恋三昧

【18禁】 BL小説取り扱い中。苦手なかた、「BL」という言葉に聞き覚えのないかた、18歳未満のかたはご遠慮ください。

読み切り中編

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wish (5)


「幸せにしなきゃいけないって、でも幸せとか願い事とかって、自分で叶えるもんじゃん。そりゃ不幸より幸せのほうがいいけど……だからってそうやって叶えてもらうようなもんじゃねぇだろ?」
「……」
「何か今まで成功を手にしたヤツが、実は自分の力じゃなくてみんな天使のおかげだった、とかだったら、何かヤじゃね? 気持ち冷める」
「そうかも、だけど…」

 遥琉はシュンとして項垂れてしまった。
 何となく悪いことしてる気分になるけど、俺の言ってること自体、間違ってないと思う。
 でも言い過ぎた? 変な勧誘とかでなければ、悪気があって言ってるわけじゃないだろうし。

「じゃあ、遠山くんが何か叶えてほしい願い事が出来るまで待ってる!」
「はっ?」

 あのー…俺の言ってたことの意味、通じてた…?
 思わず眩暈がしそうになる。

「今はそう思ってても、ちょっとしたら何か叶えてほしいことと出てくるかもしれないじゃん」
「いや、あのね…」
「だって、だってー、俺、遠山くんのこと幸せにしないと、合格しないんだもん!」

 むぅ、と唇を突き出して、遥琉はテーブルをバンをと叩いた。

「あのさ、俺、今のままでも十分幸せだよ?」
「嘘だ!」
「嘘じゃないって」

 そんな、即行で嘘つき呼ばわりされても…。
 何でそんな俺の幸せを否定したいの?

「もう1年近く彼女がいないのに? 後から入社してきた後輩のほうが成績がいいのに? お盆に実家に帰省するお金もなかったのに!?」
「うっせぇよ!」

 確かに遥琉の言ってることは間違いじゃない。
 けど、そんなにはっきり言われたんじゃ、怒鳴りたくもなる。
 俺が声を荒げれば、遥琉はグッ…と引き下がった。

「とにかくもう帰ってくれよ」

 自分で家に上げたんだけど、話をしてるうちにさすがに苛付いて、乱暴に遥琉に言い放った。
 やっぱりこんな変なヤツ、最初からかかわるんじゃなかった。

「遠山くん…」
「ほっといてくれって。お前から見たらすっげぇ不幸かもしんないけど、俺は今のままで十分だから。お前には悪いけど、そんな勝手に試験の題材にされたんじゃ困るんだよ。分かるだろ?」
「そんな…だって」
「……」
「怒らせてゴメンなさい…。あの…、うん、帰る…」

 さっきまではものすごい勢いだった遥琉は、俺の苛付きをようやく感じ取ったのか、急に大人しくなって、頭を下げると玄関のほうに向かった。
 まさか宙に浮いたまま出て行くのかと思ったが、玄関で地面に下りると、ちゃんと靴を履いて、歩いていった。

 閉じたドア。
 何か悪いことした気になるけど、でも所詮知らないヤツだし、へたに関わってヤバイことになったらマズイし。
 怒鳴ることはなかったかもだけど、仕方がないって自分自身を納得させて、余計なことを考えたくないから、俺はさっさと寝てしまった。

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wish (6)


 はぁー…昨日は変な夢見た。
 天使? 幸せに?
 気付いてないだけで、心の中じゃ、相当自分のこと不幸だって思ってんのかな。

 まぁ考えていても仕方がないから、会社に行くため、いつもどおりの時間に家を出れば。

「え、遥琉…?」

 アパートの出先のところに蹲っているのは、間違いなく夢の中に出てきた自称天使の遥琉。だって俺が貸したジャージ着てるし。
 え、マジ? 夢じゃない?
 夢じゃないとしたら、もしかして一晩ここにいたとか? …マジかよ。

「おい!」

 俺は遥琉の上に降り積もっていた雪を払って、遥琉を起こす。
 とりあえずちゃんと息してるし、熱もないみたいだけど。
 何コイツ。
 何でこんな状態で、こんなにのん気に寝てられるわけ?

「おい、遥琉っ!」
「ん~…あれ…遠山くん…。どぉしたのぉ…?」

 寝惚けた様子の遥琉を、無理やり叩き起こす。
 もし他の誰かが発見したら、えらい騒ぎだぞ、ホント。

「どうしたじゃねぇよ、何してんだ、お前」
「だって…」
「お前、ずっとここにいたのか?」
「…ん」

 遥琉は雪の上に座り込んだまま俯く。
 その熱意はすごいけど、そんなことされても。てか、軽くストーカーぽいし。
 昨日、納得して帰ったんじゃないの?

「お前がいくらそうやってたって、話なら昨日したとおりだし」
「でも! …じゃあ、こっそり!」
「は?」
「こっそり遠山くんのこと幸せにする! 何かハッピーになれるような…」
「もういいから」

 いくら言っても通じないらしい。
 何だか話に付き合うのもバカバカしくなって、俺は遥琉と目線を合わすために屈めていた体を起こした。
 冷たいヤツかもしれないけど、係わりたくないもんは係わりたくない。

「俺さぁ、遅刻するとマズイからもう行くな? お前ももう家に帰れよ?」
「遠山くん…」

 俺は遥琉に背を向けて歩き出した。

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wish (7)


 年末ってこともあって、今日もまた帰宅が遅くなる。辺りはもう真っ暗で、家に着いてみると、当たり前だけど明かりなんかついてないし、誰もいない。
 こういうとき、彼女とか奥さんがいると、「お帰り~」とか「お疲れさま」とか言ってもらえるんだろうなぁ。
 部屋もあったまってるだろうし、もしかしたらご飯とか作ってくれてるかも……て、妄想とか、空しくなるから、やめよう。

「あ、」

 これ、遥琉の服。
 そういえばアイツ、俺のジャージ着てっちゃったんだ。
 まぁ別にジャージくらいいいんだけどさ。つーか持って帰れよ、自分の服。

 にしても、変な服だよな。
 天使の制服なのか? 制服あるのに、俺のジャージとか着てていいわけ?
 いやいや、天使とか! 別に信じてるわけじゃねぇし!

 つーかアイツ、今度こそホントに家に帰ったんだろうな?
 雪降ってるし、本気で風邪引くぞ。
 てか、もしかして行くとこないとか? なのに追い出しちゃったりして……て、別に俺が自己嫌悪に陥る必要とかないし!

 俺は悪くない、俺は悪くない…て、何度も頭の中で繰り返す。
 こんなこと、さっさと忘れちゃえばいいのに、そう思えば思うほど、頭の中を占めるのは――――出て行った遥琉の姿だった。



*****

 翌朝。
 何だかよく眠れなくて、日曜日なのにいつもより早く目が覚めてしまった。寝直そうとしても眠れなくて、結局ふとんを出る。
 ようやく仕事も一段落して、休日出勤をしなくてよくなったけれど、忙しくないと余計なことを考えちまって、それはそれで嫌だった。

 着替えて、新聞を取りに向かう。
 ごく普通の安いアパートは、郵便受けも集合玄関にあるだけで、新聞もそこまで取りに行かないといけないから、結構面倒くさい。 
 寒さに身を竦めながら階下まで来て、ふと玄関の外に目をやれば、雪が積もってる。そりゃ寒いわけだ。
 俺は今日休みだからいいけど、電車とか止まったりしなきゃいいけど…………て!

「え、遥琉?」

 道路の少し先、雪みたいに白い服を着ているのは、間違いなくあの自称天使の遥琉だ。
 遥琉も俺に気付かれたのが分かったらしく、慌てて隠れようとして、でも積もった雪に足を取られて滑って転んでる…。

「遥琉!」
「あっ…あの、コレ!」

 俺に見つかったと分かって、遥琉は服に付いた雪を払おうともせずに俺のほうへと来た。差し出した遥琉の手には、俺が貸してやったジャージ。

「借りっ放しだったから…」
「あ…うん」
「貸してくれてありがと! それじゃっ…!」
「あ、おい、ちょっ…」

 俺が呼び止めるのも聞かず、遥琉は俺に背を向けて走り出した。そして―――

「わぁっ!!」
「あー…」

 先ほどの転倒から、まったく何も学習していなかったのか、慌てて駆け出した遥琉は、そのまま前に突っ伏すように滑って転んでしまった。

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wish (8)


 前のめりにすっ転んで、頭から雪を被ってしまった遥琉は、倒れたまま動かない。
 呆れ半分、かわいそうに思う気持ち半分で、俺は遥琉のもとへ行った。

「遥琉、大丈夫か?」
「ぉわっ!?」

 俺はちっこい遥琉の体を抱えるようにして起こしてやった。
 取り敢えず遥琉の頭や服に付いた雪を払ってやるけど、その間、遥琉は俯いたまま静かにしている。

「大丈夫なのかよ?」
「ん」
「つーか、いつからここにいたわけ?」
「…昨日の、夜」
「えっ」

 おいおい、マジか?
 だって昨日俺が帰ってきたときは、いなかったじゃん。つーことは、その後に来て、そのまま一晩……?
 ちょっ…何か俺、すげぇ悪いヤツみたい…。

「でも1人じゃなかったし」
「は? 他に誰が…」

 何かコイツの上司みたいなヤツが一緒にいて、試験を受けさせてやんない俺のことを脅そうとか?
 すげぇ強面のおっさんとかが出てきちゃったら、どうしよう。
 天使どころか、とっても怖い、そういう関係の人たちの集団なんじゃ…。

「コイツ!」

 1人で勝手な妄想を繰り広げ、どうしようどうしよう、てなってた俺のところに戻って来た遥琉は、でもやっぱり1人で、けどその代わり、その腕の中にはまだ小さな子犬。

「あの段ボール箱の中にいたの。捨てられてたの、コイツ」
「え、捨て犬!?」
「うん。コイツ、独りぼっちなの。寒い寒いって言うから一緒にいたの」

 降った雪で、子犬が入っていた段ボール箱はすっかり濡れていて、中には一応、毛布が入っていたけど(恐らく犬はそれに包まれていたんだろう)、それもこの寒さを十分に凌げるとは言い難い。

「どうしたのかな? 具合悪いのかな、コイツ。何も言ってくんなくなっちゃった」

 明らかに子犬は元気がなくて、弱ってる。でも遥琉にはその原因が分からないらしく、泣きそうな顔をしながら子犬をギュッと抱き締めている。

「腹減ってんじゃねぇの? あとは寒いとか」
「お腹空いてんの? 何か食べたいの?」

 遥琉は子犬の顔を覗き込みながら、話し掛けた。

『くぅ~ん…』

 子犬は、分かっているのかいないのか、弱々しく鳴いている。
 とっても面倒くさいけど、犬をこのままにもしておけないから、ひとまず遥琉も一緒に、俺の家に上げた。

「遠山くん、ありがと…」

 部屋に戻って、寒そうにしている子犬のために何か包んでやるモンを探して……ちょうどいい毛布もないから、バスタオルで代用。その子犬を遥琉が腕の中に収めた。

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wish (9)


 つーか、犬のエサなんてないんだけど。
 でも、いくら何もないからって、人間の食べ物は上げられないし(この際やむを得ないとしたって、冷蔵庫の中が空だ…)、牛乳を飲ませたら、お腹を壊してしまう。

「お前、お腹空いてるの?」

 バスタオルで子犬をワシャワシャしながら、遥琉が尋ねている。
 この感じからして、単に寒いだけじゃなさそうだから、たぶん腹減ってんだろうなー…。でもウチ、何もないし。
 え、買いに行ったほうがいいわけ? この感じからして。

「ねぇねぇ遠山くん。何食べさせてあげたらいいの? 昨日のコンビニのおべんと?」
「バカ、そんなん食わねぇよ」

 放っておいたら、遥琉はわけも分からないまま、何でも食わせてしまいそうで、こうなるとやっぱ、ちゃんとしたのを買いに行かないといけないような雰囲気。
 この近くでドッグフードとか売ってそうなとこっていったら、近所のホームセンターか。

「…買いに行くか、エサ」
「ぅん?」
「お前も来るんだよ!」
「うん!」

 別に一緒に買い物に行きたいわけじゃない。
 でも、こんな得体の知れないヤツを部屋に残していくなんて、そんなの絶対に出来ない。

 雪のせいでチャリも出せないから、徒歩でホームセンターまで向かう。
 歩いたって10分くらいなんだけど……寒ぃ…。
 それなのに、遥琉が驚愕するぐらいの薄着で、それもそうなんだけど、あの変な白い服のままホームセンターまで行くのはこっちが恥ずかしいから、コートを貸してやった。
 
 子犬はすぐにでもエサを欲しそうだったけど、ホームセンターの外で上げるには、あまりにも寒すぎたし、粉ミルクを溶くためのものも何もなかったから、結局また家まで戻って来た。
 まぁ、家まで戻ったところで、別にそんな気の利いたものもないから、普通に皿とかでミルクを作るしかないんだけど。

「ホラ」

 粉ミルクを溶いた皿とドッグフードを床に置けば、遥琉の腕の中の子犬が身を乗り出してきて、遥琉が手を離すと、子犬は嬉しそうに皿の側に寄って飲み始めた。
 遥琉は律儀にバスタオルを畳んでいる。

「おいしい? おいしい?」

 遥琉が子犬の頭を撫でながら尋ねると、それまで周りの様子など気にも止めず、一心不乱にミルクを飲んでいた子犬が遥琉のほうを向いて、元気よく『きゃんっ!』と吠えた。
 はぁ、よかったよかった。
 自分のメシも食わずに、犬のエサ買いに行った甲斐があったよ、マジで。

「ねぇお前、名前なんていうの? 教えてよ」
『くぅん…』
「ホントに知らないの?」

 遥琉はさっきから一生懸命、子犬に話し掛けてて……いや、言葉が通じてないって分かってても、話しかけちゃうことてあるよね。
 でもえっと、コイツの場合、本当に話そうとしてる雰囲気なんですけど?

「ねぇねぇ、この子ね、名前も付けてもらえないまま捨てられちゃったんだって。かわいそうだよね。人間って勝手だよね!」

 エサも食べ終わって、元気いっぱい! て感じではしゃいでいる子犬の頭をグリグリしながら、遥琉は少し憤慨したように言った。

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