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もうさようならの時間 (16)
2011.06.08 Wed
睦月があまりにもビックリした様子なので、彼女も少し驚いたようだった。
「え…三郎さん…?」
「この子だけ、ここに置いていけないから…。私たちが帰るとき、一緒に…」
睦月は突然の話に呆然となったが、それは考えてみれば当たり前のことだった。
飼い主がいなくなった家に、三郎さんだけが残るわけにはいかない。誰かが引き続き、飼い主になってやらなければ。
けれど、寮で犬を飼うことは出来ないんだし、そうでなくても、今の睦月に犬を飼えるだけの金銭的な余裕はないのだから、睦月にその役目を果たすことは出来ない。
睦月はおばあさんとだけでなく、三郎さんともお別れをしなくてはいけないのだ。
「…三郎さん、新しいお家…行くの? これからは新しいトコ、お散歩するんだね」
「わふ?」
女性の言葉に、どんなふうに返事をしていいか分からなくて、睦月は困ったように三郎さんに話し掛けた。
けれど三郎さんは、分かっているような、分かっていないような顔で、睦月のことを見つめているだけだ。
「三郎さん…」
いつ彼女たちがこの家を離れるのかは分からないが、もう足の悪いおばあさんと一緒なのではないから、睦月が三郎さんを散歩に連れて行く必要もなくなってしまった。
言ったら、散歩に行かせてくれるかもしれないけれど、そんなことをしたら、余計に離れ難くなってしまう気がする。
「…これから、ここはどうなるんですか?」
「私たちが帰ったら、空き家になっちゃうわね…。しばらくは、このまま残しておくつもりだけど…」
今後のことは分からない、と言われ、睦月は目を伏せた。
誰もいない家を、遠くに住んでいて管理するのは大変なことだ。そう遠くない将来、ここはおばあさんが住んでいたという痕跡すら、なくしてしまうのだろう。
お互い、まだ話し足りないような、でももうこれ以上話を聞くと、切なさが募ってしまうような、そんな気持ちだった。
睦月は口が達者だけれど、人見知りでもあるから、こんなときうまく話を持っていけない。どうしよう…と思いながら三郎さんを撫でていたら、玄関のほうからチャイムの音がした。
きっと誰か弔問に訪れたのだろう、彼女の旦那さんが出迎えに行く音がする。
「あ…俺、じゃあ、これで…」
新たな弔問客が来たのなら、睦月はもうお暇すべきだろう。
名残惜しいけれど、このタイミングを逃したら、睦月は帰れなくなってしまう。
「…そうですか」
彼女もまた、名残惜しそうだったけれど、そうも言っていられず、2人は立ち上がった。
ご仏壇のある座敷へと通されたのは、亡くなったおばあさんと同世代くらいのご夫婦で、女性が2人に頭を下げたので、睦月も何となく会釈をした。
睦月なんて、飛び入りできたようなものだから、そこまで気に掛けてくれなくてもよかったけれど、女性は玄関まで睦月をお見送りに来てくれた。三郎さんも一緒だ。
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「え…三郎さん…?」
「この子だけ、ここに置いていけないから…。私たちが帰るとき、一緒に…」
睦月は突然の話に呆然となったが、それは考えてみれば当たり前のことだった。
飼い主がいなくなった家に、三郎さんだけが残るわけにはいかない。誰かが引き続き、飼い主になってやらなければ。
けれど、寮で犬を飼うことは出来ないんだし、そうでなくても、今の睦月に犬を飼えるだけの金銭的な余裕はないのだから、睦月にその役目を果たすことは出来ない。
睦月はおばあさんとだけでなく、三郎さんともお別れをしなくてはいけないのだ。
「…三郎さん、新しいお家…行くの? これからは新しいトコ、お散歩するんだね」
「わふ?」
女性の言葉に、どんなふうに返事をしていいか分からなくて、睦月は困ったように三郎さんに話し掛けた。
けれど三郎さんは、分かっているような、分かっていないような顔で、睦月のことを見つめているだけだ。
「三郎さん…」
いつ彼女たちがこの家を離れるのかは分からないが、もう足の悪いおばあさんと一緒なのではないから、睦月が三郎さんを散歩に連れて行く必要もなくなってしまった。
言ったら、散歩に行かせてくれるかもしれないけれど、そんなことをしたら、余計に離れ難くなってしまう気がする。
「…これから、ここはどうなるんですか?」
「私たちが帰ったら、空き家になっちゃうわね…。しばらくは、このまま残しておくつもりだけど…」
今後のことは分からない、と言われ、睦月は目を伏せた。
誰もいない家を、遠くに住んでいて管理するのは大変なことだ。そう遠くない将来、ここはおばあさんが住んでいたという痕跡すら、なくしてしまうのだろう。
お互い、まだ話し足りないような、でももうこれ以上話を聞くと、切なさが募ってしまうような、そんな気持ちだった。
睦月は口が達者だけれど、人見知りでもあるから、こんなときうまく話を持っていけない。どうしよう…と思いながら三郎さんを撫でていたら、玄関のほうからチャイムの音がした。
きっと誰か弔問に訪れたのだろう、彼女の旦那さんが出迎えに行く音がする。
「あ…俺、じゃあ、これで…」
新たな弔問客が来たのなら、睦月はもうお暇すべきだろう。
名残惜しいけれど、このタイミングを逃したら、睦月は帰れなくなってしまう。
「…そうですか」
彼女もまた、名残惜しそうだったけれど、そうも言っていられず、2人は立ち上がった。
ご仏壇のある座敷へと通されたのは、亡くなったおばあさんと同世代くらいのご夫婦で、女性が2人に頭を下げたので、睦月も何となく会釈をした。
睦月なんて、飛び入りできたようなものだから、そこまで気に掛けてくれなくてもよかったけれど、女性は玄関まで睦月をお見送りに来てくれた。三郎さんも一緒だ。
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けいったん ⇒ No title
離れがたくなるかも しれないけど 最後に 一回くらい 散歩したら良かったのに。
三郎さんは 賢い犬だから きっと 分かってくれると思うよ。
近所を おじいさんが 犬を 散歩しているのを よく見かけるのですが、ゆっくりゆっくり歩く おじいさんと その犬の歩調が ぴったりで。
きっと その犬も 年を取っているのでしょうね。
三郎さんも 老犬ではないかと 私は 何故か思っちゃってます。
足が悪くなる前の おばあさんと三郎さんの ゆっくり歩く 散歩風景が 自然と 浮かんでくるので・・・
+。:.゜バイバ-イヽ(´∀`)ノ .:。+゜。...byebye☆
三郎さんは 賢い犬だから きっと 分かってくれると思うよ。
近所を おじいさんが 犬を 散歩しているのを よく見かけるのですが、ゆっくりゆっくり歩く おじいさんと その犬の歩調が ぴったりで。
きっと その犬も 年を取っているのでしょうね。
三郎さんも 老犬ではないかと 私は 何故か思っちゃってます。
足が悪くなる前の おばあさんと三郎さんの ゆっくり歩く 散歩風景が 自然と 浮かんでくるので・・・
+。:.゜バイバ-イヽ(´∀`)ノ .:。+゜。...byebye☆
- |2011.06.08
- |Wed
- |14:01
- |URL
- |EDIT|
ちよ ⇒ 辛いね…U^ェ^U
私もけいったんさまのご意見に賛成!最後に三郎さんとのお散歩、行けたらいいな。
悲しい現実を受け止めて歩き出すのは辛いよね。
でも、思い出してみて。
むっちゃんが楽しかった様に、おばあさんも三郎さんも、むっちゃんの優しさに触れられて、嬉しくて楽しくていつも笑顔だったはずだよ。
お散歩に行く時や寮に帰る時、おばあさんが笑顔でお見送りしてくれたように、今度はむっちゃんがお別れの時に笑顔でお見送りしなくちゃね。
(≧ω≦)ん~毎朝の更新が切ないです。
悲しい現実を受け止めて歩き出すのは辛いよね。
でも、思い出してみて。
むっちゃんが楽しかった様に、おばあさんも三郎さんも、むっちゃんの優しさに触れられて、嬉しくて楽しくていつも笑顔だったはずだよ。
お散歩に行く時や寮に帰る時、おばあさんが笑顔でお見送りしてくれたように、今度はむっちゃんがお別れの時に笑顔でお見送りしなくちゃね。
(≧ω≦)ん~毎朝の更新が切ないです。
- |2011.06.08
- |Wed
- |22:07
- |URL
- |EDIT|
如月久美子 ⇒ >けいったんさん
三郎さんは賢いワンちゃんですよね。
長く一緒にいると、本当に気持ちが通じ合えるんだろうなぁ、と思います。
私も昔、足が悪くてゆ~っくり歩くおじいさんと、一緒に散歩してるワンちゃんをよく見かけました。
ワンちゃんにしたら立ち止まっちゃうくらいのゆっくりさ加減で、でもそのワンちゃん、先に引っ張ってっちゃうんじゃなくて、おじいさんのそばをクルクル回って、ずっと待っててくれるんです。
その場でクルクルしてることで、歩数的にはかなりいってるはずだから、ワンちゃんも歩き足りない、てことはないのかな、と思ってましたが。
けいったんさんのコメントを読みながら、そのことを思い出しました。
もう15年くらい前の話ですが…(^_^;)
コメントありがとうございました!
長く一緒にいると、本当に気持ちが通じ合えるんだろうなぁ、と思います。
私も昔、足が悪くてゆ~っくり歩くおじいさんと、一緒に散歩してるワンちゃんをよく見かけました。
ワンちゃんにしたら立ち止まっちゃうくらいのゆっくりさ加減で、でもそのワンちゃん、先に引っ張ってっちゃうんじゃなくて、おじいさんのそばをクルクル回って、ずっと待っててくれるんです。
その場でクルクルしてることで、歩数的にはかなりいってるはずだから、ワンちゃんも歩き足りない、てことはないのかな、と思ってましたが。
けいったんさんのコメントを読みながら、そのことを思い出しました。
もう15年くらい前の話ですが…(^_^;)
コメントありがとうございました!
如月久美子 ⇒ >ちよさん
お別れはつらいですが、そこから1歩踏み出す勇気を持たないとですよね。
確かに、むっちゃんが楽しかったように、おばあちゃんや三郎さんも、楽しかっただろうな、と思います。
だからむっちゃんも、泣いてないで、笑顔で歩き出さないとですね(*^_^*)
ホント、むっちゃんが笑顔でお見送りしないと!
何か、ちよさんのコメントに、私が勇気づけられました。
コメントありがとうございました!
確かに、むっちゃんが楽しかったように、おばあちゃんや三郎さんも、楽しかっただろうな、と思います。
だからむっちゃんも、泣いてないで、笑顔で歩き出さないとですね(*^_^*)
ホント、むっちゃんが笑顔でお見送りしないと!
何か、ちよさんのコメントに、私が勇気づけられました。
コメントありがとうございました!