恋三昧

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暴君王子のおっしゃることには! (24)


 大体どうして女の子でなく、一伽を自分の家に連れて帰るはめになったのか。
 知り合いが回すからって行ったクラブで、友人である航平が一伽と一緒にいて、実は吸血鬼なんだ、なんて言われて――――そこまではよかったのだ。
 一伽が吸血鬼だろうと、それさえ分かってしまえば、侑仁は別にそういうことに拘らない性格だし、一伽は女の子の血を吸う気満々だったので、侑仁がこの間のような目に遭うこともないと思っていたから。

 なら一体どうして…と、侑仁は、すっかり酔いの醒めた頭で考える。

 確かクラブに入って、すぐにみんなばらけてしまい、侑仁は侑仁で楽しんでいたのだが、ふと、一伽が女の子に話し掛けている姿が目に入ったのを覚えている。
 そうか、吸血鬼はナンパもするのか…なんて、妙なところで感心したのだが、そういえばこの間も、侑仁と同じ女の子に声を掛けようとしていたことを思い出した。

 この間のようにかぶらなければ、一伽が誰をナンパしようと関係ないので、侑仁は気にも留めないでいたのだが、しばらくしたら一伽が1人で戻って来たので驚いた。てっきりあのまま、あの女の子とどこかに行くものだとばかり思っていたのに。

 1人で戻って来た一伽に、その理由を聞くのはあまりにも野暮だが、しかしそのわりに一伽の機嫌がいいので、それは少し気になった。
 しかも侑仁がニナ(女友達の1人。彼女でもないし、ナンパしたわけでもない)と喋っているのに、なぜか一伽はやたら侑仁に絡んでくるので(女の子好きなんじゃないの?)、仕方なく侑仁が相手をしてやれば、一伽がこんなにもご機嫌なのは、先ほど飲んだ血がとてもうまかったからだった。

 なるほど、先ほど一伽が女の子に声を掛けていたのは、ただのナンパではなく、そういう目的だったのだ。確かに先日のときも、『ご飯』と何度も言っていたっけ。

 血の味というのは、年齢や性別、生活環境によって人それぞれ違いがあって、吸血鬼にもそれぞれ好みの味があるらしいのだが、一伽はやはり若い女の子の血が好きで、その中でも今飲んだ血は最高だったから、おかげでテンションは上がりまくり、ご機嫌は急上昇、というわけだ。

 しかしそれなら、どうして一伽は1人で戻って来たのかと思う。
 いや、戻って来たっていいんだけれど、血の味だけでなく、顔や容姿も好みなら(聞きもしないのに、一伽がベラベラ喋るから知った)、別に航平や侑仁に気を遣わず、2人でいてもよかったのに。

『だってもうお腹いっぱいだし』

 侑仁がそれとなく尋ねてみたら、一伽はあっさりとそうのたまった。
 え、お腹がいっぱいになれば、それでいいわけ? 女の子イコールご飯? 完全にご飯目的?

『えっと…、いや、まぁ…ちょっとはいろいろとしてきたけど…』

 自分の『お腹いっぱい』発言が侑仁を驚かせたことに気付き、一伽は慌ててフォローしたけれど、あまりうまくはなかった。
 とりあえずまぁ、一伽にも、男としての下心はそれなりにあるらしいが、それにしても、サクッと気持ちいいことをして、その子から血を吸って、お腹がいっぱいになったら、そこでバイバイ……て、一伽のやっていることは何気にひどい気が。

『そんで、その子はどうしちゃったわけ?』

 先日侑仁が血を吸われたときは、しばらくの間、貧血みたいにフラフラした感じがしていた。
 あのとき、侑仁は自分から一伽のもとを去って行ったけれど、今その子は? 一伽はまさか、そんな状態の子を置いてきぼりにして、1人で戻って来たのだろうか。
 それは、女の子をご飯としてしか見てないとしても、問題ありだと思うのだが。

『その子の友だちが迎えに来たよ。そんな! 俺、そんなひどいヤツじゃない!』

 侑仁の勘違いに一伽は少し怒ってみせたけれど、それよりも上機嫌のほうが上回っているのか、すぐにヘラヘラとした笑顔に戻った。
 この間、侑仁があそこまでクラクラしたのは、腹が空き過ぎていた一伽が、より多く血を吸ってしまったからで、普通ならそんなに吸うものではないらしい。
 それに、侑仁は上背もあって体格もよかったから、いつもより少しくらい多めに吸っても大丈夫だろうと、空腹の思考ながらも、一伽は一応ちゃんと考えていたのだ。



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