恋三昧

【18禁】 BL小説取り扱い中。苦手なかた、「BL」という言葉に聞き覚えのないかた、18歳未満のかたはご遠慮ください。

スポンサーサイト


上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

カテゴリー:スポンサー広告

ナビゲーション


 大学生はモラトリアム時代なんて言うけど、実はレポートだ、試験だ、て結構忙しい。
 俺は俺で、不規則な勤務体系だから、必ずしも休みの日が重なるわけじゃない。

 だから今日みたいに2人揃ってオフになると、つい、いつもなら出来ないようなこととかしちゃう。
 たとえば遠出、とか。

 本来出不精のはずの蒼大が、季節外れにもかかわらず、『海見たい』なんて言い出すもんだから、つい張り切って、車とか出しちゃう。
 つい。

(俺も甘いよなぁ、実際)

 タバコの煙の向こう、裸足になった蒼大が、打ち寄せる波にはしゃいでる。まぁ、ここまで喜んでもらえるなら、張り切った甲斐があるけど。
 そんな俺の気持ちを知ってか知らずか、蒼大は脱ぎ捨てた靴をそのままに、岩場のほうへ駆けていく。
 波にさらわれそうになっている蒼大の靴を拾い、俺も岩場のほうへと向かった。

「ウヒャヒャ、カニだ、カニ!」

 岩場の陰で身を屈めていた蒼大が、嬉しそうに笑い声を上げて起き上がった。そばに俺の姿を発見した蒼大は、見せ付けるように右手を差し出してくる。

「ホラ! カニ!」

 無邪気に笑う蒼大の右手には、甲羅をつままれた小さなカニが1匹、もがくように足を動かしている。

「すげぇ~、ちゃんといるんだね、こういうの」

 感心しながら蒼大は、捕まえたカニを、元いた場所に放してやった。

「お前、尻、砂だらけ」

 きっと砂浜に座ったきり、そのままにしていたんだろう。蒼大のジーンズは砂だらけになっていて、言っても払おうとしないから、仕方なく俺がその砂を払ってやる。
 その間、蒼大は大人しくされるがままになってるけど……何て言うか、こういうことしてると、ホントに父親になった気分がして、結構微妙だったりする。

「帰るのも時間掛かるから……そろそろ行くか」
「ん、」

 明らかに名残惜しそうに蒼大が返事をするから、『じゃあ、もうちょっと』とか言ってしまいそうになる。
 でも明日も朝から仕事がだから、帰るのがあんまり遅くなるわけにもいかない。

「また来ればいいだろ?」
「いつ?」
「いつって…」
「また、休みが重なったら、来る?」
「そうだな。お前が行きたいっつうなら、連れてくよ?」
「マジ?」
「マジです」

 そう答えると、蒼大は満面の笑みを零す。

「じゃ、帰ろ?」

 誰もいない、季節外れの海。
 そっと指を絡ませる。




*****

 車が動き出して数分後、タバコに火を点けようとしたとき、蒼大の頭が時折、船を漕いでいることに気が付いた。
 でも本人は起きていたいらしくて、ガクリと首が傾いた後、体勢を立て直して、目をこすってる。

「眠いなら、寝てていいぞ?」
「でも…」

 俺に気を遣っているのか、蒼大はあくびを噛み潰し、緩く首を振った。

「いいから。そのかわりお前んちの場所知らねぇから、近くなったら起こすぞ? ちゃんとナビしろよ?」
「…ん、」

 返事とほぼ同時、蒼大は窓ガラスに頭を預けて目を閉じた。
 俺は一抹の不安を残しつつ、蒼大の家に向かって車を走らせた。




「蒼大、蒼大、この道、真っ直ぐでいいのか?」
「―――ぅん…」

 信号待ちで車を停めると、肩を揺すって蒼大を起こしに掛かる。
 方向的には間違っていないはずだが、細かい道筋までは知らないから、後は蒼大のナビに任せるしかない。

 ……しかないのに。

「蒼大、おい」

 何となく反応はあるものの、どんなに声を掛けても肩を揺すってみても、蒼大の瞳は開かない。
 後続車のクラクションに急かされて、俺はとりあえずアクセルをふかす。

「蒼大、次の信号どっち?」
「……んー…左…」
「左? 左だな?」

 念を押してから、方向指示器を左に点滅させる。
 しかし、曲がってみてふと気付く――――この道じゃない。
 さっきの交差点も左に曲がったのだ。これではまた来た方向へと戻ってしまう。
 仕方ないので、左折を2回繰り返して方向修正をすした。

「おい、蒼大!」

 しかし聞こえるのは寝息ばかり。
 やはり、はしゃぎ過ぎたか。
 蒼大のナビが当てにならないかも…という嫌な予感は的中し、俺の車は見事道に迷う始末。
 前回も、前々回も、その前も、蒼大は車の中で寝てしまって、何回来ても蒼大の家に到着するまでには、相当な時間と労力を要してしまうのだ。
 分かっていて寝かせてしまったのだから、隣で寝ている蒼大を責めてみても仕方がないので、とりあえず"頼りになる"ナビを起動させて。

「行き先は…」





*****

「蒼大、着いたぞ」

 駐車スペースに車を入れて、荷物を出すと、今度こそ本格的に蒼大を起こす。

「蒼大!」
「んん…ん…?」
「着いたって」
「……着いた…?」

 ようやく意識が戻ってきたのか、蒼大は目をこすりながらキョロキョロと辺りを見回す。

「ゴメ…、俺、寝ちゃった」
「ホンット、すげぇ爆睡だった」
「だって!」

 赤くなる蒼大が、何かかわいい。蒼大は慌てたように車から降りた。
 ―――と、そこで初めて俺まで車から降りているのに気が付き、不思議そうに視線を向けてきた。
 蒼大の家まで送っていったときは、蒼大を降ろして、そこで別れるというパターンが常だったから。

「北見さん?」
「ホラ、行くぞ?」
「へ?」

 そう言って腕を引かれて、蒼大はやっと気が付いたようだった。

「こっ…ここ、俺んちじゃない!」

 地下の駐車場に、蒼大の声が響く。
 さっきキョロキョロしてたときに、気が付いたと思ってたんだけど。だいたい、いつお前の家に地下駐車場が出来たんだっつーの。

「え? えっ? 何で!? 北見さんち!?」

 そう、ここは俺のマンションの地下駐車場。
 蒼大はまだ、驚きを隠せないでいる。

「しょうがないだろ、ナビのとおり走ったら、ここに着いちまったんだから」
「そのナビって、俺のことじゃないよね!? え、無意識にここ案内したとか…?」
「さぁな」

 慌てふためく蒼大の手を取ったまま、ちょうどよく地階にいたエレベータに乗り込んだ。
関連記事

カテゴリー:読み切り掌編
テーマ:自作BL小説  ジャンル:小説・文学

コメントの投稿はこちらから ♥

COMMENT-FORM

SECRET

柚子季杏 ⇒ こういうオチっすか!

別れたくないから寝惚けたふりしてるのかな?
と思ってたら、こういうオチっすか( ´艸`)ムププ♪
んもう、今朝も朝からクネクネっすよ、如月さん♪♪
あぁ、もう、今朝はあっちでもこっちでもサプライズ勃発(←この字エチィすよねww)で・・・あぁ、いい日だ+゜。(*´∀`*)+嬉☆*。+゜*・。゜*
この後はくんずほぐれずなわけですね?
きゃ~~キャッ(/∀\*))★

  • |2008.10.06
  • |Mon
  • |07:37
  • URL
  • EDIT

  • このページのトップへ

りり ⇒ ああ~このオチ萌えます~

何か自分とこがばたばたしててやっとこれた…。

おおお~~~大人な北見さん、尽くしてるなあ…と思っていたら、
やっぱり大人。
なんすね。
ねんねしてるとこ~なる!
あわてふためいている蒼大くんが可愛いです!

  • |2008.10.06
  • |Mon
  • |19:41
  • URL
  • EDIT

  • このページのトップへ

如月久美子 ⇒ >柚子季さん

 ホントに爆睡してる蒼大ちゃん…。
 ホントにお子ちゃま。
 一応、苦手な年の差にチャレンジしたつもりです(苦笑)

 そそそそれにしても!!
 柚子季さんもお気付きでしたか!
 "勃発"の文字のエロさ…。
 私だけだと思って、今までずっと心に秘めてましたよ!!!
 今何か、心の中が妙にスッキリ…゜.+:。(*´v`*)゜.+:。

 コメントありがとうございました!

  • |2008.10.07
  • |Tue
  • |08:06
  • URL
  • EDIT

  • このページのトップへ

如月久美子 ⇒ >りりさん

 お忙しい中、ご訪問ありがとうございます~!!

 苦手な年の差を克服すべく書いてみたんですけど、年の差~年の差~と思ってるうち、蒼大ちゃんがずいぶんお子ちゃまに…。
 そして北見さんは何かただのエロ親父的な感じに(苦笑)

 この後は、部屋に連れて行かれて、お子ちゃまらしからぬことをされちゃうわけです。

 コメントありがとうございました!

  • |2008.10.07
  • |Tue
  • |08:09
  • URL
  • EDIT

  • このページのトップへ

recent entry

recent comments

thank you for coming

category

monthly archive

2037年 01月 【1件】
2017年 01月 【1件】
2016年 11月 【13件】
2016年 10月 【15件】
2016年 09月 【1件】
2016年 08月 【3件】
2016年 07月 【17件】
2016年 06月 【12件】
2016年 05月 【13件】
2016年 04月 【14件】
2016年 03月 【12件】
2016年 02月 【18件】
2016年 01月 【28件】
2015年 12月 【30件】
2015年 11月 【28件】
2015年 10月 【31件】
2015年 09月 【27件】
2015年 08月 【2件】
2015年 07月 【1件】
2015年 06月 【24件】
2015年 05月 【31件】
2015年 04月 【31件】
2015年 03月 【31件】
2015年 02月 【22件】
2015年 01月 【31件】
2014年 12月 【30件】
2014年 11月 【30件】
2014年 10月 【29件】
2014年 09月 【22件】
2014年 08月 【31件】
2014年 07月 【31件】
2014年 06月 【30件】
2014年 05月 【31件】
2014年 04月 【30件】
2014年 03月 【31件】
2014年 02月 【28件】
2014年 01月 【30件】
2013年 12月 【14件】
2013年 11月 【30件】
2013年 10月 【31件】
2013年 09月 【30件】
2013年 08月 【31件】
2013年 07月 【31件】
2013年 06月 【30件】
2013年 05月 【31件】
2013年 04月 【31件】
2013年 03月 【32件】
2013年 02月 【28件】
2013年 01月 【31件】
2012年 12月 【31件】
2012年 11月 【30件】
2012年 10月 【31件】
2012年 09月 【30件】
2012年 08月 【31件】
2012年 07月 【31件】
2012年 06月 【30件】
2012年 05月 【32件】
2012年 04月 【30件】
2012年 03月 【29件】
2012年 02月 【29件】
2012年 01月 【33件】
2011年 12月 【35件】
2011年 11月 【30件】
2011年 10月 【31件】
2011年 09月 【31件】
2011年 08月 【31件】
2011年 07月 【31件】
2011年 06月 【31件】
2011年 05月 【34件】
2011年 04月 【30件】
2011年 03月 【31件】
2011年 02月 【28件】
2011年 01月 【31件】
2010年 12月 【31件】
2010年 11月 【30件】
2010年 10月 【31件】
2010年 09月 【30件】
2010年 08月 【32件】
2010年 07月 【31件】
2010年 06月 【31件】
2010年 05月 【32件】
2010年 04月 【30件】
2010年 03月 【31件】
2010年 02月 【28件】
2010年 01月 【32件】
2009年 12月 【32件】
2009年 11月 【31件】
2009年 10月 【34件】
2009年 09月 【32件】
2009年 08月 【31件】
2009年 07月 【34件】
2009年 06月 【30件】
2009年 05月 【32件】
2009年 04月 【31件】
2009年 03月 【32件】
2009年 02月 【28件】
2009年 01月 【32件】
2008年 12月 【40件】
2008年 11月 【38件】
2008年 10月 【37件】
2008年 09月 【32件】
2008年 08月 【33件】
2008年 07月 【32件】
2008年 06月 【31件】
2008年 05月 【33件】
2008年 04月 【31件】
2008年 03月 【32件】
2008年 02月 【29件】
2008年 01月 【35件】

ranking

sister companies

明日 お題配布
さよならドロシー 1000のだいすき。
東京の坂道 東京の坂道ほか
無垢で無知 言葉の倉庫

music & books