2008年01月
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ろくな愛をしらない 03
2008.01.27 Sun
【春原拓海】
「なー」
なるべくさりげなく、いつもどおりの雰囲気で。
トモの部屋。
勝手に転がったベッドで雑誌を読みながら、携帯電話を弄ってるトモに声を掛けた。
しっとりと雨の降る夜。
「何?」
携帯電話から顔も上げずに、トモが聞き返す。これもいつものこと。そう、すべてがいつもどおりだ。
「あのさぁ……お前、慶太と何かあった?」
人のことを詮索するつもりはないけど、今日のあまりにも慶太の様子がおかしかったから。
そんなにタフなほうじゃないから、疲れてる姿を見かけることはあるけど、だからってあんな風に人に当たるようなヤツじゃない。
昨日だって、メシ食いに行った先にトモがいたのに驚いて戸惑ってはいたけど、別にそれ以上のことはなかったはず…………少なくとも俺が帰るまでは。
「トモ?」
「慶太って……久住のこと?」
「そう。俺が帰った後、アイツに何かした?」
メールを送信し終えたのか、トモが顔を上げて俺のほうを向いた。
「別に」
あっさりと否定したトモは、携帯電話をローテーブルに置いて、ベッドに背中を預けた。
「でも珍しいじゃん。トモが慶太とメシ食いたいとか言い出して」
「そう? たまには違うメンツもいいかなと思って」
昨日、トモにメシを誘われたとき、たまたま慶太たちと先に約束があるからって伝えたら、一緒に行きたいだなんて言い出して。でも席に着いたら着いたで、トモは俺とばっかり話してるし。
「ホントに何もないんだな?」
「なーんも。俺が何かするわけないじゃん? あんなかわいくておもしろい子」
「…………お前、言い方がヤバイよ。何それ」
トモが、俺と違って男になんか興味がないこと知ってる。
なのに、この言い方。
慶太にかわいげがないとは言わないけれど、トモがわざわざ口に出してそんなこと言うなんて、不自然すぎる。
「……トモ。俺とお前は親友だよな?」
「何だよ、急に」
唐突な問いに、トモは苦笑いしてる。
でも俺はそれに笑い返してやる余裕もなくて。
「別に隠し事なんかしてないよな?」
「してねぇって。なぁ、また久住も誘って遊ぼうぜ?」
「はぁ!?」
思わずベッドの上で飛び起きた。
それを見て、トモはますます笑い出すけど。
「な、何で!?」
「何でって……お前こそ何なの、その反応。俺が久住と遊んじゃダメ?」
「そうじゃない、けど…」
今までこれと言って接点のなかったトモと慶太。
コイツは関係ないのにしょっちゅう学生会室に来てるけど、慶太と話なんかしてるとこ、見たことないし、プライベートで一緒になるなんて、きっと昨日が初めてだ。
でも、俺や歩がいる間に、2人がそんなに話してるようには見えなかったし、今日の慶太の様子からして、その後すごく仲良くなったようにも思えないんだけど。
「じゃあ、今度時間取れたらな? あ、俺、アイツの連絡先知らねぇから、拓海、うまく誘っといてよ。な?」
「あ……うん」
何これ。どうなってんの?
トモから話を聞き出すつもりが、何だかいいように丸め込まれてしまった…。
「トモー」
「あぁ?」
「何で慶太なの?」
「何が?」
分かっててそんな顔してるのか、本気で分かってないのか、トモは俺の質問に首を傾げるようにとぼけた顔をした。
あんな様子だったのに、慶太も別に何でもないふりをするし。
結局原因はトモじゃなかったってこと?
「何でもないならいいんだけどさ!」
ドサッとベッドに転がり、トモのほうを見る。
「だーってアイツ、おもしれぇんだもん」
ニヤリと笑ったトモの顔が、何となくだけど、知らない人の顔のように見えた。
「なー」
なるべくさりげなく、いつもどおりの雰囲気で。
トモの部屋。
勝手に転がったベッドで雑誌を読みながら、携帯電話を弄ってるトモに声を掛けた。
しっとりと雨の降る夜。
「何?」
携帯電話から顔も上げずに、トモが聞き返す。これもいつものこと。そう、すべてがいつもどおりだ。
「あのさぁ……お前、慶太と何かあった?」
人のことを詮索するつもりはないけど、今日のあまりにも慶太の様子がおかしかったから。
そんなにタフなほうじゃないから、疲れてる姿を見かけることはあるけど、だからってあんな風に人に当たるようなヤツじゃない。
昨日だって、メシ食いに行った先にトモがいたのに驚いて戸惑ってはいたけど、別にそれ以上のことはなかったはず…………少なくとも俺が帰るまでは。
「トモ?」
「慶太って……久住のこと?」
「そう。俺が帰った後、アイツに何かした?」
メールを送信し終えたのか、トモが顔を上げて俺のほうを向いた。
「別に」
あっさりと否定したトモは、携帯電話をローテーブルに置いて、ベッドに背中を預けた。
「でも珍しいじゃん。トモが慶太とメシ食いたいとか言い出して」
「そう? たまには違うメンツもいいかなと思って」
昨日、トモにメシを誘われたとき、たまたま慶太たちと先に約束があるからって伝えたら、一緒に行きたいだなんて言い出して。でも席に着いたら着いたで、トモは俺とばっかり話してるし。
「ホントに何もないんだな?」
「なーんも。俺が何かするわけないじゃん? あんなかわいくておもしろい子」
「…………お前、言い方がヤバイよ。何それ」
トモが、俺と違って男になんか興味がないこと知ってる。
なのに、この言い方。
慶太にかわいげがないとは言わないけれど、トモがわざわざ口に出してそんなこと言うなんて、不自然すぎる。
「……トモ。俺とお前は親友だよな?」
「何だよ、急に」
唐突な問いに、トモは苦笑いしてる。
でも俺はそれに笑い返してやる余裕もなくて。
「別に隠し事なんかしてないよな?」
「してねぇって。なぁ、また久住も誘って遊ぼうぜ?」
「はぁ!?」
思わずベッドの上で飛び起きた。
それを見て、トモはますます笑い出すけど。
「な、何で!?」
「何でって……お前こそ何なの、その反応。俺が久住と遊んじゃダメ?」
「そうじゃない、けど…」
今までこれと言って接点のなかったトモと慶太。
コイツは関係ないのにしょっちゅう学生会室に来てるけど、慶太と話なんかしてるとこ、見たことないし、プライベートで一緒になるなんて、きっと昨日が初めてだ。
でも、俺や歩がいる間に、2人がそんなに話してるようには見えなかったし、今日の慶太の様子からして、その後すごく仲良くなったようにも思えないんだけど。
「じゃあ、今度時間取れたらな? あ、俺、アイツの連絡先知らねぇから、拓海、うまく誘っといてよ。な?」
「あ……うん」
何これ。どうなってんの?
トモから話を聞き出すつもりが、何だかいいように丸め込まれてしまった…。
「トモー」
「あぁ?」
「何で慶太なの?」
「何が?」
分かっててそんな顔してるのか、本気で分かってないのか、トモは俺の質問に首を傾げるようにとぼけた顔をした。
あんな様子だったのに、慶太も別に何でもないふりをするし。
結局原因はトモじゃなかったってこと?
「何でもないならいいんだけどさ!」
ドサッとベッドに転がり、トモのほうを見る。
「だーってアイツ、おもしれぇんだもん」
ニヤリと笑ったトモの顔が、何となくだけど、知らない人の顔のように見えた。
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ろくな愛をしらない 04
2008.01.28 Mon
【久住慶太】
春原さんの口から「トモ」という言葉を聞いたときは、本当に卒倒しそうだった。いや、いっそ倒れてしまえれば良かったのかもしれない。
「トモがまた慶太と遊びたいって言ってた」
広い講堂で授業を受けた後、歩と待ち合わせしてる学食に向かおうとしたら、ばったり春原さんと出くわして。
ちょうど次にこの講堂で授業があるらしい。珍しく1人だから、相川さんはどっかでサボってんのかな。
「相川さんが、何て?」
「……また遊びたいって、慶太と」
「俺と? なん……俺と?」
遊ぶって何? 相川さんが言う"遊ぶ"ってさ。
またこの間みたいなことして、俺を困惑させたいの? そんで、冗談だって言って笑いたいの?
「よく分かんないけどさ、何か慶太と仲良くなりたいみたい」
「………………」
仲良くなりたいだって? どういうつもり?
おもしろいおもちゃを見つけたとでも思ってるんだろうか。
あぁそういえば、しきりに俺のことをおもしれぇヤツ、とか言ってたっけ。
「慶太?」
「……あ、いや…」
春原さんの手前、嫌だとか言えないし、かといって、ここでOKして、また相川さんとの場をセッティングされたら…。
「どうして相川さん、急に俺なんか」
「それが俺にもさっぱり。この前、一緒にメシに行ったのが、よっぽど楽しかったのかな」
「俺、相川さんとそんなに話した覚え、ないんですが…」
「俺もそう思うんだけど……まぁ、都合がついたら、また遊ぼうよ」
「…………はぁ、」
春原さん自身も、相川さんが何考えてるのかよく分かんないって感じで。
とりあえずが春原さんの言葉を社交辞令程度にとらえて、俺は曖昧に返事をしておいた。
"あの"日から何日も経って、俺もそれなりに忙しいし、春原さんも忙しいし、相川さんも忙しいみたいで("何"でとはあえて言わないけど)、春原さんが俺に言った言葉が実現することはなかった。
人間の記憶なんて便利に出来ていて、あんなに苦しく思っていたことも、日々に忙殺されて徐々に忘れていくもんだ。
あのとき相川さんが言ったみたいに、あの日のこと全部が冗談なんだって思えるような気がした。
全部冗談。
俺と相川さんの間には何もなかったんだって。
いっそあの日のこと全部が夢なのかもしれない。
「慶太ー、最近ちゃんと寝てるー?」
学生会室のソファのとこでグダグダしてたら、隣に歩がやって来た。
「寝てるよ。何、急に」
「いや、何かちょっと前まで、調子悪そうだったじゃん。目の下、クマとか作っちゃって」
「あー…」
やっぱ友だちなだけある。
歩は意外と面倒見のいいキャラだし、見てないようで結構いろいろ見ててくれる。
学生会室で真琴のこと怒鳴っちゃったってのもあるけど、それだけじゃなくて、このところ、さりげなく歩が気を遣ってくれてるの、分かってる。
「……ちょっと、疲れてたのかも」
いっそ、歩にでも相談してみようかとも思った。
でも、何て言う? 冗談で相川さんに襲われ掛けたんだけどー……って、歩の胃に穴が開いちゃうよ。
何も言わなくていい。
あのときのことは、静かにゆっくりと俺の記憶の中から消えていく。
もう元気だし、誰にも心配なんかかけない。真琴とだって相変わらずだし。
「拓海、ケータイ鳴ってるよー」
心地よさに任せて歩に寄り掛かってたら、テーブルの上の携帯電話が震えた。カバンにも入れずにその辺に放り出してるのは、たいてい春原さんか高遠さんしかいない。
機種から俺もそれが春原さんの携帯電話だって分かったけど、あれ以来、何となく自分から春原さんに声を掛けるのがしんどくて、黙ってた。
呼ばれてやって来た春原さんは、携帯電話のディスプレイを見ると、眉を顰めた。嫌な相手なのかな、とも思ったけど、春原さんは学生会室の外に出ることもなく、その場で電話に出た。
春原さんの電話の相手に興味はないし、何だかちょっと眠くて、俺は目を閉じる。すぐにふわふわしたような感じになって、電話する春原さんの声が遠くなった。
―――――けど。
「もしもし? いや、まだ学校だけど、え? 今日? いや、これが終れば何もないけど…………あぁ、いいよ。え? 慶太? 一緒だけど」
え?
春原さんと電話越しの相手の会話の中に俺の名前が出てきた瞬間、ハッと意識が戻って来た。
確かに"慶太"って言った。
いや、春原さんの友だちの中にそう呼ばれてるヤツがいるのかもしれないけど、その後に『一緒だけど』って言ったってことは、その"慶太"って、俺のこと?
「んー……聞いてみるけどー…………慶太ー、あれ? 寝てる?」
やっぱり俺のことだ。
どうしよう、寝たふりを続けようか。
「慶太?」
歩が少し体を動かす。
どうしよう、これ以上うまく寝たふりなんかできない体勢なんですが…。
「…………何ですか?」
仕方なく、今起きたふうな感じで顔を上げた。
「ねぇ慶太、今日これ終わった後、何か予定ある?」
「え? いや、別にないですけど…」
「じゃあさぁ、終わったらメシ食いに行かね?」
「あ、はぁ、いいですよ」
「トモがさぁ、慶太のことも誘えって、言うから」
「え?」
トモが。
―――トモ。
「なっ…ちょっ」
断ろうとしたときにはもう、春原さんは電話の向こうの相川さんに、「慶太もいいってー」と答えた後で。
慌てたって、後の祭り。
春原さんはもう電話を切っていた…。
「え? 都合悪かった?」
「あ、いや…」
どうしよう、今さら断る理由が思い浮かばない。
「いいなぁー俺も行きたい!」
そう言い出した歩が救いの手を差し伸べているように思えたのに、
「でも俺、この後、教授のとこ行かなきゃだった…」
ホンット、役立たず!
春原さんの口から「トモ」という言葉を聞いたときは、本当に卒倒しそうだった。いや、いっそ倒れてしまえれば良かったのかもしれない。
「トモがまた慶太と遊びたいって言ってた」
広い講堂で授業を受けた後、歩と待ち合わせしてる学食に向かおうとしたら、ばったり春原さんと出くわして。
ちょうど次にこの講堂で授業があるらしい。珍しく1人だから、相川さんはどっかでサボってんのかな。
「相川さんが、何て?」
「……また遊びたいって、慶太と」
「俺と? なん……俺と?」
遊ぶって何? 相川さんが言う"遊ぶ"ってさ。
またこの間みたいなことして、俺を困惑させたいの? そんで、冗談だって言って笑いたいの?
「よく分かんないけどさ、何か慶太と仲良くなりたいみたい」
「………………」
仲良くなりたいだって? どういうつもり?
おもしろいおもちゃを見つけたとでも思ってるんだろうか。
あぁそういえば、しきりに俺のことをおもしれぇヤツ、とか言ってたっけ。
「慶太?」
「……あ、いや…」
春原さんの手前、嫌だとか言えないし、かといって、ここでOKして、また相川さんとの場をセッティングされたら…。
「どうして相川さん、急に俺なんか」
「それが俺にもさっぱり。この前、一緒にメシに行ったのが、よっぽど楽しかったのかな」
「俺、相川さんとそんなに話した覚え、ないんですが…」
「俺もそう思うんだけど……まぁ、都合がついたら、また遊ぼうよ」
「…………はぁ、」
春原さん自身も、相川さんが何考えてるのかよく分かんないって感じで。
とりあえずが春原さんの言葉を社交辞令程度にとらえて、俺は曖昧に返事をしておいた。
"あの"日から何日も経って、俺もそれなりに忙しいし、春原さんも忙しいし、相川さんも忙しいみたいで("何"でとはあえて言わないけど)、春原さんが俺に言った言葉が実現することはなかった。
人間の記憶なんて便利に出来ていて、あんなに苦しく思っていたことも、日々に忙殺されて徐々に忘れていくもんだ。
あのとき相川さんが言ったみたいに、あの日のこと全部が冗談なんだって思えるような気がした。
全部冗談。
俺と相川さんの間には何もなかったんだって。
いっそあの日のこと全部が夢なのかもしれない。
「慶太ー、最近ちゃんと寝てるー?」
学生会室のソファのとこでグダグダしてたら、隣に歩がやって来た。
「寝てるよ。何、急に」
「いや、何かちょっと前まで、調子悪そうだったじゃん。目の下、クマとか作っちゃって」
「あー…」
やっぱ友だちなだけある。
歩は意外と面倒見のいいキャラだし、見てないようで結構いろいろ見ててくれる。
学生会室で真琴のこと怒鳴っちゃったってのもあるけど、それだけじゃなくて、このところ、さりげなく歩が気を遣ってくれてるの、分かってる。
「……ちょっと、疲れてたのかも」
いっそ、歩にでも相談してみようかとも思った。
でも、何て言う? 冗談で相川さんに襲われ掛けたんだけどー……って、歩の胃に穴が開いちゃうよ。
何も言わなくていい。
あのときのことは、静かにゆっくりと俺の記憶の中から消えていく。
もう元気だし、誰にも心配なんかかけない。真琴とだって相変わらずだし。
「拓海、ケータイ鳴ってるよー」
心地よさに任せて歩に寄り掛かってたら、テーブルの上の携帯電話が震えた。カバンにも入れずにその辺に放り出してるのは、たいてい春原さんか高遠さんしかいない。
機種から俺もそれが春原さんの携帯電話だって分かったけど、あれ以来、何となく自分から春原さんに声を掛けるのがしんどくて、黙ってた。
呼ばれてやって来た春原さんは、携帯電話のディスプレイを見ると、眉を顰めた。嫌な相手なのかな、とも思ったけど、春原さんは学生会室の外に出ることもなく、その場で電話に出た。
春原さんの電話の相手に興味はないし、何だかちょっと眠くて、俺は目を閉じる。すぐにふわふわしたような感じになって、電話する春原さんの声が遠くなった。
―――――けど。
「もしもし? いや、まだ学校だけど、え? 今日? いや、これが終れば何もないけど…………あぁ、いいよ。え? 慶太? 一緒だけど」
え?
春原さんと電話越しの相手の会話の中に俺の名前が出てきた瞬間、ハッと意識が戻って来た。
確かに"慶太"って言った。
いや、春原さんの友だちの中にそう呼ばれてるヤツがいるのかもしれないけど、その後に『一緒だけど』って言ったってことは、その"慶太"って、俺のこと?
「んー……聞いてみるけどー…………慶太ー、あれ? 寝てる?」
やっぱり俺のことだ。
どうしよう、寝たふりを続けようか。
「慶太?」
歩が少し体を動かす。
どうしよう、これ以上うまく寝たふりなんかできない体勢なんですが…。
「…………何ですか?」
仕方なく、今起きたふうな感じで顔を上げた。
「ねぇ慶太、今日これ終わった後、何か予定ある?」
「え? いや、別にないですけど…」
「じゃあさぁ、終わったらメシ食いに行かね?」
「あ、はぁ、いいですよ」
「トモがさぁ、慶太のことも誘えって、言うから」
「え?」
トモが。
―――トモ。
「なっ…ちょっ」
断ろうとしたときにはもう、春原さんは電話の向こうの相川さんに、「慶太もいいってー」と答えた後で。
慌てたって、後の祭り。
春原さんはもう電話を切っていた…。
「え? 都合悪かった?」
「あ、いや…」
どうしよう、今さら断る理由が思い浮かばない。
「いいなぁー俺も行きたい!」
そう言い出した歩が救いの手を差し伸べているように思えたのに、
「でも俺、この後、教授のとこ行かなきゃだった…」
ホンット、役立たず!
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ろくな愛をしらない 05
2008.01.29 Tue
「どうして相川さんは、俺を誘うんですかね」
約束どおり、俺は、春原さんと一緒に、相川さんが待っているという店に向かう。
その道中、何となく春原さんに尋ねてみた。
「さぁ、でも何か慶太のこと、ずいぶん気に入ってるみたいだけど」
グラデーションのかかった淡いブラックのサングラス越しに俺を見て、春原さんは肩を竦めた。
さすがの春原さんでも、自分の親友が何を考えてるのか分からないときがあるらしい。
そりゃそうだ。相川さんから聞かされでもしてない限り、相川さんがあんなことしただなんて、思いはしないだろう。
「……俺、別に相川さんに気に入られるようなこと、した覚えないんですけど」
「慶太、トモのこと、苦手?」
「え? いや、別に…」
「何かそういうふうに聞こえた。でもまぁ、何がきっかけでその人のこと好きになるかなんて分かんないじゃん? 話せば印象が変わることだってあるしさ」
「そう……ですね」
実際のところ、相川さんにどう思われてるのかは分からない。好かれているのか、嫌われているのか。
キスするくらいなんだから、嫌われているわけではないのかも。
それとも嫌がらせのキス? 嫌がらせだとしたって、俺は嫌いな奴にキスなんかしたくないけどな。
ってか、嫌われるほどの接点も持ち合わせてないんですが。
嫌いなら嫌いでもいいけど、なら何でまた誘うわけ?
考えれば考えるほど、分からなくなる。
待ち合わせの居酒屋。
通された個室では、相川さんがすでにビールの中ジョッキを半分以上空けていた。
「何だトモ、1人で始めちゃってんの?」
「だってお前ら遅ぇんだもん」
ちょっとふて腐れたようにそう言って、相川さんはジョッキを空にした。
「だって俺ら、忙しいし~?」
「俺だって忙しいよ!」
「補習?」
「うるせぇよ」
「受けさせてもらえるだけ、ありがたいと思いなよ」
「うるせぇって!」
春原さんに向ける、相川さんの顔。
ごく普通の、大学生の男の顔で(男前だけど)。
「慶太、何飲む? ウーロン茶?」
春原さんが相川さんとは向かい側の席に着いて、俺はその横に座ろうとしたのに、なぜか堂々と真ん中に座るもんだから、俺は仕方なく相川さんの隣に座る破目に。
メニューを見せられながら問われ、とりあえず頷くと、相川さんが不思議そうに俺のほうを見た。
「お前、飲まねぇの?」
「え?」
「酒」
「……未成年なんで」
一応そう断りを入れると、相川さんが大げさなくらい驚いた顔をする。
「はぁ!? ウッソ! マジで!?」
「……マジです。今度誕生日が来て、20歳になりますけど」
そう言ってもまだ相川さんは、『マジ!?』とか言ってる。年上に見られるのはいつものことだから、まぁいいんだけど。
「2月だからさ、もうすぐだよね、慶太」
「はい」
春原さんの言葉に頷けば、相川さんが「へぇ」と眉を少し上げた。
「俺も2月だし。4日」
お前は? と目で問われて、11日だと答えれば、「近いじゃん! 2人!」と、なぜか春原さんのテンションが急上昇した。
春原さんが一緒にいるからだろうか、この間、相川さんの家で2人きりになったときのような雰囲気はない。
「でも2月4日って、真琴と同じだよね、誕生日」
「真琴と!? そうなんだー、俺、真琴と同じ誕生日なんだー」
なんて、相川さんが急にはしゃぎ出した。
「何その喜び方」
「えー、嬉しいじゃん、真琴と誕生日一緒!」
「意味分かんないし」
「だって真琴かわいいじゃん」
「そうだけど、お前がはしゃぐ理由が分かんないし」
呆れたように冷静に突っ込む春原さんに、相川さんはまだニコニコしてる。
その顔見てると……何だろ、何かイライラする。別に今はいいじゃん、真琴のことは。てか、誕生日が同じだからって、はしゃぐようなキャラかよ。
何で真琴と誕生日一緒って分かって、そんなに喜ぶわけ?
あーイライラする。
相川さんと春原さんが喋ってるって構図はこの間と一緒だけど、今日は歩がいなくて、俺は2人の話を聞きながらメシ食ってるだけ。
時々春原さんが話を振ってくれるのに答えるだけの俺をメシになんか誘って、相川さん、何がおもしろいのかな? 単にまたからかいたかっただけ?
「ちょっとトイレー」
店に来て1時間くらいしたところで、春原さんが個室を出て行った。
2人きり。
チラリと相川さんのほうを窺うと、こちらを見ていた相川さんと目が合った。
「、」
「何で目逸らすんだよ?」
「相川さんこそ……何、…ってか、俺なんか誘っておもしろいですか? お酒飲めるわけじゃないし、」
春原さんと2人で話し盛り上がってるし、…………真琴と誕生日一緒ではしゃいでるし。
「おもしろいね。お前見てると全然飽きない」
「どういう意味ですか?」
「だってさぁ、俺の言ったこと1個1個に超反応してるし」
「してません!」
「さっき俺が真琴と誕生日一緒ではしゃいでるとき、お前凄い顔してたぜ? 気付いてなかったの?」
「ッ、」
反論しようとして、言葉に詰まった。
確かにあのときは、何だか無性にイライラして…。
「俺が他の奴の話したのが、おもしろくなかったの?」
「…ッ、何で…、―――――ッ…」
スッと俺のほうへと伸びてきた相川さんの手に思わず身構えると、その指先が俺の唇に触れた。
ヤバイ。
首を振ればその手を払える。後ろにでも逃げさえすれば。
でも、動けない。
その目が。
「震えてる…………俺のこと、怖い?」
「ちが……ッ…」
相川さんの言葉を否定しようとして口を開けば、そのきれいな指先が、口の中に入り込んでくる。
冷たいような、熱いような、不思議な感覚。
逃げようと首を後ろに少し引けば、追い掛けるように指が動いて舌に触れた。
「やめ…」
俺の舌を押すように相川さんの指がゆっくりと動いて。
「ねぇ、俺が他の奴に興味示すの、イライラする? お前のほう見ないの、イヤ?」
違う、違う、違う!
何で俺がそんなことにイラ付かなきゃいけないんだ。
別にそんなこと、どうだっていい。
相川さんが誰のこと見てようと、誰に興味を持とうと、誰のことを好きになろうと…。
別に俺は相川さんのことなんて…………
「―――――イッ…」
漏れた小さな声に、俺はハッとした。
彷徨わせていた視線を相川さんに向ければ、少しだけ顔を歪めている。
高ぶった感情に任せて、相川さんの指を噛んだからだ。
口の中から相川さんの指がなくなって、俺は慌てて後ずさって逃げようとしたけれど、それより先に相川さんに手首を掴まれて。
「離し…!」
そんな俺の抵抗なんて物ともせず、相川さんは掴んだ俺の手をグイと引っ張って、自分のほうへと引き寄せた。
いきなりのことに頭も体も付いていかない俺は、ガクリと相川さんの前へとへたり込む。
何がどうなってるのかよく分からなくて、項垂れたままになっていると、相川さんの反対の手が俺の顎を掴んで、上を向かされた。
「ッ…」
その瞬間、かち合った瞳、その視線の強さに、思わず息を飲む。
「……おもしれぇ」
クッと、相川さんが喉の奥で笑った。
「ますますはまりそう」
約束どおり、俺は、春原さんと一緒に、相川さんが待っているという店に向かう。
その道中、何となく春原さんに尋ねてみた。
「さぁ、でも何か慶太のこと、ずいぶん気に入ってるみたいだけど」
グラデーションのかかった淡いブラックのサングラス越しに俺を見て、春原さんは肩を竦めた。
さすがの春原さんでも、自分の親友が何を考えてるのか分からないときがあるらしい。
そりゃそうだ。相川さんから聞かされでもしてない限り、相川さんがあんなことしただなんて、思いはしないだろう。
「……俺、別に相川さんに気に入られるようなこと、した覚えないんですけど」
「慶太、トモのこと、苦手?」
「え? いや、別に…」
「何かそういうふうに聞こえた。でもまぁ、何がきっかけでその人のこと好きになるかなんて分かんないじゃん? 話せば印象が変わることだってあるしさ」
「そう……ですね」
実際のところ、相川さんにどう思われてるのかは分からない。好かれているのか、嫌われているのか。
キスするくらいなんだから、嫌われているわけではないのかも。
それとも嫌がらせのキス? 嫌がらせだとしたって、俺は嫌いな奴にキスなんかしたくないけどな。
ってか、嫌われるほどの接点も持ち合わせてないんですが。
嫌いなら嫌いでもいいけど、なら何でまた誘うわけ?
考えれば考えるほど、分からなくなる。
待ち合わせの居酒屋。
通された個室では、相川さんがすでにビールの中ジョッキを半分以上空けていた。
「何だトモ、1人で始めちゃってんの?」
「だってお前ら遅ぇんだもん」
ちょっとふて腐れたようにそう言って、相川さんはジョッキを空にした。
「だって俺ら、忙しいし~?」
「俺だって忙しいよ!」
「補習?」
「うるせぇよ」
「受けさせてもらえるだけ、ありがたいと思いなよ」
「うるせぇって!」
春原さんに向ける、相川さんの顔。
ごく普通の、大学生の男の顔で(男前だけど)。
「慶太、何飲む? ウーロン茶?」
春原さんが相川さんとは向かい側の席に着いて、俺はその横に座ろうとしたのに、なぜか堂々と真ん中に座るもんだから、俺は仕方なく相川さんの隣に座る破目に。
メニューを見せられながら問われ、とりあえず頷くと、相川さんが不思議そうに俺のほうを見た。
「お前、飲まねぇの?」
「え?」
「酒」
「……未成年なんで」
一応そう断りを入れると、相川さんが大げさなくらい驚いた顔をする。
「はぁ!? ウッソ! マジで!?」
「……マジです。今度誕生日が来て、20歳になりますけど」
そう言ってもまだ相川さんは、『マジ!?』とか言ってる。年上に見られるのはいつものことだから、まぁいいんだけど。
「2月だからさ、もうすぐだよね、慶太」
「はい」
春原さんの言葉に頷けば、相川さんが「へぇ」と眉を少し上げた。
「俺も2月だし。4日」
お前は? と目で問われて、11日だと答えれば、「近いじゃん! 2人!」と、なぜか春原さんのテンションが急上昇した。
春原さんが一緒にいるからだろうか、この間、相川さんの家で2人きりになったときのような雰囲気はない。
「でも2月4日って、真琴と同じだよね、誕生日」
「真琴と!? そうなんだー、俺、真琴と同じ誕生日なんだー」
なんて、相川さんが急にはしゃぎ出した。
「何その喜び方」
「えー、嬉しいじゃん、真琴と誕生日一緒!」
「意味分かんないし」
「だって真琴かわいいじゃん」
「そうだけど、お前がはしゃぐ理由が分かんないし」
呆れたように冷静に突っ込む春原さんに、相川さんはまだニコニコしてる。
その顔見てると……何だろ、何かイライラする。別に今はいいじゃん、真琴のことは。てか、誕生日が同じだからって、はしゃぐようなキャラかよ。
何で真琴と誕生日一緒って分かって、そんなに喜ぶわけ?
あーイライラする。
相川さんと春原さんが喋ってるって構図はこの間と一緒だけど、今日は歩がいなくて、俺は2人の話を聞きながらメシ食ってるだけ。
時々春原さんが話を振ってくれるのに答えるだけの俺をメシになんか誘って、相川さん、何がおもしろいのかな? 単にまたからかいたかっただけ?
「ちょっとトイレー」
店に来て1時間くらいしたところで、春原さんが個室を出て行った。
2人きり。
チラリと相川さんのほうを窺うと、こちらを見ていた相川さんと目が合った。
「、」
「何で目逸らすんだよ?」
「相川さんこそ……何、…ってか、俺なんか誘っておもしろいですか? お酒飲めるわけじゃないし、」
春原さんと2人で話し盛り上がってるし、…………真琴と誕生日一緒ではしゃいでるし。
「おもしろいね。お前見てると全然飽きない」
「どういう意味ですか?」
「だってさぁ、俺の言ったこと1個1個に超反応してるし」
「してません!」
「さっき俺が真琴と誕生日一緒ではしゃいでるとき、お前凄い顔してたぜ? 気付いてなかったの?」
「ッ、」
反論しようとして、言葉に詰まった。
確かにあのときは、何だか無性にイライラして…。
「俺が他の奴の話したのが、おもしろくなかったの?」
「…ッ、何で…、―――――ッ…」
スッと俺のほうへと伸びてきた相川さんの手に思わず身構えると、その指先が俺の唇に触れた。
ヤバイ。
首を振ればその手を払える。後ろにでも逃げさえすれば。
でも、動けない。
その目が。
「震えてる…………俺のこと、怖い?」
「ちが……ッ…」
相川さんの言葉を否定しようとして口を開けば、そのきれいな指先が、口の中に入り込んでくる。
冷たいような、熱いような、不思議な感覚。
逃げようと首を後ろに少し引けば、追い掛けるように指が動いて舌に触れた。
「やめ…」
俺の舌を押すように相川さんの指がゆっくりと動いて。
「ねぇ、俺が他の奴に興味示すの、イライラする? お前のほう見ないの、イヤ?」
違う、違う、違う!
何で俺がそんなことにイラ付かなきゃいけないんだ。
別にそんなこと、どうだっていい。
相川さんが誰のこと見てようと、誰に興味を持とうと、誰のことを好きになろうと…。
別に俺は相川さんのことなんて…………
「―――――イッ…」
漏れた小さな声に、俺はハッとした。
彷徨わせていた視線を相川さんに向ければ、少しだけ顔を歪めている。
高ぶった感情に任せて、相川さんの指を噛んだからだ。
口の中から相川さんの指がなくなって、俺は慌てて後ずさって逃げようとしたけれど、それより先に相川さんに手首を掴まれて。
「離し…!」
そんな俺の抵抗なんて物ともせず、相川さんは掴んだ俺の手をグイと引っ張って、自分のほうへと引き寄せた。
いきなりのことに頭も体も付いていかない俺は、ガクリと相川さんの前へとへたり込む。
何がどうなってるのかよく分からなくて、項垂れたままになっていると、相川さんの反対の手が俺の顎を掴んで、上を向かされた。
「ッ…」
その瞬間、かち合った瞳、その視線の強さに、思わず息を飲む。
「……おもしれぇ」
クッと、相川さんが喉の奥で笑った。
「ますますはまりそう」
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ろくな愛をしらない 06
2008.01.30 Wed
3日前にアイツに付けられた指先の歯型は、とっくの昔に消え失せていた。
【相川智紀】
学校とかで流れてる噂が全部本当だとは言わないけれど、確かに女に不自由したことはない。嘘でも何でもいわゆる"愛"ってやつを囁けば、女は寄ってくるし。
愛だの恋だの、そんなの面倒臭い。
そんなことに自分の感情を振り回されるのも。
…………本気の恋なんか、絶対にしない。
たまたま一緒にメシを食う機会があっただけ。
今まで学生会室で見掛けたことはあったけど、喋ったことなんか、それこそ1回もないし、興味もなかった(たぶんそれは向こうも同じだろうけど)。
拓海と一緒に俺の家に来て、落ち着かなそうにしてるのがおかしくて。
だからちょっと、からかってやりたくなった。
拓海が帰って、あからさまに居心地悪そうにしてるのも、何だか笑えた。だから。
顔は悪くない。
女と間違うような容姿ではないけれど、あの目がいい。ドングリみたいな大きな目、惹き付けられる。
別に男になんか興味ないけどさ、こういうタイプって、はまるな…………遊び相手として。女だったら、面倒くせぇって思うとこだけどさ、久住は男だし。
予想以上に、いい反応。(いくら相手が男だからって、今どきキスくらいであんな初心な反応するか?)
楽しくて、たまらない。
もっと仕掛けたら、どんな顔する?
「―――――指、」
「…………え?」
授業の始まる前、不意に掛けられた声に、俺はハッとそちらに目を向けた。高遠だ。
「指さぁ」
「は?」
そう言われて、何のことか分からず、自分の手に視線を移してみる。
「最近よく触ってるよね?」
「何が? 指は触るでしょ? 普通に」
「気付いてないの?」
高遠はおもしろそうに片方の眉を上げて、「それともわざと?」って聞いてきた。
「……意味分かんないんだけど」
「見せ付けてんのかと思った」
「だから、」
少しだけ、意地悪そうな顔だ、と思った。
高遠は時々こんな顔する。何となくすべてを見透かされてるみたいで、嫌なんだけど。
「智紀、最近妙にご機嫌だもんねぇ~」
ニヤリ。
……感付かれてる。
まぁ、俺が何で機嫌がいいかまでは分からないだろうけど。
「かわいい子でも見つかったんだ?」
「まぁ、ね」
そうか、指。
指ねぇ。
そういや、アイツに歯を立てられたんだっけ。
怯えた色を含みながらも、キツク俺を睨み付けて。
マジで、はまっちゃうそう。
「……お前、今、すげぇヤな顔してる」
「そりゃどうも。今、お楽しみの真っ最中なもんで」
「ほどほどにしとけよ」
高遠は、それ以上何か追及する気はないらしく、カバンの中からテキストを取り出して、それを開いた。
「フフ…」
おもしろい、おもしろい、おもしろい。
もっと、アイツのいろんな顔が見たい。
あの瞳に、俺の顔、映して。
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ろくな愛をしらない 07
2008.01.31 Thu
大嫌いなのに、もう全部忘れちゃいたいのに。
頭から離れなくて。
ねぇ、どうしたらいいの?
【久住慶太】
「なー、歩ー」
勝手知ったる歩の部屋。
俺はグダグダと床に転がりながら、雑誌を捲ってる歩に声を掛けた。
「んー?」
気のなさそうな声。こっちを見ようともしない。
「なー歩ー、なーってばぁ」
「何だよ」
面倒臭そうに顔を上げた歩は、だらけた格好の俺に、少しだけ眉を寄せた。しょうがねぇじゃん、今、心も体も疲れ切ってんだから。
「慶太さぁ、最近何か疲れてるよね」
「……あー、まぁ」
さすが親友。
俺のこと、よく見てるよね。
「で?」
「……最近、時々一緒にメシ行ったりする人がいるんだけど、何て言うか……正直、苦手だなぁ、って思うわけ」
「苦手なのに、一緒にメシ食いに行くんだ?」
「その人の友だちが、俺の知り合いで……何か断れない」
「何で苦手なんだよ」
歩は読んでた雑誌を閉じた。どうやら本格的に相談に乗ってくれるらしい。
でも俺は、だらけた格好のまま、体を起こさない。
「何考えてんのか、分かんないとこ」
チラリと、頭の片隅を、相川さんの顔が掠めた。
「話は?」
「時々する」
「するんだ」
「そんなにしたくないけど」
言うと、歩の眉間が少し寄った。
「話し掛けられるってこと? でも、仲良くなりたいなら、話し合うほかないんじゃない?」
「仲良くなりたいっていうか、何考えてんのか知りたい」
「なら、なおさら」
「でも、会いたくない」
「無茶言うなよ」
歩が困ったように溜息をつくから、俺はモゾモゾと身を丸くして、歩を視界から消した。
「だって、会うとイライラするし」
「何で?」
「知るかよ。その人のすること、全部イライラするし、その人の口から他の奴の名前が出るだけでイライラする」
そうなんだ。
あの人に会うと、いっつもイライラする。
だって、何考えてんのか全然分かんないし、俺のことからかって楽しんでるし、もう……わけ分かんない。
「…………あのさぁ、お前、」
少しの沈黙の後、歩が重々しく口を開いた。
俺は少し体を動かして、チラリと歩を見た。
「お前さぁ、その人のこと苦手なんじゃなくて、好きなんじゃねぇの?」
……………………。
「はぁ!?」
思わずガバッと体を起こした。
「いい反応するね。何? 図星?」
「バッ……そんなわけあるかよ! だってソイツ、おとっ…」
「は?」
「あ、いや…」
だって、ソイツ…………その人、男、だし。
ていうか、相川さんだし。
「慶太?」
「…………そんなわけない」
急に気が抜けちゃったみたいに、俺はペタンとそこに座った。
「そんなわけ…」
そんなわけ、あるはずない。
絶対ない。
絶対。
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