繁華街☆激濃ムラサキヴァイオレンス
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繁華街☆激濃ムラサキヴァイオレンス (5)
2010.08.08 Sun
この子のどの辺が男? どこをどう見ても女の子なんだけど……と、瑛貴は思わず依織を上から下まで眺めたが、やはりどう見ても女の子にしか見えない。
しかし。
「七槻…さん? よく俺が男だって分かりましたね」
やっぱり冗談? と、瑛貴が聞き返そうとするより先、依織本人が、諦めたように七槻のほうを向いた。
特に声色を変えてもいなかったのか、自分のことを『俺』と言った以外、依織は先ほどと声も口調もそのままで。
しかしはっきりと、自分が男だと認めてしまった。
「んー…俺も一応、ここのナンバーワンだし? 多少は経験も豊富ですから。でも普通は気付かないんじゃない? アッキー全然気付いてないし」
そう言って七槻は、瑛貴に視線をくれた。
七槻につられて依織も瑛貴のほうを見て、目が合ったけれど、瑛貴は呆けたように何度か瞬きをするだけ。だって、本人がその事実を肯定した今ですら、依織が男だなんて信じられない。
もちろんこの街には、ニューハーフのお姉さまも、女装した男の子もたくさんいるけれど、みんなお仕事用に着飾っているから、依織のように普通の格好をしていると、実は男なのかも…とは、逆に思い難い。
最初に泰我が止めに入ったのは、七槻を咎めるのはもちろんのこと、話しているうちに依織が男なのがバレてしまわないよう、牽制するつもりだったらしい。
「言わないほうがよかった? ゴメンね、男だってこと、内緒だったの?」
「んーん、そうじゃないけど……今までバレたことなかったから、ビックリしただけ」
七槻に顔を覗き込まれ、依織は首を振った。
女の子の格好をしていることを、いちいち言って回るつもりはないが、友人に対しては、どうしても隠しておかなければならないとも思っていないから。
本当に仲のいい友人は数人しかいないけれど、みんな知っている。
もちろん、隠しておきたい場面はあるものの、バレない自信があったし。――――出会って1分で、依織の女装を見抜いた七槻に会うまでは。
「七槻さん、すごいんですね」
「そ? いろんな人、見て来てるからじゃない?」
いろいろな人に接する職業だが、ナンバーワンになるからには、人並み以上に相手の本質が見抜けなければならないわけで。
七槻にしたら、そんなに驚かれるようなことをしたつもりもなかったが、みんなに驚かれて、逆に驚いた。
「つーか依織、食われんなよ、この節操なしに」
「うん」
呆れ顔の泰我の言葉に依織が素直に頷くので、七槻はわざと大げさに肩を竦めた。
みんなが思っているほど、女にも男にも見境がないわけではないのだが、泰我に言わせると、それは単なる七槻基準なだけで、世界の標準からはズレているのだそうだ。
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しかし。
「七槻…さん? よく俺が男だって分かりましたね」
やっぱり冗談? と、瑛貴が聞き返そうとするより先、依織本人が、諦めたように七槻のほうを向いた。
特に声色を変えてもいなかったのか、自分のことを『俺』と言った以外、依織は先ほどと声も口調もそのままで。
しかしはっきりと、自分が男だと認めてしまった。
「んー…俺も一応、ここのナンバーワンだし? 多少は経験も豊富ですから。でも普通は気付かないんじゃない? アッキー全然気付いてないし」
そう言って七槻は、瑛貴に視線をくれた。
七槻につられて依織も瑛貴のほうを見て、目が合ったけれど、瑛貴は呆けたように何度か瞬きをするだけ。だって、本人がその事実を肯定した今ですら、依織が男だなんて信じられない。
もちろんこの街には、ニューハーフのお姉さまも、女装した男の子もたくさんいるけれど、みんなお仕事用に着飾っているから、依織のように普通の格好をしていると、実は男なのかも…とは、逆に思い難い。
最初に泰我が止めに入ったのは、七槻を咎めるのはもちろんのこと、話しているうちに依織が男なのがバレてしまわないよう、牽制するつもりだったらしい。
「言わないほうがよかった? ゴメンね、男だってこと、内緒だったの?」
「んーん、そうじゃないけど……今までバレたことなかったから、ビックリしただけ」
七槻に顔を覗き込まれ、依織は首を振った。
女の子の格好をしていることを、いちいち言って回るつもりはないが、友人に対しては、どうしても隠しておかなければならないとも思っていないから。
本当に仲のいい友人は数人しかいないけれど、みんな知っている。
もちろん、隠しておきたい場面はあるものの、バレない自信があったし。――――出会って1分で、依織の女装を見抜いた七槻に会うまでは。
「七槻さん、すごいんですね」
「そ? いろんな人、見て来てるからじゃない?」
いろいろな人に接する職業だが、ナンバーワンになるからには、人並み以上に相手の本質が見抜けなければならないわけで。
七槻にしたら、そんなに驚かれるようなことをしたつもりもなかったが、みんなに驚かれて、逆に驚いた。
「つーか依織、食われんなよ、この節操なしに」
「うん」
呆れ顔の泰我の言葉に依織が素直に頷くので、七槻はわざと大げさに肩を竦めた。
みんなが思っているほど、女にも男にも見境がないわけではないのだが、泰我に言わせると、それは単なる七槻基準なだけで、世界の標準からはズレているのだそうだ。
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カテゴリー:繁華街☆激濃ムラサキヴァイオレンス
テーマ:自作BL小説 ジャンル:小説・文学
繁華街☆激濃ムラサキヴァイオレンス (6)
2010.08.09 Mon
「まーったく、ひどい言い草。あんな坊主の言うことなんか、信じないでね。えっと……依織、さん?」
「はい。友だちはみんな依織って呼ぶから、そう呼んでください」
「ふぅん、友だちは、ね」
「はい、友だちは」
七槻が口の端を上げて、意味深な雰囲気を持たせて言えば、依織もかわいらしい笑顔で繰り返した。
女の子の格好をしているけれど、実は男なんだってことを知っているのも友だち。
本当の名前を呼ぶのも友だち。
依織のことを人よりも少し深く知ることの出来るのは友だちだけだけれど、しかしそれ以上の関係にもなれないのだ。
「りょーかい。俺も依織って呼ぶ。だから依織も俺のこと、ナツて呼んでいいよ」
「ナツ? 七槻だから?」
「そう。お友だちだから、特別ね」
『七槻』が本名かは不明だが、その名前に因んだあだ名は確かに特別らしく、瑛貴や優輝など、この店の大抵の従業員は名前か、それに敬称を付けて呼ぶし、お客は源氏名で呼んでいる。
七槻に憧れている優輝は、出会って間もない(どころか、ほんの数分しか経っていない)のに、『ナツ』と呼ばせてもらえることになった依織を、羨ましそうに見ている。
でも実際のところ、もし自分もそう呼んで構わないと言われたところで、きっと緊張して、そんなふうに気軽には呼べないだろうが。
「もう、お店始まる時間ですか?」
「んー…開店まではまだ時間あるけど、そろそろ準備始めないと? かな? てか、お友だちーて言ったんだから、敬語やめてよ」
ホストや内勤たち従業員の増え始めた店内を見渡して、七槻は少し小首を傾げた。
瑛貴にしたら、いつもより遅い出勤時間なのだが、七槻にしては珍しく早く出勤したので、もう開店準備とか始める時間だっけ? と、実はよく分かっていない。
開店準備も従業員の大切な仕事で、それは年齢や入店歴に関係ないことだが、やはり指名本数の多いナンバークラスではなく、後輩が率先してやることになっている。
もちろんそんな決まりがあるわけではなくて、そんなに優しく面倒見のいい性格ではない七槻だって、従業員として、開店準備や片付けぐらいやろうと思うのだが、逆に後輩に気を遣わせてしまうので、先頭に立ってやらないようにしているのだ。
七槻の言葉に、もうそんな時間になっていると気が付いた優輝は、ヤバッ…! と、七槻や泰我に頭を下げて、急いで開店準備に加わりに行った。
「じゃあ、邪魔になるし、俺、帰ります……おっとと、帰るね」
「え、何で? 今日は遊びに来てくれたんじゃないの?」
「俺、ホストクラブで遊べるほど、お金なんて持ってないよ。泰我くんが働いてるの、どんなとこかなーて、ちょっと見に来ただけ。中に入れてもらえて、すっごいラッキー」
最初に言ったとおり、依織は本当に、泰我が働いている店を見てみようと思っていただけらしく、開店前とはいえ、JADEの中に入れてもらえたことを素直に喜んでいる。
店としても、いくら依織が泰我の友人でも、金のない人間を客には出来ないから、七槻も無理に引き止めることは出来ない。
「じゃあ俺、送るよ。駅まで? それとも…」
そう言って七槻は、さりげなく依織の肩を抱いた。
基本、七槻の営業スタイルは色恋営業なので、その気がなくても、恋人らしい振る舞いをするのはいつものこと。
しかしそこには泰我が割り込んだ。
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「はい。友だちはみんな依織って呼ぶから、そう呼んでください」
「ふぅん、友だちは、ね」
「はい、友だちは」
七槻が口の端を上げて、意味深な雰囲気を持たせて言えば、依織もかわいらしい笑顔で繰り返した。
女の子の格好をしているけれど、実は男なんだってことを知っているのも友だち。
本当の名前を呼ぶのも友だち。
依織のことを人よりも少し深く知ることの出来るのは友だちだけだけれど、しかしそれ以上の関係にもなれないのだ。
「りょーかい。俺も依織って呼ぶ。だから依織も俺のこと、ナツて呼んでいいよ」
「ナツ? 七槻だから?」
「そう。お友だちだから、特別ね」
『七槻』が本名かは不明だが、その名前に因んだあだ名は確かに特別らしく、瑛貴や優輝など、この店の大抵の従業員は名前か、それに敬称を付けて呼ぶし、お客は源氏名で呼んでいる。
七槻に憧れている優輝は、出会って間もない(どころか、ほんの数分しか経っていない)のに、『ナツ』と呼ばせてもらえることになった依織を、羨ましそうに見ている。
でも実際のところ、もし自分もそう呼んで構わないと言われたところで、きっと緊張して、そんなふうに気軽には呼べないだろうが。
「もう、お店始まる時間ですか?」
「んー…開店まではまだ時間あるけど、そろそろ準備始めないと? かな? てか、お友だちーて言ったんだから、敬語やめてよ」
ホストや内勤たち従業員の増え始めた店内を見渡して、七槻は少し小首を傾げた。
瑛貴にしたら、いつもより遅い出勤時間なのだが、七槻にしては珍しく早く出勤したので、もう開店準備とか始める時間だっけ? と、実はよく分かっていない。
開店準備も従業員の大切な仕事で、それは年齢や入店歴に関係ないことだが、やはり指名本数の多いナンバークラスではなく、後輩が率先してやることになっている。
もちろんそんな決まりがあるわけではなくて、そんなに優しく面倒見のいい性格ではない七槻だって、従業員として、開店準備や片付けぐらいやろうと思うのだが、逆に後輩に気を遣わせてしまうので、先頭に立ってやらないようにしているのだ。
七槻の言葉に、もうそんな時間になっていると気が付いた優輝は、ヤバッ…! と、七槻や泰我に頭を下げて、急いで開店準備に加わりに行った。
「じゃあ、邪魔になるし、俺、帰ります……おっとと、帰るね」
「え、何で? 今日は遊びに来てくれたんじゃないの?」
「俺、ホストクラブで遊べるほど、お金なんて持ってないよ。泰我くんが働いてるの、どんなとこかなーて、ちょっと見に来ただけ。中に入れてもらえて、すっごいラッキー」
最初に言ったとおり、依織は本当に、泰我が働いている店を見てみようと思っていただけらしく、開店前とはいえ、JADEの中に入れてもらえたことを素直に喜んでいる。
店としても、いくら依織が泰我の友人でも、金のない人間を客には出来ないから、七槻も無理に引き止めることは出来ない。
「じゃあ俺、送るよ。駅まで? それとも…」
そう言って七槻は、さりげなく依織の肩を抱いた。
基本、七槻の営業スタイルは色恋営業なので、その気がなくても、恋人らしい振る舞いをするのはいつものこと。
しかしそこには泰我が割り込んだ。
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繁華街☆激濃ムラサキヴァイオレンス (7)
2010.08.10 Tue
「店のナンバーワンが何言ってんだ。仕事しろ」
「だって、こんなかわいい子が1人で歩いてたら危ないじゃん」
「だったら俺が送ってく」
「店のボディガードさんが何言ってんの? ちゃんと仕事してよ」
泰我の言葉をマネして、七槻もそう返す。
開店準備は手伝わないにしても、営業時間が始まれば、仕事に専念しなければならないのはお互い様だ。
いくら駅までだとしても、今さら店から出るわけにはいかない。
「なら、俺が送ってく!」
そう声を上げたのは、瑛貴だ。
しかしさすがにこれには、七槻も泰我も、「はあああ?」と声を大きくした。
「さっき一緒になって絡まれてたくせに、何言ってんだ」
「つーか、お前だって仕事だろうが」
矢継ぎ早に2人に突っ込まれ、瑛貴はタジタジになる。
よく見知った2人を相手にしてもこの調子なのだ。声を掛けられそうになったときに、さり気なくかわす術なら身に着けている瑛貴だが、いざ誰かに絡まれたときに、役に立つとは到底思えない。
「大丈夫だよ、1人でも帰れるって。駅すぐそこじゃん。みんな、心配してくれてありがとう」
これ以上騒ぎを大きくしたくなくて、依織は3人に言ったが、しかし誰も納得しない。
しかし、店が終わるまでバックルームに待機させておくわけにもいかないし…。
「おい、お前ら、いつまでそこに固まってんだ! することないなら、手伝え」
「あ、アヤくん」
誰もが意見を譲れずにいたところに、キビキビとした声が飛んで来て、視線を向ければ、JADEの代表である綾斗(あやと)が、両手を腰に当てて立っていた。
綾斗は、若いながら見事な手腕でJADEを人気店に押し上げた実力の持ち主で、瑛貴の叔父にも認められている男だ。
ちなみに、綾斗をアヤと気安く呼んでいるのは、この店では七槻だけである。
「だって、このかわい子ちゃん送ってこうとしたら、泰我が止めんだもん」
「ぁん? お客さんか?」
「あー違う違う。泰我のお友だち。ちょっとここに寄ったんだけど、もう帰るって言うからー」
だから俺に送って行かせて? と、七槻は綾斗にかわいくおねだりする。
キリリとした男前な表情の中に、自然とこうしたかわいらしい雰囲気を覗かせるのが、女の子を虜にする七槻の武器なのだ。
しかし。
「アホかっ」
七槻最大の武器も、この世界の長い百戦錬磨の綾斗には少しも通用せず、あっさりと一蹴されてしまった。
「もう店始まるのに、何言ってんだ。しかもナンバーワンが、指名客でないヤツを、簡単に送って行こうとすんなっ」
「イタタタ、アヤくん、痛いっ」
もともと綾斗は、声が大きいほうなのだ。
それなのにわざわざ七槻の耳を引っ張って、耳元で声を張り上げられたのでは堪らない。耳を引っ張る力よりも、大きな声のせいで耳が痛い。
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「だって、こんなかわいい子が1人で歩いてたら危ないじゃん」
「だったら俺が送ってく」
「店のボディガードさんが何言ってんの? ちゃんと仕事してよ」
泰我の言葉をマネして、七槻もそう返す。
開店準備は手伝わないにしても、営業時間が始まれば、仕事に専念しなければならないのはお互い様だ。
いくら駅までだとしても、今さら店から出るわけにはいかない。
「なら、俺が送ってく!」
そう声を上げたのは、瑛貴だ。
しかしさすがにこれには、七槻も泰我も、「はあああ?」と声を大きくした。
「さっき一緒になって絡まれてたくせに、何言ってんだ」
「つーか、お前だって仕事だろうが」
矢継ぎ早に2人に突っ込まれ、瑛貴はタジタジになる。
よく見知った2人を相手にしてもこの調子なのだ。声を掛けられそうになったときに、さり気なくかわす術なら身に着けている瑛貴だが、いざ誰かに絡まれたときに、役に立つとは到底思えない。
「大丈夫だよ、1人でも帰れるって。駅すぐそこじゃん。みんな、心配してくれてありがとう」
これ以上騒ぎを大きくしたくなくて、依織は3人に言ったが、しかし誰も納得しない。
しかし、店が終わるまでバックルームに待機させておくわけにもいかないし…。
「おい、お前ら、いつまでそこに固まってんだ! することないなら、手伝え」
「あ、アヤくん」
誰もが意見を譲れずにいたところに、キビキビとした声が飛んで来て、視線を向ければ、JADEの代表である綾斗(あやと)が、両手を腰に当てて立っていた。
綾斗は、若いながら見事な手腕でJADEを人気店に押し上げた実力の持ち主で、瑛貴の叔父にも認められている男だ。
ちなみに、綾斗をアヤと気安く呼んでいるのは、この店では七槻だけである。
「だって、このかわい子ちゃん送ってこうとしたら、泰我が止めんだもん」
「ぁん? お客さんか?」
「あー違う違う。泰我のお友だち。ちょっとここに寄ったんだけど、もう帰るって言うからー」
だから俺に送って行かせて? と、七槻は綾斗にかわいくおねだりする。
キリリとした男前な表情の中に、自然とこうしたかわいらしい雰囲気を覗かせるのが、女の子を虜にする七槻の武器なのだ。
しかし。
「アホかっ」
七槻最大の武器も、この世界の長い百戦錬磨の綾斗には少しも通用せず、あっさりと一蹴されてしまった。
「もう店始まるのに、何言ってんだ。しかもナンバーワンが、指名客でないヤツを、簡単に送って行こうとすんなっ」
「イタタタ、アヤくん、痛いっ」
もともと綾斗は、声が大きいほうなのだ。
それなのにわざわざ七槻の耳を引っ張って、耳元で声を張り上げられたのでは堪らない。耳を引っ張る力よりも、大きな声のせいで耳が痛い。
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繁華街☆激濃ムラサキヴァイオレンス (8)
2010.08.11 Wed
「つーことで、瑛貴、お前が送って行け」
「えぇーっアッキーがぁ~? ズルイー」
七槻の耳から手を離した綾斗は、瑛貴のほうを向き直って、ビシッと言い放った。
もちろん七槻からは大ブーイング。泰我も、不安で不満に満ちた顔をしている。
「綾斗さん! ナツはともかく、瑛貴でいいなら、俺だっていいじゃん」
「泰我には今、別に頼みたい仕事があんの」
「でも、瑛貴だけじゃ危ない…」
「瑛貴も、女の子くらい1人で送れるようにならねぇとダメだからな」
まだ何か言いたげな泰我を制して、綾斗はそう締めると、泰我を連れていった。
それにしても、やはり何も言われなければ、綾斗さえも、依織が男だとは気付かないらしい。
「…えっと、仕事が始まる前の忙しい時間に、ありがとうございました」
「んふふー、依織、今度は時間があるときに遊ぼうねー」
ペコリと頭を下げた依織に、七槻は明るく手を振る。依織を送らせてもらうことは出来なかったが、それをしつこく根に持つような性格ではないのだ。
「つーかアッキー、彼女に勘違いされないようにね?」
店の出入り口に向かう途中、すれ違う七槻が、ニヤリとしながら、さり気なく瑛貴の耳元で忠告した。
七槻は一発で見抜いたが、一見しただけでは女の子にしか見えない依織と歩いていたら、小さな街だし、瑛貴は(いろんな意味で)顔が知られているから、女の子を連れて歩いていたと、すぐに噂になりそうだ。
それが単なる噂だけで済めばいいが、瑛貴の彼女の耳にでも入れば、浮気を疑われないとも限らない。
「別に、そんなの…」
実際のところ、依織は男なんだし、浮気でも何でもない。
しかし瑛貴の脳裏には、最近連絡をさぼりがちな彼女の顔が浮かぶ。
(連絡しないと怒られるかな…)
しかし瑛貴が振り返れば、七槻はもう、開店準備の仲間に加わっていた。
「あの…ゴメンね、仕事あるのに…」
店を出たところで、依織が本当に申し訳なさそうに頭を下げた。
「別にいいよ、マジで。だって綾斗さんも、あ、あの最後に来た人、あの人ウチの代表なんだけど、綾斗さんがいいって言ったんだし」
「そっか」
ナンバークラスのホストでもない限り、1人2人欠けてもスムースに仕事が出来るくらいの人間が出勤しているので、依織を送るために瑛貴が不在になっても、大したことではない。
そういうこまめなサービスが、次からのお客、そして売り上げに繋がると綾斗は考えているのだ。
それに、客として金を払っても、人気のある七槻に送ってもらえることは少ないので、七槻が依織を送るのは問題があるが、内勤の瑛貴なら。
「アッキー…だっけ?」
「ぅん?」
「みんながそう呼んでたから。俺もそう呼んでいい?」
「いいよ」
そう言えば、店に着いてからもバタバタしていて、瑛貴は依織に名乗りもしていなかった。
依織に『アッキー』と呼ばれるのは、ちょっと新鮮な感じがする。
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「えぇーっアッキーがぁ~? ズルイー」
七槻の耳から手を離した綾斗は、瑛貴のほうを向き直って、ビシッと言い放った。
もちろん七槻からは大ブーイング。泰我も、不安で不満に満ちた顔をしている。
「綾斗さん! ナツはともかく、瑛貴でいいなら、俺だっていいじゃん」
「泰我には今、別に頼みたい仕事があんの」
「でも、瑛貴だけじゃ危ない…」
「瑛貴も、女の子くらい1人で送れるようにならねぇとダメだからな」
まだ何か言いたげな泰我を制して、綾斗はそう締めると、泰我を連れていった。
それにしても、やはり何も言われなければ、綾斗さえも、依織が男だとは気付かないらしい。
「…えっと、仕事が始まる前の忙しい時間に、ありがとうございました」
「んふふー、依織、今度は時間があるときに遊ぼうねー」
ペコリと頭を下げた依織に、七槻は明るく手を振る。依織を送らせてもらうことは出来なかったが、それをしつこく根に持つような性格ではないのだ。
「つーかアッキー、彼女に勘違いされないようにね?」
店の出入り口に向かう途中、すれ違う七槻が、ニヤリとしながら、さり気なく瑛貴の耳元で忠告した。
七槻は一発で見抜いたが、一見しただけでは女の子にしか見えない依織と歩いていたら、小さな街だし、瑛貴は(いろんな意味で)顔が知られているから、女の子を連れて歩いていたと、すぐに噂になりそうだ。
それが単なる噂だけで済めばいいが、瑛貴の彼女の耳にでも入れば、浮気を疑われないとも限らない。
「別に、そんなの…」
実際のところ、依織は男なんだし、浮気でも何でもない。
しかし瑛貴の脳裏には、最近連絡をさぼりがちな彼女の顔が浮かぶ。
(連絡しないと怒られるかな…)
しかし瑛貴が振り返れば、七槻はもう、開店準備の仲間に加わっていた。
「あの…ゴメンね、仕事あるのに…」
店を出たところで、依織が本当に申し訳なさそうに頭を下げた。
「別にいいよ、マジで。だって綾斗さんも、あ、あの最後に来た人、あの人ウチの代表なんだけど、綾斗さんがいいって言ったんだし」
「そっか」
ナンバークラスのホストでもない限り、1人2人欠けてもスムースに仕事が出来るくらいの人間が出勤しているので、依織を送るために瑛貴が不在になっても、大したことではない。
そういうこまめなサービスが、次からのお客、そして売り上げに繋がると綾斗は考えているのだ。
それに、客として金を払っても、人気のある七槻に送ってもらえることは少ないので、七槻が依織を送るのは問題があるが、内勤の瑛貴なら。
「アッキー…だっけ?」
「ぅん?」
「みんながそう呼んでたから。俺もそう呼んでいい?」
「いいよ」
そう言えば、店に着いてからもバタバタしていて、瑛貴は依織に名乗りもしていなかった。
依織に『アッキー』と呼ばれるのは、ちょっと新鮮な感じがする。
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2010.08.12 Thu
「アッキーも泰我くんも、カッコイイお店で働いてるんだね。俺、ホストクラブなんて初めて入ったから、すごいビックリした」
「俺も最初に連れて来られたときは、すげぇビビったよ? うわっ、ホストいっぱいいる、て思った」
「何でアッキーがビビんの? ホストになるつもりで来たのに?」
ホストクラブに来て、ホストがいっぱいいる! という感想もないだろう、依織は声を上げて笑うが、瑛貴の場合、意思に関係なく無理やり連れて来られたところもあるから、最初は本当にビックリしたのだ。
「それに俺、ホストになるつもりないし」
「は? ホストクラブで働いてんのに? え、アッキー、ホストじゃないの?」
「俺、内勤だよ」
「それってホストと違うの? てか、ホストクラブて、ホスト以外の人も働いてんの?」
ホストクラブと言うからには、働いている人は皆ホストだと思っていた依織は、瑛貴の言葉に首を傾げる。
瑛貴も自分が勤めるまで知らなかったのだが、ホストクラブには、ホスト以外にもウェイターや厨房担当、ホストをどのテーブルに着かせるか指示する付け回しや事務作業を行う内勤がいて、店を支えている。
ホストが内勤を兼ねている店もあると言うが、JADEは内勤だけでもそれなりの人数がいる。
「そうなんだ。ねぇねぇ、じゃあやっぱ、泰我くんもホストじゃないんでしょ?」
「うん、あの人も内勤」
「だよねー、変だと思った。泰我くん、あんな怖そうな顔してて、ホストなんて、絶対嘘だー、て思ってたの」
友情に厚くて心優しい泰我だが、見た目は強面なので、ホストというイメージではない。
やっぱりねー、と依織は笑っているが、しかし実は、泰我のことを指名したいと言うお客も、中にはいたりするのだ。
「でもさ、やっぱホストって凄いんだね。あの、七槻さん」
「ぅん?」
七槻からは、ナツと呼んでいいと言われたけれど、やはり本人もいないところで、いきなりそんなに気安くは呼べないのか、結局依織は『七槻さん』と呼んでしまった。
「だってさ、会ってすぐに、俺のこと男だって分かった」
「うん、それは俺もすごいと思った。俺は……ゴメン、全然分かんなかったけど」
「んー…それはアッキーが普通だと思う。てか、そうであって欲しい。そんな一瞬で見破られるなんて……俺的には、絶対バレないと思ってたのに」
そう言って依織は、本当に悔しそうな顔をした。
バレない自信があるからこそ、堂々と女の子の格好をしているのに。
「依織は……女の子の格好するのが、好きなの?」
「は?」
「あ、いや、あの…」
女装を見破られて悔しがる依織に、思わずそんなことを聞いてしまった瑛貴は、慌てて口を噤んだ。
その人がどんな格好をしようと、それには何かしらの理由があって、追及しないのが暗黙のルールなのに。この世界に身を置いてそれなりに長い瑛貴だが、相変わらずこういう部分は、いつまで経ってもうまくない。
「別にいいけど。…あのね、俺ね、女の子になりたいの」
余計なことを言ったとあわあわしている瑛貴に、依織は気にしないで、と笑ったが、その直後に続けた言葉が結構な爆弾発言だったので、瑛貴はさらに慌ててしまった。
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「俺も最初に連れて来られたときは、すげぇビビったよ? うわっ、ホストいっぱいいる、て思った」
「何でアッキーがビビんの? ホストになるつもりで来たのに?」
ホストクラブに来て、ホストがいっぱいいる! という感想もないだろう、依織は声を上げて笑うが、瑛貴の場合、意思に関係なく無理やり連れて来られたところもあるから、最初は本当にビックリしたのだ。
「それに俺、ホストになるつもりないし」
「は? ホストクラブで働いてんのに? え、アッキー、ホストじゃないの?」
「俺、内勤だよ」
「それってホストと違うの? てか、ホストクラブて、ホスト以外の人も働いてんの?」
ホストクラブと言うからには、働いている人は皆ホストだと思っていた依織は、瑛貴の言葉に首を傾げる。
瑛貴も自分が勤めるまで知らなかったのだが、ホストクラブには、ホスト以外にもウェイターや厨房担当、ホストをどのテーブルに着かせるか指示する付け回しや事務作業を行う内勤がいて、店を支えている。
ホストが内勤を兼ねている店もあると言うが、JADEは内勤だけでもそれなりの人数がいる。
「そうなんだ。ねぇねぇ、じゃあやっぱ、泰我くんもホストじゃないんでしょ?」
「うん、あの人も内勤」
「だよねー、変だと思った。泰我くん、あんな怖そうな顔してて、ホストなんて、絶対嘘だー、て思ってたの」
友情に厚くて心優しい泰我だが、見た目は強面なので、ホストというイメージではない。
やっぱりねー、と依織は笑っているが、しかし実は、泰我のことを指名したいと言うお客も、中にはいたりするのだ。
「でもさ、やっぱホストって凄いんだね。あの、七槻さん」
「ぅん?」
七槻からは、ナツと呼んでいいと言われたけれど、やはり本人もいないところで、いきなりそんなに気安くは呼べないのか、結局依織は『七槻さん』と呼んでしまった。
「だってさ、会ってすぐに、俺のこと男だって分かった」
「うん、それは俺もすごいと思った。俺は……ゴメン、全然分かんなかったけど」
「んー…それはアッキーが普通だと思う。てか、そうであって欲しい。そんな一瞬で見破られるなんて……俺的には、絶対バレないと思ってたのに」
そう言って依織は、本当に悔しそうな顔をした。
バレない自信があるからこそ、堂々と女の子の格好をしているのに。
「依織は……女の子の格好するのが、好きなの?」
「は?」
「あ、いや、あの…」
女装を見破られて悔しがる依織に、思わずそんなことを聞いてしまった瑛貴は、慌てて口を噤んだ。
その人がどんな格好をしようと、それには何かしらの理由があって、追及しないのが暗黙のルールなのに。この世界に身を置いてそれなりに長い瑛貴だが、相変わらずこういう部分は、いつまで経ってもうまくない。
「別にいいけど。…あのね、俺ね、女の子になりたいの」
余計なことを言ったとあわあわしている瑛貴に、依織は気にしないで、と笑ったが、その直後に続けた言葉が結構な爆弾発言だったので、瑛貴はさらに慌ててしまった。
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