宏の手伝いを許してしまう。
 単純な雪乃は、いつだってこの調子なのだ。

 結局2人で手分けして、パスタと肉じゃがをこしらえた。
 光宏は調理担当でないとはいえ、カフェに勤めているから、何だかんだ言っても、光宏のほうが手際がいい。雪乃が見た目よく盛り付けようとがんばっているうちに、さっさと鍋やらまな板やらを洗って片付けてしまった。

「もぅ…そういうのも、俺がすんのに!」
「別にいいじゃん、冷めないうちに食おうよ」
「むー」

 先ほど光宏の血を飲ませてもらった雪乃は、実質、食事は終わっているのだが、いつも作った料理は2人で食べる。
 雪乃は味見をしたいというのもあるし、光宏的にも、1人で食事をするのも、またその姿を雪乃にただ見られているというのも、何だか居心地悪いので。

「いただきま~す」

 先ほど『ごちそうさま』をしたばかりの雪乃は、また元気よく合掌し、箸を手にした。
 …が、自分で食べるより先、光宏が料理を口に運ぶのを見届けてから。肉じゃがに合うように、一応パスタも和風のたらこスパにしてみたんだけど、どう?

「え、うまいよ。そんな顔しなくても」
「そんな顔て何」
「だってユキ、すっごい顔でこっち見てるから。そんなに心配しなくても、うまいってば」

 よほど心配そうに、怪訝そうに光宏のことを見ていたのか、パスタと肉じゃが、どちらも口にした光宏が苦笑する。
 何しろカフェ勤務の光宏は、賄い飯でおいしいご飯をほぼ毎日食べているから、口だって肥えていると思うのだ。

「そんなに気になるなら、ユキ、そんなしてないで、自分でも食べなよ」

 光宏に言われ、雪乃は箸の先にジャガイモを刺して(雪乃の箸使いの下手くそさは、今に始まったことではない)口へ運ぶ。
 …ん、しょっぱすぎず、おいしいかも。

「あ、そういえばね、みっくん、聞いて!」
「ん?」

 うまい、という言葉に嘘偽りがないように、パクパクと料理を口に運んでいた光宏に、雪乃は思い出したように顔を上げた。

「あのね、俺ね、こないだ、超~~~~カッコいい人に会ったの!」
「…………。…へぇ?」
「でね、でねっ、血もめっちゃおいしそうで、キャ~~~て思ったのに、それ言ったらいっちゃん、『だから?』とかって、超ひどくないっ!?」
「…はい?」

 話しているうちにヒートアップしてきたのか、箸を握り締めて力説する雪乃の話は、何だかいまいちよく分からない。
 光宏は、ぅん? と眉を寄せるが、雪乃自身、自分では十分説明した気になっているから、光宏に伝わっていないとは思っていないようで、「え、何?」と小首を傾げる。



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