恋三昧

【18禁】 BL小説取り扱い中。苦手なかた、「BL」という言葉に聞き覚えのないかた、18歳未満のかたはご遠慮ください。

愛じゃない、恋でもない

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18時3分に未知との遭遇 (5)


「あ、ありがとう。じゃあ俺、これで…」

 いくらリオに親しげに声を掛けられたとしても、こちらはそんなにすぐに打ち解けられる人間ではない。
 相手に不愉快な思いはさせたくないから、出来るだけ素っ気ない態度はとらないように心掛けてはいるけれど、今のところはさっさと帰ってしまいたい。

「え、穂積、帰るの!? メシは? 食って行ったら? なぁ、そうしてよぉー」

 穂積のシャツの袖を掴んで、リオは、駄々を捏ねる子どものように穂積の腕を揺さぶる。

「リオ。穂積には穂積の事情があんだから、また今度にしろよ、な?」

 光彰にそう宥められ、リオは唇を尖らせながらも、穂積のシャツから手を離した。

「じゃあ、また今度な? 約束だかんね?」

 勝手に小指を絡められ、指切りげんまんをさせられて。
 隣で光彰が笑っているのが気になったが、その手を振り払えばリオがへそを曲げかねないので、穂積はおとなしくそれに付き合った。

「じゃあねー、バイバーイ」

 わざわざ玄関先まで見送ってくれたリオに手を振り返して(光彰は、部屋でDVDを片付けていて、出て来なかった)、穂積は光彰のマンションを後にした。





「光彰ー、穂積、また来るかなぁ?」
「あぁ? さぁな。アイツ、めっちゃ人見知りだし。リオ、また穂積に会いたいのか?」
「うー? さぁ?」

 リオはいたずらっぽい笑みでその質問をかわして、キッチンへと行ってしまった。
 光彰も、元より答えを聞くつもりもなかったのか、着替えるためにクロゼットのある寝室へと向かった。

「光彰ー、ご飯しよー?」

 その背中、リオの声がして、光彰は口元に笑みを浮かべた。



*end*



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果たして馬鹿で愚かでしょうか (1)


 『ケータイ欲しい』とか高等なことを抜かしやがるから、一発ど突いてやったけど、結局買ってやったリオの携帯電話。



果 た し て 馬 鹿 で 愚 か で し ょ う か




『肉まん食いたーい。買ってきて?』

 ……………………。

 何ですか。
 仕事の終わりに、脱力させられるようなこのメールは。

 光彰は、受信したメールに返信することもなく、即行で削除してやった。
 差出人は言わずもがな、光彰の帰りを……否、肉まんの到着を待っているリオだ。

 携帯電話を買ってくれとしつこくせがまれて、2世代くらい前の、格安の携帯電話を買い与えてやったのが10日ほど前。すぐに、無理やり電話番号とメールアドレスを交換させられた。

 リオの交友関係は知らないし、そんなに興味もないが、今まで携帯電話を持たなくても済んでいたくらいなのだから、大したことはないのだろう。
 いったい何のための携帯電話なんだか……なんて、光彰は呆れ半分に思っている。

「光彰くーん。今日の夜、暇?」

 携帯電話をしまった光彰のところに、意味ありげな笑顔で近づいてきたのは、後輩の竜巳(タツミ)だ。
 光彰は、この笑顔の意味を知っている。

「…暇じゃない」

 だから光彰は、話を聞くまでもなく、そう言ってやった。

「嘘!」
「どうせ合コンの人数集めだろ? めんどい。そんな気分じゃない」
「えー? 女子大生だよ、女子大生! ホラ、興味出て来たでしょ?」

 案の定、合コンのお誘いを受け、光彰は本当に面倒臭そうに答えるが、竜巳としても、どうしても光彰を連れて行きたいらしく、「なぁなぁ」としつこい。

「穂積連れけよ」
「えー……穂積くん、行きます?」
「行くわけねぇだろ、アホんだら!」

 竜巳に声を掛けられ、穂積は声を荒げた。
 ただでさえ人見知りの激しい穂積が、人数合わせとはいえ、知らない人間だらけの合コンになど参加するはずがない。
 もちろんそれを分かっていて、あえて光彰は話を振ったのだし、竜巳は初めから声を掛けなかったのだけれど。

「だから光彰くん、行きましょ?」
「何が『だから』だ! 行かねぇって……ちょっ、竜巳!」

 嫌がる光彰を引っ張って、竜巳は無理やり光彰の合コン参加を決めてしまった。

「ご愁傷様~」

 そんな光彰を、のん気に手を振って、穂積は見送った。



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 タイトルは、約30の嘘さまから。thanks!

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果たして馬鹿で愚かでしょうか (2)


 別に合コンが嫌いだとか、女の子が嫌いだとかいうことは、決してない。
 というか、どちらかと言えば、大好きなほうだし。

 タバコに手を伸ばせば、隣に座っていた女がライターを差し出す。
 茶色く染めた長い髪に、印象的な大きな瞳。キレイにデコレーションされた爪が、タバコを挟んだ指先に触れた。

 派手だが、嫌いなタイプではない。
 向こうがその気なのは態度で分かるし、口説けばすぐに落ちるだろう。

 計算なのか無意識なのか、女が光彰の膝に手を乗せる。
 顔を覗き込まれて――――恐らくその上目遣いで、今まで何人も落としてきたに違いない。

 光彰は女の、華奢で派手な手の上に自分の手を重ねた。
 目配せ。
 タイミングを見計らって、2人で店を抜け出した。



*****

 リオのことは抱けるけど、別にホモじゃないし、セックスするなら女のほうがいい。
 柔らかい体とか。大きい胸とか。
 いやらしく絡んできて、離さないし。

 甘ったるい匂い。



 2人で果てて、真夜中過ぎ。
 髪を掻き上げながら見上げてくる女の隣、光彰はベッドを下りてタバコに火をつけた。

「…ミツくん?」

 馴れ馴れしい呼び方が、癇に障る。
 ほんの一口二口吸って、長いままのタバコを灰皿に押し付けると、光彰は何も言わず服に着替える。纏わり付く、女の香水の匂いを、少しだけ鬱陶しいと思った。

「ねぇ?」

 女の声。
 最中は耳をくすぐった甘いそれも、今となっては不快にしか聞こえなくて。

「…帰る」
「は!? え、ちょっ…」

 慌てる女をよそに、光彰は表情も変えずに身支度を整えて。金だけ置いて、さっさと部屋を後にする。
 その後ろ、閉まるドアの向こうから、罵る女の耳障りの声が聞こえた。



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果たして馬鹿で愚かでしょうか (3)


 いつまでも、その匂いが纏わりついてくるような、そんな感覚。キツイ、香水の匂い。離れても、その存在を主張してくるようで。
 その匂いも存在も、すべて消し去るように、帰宅した光彰はすぐにバスルームに向かって、頭からシャワーを浴びた。

 風呂から出ると、ソファに身を投げてタバコに火をつける。
 時間も時間だから、リオはもう寝ているようで、静まり返った室内。光彰はぼんやりと、揺れる紫煙を眺めた。
 カチカチと、時計の秒針がうるさい。
 こんなことにすら苛付いている自分に気が付いて、光彰は最後の煙を吐き出すと、タバコを消した。

 いつもは真っ暗にしているはずの寝室で、ベッドサイドの明かりだけがほのかに灯っていた。
 ベッドでは、光彰がいないのをいいことに、リオが真ん中を占領して寝ている。手には携帯電話。

「寝られねぇじゃん」

 熟睡しているリオに、その声は届かない。
 光彰が、リオがしがみ付くように抱き締めている掛けぶとんの端を引っ張って、自分のほうに寄せると、その拍子にリオの体がコロリと転がった。

「……ん…? んーんー…?」

 ぼんやりと意識が浮上してきたのか、リオの睫毛が震えて、薄く目が開く。

「や…寒い…」

 ダブルサイズとはいっても、それまでいいように独り占めしていた掛けぶとんを半分取られて、リオはむずかるように身を捩った。

「リオ、詰めて。入られん」
「ぅうん……みつあ…」

 寝惚けながらも、光彰の存在を確認したリオは、少し体をずらして、光彰のためにスペースを空けてやった。
 光彰は、リオの手から携帯電話を取ると、それをベッドの端に置いて、ふとんを掛け直してやる。

 別にあのまま、ホテルで寝て帰っても良かったけれど。あの女の横では、どうしたって眠れそうもなくて。
 光彰は空いたスペースに体を横たえる。

「ん…」

 またすぐに眠りに落ちたリオが、無意識にか、光彰のほうに擦り寄ってくる。
 光彰はリオを抱き締めると、静かに目を閉じた。



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果たして馬鹿で愚かでしょうか (4)


 朝、というより、時間的には昼に近いということを、光彰は知っていた。
 けれどそれでも、光彰に起きる気はなかったのに。

 朝は、唐突にやって来る。

「光彰ぃ、もぉ起きて! 何時だと思ってんのっ!」

 …声がデカイ。
 それこそ、こっちは何時に寝たと思っているのだ。

「みつー?」
「……リオ、うるさい…」
「うるさいて何! 休みの日だからって、いつまでもダラダラ寝てたらダメなんだから!」

 ユサユサと体を揺さぶったり、掛けぶとんを剥がそうとしたりして奮闘しているリオには申し訳ないが、休みくらいもう少し寝かせてほしい。

「光彰ぃ……ホントに起きないのぉ? なぁ~」

 声に、甘えたようなニュアンスが混じってくる。
 この声を、嫌いではないと思った。

「む~……もーいい」

 諦めたような声とともに、上に掛かっていた重みがなくなる。

「光彰のバカ…」
「バカって何だ」
「うわっ!?」

 もう光彰は起きないのだと油断したところに、急に腕を引かれて、リオはそのままベッドのほうに転がってしまった。

「もぉー何すんの、光彰」

 子どものように頬を膨らませて、リオは光彰の額を叩いた。

「リオ、こっちおいで?」
「もう来てる」
「もっとこっち」

 ベッドの端にいたリオを引っ張って、自分の腕の中に抱き寄せた。

「ぬくい、リオ」
「もー……何か光彰、子どもみたいね、甘えんぼで」

 それだけはお前に言われたくないと思いつつ、あえて何も言い返さず、光彰は柔らかなリオの髪に指を通す。
 心地よい体温だ。
 たぶん、今までの中で1番。

「リオー」
「んー?」

 光彰を起こすことはもう諦めたらしいリオは、大人しく光彰の腕の中に収まって、その胸にスリスリと頭を寄せている。

「後で肉まん買いに行くか」
「………………。…………うん!」



*end*



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