恋三昧

【18禁】 BL小説取り扱い中。苦手なかた、「BL」という言葉に聞き覚えのないかた、18歳未満のかたはご遠慮ください。

恋のはじまり10のお題

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02. もっと知りたい (後編)


 ……でも、最初の仲村の言葉どおり、やっととジョッキの半分くらいを空けた深沢くんは、すっかりクテンとなってる。その間に俺らはもう2杯を飲み終わろうとしてるんだけどね。

「深沢くん、大丈夫?」
「んー…」

 俺の声に反応して顔を上げる深沢くん。目がトロンとしちゃってて、超かわいい。ホントにお酒弱いんだなぁ。

「和哉? 水貰う?」
「へーき…」

 絶対、全然平気じゃないはずなのに、深沢くんはゆるゆると首を振って、がんばってジョッキを持とうとする。
 でも結局それは無駄な努力で、ジョッキをテーブルに戻した途端、そのまま隣にいた仲村に凭れ掛かった。
 ぎゃっ、羨ましい!!

「和哉?」

 仲村はこういう状況に慣れてるのか、とくに慌てたふうもなく、深沢くんの肩を揺すって起こそうとしてる。

「んー……やぁ…」
「ぶっ」

 アルコールがいい具合に回って、眠くなっちゃってるのを、無理に起こされるのが嫌なんだろうな。子供みたいにむずがって、仲村の手を払おうとしてるけど。
 その仕草、マジでやばいです!
 僕、思わずビール吹き出しちゃいました。

「何してんだよ、水沼。お前まで世話焼かせんな」

 仲村が面倒臭そうに俺のほうへおしぼりを放ってきた。

「……で、どうする?」

 深沢くんを起こすのを諦めた仲村が、俺に話を振った。

「んー、とりあえず俺の肩を貸してやりたい」
「そういうことは聞いてねぇよ! まだ早いけど、帰る? コイツ、こんななちゃったし…」
「うー……」

 ホントはまだ一緒にいたいけど、酔い潰れちゃった子をこんなにしたまま、のん気に飲み続けてはいられない。
 1時間程度のお食事タイムは、残念だけど、ここでお開き。
 仲村が精算をしてる間、俺が深沢くんを支える(そうしたくて、無理やり仲村に金を押し付けたんだけど)。

「んー…」
「ん? 何?」
「章ちゃ…」
「……、」

 ―――しょうがない。
 きっと今までこういう場面で、彼のことを助けてきたのは仲村だったんだ。
 だって幼馴染みだし。
 俺、会うの今日で2回目だし。
 会話らしい会話だって、正味30分くらいしかしてないし。

 それだけの間に知ったことっていえば、ビックリするくらいにお酒が弱いことと、ちょっと子供みたいなことがあることと、照れ笑いするとき唇を舐めること。
 細かいとこ、気付いてんだ。見てるんだよ。

 でも、こんなのほんの少し、微々たるものにしか過ぎないって、分かってる。
 だけど、知れば知るだけ、好きになっていくのが分かる。


 …………足りない。
 こんなんじゃ、全然足らない。



 もっと。もっと知りたいよ、キミのこと。

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03. はじめて、 (前編)


 俺らしくない、って思う。
 普通、合コンでも何でも、気に入った女の子がいれば電話番号とかアドレスとか聞いちゃったり、あわよくばお持ち帰りなんかしちゃったりして…………だったのに。
 結局、酔っ払った深沢くんを連れて帰ったのは、幼馴染みの仲村で、俺は大人しくご帰宅。
 家に帰って寝るには、まだまだ早い時間だってのに、不思議とオンナに連絡する気にもなれなくて。
 ベッドの中でボンヤリと、深沢くんの笑顔を思い出してた。





□■□

「―――あぁ、そういえば」

 バイトが終わって、仲村と一緒にメシ。今日は深沢くんの都合がつかなくて、俺ら2人だけ。オーダーを終えたところで、仲村が顔を上げた。

「和哉が謝ってた」
「え? 深沢くんが? 俺に?」

 たとえ仲村の口からとはいえ、彼の名前を耳にすると、それだけで胸が高鳴った。

「この前せっかく一緒にメシ食ったのに、すぐ潰れちゃってゴメンって」
「マジ!? 俺のこと、ちゃんと覚えてくれてたんだ!?」

 一緒にいれた時間は1時間くらいだけど、素面でちゃんとしてた時間はその半分くらいだし、そのあと潰れちゃってるから、もしかして俺のことなんか忘れちゃってんじゃないかと思ってたけど…………あぁ、幸せだなぁ。

「だったら、今度また一緒にメシ食いに行こうって伝えてよ。今度は酒抜きでいいから」
「まぁいいけど……つーか、お前が和哉にダメ押ししたんだろ? 飲めばって」
「だってあんなに弱いとは思わなかったんだもん。でもかわいかった~」

 あのときの深沢くんの仕草を思い出すだけで、もう舞い上がっちゃう。

「おいおい、お前、完全に恋してるって顔だぞ」
「あー……そうかも。恋しちゃってるね、完全に」
「はぁ? おい、和哉は男だぞ?」
「知ってるって」

 そう答えると、仲村が呆然とした顔で、2,3度瞬きをした。

「お前……男でもイケるんだ…」
「は?」
「いや、お前、女の子大好きだから…………え? 何? 本当はホモだったの? 女好きなのはカモフラージュ?」
「はぁ?」

 何をわけの分かんないことを言ってんだろう、コイツ。
 何で俺がホモなわけ? つーか、野郎なんか好きになるかよ、気持ち悪ぃ。
 俺が好きなのは、深沢くんだけ。

「おま……自分が何言ってるか、分かってるか?」
「は?」
「だって矛盾してるじゃんかよ。女の子好きで、ホモじゃねぇっつってんのに、何で和哉のことが好だとか言ってんだ?」
「え? 何かおかしい?」

 仲村の言ってること、よく分かんない。俺の言ってること、何か矛盾してる?
 でも俺の言葉に、仲村が呆れ顔のまま固まってるから、きっと何か変なんだろうけど…………よく分かんねぇ。

「まぁ……いいけど…」

 仲村は口の端を引き攣らせながら、グラスを傾けた。

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03. はじめて、 (後編)


「つーか俺はお前が羨ましい…」
「はぁ?」
「深沢くんのこと、和哉って呼んでるし、」
「お前も呼べばいいじゃん」
「昔から知り合いだし、」
「いや、だから、幼馴染みだし」
「携帯の番号とか知ってるっぽいし、」
「"ぽい"じゃなくて、知ってるよ。メールのアドレスも」
「俺は知らない」
「聞けよ、そんなの! ってかお前、今まで気に入った子がいたら、そんなのすぐに聞いてたじゃん。和哉のこと気に入ったなら、何でメシ食いに行ったとき聞かなかったんだよ。今さら俺に愚痴るな!」
「そんなの…」

 そんな、会ってすぐに電話番号とか聞くって、何か見え見えじゃん! ダメダメ、そんなの!

「ダメダメって……お前、今までずっとそうだったくせに、何急に……。しかも相手は女じゃなくて、和哉だぞ?」
「だからだろ! そんな、その辺の女だったら、別にどうでもいいんだよ、そんなの」

 軽いヤツだって思われたら、嫌われちゃうかもしれないし…。

「……恋する乙女、って感じだな、お前。でも確かに、和哉、軽いヤツとか、あんまり好きじゃないと思う」
「マジで!? どうしよう……またメシ食いに行きたいとか言ったら、まずいかな?」
「いやいやいや、それはいいんじゃねぇの? だってお前男じゃん。男相手にメシ誘って、軽いとかないんじゃね?」
「そう……かな?」
「…………なぁ、お前さぁ…」

 グラスを置いて、箸も置いて、仲村はひどく神妙な面持ちで俺のほうに顔を近づけた。

「今まで誰か……いや、女の子でいいんだけどさ、好きになったこと、ある?」
「は? そりゃあるよ、そのくらい」
「いや、その……何ていうか、んー……何て言ったらいいのかな。こう……さ、遊びとかじゃなくて、軽いノリじゃなくて、その、真剣に誰かのこと好きになったことがあるかってこと」

 ……………………。
 ん~……遊びのノリじゃなくて?
 う~~~ん。

「あの、さぁ……」
「あ?」
「あんま言いたくねぇんだけど…………お前さ、もしかしてマジで初恋なんじゃねぇの? これ」
「まさかぁ」

 今さら、この歳で初恋?
 じゃあ俺の今までの21年間は何だったわけ? 今まで付き合ってきた彼女たちは?

「だってさ、例えば今まで付き合った女相手にさ、軽いヤツだって思われたくないとか、断わられたらどうしよう、みたいに悩んだこととかあるか?」
「えー?」

 基本的に女の子に声掛けるときは、断わられたら別の誰かを誘えばいいやって、気持ちだしなぁ。
 彼女にしたって、別にそう思われたからって、どうってこともない。それで愛想を尽かされたんだとしても、俺とは合わなかったんだなって思うくらいだし。
 ………………え?

「どうした? 水沼。何か思い当たったか?」
「思い、当たった……っていうか、」

 え?
 は?
 マジで?

「仲村………………俺、マジで初恋かも……」
「ぶはっ!」

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04. 卑怯な不意打ち (前編)


 あれから何度か仲村を通じて、和哉と一緒にメシを食いに行ったりした(でも仲村も含めての、3人だけど…)。

 あ、呼び方が、"深沢くん"から"和哉"にまで昇格しました!!
 和哉からも、"大樹"って呼んでもらってるわけで。

 …………でも、残念ながら、俺の力ではありません。
 俺もそう呼びたいって、密かに仲村に言ってたら、メシのときに仲村が、

『何でお前ら苗字で呼び合ってんの?』

 って言ってくれたことが切っ掛けなのです。
 あぁ……何で名前ごときで、仲村なんかの力を借りてるんでしょう、僕!
 しかもこのときも、仲村のその言葉に和哉は、

『だって、章ちゃんだって、水沼くんのこと、苗字で呼んでるじゃん』

 と、苗字で呼び合ってることに、とくに何の疑問も違和感も持っていないような返事をしてくれて。
 はぁ~……俺だけが舞い上がってるんだよなぁ。完全に独り相撲です。


 でも、でも、電話番号もメールアドレスも(何とか)聞き出して、連絡とか取り合ってんだよ。すごい進歩! 俺ってすごい!

 だいたい、今まで付き合ってきた女の子と、こんなにマメにメールとかやり取りしたことないもんね。メールが来れば一応返すけど、頻繁にメールが来ると、何かうぜぇ…って思っちゃって。
 なのに和哉からだと、もう全然そんなことない。
 でも、あんまりメールして、俺が女からのメールに思ってたように和哉にウザがられたくないから、メールしたいって思ったうちの2回に1回しかしないようにしてるんだよね。健気…。


 だけど、ここに来て、ちょっと困った問題が。
 いや、そんなに困るようなことでもないんだけど、実は俺、4月15日が誕生日なのね。もうすぐ誕生日なわけ。
 出来れば和哉と過ごしたいなぁ……なんて贅沢な悩みを抱えてしまっているのです。

 あぁ、一緒に過ごしたいだなんて、大それたことは言いません。せめて一言、『おめでとう』って言ってもらいたい!!

「ふぅ…」

 でも別に誕生日なんて教えてないし。
 今になって、『4月15日、誕生日なんだー』なんて言うのも恥ずかしいし。

「あー……もう!!」

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04. 卑怯な不意打ち (中編) -1


 4月15日。
 朝っぱらから、誕生日おめでとうメールが届く。
 だいたいが女からで(ってか、男に祝われても、嬉しくねぇー!!)、今日の夜、一緒に過ごさないか、という内容だ。
 過ごさねぇよ、お前らとなんか! 俺はもう、そういう女遊びはやんねぇの。つーか、眠いんだから、朝っぱらからメールなんか寄越すんじゃねぇ!!

 そのうるささにいい加減苛ついてきて、ケータイの電源を切ろうと思ったら、電話の着信。無視してやろうかと思ったのに、

「かっ、かっ、和哉!?」

 ビックリしすぎて、俺は携帯電話を床に落っことしてしまった。
 大丈夫、まだ生きてる。
 俺は急いで電話に出た。

「もしもし!?」

 あ、ちょっと声引っ繰り返った。

『あ、やっと出たー。おはよー、大樹。もしかして、寝てたの?』
「あー……いや、」
『ダメだよ、自分の誕生日にいつまでも寝てちゃー。グフフ』

 まったくもってかわいげのない笑い方。でもかわいい。
 ってか、あれ?

「和哉、何で俺の誕生日……」
『んふふ、章ちゃんが教えてくれたの。大樹、15日が誕生日だよーって。おめでとーv』
「あ、ありがとう…」

 あぁ、神様ありがとう。
 数日前に思い描いた俺の願いが叶いました!

『大樹、今日バイトは? 何時から?』
「今日は休み』

 誕生日にまで仕事なんかしたくないし。
 でも、いつもなら適当に空いてる女とかと過ごすけど、今年は予定なし。つーか、今までのそういう女とは、もう切っちゃってるから。

『ホント? なら何時まで空いてる?』
「え? いや、だからバイトは休み…」
『ううん、だって誕生日、彼女と約束とかしてるんでしょ? それまで空いてる?』
「えっ!?」

 いやいやいや、だからいないって、そんなの!

『あ、もしかして彼女と一緒だった? ゴメンね、邪魔しちゃって…』
「ちがっ……違うし!」
『へ?』
「今1人だし! 彼女とかいないし! つーか、今日、全然予定ないし!!」

 完全に勘違いしてる和哉に、俺は慌てて捲くし立てた。

『ふはっ……そんなに一気に喋んなくたって。ねぇ、ホントに彼女と約束してないの?』
「してないっていうか、だから、彼女自体いないから!」
『だって、この前一緒にいた子は?』
「この前って……え? いつの話?」
『ホラ……最初に会った日。大樹、彼女と一緒にいたじゃん』
「あー……」

 和哉に言われて、ようやくその女のことを思い出した。合コンで知り合った女。でも、和哉と出会って以来、1回も連絡取ってない。

『あ、もしかして、別れ……あ、あの、ゴメン!』

 余計なことを言ったと思ったのか、和哉が慌てて謝ってきた。俺にしたら、"彼女"ってほどでもなかったから、別れたとかもないんだけどね。

「いや、別にいいよ。ねぇ、それより……俺マジで予定ないけど、あの……」

 これって、もしかして、期待しちゃっていいの、かな?

『じゃあ、これから会わない?』
「あっ……ッ、えっと、」
『え? あ……やっぱ、あれだよね? せっかくの誕生日に男と一緒なんて』
「違う、そうじゃなくて! 全然いいし!!」

 まさか、和哉のほうから誘ってくれるなんて、夢にも思わなくて。
 ビックリしすぎて、俺、ベッドの上で正座だからね。

『じゃあ、これから出れる? どっかで待ち合わせて、ご飯食べに行こうよ』
「はいっ!」

 電話を切った俺は、転がるようにベッドを降りた。

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