恋するカレンダー12題
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5月 名前を呼ぶと目で威嚇する。 (4)
2009.03.22 Sun
どうも調子が出ない……と、翔真はこっそり溜め息をついて、風呂に向かおうとした、その背後。
「あれ、これ何? ショウちゃん?」
これ何? の時点で部屋を出てしまっておけばよかった、最後に"ショウちゃん"と呼ばれて、聞き流すわけにはいかなくなってしまった。
「何?」
「これ。ショウちゃんから?」
振り返った先、蒼一郎が手にしていたのは、翔真が机の上に上げておいたそれほど大きくもない包み。キレイにラッピングされていたそれは、訳あって少々崩れている。
「あー……真大が…」
「え、真大?」
昨日、翔真しかいないこの部屋に飛び込んできた真大は、翔真との言い合いの末、手にしていたその包みを翔真に投げ付けて、部屋を出ていったのだ。
真大もこの寮に住んでいるから、返しに行こうと思えば出来るが、翔真が行ったところで会ってくれるかどうかも分からないし、それに本当に必要なものなら、嫌でも自分から取りに来るだろう。そうでなくても蒼一郎に持たせればいいと思ったのだ。
それに、昨日真大がここに来たとき、『そーちゃーん!! お誕生日、おめでとー!!!』と元気いっぱいに叫んでいたので、もしかしたらこの包みは、蒼一郎への誕生日プレゼントなのかもしれないという気持ちもあった。
「蒼、誕生日なの?」
「うん、ありがとー」
「え、いや…」
まだ、おめでとうとは言ってないけど…。
「誕生日プレゼントってこと? 真大から?」
「…分かんない。昨日、誕生日おめでとうて言いながら、ここに来たから」
「で、これ置いてったんだ?」
「置いてったっていうか……うん、あの…うん」
怒りに任せて投げ付けていったとは、何となく言い出しづらくて、翔真は黙っていた。
「そっか、じゃあ明日、お礼言っとかなきゃな。でもさぁ、ショウちゃんしかいなかったのに、真大、よく置いてったね? ちょっとはショウちゃんのこと、好きになったのかな?」
「いや…」
むしろその逆ですよ、とは言っていいものかどうか、分からない。
ちょっとは好きになったどころか、前よりも盛大に嫌われてしまった。いや、別にいいんですけどね…………多分。
「でも蒼ゴメン、俺、何も用意してなかった…」
「え、いいよ、別に。誕生日がいつだなんて教えてなかったし。じゃあ、来年は期待しちゃおっかなー、あはは」
「……期待に応えられるように、がんばります…。あ、もしかして誕生日だから出掛けてたんだ? 何かすげぇ嬉しそうにしてたもんな」
金曜の夜、ウキウキそわそわと出掛けて行った蒼一郎を思い出す。
今となっては、それが誕生日を誰かと過ごすためだったのだと、分かる。いや、"誰か"なんて、あのウキウキ加減から言ったら、恋人しかいないだろうけど。
「えへへー、郁、1人暮らしだしねー」
「へー……、………………へぇ?」
……郁?
「あれ、これ何? ショウちゃん?」
これ何? の時点で部屋を出てしまっておけばよかった、最後に"ショウちゃん"と呼ばれて、聞き流すわけにはいかなくなってしまった。
「何?」
「これ。ショウちゃんから?」
振り返った先、蒼一郎が手にしていたのは、翔真が机の上に上げておいたそれほど大きくもない包み。キレイにラッピングされていたそれは、訳あって少々崩れている。
「あー……真大が…」
「え、真大?」
昨日、翔真しかいないこの部屋に飛び込んできた真大は、翔真との言い合いの末、手にしていたその包みを翔真に投げ付けて、部屋を出ていったのだ。
真大もこの寮に住んでいるから、返しに行こうと思えば出来るが、翔真が行ったところで会ってくれるかどうかも分からないし、それに本当に必要なものなら、嫌でも自分から取りに来るだろう。そうでなくても蒼一郎に持たせればいいと思ったのだ。
それに、昨日真大がここに来たとき、『そーちゃーん!! お誕生日、おめでとー!!!』と元気いっぱいに叫んでいたので、もしかしたらこの包みは、蒼一郎への誕生日プレゼントなのかもしれないという気持ちもあった。
「蒼、誕生日なの?」
「うん、ありがとー」
「え、いや…」
まだ、おめでとうとは言ってないけど…。
「誕生日プレゼントってこと? 真大から?」
「…分かんない。昨日、誕生日おめでとうて言いながら、ここに来たから」
「で、これ置いてったんだ?」
「置いてったっていうか……うん、あの…うん」
怒りに任せて投げ付けていったとは、何となく言い出しづらくて、翔真は黙っていた。
「そっか、じゃあ明日、お礼言っとかなきゃな。でもさぁ、ショウちゃんしかいなかったのに、真大、よく置いてったね? ちょっとはショウちゃんのこと、好きになったのかな?」
「いや…」
むしろその逆ですよ、とは言っていいものかどうか、分からない。
ちょっとは好きになったどころか、前よりも盛大に嫌われてしまった。いや、別にいいんですけどね…………多分。
「でも蒼ゴメン、俺、何も用意してなかった…」
「え、いいよ、別に。誕生日がいつだなんて教えてなかったし。じゃあ、来年は期待しちゃおっかなー、あはは」
「……期待に応えられるように、がんばります…。あ、もしかして誕生日だから出掛けてたんだ? 何かすげぇ嬉しそうにしてたもんな」
金曜の夜、ウキウキそわそわと出掛けて行った蒼一郎を思い出す。
今となっては、それが誕生日を誰かと過ごすためだったのだと、分かる。いや、"誰か"なんて、あのウキウキ加減から言ったら、恋人しかいないだろうけど。
「えへへー、郁、1人暮らしだしねー」
「へー……、………………へぇ?」
……郁?
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カテゴリー:恋するカレンダー12題
テーマ:自作BL小説 ジャンル:小説・文学
5月 名前を呼ぶと目で威嚇する。 (5)
2009.03.23 Mon
郁て、あの、この部屋にときどき遊びに来る、蒼一郎が学校でもよく一緒にいる、佐野郁雅?
カフェテリアとかで、フレンドリーさ満載の蒼一郎が、人目も気にせず翔真に向かって手を振ってるのを必死に止めようとする、あの佐野郁雅?
翔真に嫌悪感丸出しの真大と違って、ちゃんと常識を身に着けてて、年齢のわりには大人っぽく見える、あの郁雅?
「ちょっと待って、蒼」
「何?」
「あー……えっと、蒼、この週末、郁んとこ行ってたの?」
「そうだよ?」
「郁、て……あの佐野郁雅?」
「うん」
念のためにと翔真が聞き返しても、蒼一郎は間違いなく、翔真が想像しているとおりの佐野郁雅だという。
「え、お前、誕生日に郁と一緒だったの?」
「そうだよ」
恐る恐るの翔真の問いにも、蒼一郎はあっさりと答える。
金曜の夜に、あんなにウキウキとしながら出掛けて行った先が、郁雅の家? いや、友だちなんだし、郁雅の家に何かとってもすてきなものがあって、それを楽しみにしてたのかもしれないけれど、でも誕生日に?
誕生日は、友だちと過ごす派?
あ、いや、彼女いないんだったら、別にそこは追及するとこじゃないよね。
そうだよね、そういうことだよね。
「そりゃだって、やっぱ誕生日は恋人と過ごしたいじゃん?」
何とか自分の中でそれなりの答えを導き出した翔真に、蒼一郎から追い打ちを掛ける一言が。
思考回路が、止まり掛ける、
いや、いっそ止まってしまえばよかった。
もしくは、何も気付かないくらい鈍感だったらよかった。『そっかー』て、笑い流せればよかった。
「ちょ、蒼、ちょっ、あの、」
「え、何? どうしたの?」
「どうしたの、て…」
今、さらっとカミングアウトしたよね?
気付いてない?
もしくは、重苦しい空気じゃ言い出しにくいから、わざとそんなふうに言ったの?
で、俺にどんな反応を望んでるの?
「蒼一郎、お前は今、自分が何を口走ったか、分かっているか?」
「ぅん?」
いや、分かってない!
翔真は、本気でこの能天気男を呪いたくなった。
深い溜め息をつく翔真に、何も分かってない様子の蒼一郎が、どうしたのー? なんて顔を覗き込んでくる。
「なぁ蒼、お前…………郁と付き合ってんの?」
「………………、うぇっ!?」
それでもドア越しに誰かに聞かれやしないかと、翔真がうんと声を潜めて尋ねれば、数秒の沈黙の後、蒼一郎は変な声を上げて、その場から飛び退いた。
しかも足元なんてまるで見ていないもんだから、部屋の真ん中に置いてあったローテーブルに思い切り引っかかって、蒼一郎は間抜けな格好で床に転がった。バカすぎる。
「なななな何でショウちゃんが知ってんの!?」
「バカ、お前が今言ったんだよ!」
驚愕と、テーブルに足をぶつけた痛みで、蒼一郎は起き上がれないままの蒼一郎に、翔真も自然と声が大きくなってしまう。
カフェテリアとかで、フレンドリーさ満載の蒼一郎が、人目も気にせず翔真に向かって手を振ってるのを必死に止めようとする、あの佐野郁雅?
翔真に嫌悪感丸出しの真大と違って、ちゃんと常識を身に着けてて、年齢のわりには大人っぽく見える、あの郁雅?
「ちょっと待って、蒼」
「何?」
「あー……えっと、蒼、この週末、郁んとこ行ってたの?」
「そうだよ?」
「郁、て……あの佐野郁雅?」
「うん」
念のためにと翔真が聞き返しても、蒼一郎は間違いなく、翔真が想像しているとおりの佐野郁雅だという。
「え、お前、誕生日に郁と一緒だったの?」
「そうだよ」
恐る恐るの翔真の問いにも、蒼一郎はあっさりと答える。
金曜の夜に、あんなにウキウキとしながら出掛けて行った先が、郁雅の家? いや、友だちなんだし、郁雅の家に何かとってもすてきなものがあって、それを楽しみにしてたのかもしれないけれど、でも誕生日に?
誕生日は、友だちと過ごす派?
あ、いや、彼女いないんだったら、別にそこは追及するとこじゃないよね。
そうだよね、そういうことだよね。
「そりゃだって、やっぱ誕生日は恋人と過ごしたいじゃん?」
何とか自分の中でそれなりの答えを導き出した翔真に、蒼一郎から追い打ちを掛ける一言が。
思考回路が、止まり掛ける、
いや、いっそ止まってしまえばよかった。
もしくは、何も気付かないくらい鈍感だったらよかった。『そっかー』て、笑い流せればよかった。
「ちょ、蒼、ちょっ、あの、」
「え、何? どうしたの?」
「どうしたの、て…」
今、さらっとカミングアウトしたよね?
気付いてない?
もしくは、重苦しい空気じゃ言い出しにくいから、わざとそんなふうに言ったの?
で、俺にどんな反応を望んでるの?
「蒼一郎、お前は今、自分が何を口走ったか、分かっているか?」
「ぅん?」
いや、分かってない!
翔真は、本気でこの能天気男を呪いたくなった。
深い溜め息をつく翔真に、何も分かってない様子の蒼一郎が、どうしたのー? なんて顔を覗き込んでくる。
「なぁ蒼、お前…………郁と付き合ってんの?」
「………………、うぇっ!?」
それでもドア越しに誰かに聞かれやしないかと、翔真がうんと声を潜めて尋ねれば、数秒の沈黙の後、蒼一郎は変な声を上げて、その場から飛び退いた。
しかも足元なんてまるで見ていないもんだから、部屋の真ん中に置いてあったローテーブルに思い切り引っかかって、蒼一郎は間抜けな格好で床に転がった。バカすぎる。
「なななな何でショウちゃんが知ってんの!?」
「バカ、お前が今言ったんだよ!」
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5月 名前を呼ぶと目で威嚇する。 (6)
2009.03.24 Tue
あぁ、もう、何てことだ!
やっぱり最初から聞かなかったふりで、部屋を出ていってしまえばよかったんだ。
「お前さぁ……俺だからいいようなものの…」
翔真が呆れたような声を出せば、まだぶつけた足が痛いのか、蒼一郎は足をさすりながらようやく体を起こした。
「ショウちゃん~、俺ぇ~」
「あー、もう! いいって! 別に俺、そういうの気になんないし。誰にも言うつもりないから」
心底呆れているのは確かだが、男同士というのを気にならないというのも、蒼一郎と郁雅のことを誰にも言うつもりがないのも本心だ。
「俺の友……知り合いに、男同士で付き合ってる人いるけど、別に変だとも思わないし、キモイとも思わないよ」
「ショウちゃん~!!」
「だからさっさと泣き止んで、鼻かめ!!」
自覚なしにカミングアウトをしてしまっていたショックと、意外にもあっさりと理解を示してくれた翔真に、蒼一郎の涙腺はすっかり壊れてしまったのか、ボタボタと涙を零している……し、鼻水も垂れている。
そばにあったティシューの箱を投げ付けてやれば、蒼一郎は思い切り鼻をかんだ。
「ったく、浮かれた拍子に、他のヤツにまで喋るなよ?」
「気を付けるよー」
まだ鼻をグズグズさせながら、蒼一郎が頭を下げた。
「で、郁とはいつから付き合ってるわけ?」
「えぇ!?」
人のそんな話、興味なんかないほうなんだけど、まぁいろいろとお騒がせされたから、何となくその仕返しに聞いてやる! て、翔真が蒼一郎の顔を覗けば、蒼一郎はひどく困惑した表情をしていた。
「…聞いてどうすんの?」
「どうもしないけど。興味本位。だって郁とは1個違うんだろ? どこで知り合ったのかなーて」
「高校一緒だから。郁が大学入る前から、付き合ってたの」
「へー。え、もしかして郁と一緒にいたくて留年したとか?」
「違う! それは本気で単位が足りなかったから! 出来れば俺は、ずっと先輩面してたかったの!」
蒼一郎は必死で否定するが、そうだとしても、その理由だって、そんなに大きな声で言えるようなものではないと思う。
話だけ聞くと、ずいぶん蒼一郎が郁雅に惚れているようだけれど、わざわざ恋人を追って同じ大学に入学した郁雅だって、十二分に蒼一郎のことが好きなんだろう。
一途同士というわけだ。
「ま、別にお前らの恋路を邪魔するつもりはないけどさ、あーでも次に郁がここに遊びに来たとき、何か意識しちゃいそう…」
「え、ダメ! ショウちゃんがライバルになったら、俺、敵わないかもしれないから!」
「そういう意味の意識じゃねぇよ!」
冗談でボケているのか、本気で言っているのか、蒼一郎の言葉は、いまいち分かりづらい。
でも多分本気だろうな、と翔真は思う。
蒼一郎は、チャラい見た目に反して、真面目でしっかり者だが、どこか抜けている。何が抜けているかといえば、おそらくは頭のネジが1本くらい。
だからこそ、本当のしっかり者である郁雅が放っておけないのかも。
「あ、てかさ、真大は…?」
「え?」
真大が友情からか恋心からかは分からないが、殊に蒼一郎のことを気に入っているのは、今さら確認するまでもないことだ。
彼は蒼一郎と郁雅の関係を知っているのだろうか。
いや、知らないからこそ、あんなに無邪気に、無邪気な振りでそばにいれるのだろう。
「知ってんの? 蒼と郁のこと…」
「言ってないから、知らないかも」
「アイツ、すげぇ蒼のこと気に入ってるじゃん」
「……、そうだね」
やっぱり最初から聞かなかったふりで、部屋を出ていってしまえばよかったんだ。
「お前さぁ……俺だからいいようなものの…」
翔真が呆れたような声を出せば、まだぶつけた足が痛いのか、蒼一郎は足をさすりながらようやく体を起こした。
「ショウちゃん~、俺ぇ~」
「あー、もう! いいって! 別に俺、そういうの気になんないし。誰にも言うつもりないから」
心底呆れているのは確かだが、男同士というのを気にならないというのも、蒼一郎と郁雅のことを誰にも言うつもりがないのも本心だ。
「俺の友……知り合いに、男同士で付き合ってる人いるけど、別に変だとも思わないし、キモイとも思わないよ」
「ショウちゃん~!!」
「だからさっさと泣き止んで、鼻かめ!!」
自覚なしにカミングアウトをしてしまっていたショックと、意外にもあっさりと理解を示してくれた翔真に、蒼一郎の涙腺はすっかり壊れてしまったのか、ボタボタと涙を零している……し、鼻水も垂れている。
そばにあったティシューの箱を投げ付けてやれば、蒼一郎は思い切り鼻をかんだ。
「ったく、浮かれた拍子に、他のヤツにまで喋るなよ?」
「気を付けるよー」
まだ鼻をグズグズさせながら、蒼一郎が頭を下げた。
「で、郁とはいつから付き合ってるわけ?」
「えぇ!?」
人のそんな話、興味なんかないほうなんだけど、まぁいろいろとお騒がせされたから、何となくその仕返しに聞いてやる! て、翔真が蒼一郎の顔を覗けば、蒼一郎はひどく困惑した表情をしていた。
「…聞いてどうすんの?」
「どうもしないけど。興味本位。だって郁とは1個違うんだろ? どこで知り合ったのかなーて」
「高校一緒だから。郁が大学入る前から、付き合ってたの」
「へー。え、もしかして郁と一緒にいたくて留年したとか?」
「違う! それは本気で単位が足りなかったから! 出来れば俺は、ずっと先輩面してたかったの!」
蒼一郎は必死で否定するが、そうだとしても、その理由だって、そんなに大きな声で言えるようなものではないと思う。
話だけ聞くと、ずいぶん蒼一郎が郁雅に惚れているようだけれど、わざわざ恋人を追って同じ大学に入学した郁雅だって、十二分に蒼一郎のことが好きなんだろう。
一途同士というわけだ。
「ま、別にお前らの恋路を邪魔するつもりはないけどさ、あーでも次に郁がここに遊びに来たとき、何か意識しちゃいそう…」
「え、ダメ! ショウちゃんがライバルになったら、俺、敵わないかもしれないから!」
「そういう意味の意識じゃねぇよ!」
冗談でボケているのか、本気で言っているのか、蒼一郎の言葉は、いまいち分かりづらい。
でも多分本気だろうな、と翔真は思う。
蒼一郎は、チャラい見た目に反して、真面目でしっかり者だが、どこか抜けている。何が抜けているかといえば、おそらくは頭のネジが1本くらい。
だからこそ、本当のしっかり者である郁雅が放っておけないのかも。
「あ、てかさ、真大は…?」
「え?」
真大が友情からか恋心からかは分からないが、殊に蒼一郎のことを気に入っているのは、今さら確認するまでもないことだ。
彼は蒼一郎と郁雅の関係を知っているのだろうか。
いや、知らないからこそ、あんなに無邪気に、無邪気な振りでそばにいれるのだろう。
「知ってんの? 蒼と郁のこと…」
「言ってないから、知らないかも」
「アイツ、すげぇ蒼のこと気に入ってるじゃん」
「……、そうだね」
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5月 名前を呼ぶと目で威嚇する。 (7)
2009.03.25 Wed
真大が蒼一郎に抱いている想いは、恋心かもしれない。
でなきゃ、いくら仲のいい友だちだって、あんなにベッタリはしない。
翔真だって、亮や和衣たちとはよくつるむけれど、真大のあのひっ付き方は、やっぱり単なる友情ではない。
真大は蒼一郎と郁雅の関係を知らないようだから、単純に自分が蒼一郎に片思いをしているだけだと思っているのだろう。
(片思い…)
翔真は、ハタと気が付いた。
もしかして真大は、同室の翔真も、蒼一郎にそういった想いを向けていると思っているのではないだろうか。
蒼一郎への片想い同士。つまりライバル。
だから、翔真のことが嫌いで、あんな態度を取る。
(冗談だろ…?)
もしそんなふうに思われているのだとしたら、とんでもない勘違いだ。
翔真は、確かに男同士の恋愛に偏見はないし、蒼一郎のことも嫌いではないけれど、それは飽くまで友情であって、恋愛感情ではない。
だったらいっそ、蒼一郎のことは友だちだとしか思ってない、て言ってやればいいのだろうか。
けれど蒼一郎には郁雅という恋人がいて、結局は真大の片想いは儚く終わってしまう。彼の想いが実れば、他に悲しむ人が出てくる。
「はぁ…」
「また、何かされた?」
「え?」
こっそりとついたはずの溜め息は、どうやら隣の祐介にはバレていたらしい。チラリと視線を向ければ、「ん?」と祐介は小首を傾げた。
意外と男らしい性格をしている祐介は、けれど時おり女性的な仕草を見せる。前にそれとなくそんな話をしたら、『妹が2人いるからかなぁ』なんてのん気な返事が返ってきた。
「真大くん」
「あー…」
翔真の溜め息の意味を、やはり祐介は気付いていたらしい。
まだ教授が来ないことを確認しつつ、祐介の隣にいる和衣を見れば、前の座席にいる睦月と何やらコソコソ話をしていて、亮が話の輪に加わろうとすると、「ダメ!」と追っ払っている。
きっと、祐介と一緒に出掛ける場所だとか、プレゼントだとか、何かそんなことを相談し合っているのだろう。亮より祐介の存在を気にしたほうがいい気はするが。
とりあえず周りがこちらを気にしていないのが分かって、翔真は重たい口を開いた。
「別に何かされたってわけじゃ……相変わらずだよ」
例の一件以来、さらに嫌われてしまったのだろうと思っていたが、真大の態度に変化はない。
顔を合わせれば、露骨に嫌な表情をされたり、睨まれたりはされるが、それ以上は何もないのだ。
ときどきなぜか蒼一郎がすまなそうに謝って来ることがあるけれど、蒼一郎が悪いわけではないので、『心配すんな』て言っている。
そんなことしてたら、そのうち肝心の蒼一郎にまで愛想を尽かされるんじゃないかとも思うが、それを真大に伝える術はないし、そんな優しい気持ちも更々持ち合わせていなかった。
「そのわりには、随分参ってる感じじゃない?」
「…ハハ、バレた?」
「わけもなく嫌われる、て、何かヤダね」
「……うん」
いや、理由は何となく分かって来たけれど。
でも誤解を解くことすらできなくて、どうしたらいいか、もどかしい。
別に無理に好かれたいとは思っていなかったけれど、そうやって過ごすのも、意外とストレスが溜まるものだって気が付いた。
「あんまり溜め込み過ぎないほうがいいよ」
「…サンキュ」
亮や和衣の前では、真大はあからさまなことをしないので、時々しか会わない2人は真大の翔真に対する態度に気付いていない。
もちろん、祐介だって亮や和衣と同じくらいにしか真大に会っていないけれど、高校時代の思い出や懐かしさがなく、先入観なしに真大を見ているせいか、祐也の態度に気が付いて、さりげなく気を遣ってくれるから、ありがたい。
ちなみに、そういう意味では同じ立場であるはずの睦月は、やはりまるで気付いていないようで、そこが睦月らしかった。
「何の話~?」
「何でもねぇよ」
睦月たちに相手にされない亮が翔真たちを振り返ったのと、和衣と睦月が「それ超いい作戦!」て笑い合ったのと、教授が入って来たのはほぼ同時だった。
でなきゃ、いくら仲のいい友だちだって、あんなにベッタリはしない。
翔真だって、亮や和衣たちとはよくつるむけれど、真大のあのひっ付き方は、やっぱり単なる友情ではない。
真大は蒼一郎と郁雅の関係を知らないようだから、単純に自分が蒼一郎に片思いをしているだけだと思っているのだろう。
(片思い…)
翔真は、ハタと気が付いた。
もしかして真大は、同室の翔真も、蒼一郎にそういった想いを向けていると思っているのではないだろうか。
蒼一郎への片想い同士。つまりライバル。
だから、翔真のことが嫌いで、あんな態度を取る。
(冗談だろ…?)
もしそんなふうに思われているのだとしたら、とんでもない勘違いだ。
翔真は、確かに男同士の恋愛に偏見はないし、蒼一郎のことも嫌いではないけれど、それは飽くまで友情であって、恋愛感情ではない。
だったらいっそ、蒼一郎のことは友だちだとしか思ってない、て言ってやればいいのだろうか。
けれど蒼一郎には郁雅という恋人がいて、結局は真大の片想いは儚く終わってしまう。彼の想いが実れば、他に悲しむ人が出てくる。
「はぁ…」
「また、何かされた?」
「え?」
こっそりとついたはずの溜め息は、どうやら隣の祐介にはバレていたらしい。チラリと視線を向ければ、「ん?」と祐介は小首を傾げた。
意外と男らしい性格をしている祐介は、けれど時おり女性的な仕草を見せる。前にそれとなくそんな話をしたら、『妹が2人いるからかなぁ』なんてのん気な返事が返ってきた。
「真大くん」
「あー…」
翔真の溜め息の意味を、やはり祐介は気付いていたらしい。
まだ教授が来ないことを確認しつつ、祐介の隣にいる和衣を見れば、前の座席にいる睦月と何やらコソコソ話をしていて、亮が話の輪に加わろうとすると、「ダメ!」と追っ払っている。
きっと、祐介と一緒に出掛ける場所だとか、プレゼントだとか、何かそんなことを相談し合っているのだろう。亮より祐介の存在を気にしたほうがいい気はするが。
とりあえず周りがこちらを気にしていないのが分かって、翔真は重たい口を開いた。
「別に何かされたってわけじゃ……相変わらずだよ」
例の一件以来、さらに嫌われてしまったのだろうと思っていたが、真大の態度に変化はない。
顔を合わせれば、露骨に嫌な表情をされたり、睨まれたりはされるが、それ以上は何もないのだ。
ときどきなぜか蒼一郎がすまなそうに謝って来ることがあるけれど、蒼一郎が悪いわけではないので、『心配すんな』て言っている。
そんなことしてたら、そのうち肝心の蒼一郎にまで愛想を尽かされるんじゃないかとも思うが、それを真大に伝える術はないし、そんな優しい気持ちも更々持ち合わせていなかった。
「そのわりには、随分参ってる感じじゃない?」
「…ハハ、バレた?」
「わけもなく嫌われる、て、何かヤダね」
「……うん」
いや、理由は何となく分かって来たけれど。
でも誤解を解くことすらできなくて、どうしたらいいか、もどかしい。
別に無理に好かれたいとは思っていなかったけれど、そうやって過ごすのも、意外とストレスが溜まるものだって気が付いた。
「あんまり溜め込み過ぎないほうがいいよ」
「…サンキュ」
亮や和衣の前では、真大はあからさまなことをしないので、時々しか会わない2人は真大の翔真に対する態度に気付いていない。
もちろん、祐介だって亮や和衣と同じくらいにしか真大に会っていないけれど、高校時代の思い出や懐かしさがなく、先入観なしに真大を見ているせいか、祐也の態度に気が付いて、さりげなく気を遣ってくれるから、ありがたい。
ちなみに、そういう意味では同じ立場であるはずの睦月は、やはりまるで気付いていないようで、そこが睦月らしかった。
「何の話~?」
「何でもねぇよ」
睦月たちに相手にされない亮が翔真たちを振り返ったのと、和衣と睦月が「それ超いい作戦!」て笑い合ったのと、教授が入って来たのはほぼ同時だった。
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6月 離れて歩くずぶ濡れ相合傘。 (1)
2009.03.26 Thu
最近、天気予報がよく当たる。
今年の梅雨は雨が少ない、と言ったら、本当に空梅雨になった。6月に入ってからも、雨が降った日なんて殆どなくて、晴天ばかりが続いている。
「今日も天気いーね」
「昨日、良純さんが晴れるって言ってたもん」
「ヨシズミさんて誰?」
むっちゃんの知り合いの人? と不思議そうな顔をしている和衣は、どうやら睦月とは違う局の天気予報を見ているらしい。
「あー、日曜日も晴れるといいなぁ…」
「ゆっちとデート?」
「うん。晴れるかな? 晴れるよね?」
そればかりは睦月に聞かれたって、何とも答えてみようがないが、和衣が『晴れるよ』て答えを待っているのが分かったので、睦月は適当に「晴れるんじゃない?」と返しておいた。
「でも雨降ったらどうしよー…。梅雨だもんね、降るかもだよね?」
「…晴れるってば。てか、いいじゃん、降ったって」
「ダメ、遊園地行くんだもん」
雨が降っても行けなくはないが、やはり晴れているよりは十分に楽しめない。だからどうしても晴れてほしいと、和衣はずっと願っているのだ。
「…へぇ。じゃあ、てるてる坊主でも作れば?」
「! そうする!」
睦月は冗談半分で言ったのだけれど、和衣はその言葉を真に受けて、授業終わったら即行帰っててるてる坊主作る! と意気込んだ。
ちなみに、睦月の言葉の半分は冗談だったけれど、残りの半分は本気で、日曜日に晴れて和衣と祐介が遊園地に行けばいいと思ってのことだ。
(ゆっち、絶叫系とか超苦手だもんなぁ。カズちゃんの前でどんな反応すんのか、超見たい…!)
けれど、その半分の本気は、そんな動機から来るものだったが。
「むっちゃん、何笑ってんの?」
情けない顔をする幼馴染みの顔を想像していたら、思わず笑ってしまっていたらしい。
睦月は慌てて緩んだ口元を引き締めた。
「亮ー、俺らも日曜日、出掛けるー?」
教授のところに寄っていた祐介がやって来て、和衣がそっちに気を取られたのをいいことに、睦月は机に突っ伏してウトウトしていた亮に声を掛けた。
「ん? どこ行きたい?」
「遊園地ー。そんで、いっぱい絶叫マシン乗る」
「え、無理無理無理無理」
眠そうな顔をしていたくせに、睦月の口から"絶叫マシン"という言葉が出た途端、亮は急に真顔になって、思い切り拒否してきた。
「苦手なの?」
「ウン」
「…ちょっとはカッコつけて、『そんなことないよ』とか言えよ」
昔から亮は、お化けと注射とジェットコースターは、大嫌いだった。睦月の前ではカッコいい男でいたいとは思うけれど、苦手なものは苦手だ。
「じゃあショウちゃん、一緒に行くー?」
「え? 遊園地? いいけど?」
「え、ちょっ」
あっさりとOKの返事を出す翔真に、亮は慌ててそれを遮った。
絶叫マシンには乗りたくないが、翔真を睦月と一緒には出掛けさせたくはない。
「ヤダ、ショウちゃんと行く。俺、絶叫マシン乗りたい」
で、絶叫マシンに乗りたくなくて怖がってるゆっちを見たい!
「…むっちゃん、一緒に行くのはいいけど、何か別のこと企んでない?」
今年の梅雨は雨が少ない、と言ったら、本当に空梅雨になった。6月に入ってからも、雨が降った日なんて殆どなくて、晴天ばかりが続いている。
「今日も天気いーね」
「昨日、良純さんが晴れるって言ってたもん」
「ヨシズミさんて誰?」
むっちゃんの知り合いの人? と不思議そうな顔をしている和衣は、どうやら睦月とは違う局の天気予報を見ているらしい。
「あー、日曜日も晴れるといいなぁ…」
「ゆっちとデート?」
「うん。晴れるかな? 晴れるよね?」
そればかりは睦月に聞かれたって、何とも答えてみようがないが、和衣が『晴れるよ』て答えを待っているのが分かったので、睦月は適当に「晴れるんじゃない?」と返しておいた。
「でも雨降ったらどうしよー…。梅雨だもんね、降るかもだよね?」
「…晴れるってば。てか、いいじゃん、降ったって」
「ダメ、遊園地行くんだもん」
雨が降っても行けなくはないが、やはり晴れているよりは十分に楽しめない。だからどうしても晴れてほしいと、和衣はずっと願っているのだ。
「…へぇ。じゃあ、てるてる坊主でも作れば?」
「! そうする!」
睦月は冗談半分で言ったのだけれど、和衣はその言葉を真に受けて、授業終わったら即行帰っててるてる坊主作る! と意気込んだ。
ちなみに、睦月の言葉の半分は冗談だったけれど、残りの半分は本気で、日曜日に晴れて和衣と祐介が遊園地に行けばいいと思ってのことだ。
(ゆっち、絶叫系とか超苦手だもんなぁ。カズちゃんの前でどんな反応すんのか、超見たい…!)
けれど、その半分の本気は、そんな動機から来るものだったが。
「むっちゃん、何笑ってんの?」
情けない顔をする幼馴染みの顔を想像していたら、思わず笑ってしまっていたらしい。
睦月は慌てて緩んだ口元を引き締めた。
「亮ー、俺らも日曜日、出掛けるー?」
教授のところに寄っていた祐介がやって来て、和衣がそっちに気を取られたのをいいことに、睦月は机に突っ伏してウトウトしていた亮に声を掛けた。
「ん? どこ行きたい?」
「遊園地ー。そんで、いっぱい絶叫マシン乗る」
「え、無理無理無理無理」
眠そうな顔をしていたくせに、睦月の口から"絶叫マシン"という言葉が出た途端、亮は急に真顔になって、思い切り拒否してきた。
「苦手なの?」
「ウン」
「…ちょっとはカッコつけて、『そんなことないよ』とか言えよ」
昔から亮は、お化けと注射とジェットコースターは、大嫌いだった。睦月の前ではカッコいい男でいたいとは思うけれど、苦手なものは苦手だ。
「じゃあショウちゃん、一緒に行くー?」
「え? 遊園地? いいけど?」
「え、ちょっ」
あっさりとOKの返事を出す翔真に、亮は慌ててそれを遮った。
絶叫マシンには乗りたくないが、翔真を睦月と一緒には出掛けさせたくはない。
「ヤダ、ショウちゃんと行く。俺、絶叫マシン乗りたい」
で、絶叫マシンに乗りたくなくて怖がってるゆっちを見たい!
「…むっちゃん、一緒に行くのはいいけど、何か別のこと企んでない?」
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