読み切り掌編
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きみはばかだ
2008.09.25 Thu
愛を誓いましょう。
永遠を誓い合いましょう。
こんな紙切れ、1枚で?
き み は ば か だ
「…………は……?」
もっと気の利いたことを、言えれば良かったんだと思う。
でも、口をついて出た言葉は、たった一言、それだけだった。
間抜けだなぁ、と思った。
「聞こえてた?」
「あぁ、うん……何? 結婚?」
確かにコイツの口はそう言った。
一瞬、意味を取り損ねそうになったけど、確かにそう言った。
『俺、結婚することにした』
「えっと……誰と、とか聞いちゃっていいのかな?」
「之哉の知らない子」
「……へぇ…」
俺の知らない子?
俺が知らない誰かと、和史が結婚しちゃうの?
そんな、何で?
「やっぱもう、夢ばっか見てらんないよね」
「はぁ」
「男同士、だなんて。やっぱどうにも何ないよね」
「あー……あぁ」
「ね、見て、これ。婚姻届」
にっこり笑って和史が見せ付けたのは、紛れもない、"婚姻届"。
片方に和史の名前が書かれてる。
このもう一方に、俺の知らない誰かの名前が書かれるの?
「和史、結婚、すんの…?」
「そうだよ。之哉も祝福してよね?」
「え…」
祝福?
俺が祝福すんの?
和史が他の誰かと結婚すんのを?
「和史ッ!」
ドタンッ!
気付いたときには、和史を押し倒していた。
硬くて冷たい床の上。
和史が突然の衝撃に顔を顰めてる。
婚姻届が、ひらひらと舞った。
「何す…」
「そんな、結婚だなんて……じゃあ、俺とのことはっ…!?」
「…………もう終わりにする」
「何で!?」
「だってもう無理だもん」
「そんな、俺はこんなに好きなのに……」
「嘘つき」
俺の下、和史はひどく冷たい目で、俺のことを見つめた。
「嘘って何がだよ」
「俺のこと好きだなんて、そんなこと、言ってくれたことなんかないくせに……」
「…………え、」
「ただ会って、セックスして…………それが之哉の愛なわけ? そんなの、俺、知らない。俺が欲しかったのは、そんなんじゃない。之哉とじゃ、幸せになれない」
どこか、安心していたのかもしれない。
和史の思いは、ずっと変わらないと。ずっと俺のほうに向いていると。
「じゃあ、その子とだったら、幸せになれるってのかよ?」
「……ッ、……なれるよ! なれる……なれ、る……ヤッ…」
潤んだ和史の瞳から、涙が一筋零れて。
それが俺を凶暴な気持ちにさせる。
逃げようとする和史を無理やり押さえ付けて、唇を奪う。
「ヤ、之哉……やめ、お願……!」
「ッ…てめ…!」
唇に痛みが走って、口の中に鉄の味。親指で唇の端の傷口を拭った。
唇を離すと、和史に鋭く睨み付けられる。
「…………結婚なんかすんなよ」
「もう遅いよ、バカ」
「何で!?」
「今さら何て言うんだよ、その子に。俺はやっぱり男のほうがいいから、結婚できないって? そんなの言えるわけないじゃん! …………婚姻届、返して?」
零れた涙も拭わずに、和史は自由の利かない右手を、必死に婚姻届へ伸ばしてる。
「これ?」
俺は和史よりも先にその婚姻届を拾い上げる。
「返して! お願……俺はそれで、それ、で……幸せになるんだ…」
「こんな紙切れ1枚で?」
「ッ…」
「永遠の愛を、誓い合うの?」
「だって、だって……こうするしかない! ―――あぁっ! やめて!」
俺は和史の目の前で、その紙切れをビリビリと引き裂く。
和史が"永遠の愛"だというそれを、細かく千切って部屋中に巻き上げた。
紙吹雪。
「結婚なんかすんな」
「…………バカ、バカだよ、お前は……」
「ゴメン…………でもやっぱお前のこと、好きなんだ…」
泣きじゃくる和史を抱き締める。
嫌だ、離したくない。
「之哉……バカ、責任取れよ…」
和史の腕が背中に回って。
2人で、泣いた。
「愛してる…」
永遠だなんて、知らない。
知らないけれど―――――
永遠を誓い合いましょう。
こんな紙切れ、1枚で?
き み は ば か だ
「…………は……?」
もっと気の利いたことを、言えれば良かったんだと思う。
でも、口をついて出た言葉は、たった一言、それだけだった。
間抜けだなぁ、と思った。
「聞こえてた?」
「あぁ、うん……何? 結婚?」
確かにコイツの口はそう言った。
一瞬、意味を取り損ねそうになったけど、確かにそう言った。
『俺、結婚することにした』
「えっと……誰と、とか聞いちゃっていいのかな?」
「之哉の知らない子」
「……へぇ…」
俺の知らない子?
俺が知らない誰かと、和史が結婚しちゃうの?
そんな、何で?
「やっぱもう、夢ばっか見てらんないよね」
「はぁ」
「男同士、だなんて。やっぱどうにも何ないよね」
「あー……あぁ」
「ね、見て、これ。婚姻届」
にっこり笑って和史が見せ付けたのは、紛れもない、"婚姻届"。
片方に和史の名前が書かれてる。
このもう一方に、俺の知らない誰かの名前が書かれるの?
「和史、結婚、すんの…?」
「そうだよ。之哉も祝福してよね?」
「え…」
祝福?
俺が祝福すんの?
和史が他の誰かと結婚すんのを?
「和史ッ!」
ドタンッ!
気付いたときには、和史を押し倒していた。
硬くて冷たい床の上。
和史が突然の衝撃に顔を顰めてる。
婚姻届が、ひらひらと舞った。
「何す…」
「そんな、結婚だなんて……じゃあ、俺とのことはっ…!?」
「…………もう終わりにする」
「何で!?」
「だってもう無理だもん」
「そんな、俺はこんなに好きなのに……」
「嘘つき」
俺の下、和史はひどく冷たい目で、俺のことを見つめた。
「嘘って何がだよ」
「俺のこと好きだなんて、そんなこと、言ってくれたことなんかないくせに……」
「…………え、」
「ただ会って、セックスして…………それが之哉の愛なわけ? そんなの、俺、知らない。俺が欲しかったのは、そんなんじゃない。之哉とじゃ、幸せになれない」
どこか、安心していたのかもしれない。
和史の思いは、ずっと変わらないと。ずっと俺のほうに向いていると。
「じゃあ、その子とだったら、幸せになれるってのかよ?」
「……ッ、……なれるよ! なれる……なれ、る……ヤッ…」
潤んだ和史の瞳から、涙が一筋零れて。
それが俺を凶暴な気持ちにさせる。
逃げようとする和史を無理やり押さえ付けて、唇を奪う。
「ヤ、之哉……やめ、お願……!」
「ッ…てめ…!」
唇に痛みが走って、口の中に鉄の味。親指で唇の端の傷口を拭った。
唇を離すと、和史に鋭く睨み付けられる。
「…………結婚なんかすんなよ」
「もう遅いよ、バカ」
「何で!?」
「今さら何て言うんだよ、その子に。俺はやっぱり男のほうがいいから、結婚できないって? そんなの言えるわけないじゃん! …………婚姻届、返して?」
零れた涙も拭わずに、和史は自由の利かない右手を、必死に婚姻届へ伸ばしてる。
「これ?」
俺は和史よりも先にその婚姻届を拾い上げる。
「返して! お願……俺はそれで、それ、で……幸せになるんだ…」
「こんな紙切れ1枚で?」
「ッ…」
「永遠の愛を、誓い合うの?」
「だって、だって……こうするしかない! ―――あぁっ! やめて!」
俺は和史の目の前で、その紙切れをビリビリと引き裂く。
和史が"永遠の愛"だというそれを、細かく千切って部屋中に巻き上げた。
紙吹雪。
「結婚なんかすんな」
「…………バカ、バカだよ、お前は……」
「ゴメン…………でもやっぱお前のこと、好きなんだ…」
泣きじゃくる和史を抱き締める。
嫌だ、離したくない。
「之哉……バカ、責任取れよ…」
和史の腕が背中に回って。
2人で、泣いた。
「愛してる…」
永遠だなんて、知らない。
知らないけれど―――――
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甘い言葉はいらないの
2008.09.26 Fri
だってもう、10年来の付き合いですし。
週に4回は学校で顔合わすし。
今更そんな、ラブラブな雰囲気なんて、…………なぁ?
*****
「聡くんは、ホント、夏希くんのこと、好きなんだねぇ」
帰り支度をしている最中、ほのぼのと、まったりと、それこそおじいちゃんがお茶でも啜りながら話すように、コウがそんなことを抜かしやがった。
「はぁ? 何言ってんだ?」
ホントは突っ込むのも面倒臭かったけど、そこはそれ。律儀な俺は、すかさずコウの頭に平手を1発かましてやった。
「イッター! 何すんの!? ボク、ホントのこと言っただけなのに!」
今度はおじいちゃんじゃなくて、今日の見た目(爪の色を交互に塗り替えて、よく分かんないピンキーリング? とか嵌めて、何かピンク色したちょっとフリフリっぽい服着てる)に相反することなく、キャンキャンと、小犬のような、今どきのギャルのような返し。
「…で? 何て?」
「だーかーらー、聡くんて、めっちゃ夏希くんのこと好きだよねぇ?」
「はぁ?」
「見てたら分かるよ?」
「お前の目ん玉は腐ってる」
何をほのぼのしみじみ言い出すかと思えば。
「何でぇ? もしかして聡くん、照れてんの?」
「……お前、もっかいド突いてやろうか?」
「イダッ!」
コウの返事を待たずに、俺はもっぺんコウの頭を引っ叩く。
「何でこんな叩かれないといけないの、ボク」
「お前がアホなこと抜かすからだ」
「いいこと言ってるじゃん。何年間もずっと1人の人を同じように思い続けられるって、ステキなことでしょう? ラブラブじゃん」
「それはステキだけど…………あのなコウ、その想いを、何で俺見て思うんだ。違うだろ? それはお前の理想か、歌詞の中の世界やろ?」
「うん、歌にしてもいい。聡くん見てて、歌詞ひらめいた!」
「ふざけんな!」
目をキラッキラさせて言うコウに、再度突っ込みを炸裂させたところで、裕太と斗真が教室に入って来た。
「とーま!」
俺の突っ込みに顰めていた顔をパッと輝かせて、コウは斗真に飛び付く。
俺から見たら、お前のほうがよっぽど"斗真大好き!"だし、ラブラブ度も高いんですが。
つーか、ここは教室で、他の学生はいないけど、俺も裕太もいるんやから、ベタベタすんな。
今日はもう授業終わりなんだから、そういうのは家に帰ってからやれっちゅー話だ。
「……聡くん、めっちゃ顔が険しくなってますけど」
ボソッと言う裕太に視線をくれたら、裕太は裕太で目のやり場に困っているのか、出来る限り2人から目を逸らそうと、ぎこちない格好で帰り支度をしていた。
「アホか、あいつら」
そんな2人を置いて教室を出ようとしたら、"俺をこの状況に1人残さないでくれ!"と言わんばかりに、大慌てで裕太が後を追ってきた。
*****
確かに、付き合いは長い。
最初に会ったのが小学校3年生のときで、それからいわゆる"恋人同士"って関係になって、もう何年も経って。
一緒にいるのは、嫌いじゃないから。
別にそんな、コウが言うみたいな、"ラブラブ"とか、そんなのないし。
「…?」
帰って来て、ドアを開けると、出がけに消していったはずの部屋の明かりが点いてる。
おいおい、何か変なのが入り込んだんじゃねぇだろうな?
最近は、オートロックのマンションっていったって、まるっきり安心てわけじゃないらしいしなぁ…。
そんな弱っちぃ男じゃないけど、さすがに強盗とかには太刀打ちできないし。
そぉーっと足を忍ばせて、部屋のほうに行ってみると、
「……………………はぁ!?」
部屋の中央に置いてあるソファにだらしなく座って、携帯型のゲームに熱中しているのは、紛れもなく、今日散々話題に上った夏希さんで。
「よぉ」
チラッとだけ画面から視線を俺に向けて、挨拶とも言えるような言えないような声を掛けてきた後、夏希は再びゲームに。
おいおい、ちょぉ待てよ。
何で。
何でお前は人んちで、こんな普通に寛いでんだ!
「夏希、おま……はぁ!?」
「あぁー?」
「何でいんの? つーか、どうやって入った!?」
「合鍵」
「あいか……あ、」
そういえば。
この間、俺が帰る前にここに来た夏希が、鍵がないからって、中に入れなくて。だったら、俺に連絡するなり、外で時間潰すなりすればいいのに、玄関の前で2時間もアホみたいに待ってるから。
仕方なしに、ここの合鍵を作って渡したんだった。
「夏希、飯食って来た?」
「まだ食ってない」
おい、当たり前のようにそう返しとるけどな、お前。
先に帰って来てんだから、お前が作っとけよ。何、人んちでめっちゃ寛いでんだ(まぁ、そう言ったら言ったで、料理なんか出来るわけないって返されるのがオチだけど)。
「何でもいい?」
「んー」
別に俺だって、そんなに料理得意とかってわけでもないけど、1人なら作らなきゃしょうがないし、こいつはまったく作る気ないし、いつの間にか料理は俺担当みたいになってる。
まぁ別に嫌じゃないけど。
つーか、あれだよ。
コウ。
アイツ、ホントのアホだな。
だって、夏希ってこんな奴だぞ?
合鍵持ってるからいいんだけど、人んちに勝手に上がり込んで、メシでも作ってるのかと思えば、ゲームしてるし。
家主が疲れて帰ってきても、『よぉ』だけだし。
そんな奴と付き合うてる俺も俺やけど、そんな俺見て、『聡くんて、めっちゃ夏希くんのこと好きだよねぇ?』って、何だ、それ!
別にそんなラブラブじゃねぇっつーの! 見たら分かるだろ、アホ!
「聡、なぁ、聡て」
「へっ? ッ、アダーッ!!」
「バカ、何してんだ!!」
ボーッとなってたとこ、夏希に声掛けられて、ビックリした拍子に手が滑って、包丁で人差し指を…!!
「イッター!」
傷は浅いみたいやけど、血がタラーッて…。
「何してんだ、バカ!」
「お前が急に声掛けるから!」
「ちょぉ見してみ?」
「いいよ、大丈夫だから……って、わっ!?」
こんなんティッシュで押さえとけばすぐ止まるって思って、夏希の手を払おうとしたより先、俺の手首を掴んでた夏希が、それを自分の口元に持ってって、血の垂れてる俺の人差し指をパクッて…!!
「な、何すん…」
「あぁ? 止血。なぁ、絆創膏とかあんの?」
動揺してる俺をよそに、夏希はいたって普通に、俺の指先の血を舐め取って、絆創膏を探しにいく。
「なぁー、聡ー。絆創膏ないのー?」
「あ…うん、そこの引き出しに…」
……………………。
つーか、絆創膏て。
いや、正解なんだけど、その前にお前、何した!?
何今の!
何でそんな…………はぁ~~~??
顔が熱い。
「おい、何、血垂れ流してんだ。絆創膏貼るぞ?」
流水でサーッと血を流してティッシュで拭った後、夏希が手際よく傷口に絆創膏を貼っていく。俺はただその様子を見てるだけしか出来なくて。
「どうした? 疲れてんの? メシ、外に食いに行く?」
「あ……いや、そうじゃないけど…」
そうじゃなくて!
お前、何で自分の行動を、そんなサラッと流してんだ!
「聡?」
「……アホ」
「何だよ、急に」
「アホだからアホって言ったんだよ」
「ホント、かわいくないなぁ」
夏希が苦笑してる。
しょうがないじゃん。
だってこんなことされて。
今更こんなことされて、かわいげあることなんか出来るか?
「バカ…」
夏希の肩に額を乗せる。
「何だ、急に甘えたさんになってぇ」
茶化すような言い方に、一発ド突いてやろかと思うけど、背中に回った夏希の手が優しくて、振り解けない。
あぁ、ホントのアホは、夏希でもなくて、コウでもない。完璧に俺じゃん。
コウ。
俺の負け。
やっぱお前の言ってたこと、間違ってなかった。
俺はコイツのこと、めっちゃ好きみたいです。
週に4回は学校で顔合わすし。
今更そんな、ラブラブな雰囲気なんて、…………なぁ?
*****
「聡くんは、ホント、夏希くんのこと、好きなんだねぇ」
帰り支度をしている最中、ほのぼのと、まったりと、それこそおじいちゃんがお茶でも啜りながら話すように、コウがそんなことを抜かしやがった。
「はぁ? 何言ってんだ?」
ホントは突っ込むのも面倒臭かったけど、そこはそれ。律儀な俺は、すかさずコウの頭に平手を1発かましてやった。
「イッター! 何すんの!? ボク、ホントのこと言っただけなのに!」
今度はおじいちゃんじゃなくて、今日の見た目(爪の色を交互に塗り替えて、よく分かんないピンキーリング? とか嵌めて、何かピンク色したちょっとフリフリっぽい服着てる)に相反することなく、キャンキャンと、小犬のような、今どきのギャルのような返し。
「…で? 何て?」
「だーかーらー、聡くんて、めっちゃ夏希くんのこと好きだよねぇ?」
「はぁ?」
「見てたら分かるよ?」
「お前の目ん玉は腐ってる」
何をほのぼのしみじみ言い出すかと思えば。
「何でぇ? もしかして聡くん、照れてんの?」
「……お前、もっかいド突いてやろうか?」
「イダッ!」
コウの返事を待たずに、俺はもっぺんコウの頭を引っ叩く。
「何でこんな叩かれないといけないの、ボク」
「お前がアホなこと抜かすからだ」
「いいこと言ってるじゃん。何年間もずっと1人の人を同じように思い続けられるって、ステキなことでしょう? ラブラブじゃん」
「それはステキだけど…………あのなコウ、その想いを、何で俺見て思うんだ。違うだろ? それはお前の理想か、歌詞の中の世界やろ?」
「うん、歌にしてもいい。聡くん見てて、歌詞ひらめいた!」
「ふざけんな!」
目をキラッキラさせて言うコウに、再度突っ込みを炸裂させたところで、裕太と斗真が教室に入って来た。
「とーま!」
俺の突っ込みに顰めていた顔をパッと輝かせて、コウは斗真に飛び付く。
俺から見たら、お前のほうがよっぽど"斗真大好き!"だし、ラブラブ度も高いんですが。
つーか、ここは教室で、他の学生はいないけど、俺も裕太もいるんやから、ベタベタすんな。
今日はもう授業終わりなんだから、そういうのは家に帰ってからやれっちゅー話だ。
「……聡くん、めっちゃ顔が険しくなってますけど」
ボソッと言う裕太に視線をくれたら、裕太は裕太で目のやり場に困っているのか、出来る限り2人から目を逸らそうと、ぎこちない格好で帰り支度をしていた。
「アホか、あいつら」
そんな2人を置いて教室を出ようとしたら、"俺をこの状況に1人残さないでくれ!"と言わんばかりに、大慌てで裕太が後を追ってきた。
*****
確かに、付き合いは長い。
最初に会ったのが小学校3年生のときで、それからいわゆる"恋人同士"って関係になって、もう何年も経って。
一緒にいるのは、嫌いじゃないから。
別にそんな、コウが言うみたいな、"ラブラブ"とか、そんなのないし。
「…?」
帰って来て、ドアを開けると、出がけに消していったはずの部屋の明かりが点いてる。
おいおい、何か変なのが入り込んだんじゃねぇだろうな?
最近は、オートロックのマンションっていったって、まるっきり安心てわけじゃないらしいしなぁ…。
そんな弱っちぃ男じゃないけど、さすがに強盗とかには太刀打ちできないし。
そぉーっと足を忍ばせて、部屋のほうに行ってみると、
「……………………はぁ!?」
部屋の中央に置いてあるソファにだらしなく座って、携帯型のゲームに熱中しているのは、紛れもなく、今日散々話題に上った夏希さんで。
「よぉ」
チラッとだけ画面から視線を俺に向けて、挨拶とも言えるような言えないような声を掛けてきた後、夏希は再びゲームに。
おいおい、ちょぉ待てよ。
何で。
何でお前は人んちで、こんな普通に寛いでんだ!
「夏希、おま……はぁ!?」
「あぁー?」
「何でいんの? つーか、どうやって入った!?」
「合鍵」
「あいか……あ、」
そういえば。
この間、俺が帰る前にここに来た夏希が、鍵がないからって、中に入れなくて。だったら、俺に連絡するなり、外で時間潰すなりすればいいのに、玄関の前で2時間もアホみたいに待ってるから。
仕方なしに、ここの合鍵を作って渡したんだった。
「夏希、飯食って来た?」
「まだ食ってない」
おい、当たり前のようにそう返しとるけどな、お前。
先に帰って来てんだから、お前が作っとけよ。何、人んちでめっちゃ寛いでんだ(まぁ、そう言ったら言ったで、料理なんか出来るわけないって返されるのがオチだけど)。
「何でもいい?」
「んー」
別に俺だって、そんなに料理得意とかってわけでもないけど、1人なら作らなきゃしょうがないし、こいつはまったく作る気ないし、いつの間にか料理は俺担当みたいになってる。
まぁ別に嫌じゃないけど。
つーか、あれだよ。
コウ。
アイツ、ホントのアホだな。
だって、夏希ってこんな奴だぞ?
合鍵持ってるからいいんだけど、人んちに勝手に上がり込んで、メシでも作ってるのかと思えば、ゲームしてるし。
家主が疲れて帰ってきても、『よぉ』だけだし。
そんな奴と付き合うてる俺も俺やけど、そんな俺見て、『聡くんて、めっちゃ夏希くんのこと好きだよねぇ?』って、何だ、それ!
別にそんなラブラブじゃねぇっつーの! 見たら分かるだろ、アホ!
「聡、なぁ、聡て」
「へっ? ッ、アダーッ!!」
「バカ、何してんだ!!」
ボーッとなってたとこ、夏希に声掛けられて、ビックリした拍子に手が滑って、包丁で人差し指を…!!
「イッター!」
傷は浅いみたいやけど、血がタラーッて…。
「何してんだ、バカ!」
「お前が急に声掛けるから!」
「ちょぉ見してみ?」
「いいよ、大丈夫だから……って、わっ!?」
こんなんティッシュで押さえとけばすぐ止まるって思って、夏希の手を払おうとしたより先、俺の手首を掴んでた夏希が、それを自分の口元に持ってって、血の垂れてる俺の人差し指をパクッて…!!
「な、何すん…」
「あぁ? 止血。なぁ、絆創膏とかあんの?」
動揺してる俺をよそに、夏希はいたって普通に、俺の指先の血を舐め取って、絆創膏を探しにいく。
「なぁー、聡ー。絆創膏ないのー?」
「あ…うん、そこの引き出しに…」
……………………。
つーか、絆創膏て。
いや、正解なんだけど、その前にお前、何した!?
何今の!
何でそんな…………はぁ~~~??
顔が熱い。
「おい、何、血垂れ流してんだ。絆創膏貼るぞ?」
流水でサーッと血を流してティッシュで拭った後、夏希が手際よく傷口に絆創膏を貼っていく。俺はただその様子を見てるだけしか出来なくて。
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「あ……いや、そうじゃないけど…」
そうじゃなくて!
お前、何で自分の行動を、そんなサラッと流してんだ!
「聡?」
「……アホ」
「何だよ、急に」
「アホだからアホって言ったんだよ」
「ホント、かわいくないなぁ」
夏希が苦笑してる。
しょうがないじゃん。
だってこんなことされて。
今更こんなことされて、かわいげあることなんか出来るか?
「バカ…」
夏希の肩に額を乗せる。
「何だ、急に甘えたさんになってぇ」
茶化すような言い方に、一発ド突いてやろかと思うけど、背中に回った夏希の手が優しくて、振り解けない。
あぁ、ホントのアホは、夏希でもなくて、コウでもない。完璧に俺じゃん。
コウ。
俺の負け。
やっぱお前の言ってたこと、間違ってなかった。
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いつも傍にいたい
2008.09.27 Sat
…………ヤバイ。
そう思ったときには、もう遅くて。
「悠有(ユウ)!?」
どこか遠くで、ゼミ仲間たちの声が、聞こえた気がする。
*****
―――――あー…………頭が冷たくて気持ちいー……。
「―――…………え……?」
開けた視界には、よく見知った顔が。
「じゅ、ん…?」
何で? 何で淳がいるの?
だって俺、ゼミのみんなと一緒にいたじゃん――――そうだよ、俺、学校…!
「うっ…」
慌てて起き上がろうとしたら、目の前がグラグラして、そのままベッドへと倒れた。
「おい、無理すんなって! 熱まだ引いてねぇんだから!」
淳が布団を掛け直してくれる。
「熱…?」
「そうだよ、お前、熱出してぶっ倒れたんだろ?」
「ウソ…」
熱で倒れたって……学校? 信じられない…………ってか、俺ってマジ最悪。
「でも……何で淳…」
学校で倒れちゃったとして、でも一緒にいたのはゼミの仲間だろ? もし側にいるとしたら、家族か医者か、少なくともゼミ仲間の誰かなんじゃないの?
「ダチから、お前が倒れたって聞いたの!」
「そう……なんだ…」
「冷えピタ貼り替える? おかゆとか食べれる? あ、薬、」
…………ゴメン淳。
ただでさえ熱で頭がボーっとしてるんだ。
そんなに一遍に言われても、分かんない…。
「悠有?」
「……食欲ない…」
「でも何か食べなきゃ、薬飲めないっしょ? 大丈夫、おかゆは悠有のお母さんが作ったヤツだから、おいしいよ。今あっためてくるね!」
「じゅ…」
淳は俺の返事を待たずに、部屋を出て行ってしまった。
「ふぅ…」
何で?
淳だって仕事、忙しいんでしょ? たまたま時間あったの? だったらゆっくり休みたいんじゃないの? それか、遊びに行くとか。
なのに何で、こんな病人の看病になんか来てんの?
ぼやけた頭の中。
いろんなことがグルグル回る。
グルグル、ぐるぐる……。
*****
「悠有、お待たせ」
「ぁ…」
「また熱上がった? 起きれそう?」
まだ頭はグラグラするけど、淳の言うとおり、何か食べなきゃ薬は飲めないから、何とか体を起こす。
ベッドヘッドに体を凭れ掛け、淳からおかゆの乗ったお盆を受け取ろうとするが、どういうわけか、淳はそれを寄越そうとしない。
「淳?」
「いいから、」
は?
いいから、って、何が? なんて思ってたら、淳はレンゲでおかゆを掬って、俺の口元に差し出してきた。
「はい、アーン」
はぁ~~~??
「アーン、して? 食べさせてあげるから」
「い、いいよ! 自分で食えるし!」
「何で? アーンしてあげんのが、看病の醍醐味でしょ?」
…………アホだ。
本物のアホがここにいる…。
「ほら、悠有! 早く!」
どうあっても淳は、俺にアーンてしておかゆを食べさせたいみたいで、一歩も引く様子がない。
体起こしてるだけでグラグラしてる俺としては、こんなことにいつまでも時間を費やしていたくないわけで。
「…………」
仕方なく、あー……と、口を開けると、淳が嬉しそうにおかゆを俺の口に運んでくれた。
あ、おいしい。
そりゃそうか、お母さんが作ったんだし。
「悠有、おいしい? おいしい?」
なのに淳は、まるで自分で作ったみたいにそう聞いてくるから、「おいしいよ」って答えれば、満面の笑みを見せて、2口目を運んでくる。
「これ食ったら、薬飲んで寝ようなぁ? あ、冷えピタの替え持ってこないと!」
ふふ、何かこんな甲斐甲斐しい淳、新鮮でいいなぁ。
「淳、優しいんだね」
おかゆを食べ終えた俺に、風邪薬と水の入ったグラスを手渡す淳にそう言うと、淳は困ったような顔で視線を逸らした。
「悠有? 早く飲めって。ホラ、冷えピタ!」
「淳、貼ってよ」
薬を飲んで、ちょこっとだけ淳に甘えてみると、淳はますます困ったような顔をする。
もしかして、照れてるの?
さっきまで、「アーン」とか、もっとずっと恥ずかしいことを平気でしてたくせに?
「淳?」
「分かったよ! ホラ、頭出せ!!」
照れ隠しなのか、声が大きくなってる。
結構、頭に響くんですが…。
ベリッて、全然優しさの感じられない剥がされ方で、温くなった冷えピタを剥がされ、スースーするおでこに、新しい冷えピタを貼ってもらう。
「完了。ほら悠有、寝て!」
「……ん」
もぞもぞフトンに潜り込めば、淳がフトンの襟を直してくれる。
あったかい…。
「ねぇ、淳…」
「ん?」
「んーん…」
「もう寝ろよ。そんで早く治せ」
「……ん、」
でも。
でもさ、淳がこんなに優しくしてくれるんだったら、たまには熱を出すのも悪くはないかなって、ちょっと思ったんだよ。
ちょっとだけね。
そう思ったときには、もう遅くて。
「悠有(ユウ)!?」
どこか遠くで、ゼミ仲間たちの声が、聞こえた気がする。
*****
―――――あー…………頭が冷たくて気持ちいー……。
「―――…………え……?」
開けた視界には、よく見知った顔が。
「じゅ、ん…?」
何で? 何で淳がいるの?
だって俺、ゼミのみんなと一緒にいたじゃん――――そうだよ、俺、学校…!
「うっ…」
慌てて起き上がろうとしたら、目の前がグラグラして、そのままベッドへと倒れた。
「おい、無理すんなって! 熱まだ引いてねぇんだから!」
淳が布団を掛け直してくれる。
「熱…?」
「そうだよ、お前、熱出してぶっ倒れたんだろ?」
「ウソ…」
熱で倒れたって……学校? 信じられない…………ってか、俺ってマジ最悪。
「でも……何で淳…」
学校で倒れちゃったとして、でも一緒にいたのはゼミの仲間だろ? もし側にいるとしたら、家族か医者か、少なくともゼミ仲間の誰かなんじゃないの?
「ダチから、お前が倒れたって聞いたの!」
「そう……なんだ…」
「冷えピタ貼り替える? おかゆとか食べれる? あ、薬、」
…………ゴメン淳。
ただでさえ熱で頭がボーっとしてるんだ。
そんなに一遍に言われても、分かんない…。
「悠有?」
「……食欲ない…」
「でも何か食べなきゃ、薬飲めないっしょ? 大丈夫、おかゆは悠有のお母さんが作ったヤツだから、おいしいよ。今あっためてくるね!」
「じゅ…」
淳は俺の返事を待たずに、部屋を出て行ってしまった。
「ふぅ…」
何で?
淳だって仕事、忙しいんでしょ? たまたま時間あったの? だったらゆっくり休みたいんじゃないの? それか、遊びに行くとか。
なのに何で、こんな病人の看病になんか来てんの?
ぼやけた頭の中。
いろんなことがグルグル回る。
グルグル、ぐるぐる……。
*****
「悠有、お待たせ」
「ぁ…」
「また熱上がった? 起きれそう?」
まだ頭はグラグラするけど、淳の言うとおり、何か食べなきゃ薬は飲めないから、何とか体を起こす。
ベッドヘッドに体を凭れ掛け、淳からおかゆの乗ったお盆を受け取ろうとするが、どういうわけか、淳はそれを寄越そうとしない。
「淳?」
「いいから、」
は?
いいから、って、何が? なんて思ってたら、淳はレンゲでおかゆを掬って、俺の口元に差し出してきた。
「はい、アーン」
はぁ~~~??
「アーン、して? 食べさせてあげるから」
「い、いいよ! 自分で食えるし!」
「何で? アーンしてあげんのが、看病の醍醐味でしょ?」
…………アホだ。
本物のアホがここにいる…。
「ほら、悠有! 早く!」
どうあっても淳は、俺にアーンてしておかゆを食べさせたいみたいで、一歩も引く様子がない。
体起こしてるだけでグラグラしてる俺としては、こんなことにいつまでも時間を費やしていたくないわけで。
「…………」
仕方なく、あー……と、口を開けると、淳が嬉しそうにおかゆを俺の口に運んでくれた。
あ、おいしい。
そりゃそうか、お母さんが作ったんだし。
「悠有、おいしい? おいしい?」
なのに淳は、まるで自分で作ったみたいにそう聞いてくるから、「おいしいよ」って答えれば、満面の笑みを見せて、2口目を運んでくる。
「これ食ったら、薬飲んで寝ようなぁ? あ、冷えピタの替え持ってこないと!」
ふふ、何かこんな甲斐甲斐しい淳、新鮮でいいなぁ。
「淳、優しいんだね」
おかゆを食べ終えた俺に、風邪薬と水の入ったグラスを手渡す淳にそう言うと、淳は困ったような顔で視線を逸らした。
「悠有? 早く飲めって。ホラ、冷えピタ!」
「淳、貼ってよ」
薬を飲んで、ちょこっとだけ淳に甘えてみると、淳はますます困ったような顔をする。
もしかして、照れてるの?
さっきまで、「アーン」とか、もっとずっと恥ずかしいことを平気でしてたくせに?
「淳?」
「分かったよ! ホラ、頭出せ!!」
照れ隠しなのか、声が大きくなってる。
結構、頭に響くんですが…。
ベリッて、全然優しさの感じられない剥がされ方で、温くなった冷えピタを剥がされ、スースーするおでこに、新しい冷えピタを貼ってもらう。
「完了。ほら悠有、寝て!」
「……ん」
もぞもぞフトンに潜り込めば、淳がフトンの襟を直してくれる。
あったかい…。
「ねぇ、淳…」
「ん?」
「んーん…」
「もう寝ろよ。そんで早く治せ」
「……ん、」
でも。
でもさ、淳がこんなに優しくしてくれるんだったら、たまには熱を出すのも悪くはないかなって、ちょっと思ったんだよ。
ちょっとだけね。
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Midnight Butterfly R15
2008.09.28 Sun
*何となくモデル設定です。(趣味←私の)
*R15です。15歳未満のかた、苦手なかたはご遠慮ください。
*@MKさんへ素敵なイラストとともに出張中です。2009.7.4記事「Midnight Butterfly 出張中」
俺にとってはたった1人の愛しい人でも、アイツにとっての俺は、大勢いる中の1人でしかない。
分かってる、けど。
本日最後の撮影が終わって、帰り支度をしていると、先に支度を終えた天音(アマネ)が、通り過ぎ際、匡哉(マサヤ)の手をなぞるように触れていった。
視線は交わさない。
匡哉は適当に荷物をカバンに詰めると、挨拶をして、何事もないように控え室を出た―――――背後でドアが閉まると、慌てて先に出た天音の姿を探す。それほど時間を置かずに出たものの、すでに廊下に天音の姿はない。
匡哉は軽く舌打ちすると、駐車場に向かうべく、エレヴェータホールへと駆け出す。
―――――いたっ…!
本人は自覚していないが(というよりむしろ、目立たないように努力しているらしいが)、エレヴェータを待つ後ろ姿は、明らかに天音だとすぐに分かるそれだ。
匡哉は後ろから誰も付いてきていないことを確認すると、歩幅を緩めた。エレヴェータの扉が開くタイミングで、天音と同じ箱に乗り込む。
「……そんなに慌てて追い掛けて来なくても、駐車場で待ってたのに」
「天音、待つの嫌いでしょ?」
「天音とか、下の名前で呼ばないで」
「今は、2人きりじゃん」
返事はなかった。それより先に、エレヴェータが地階の駐車場に到着したのだ。コンクリートに囲まれたそこは、独特の、ひんやりとした空気に包まれている。
天音はおとなしく、匡哉の後を付いてきた。
別にそうすることを要求したことなんてないのに、天音のため、匡哉は甲斐甲斐しく助手席側のドアを開けてやった。悪い気はしないけど。
「何か、食って帰る?」
「面倒臭いな」
たあいのない会話。
静かに車が動き出す。駐車場を出たところで、天音がサングラスを外した。
「……それ、最近よく掛けてるね」
それほど目敏いというわけでもないが、今まで天音が持っていなかったブランドのものだったので、つい目が行ってしまった。サングラス1つだとしても、決して安い買い物ではない品。
「貰ったの。いいなぁ~って言ってたら、プレゼントされちゃった」
シャツの前にサングラスを引っ掛け、天音はチラリと匡哉を見た。
その視線に気付いたけれど、匡哉はあえて気付かないふりをする。"貢がせた、の間違いだろ?"という言葉も飲み込んで。
「匡哉は何もくれないよね」
「俺はお前のパトロンか」
「俺、欲しいリングがあったのに」
冗談とも本気とも取れる口調でそう言って、天音は口元を歪めた。
「やっぱ腹減った。パスタ食いたい。お前以外の人が作ったヤツ」
「素直にメシ食って帰りたいって言いなよ」
それでも匡哉は、最近行ったお気に入りのイタリア料理店へと、進行方向を変えた。
*****
食欲が満たされたところで、2人はそのまま、近くのホテルへと向かった。天音は絶対に自分の家に人を入れさせないし、匡哉の家には両親と弟がいるから。
今は、有人のフロントを通らなくても入れるところが多いから、何かと便利だ。
中は多少豪華な雰囲気を醸し出す部屋だったけれど、お互いそんなことには興味なく、ドアが閉まると、匡哉は少し乱暴に天音に口付けた。
「…ッ、匡哉、バカ、がっつき過ぎ…!」
匡哉の肩を押し返した天音は、肩で息をしながら、濡れた唇を拭った。
「いいじゃん、欲しいの、俺は」
「ぁ…」
もう1度深く口付けられて、天音は抵抗をやめた。
*****
「ねぇー」
「…ん、? ぁ、ん…」
何度もイカされて、気怠い体。
シャワーを浴びたいけれど動くのが面倒臭くて、匡哉が(抱っこしてでも何でもいいから)バスルームまで連れて行ってくれないかなぁ、なんて勝手なことを考えていたら、スルリと体のラインをなぞられる。
「なに…? お風呂ぉ…」
眠くなって来たせいで、天音の言葉の語尾が甘く伸びている。
日ごろ素っ気ない素振りを見せているくせに、こんなとき無意識に甘えてくるからタチが悪い。
それでも匡哉は心を動かされてしまって、すり寄せってくる天音を抱き締めてしまう。
「ここ、」
「んん、やぁ…」
太ももの付け根に指を這わされ、天音はビクリと体を跳ね上げた。
「やめてよぉ…」
キュウと眉を寄せて、匡哉を押し返そうとするが、力が入らずうまくいかない。
「ねぇ、ここさぁ、」
「ん、ふぅ…」
「俺も付けていーい?」
「な、に…?」
何のこと? と視線を向ければ、いたずらっぽい笑みを浮かべる匡哉と目が合って、天音はそれでもキッと睨み付けた。
「匡哉、ヤ、」
片足だけを胸に付くくらいグッと持ち上げられて、体勢的に苦しい。足をジタバタさせてみても、匡哉は離してくれない。
「何、も…や、あっ!」
足の付け根、先ほど舐められた敏感な場所に走る小さな痛み。何をされたのか分からない、初心な人間ではない。
抱えられていた足を下ろされて、自分からは確認できないその場所に付いたであろうキスマークに、天音は少し渋い顔をした。
「ざけんな…」
先ほどまでの甘い声ではもうなくて、少し苛付いたそれに、けれど匡哉は悪びれたふうも見せない。
「いいじゃん、どっかの誰かさんだって、付けたんでしょ? ここに。俺にだってさせてくれたっていいじゃん」
「、」
天音は何も言い返さない。
匡哉ではない誰かが付けた、所有印。そうしたからといって、天音が自分だけのものになるわけでもないのに。
「匡哉も、そういうの好きだね」
匡哉"も"。
けれど匡哉は、敢えてその言葉を聞き流した。
天音も分かっていて、それ以上は何も言わない。
束縛は、するのもされるのも嫌い。
愛されるのは、好き。
愛されてるって、実感するのが。
だから心は誰にもあげないけれど、体なら誰にでも差し出せる。ううん、みんなが欲しがってくれるから。
みんなが自分のことを、うんと欲しがって、愛してくれて。追われる恋がいい。
「天音…」
「ん…」
キレイに筋肉の付いた天音の体を組み敷いて、匡哉くは甘く唇を奪う。すんなりと受け入れる天音を嬉しく思いつつも、寂しさを隠し切れない。
誰のものにもならない天音。
その体も、ましてや心も。
消えかけた誰かのキスマークの上に記し直された、新たな印。
消えてなくなるまでは、せめて。
どうか、せめて今だけは。
*R15です。15歳未満のかた、苦手なかたはご遠慮ください。
*@MKさんへ素敵なイラストとともに出張中です。2009.7.4記事「Midnight Butterfly 出張中」
俺にとってはたった1人の愛しい人でも、アイツにとっての俺は、大勢いる中の1人でしかない。
分かってる、けど。
本日最後の撮影が終わって、帰り支度をしていると、先に支度を終えた天音(アマネ)が、通り過ぎ際、匡哉(マサヤ)の手をなぞるように触れていった。
視線は交わさない。
匡哉は適当に荷物をカバンに詰めると、挨拶をして、何事もないように控え室を出た―――――背後でドアが閉まると、慌てて先に出た天音の姿を探す。それほど時間を置かずに出たものの、すでに廊下に天音の姿はない。
匡哉は軽く舌打ちすると、駐車場に向かうべく、エレヴェータホールへと駆け出す。
―――――いたっ…!
本人は自覚していないが(というよりむしろ、目立たないように努力しているらしいが)、エレヴェータを待つ後ろ姿は、明らかに天音だとすぐに分かるそれだ。
匡哉は後ろから誰も付いてきていないことを確認すると、歩幅を緩めた。エレヴェータの扉が開くタイミングで、天音と同じ箱に乗り込む。
「……そんなに慌てて追い掛けて来なくても、駐車場で待ってたのに」
「天音、待つの嫌いでしょ?」
「天音とか、下の名前で呼ばないで」
「今は、2人きりじゃん」
返事はなかった。それより先に、エレヴェータが地階の駐車場に到着したのだ。コンクリートに囲まれたそこは、独特の、ひんやりとした空気に包まれている。
天音はおとなしく、匡哉の後を付いてきた。
別にそうすることを要求したことなんてないのに、天音のため、匡哉は甲斐甲斐しく助手席側のドアを開けてやった。悪い気はしないけど。
「何か、食って帰る?」
「面倒臭いな」
たあいのない会話。
静かに車が動き出す。駐車場を出たところで、天音がサングラスを外した。
「……それ、最近よく掛けてるね」
それほど目敏いというわけでもないが、今まで天音が持っていなかったブランドのものだったので、つい目が行ってしまった。サングラス1つだとしても、決して安い買い物ではない品。
「貰ったの。いいなぁ~って言ってたら、プレゼントされちゃった」
シャツの前にサングラスを引っ掛け、天音はチラリと匡哉を見た。
その視線に気付いたけれど、匡哉はあえて気付かないふりをする。"貢がせた、の間違いだろ?"という言葉も飲み込んで。
「匡哉は何もくれないよね」
「俺はお前のパトロンか」
「俺、欲しいリングがあったのに」
冗談とも本気とも取れる口調でそう言って、天音は口元を歪めた。
「やっぱ腹減った。パスタ食いたい。お前以外の人が作ったヤツ」
「素直にメシ食って帰りたいって言いなよ」
それでも匡哉は、最近行ったお気に入りのイタリア料理店へと、進行方向を変えた。
*****
食欲が満たされたところで、2人はそのまま、近くのホテルへと向かった。天音は絶対に自分の家に人を入れさせないし、匡哉の家には両親と弟がいるから。
今は、有人のフロントを通らなくても入れるところが多いから、何かと便利だ。
中は多少豪華な雰囲気を醸し出す部屋だったけれど、お互いそんなことには興味なく、ドアが閉まると、匡哉は少し乱暴に天音に口付けた。
「…ッ、匡哉、バカ、がっつき過ぎ…!」
匡哉の肩を押し返した天音は、肩で息をしながら、濡れた唇を拭った。
「いいじゃん、欲しいの、俺は」
「ぁ…」
もう1度深く口付けられて、天音は抵抗をやめた。
*****
「ねぇー」
「…ん、? ぁ、ん…」
何度もイカされて、気怠い体。
シャワーを浴びたいけれど動くのが面倒臭くて、匡哉が(抱っこしてでも何でもいいから)バスルームまで連れて行ってくれないかなぁ、なんて勝手なことを考えていたら、スルリと体のラインをなぞられる。
「なに…? お風呂ぉ…」
眠くなって来たせいで、天音の言葉の語尾が甘く伸びている。
日ごろ素っ気ない素振りを見せているくせに、こんなとき無意識に甘えてくるからタチが悪い。
それでも匡哉は心を動かされてしまって、すり寄せってくる天音を抱き締めてしまう。
「ここ、」
「んん、やぁ…」
太ももの付け根に指を這わされ、天音はビクリと体を跳ね上げた。
「やめてよぉ…」
キュウと眉を寄せて、匡哉を押し返そうとするが、力が入らずうまくいかない。
「ねぇ、ここさぁ、」
「ん、ふぅ…」
「俺も付けていーい?」
「な、に…?」
何のこと? と視線を向ければ、いたずらっぽい笑みを浮かべる匡哉と目が合って、天音はそれでもキッと睨み付けた。
「匡哉、ヤ、」
片足だけを胸に付くくらいグッと持ち上げられて、体勢的に苦しい。足をジタバタさせてみても、匡哉は離してくれない。
「何、も…や、あっ!」
足の付け根、先ほど舐められた敏感な場所に走る小さな痛み。何をされたのか分からない、初心な人間ではない。
抱えられていた足を下ろされて、自分からは確認できないその場所に付いたであろうキスマークに、天音は少し渋い顔をした。
「ざけんな…」
先ほどまでの甘い声ではもうなくて、少し苛付いたそれに、けれど匡哉は悪びれたふうも見せない。
「いいじゃん、どっかの誰かさんだって、付けたんでしょ? ここに。俺にだってさせてくれたっていいじゃん」
「、」
天音は何も言い返さない。
匡哉ではない誰かが付けた、所有印。そうしたからといって、天音が自分だけのものになるわけでもないのに。
「匡哉も、そういうの好きだね」
匡哉"も"。
けれど匡哉は、敢えてその言葉を聞き流した。
天音も分かっていて、それ以上は何も言わない。
束縛は、するのもされるのも嫌い。
愛されるのは、好き。
愛されてるって、実感するのが。
だから心は誰にもあげないけれど、体なら誰にでも差し出せる。ううん、みんなが欲しがってくれるから。
みんなが自分のことを、うんと欲しがって、愛してくれて。追われる恋がいい。
「天音…」
「ん…」
キレイに筋肉の付いた天音の体を組み敷いて、匡哉くは甘く唇を奪う。すんなりと受け入れる天音を嬉しく思いつつも、寂しさを隠し切れない。
誰のものにもならない天音。
その体も、ましてや心も。
消えかけた誰かのキスマークの上に記し直された、新たな印。
消えてなくなるまでは、せめて。
どうか、せめて今だけは。
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so sweet
2008.09.29 Mon
「でね、でね、これ、ちょーフカフカなんだよv」
そう言って隼人が、コートの袖口に付いたフワフワのフェイクファーをほっぺたに押し当てた相手は、恋人の大和……ではなくて、憎き恋敵(と勝手に大和が思い込んでいる)貴裕だった。
「ホントだなぁ」
お気に入りのコートが嬉しくて仕方がない隼人と、隼人にこんなかわいいことをされて、満更でもない様子の貴裕。
その2人とは対照的に、非常におもしろくなさそうな顔をしているのはもちろん大和で。
「そこのお2人さん、仲がいいのは分かるけど、俺がいること忘れてないかい?」
ズルズルと音を立ててコーヒーを啜りながら、大和がものすごく呆れたように言った。
「ホラ隼人、大和が怒ってるぞ?」
一応、恋人である大和を立てるつもりなのか、貴裕は隼人の手を自分から離したのだが、隼人はそんなことはお構いなしで。
「いいの! だってこれ、せっかく新しく買ったやつなのに、大和、全然気付かなかったんだもんっ」
プックリ頬を膨らませて隼人が主張するのは、新しく買ったばかりのコートのこと。
すごくお気に入りだから、1番に大和に見せてやったのに、ちっとも気付いてくれなかったから、隼人はいまだに拗ねているのだ。
しかも大和がファッションにろくに興味がないのに対し、貴裕は服だ髪型だと細かいことにマメに気付くタイプだったから、当然今回も、鈍い大和より先に隼人のコートを褒めてやり、すっかりご機嫌を直してやったというわけだ。
だが、大和にしてみれば、それもおもしろくない。
機嫌が直った隼人は、貴裕としか喋ろうとしないのだ。これではどっちが恋人なのか、分かったものではない。
しかしここで、「だったら勝手にしろ」とか、キッパリ言って立ち去れるほど大和も強くはないので、おもしろくはないと思いつつ、貴裕と楽しそうに喋っている隼人の機嫌が本当に直るのを待つしかなかった。
あぁ、これを惚れた弱みというのか……大和は温くなったコーヒーを飲み干した。
「あ、隼人、ゴメン、ちょっと電話」
ジーンズのポケットの中で震えた携帯電話に、貴裕は申し訳なさそうに隼人に謝って、電話に出た。
「もしもし? あぁ? これから? あー…まぁ、いいけど? おう、うん、分かった。じゃあな」
貴裕の電話はあっさりと終わり、電話中に隼人の気を取り戻そうとしていた大和は、あえなくそれを断念した。
「隼人、ゴメンな。ちょっとダチに呼び出されちまった」
「えぇ~? 行っちゃうのー?」
あからさまに不満そうに、隼人は立ち上がろうとした貴裕の腕を掴んだ。
「ゴメン。実は引越しの手伝い頼まれててさ。ゴメンな? また今度、メシでも食いに行こうぜ?」
「うんっ!」
「コラコラ! 彼氏の前で堂々とナンパすんな!」
よしよしと隼人の頭を撫でようとしていた貴裕の手を払って、大和は隼人の体を抱き寄せた。
「何すんだよぉー。貴裕くん、バイバーイ」
大和の腕の中でもがきながら、隼人は貴裕に手を振った。
「もぉ、あんだよぉ、苦しいってば」
隼人はペチンと大和の額を叩いて、ようやくその腕の中を抜け出した。
「隼人、いい加減に機嫌直せよ」
「機嫌なんか悪くないもん」
「すげぇ悪いじゃん」
「悪くないの!」
何を言っても不毛な応酬にしかならない会話。大和は大きく溜め息をついて肩を落とした。
「お前、ホントに俺のこと、好きか?」
「好きだよ」
グッタリとして尋ねた大和に、隼人は照れも恥じらいもなく、あっさりとそう答えた。
「何で? 何でそんなこと聞くの?」
「そりゃ、聞きたくもなるだろ。恋人前にして、他の男とあんだけイチャイチャしてたら」
「だって貴裕くん、このコートのこと褒めてくれたんだもん」
「だから、コートに気付かなかったのは悪かったって、言ってんだろ」
また同じやり取りが繰り返されるのかと、少々ウンザリして語気の荒くなった大和の頬に、何やらフワフワとした感触。チラ、視線を向けると、隼人が袖のファーを大和の頬にくっ付けているのだった。
「フカフカで気持ちいーだろ?」
「あのなぁ、」
「ね、もうちょっとこっち向いてよ」
大和の体を自分のほうに向けさせた隼人は、反対側もファーを押し当てて、大和の両頬を挟んだ。
「ふわふわv」
その顔があんまりにも無邪気だから、大和はつい、先ほどまでの憤りも忘れて、頬を緩ませた。
「そうだな、フワフワだな」
「フワフワであったかいの。冬になったら、あっためてあげるね。大和だけ、特別だからな」
フワフワの手で大和の頬を挟んだまま、隼人は笑みを深くして、そのまま唇を重ねた。
たぶんどっかのカフェと思われますが…。コイツら、公衆の面前で何してやがる。
そう言って隼人が、コートの袖口に付いたフワフワのフェイクファーをほっぺたに押し当てた相手は、恋人の大和……ではなくて、憎き恋敵(と勝手に大和が思い込んでいる)貴裕だった。
「ホントだなぁ」
お気に入りのコートが嬉しくて仕方がない隼人と、隼人にこんなかわいいことをされて、満更でもない様子の貴裕。
その2人とは対照的に、非常におもしろくなさそうな顔をしているのはもちろん大和で。
「そこのお2人さん、仲がいいのは分かるけど、俺がいること忘れてないかい?」
ズルズルと音を立ててコーヒーを啜りながら、大和がものすごく呆れたように言った。
「ホラ隼人、大和が怒ってるぞ?」
一応、恋人である大和を立てるつもりなのか、貴裕は隼人の手を自分から離したのだが、隼人はそんなことはお構いなしで。
「いいの! だってこれ、せっかく新しく買ったやつなのに、大和、全然気付かなかったんだもんっ」
プックリ頬を膨らませて隼人が主張するのは、新しく買ったばかりのコートのこと。
すごくお気に入りだから、1番に大和に見せてやったのに、ちっとも気付いてくれなかったから、隼人はいまだに拗ねているのだ。
しかも大和がファッションにろくに興味がないのに対し、貴裕は服だ髪型だと細かいことにマメに気付くタイプだったから、当然今回も、鈍い大和より先に隼人のコートを褒めてやり、すっかりご機嫌を直してやったというわけだ。
だが、大和にしてみれば、それもおもしろくない。
機嫌が直った隼人は、貴裕としか喋ろうとしないのだ。これではどっちが恋人なのか、分かったものではない。
しかしここで、「だったら勝手にしろ」とか、キッパリ言って立ち去れるほど大和も強くはないので、おもしろくはないと思いつつ、貴裕と楽しそうに喋っている隼人の機嫌が本当に直るのを待つしかなかった。
あぁ、これを惚れた弱みというのか……大和は温くなったコーヒーを飲み干した。
「あ、隼人、ゴメン、ちょっと電話」
ジーンズのポケットの中で震えた携帯電話に、貴裕は申し訳なさそうに隼人に謝って、電話に出た。
「もしもし? あぁ? これから? あー…まぁ、いいけど? おう、うん、分かった。じゃあな」
貴裕の電話はあっさりと終わり、電話中に隼人の気を取り戻そうとしていた大和は、あえなくそれを断念した。
「隼人、ゴメンな。ちょっとダチに呼び出されちまった」
「えぇ~? 行っちゃうのー?」
あからさまに不満そうに、隼人は立ち上がろうとした貴裕の腕を掴んだ。
「ゴメン。実は引越しの手伝い頼まれててさ。ゴメンな? また今度、メシでも食いに行こうぜ?」
「うんっ!」
「コラコラ! 彼氏の前で堂々とナンパすんな!」
よしよしと隼人の頭を撫でようとしていた貴裕の手を払って、大和は隼人の体を抱き寄せた。
「何すんだよぉー。貴裕くん、バイバーイ」
大和の腕の中でもがきながら、隼人は貴裕に手を振った。
「もぉ、あんだよぉ、苦しいってば」
隼人はペチンと大和の額を叩いて、ようやくその腕の中を抜け出した。
「隼人、いい加減に機嫌直せよ」
「機嫌なんか悪くないもん」
「すげぇ悪いじゃん」
「悪くないの!」
何を言っても不毛な応酬にしかならない会話。大和は大きく溜め息をついて肩を落とした。
「お前、ホントに俺のこと、好きか?」
「好きだよ」
グッタリとして尋ねた大和に、隼人は照れも恥じらいもなく、あっさりとそう答えた。
「何で? 何でそんなこと聞くの?」
「そりゃ、聞きたくもなるだろ。恋人前にして、他の男とあんだけイチャイチャしてたら」
「だって貴裕くん、このコートのこと褒めてくれたんだもん」
「だから、コートに気付かなかったのは悪かったって、言ってんだろ」
また同じやり取りが繰り返されるのかと、少々ウンザリして語気の荒くなった大和の頬に、何やらフワフワとした感触。チラ、視線を向けると、隼人が袖のファーを大和の頬にくっ付けているのだった。
「フカフカで気持ちいーだろ?」
「あのなぁ、」
「ね、もうちょっとこっち向いてよ」
大和の体を自分のほうに向けさせた隼人は、反対側もファーを押し当てて、大和の両頬を挟んだ。
「ふわふわv」
その顔があんまりにも無邪気だから、大和はつい、先ほどまでの憤りも忘れて、頬を緩ませた。
「そうだな、フワフワだな」
「フワフワであったかいの。冬になったら、あっためてあげるね。大和だけ、特別だからな」
フワフワの手で大和の頬を挟んだまま、隼人は笑みを深くして、そのまま唇を重ねた。
たぶんどっかのカフェと思われますが…。コイツら、公衆の面前で何してやがる。
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