君といる十二か月
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四月 きっとなにかがはじまる (5)
2008.12.02 Tue
桜舞う4月。
大学の入学式を明日に控えたその日、大半の生徒が引っ越しを終えて一段落したはずの学生寮の3階廊下が、なぜかまたバタバタと騒がしかった。
「普通、入学式の前日に引っ越しなんてするー?」
段ボール箱を抱えながら、呆れたように言い放ったのは、和衣。
「俺、3月中に荷物だけは運んだけど?」
それに答えたのは、同じく段ボール箱を持った翔真。
「しかも、これから遊びに行こうって友だち捕まえて、引っ越しの手伝いなんかさせる?」
「その報酬がマックだけなんて、あり得るー?」
「だから悪かったってば!」
そしてそれに半ばキレ気味に言っているのは、2人よりも多い量の荷物を抱えた亮。
引っ越し準備の段取りの悪さから、亮だけ寮への引っ越しが何と入学式の前日となってしまったのである。
寮といっても、別に全寮制の大学というわけではない。
もちろん厳しい規則などがあるわけでもなく、大学からそこそこ近い位置にある建物を、大学側は安価で学生に提供しているだけのこと。
家賃の安さが魅力だが、その代わり、それほど広いともいえない部屋は、男2人の相部屋で、風呂とトイレは共同。1人暮らしを満喫するには至らない。
彼女を自由に連れ込むわけにもいかないし、寮を希望する学生はそれほど多くもない。
そんな中、亮たち3人は揃って寮を希望した。
とりあえず家賃は安いし、家具もある程度備わっている。1年住んでどうにもならなかったら、アパート暮らしを始めようという程度の軽い気持ちからだ。
「亮の部屋、何号室?」
「301だろ?」
「何でショウちゃん、知ってんの?」
和衣の問いに答えたのは、亮ではなく、なぜか翔真だ。
「1年生の部屋割り、入寮希望者の中で50音順なんだって」
「へぇ。だからショウちゃんの部屋番、後ろのほうなんだ」
「そゆこと」
301号室の前に辿り着き、一応部屋の主になる亮に、ドアを開けさせようと、和衣と翔真は両サイドによけた。両手いっぱいに荷物を抱えていた亮は、ヨタヨタしながらドアを開ける。
「失礼しまー……おわっ!!」
おそらく先に同室者が来ているだろうからと、亮は挨拶しながら中に入ろうとしたが、荷物の多さにバランスを崩し、そのまま持っていた荷物を部屋の中にぶちまけてしまった。
もちろん本人も前につんのめっている。
「亮、何やってんだよ、だいじょぶ?」
たいして心配したふうもない声で、和衣が声を掛ける。
「平気、平気、へー……」
言いながら立ち上がろうとした亮の動きが止まる。
「亮? どうし…」
固まってしまった亮を不審に思って声を掛けた翔真も、そのままフリーズ。え? って感じで覗き込んだ和衣も、思わず言葉をなくした。
「「「あぁ~~~~!!!!!」」」
3人同時の叫び声。寮の廊下中に響き渡る。
「な、な、何で!?」
「何でここにいるの!?」
「まさか、この部屋!?」
3人から一気に質問攻めにあったのは、部屋に備え付けのデスクに向かっていたその人物。
数日前にファーストフード店で亮たちの隣のテーブルに着いた、あの『睦月』だったのだ。
大学の入学式を明日に控えたその日、大半の生徒が引っ越しを終えて一段落したはずの学生寮の3階廊下が、なぜかまたバタバタと騒がしかった。
「普通、入学式の前日に引っ越しなんてするー?」
段ボール箱を抱えながら、呆れたように言い放ったのは、和衣。
「俺、3月中に荷物だけは運んだけど?」
それに答えたのは、同じく段ボール箱を持った翔真。
「しかも、これから遊びに行こうって友だち捕まえて、引っ越しの手伝いなんかさせる?」
「その報酬がマックだけなんて、あり得るー?」
「だから悪かったってば!」
そしてそれに半ばキレ気味に言っているのは、2人よりも多い量の荷物を抱えた亮。
引っ越し準備の段取りの悪さから、亮だけ寮への引っ越しが何と入学式の前日となってしまったのである。
寮といっても、別に全寮制の大学というわけではない。
もちろん厳しい規則などがあるわけでもなく、大学からそこそこ近い位置にある建物を、大学側は安価で学生に提供しているだけのこと。
家賃の安さが魅力だが、その代わり、それほど広いともいえない部屋は、男2人の相部屋で、風呂とトイレは共同。1人暮らしを満喫するには至らない。
彼女を自由に連れ込むわけにもいかないし、寮を希望する学生はそれほど多くもない。
そんな中、亮たち3人は揃って寮を希望した。
とりあえず家賃は安いし、家具もある程度備わっている。1年住んでどうにもならなかったら、アパート暮らしを始めようという程度の軽い気持ちからだ。
「亮の部屋、何号室?」
「301だろ?」
「何でショウちゃん、知ってんの?」
和衣の問いに答えたのは、亮ではなく、なぜか翔真だ。
「1年生の部屋割り、入寮希望者の中で50音順なんだって」
「へぇ。だからショウちゃんの部屋番、後ろのほうなんだ」
「そゆこと」
301号室の前に辿り着き、一応部屋の主になる亮に、ドアを開けさせようと、和衣と翔真は両サイドによけた。両手いっぱいに荷物を抱えていた亮は、ヨタヨタしながらドアを開ける。
「失礼しまー……おわっ!!」
おそらく先に同室者が来ているだろうからと、亮は挨拶しながら中に入ろうとしたが、荷物の多さにバランスを崩し、そのまま持っていた荷物を部屋の中にぶちまけてしまった。
もちろん本人も前につんのめっている。
「亮、何やってんだよ、だいじょぶ?」
たいして心配したふうもない声で、和衣が声を掛ける。
「平気、平気、へー……」
言いながら立ち上がろうとした亮の動きが止まる。
「亮? どうし…」
固まってしまった亮を不審に思って声を掛けた翔真も、そのままフリーズ。え? って感じで覗き込んだ和衣も、思わず言葉をなくした。
「「「あぁ~~~~!!!!!」」」
3人同時の叫び声。寮の廊下中に響き渡る。
「な、な、何で!?」
「何でここにいるの!?」
「まさか、この部屋!?」
3人から一気に質問攻めにあったのは、部屋に備え付けのデスクに向かっていたその人物。
数日前にファーストフード店で亮たちの隣のテーブルに着いた、あの『睦月』だったのだ。
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四月 きっとなにかがはじまる (6)
2008.12.03 Wed
バタバタとうるさく部屋に乱入してきた3人に、睦月はキュッと眉間にシワを寄せて、冷たい視線を向けている。
「あ……あー、えーっと、」
「秋月亮、くん?」
「え?」
とりあえず挨拶か、それともこの間の一件について話そうか、亮が戸惑っていると、訝しげな表情のまま、亮の名前を呼んだ。
あれ? 何で名前知ってんの?
「……入寮者の名簿、見たから」
思った疑問がそのまま顔に出ていたのか、問われないうちに睦月がそう答えた。それからその視線は、後ろにいる和衣と翔真に向いた。
「あ、俺、翔真ね。山口翔真! よろしく~」
視線に気付いた翔真が、いつもの明るい調子で自己紹介する。
「俺、和衣! 九条和衣」
和衣は翔真に顔をくっ付けて、ニコニコ笑顔。
アイドル張りの笑顔全開な2人に、睦月はポカンとしたまま、何度か瞬きをした。
「お前ら……引いてるって」
やたらとテンションの高い2人に、亮が呆れたように突っ込みを入れた。
「だーって、テンションでも上げなきゃ、人の引っ越しの手伝いなんかやってらんないもんねぇー?」
「そうそう」
「だから、悪かったっつってんだろ」
とりあえず引っ越しが完了するまでは、和衣と翔真には逆らえない。亮はまだ寮の玄関先に置きっ放しになっている荷物を思い出し、2人を連れて部屋を出ようとした、そのときだった。
「あれー? もしかして君たちって」
あのときと同じくらい、絶妙に的外れなタイミングで掛かった声は、3人ともが聞き覚えのあるもので。
「「「えぇ~~~~!!??」」」
3人はまた声を張り上げた。
現れたのは、あの日、ファーストフード店にやって来た睦月の友人くん。同じように人の良さそうな笑みを浮かべている。
「え? 何?」
声を上げたきり固まっている3人に、彼は少し困ったような顔をする。そんなに驚かせるような登場の仕方をしただろうか。
「も…もしかしてアンタもこの大学!?」
「そう」
「もしかしてこの寮に入るの!?」
「うん。あ、307の野上祐介です。よろしく」
同じように質問攻めに遭った彼―――祐介は、睦月と違って、その1つ1つにあっさりと答え、自己紹介までしてくれて、それに慌てて、亮たちも漸く名乗った。
「じゃあ、3人もこの寮に入るんだ?」
「そうそう。とりあえず1年はね」
「で、亮がまだ引っ越し終わってないから、今日はそのお手伝いー」
「え、まだ終わってないの!?」
和衣の暴露に、祐介も相当驚いたようで、床に投げ出されたままの亮の荷物に目を遣った。
入寮が決まって、自分の部屋の片付けも終わった後、何度か睦月の部屋に来たが、何度訪れても部屋には睦月の荷物しかなくて、不思議には思っていたが、こういうことだったのか…。
「今日中に終わるの?」
明日はもう入学式だ。少なくても荷物だけは今日中に部屋に運び入れてなければまずいだろう。
「終わらせたいなぁー……なんて」
もう乾いた笑いしか洩れない。
家具らしい家具は部屋に備わっているが、みんな、自分の持ってきた荷物を部屋に運び入れて、きちんと片付け終えるのに1日は費やしたのだ。このままじゃ、いつまで掛かることやら…。
「あ……あー、えーっと、」
「秋月亮、くん?」
「え?」
とりあえず挨拶か、それともこの間の一件について話そうか、亮が戸惑っていると、訝しげな表情のまま、亮の名前を呼んだ。
あれ? 何で名前知ってんの?
「……入寮者の名簿、見たから」
思った疑問がそのまま顔に出ていたのか、問われないうちに睦月がそう答えた。それからその視線は、後ろにいる和衣と翔真に向いた。
「あ、俺、翔真ね。山口翔真! よろしく~」
視線に気付いた翔真が、いつもの明るい調子で自己紹介する。
「俺、和衣! 九条和衣」
和衣は翔真に顔をくっ付けて、ニコニコ笑顔。
アイドル張りの笑顔全開な2人に、睦月はポカンとしたまま、何度か瞬きをした。
「お前ら……引いてるって」
やたらとテンションの高い2人に、亮が呆れたように突っ込みを入れた。
「だーって、テンションでも上げなきゃ、人の引っ越しの手伝いなんかやってらんないもんねぇー?」
「そうそう」
「だから、悪かったっつってんだろ」
とりあえず引っ越しが完了するまでは、和衣と翔真には逆らえない。亮はまだ寮の玄関先に置きっ放しになっている荷物を思い出し、2人を連れて部屋を出ようとした、そのときだった。
「あれー? もしかして君たちって」
あのときと同じくらい、絶妙に的外れなタイミングで掛かった声は、3人ともが聞き覚えのあるもので。
「「「えぇ~~~~!!??」」」
3人はまた声を張り上げた。
現れたのは、あの日、ファーストフード店にやって来た睦月の友人くん。同じように人の良さそうな笑みを浮かべている。
「え? 何?」
声を上げたきり固まっている3人に、彼は少し困ったような顔をする。そんなに驚かせるような登場の仕方をしただろうか。
「も…もしかしてアンタもこの大学!?」
「そう」
「もしかしてこの寮に入るの!?」
「うん。あ、307の野上祐介です。よろしく」
同じように質問攻めに遭った彼―――祐介は、睦月と違って、その1つ1つにあっさりと答え、自己紹介までしてくれて、それに慌てて、亮たちも漸く名乗った。
「じゃあ、3人もこの寮に入るんだ?」
「そうそう。とりあえず1年はね」
「で、亮がまだ引っ越し終わってないから、今日はそのお手伝いー」
「え、まだ終わってないの!?」
和衣の暴露に、祐介も相当驚いたようで、床に投げ出されたままの亮の荷物に目を遣った。
入寮が決まって、自分の部屋の片付けも終わった後、何度か睦月の部屋に来たが、何度訪れても部屋には睦月の荷物しかなくて、不思議には思っていたが、こういうことだったのか…。
「今日中に終わるの?」
明日はもう入学式だ。少なくても荷物だけは今日中に部屋に運び入れてなければまずいだろう。
「終わらせたいなぁー……なんて」
もう乾いた笑いしか洩れない。
家具らしい家具は部屋に備わっているが、みんな、自分の持ってきた荷物を部屋に運び入れて、きちんと片付け終えるのに1日は費やしたのだ。このままじゃ、いつまで掛かることやら…。
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四月 きっとなにかがはじまる (7)
2008.12.04 Thu
「手伝おうか?」
救いの手を差し伸べたのは、祐介だ。
親友である和衣も翔真も、(冗談とはいえ)文句ばかり言っていたというのに、今日がまだ2度目の対面である祐介は、当たり前のようにそう言ってきた。
「え!? いいの!?」
「祐介くん、やめといたほうがいいよー。せっかくの休みに、こんなバカに付き合うことないから」
せっかくの祐介の申し出に断わりを入れたのは、和衣だ。隣で翔真もウンウンと頷いている。
「でも終わんないだろ? それにこの間のお礼も兼ねて」
この間? お礼?
チラと、3人の視線は当然睦月に向く。
とうの睦月は、ますます嫌そうに顔を顰めていて。
「睦月も、一緒に手伝うでしょ?」
「はっ!? 何で俺まで!?」
話の矛先が自分に向いて、睦月は目に見えて慌てた。
亮たちだけの前では、殆ど表情の乏しかった睦月が、祐介の登場でクルクルと表情を変える。
「だって、お前が助けてもらったんだろ?」
「頼んでないしっ!!」
先日のファストフード店の一件を思い出し、怒りからか、それとも恥ずかしさからか、睦月の頬が赤くなった。
「だってこれから1年、一緒の部屋なんだから。だろ?」
まるで親に諭されるような言い方をされ、睦月は本当に渋々といった感じで立ち上がった。
「え? マジでいいの?」
「だって、人手があったほうが早く終わるだろ?」
手伝って当然という感じの祐介に、亮のほうが慌てた。まだ会って間もない彼に、そこまでしてもらっていいのだろうか。
「じゃあ、早く終わらせて、夕飯は亮の奢りでおいしいもの食べに行こ!?」
満面の笑みでそう言ってのけた和衣に、亮の顔が引き攣る。
2人にマックを奢るだけのはずが、4人への夕食のごちそうに変わってしまったのだから。
(でも1人じゃ引っ越し終わらないし……まぁいっか)
祐介は人懐っこい性格をしていて、人見知りもしないのか、会って間もない和衣や翔真と楽しそうに話しながら、階段を下りていく。
まぁ、これから同じ大学に入学して、同じ寮で生活するわけだから、仲良くなるに越したことはない。
けれどそれに対し…。
「…………」
亮と同室になる睦月は、むぅーっとしたまま、みんなよりも1歩後ろを黙って付いて来ている。引っ越しの手伝いなんて、真っ平って顔で。
別に祐介が言うような、先日のお礼がしてもらいたいわけではないけれど、いつまでもあからさまに嫌な顔をされ続けられると、何だか非常に申し訳ない気持ちになる。
(俺……こんな子と1年間、うまくやってけんのかな…?)
救いの手を差し伸べたのは、祐介だ。
親友である和衣も翔真も、(冗談とはいえ)文句ばかり言っていたというのに、今日がまだ2度目の対面である祐介は、当たり前のようにそう言ってきた。
「え!? いいの!?」
「祐介くん、やめといたほうがいいよー。せっかくの休みに、こんなバカに付き合うことないから」
せっかくの祐介の申し出に断わりを入れたのは、和衣だ。隣で翔真もウンウンと頷いている。
「でも終わんないだろ? それにこの間のお礼も兼ねて」
この間? お礼?
チラと、3人の視線は当然睦月に向く。
とうの睦月は、ますます嫌そうに顔を顰めていて。
「睦月も、一緒に手伝うでしょ?」
「はっ!? 何で俺まで!?」
話の矛先が自分に向いて、睦月は目に見えて慌てた。
亮たちだけの前では、殆ど表情の乏しかった睦月が、祐介の登場でクルクルと表情を変える。
「だって、お前が助けてもらったんだろ?」
「頼んでないしっ!!」
先日のファストフード店の一件を思い出し、怒りからか、それとも恥ずかしさからか、睦月の頬が赤くなった。
「だってこれから1年、一緒の部屋なんだから。だろ?」
まるで親に諭されるような言い方をされ、睦月は本当に渋々といった感じで立ち上がった。
「え? マジでいいの?」
「だって、人手があったほうが早く終わるだろ?」
手伝って当然という感じの祐介に、亮のほうが慌てた。まだ会って間もない彼に、そこまでしてもらっていいのだろうか。
「じゃあ、早く終わらせて、夕飯は亮の奢りでおいしいもの食べに行こ!?」
満面の笑みでそう言ってのけた和衣に、亮の顔が引き攣る。
2人にマックを奢るだけのはずが、4人への夕食のごちそうに変わってしまったのだから。
(でも1人じゃ引っ越し終わらないし……まぁいっか)
祐介は人懐っこい性格をしていて、人見知りもしないのか、会って間もない和衣や翔真と楽しそうに話しながら、階段を下りていく。
まぁ、これから同じ大学に入学して、同じ寮で生活するわけだから、仲良くなるに越したことはない。
けれどそれに対し…。
「…………」
亮と同室になる睦月は、むぅーっとしたまま、みんなよりも1歩後ろを黙って付いて来ている。引っ越しの手伝いなんて、真っ平って顔で。
別に祐介が言うような、先日のお礼がしてもらいたいわけではないけれど、いつまでもあからさまに嫌な顔をされ続けられると、何だか非常に申し訳ない気持ちになる。
(俺……こんな子と1年間、うまくやってけんのかな…?)
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五月 水面には君という波紋 (1)
2008.12.05 Fri
入学して1か月もすれば、その生活にも慣れ始め、新しい友だちも出来てくる。バイトも始めたし、授業はまぁそこそこ楽しい(ものもある)し、一応毎日が充実してる。
「あ、」
学食で亮たち3人の姿を見つけた睦月が、手を振りながら駆け寄って来た。
こういうところがかわいいんだけど―――なんて言おうものなら、すぐさま鍛えられた鉄拳が飛んでくるので言わないが。
最初に寮で顔を合わせたとき、あからさまに愛想のない睦月に、同室である亮はうまくやっていけるのかと一抹の不安を覚えたのだが、単に睦月が人見知りする性格というだけだったらしい。
初めて会ったファストフード店での印象があまりにも強すぎて、睦月を乱暴な性格だと思い込んでいたが、あのときは、女の子に間違われるのが大嫌いな睦月のイライラが最高潮に達していたらしい。
今でもその話題を上らせると、顔を赤くして暴れ出すので、それは禁句だ。
「祐介は?」
いつも一緒にいる友人の祐介の姿がなくて、和衣が尋ねた。
「授業あるって。選択で取ってるヤツ。3人とももうご飯食べた?」
「これから。むっちゃんも一緒に食べよ?」
「うん」
ちなみに『むっちゃん』という呼び方は、勝手に和衣が付けたあだ名だ。
大学生男子に付けるには、ちょっとかわいすぎないか? とも思うが、これに関して睦月は何も言わずに受け入れていて、それに倣って、いつの間にか翔真もそう呼んでいる。
「ねぇねぇ」
日替わり定食の目玉焼きハンバーグの、黄身の部分を突付きながら睦月が口を開いた。
「亮って今、バイトしてるじゃん? 洋服屋さんで」
「洋服、屋…さん」
一応、何店か店舗展開をしているセレクトショップなんですが。
何とも言えない表情をしている亮の向かい側の席で、和衣と翔真が苦笑している。
「バイトってどう? いいの? 大変? 楽しい? 俺にも出来そう?」
「は? え?」
一遍に色々なことを聞いてくる睦月に、亮は少し困惑する。
「何? どうしたの、急に」
「バイトって、どうなの?」
けれど睦月の顔は真剣だ。
「ねぇ、むっちゃん。今までバイトしたことないの?」
まさかとは思いつつ、睦月の口振りに、翔真が尋ねると、
「ないよ」
睦月はあっさりとそう言ってのけた。
「マジで? 高校のころとか、何もバイトしなかったの?」
「してないってば。だってゆっちがダメってゆうから」
ゆっち、とは祐介のこと。「祐介」という名前から由来しているが、今のところ彼をそう呼んでいるのは、幼馴染みの睦月だけだ。
「てか、何でバイトするのに祐介の許可が必要なわけ? だいたい、祐介だってバイトしてんじゃん」
親に反対されて出来ないというならまだしも、相手は同い年の友人だ。
祐介がどういうつもりで睦月にそう言ったかは知らないが、それを無視してバイトしたからといって、何ら問題はないだろうに。
「許可ってわけじゃないけど、だって今までゆっちの言うとおりにしてて間違いなかったし」
昔からずっと一緒にいて、困ったときは相談に乗ってくれるし、助けてもくれるし、家族は大事だけど、その家族と同じくらい大切で、そして信頼している人間だ。
だから、祐介がダメと言うからには、睦月には分からないけれど、それなりの理由があるのだろうと解釈し、バイトもしないできたのだ。
(祐介、過保護…)
3人の胸中を、同じ思いが巡った。
男のあだ名って、よく分かんないんですが…。
あだ名メーカーさんに頼ったら、こんな感じになりましたけど……ありですか?
「あ、」
学食で亮たち3人の姿を見つけた睦月が、手を振りながら駆け寄って来た。
こういうところがかわいいんだけど―――なんて言おうものなら、すぐさま鍛えられた鉄拳が飛んでくるので言わないが。
最初に寮で顔を合わせたとき、あからさまに愛想のない睦月に、同室である亮はうまくやっていけるのかと一抹の不安を覚えたのだが、単に睦月が人見知りする性格というだけだったらしい。
初めて会ったファストフード店での印象があまりにも強すぎて、睦月を乱暴な性格だと思い込んでいたが、あのときは、女の子に間違われるのが大嫌いな睦月のイライラが最高潮に達していたらしい。
今でもその話題を上らせると、顔を赤くして暴れ出すので、それは禁句だ。
「祐介は?」
いつも一緒にいる友人の祐介の姿がなくて、和衣が尋ねた。
「授業あるって。選択で取ってるヤツ。3人とももうご飯食べた?」
「これから。むっちゃんも一緒に食べよ?」
「うん」
ちなみに『むっちゃん』という呼び方は、勝手に和衣が付けたあだ名だ。
大学生男子に付けるには、ちょっとかわいすぎないか? とも思うが、これに関して睦月は何も言わずに受け入れていて、それに倣って、いつの間にか翔真もそう呼んでいる。
「ねぇねぇ」
日替わり定食の目玉焼きハンバーグの、黄身の部分を突付きながら睦月が口を開いた。
「亮って今、バイトしてるじゃん? 洋服屋さんで」
「洋服、屋…さん」
一応、何店か店舗展開をしているセレクトショップなんですが。
何とも言えない表情をしている亮の向かい側の席で、和衣と翔真が苦笑している。
「バイトってどう? いいの? 大変? 楽しい? 俺にも出来そう?」
「は? え?」
一遍に色々なことを聞いてくる睦月に、亮は少し困惑する。
「何? どうしたの、急に」
「バイトって、どうなの?」
けれど睦月の顔は真剣だ。
「ねぇ、むっちゃん。今までバイトしたことないの?」
まさかとは思いつつ、睦月の口振りに、翔真が尋ねると、
「ないよ」
睦月はあっさりとそう言ってのけた。
「マジで? 高校のころとか、何もバイトしなかったの?」
「してないってば。だってゆっちがダメってゆうから」
ゆっち、とは祐介のこと。「祐介」という名前から由来しているが、今のところ彼をそう呼んでいるのは、幼馴染みの睦月だけだ。
「てか、何でバイトするのに祐介の許可が必要なわけ? だいたい、祐介だってバイトしてんじゃん」
親に反対されて出来ないというならまだしも、相手は同い年の友人だ。
祐介がどういうつもりで睦月にそう言ったかは知らないが、それを無視してバイトしたからといって、何ら問題はないだろうに。
「許可ってわけじゃないけど、だって今までゆっちの言うとおりにしてて間違いなかったし」
昔からずっと一緒にいて、困ったときは相談に乗ってくれるし、助けてもくれるし、家族は大事だけど、その家族と同じくらい大切で、そして信頼している人間だ。
だから、祐介がダメと言うからには、睦月には分からないけれど、それなりの理由があるのだろうと解釈し、バイトもしないできたのだ。
(祐介、過保護…)
3人の胸中を、同じ思いが巡った。
男のあだ名って、よく分かんないんですが…。
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五月 水面には君という波紋 (2)
2008.12.06 Sat
「でも何で急にバイトの話なんか?」
「せっかくだから、俺もバイトとかしてみたいなぁって思って」
「え? え? "せっかくだから"って、何が?」
どうもとんちんかんな睦月の言葉がツボにはまったのか、和衣と翔真は腹を抱えている。
「でもむっちゃん、祐介にいいって言われたの? バイトしていいって」
目に涙まで浮かべて笑っている和衣が、そう尋ねた。
いくら大学に進学したからといって、そんなに簡単に祐介の過保護っぷりが治るとも思えないし、睦月の祐介に対する絶対的な信頼が揺らぐとも思えない。
「まだ言ってないの。だから3人とも、ゆっちには内緒ね?」
「内緒? ただでー?」
わざわざ立てた人差し指を口元に立てる睦月がかわいくて、翔真がそれに乗っかる。
「じゃあ、このにんじんグラッセあげるから」
「それ、単に嫌いなもの、俺に押し付けただけじゃん!」
お皿の隅に乗っていた付け合わせのにんじんを、有無を言わせず翔真の皿に移した睦月に、すかさず突っ込む。
「口止め料だから」
けれど睦月は平然とそんなことをのたまった。
「でもさぁ、むっちゃん、ホントにちゃんとバイトできるの?」
今まで散々笑っていた和衣が、真顔に戻って睦月の顔を覗き込んだ。
「何で?」
「だってさ、お客さんにヤなこと言われても、笑顔で応対すんだよ? 出来る?」
「出来るよ、そんくらい」
したこともないくせに、やけに自信満々に言い放つ睦月。和衣と翔真は顔を見合わせた。
「"かわいい"って言われても、キレちゃダメなんだよ?」
「女の子に間違われたって、お客さんのこと、殴っちゃダメなんだからね?」
「殴んないよ!!」
口々に言われて、睦月はさっそくキレ気味だ。隣の亮に、「キレないで、キレないで」と宥められる始末。
「こんくらいのことでムキになってたら、お仕事勤まんないよ?」
「うー…」
「やっぱ、祐介の言うとおりにしといたほうがいいんじゃないの?」
「ヤダー」
別にものすごく金に困っているわけでもないし、勤労意欲が旺盛なわけでもないが、大学生になったんだし、バイトの1つくらいやってみたいのだ。
「でも亮に出来るなら、俺にも出来る、と思う」
「ちょっ……何それ? 何でそこで俺と比較するわけ!?」
なぜか引き合いに出されてしまった亮は、慌てる。
「でもさ、むっちゃんが祐介に内緒でバイト始めたって、そんなのすぐにバレるんじゃない? 何かそうなったほうがまずい気がするけど」
「そうかな?」
和衣の言葉に、睦月は少し考え込む。
今まで祐介がダメと言って、それに逆らったことはないから、内緒でそんなことをして祐介がどんな反応をするのか、まったく見当がつかない。
怒るかな、嫌いになるかな。それとも、無理やりにでもバイトをやめさせるかな?
「あ、祐介来たよ」
噂をすれば。
授業が終わって学食に現れた祐介が、4人の姿を見つけてやって来る。
「あれ? みんなもうメシ食っちゃったわけ?」
テーブルの上に並ぶ、空になった食器類。祐介は少し残念そうだ。
和衣が睦月に、"バイトのこと、言っちゃいなよ"て、目で合図する。それに睦月は、"無理無理、ダメだって!"と、アイコンタクト。
"言いなよ"
"今は無理!"
"言いなってば"
"無理だってば!"
「……何やってんの、お前ら」
睦月と和衣のアイコンタクトに気が付いた祐介が、不審そうに2人を見る。事情を知っている亮と翔真は、チラリと視線を交わした。
「いやいや、大変だよなぁ、亮くん」
「ホントですねぇ、翔真くん」
「??? 何の話?」
不思議顔の祐介。
「祐介が過保護だって話」
「は?」
「せっかくだから、俺もバイトとかしてみたいなぁって思って」
「え? え? "せっかくだから"って、何が?」
どうもとんちんかんな睦月の言葉がツボにはまったのか、和衣と翔真は腹を抱えている。
「でもむっちゃん、祐介にいいって言われたの? バイトしていいって」
目に涙まで浮かべて笑っている和衣が、そう尋ねた。
いくら大学に進学したからといって、そんなに簡単に祐介の過保護っぷりが治るとも思えないし、睦月の祐介に対する絶対的な信頼が揺らぐとも思えない。
「まだ言ってないの。だから3人とも、ゆっちには内緒ね?」
「内緒? ただでー?」
わざわざ立てた人差し指を口元に立てる睦月がかわいくて、翔真がそれに乗っかる。
「じゃあ、このにんじんグラッセあげるから」
「それ、単に嫌いなもの、俺に押し付けただけじゃん!」
お皿の隅に乗っていた付け合わせのにんじんを、有無を言わせず翔真の皿に移した睦月に、すかさず突っ込む。
「口止め料だから」
けれど睦月は平然とそんなことをのたまった。
「でもさぁ、むっちゃん、ホントにちゃんとバイトできるの?」
今まで散々笑っていた和衣が、真顔に戻って睦月の顔を覗き込んだ。
「何で?」
「だってさ、お客さんにヤなこと言われても、笑顔で応対すんだよ? 出来る?」
「出来るよ、そんくらい」
したこともないくせに、やけに自信満々に言い放つ睦月。和衣と翔真は顔を見合わせた。
「"かわいい"って言われても、キレちゃダメなんだよ?」
「女の子に間違われたって、お客さんのこと、殴っちゃダメなんだからね?」
「殴んないよ!!」
口々に言われて、睦月はさっそくキレ気味だ。隣の亮に、「キレないで、キレないで」と宥められる始末。
「こんくらいのことでムキになってたら、お仕事勤まんないよ?」
「うー…」
「やっぱ、祐介の言うとおりにしといたほうがいいんじゃないの?」
「ヤダー」
別にものすごく金に困っているわけでもないし、勤労意欲が旺盛なわけでもないが、大学生になったんだし、バイトの1つくらいやってみたいのだ。
「でも亮に出来るなら、俺にも出来る、と思う」
「ちょっ……何それ? 何でそこで俺と比較するわけ!?」
なぜか引き合いに出されてしまった亮は、慌てる。
「でもさ、むっちゃんが祐介に内緒でバイト始めたって、そんなのすぐにバレるんじゃない? 何かそうなったほうがまずい気がするけど」
「そうかな?」
和衣の言葉に、睦月は少し考え込む。
今まで祐介がダメと言って、それに逆らったことはないから、内緒でそんなことをして祐介がどんな反応をするのか、まったく見当がつかない。
怒るかな、嫌いになるかな。それとも、無理やりにでもバイトをやめさせるかな?
「あ、祐介来たよ」
噂をすれば。
授業が終わって学食に現れた祐介が、4人の姿を見つけてやって来る。
「あれ? みんなもうメシ食っちゃったわけ?」
テーブルの上に並ぶ、空になった食器類。祐介は少し残念そうだ。
和衣が睦月に、"バイトのこと、言っちゃいなよ"て、目で合図する。それに睦月は、"無理無理、ダメだって!"と、アイコンタクト。
"言いなよ"
"今は無理!"
"言いなってば"
"無理だってば!"
「……何やってんの、お前ら」
睦月と和衣のアイコンタクトに気が付いた祐介が、不審そうに2人を見る。事情を知っている亮と翔真は、チラリと視線を交わした。
「いやいや、大変だよなぁ、亮くん」
「ホントですねぇ、翔真くん」
「??? 何の話?」
不思議顔の祐介。
「祐介が過保護だって話」
「は?」
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