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4月 はじめまして、大嫌い。 (5)
2009.03.17 Tue
「ショウちゃん、同じ部屋になった人、来た?」
週が明けて月曜日、いつものカフェテリアで、和衣は眠そうな顔をしている智久に尋ねた。
「来たよ、昨日。何かいろいろあって、引っ越しすんの遅れたみたい」
「へぇ。何、引っ越しのお手伝いして、今日は疲れてんの?」
「いや…」
結局、部屋までの荷物運びも何となく手伝いづらいし、実際運ばれてきた荷物もそれほど多くなかったので、大した手伝いもしていない。
しいて疲れたと言えば、あの真大のあからさまな態度くらいなものだ。
わけも分からず人に嫌悪されるというのは、結構キツイ。身に覚えがないだけで何かしてしまったのだろうか、けれど接点すらも思い出せないし。
「あ、ショウちゃん!」
翔真が人知れず溜め息をつこうとしたとき、前方からやって来たその姿に、慌てて席を立った。
今どき、茶髪や金髪なんて別に目立つような存在ではないけれど、元気に手を振って近づいてくる蒼一郎は、明らかに目立ちすぎる。
蒼一郎の元気な声と、翔真の慌てっぷりに、同じ席にいた4人だけでなく、周りもみなこちらに注目している。
けれど当の本人はそれに気付いていないらしく、隣を歩いていた郁雅がギョッとした顔で蒼一郎を抑えている。
そしてその隣には――――真大。翔真の姿を見つけ、あからさまに顔を顰めた。
「あー…えっと、コイツ…。同じ部屋になったの…」
ポカンとした顔をしている4人に、翔真は戸惑いながら紹介した。
蒼一郎は相変わらず、みんなにもとても気軽に挨拶をしている。
「あ、れ…? マヒロ?」
まるで昔から友人だったかのようにフレンドリーな蒼一郎に驚いていたら、亮がその後ろで険しい表情をしている真大に気が付いた。
知り合いなの? と、翔真が目で亮に尋ねる。
「真大だよな?」
「え、亮くん? 亮くんもこの大学なの?」
どうやら真大のほうも亮のことを知っているらしく、驚きを隠し切れない様子だ。
「え、亮の知り合い?」
「高校のころの後輩。同じサッカー部だった」
「え、」
その発言に驚いたのは、翔真だ。
亮と同じ高校だということは、つまり翔真とも同じだったということだ。
「ビックリしたー、こんなとこで会えるなんて思わなかった!」
そう言う真大は、昨日、翔真と初めて会ったときとはまるで違って、本当に嬉しそうな表情だ。
何となく納得がいかない。
同じ高校とはいっても、亮と違って、翔真はサッカー部ではなかったから、特に真大とも接点はなかったとはいえ、だとしたらなおさら、なぜあんなに嫌悪感を丸出しにされなければならないのだろうか。
「真大ってさぁ、サッカー超うまかったよね」
「え、カズくん!?」
亮の向かいにいた和衣が、思い出すようにそう言えば、その存在に気が付いた真大が、さらに驚いた顔をする。
まさか揃ってここで再会するとは、ゆめゆめ思っていなかったらしい。
「カズちゃんもサッカー部だったの?」
3人のやり取りを見ていた睦月が尋ねた。
そういえばみんなの高校のころの話って、あまり聞いたことがなかった。
「うぅん、俺、野球。でもグラウンド、隣でやってたから」
「え、カズちゃん、野球部!? 似合わない……ねぇ、坊主だったの?」
「似合わなくない! それに坊主でもない! むっちゃん、何笑ってんの!?」
坊主ではないと言っているのに、勝手に和衣の坊主姿を想像したのか、睦月は思わず吹き出してしまった。
「でもすごいビックリした…。亮くんとかとまた会えるなんて、思わなかったー」
「俺も思わなかった。え、真大がショウと同じ部屋なの?」
「…、違います。俺も寮に住んでるけど、階も違うし」
翔真の名前が出て、スッと真大の声が硬くなった。
亮はそれに気付かなかったようだけれど、翔真はしっかりとそれを感じ取っていた。
(俺、コイツに何かしたっけ…?)
同じ高校だったのに気付かなかったことは、悪かったと思う。
素直に非は認める。
でも真大には、それだけでない何かを感じざるを得ない。
「同じ部屋なのは俺! よろしくね」
今年も1年生だけど……と、蒼一郎は、何も自分からバラさなくてもいいようなことを付け加えて笑った。
週が明けて月曜日、いつものカフェテリアで、和衣は眠そうな顔をしている智久に尋ねた。
「来たよ、昨日。何かいろいろあって、引っ越しすんの遅れたみたい」
「へぇ。何、引っ越しのお手伝いして、今日は疲れてんの?」
「いや…」
結局、部屋までの荷物運びも何となく手伝いづらいし、実際運ばれてきた荷物もそれほど多くなかったので、大した手伝いもしていない。
しいて疲れたと言えば、あの真大のあからさまな態度くらいなものだ。
わけも分からず人に嫌悪されるというのは、結構キツイ。身に覚えがないだけで何かしてしまったのだろうか、けれど接点すらも思い出せないし。
「あ、ショウちゃん!」
翔真が人知れず溜め息をつこうとしたとき、前方からやって来たその姿に、慌てて席を立った。
今どき、茶髪や金髪なんて別に目立つような存在ではないけれど、元気に手を振って近づいてくる蒼一郎は、明らかに目立ちすぎる。
蒼一郎の元気な声と、翔真の慌てっぷりに、同じ席にいた4人だけでなく、周りもみなこちらに注目している。
けれど当の本人はそれに気付いていないらしく、隣を歩いていた郁雅がギョッとした顔で蒼一郎を抑えている。
そしてその隣には――――真大。翔真の姿を見つけ、あからさまに顔を顰めた。
「あー…えっと、コイツ…。同じ部屋になったの…」
ポカンとした顔をしている4人に、翔真は戸惑いながら紹介した。
蒼一郎は相変わらず、みんなにもとても気軽に挨拶をしている。
「あ、れ…? マヒロ?」
まるで昔から友人だったかのようにフレンドリーな蒼一郎に驚いていたら、亮がその後ろで険しい表情をしている真大に気が付いた。
知り合いなの? と、翔真が目で亮に尋ねる。
「真大だよな?」
「え、亮くん? 亮くんもこの大学なの?」
どうやら真大のほうも亮のことを知っているらしく、驚きを隠し切れない様子だ。
「え、亮の知り合い?」
「高校のころの後輩。同じサッカー部だった」
「え、」
その発言に驚いたのは、翔真だ。
亮と同じ高校だということは、つまり翔真とも同じだったということだ。
「ビックリしたー、こんなとこで会えるなんて思わなかった!」
そう言う真大は、昨日、翔真と初めて会ったときとはまるで違って、本当に嬉しそうな表情だ。
何となく納得がいかない。
同じ高校とはいっても、亮と違って、翔真はサッカー部ではなかったから、特に真大とも接点はなかったとはいえ、だとしたらなおさら、なぜあんなに嫌悪感を丸出しにされなければならないのだろうか。
「真大ってさぁ、サッカー超うまかったよね」
「え、カズくん!?」
亮の向かいにいた和衣が、思い出すようにそう言えば、その存在に気が付いた真大が、さらに驚いた顔をする。
まさか揃ってここで再会するとは、ゆめゆめ思っていなかったらしい。
「カズちゃんもサッカー部だったの?」
3人のやり取りを見ていた睦月が尋ねた。
そういえばみんなの高校のころの話って、あまり聞いたことがなかった。
「うぅん、俺、野球。でもグラウンド、隣でやってたから」
「え、カズちゃん、野球部!? 似合わない……ねぇ、坊主だったの?」
「似合わなくない! それに坊主でもない! むっちゃん、何笑ってんの!?」
坊主ではないと言っているのに、勝手に和衣の坊主姿を想像したのか、睦月は思わず吹き出してしまった。
「でもすごいビックリした…。亮くんとかとまた会えるなんて、思わなかったー」
「俺も思わなかった。え、真大がショウと同じ部屋なの?」
「…、違います。俺も寮に住んでるけど、階も違うし」
翔真の名前が出て、スッと真大の声が硬くなった。
亮はそれに気付かなかったようだけれど、翔真はしっかりとそれを感じ取っていた。
(俺、コイツに何かしたっけ…?)
同じ高校だったのに気付かなかったことは、悪かったと思う。
素直に非は認める。
でも真大には、それだけでない何かを感じざるを得ない。
「同じ部屋なのは俺! よろしくね」
今年も1年生だけど……と、蒼一郎は、何も自分からバラさなくてもいいようなことを付け加えて笑った。
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4月 はじめまして、大嫌い。 (6)
2009.03.18 Wed
「…亮たちと同じ高校てことは、翔真とも一緒なんでしょ、高校」
「え?」
「いや、あの真大くんて子。何かあったの?」
授業前、たまたま祐介と2人きりになったら、そんなことを聞かれた。
祐介は、何かを勘ぐっているふうもなくて、翔真は空惚けようともしたけれど、ごまかすのをやめて、溜め息とともに吐き出した。
「よく分かんないんだよね。同じ高校っつっても学年違うし、部活も違ったから。昨日、引っ越しの手伝いにアイツも来たんだけど、正直俺、それが初めて会ったんだと思ってたし」
「そうなんだ。そのわりには何か、妙に翔真のこと敵視してたよね」
「…」
久々の再会を喜んでいた亮や和衣は(もちろん睦月も)、先ほどの真大の態度には気付いていないようだったが、どうやら何も言わなかっただけで、祐介は感付いていたらしい。
「それもよく分かんないんだよね。俺、何もした覚えがないのですが」
「勝手に何か恨まれてるってこと? 怖いね」
「…だよね」
自覚なしに、彼の気に障ることをしてしまったのだとしたら、根は深いかもしれない。
「覚えてなかったこと、怒ってるだけならいいんだけど」
「学年違って、他に繋がりもなければ、そんなに覚えてないよ、普通」
「じゃあやっぱ、違う恨み? もしかして高校のころから恨まれてた? その恨みを晴らすためにアイツ、俺と同じ大学に…!?」
「いや、それ、サスペンスの見すぎだよ、翔真」
翔真の想像力に、祐介は思わず吹き出した。
「じゃあ、何? ……はぁ…、昨日まではあんなに平穏だったのに、蒼が来た途端…」
「蒼…? あぁ、藤野くん? すごい仲よさそうだったね。むしろアイツと昔から知り合いだったのかと思うくらい」
「アイツこそ、間違いなく初対面だよ!」
それなのに、会った瞬間から『ショウちゃん』て、すごい気軽に声掛けられたけど。
「何か一気に賑やかになったね」
「ホントだよ…」
翔真が苦笑いを浮かべたところで、ココアの缶を振り振りしながら和衣がやって来た。
「ショウちゃん、どうしたの? 難しい顔して」
「俺だって難しいこと考えるときだって、あるの」
そう言われても和衣はまだピンと来ていない様子で、祐介の隣に座って小首を傾げている。
「和衣、野球部だったんでしょ? 高校のころ」
「そうだよー」
「なのに、あの真大くんのこと、よく知ってるみたいだったね」
「祐介、気になる~?」
「いや、そうじゃなくて…」
ココアの缶に口を付けながら、和衣がニヤニヤしながら祐介の顔を覗き込む。
別にいいけど、こんなところでイチャつかないでほしいと、翔真は密かに思う。
「だってグラウンド、隣だったし。それに真大、サッカー超うまかったんだよ」
「へぇ。後は?」
「え? んー…あ、先生来た」
「あ、ちょ…」
老婆心ながら、真大のことを聞こうとした祐介だったが、講師の先生が入って来てしまい、結局話はそこで中断してしまった。
「え?」
「いや、あの真大くんて子。何かあったの?」
授業前、たまたま祐介と2人きりになったら、そんなことを聞かれた。
祐介は、何かを勘ぐっているふうもなくて、翔真は空惚けようともしたけれど、ごまかすのをやめて、溜め息とともに吐き出した。
「よく分かんないんだよね。同じ高校っつっても学年違うし、部活も違ったから。昨日、引っ越しの手伝いにアイツも来たんだけど、正直俺、それが初めて会ったんだと思ってたし」
「そうなんだ。そのわりには何か、妙に翔真のこと敵視してたよね」
「…」
久々の再会を喜んでいた亮や和衣は(もちろん睦月も)、先ほどの真大の態度には気付いていないようだったが、どうやら何も言わなかっただけで、祐介は感付いていたらしい。
「それもよく分かんないんだよね。俺、何もした覚えがないのですが」
「勝手に何か恨まれてるってこと? 怖いね」
「…だよね」
自覚なしに、彼の気に障ることをしてしまったのだとしたら、根は深いかもしれない。
「覚えてなかったこと、怒ってるだけならいいんだけど」
「学年違って、他に繋がりもなければ、そんなに覚えてないよ、普通」
「じゃあやっぱ、違う恨み? もしかして高校のころから恨まれてた? その恨みを晴らすためにアイツ、俺と同じ大学に…!?」
「いや、それ、サスペンスの見すぎだよ、翔真」
翔真の想像力に、祐介は思わず吹き出した。
「じゃあ、何? ……はぁ…、昨日まではあんなに平穏だったのに、蒼が来た途端…」
「蒼…? あぁ、藤野くん? すごい仲よさそうだったね。むしろアイツと昔から知り合いだったのかと思うくらい」
「アイツこそ、間違いなく初対面だよ!」
それなのに、会った瞬間から『ショウちゃん』て、すごい気軽に声掛けられたけど。
「何か一気に賑やかになったね」
「ホントだよ…」
翔真が苦笑いを浮かべたところで、ココアの缶を振り振りしながら和衣がやって来た。
「ショウちゃん、どうしたの? 難しい顔して」
「俺だって難しいこと考えるときだって、あるの」
そう言われても和衣はまだピンと来ていない様子で、祐介の隣に座って小首を傾げている。
「和衣、野球部だったんでしょ? 高校のころ」
「そうだよー」
「なのに、あの真大くんのこと、よく知ってるみたいだったね」
「祐介、気になる~?」
「いや、そうじゃなくて…」
ココアの缶に口を付けながら、和衣がニヤニヤしながら祐介の顔を覗き込む。
別にいいけど、こんなところでイチャつかないでほしいと、翔真は密かに思う。
「だってグラウンド、隣だったし。それに真大、サッカー超うまかったんだよ」
「へぇ。後は?」
「え? んー…あ、先生来た」
「あ、ちょ…」
老婆心ながら、真大のことを聞こうとした祐介だったが、講師の先生が入って来てしまい、結局話はそこで中断してしまった。
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5月 名前を呼ぶと目で威嚇する。 (1)
2009.03.19 Thu
友人として過ごす間に、実は第一印象とは感じの違う人だった、ということはよくあるものだが、蒼一郎に関しては、そういったことはまるでなかった。
そして蒼一郎の人懐こさは、誰か特定の人たちだけということはなく、まるで分け隔てがないため、人見知りの激しい睦月ですら、ほんの数日ですっかり仲良くなっていた。
翔真は、こんな調子で蒼一郎が、だれ彼構わず寮の部屋に友人たちを呼ぶのだろうかと思っていたが、基本的には寮の外で会っているらしく、ときどき郁雅が遊びに来るくらいで、その辺りは亮たちより、わきまえているかもしれない。
ちなみに真大もときどき蒼一郎のところに来るが、部屋に翔真がいると分かると、嫌な顔をして出て行くか、蒼一郎を連れ出してしまうので、一緒になったことはない。
もしかしたら翔真がいないときは部屋に上がっているのかもしれないけれど、それを確認する術はないし、いちいち蒼一郎に聞くのも、何だかこちらが気に掛けているみたいなので、そうはしない。
(何か、俺がいない隙に、勝手に何か構われてたりとかしないよな…)
被害妄想もいいところだが、勘繰らずにはいられない。
そのくらい、真大の翔真に対する態度はあからさまなのだ。
「俺、アイツに何したわけ…?」
あんな態度を取るヤツに、無理に好かれたいとは思わないが、意味もなく嫌われるのは、どうも釈然としない。
イライラしながら、翔真が重苦しい溜め息をついたときだった。
「そーちゃーん!! お誕生日、おめでとー!!!」
「うわぁっ!!」
ベッドに転がって、1人モヤモヤ考えていた翔真は、ノックもなしに開いたドアと、それに続くデカイ声に驚いて飛び起きた。
「あれ…?」
「何だよ、お前、いきなり入ってくんなよ!」
こんな礼儀知らずなヤツ、真大以外、いるはずがない。
いや、亮や和衣もおそらくこんなだろうけど、同じ行為でも、相手が真大だと思えば、余計なイライラが増す。
「…」
「蒼なら出掛けたよ」
親切にもそう教えてやれば、真大は露骨に嫌な顔をした。
「蒼ちゃんのこと、気安く呼ばないでよ!」
「は? どう呼ぼうが俺の勝手だろ」
初めて会ったときいきなり『ショウちゃん』と呼んできた蒼一郎は、翔真が『藤野くん』と呼ぶのを堅苦しいと言って嫌がり、『蒼でいいよ』と言ったのだ。
気安い呼び方かもしれないが、相手が嫌がるのに無理に呼んでいるわけではない。
「…アイツならホントに出掛けたよ」
いないと言っているのに部屋を出て行こうとしない真大に、翔真はもう1度言ってやる。
朝から妙にウキウキしていた蒼一郎は、その日の夕方、学校が終わって1度帰って来た後、『週末は帰んないから』と出掛けていき、その言葉どおり、日付が変わった今もまだ帰って来ていない。
翔真の言葉を信じたくないなら、勝手に家捜しでもすればいい。ただ、こんな狭い寮の一室、小柄ともいえない蒼一郎が隠れる場所なんて、そうあるはずもないが。
そして蒼一郎の人懐こさは、誰か特定の人たちだけということはなく、まるで分け隔てがないため、人見知りの激しい睦月ですら、ほんの数日ですっかり仲良くなっていた。
翔真は、こんな調子で蒼一郎が、だれ彼構わず寮の部屋に友人たちを呼ぶのだろうかと思っていたが、基本的には寮の外で会っているらしく、ときどき郁雅が遊びに来るくらいで、その辺りは亮たちより、わきまえているかもしれない。
ちなみに真大もときどき蒼一郎のところに来るが、部屋に翔真がいると分かると、嫌な顔をして出て行くか、蒼一郎を連れ出してしまうので、一緒になったことはない。
もしかしたら翔真がいないときは部屋に上がっているのかもしれないけれど、それを確認する術はないし、いちいち蒼一郎に聞くのも、何だかこちらが気に掛けているみたいなので、そうはしない。
(何か、俺がいない隙に、勝手に何か構われてたりとかしないよな…)
被害妄想もいいところだが、勘繰らずにはいられない。
そのくらい、真大の翔真に対する態度はあからさまなのだ。
「俺、アイツに何したわけ…?」
あんな態度を取るヤツに、無理に好かれたいとは思わないが、意味もなく嫌われるのは、どうも釈然としない。
イライラしながら、翔真が重苦しい溜め息をついたときだった。
「そーちゃーん!! お誕生日、おめでとー!!!」
「うわぁっ!!」
ベッドに転がって、1人モヤモヤ考えていた翔真は、ノックもなしに開いたドアと、それに続くデカイ声に驚いて飛び起きた。
「あれ…?」
「何だよ、お前、いきなり入ってくんなよ!」
こんな礼儀知らずなヤツ、真大以外、いるはずがない。
いや、亮や和衣もおそらくこんなだろうけど、同じ行為でも、相手が真大だと思えば、余計なイライラが増す。
「…」
「蒼なら出掛けたよ」
親切にもそう教えてやれば、真大は露骨に嫌な顔をした。
「蒼ちゃんのこと、気安く呼ばないでよ!」
「は? どう呼ぼうが俺の勝手だろ」
初めて会ったときいきなり『ショウちゃん』と呼んできた蒼一郎は、翔真が『藤野くん』と呼ぶのを堅苦しいと言って嫌がり、『蒼でいいよ』と言ったのだ。
気安い呼び方かもしれないが、相手が嫌がるのに無理に呼んでいるわけではない。
「…アイツならホントに出掛けたよ」
いないと言っているのに部屋を出て行こうとしない真大に、翔真はもう1度言ってやる。
朝から妙にウキウキしていた蒼一郎は、その日の夕方、学校が終わって1度帰って来た後、『週末は帰んないから』と出掛けていき、その言葉どおり、日付が変わった今もまだ帰って来ていない。
翔真の言葉を信じたくないなら、勝手に家捜しでもすればいい。ただ、こんな狭い寮の一室、小柄ともいえない蒼一郎が隠れる場所なんて、そうあるはずもないが。
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5月 名前を呼ぶと目で威嚇する。 (2)
2009.03.20 Fri
「お前さぁ、そんなに蒼のこと好きなの?」
「なっ…、そんなのアンタになんか関係ないだろ!」
突っ掛かるつもりはなかったが、いつもなら翔真の顔を見ればさっさと部屋を出て行ってしまう真大が、今日はいつまでも帰らないし、蒼一郎の不在に、あからさまにガッカリした顔をするから、日ごろの鬱積した思いが、溢れそうになっていた。
「分かりやすいね。大好きな蒼ちゃんが、俺と一緒の部屋なのが気に入らないんだ?」
わざと挑発するような言い方をすれば、真大は悔しそうに唇を噛んだ。
本当に分かりやすい。
「もしかして俺が蒼と何かしてるんじゃないかって、お前、それでしょっちゅうここに来るわけ?」
「ッ…、何かしてんのかよっ」
「さぁね。教えなーい」
実際のところ、蒼一郎とは何もない。
身近に2組の男同士のカップルがいるし、男同士ということに偏見はないけれど、翔真自身、男を恋愛対象としては見れないし、もちろん蒼一郎のこともそんなふうに思ったことなどない。
真大が"そういう意味"で蒼一郎のことを好きなのかは分かりかねたが、いつもと違って自分の一言一言にいちいち反応する真大を嘲弄したいような気持ちになっていたのは確かだ。
人のことを言えない。
自分だって、十分タチの悪い気質をしていると、翔真は思った。
「何かしてたとしても、それこそお前になんか関係なくね?」
わけも分からず嫌われているなら、別に好かれたいとも思わないし、いっそもっと嫌われるようにでも仕向けてみようか。
どんな反応をするんだろう。
すごく嫌な感じで翔真が鼻で笑えば、真大は抑えきれない怒りに肩を震わせた。
痛いくらいに握り締めたこぶし。
「うっさい! アンタはまた俺の大事なものをっ…!」
「え? ――――イテッ!」
怒りに任せた真大のセリフに、どういうことかと翔真が眉を寄せた次の瞬間、真大は持っていた荷物を思い切り翔真に投げ付けた。
いきなりのことに、まるで身構えていなかった翔真は、それをキャッチすることも出来ず、腹にぶつけて床に落っことしてしまった。
「ちょっ、おいっ!」
そして真大は呼び止める翔真の声を無視して、そのまま部屋を飛び出していった。
(ヤベ…からかい過ぎた…?)
やっぱり、好きとか嫌いとか、そういった人の感情をからかうのって、よくないと思う。
さっきはつい感情のまま、いろいろと言ってしまったけれど、これでは真大を傷付けただけでなく、蒼一郎にだって悪い。
いや、でも普段、わけも分からず嫌われて、嫌な思いをしているのはこちらだ。このくらいのことし返したって…………でも。
「はぁ…」
溜め息交じりに真大が投げ付けていった包みを拾い上げると、翔真はその溜め息の意味を考えるのも嫌で、ベッドに転がった。
「なっ…、そんなのアンタになんか関係ないだろ!」
突っ掛かるつもりはなかったが、いつもなら翔真の顔を見ればさっさと部屋を出て行ってしまう真大が、今日はいつまでも帰らないし、蒼一郎の不在に、あからさまにガッカリした顔をするから、日ごろの鬱積した思いが、溢れそうになっていた。
「分かりやすいね。大好きな蒼ちゃんが、俺と一緒の部屋なのが気に入らないんだ?」
わざと挑発するような言い方をすれば、真大は悔しそうに唇を噛んだ。
本当に分かりやすい。
「もしかして俺が蒼と何かしてるんじゃないかって、お前、それでしょっちゅうここに来るわけ?」
「ッ…、何かしてんのかよっ」
「さぁね。教えなーい」
実際のところ、蒼一郎とは何もない。
身近に2組の男同士のカップルがいるし、男同士ということに偏見はないけれど、翔真自身、男を恋愛対象としては見れないし、もちろん蒼一郎のこともそんなふうに思ったことなどない。
真大が"そういう意味"で蒼一郎のことを好きなのかは分かりかねたが、いつもと違って自分の一言一言にいちいち反応する真大を嘲弄したいような気持ちになっていたのは確かだ。
人のことを言えない。
自分だって、十分タチの悪い気質をしていると、翔真は思った。
「何かしてたとしても、それこそお前になんか関係なくね?」
わけも分からず嫌われているなら、別に好かれたいとも思わないし、いっそもっと嫌われるようにでも仕向けてみようか。
どんな反応をするんだろう。
すごく嫌な感じで翔真が鼻で笑えば、真大は抑えきれない怒りに肩を震わせた。
痛いくらいに握り締めたこぶし。
「うっさい! アンタはまた俺の大事なものをっ…!」
「え? ――――イテッ!」
怒りに任せた真大のセリフに、どういうことかと翔真が眉を寄せた次の瞬間、真大は持っていた荷物を思い切り翔真に投げ付けた。
いきなりのことに、まるで身構えていなかった翔真は、それをキャッチすることも出来ず、腹にぶつけて床に落っことしてしまった。
「ちょっ、おいっ!」
そして真大は呼び止める翔真の声を無視して、そのまま部屋を飛び出していった。
(ヤベ…からかい過ぎた…?)
やっぱり、好きとか嫌いとか、そういった人の感情をからかうのって、よくないと思う。
さっきはつい感情のまま、いろいろと言ってしまったけれど、これでは真大を傷付けただけでなく、蒼一郎にだって悪い。
いや、でも普段、わけも分からず嫌われて、嫌な思いをしているのはこちらだ。このくらいのことし返したって…………でも。
「はぁ…」
溜め息交じりに真大が投げ付けていった包みを拾い上げると、翔真はその溜め息の意味を考えるのも嫌で、ベッドに転がった。
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5月 名前を呼ぶと目で威嚇する。 (3)
2009.03.21 Sat
結局、蒼一郎は金曜と土曜の夜をどこかで過ごしてきたらしく、帰って来たのは日曜日の夜だった。
翔真が彼女とのデートから帰って来ると、ちょうど部屋の前で鍵を開けている蒼一郎と出くわした。
「あ、お帰りショウちゃん」
「…て、お前も今帰って来たとこじゃねぇの?」
「そう。ただいまー!」
部屋のもう1人の住人が一緒にドアの前にいるのだから、当然室内には誰もいないというのに、蒼一郎は元気に挨拶をして中に入った。
「ショウちゃん、彼女とデートだったの?」
「はぇ!?」
ベッドの上でカバンを開けて、2泊分の荷物を片付けていた蒼一郎が、上着を片付けて戻って来た翔真に、不意にそんなことを尋ねた。
彼女の存在も、確かに今日デートだったことも、別に隠すつもりはないからいいんだけれど、今までデート帰りでも蒼一郎にそんなことを聞かれたことがなかったから、ビックリして変な声を上げてしまった。
「あー…いや、別に追及するつもりはないんだけど、あの…ここ」
「え?」
何となく気まずそうに蒼一郎が、自分の首元を指差す。
それでもまだよく分からなくて、翔真が首を傾げていれば、蒼一郎は一瞬、視線を彷徨わせた後、口を開いた。
「いや、随分積極的な彼女だなぁ、て…」
「えっ!?」
ようやく蒼一郎の言いたいことが分かって、翔真が慌てて鏡を覗き込めば、確かに蒼一郎が指し示した個所には、クッキリとまではいかないが、明らかにそれと分かる痕……キスマークが付けられていた。
「チッ…」
自己主張のつもりか、独占欲の表れか、けれど翔真はキスマークを付けられるのがそんなに好きではなくて、思わず舌を鳴らしてしまっていた。
しかも上着を脱げば、すぐに分かってしまう場所……すごく面倒くさい。
「すごい嫌そうな顔するねぇ、ショウちゃん」
「だってヤなんだもん」
「かわいくない?」
「ない!」
むぅ、と言い返せば、子どもみたいな翔真の態度がおもしろかったのか、蒼一郎は声を上げて笑い出した。
蒼一郎はのん気に笑っているが、よく考えたら、昼間からいたしちゃっているのがバレバレで、翔真にしたらそれも恥ずかしい。
彼女は翔真と同い年だけれど、学生ではなくて働いているから、明日は月曜日で仕事だし、いつもより早く家を出なければならないと言って、今日はその日のうちにバイバイしたのだ。
「んはは、ショウちゃんのそんな顔、初めて見たー」
「なっ…何それ」
「だってあんま焦ったり慌てたりとか、顔に出さないじゃん」
「ッッ…」
他意なく言う蒼一郎の言葉にも反応してしまって、翔真は次の言葉が出て来ない。
確かに蒼一郎の言うとおりの部分はあるが、わざとそうしているわけではなくて、単に顔に出ないだけのこと。翔真だって人間だから、慌てることも、焦ることも、今みたく言葉を詰まらせてしまうことだって、いくらでもあるのだ。
蒼一郎とは、どうも自分とのタイミングというかテンポが違うせいか、思わずそういったことが表に出てしまうのかもしれない。
だからといって蒼一郎のことが嫌いだとか、感情が顔に出るのが嫌だとか、そういったことはないのだけれど、それをいちいち指摘されるのは、何だか恥ずかしい。
「でも、ショウちゃんのそういう顔もいいよね。あ、明日から涼しい日が続くといいけどねー」
「え? あ、う……そだね…」
天気が悪くて涼しければ、首元を隠すような服装を着ていっても、不審には思われないから。
おそらくそんなつもりで言ったのだろう、蒼一郎の言葉に、翔真は顔を赤くしながら何とか返事をした。
蒼一郎の前では、どうしてか、らしくない自分しか出せない。
翔真が彼女とのデートから帰って来ると、ちょうど部屋の前で鍵を開けている蒼一郎と出くわした。
「あ、お帰りショウちゃん」
「…て、お前も今帰って来たとこじゃねぇの?」
「そう。ただいまー!」
部屋のもう1人の住人が一緒にドアの前にいるのだから、当然室内には誰もいないというのに、蒼一郎は元気に挨拶をして中に入った。
「ショウちゃん、彼女とデートだったの?」
「はぇ!?」
ベッドの上でカバンを開けて、2泊分の荷物を片付けていた蒼一郎が、上着を片付けて戻って来た翔真に、不意にそんなことを尋ねた。
彼女の存在も、確かに今日デートだったことも、別に隠すつもりはないからいいんだけれど、今までデート帰りでも蒼一郎にそんなことを聞かれたことがなかったから、ビックリして変な声を上げてしまった。
「あー…いや、別に追及するつもりはないんだけど、あの…ここ」
「え?」
何となく気まずそうに蒼一郎が、自分の首元を指差す。
それでもまだよく分からなくて、翔真が首を傾げていれば、蒼一郎は一瞬、視線を彷徨わせた後、口を開いた。
「いや、随分積極的な彼女だなぁ、て…」
「えっ!?」
ようやく蒼一郎の言いたいことが分かって、翔真が慌てて鏡を覗き込めば、確かに蒼一郎が指し示した個所には、クッキリとまではいかないが、明らかにそれと分かる痕……キスマークが付けられていた。
「チッ…」
自己主張のつもりか、独占欲の表れか、けれど翔真はキスマークを付けられるのがそんなに好きではなくて、思わず舌を鳴らしてしまっていた。
しかも上着を脱げば、すぐに分かってしまう場所……すごく面倒くさい。
「すごい嫌そうな顔するねぇ、ショウちゃん」
「だってヤなんだもん」
「かわいくない?」
「ない!」
むぅ、と言い返せば、子どもみたいな翔真の態度がおもしろかったのか、蒼一郎は声を上げて笑い出した。
蒼一郎はのん気に笑っているが、よく考えたら、昼間からいたしちゃっているのがバレバレで、翔真にしたらそれも恥ずかしい。
彼女は翔真と同い年だけれど、学生ではなくて働いているから、明日は月曜日で仕事だし、いつもより早く家を出なければならないと言って、今日はその日のうちにバイバイしたのだ。
「んはは、ショウちゃんのそんな顔、初めて見たー」
「なっ…何それ」
「だってあんま焦ったり慌てたりとか、顔に出さないじゃん」
「ッッ…」
他意なく言う蒼一郎の言葉にも反応してしまって、翔真は次の言葉が出て来ない。
確かに蒼一郎の言うとおりの部分はあるが、わざとそうしているわけではなくて、単に顔に出ないだけのこと。翔真だって人間だから、慌てることも、焦ることも、今みたく言葉を詰まらせてしまうことだって、いくらでもあるのだ。
蒼一郎とは、どうも自分とのタイミングというかテンポが違うせいか、思わずそういったことが表に出てしまうのかもしれない。
だからといって蒼一郎のことが嫌いだとか、感情が顔に出るのが嫌だとか、そういったことはないのだけれど、それをいちいち指摘されるのは、何だか恥ずかしい。
「でも、ショウちゃんのそういう顔もいいよね。あ、明日から涼しい日が続くといいけどねー」
「え? あ、う……そだね…」
天気が悪くて涼しければ、首元を隠すような服装を着ていっても、不審には思われないから。
おそらくそんなつもりで言ったのだろう、蒼一郎の言葉に、翔真は顔を赤くしながら何とか返事をした。
蒼一郎の前では、どうしてか、らしくない自分しか出せない。
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