恋三昧

【18禁】 BL小説取り扱い中。苦手なかた、「BL」という言葉に聞き覚えのないかた、18歳未満のかたはご遠慮ください。

HA-HA! 僕らマッチ箱みたいな世界で生きてる

CATEGORY

  • このページのトップへ

スポンサーサイト


上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

カテゴリー:スポンサー広告

アルデンテには向かない夜 (7)


「ンだよ」
「ミキくん、本気でパスタ食いたいの? さっき茹でてたアレ」
「ぅん?」

 森下の言ってる意味が分からなくて、俺はとりあえずパンツだけ穿いて、森下にくっ付いて台所に向かう。
 あ、電気点けっ放しだった。そんな余裕なかったんだっけ?

「何? ゲッ」

 森下が嫌そうに鍋を指差すから、何なんだと思いながらそれを覗き込んだら、そこには大惨事が広がっていた。
 うわー、茹でかけのパスタ、お湯に浸しておくと、こうなるんだー。ぶよっぶよ。
 ギャグだ。でも全然笑えねぇ。

「…森下ー」
「何」
「試しに食ってみて」
「ヤダよ。ミキくん腹減ってんでしょ? 食いなよ」
「ぜってぇヤダ」

 地球上にこれしか食うモンがなくなったら食うかもだけど、そうじゃなかったら、ぜってぇ食わねぇ。

「もう冷蔵庫の中、空だよ。どっか食いに行く?」
「今さら服を着んの、面倒くせぇ」
「ミキくん…。人間としての尊厳を、ちょっとは保ちなよイテッ」

 言い終わる前に蹴っ飛ばそうとしたのに、つい最後まで聞いてしまった。
 まったく、森下はロクなことを言わない。

「出前取ろうぜ、出前」
「はいはい」

 コンビニに行くんだとしても、服は着なきゃだから、こうなったら、それしか手段はない。
 俺は森下を台所に置いて、出前メニューのところへと向かった。




アルデンテには向かない夜


「ミキくん、結局何頼んだの?」
「寿司。あ、俺風呂入ってくっから、届いたら金払っといてね」
「えぇっ!?」



back    next

カテゴリー:HA-HA! 僕らマッチ箱みたいな世界で生きてる

この街は、今日もメイドで溢れている (1)


(point of view : manaho)



 一過性のブームで終わることなく、メイドカフェは、オタクだけでなく一般人にも広く浸透するようになったけれど、店舗といえば、閉店と新規開店の繰り返しだ。
 しかも今は、メイドカフェに限らず、執事喫茶とか、妹カフェとか、いろんなコンセプトカフェがあるから、生き残り競争に勝つべく、どの店もアイディアを出し合っている。

 そんな中で、「メイドカフェぴゅあ」は多分、結構異色だと思う。
 在籍しているメイドさんのうち、3分の1くらいが男だ。いわゆる男の娘てヤツ。
 男の娘だけのメイドカフェは他にもあるだろうけど、女の子と男の娘が混在しているメイドカフェて、そうないんじゃないかなぁ、と俺は思ってる。

 どの層をターゲットにして始めたのか、けれど、意外に女性客も多いし、年齢も結構バラバラ。
 お客は、女の子と男の娘、どっちのメイドに接客してもらいたいか選べるんだけど、やっぱり、いかにもオタクです! て感じの男の人は、大体女の子メイドを選ぶし、男の娘メイドを選ぶのは女の人だ。

 でも、ここの男の娘メイドはかなりレベル高くて、パッと見で、女の子か男の娘か見分けられる人なんか殆どいないから、どっちでもいい気もするんだけど。
 やっぱ、それぞれに違った萌えがあんのかな。

 …て、異様にこの店に詳しい俺。
 実は常連客――――のはずもなく、むしろ、メイドさんとして働いてるから。
 別に女装趣味があるわけでも、メイドさんに囲まれて仕事がしたいからでも、お金に困っているのに他にバイトが見つけられなかったからでもなく……何となく?
 友だちの及川瑛士には、「何となくで始めるバイトじゃねぇ」て言われたけど、実際そうなんだもん。

 まぁ…、『俺、メイドカフェの常連なんだよねぇ~』て言うのと、『男の娘メイドやってまーす』て言うの、どっちが引かれるんだろうなぁ、とか、考えたことないわけじゃないけど。
 それなりに楽しくやってる。

「マナちゃ~ん、ビラ配りこうた~い」

 アニメのキャラみたいな声に呼ばれて振り返れば、かわいいツインテールのメイドさん、くるみちゃんが、お店の広告ビラをバサバサとうちわ代わりにしながらやって来た。

「外、暑い? かなり?」
「暑い、暑い。ちょ~~あっつい! マジ死ぬ!」

 アニメ声で、メイドさんで、この喋りとか……すげぇ違和感。
 もし本気でメイドさんに夢見てる人がいたら、相当一気にドン引きするよね。

「でもお客さんいっぱいだよ。くるみちゃんビラ配ってくれたから」
「えへへー」

 くるみちゃんが、お客さんと一緒じゃなくて、1人でお店に戻って来てる時点で、ビラ配りの手ごたえはいまいちなんだけれど、一応そう言って褒めておく。
 この機嫌のくるみちゃんに文句言ったって面倒くさいことになるだけだし、お客さん、それなりに入ってるから。



back    next

カテゴリー:HA-HA! 僕らマッチ箱みたいな世界で生きてる

この街は、今日もメイドで溢れている (2)


 お客さんの数が俺らの給料に影響を与えるから、ビラ配りも手は抜けないけど、ウチの店は、ビラ配りの目標枚数はあっても、ノルマじゃないのがいいところ。
 ビラ配り出て、絶対にお客さん連れて来なきゃダメ、とかもないし。
 よそから来たメイドさんが、『前のお店、お給料全然振り込まれないし、店長のお気に入りじゃないと、1日中ビラ配りだけなんだよ~』て嘆いてたの聞くと、ウチの店てかなりいいほうだと思う。
 店長がよく、『自分とこのメイドを大事にしない店なんて、ロクなトコじゃねぇっ』て言ってるしね。

「マナちゃん、ねっちゅーしょう、気を付けてね」
「うん、ありがと」

 この子、熱中症て漢字で書けるのかな? て逆に心配したくなりつつ、俺はビラの束を持って、外へ向かった。
 確かに外、めっちゃ暑い。くるみちゃんも、ぼやきたくなるわけだ。

 ハッキリ言って、ビラ配りの仕事は、メイドさんに人気がない。
 そりゃみんな、『お帰りなさいませ、ご主人様♪』て、オムライスに絵とか描きたくてメイドさんになってんだから、ビラ配りなんかつまんないよね。夏暑くて冬寒いし。
 でも俺はビラ配り、嫌いじゃない。好きでやってるメイドさんだけど、『チューチューごっくん』とかするよりは、やっぱりビラ配りのほうがマシかな、と。

「メイドカフェぴゅあでーす。一緒にご帰宅しませんかぁ?」

 声色を変えて(見た目だけなら女の子だけど、地声は完璧に男だから)、ビラを差し出す。
 興味を持って話を聞いてくれる人には、女の子と男の娘がいる店だって話すけど、単にビラを配ってるときは、女の子だと思われたほうが、ビラを受け取ってもらいやすいからね。

「メイドカフェぴゅあでー……ッ、、、」

 機械的になるのはよくないとは分かってるんだけど、無視られるほうが多いから、気付くと、相手もよく見ないで、ただビラを差し出しちゃってる。
 でも、そんな中でも、足を止めて受け取ってくれた人がいたから、よっしゃあ! て思ったのも束の間、俺は言葉を失った。この人は――――三木本先生だ!

 さすがに構外じゃ白衣は着てないし、なぜかメガネも掛けてるけど、間違いなくこの人は三木本先生だ。
 え、メイドさんとか好きなの? 萌え? てか、そのメガネは、こういうところ来るための変装ですか?

 俺の頭の中は、疑問やら焦りやらでいっぱいになるけど、肝心の三木本先生は、俺のほうを見ることもなく、ジーッとビラを食い入るように見つめてる。
 お店に来る気がある、てことなんだろうか。そしたら俺、先生のこと、お店に連れてかないとじゃん!
 あ、でも、男の娘メイドもいます、て言ったら、萎えて、来ないかな? …いや、そうだとしても、お店の仕組みを説明しなきゃいけない状況に、変わりはない。

 さすがに、見た目でバレない自信はあっても、声聞かれたらバレるに決まってる!
 ずっと声変えて喋り続けるなんて無理があるし…。でも、がんばれば出来るかな? 相当変だと思うけど、三木本先生にバレるよりは、そのほうがマシ!



back    next

カテゴリー:HA-HA! 僕らマッチ箱みたいな世界で生きてる

この街は、今日もメイドで溢れている (3)


「ご…ご主人様、」
「………………。何時までバイトなの?」
「はっ?」
「今日、何時まで?」

 ビラから顔を上げた先生は、今度は俺の顔をジッと見ながら、そう言って来た。
 声変えて喋り続けようとしたら、若干上擦っちゃって、それに焦り掛けてたけど、それ以上に、先生の言葉にわけ分かんなくなった。何言ってんだ、この人は。メイドさんをナンパしたいだけの人?

「えっと…」

 本気で答えたほうがいいのか、適当に受け流したほうがいいのか、答えに迷う。
 これが三木本先生じゃなかったら、どうとでも出来るのに。

「何時まで?」
「えー…と、23時まで営業中でーす」

 とりあえず、当たり障りのない答え。
 もしナンパ目的だとしても、この返事なら、その気がないのが分かるし(もし伝わんなかったら……先生、鈍感すぎる…)。

「…俺、マナくんの、バイトの終わる時間聞いてんだけど?」

 こないだ、初めて話をしたときは、何かかわいらしい印象だったけど、メガネしてるせいかな? ちょっとクールそうな雰囲気…………て、そうじゃなくて!
 今先生、『マナくん』て言ったよね? もしかして、俺だって気付いてる…?

「何時に終わるの? マナくんメイドさん」

 ニッコリ。
 その最上級の微笑みは、男の娘メイドやってる俺ですら、負けちゃうんじゃないかていうくらい、かわいらしいけど、今の俺にしたら、ただただ恐ろしいだけでしかない。

「三木本、先生…」
「グフ」

 俺が何とか声を絞り出せば、先生は、あの変な笑い方で笑った。
 男の娘メイドやってるのがバレて、俺が焦ってるとでも思ってるんだろうか。
 でも、お店は全然違法じゃないから問題ないし、男の娘だって好きでやってるんだから、俺が焦ることなんか何もない…………わけじゃないけど(やっぱり誰かにバラされたくないし)。

 でも、もし先生が誰かに言ったところで、俺が男の娘メイドやってる証拠なんて、どこにもない。メイド姿の写真はあるけど、それで俺だってバレるわけないし。
 いざとなったら、白を切り通せばどうにかなる!

「『メイドカフェぴゅあ』――――チラシ貰っちゃった、俺」
「ッ!」

 俺が心の中で、三木本先生の思いどおりになんかなんないぞ、てほくそ笑んでたら、三木本先生はそれを見透かしたかのように、手にしていたビラをチラつかせてきた。
 バカか俺は。さっき、三木本先生だって気付かずに、ビラを渡してるじゃないか!



back    next

カテゴリー:HA-HA! 僕らマッチ箱みたいな世界で生きてる

この街は、今日もメイドで溢れている (4)


 で…でも、お店がバレたって、俺だって気付かれなきゃ大丈夫なんじゃ…(友だちの瑛士だって、初めて俺のメイド写真見たとき、気付かなかったし)。
 けど、メイドカフェで働いてるとか、噂が流れるのは嫌だ。みんなにおもしろがられるのは目に見えてるし。

「で、何時に終わるの? バイト」
「…そんなこと聞いて、どうするつもりですか?」
「それ答えたら、何時に終わるか、教えてくれんの?」

 先生は、どこまでも食い下がるつもりらしい。
 俺が答えるまで、このやりとり、ずっと続くんだろうか。

「…教えます」

 このままじゃ全然ビラ配りが進まないし、俺ら2人して相対している様子は明らかに異様だから、早く切り抜けたくて、俺は渋々そう答えた。
 それに、教えなきゃバラすとか言われても困るし。

「んーとね、バイト終わったマナくんを出待ちして、お持ち帰りするつもりなの」
「ッ…バカかっ! あっ…」

 先生があんまりにもバカなこと言うから、思わず大きな声を出しちゃって、慌てて俺は口を塞いだ。
 メイドさんがビラ受け取ってくれたお客さんに怒鳴るとか、お店のイメージダウンだし、バカなことを言っても相手は先生だし。

「ぐふふ。やっぱりマナくんは、怒ると、口が悪くなる」
「……」
「で、何時に終わるの?」
「…5時です」

 とうとう観念して俺が答えると、先生はニンマリと笑った。
 何かを企んでるみたいな、嫌な顔。
 本気で出待ちするつもりか。つか、メイドさんのお持ち帰りとか、出来ると思ってんの? いや、それ以前に、自分の大学の学生に、そんなことしていいと思ってんの?

「大丈夫。変なことはしないから」
「…」
「じゃ、5時にまた来るね」

 先生は、お店のビラをしっかりとしまうと、メガネをクイッと上げて、去って行った。
 変なことはしない、て言ったけど、三木本先生がちょっと変なのに、その基準で変なことしないとか言われても…。

 あぁ、ビラ配りが嫌いになりそうだ…。




この街は、今日もメイドで溢れている


(つか、どうせなら、お店行って売り上げに貢献しろよ!)



back    next

カテゴリー:HA-HA! 僕らマッチ箱みたいな世界で生きてる

recent entry

recent comments

thank you for coming

category

monthly archive

2037年 01月 【1件】
2017年 01月 【1件】
2016年 11月 【13件】
2016年 10月 【15件】
2016年 09月 【1件】
2016年 08月 【3件】
2016年 07月 【17件】
2016年 06月 【12件】
2016年 05月 【13件】
2016年 04月 【14件】
2016年 03月 【12件】
2016年 02月 【18件】
2016年 01月 【28件】
2015年 12月 【30件】
2015年 11月 【28件】
2015年 10月 【31件】
2015年 09月 【27件】
2015年 08月 【2件】
2015年 07月 【1件】
2015年 06月 【24件】
2015年 05月 【31件】
2015年 04月 【31件】
2015年 03月 【31件】
2015年 02月 【22件】
2015年 01月 【31件】
2014年 12月 【30件】
2014年 11月 【30件】
2014年 10月 【29件】
2014年 09月 【22件】
2014年 08月 【31件】
2014年 07月 【31件】
2014年 06月 【30件】
2014年 05月 【31件】
2014年 04月 【30件】
2014年 03月 【31件】
2014年 02月 【28件】
2014年 01月 【30件】
2013年 12月 【14件】
2013年 11月 【30件】
2013年 10月 【31件】
2013年 09月 【30件】
2013年 08月 【31件】
2013年 07月 【31件】
2013年 06月 【30件】
2013年 05月 【31件】
2013年 04月 【31件】
2013年 03月 【32件】
2013年 02月 【28件】
2013年 01月 【31件】
2012年 12月 【31件】
2012年 11月 【30件】
2012年 10月 【31件】
2012年 09月 【30件】
2012年 08月 【31件】
2012年 07月 【31件】
2012年 06月 【30件】
2012年 05月 【32件】
2012年 04月 【30件】
2012年 03月 【29件】
2012年 02月 【29件】
2012年 01月 【33件】
2011年 12月 【35件】
2011年 11月 【30件】
2011年 10月 【31件】
2011年 09月 【31件】
2011年 08月 【31件】
2011年 07月 【31件】
2011年 06月 【31件】
2011年 05月 【34件】
2011年 04月 【30件】
2011年 03月 【31件】
2011年 02月 【28件】
2011年 01月 【31件】
2010年 12月 【31件】
2010年 11月 【30件】
2010年 10月 【31件】
2010年 09月 【30件】
2010年 08月 【32件】
2010年 07月 【31件】
2010年 06月 【31件】
2010年 05月 【32件】
2010年 04月 【30件】
2010年 03月 【31件】
2010年 02月 【28件】
2010年 01月 【32件】
2009年 12月 【32件】
2009年 11月 【31件】
2009年 10月 【34件】
2009年 09月 【32件】
2009年 08月 【31件】
2009年 07月 【34件】
2009年 06月 【30件】
2009年 05月 【32件】
2009年 04月 【31件】
2009年 03月 【32件】
2009年 02月 【28件】
2009年 01月 【32件】
2008年 12月 【40件】
2008年 11月 【38件】
2008年 10月 【37件】
2008年 09月 【32件】
2008年 08月 【33件】
2008年 07月 【32件】
2008年 06月 【31件】
2008年 05月 【33件】
2008年 04月 【31件】
2008年 03月 【32件】
2008年 02月 【29件】
2008年 01月 【35件】

ranking

sister companies

明日 お題配布
さよならドロシー 1000のだいすき。
東京の坂道 東京の坂道ほか
無垢で無知 言葉の倉庫

music & books