恋三昧

【18禁】 BL小説取り扱い中。苦手なかた、「BL」という言葉に聞き覚えのないかた、18歳未満のかたはご遠慮ください。

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いつか王子様が (5)


「あの……これ、飲む…?」

 口直しにどうぞ、て俺は自分のお茶を開けて、祐人のほうに差し出した。自分のっていってもまぁ、もとは祐人が買ったヤツだけど。
 祐人は無言でそれを受け取ると、これもまた一気にグィーって飲んで、缶を俺のほうに返してきた。
 あ、半分以上飲んでる…。
 何? ヤケ酒みたいなもん?

「タツミー」
「んー?」
「やっぱ、ホモはダメかなぁ?」
「何、急に」
「ダメ?」
「…ダメかどうかは知らないけど、好きになっちまうのはしょうがないんじゃね?」
「そっかぁ」

 俺は、残りのお茶を飲み干して。
 祐人の持ってたしるこの缶と一緒に、自販機のとこのゴミ箱に捨てた。

「あーあ、タツミがホモだったら、俺、惚れてたのになぁ」

 ……………………。

「おいっ!」

 何言ってんだ!
 今、もしお茶飲んでたら、絶対吹き出してたわ!

「冗談じゃん、ノリの悪いヤツだなぁ、タツミ」
「タチ悪い」
「あはは」

 何のんきに笑ってんだ。
 祐人の冗談なんか、ホントおもしろくない。

「いつかめっちゃかっこいい彼氏作るの。そしたらもうタツミと一緒になんか帰らないの。その人と一緒に帰るんだから」
「そうだな。そしたら俺もかわいい彼女作って、その子と帰るわ」
「タツミが寂しがったって、絶対一緒に帰ってやらない」
「俺だって」
「うー…」

 祐人が、何かすごい悔しそうに俺のほうを見る。
 寂しがるのは、祐人のほうだろ? 毎日毎日、飽きもせずに俺のとこ駆け寄ってきてたくせに。
 もしホントに俺が彼女作ったら、どうすんの? 俺らの間に割り込んで、『かっこいい人見つけた!』って報告しに来る気?

「……絶対、寂しがらないもん…」

 そう言って祐人は、むぅっと、アヒルみたいに唇を突き出す。

「祐人が寂しがるといけないから、祐人に彼氏が出来るまでは一緒に帰ってやるよ」
「そんなの、こっちのセリフだし!」

 そうムキになって言い返してきて。
 絶対、絶対、ぜーったい、タツミより先に彼氏作ってやる! てしょうもない決意を固める祐人。


 あぁ、どうせまた明日には、『めっちゃかっこいい人、見つけた!』て、祐人は、玉砕覚悟の恋を報告しに来るんだろう。




 でもそんな毎日を、不思議と嫌だと思わない自分のこんな感情には、まだ、気付かない振り。






*END*

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テーマ:自作BL小説  ジャンル:小説・文学

甘い運命 (1)


 俺は知っている。

 アイツには好きな人がいて、でもアイツの好きな人にはもう恋人がいて、それは絶対に報われない恋心だってこと。

 けれどアイツはそれを知っていて、それでもなお、想うことをやめないでいること。想い人にも、そして他の誰にも気付かれないよう。



 でも俺は知っている。

 だって俺は、そんなアイツに、実ることのない恋心を抱いてるんだから――――。




*****

 教室に入って来た水樹の眉間のシワで、いかに彼の機嫌が悪いかは一目瞭然だった。
 恋人の恭がまだ来てないから、水樹が癒されに行くのは晴海のところだろうと踏んでいたのに、実際に彼が近付いてきたのは章吾のところで、少し伸びて金色に染めたその坊主頭をグリグリと撫で回し始めた。

「……水樹さん。いったい何を…」

 グリグリ、グリグリ。

(……癒されてんのかな…?)

 突っ込みを入れるべきか入れざるべきか章吾は迷ったが、とりあえずはされるがままになっておく。下手にこれ以上機嫌を損ねるのは、得策ではないと思ったからだ。
 水樹の機嫌を伺いつつ、ふと視線をその先に向けた章吾は、こちらを見ている晴海と目が合って、ハッと目を逸らした。
 いや、目が合ったというのは、章吾の思い込みかもしれない。正確には、晴海は水樹のことを見ていたのだから。

(自意識過剰……晴海が俺のことなんか見るかよ…)

 章吾は少し恥ずかしくなった。
 晴海の、そんなほんの些細なことすら意識してしまうなんて。

「…てか、あのさぁ水樹、これ、どういう遊び? 俺は笑って済ませばいいのか?」

 水樹からの反応はなし。
 代わりに上機嫌で近付いてきたのは、ようやくやって来た恭だ。

「ね、ね、俺も交ぜてよ!」

 グリグリ、グリグリ。グリグリ…。

 2人の手が、章吾の頭をグリグリ撫で繰り回して。

「だーーー!! 俺はおもちゃでも暇潰しでもねぇーー!!」

 わざとキレたふうを装って、章吾は大きな声を上げる。
 晴海の顔が、水樹を見つめる晴海の顔が気になったけれど、それすらも気付かないふりして。

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甘い運命 (2)


「しょーご、どうした?」
「は?」

 授業の始まる前、唐突に水樹に尋ねられ、章吾はわけが分からず眉を顰めた。

「俺のほうがお兄さんなんだから、何でも相談してくれていいんだよ」
「何言ってんだ」

 兄貴肌、なんてタイプでもないくせに、どういうつもりか水樹は章吾の隣に座ると、章吾に話を促してくる。

「何もねぇけど……何? 俺、何か変か?」
「だって章吾、ここんとこ何か元気ないじゃん。違う?」
「俺だって、毎日毎日ハイテンションなわけじゃねぇよ。こういう日だってたまにはあるっつーの」
「…………アノ日? それとも溜まってるとか?」
「このバカッ!!」

 バシッといい音を響かせて、水樹の頭を引っ叩いてやる。
 本人は好きなようだが、水樹に下のほうのジョークは似合わない。

「ホントに何でもな…」
「何が?」

 章吾と水樹の会話に割り込んで来たのは、先ほどまで恭にいいように遊ばれていた晴海で、胡散臭い笑顔で章吾と水樹の間から顔を出した。

「なっ……うわっ!?」

 ガタンッ!!

 突然掛けられた声に、そしてその声の主が晴海だったことで余計に驚いて、章吾はそのまま椅子から転がり落ちた。

「何やってんの?」

 章吾を驚かせた張本人は、しれっとした顔で章吾の腕を引っ張って、その体を起こしてやる。

「ビビらせんな、バカ晴海」
「相変わらずひどいなぁ」

 章吾に何か言われたところで凹むでもなく、晴海は空いている椅子を引き摺って来て、2人のそばに座った。
 普段の扱われ方のせいか、晴海はこういうとき、案外打たれ強いのだ。

「章吾さぁ、ちょっと元気ないの。で、水樹くんのお悩み相談室」
「そうなんだ。で、どんな悩みなの? 章吾が相談したのって」
「まだ聞いてない。ってか、何で晴海が知りたがるわけ?」
「そりゃ知りたいでしょ。章吾が悩んでるなんて、ほっとけないじゃん?」
「……弱みを握りたいってこと?」
「あ、バレた?」
「ウチは秘密厳守でーす」

 もとは章吾のことなのに、2人は彼抜きに勝手にどんどん話を進めていく。
 何となく気持ちがスーッと冷めていく感じがして、章吾はパイプ椅子を立つと、2人から離れた。

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甘い運命 (3)


「――――で、結局今日のは何だったわけ?」

 授業が終わって、帰り支度の最中、真っ先に身支度を整えた晴海が、章吾に声を掛けた。

「…何が?」
「さっきの、水樹くんの」
「だから、何でも…」
「俺、関係してる?」
「―――――、」

 図星を突かれて、けれどそんなこと気付かれたくなくて、章吾は何でもないふりで帰り支度を済ませた。

「章吾、一緒に帰ろうよ」
「何で、」
「何食べたい?」
「話を勝手に進めるな」
「焼肉?」
「…お前の奢りなら」

 せっかく誘ってくれたのだ。無下に断る理由はない。
 ただ、もっと素直に言えれば、かわいげだってあるのに、とは自分でも思うけれど。

「じゃ、決まり」

 そう言って晴海は、短い金髪の章吾の頭をワシャワシャ撫でた。



***

 店が混んでいたから仕方ないといえば、仕方ないのだけれど、男2人、個室で焼肉…。

「まぁ、こういうのも、いいよね」
「よかねぇよ」

 ふて腐れたように、章吾はメニューを立てて、それを覗き込んだ。実際は、晴海と個室で2人きりという状況にドキドキして、赤くなっているであろう頬を隠すためだったのだが。

 注文した肉を焼きながら、時折章吾は晴海の様子を窺うが、いつもの晴海と変わりがない。
 いや、2人で食事に行くこと自体、初めてのことでもないし、晴海がいつもどおりだって別にどうってこともないのだが、今日はどうも晴海が、章吾と水樹との遣り取りを気にしていたようだったから、何かそのことで言いたいことでもあるのかと思ったのだ。

「俺の顔、何か付いてる?」
「え?」
「さっきから、チラチラ見てるよね、俺のこと。ってか章吾、学校とかでも、よく俺のこと見てる」
「―――――ッ、バ…バッカじゃねぇの? 自意識過剰だよ、お前」
「そうかな?」

 ずっと見てた。
 見てたけど、そんなのバレてないはず。

 だってお前は―――――俺のことなんか見てないだろ?

「バカじゃねぇの、俺はお前のことなんか見てない」

 こんな話、していたって虚しくなるだけで、さっさと話を切り上げたかったから、章吾は無理やり話を終わらせた――――のに。

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甘い運命 (4)


「だって俺、よく章吾のこと見てるんだけど、結構目が合うなぁ、って思ってたんだよね」
「ッ…、ちょっ……は?」
「それってやっぱ、俺の気のせい? 章吾の言うみたいに、俺って自意識過剰なのかな?」
「おい、ちょっ…待てよ」
「何?」
「お前、今何つった?」

 聞き捨てならない晴海のセリフに、網の上で肉が焦げるのも気に留めず、章吾は晴海に詰め寄る。

「『俺って自意識過剰なのかなぁ?』」
「そこじゃねぇよ」
「『それってやっぱ、俺の気のせい?』」
「もっと前!」
「もっと前? ……何だっけ?」
「お前はニワトリかっ!? おま、俺のこと見てるって…」
「あぁ、それ。うん、見てるよ。そりゃだって、好きな子のことは見ていたいじゃない? あ、言っちゃった。わっ、焦げてる焦げてる!」
「………………」

 とんでもないセリフをサラリと吐いた後、言ったこと自体を認めておきながら、どうしてこの男、焦げた肉の心配なんかしているんだろう。
 章吾には、それがたまらなくおかしかった。

「…何笑ってんの? 肉焦げてんのに」
「肉に笑ってんじゃねぇよ。はぐらかすな、バカ晴海」
「いやー、だってはぐらかしたくもなるでしょ。普通告白っていったら、もっとロマンチックな雰囲気の中でやるもんじゃない? それを肉焼いてる最中にうっかり口走っちゃったらねぇ」

 うっかり告白して焦っているはずなのに、晴海にはそんな雰囲気まるでなくて、いつもの冷静な彼のままだ。
 だから余計に、章吾はその言葉の真意を測り損ねている。

「お前、マジで言ってんの…?」
「うん。あ、もしかして嫌だった? ゴメンねー」
「謝り方に全然心が籠ってねぇ…。てか、何でお前、そんなに普通なの? 今告ったんだろ? 返事とか、気になんねぇの…?」
「いい返事を期待してるよ。あ、悪い返事だとしても、大丈夫、ここの分はちゃんと奢るから。それは約束だからね」

 だから遠慮せずに、自分の素直な気持ちを答えて?

「だってお前……水樹…」
「は? 水樹くんがどうしたの?」

 お前はずっと、水樹のことを見てただろ?

「俺……お前は水樹のことが好きなのかと思ってた…」
「水樹くんのこと? まぁ、同じゼミだしね」
「それだけ?」
「うん。疑り深いね」
「だって…」

 お前はずっと、水樹のこと、見てたじゃないか……。

「だって水樹くん、よく章吾のそばにいるじゃん。それで俺が水樹くんのこと見てると思ったの? ヤダなぁ、俺、そんなに安売りしないよ」
「バカ…」
「ねぇ、それで返事は?」

 晴海の視線が居心地悪くて、章吾は視線を彷徨わせた後、俯いた。

「聞きたいな、章吾の口から。俺のこと、好き? 嫌い?」

 追い詰められるような、そんな感覚だった。
 感情が、溢れ出す。

「好、き…」

 肉の焼ける煙の向こう、嬉しそうに笑う晴海の顔が見えた。






*END*

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