恋三昧

【18禁】 BL小説取り扱い中。苦手なかた、「BL」という言葉に聞き覚えのないかた、18歳未満のかたはご遠慮ください。

智紀×慶太

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ろくな愛をしらない 10


 構内のカフェテリアで、ちょっと遅めの昼食をとりながら、携帯電話を広げる。
 この間の女とはもう終わったけど、それこそ代わりなんていくらでもいるし。
 今日は誰に声掛けようか、なんて思ってたら、向かいでメシを食ってた拓海が何か言いたそうにチラチラ視線を向けてくるから。

「……何?」

 俺のほうから声を掛ければ、拓海は心底驚いたように、「うぇ!?」と変な声を上げた。
 もしかして、俺が気付いてるなんて、思ってなかった?

「あ……いや、」

 拓海は気まずそうに、周りをチラリと見た。あぁ、他の奴らに聞かれたくないわけね。ってことは、言いたいのは、俺がこれから連絡しようとしてる相手のこと?

「あのさぁ…」

 俺のほうに少し身を乗り出した拓海が、うんと声を潜めて喋り出した。

「俺が言うのもアレだけど……その、あんま羽目外し過ぎるなよ?」
「分かってますって」
「トモ、ホント、」
「大丈夫だから。男だから、メールしてんの」

 ホントは嘘だけど、何か拓海の、今にも胃に穴の開きそうなくらい心配げな顔を見てたら、何か女に連絡すんの、しらけちゃった。

「ならいいけど……何か最近、お前、」
「どうせ振られちゃったんだろっ!」
「うわっ!」

 急に割り込んできた別の声と、焦ったような拓海の声に、携帯電話から顔を上げれば、高遠が拓海の背中にへばりついてた。
 まったく身構えてなかった拓海は、腹をテーブルの縁にぶつけてる。

「高遠!」

 拓海が咎めるように名前を呼べば、高遠はまったく悪びれたふうもなく、「拓海、力なーい」なんて言ってる。

「俺が思うに、智紀くん。君はこの間の電話、掛け直さなかったとみた」
「よくお分かりで」

 拓海の背中にくっついたまま、その肩越しに高遠がニヤニヤと言ってくる。

「こないだの電話って……昨日掛かってきた電話か?」
「何? 掛かってきたの? 女?」

 高遠が、興味津々て顔で拓海の顔を覗き込んでる。拓海が言ってもいいのかなぁ…て顔で俺のほうをチラッと見たけど、もうどうでもいいから、無視した。

「結局、出ないし掛け直さないから、それっきり」
「ひゃはは! バッカー。そんなんだから、お気に入りの子に逃げられちゃうんだよね」

 高遠がどこまで気付いてるのか知らないけど、確かに説明としては間違ってない。相変わらず高遠には見透かされてんなぁ、俺。

「だからね、もう大丈夫だから、拓海はもう帰りな」
「えぇ!?」
「真琴と約束してんでしょ?」
「あ、そうだった!」

 慌てて拓海が振り返れば、カフェテリアの入口のところで、真琴が待ちくたびれたような顔して立っていた。

「悪ぃ真琴! 今行くし!」

 ホント、拓海って詰めが甘い。
 俺に説教っつーか、お小言を言うつもりだったんでしょ? 肝心のことまだ言ってないって、気付いてないの?
 まぁそこが拓海らしいっちゃーらしいんだけど。

 …………で、問題はこっちなんですが。

「高遠くん、拓海たちと一緒に帰んないの?」
「帰んないの」

 にっこにこの顔。ヤダなー。

「で、高遠くんはどこまで分かってんの?」
「別にー。知りたくもないし」
「だったら何?」

 高遠は笑顔を崩さずに、俺の横に座った。

「智紀はさぁ、本気で人を好きになったことがないもんね」
「おい!」
「違うの?」
「だとしたって、高遠に関係なくね?」
「俺にはね。でもさぁ、こうまであからさまにテンションとか態度に表されると、いろいろ迷惑なんですが」

 笑顔を引っ込めた高遠の顔は、冷やかなものだった。

「好きなら好きで、素直に認めちゃえば楽なのに」
「誰のことをだよ」

 …………愛だの恋だの、そんなの面倒臭いし。
 本気の恋だなんて。

「まぁ、今さら気付いたって、遅いだろうけどね」
「高遠、」

「言っとくけど、本気の恋って、そんなに甘くないからね?」

カテゴリー:智紀×慶太
テーマ:自作BL小説  ジャンル:小説・文学

ろくな愛をしらない 11


【久住慶太】

 相川さんにあんなこと言って逃げて来て、ホント、バカみたいだ。
 きっと向こうもそう思ってる。
 どうせ暇つぶしの遊び相手。はまり掛けのおもちゃが、まさか本気になってただなんて、思いも寄らないだろう。

「バカ…」

 あのとき歩が言ってたこと。
 やっぱアイツ、すげぇわ。
 俺ですら気付いてないことに気付いちゃうんだもん。

 でももう遅いけど。

 ってか、遅いも何も。
 気付いたところで、実ることのない想い。

 まんまと相川さんの策略にはまっちゃって。
 気付けば深み。
 逃げられなくて。

 俺1人、こんな気持ちにさせといて、ズルイよ……。

 あのまま。
 もしあのまま、相川さんの望むみたいにやってれば、今も側にいられた?

 それで、例えば相川さんちに行って、彼のいいようにされて。
 意味を持たないキスをされたり、力で押さえ付けられて、怯えてみたり。

 何それ。
 どうせ相川さんにとっては、あのとき電話してきた女の子と、同じようなもんなんだろうけど。

(そういえば、あの電話の子、どうしてるんだろ…)

 相川さんの性格を分かってて、いつものことだって、気にせずいるのかな。
 連絡がないこと、悲しんでるのかな。
 怒って別れようって言い出すのかな。

 別にそんな関係を望んでるわけじゃない。
 ましてや男同士だ。恋愛関係に発展させようだなんて思ってもいない。だったらいっそ友達で……いや、憧れの先輩のままで良かった。

 でも、もう戻れない。
 どこにも。
 もうどっちにもなれない。


 あぁ、嗚呼。
 いっそその深みの奥底まで沈んで、溺れてしまえばよかった。


 だけどもう、戻れやしないけど。

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ろくな愛をしらない 12



 爆弾は、時として、唐突に落とされる―――例えば、真琴から。



 月に1度の定例会が始まる前の学生会室。
 俺は音楽の雑誌を広げて、春原さんは、ペットボトルのお茶をコップに注いでるところだった。
 そこに元気よくやって来た真琴が俺の側に来て、俺と雑誌の間に顔を覗かせる。邪魔だよ、と、目で訴えようとした、まさにその瞬間だった。


「そういえば智紀さん、最近、慶太のこと誘わないね」


 まさに爆弾。


 俺はそのまま椅子から転がり落ち、春原さんは手元が狂ったのか、傾け過ぎたペットボトルから大量にお茶を零してる。

「あぁ! 拓海! お茶、お茶!!」

 どうやら真琴は、俺が椅子から落ちたことよりも、春原さんの足元に広がるお茶の水たまりのほうが危険と判断したのか、慌ててそっちに駆け寄っていった。

「あ、ありがと…」

 真琴は、傾けたままのペットボトルを春原さんの手から奪い取ってテーブルの上に置くと、ご丁寧にも、残り少ないペットボトルのキャップまで閉めてやる。

「ちょっと雑巾取ってくる! この量、ティッシュじゃ拭き切れないし」

 そう言って学生会室を出ていこうとする真琴の腕を、春原さんが掴んだ。

「何、拓海」
「あの、真琴、あの…」
「???」

 キョトンと小首を傾げてる真琴、さっきの言葉に他意はないのだろう。
 春原さんの手が力なく真琴から離れて、真琴は雑巾を取りに学生会室を出ていった。

「春原さんも、何か知ってるんですか? てか、知ってるんですよね?」

 知らなきゃ、真琴の言葉にここまで反応するわけがない。
 いつもは冷静な春原さんも、真琴のこの不意打ち爆弾には敵わなかったようだ。

「知ってるっていうか…」

 真琴に雑巾を取りに行かせたきりじゃ申し訳ないと思ったのか、春原さんは、ティッシュを数枚引き抜いて、零れたお茶の上に被せた。
 真琴の言葉じゃないけど、そんな数枚のティッシュで全部拭けるような量でもなくて、かといってそれ以上ティッシュで拭くつもりもないのか、お茶の水たまりの上に数枚のティッシュが浸っている状態。
 いいのかなぁ…。

「話してください」

 口籠ってる春原さんに、先を促す。

「何かトモ、ずっと慶太のことお気に入りみたいだったのに、それこそ真琴じゃないけど、最近あんまり誘わなくなったなぁって思って」
「それだけ、ですか?」

 それだけで、この反応?
 そんなわけない。
 いくら俺が単純だからって、そんなことでごまかされない。

「相川さん、何か言ってました?」
「何かって…」
「別に傷付いたりしないんで、言ってください。俺にはもう飽きたって?」
「……飽きた、とは言わなかった、けど…」

 再び口を閉ざす春原さんに、「だったら何?」と問おうとしたところで、雑巾を取りに行っていた真琴が戻って来た。

「あー、何このティッシュ! 拓海?」
「え? あ、うん…」

 零れたお茶の中に、ビチョビチョになったティッシュが落ちていて、これから雑巾でそこを拭くには、少し邪魔な状態。真琴は困ったように春原を見てから、そこに屈んだ。

「あぁいいよ、真琴! 俺がやるし! 俺が零したんだから!」

 ……でも、春原さんがお茶を零す原因を作ったのは、真琴だけどね。

 全部お茶を拭き取って、濡れた床を最終的にティッシュでキレイにしたところで、真琴は雑巾をしまいに学生会室を出ていく。
 また2人きりになった空間で、春原さんはゆっくりと俺のほうを見た。

「トモに用があるなら、連絡しようか?」
「俺が? どうして?」
「あ、いや、」
「どうして俺が…」

 また相川さんと会って、一体どうするっていうの?
 この想いを伝えろとでも?

「慶太?」
「俺はっ…!」

 勢いに任せて、椅子から立ち上がる。
 俺って、こんな感情的な奴だったっけ?

「慶太、」

 あれ…?

 ぐにゃり。
 視界が歪む。

「慶太? どうした?」

 何度瞬きしても、ぼやけた視界は戻らなくて、目を閉じる。
 嫌な汗が滲む。
 聴覚が遠退く。
 足の力が抜けて、椅子に座ろうとしたけどうまくいかず、テーブルの端を掴んだまま、床に膝を突く。

「慶太、ちょっ……座って!」

 春原さんの手なんか借りたくないよ。
 でも俺はされるがまま、元いた椅子に座らされて。
 深呼吸を繰り返す。

「ちょっと横になる?」
「へ…き…」

 でもダメだ。
 元に戻んない。

 遠くで、誰かが学生会室に戻って来た音がする。真琴かな? それとも他の誰かかな?

「どうしたの、2人とも」

 この声は歩だ。
 目を閉じてぐったりしてる俺と、その脈を取ってくれてる春原さん。
 入って来ていきなりこんな光景を見たら、確かに何かと思うよね。

「ちょっと横になったほうがいいんじゃない?」

 よっぽど俺の顔色、悪いのかな? 歩の提案で、ソファに横になる。
 ヤバイ……完全に頭から血の気が引いてる感じ。脳貧血って……女の子じゃあるまいし。

 もうヤダよ。
 こんな自分も、何もかも…。

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ろくな愛をしらない 13



 女はいい。
 特に、成熟した体持ってんのに、頭悪い子とか。
 みんなで飲んで、その場のノリで誘えば、簡単についてくるし。押し倒して、ちょーっと感じるとこ触ってやれば、超よがるし。柔らかい体とか。色っぽい仕草とか、表情とか。
 後腐れのない、この関係がいい。

 …………なのに、どうして、この胸の喪失感を埋められないの…?



【相川智紀】

「…………言いたいことあるなら、言ったら?」

 拓海がそばにいないのを見計らったように、わざとらしく隣に座ってきた高遠に声を掛ける。

「あ、気付いてたんだ。鈍感なトモくんにしちゃ、珍しー」

 しれっとした顔で、さりげなく毒を含んだ答えを返す高遠に堪えながら、俺は高遠を見据えた。

「久住、倒れたよ」
「―――は?」
「久住慶太くんが倒れました」

 聞こえてないから聞き返したわけじゃないのに(もちろん高遠だってそのことに気付いてるだろうに)、わざわざ嫌味ったらしく言い直してきて。

「倒れたって、どういうこと?」
「そのままの意味だけど?」
「……で、何でそんなこと、俺に話すわけ?」
「驚きのあまり、慌てて久住のところに駆けていくのを期待してたのに、反応が薄くてすげぇムカつく」
「そんなこと言われても」
「やっぱりお前は薄情な奴だったんだな。久住がお前のせいで倒れたってのに、お前は女遊びに夢中だもんな。久住もこんな奴から離れて正解だったね」

 歯に衣着せぬ高遠の物言い。
 いつものことだけど。でも、いつも以上にイラついてる―――高遠が。

「お前さぁ、小学生じゃねぇんだから、好きなら素直になれよ。変なちょっかい掛けてないで」
「……今さら気付いたって遅いっつったの、お前じゃん」

 机に投げ出したままの、冷めたコーヒーを1口啜る。マジィ…。

「へぇ、気付いたんだ、自分の気持ちに。俺、気付かないまま終わるのかと思った」
「お前って、ホンット、ヤな奴だな!」
「何言ってんだよ。心配とストレスでこれ以上拓海の髪が抜けないように、気ぃ遣ってるこの俺様に」
「あー……ソウデスネ」

 確かに最近、痛々しいもんな、拓海。

「なぁー高遠ー」
「んー?」
「俺、どうしたらいいのかなぁー?」

 まずいコーヒーを飲み干して、紙コップを握り潰す。

「知るか」
「高遠~…」
「甘えんな。お前に甘えられても、全っ然嬉しくない」

 厳しいお言葉。
 潰した紙コップを高遠目掛けて投げ付ければ、あっさりと躱されて、逆に頭をど突かれる。

「今さら気付いたって遅いかもだけど…………これ以上手遅れにしないためにすることがあるんじゃない? 少なくとも相手は、ぶっ倒れるくらいお前のこと思ってるわけだし?」

 床に落ちたままになっていた潰れた紙コップをゴミ箱に捨てて、高遠は去っていった。

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ろくな愛をしらない 14



【久住慶太】

「慶太、帰り、ちょっと本屋寄ってかね? 買いたいのあんだ」
「あぁ、いいけど」

 他愛もない会話をしながら歩と教室を出た瞬間、俺は思わず足を止め、そして息も止めた。

「相川さん…」

 教室学生会室を出てすぐのそこに立っていたのは、今1番会いたくて………会いたくない人。
 足を止めてしまった俺に、隣の歩が視線を向けたのが分かった。

「歩、悪ぃけど、ちょっとこいつ借りてくから」
「へ? あ? う、うん」

 は? とか思ってる間に相川さんに手首をガシッと掴まれて、引っ張られる俺。慌てて振り返れば歩が呆然としたまま突っ立ってて。
 おい、ちょっとは何とかしろって! バカー!!

「ちょっ、相川さんっ」

 慌てる俺をよそに、相川さんはぐんぐん進んでくし。手首は掴まれたままだし。通り過ぎてく人にはめちゃくちゃ見られてるし。

「あの、手、離し…」
「ヤダ」
「だって、」
「離したら逃げるだろ、お前」

 ギュッて、手首を掴む力が、少し強くなった。
 ヤバイ……今さらなのに、ドキドキしてる。

「逃げな…逃げないんで離してください…!」

 人目が気になるのと、それからこのどうしようもないドキドキ…!
 相川さんの表情からは何も読み取れない。怒ってるようにも見えるし、単なる無表情なだけにも見える。少なくとも機嫌がいいようには思えないんだけど。
 でも俺、あれ以来、相川さんには会ってないし、何もしてない。

「相川さん!」

 外に出たところで、ようやく手首を離してもらって。

「何…どうしたんですか、急に。授業は?」

 沈黙が怖くて、俺は視線を落としたまま、相川さんに問い掛ける。
 どこ向かってんだろう。
 逃げ出したいけど、ここで逃げたら、後が怖い気がする。

「あの…」
「はい」
「え?」

 渡されたのは、ヘルメット。
 駐輪場で、相川さんは無表情のまま、バイクにキーを差してる。
 もしかして、後ろに乗れって? 悪いけど俺、バイクの2人乗りとか、したことないんですが…!

「乗って?」
「……、」

 でもとてもそんなこと言い出せる雰囲気じゃなくて。
 手の中のヘルメットと、相川さんを交互に見る。

「乗れよ」
「でも…」

 また、沈黙。
 次の授業が始まったのか、駐輪場には俺ら以外、誰もいなくて。

「……お前、倒れたんだって?」

 俺がバイクに乗る気がないって分かったのか、相川さんは俺の手からヘルメットを取り戻した。

「倒れたなんて、大げさですよ。ちょっと貧血っぽくなっただけで」
「俺のせいだろ?」
「……どうして、」
「違うの?」

 何て答えたらいいのか分からない。
 アンタのせいだって言ったら、何かが変わるの? バカバカしいよ、そんなことない。

「もう平気なんで、気にしないでください」

 そう答えるのが精いっぱいだった。
 ちらりと様子を窺えば、相川さんはちょっと眉を寄せて、「あ、そう」とだけ言った。

 もう少し、ちゃんと答えればよかったかな。
 せっかく心配してくれたのに。

 これでまたさらに、嫌われちゃうのかな、てちょっと自己嫌悪に陥ってたら。

「うわっ!?」

 いきなり頭に衝撃。

「なっ…!?」

 慌てて頭を触れば、固い感触。
 相川さんが持ってたヘルメットがない。
 てことは、今の衝撃は、俺の頭にそのヘルメットを被せたってことで。

「乗れ」
「え、ちょっ…」
「もう具合悪いんじゃねぇなら、乗れよ」
「…」

 もうこれ以上は逆らえない気がして、俺は恐る恐る、相川さんのバイクの後ろに跨った。

「ちゃんと掴まってろよ?」
「え? ど、どこに?」
「……お前、乗ったことねぇの?」
「後ろには…」

 正直に打ち明ければ、相川さんは溜め息をついてから、俺の右手を取って、自分の腹のほうに回した。

「そっちの手も!」

 グズグズしてたら左手も引っ張られて、前に回させられる。ちょうど、背後からしっかりと抱き付いてる格好で。
 しょ、しょうがないんだよね? バイクに2人乗りするときは、こうしなきゃなんだよね?
 よく分かんないけど、アップアップな俺は、言われるがままで。
 何かこんなのヤダなってちょっと思ったけど、バイクが走り出した瞬間、振り落とされるんじゃないかって、慌ててちゃんとしがみ付いた。









「あの…」

 赤信号で止まったのをいいことに、俺は、前の相川さんに声を掛けた。

「どこに向かってるんですか? 俺んちこっちじゃないんですけど」
「そりゃそうだ。俺、お前んちなんて知らねぇもん」
「え、ちょっ…どこ行く気なんですか!?」
「さぁ。どこ行きたい?」

 飄々とそんなことを言ってのける相川さん。
 思わず絶句。
 何の考えもなしに、俺をバイクに乗せたわけ?

「なぁ、どこ行きたいんだよ」
「…………家」

 どこに行きたい? なんて言われて、これで女の子だったら、「海!」とか、「じゃあ、相川さんち!」なんてかわいくおねだりするところだろうけど、生憎と俺はそんなキャラじゃないわけで。
 そしたら相川さんに、「つまんねぇヤツだな」って、あっさり突っ込まれて。

「すいませんね、気の利いたことが言えなくて。どうせつまんない男ですよ」
「ふはっ、いや、十分おもしろいよ、お前」

 何が相川さんのツボなのか知らないけど、さもおもしろげに相川さんは笑い出す。俺としては、ひがみも半分、言い返しただけなのに。

「相川さん、」
「ん?」
「わっ…!? いいです、後でいいです、止まってからでいいですっ…!!」

 信号が青に変わって、バイクが走り出して。
 とてもじゃないけど、そんな状態で俺は話し掛けるなんてこと出来なくて。
 どこに行くつもりか知らないけれど、もうどこでもいいから、とにかくバイクが止まってくれることだけを、ひたすらに願う。 






 しばらく走って、俺は怖くてずっと目を閉じてたから、一体ここがどこなのか分からないけど、バイクが止まった気配に目を開けたら、河川敷の側だった。
 土手から見下ろせるグラウンドで、小学生が野球の練習をしてる。

「……ここ、」
「降りて?」
「…」

 言われるがまま、俺はバイクを降りて、ヘルメットを相川さんに返す。
 犬を散歩させてるじいさんが遠くに見えるだけで、他には誰もいない土手。その中ほどのところに相川さんが座ったので、仕方なく俺も隣に座る。
 ここは自分の行動の範囲外で、勝手に帰ろうと思っても、帰り方も分かんないから。

「相川さん」
「ん?」
「何で今さら俺なんか構うんですか?」
「今さらって何だよ」
「だって俺、あんなこと言い捨てて…」

 あの日。
 ひどい言葉を吐き捨てて、相川さんの前から逃げ出した。
 もう絶対相手になんかされないと思ったのに、今日こうしてまた、相川さんと2人になってるなんて。

「あぁー、あれはマジ効いたわ。あんなこと言われたことねぇし」
「俺だってないですよ、言われたことなんて」
「お前はそういうのなさそうだもんな。真面目そうだし」
「別に、」

 確かに、女の子のほうから相川さんを手放すようなマネなんて、しそうもないもんな。
 もしかして、あんなにこっぴどく相川さんを振ったのって、俺が初めて? はは……それも何かいいな。

「なぁー久住ー」
「……何ですか?」
「俺のこと嫌いになんないでー」
「はっ!?」

 今までに聞いたことのないような、情けない声の相川さんに、ビックリして振り向けば、相川さんはその場に寝そべっていた。

「どっ……どうし、え? は?」

 アワアワしてる俺に、寝転んだままの相川さんが、また吹き出してる。

「お前、ホント、いっつもいい反応するよな」
「だって!」

 それはいつも相川さんが、突拍子もないことばっかり言ってくるから。
 いつも振り回されて。
 なのに、今日は。

「何か、だって……いつもの相川さんらしくない。だって俺の前じゃ、いつだって自信たっぷりな感じだったし」
「でも、お前の前じゃダメなんだよな。お前にあんなこと言われてさ、いつもだったら他のヤツ探して楽しめば、そうすりゃ全部忘れんのに…」

 相川さんは渋い顔をしてタバコに手を伸ばす。でも俺のほうをチラッと見てから、それを元に戻して。俺がまだタバコを吸えない年齢だから、気を遣ってくれたのかもしれない。

「今さら遅いかもしんないけど……言ってもいい?」
「え、」

 また、高鳴り出す、俺の心臓。
 ヤダ……もうこの感覚。

 でも、相川さんの次の言葉を待ってる自分がいて。




「俺、お前のこと、好きだったのかも」


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