恋三昧

【18禁】 BL小説取り扱い中。苦手なかた、「BL」という言葉に聞き覚えのないかた、18歳未満のかたはご遠慮ください。

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十一月 蹲る身体を貫き去る風 (4)


「暗くなるの早いよなぁー」
「何か日が短くなると、寂しいよね」
「そだね」

 まだ6時を過ぎたばかりだというのに、11月、店を出てみれば、日はすっかり暮れていた。

「てかさ、和衣、服買いすぎじゃね?」

 いくつものショップの袋を大変そうに抱えながら歩く和衣に、祐介は苦笑する。
 商品を見ても、買うまでにはじっくり考える祐介と違って、和衣の場合、欲しいと思うとつい手が伸びてしまって、その結果が、これだ。

「だってさ、買わないで後悔すんの、ヤじゃん。あんとき買っとけばよかった~、て」
「でも店員さんのおだてに乗りすぎ」
「だって、めっちゃ褒めるんだもん! 何かさ、ついその気になっちゃわない!?」
「あはは、和衣、超いいお客さんだよ」
「むぅ~…」

 さすがに今日は買いすぎたかな、と和衣も思っていた。
 下がってしまったテンションを無理やり上げたせいで、感覚が少しおかしくなっていたのかもしれない。
 しばらくは節約しないと…。

「でも、似合ってたよ、和衣に」
「えっ…」
「え、」
「え…」
「あの、…うん、似合ってた、よ…?」
「あ…りがと…」

 不意を突く祐介の言葉に、和衣は頬が熱くなるのを感じる。
 もう1度言われて、やっと返事をしたけれど。

(暗いし…顔赤いの、バレてないよね…)

 男に褒められて顔を赤くしている男なんて、変に思われ兼ねない。
 冷たい風が頬を撫でていく。早くこの熱くなった顔が、冷めてくれたらいい。

「…メシでも食って帰ろっか」
「う、ん」

 ぎこちなくならないように、精一杯いつもどおりに振舞って、和衣は頷いた。

「何食べる? てか、近くがいいよね?」
「え、何で?」

 祐介の提案に首を傾げていると、

「だって、荷物多くて大変でしょ?」
「…………」

 祐介が、すごく当たり前みたいに、さりげなくそう言ってくれるから。
 バカだと思うけど、こんなことで胸が熱くなったり、いっぱいになったりして、そのたびに、やっぱり祐介のことが好きなんだって、実感してしまう。

「俺、別にファミレスとかでいいよ」

 きっとデートなら、すてきな雰囲気のお店に行くんだろうけど、今日は一緒に出掛けられただけでも幸せだから、それは次の楽しみにとっておこうって思う。
 それに、買い物しすぎて、もうお金の持ち合せもあんまりないから。

 和衣の言葉に、結局この近くのファミレスに行くことになって、そちらに向かって歩き出せば、少しして、向こうから来た自分たちと同い年くらいの女の子が、声を掛けてきた。

「祐ちゃん、久し振りー!」

 祐介を呼ぶその呼び方は、和衣の周りにはいない。けれど祐介が普通にそれに応えているところを見ると、大学以外の友人なのだろう。
 女の子は、11月のこの寒空の下、元気にミニスカート姿で、祐介の友人にしてはちょっと珍しいかも、と思えるような、少し派手な雰囲気を持っていた。

「あ、高校のころの同級生で…」

 見ず知らずの女の子の登場に和衣が戸惑っていると、祐介がそう紹介してくれ、その子にも和衣が大学の同級生だと紹介した。
 話によると、彼女は高校を卒業してから、美容師の専門学校に通うため、祐介たちと同じように地元を離れていたらしい。
 卒業以来だよねー、という女の子の声に、お盆に帰ったとき会わなかったんだ、などと、和衣は心の中で声を掛ける。

 久々の再会に盛り上がる2人の話に、当然のことながら和衣はついていけない。これでもっと口上手だったり、人見知りをしたりしなければ、積極的に会話に混じっていけるけれど、それも出来ない。

 さっきまであんな些細なことで、1人幸せに浸ってたっていうのに。
 今はもう、こんなにも胸が痛い。

「ね、もうご飯食べた? 一緒に食べ行かない?」

 その子の提案に、和衣はギクリとした。
 単に、久々に会った同級生を誘うだけの言葉だろう。もちろん和衣にも一緒に行こうと言ってくれる。
 どうする? という感じで、祐介は和衣を見た。

 何も答えられない。
 だって今日は。
 2人きりだけれど、デートではないけれど、でも。

「…俺はいいや。もう帰るし、祐介、食べてきなよ?」
「え? は?」

 視線を合わせずにそう言う和衣に、戸惑ったような祐介の声。

「俺、先に帰るから…、じゃ」

 和衣は女の子に頭を下げると、祐介の顔を見ようともせずに、その脇をすり抜けていった。
 後ろで、祐介の引き止めるような声がしたけれど、振り返らなかった。

 角を曲がって、祐介たちの視界から自分が消えただろう瞬間、和衣は走り出した。
 肩から下げているショップの袋が邪魔して、うまく走れない。けれど、和衣は足を止めなかった。
 走って走って、人気の途絶えたところで、立ち止まって蹲った。

「うぅ…」

 涙は、気付かないうちからずっと零れていたらしい。
 蹲って抱えた膝に、どんどん染み込んでいく。

 胸が痛い。
 痛い。

 この感情、この醜い感情が何なのか、和衣は知っている。

 ――――嫉妬だ。




 冷たい風が、和衣の体を貫いた。
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カテゴリー:君といる十二か月
テーマ:自作BL小説  ジャンル:小説・文学

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柚子季杏 ⇒ せ、切ない・・・

恋してると、相手の些細な言動のひとつひとつに凸凹しちゃいますよね~。
カズちゃん切ないなぁ。
今の友達って立場じゃ、嫉妬するのもおかしいって分かってるだけに、どうにも出来ないですもんね(T_T)
ゆっちも、さすがに一日一緒にいて、何か感じたかな?
3人組とゆっち&むっちゃん。
一体どうなるんだー?!

  • |2009.01.17
  • |Sat
  • |07:37
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りり ⇒ カズちゃん…

カズちゃ~ん、泣かないで~。
多くを望んでいるわけじゃなくても、カズちゃんにとっては大切な一日だたんですよね。
その最後に、押しの強めな女子…凹
ゆっちは一日一緒にいて、少しはカズちゃんの態度に軟化気付いてくれたでしょうか?

  • |2009.01.17
  • |Sat
  • |10:42
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如月久美子 ⇒ >柚子季さん

> 恋してると、相手の些細な言動のひとつひとつに凸凹しちゃいますよね~。

 特にカズちゃんの場合、自分のヤキモチ妬きな性格を自覚していて、自己嫌悪しちゃう性格なんで、余計つらいですよね。

> ゆっちも、さすがに一日一緒にいて、何か感じたかな?

 相変わらず気持ちの読めないゆっちさん。
 みなさんをヤキモキさせてるんじゃないかって、ちょっと心配(苦笑)
 そのうち行動を起こします。
 お楽しみに(笑)

 コメントありがとうございました!

  • |2009.01.17
  • |Sat
  • |21:14
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如月久美子 ⇒ >りりさん

 好きな人と一緒にいるんだから、ヤキモチくらい妬いたってしょうがないのに、ついつい自己嫌悪してしまうカズちゃん…。
 そしてカズちゃんの大切な1日の締めくくりに、女子を登場させてしまう私…。
 彼女に他意はないんですが、カズちゃんにとってはショックが大きすぎたみたいで、切ない思いをさせてしまいました(すみません!)

> ゆっちは一日一緒にいて、少しはカズちゃんの態度に軟化気付いてくれたでしょうか?

 いまだに気持ちの読めないゆっちさん。
 ヤキモキさせてすみません!

 コメントありがとうございました!

  • |2009.01.17
  • |Sat
  • |21:20
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