恋三昧

【18禁】 BL小説取り扱い中。苦手なかた、「BL」という言葉に聞き覚えのないかた、18歳未満のかたはご遠慮ください。

2008年09月

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so sweet


「でね、でね、これ、ちょーフカフカなんだよv」

 そう言って隼人が、コートの袖口に付いたフワフワのフェイクファーをほっぺたに押し当てた相手は、恋人の大和……ではなくて、憎き恋敵(と勝手に大和が思い込んでいる)貴裕だった。

「ホントだなぁ」

 お気に入りのコートが嬉しくて仕方がない隼人と、隼人にこんなかわいいことをされて、満更でもない様子の貴裕。
 その2人とは対照的に、非常におもしろくなさそうな顔をしているのはもちろん大和で。

「そこのお2人さん、仲がいいのは分かるけど、俺がいること忘れてないかい?」

 ズルズルと音を立ててコーヒーを啜りながら、大和がものすごく呆れたように言った。

「ホラ隼人、大和が怒ってるぞ?」

 一応、恋人である大和を立てるつもりなのか、貴裕は隼人の手を自分から離したのだが、隼人はそんなことはお構いなしで。

「いいの! だってこれ、せっかく新しく買ったやつなのに、大和、全然気付かなかったんだもんっ」

 プックリ頬を膨らませて隼人が主張するのは、新しく買ったばかりのコートのこと。
 すごくお気に入りだから、1番に大和に見せてやったのに、ちっとも気付いてくれなかったから、隼人はいまだに拗ねているのだ。

 しかも大和がファッションにろくに興味がないのに対し、貴裕は服だ髪型だと細かいことにマメに気付くタイプだったから、当然今回も、鈍い大和より先に隼人のコートを褒めてやり、すっかりご機嫌を直してやったというわけだ。

 だが、大和にしてみれば、それもおもしろくない。
 機嫌が直った隼人は、貴裕としか喋ろうとしないのだ。これではどっちが恋人なのか、分かったものではない。

 しかしここで、「だったら勝手にしろ」とか、キッパリ言って立ち去れるほど大和も強くはないので、おもしろくはないと思いつつ、貴裕と楽しそうに喋っている隼人の機嫌が本当に直るのを待つしかなかった。

 あぁ、これを惚れた弱みというのか……大和は温くなったコーヒーを飲み干した。

「あ、隼人、ゴメン、ちょっと電話」

 ジーンズのポケットの中で震えた携帯電話に、貴裕は申し訳なさそうに隼人に謝って、電話に出た。

「もしもし? あぁ? これから? あー…まぁ、いいけど? おう、うん、分かった。じゃあな」

 貴裕の電話はあっさりと終わり、電話中に隼人の気を取り戻そうとしていた大和は、あえなくそれを断念した。

「隼人、ゴメンな。ちょっとダチに呼び出されちまった」
「えぇ~? 行っちゃうのー?」

 あからさまに不満そうに、隼人は立ち上がろうとした貴裕の腕を掴んだ。

「ゴメン。実は引越しの手伝い頼まれててさ。ゴメンな? また今度、メシでも食いに行こうぜ?」
「うんっ!」
「コラコラ! 彼氏の前で堂々とナンパすんな!」

 よしよしと隼人の頭を撫でようとしていた貴裕の手を払って、大和は隼人の体を抱き寄せた。

「何すんだよぉー。貴裕くん、バイバーイ」

 大和の腕の中でもがきながら、隼人は貴裕に手を振った。

「もぉ、あんだよぉ、苦しいってば」

 隼人はペチンと大和の額を叩いて、ようやくその腕の中を抜け出した。

「隼人、いい加減に機嫌直せよ」
「機嫌なんか悪くないもん」
「すげぇ悪いじゃん」
「悪くないの!」

 何を言っても不毛な応酬にしかならない会話。大和は大きく溜め息をついて肩を落とした。

「お前、ホントに俺のこと、好きか?」
「好きだよ」

 グッタリとして尋ねた大和に、隼人は照れも恥じらいもなく、あっさりとそう答えた。

「何で? 何でそんなこと聞くの?」
「そりゃ、聞きたくもなるだろ。恋人前にして、他の男とあんだけイチャイチャしてたら」
「だって貴裕くん、このコートのこと褒めてくれたんだもん」
「だから、コートに気付かなかったのは悪かったって、言ってんだろ」

 また同じやり取りが繰り返されるのかと、少々ウンザリして語気の荒くなった大和の頬に、何やらフワフワとした感触。チラ、視線を向けると、隼人が袖のファーを大和の頬にくっ付けているのだった。

「フカフカで気持ちいーだろ?」
「あのなぁ、」
「ね、もうちょっとこっち向いてよ」

 大和の体を自分のほうに向けさせた隼人は、反対側もファーを押し当てて、大和の両頬を挟んだ。

「ふわふわv」

 その顔があんまりにも無邪気だから、大和はつい、先ほどまでの憤りも忘れて、頬を緩ませた。

「そうだな、フワフワだな」
「フワフワであったかいの。冬になったら、あっためてあげるね。大和だけ、特別だからな」

 フワフワの手で大和の頬を挟んだまま、隼人は笑みを深くして、そのまま唇を重ねた。







 たぶんどっかのカフェと思われますが…。コイツら、公衆の面前で何してやがる。
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カテゴリー:読み切り掌編
テーマ:自作BL小説  ジャンル:小説・文学

叶わないと知っている (だから、だからきっと)


 別にそれほど深い愛情があるってわけじゃないんだけど。





 その後に続くのは、いつも決まって同じセリフ。





 でも、離れらんないの。
 これってやっぱ、好きってことなんだろうなぁ。








 …………あぁ、神様。








叶 わ な い と 知 っ て い る

 ( だ か ら 、 だ か ら き っ と )









 タケルに思いを告げたときは、玉砕覚悟だった。
 だってタケルは男で、俺も男。そればかりじゃない。タケルには、ずっと付き合ってる彼女がいたのだ。

 もしかしたら俺は、こっ酷く振られることを望んでいたのかもしれない。
 『男同士で何言ってんだ』とか、『キモイこと言うな』とか、何でもいい。とにかくこの想いを断ち切れるような、そんな状況を作り出したかったに違いない。

 けれどタケルは優しくて、そしてとても残酷な男だったから。

『俺、彼女いるけど、それで良ければ』

 きっと、そう言えば俺が諦めると思ったからに違いない。

 ―――――でも。

 そんな、期待を持たせるようなことを言うから。
 もしかしたら、なんて、そんな気を起こさせるから。





 …………堕ちた。








*****


「…ん、分かったって。今度、付き合ってやるから」

 じゃあな、そう言ってタケルが電話を切る―――――ベッドの中。
 隣には裸の俺がいて。タケルも裸。男同士とはいっても、ヤることはヤッた、いわゆる"情事"の後。
 よくこんな状況で、彼女と電話なんか出来るもんだと思う。

(失礼だと思わんのかな)

 俺はいいとしても、彼女に対して。
 面倒臭いとか思われたくないから、別にそんなことは言わないけど。

 もう少しタケルのぬくもりが欲しくて、モゾモゾと体を寄せれば、何の躊躇もなく抱き寄せてくれるタケル。
 何て男だ。

「……彼女と、出掛けんの?」

 別に、問い詰めるとか、そんなんじゃない。
 こんな思いっきり近くで電話してたんだから、その内容だって、嫌でも聞こえてくる。それについて問うたって、悪くはないだろう。

「あぁ、今度な」
「ラブラブじゃん」
「んー? もうそんな雰囲気じゃないけど。腐れ縁っていうか…………別にそれほど深い愛情があるってわけじゃないんだけど、」

 そこでタケルはいったん言葉を切って。
 俺の髪を、混ぜるように撫でて。

「でも、離れらんないの。これってやっぱ、好きってことなんだろうなぁ」

 いつもと同じセリフを続ける。

 ホント、ひどい男。

 俺が勝手にタケルのことが好きなだけで。
 彼女がいてもいいと言って始めた、体だけの関係だけど。

 そんなに優しく俺のことを抱き締めながら、愛おしそうに彼女のことなんか語らないでよ。

「なぁタケル」
「ん?」
「もっかいしよ?」

 背中に回るタケルの腕を解いて、その体をベッドに押し倒すと、タケルの腹を跨いだ。
 ニヤリ、いやらしくタケルが笑う。

「シンが上になってくれんの?」

 支えるように俺の腰を掴むタケルの手が、やらしく体中を撫で回す。

「ん…いいよ……」

 俺は煽るように、腰をタケルに押し付けて。

 分かってる。
 この生産性のない、不毛なセックス。
 愛情すらも生まれない。

 タケルの心は、きっとすぐにでも、彼女のもとへと行ってしまうだろうけど。
 けれど俺は離れられなくて。




 それでも、あなたのことが一番好きなのです。










← 愛すことよりずっとカンタン (突き放してしまえば楽なのに)
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