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もうさようならの時間 (17)
2011.06.09 Thu
「睦月さん、これ…」
「え?」
女性は睦月に、紙袋に入った包みを差し出した。
のし紙の掛かったそれは、おそらく香典返しだろうと睦月には想像が付いたが、ふと、自分がそれを受け取っていいものかとも思った。
だって睦月は、手ぶらでこの家に上がり込んだのだ。ご仏壇に手を合わさせてもらったけれど、香典も何も持って来てはいない。
「そんな、だって俺、何も持って来てな…」
「いいのよ。今までのお礼です。お菓子だから、お友だちと一緒に食べて?」
「でも…」
「どうぞ、受け取ってください。本当に、感謝して…」
おばあさんに聞かされていた、睦月のこと。
睦月が話してくれた、生前の母親のこと。
いろいろな思いが蘇ったのか、彼女は声を詰まらせて、目を伏せた。
「あの、えと…、あの、…はい。あ、えと…ありがとうございます」
これ以上拒み切れず、睦月は女性から包みを受け取った。
最初はうまく返事も出来ず頷くだけだったけれど、今度こそ睦月はちゃんとお礼を言った。
「今まで、本当にありがとうございました。母のことも、三郎さんのことも…」
「…」
もうこれ以上は泣かないと思ったのに、女性の声に涙が混じっているから、つられて泣きそうになってしまう。
三郎さんは、くるくると女性の周りを回った後、女性に向かって「わんっ!」と元気よく吠えた。
もう泣かないで? 僕がいるから、泣かないで?
「…三郎さん、ちゃんとそばにいてあげてね?」
「わふっ」
睦月は身を屈めて三郎さんと目線を合わせると、しっかりとそう言い聞かせた。
「それじゃあ、あの…」
睦月は、ゆっくりと立ち上がった。
もう、さようならの時間だ。
「…じゃあ、三郎さんも――――」
バイバイ、と言おうとして、睦月は思わず口を噤んだ。
女性は不思議そうに、睦月を見た。
「…三郎さん、じゃあ…またね」
帰るときはいつも、『じゃあまたね』て、次の約束をして帰るから。
バイバイなんて、言ったことない。
そんなこと、これからも言わない。
「じゃあ、あの、お邪魔しました…」
「いえ、こちらこそ…。来てくださって本当にありがとう。本当に…」
最後にもう1度、三郎さんの頭を撫でてから、睦月は女性と三郎さんに背を向け、ドアを開けた。
「わんっ!」
「うわっ!? え、三郎さん!?」
背後で三郎さんが吠えた、と思ったら、睦月が振り返るより先、女性の足元に座っていた三郎さんが、突然睦月のほうに飛び付いてきて、その足にじゃれ付いた。
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「え?」
女性は睦月に、紙袋に入った包みを差し出した。
のし紙の掛かったそれは、おそらく香典返しだろうと睦月には想像が付いたが、ふと、自分がそれを受け取っていいものかとも思った。
だって睦月は、手ぶらでこの家に上がり込んだのだ。ご仏壇に手を合わさせてもらったけれど、香典も何も持って来てはいない。
「そんな、だって俺、何も持って来てな…」
「いいのよ。今までのお礼です。お菓子だから、お友だちと一緒に食べて?」
「でも…」
「どうぞ、受け取ってください。本当に、感謝して…」
おばあさんに聞かされていた、睦月のこと。
睦月が話してくれた、生前の母親のこと。
いろいろな思いが蘇ったのか、彼女は声を詰まらせて、目を伏せた。
「あの、えと…、あの、…はい。あ、えと…ありがとうございます」
これ以上拒み切れず、睦月は女性から包みを受け取った。
最初はうまく返事も出来ず頷くだけだったけれど、今度こそ睦月はちゃんとお礼を言った。
「今まで、本当にありがとうございました。母のことも、三郎さんのことも…」
「…」
もうこれ以上は泣かないと思ったのに、女性の声に涙が混じっているから、つられて泣きそうになってしまう。
三郎さんは、くるくると女性の周りを回った後、女性に向かって「わんっ!」と元気よく吠えた。
もう泣かないで? 僕がいるから、泣かないで?
「…三郎さん、ちゃんとそばにいてあげてね?」
「わふっ」
睦月は身を屈めて三郎さんと目線を合わせると、しっかりとそう言い聞かせた。
「それじゃあ、あの…」
睦月は、ゆっくりと立ち上がった。
もう、さようならの時間だ。
「…じゃあ、三郎さんも――――」
バイバイ、と言おうとして、睦月は思わず口を噤んだ。
女性は不思議そうに、睦月を見た。
「…三郎さん、じゃあ…またね」
帰るときはいつも、『じゃあまたね』て、次の約束をして帰るから。
バイバイなんて、言ったことない。
そんなこと、これからも言わない。
「じゃあ、あの、お邪魔しました…」
「いえ、こちらこそ…。来てくださって本当にありがとう。本当に…」
最後にもう1度、三郎さんの頭を撫でてから、睦月は女性と三郎さんに背を向け、ドアを開けた。
「わんっ!」
「うわっ!? え、三郎さん!?」
背後で三郎さんが吠えた、と思ったら、睦月が振り返るより先、女性の足元に座っていた三郎さんが、突然睦月のほうに飛び付いてきて、その足にじゃれ付いた。
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カテゴリー:Baby Baby Baby Love
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COMMENT-FORM
けいったん ⇒ No title
むっちゃんの「またね」と言った言葉には 様々な想いを含んでますよね。
賢い三郎さんは きっと 感じ取ったんだろうなぁ。
我が家の隣の 家人が居なくなると 一日中 吠える駄犬に 三郎さんの爪の垢を 飲ませてやりたいわっ!
因みに 隣は 家族全員が 会社勤めで 平日の日中は 誰も居ません。
って言うことは ずっと 吠えてます。。。(:´-д-)フゥ-3
三郎さん、最後なんだから 我侭言ってみたら?ねぇ ちよ様♪
わふっ♪▽・w・▽...byebye☆
賢い三郎さんは きっと 感じ取ったんだろうなぁ。
我が家の隣の 家人が居なくなると 一日中 吠える駄犬に 三郎さんの爪の垢を 飲ませてやりたいわっ!
因みに 隣は 家族全員が 会社勤めで 平日の日中は 誰も居ません。
って言うことは ずっと 吠えてます。。。(:´-д-)フゥ-3
三郎さん、最後なんだから 我侭言ってみたら?ねぇ ちよ様♪
わふっ♪▽・w・▽...byebye☆
- |2011.06.09
- |Thu
- |10:31
- |URL
- |EDIT|
ちよ ⇒ ご挨拶はいつも通り、
『またね』だね!
またね、ってステキな言葉ですよ。
だって、終わりじゃなくて、最後じゃないんだもの。今回のお別れで最後になってしまったら悲しすぎるしね…。
さあ、むっちゃん、最後じゃないお散歩に行っちゃって下さいませ!(行けるといいな~)
しかし、三郎さんって賢いというか、不安な時に迷子にならない様に促してくれて、導いてくれて、何だか悟り澄ましたブッダみたいなお方に見えて来る…
またね、ってステキな言葉ですよ。
だって、終わりじゃなくて、最後じゃないんだもの。今回のお別れで最後になってしまったら悲しすぎるしね…。
さあ、むっちゃん、最後じゃないお散歩に行っちゃって下さいませ!(行けるといいな~)
しかし、三郎さんって賢いというか、不安な時に迷子にならない様に促してくれて、導いてくれて、何だか悟り澄ましたブッダみたいなお方に見えて来る…
- |2011.06.09
- |Thu
- |18:37
- |URL
- |EDIT|
如月久美子 ⇒ >けいったんさん
むっちゃんも、ちゃんと勇気を持って1歩を踏み出すことが出来ました。
三郎さんも、きっと分かってるんだろうなぁ、と思います。
平日の昼間、吠えっ放しの犬ですか…。
隣に住んでる人には、いい迷惑ですね(-"-)
うちの近所も犬を飼ってる家が多いんですが、私、犬にはすぐに吠えられるタチなので、私が通ると大変賑やかです(^_^;)
でも、近所の床屋のワンちゃんが、昔は、結構離れたところを歩いてても、すごく吠えたのに、最近は年を取ったのか、私が近づいても全然吠えなくなっちゃいました。
吠えられないのはいいんだけれど、ワンちゃん、そういう年になったのかなぁ…て、ちょっと切ないです。
コメントありがとうございました!
三郎さんも、きっと分かってるんだろうなぁ、と思います。
平日の昼間、吠えっ放しの犬ですか…。
隣に住んでる人には、いい迷惑ですね(-"-)
うちの近所も犬を飼ってる家が多いんですが、私、犬にはすぐに吠えられるタチなので、私が通ると大変賑やかです(^_^;)
でも、近所の床屋のワンちゃんが、昔は、結構離れたところを歩いてても、すごく吠えたのに、最近は年を取ったのか、私が近づいても全然吠えなくなっちゃいました。
吠えられないのはいいんだけれど、ワンちゃん、そういう年になったのかなぁ…て、ちょっと切ないです。
コメントありがとうございました!
如月久美子 ⇒ >ちよさん
『バイバイ』じゃなくて、『またね』です。
最後のお別れじゃなくて、また会うためのご挨拶。
距離が離れるからって、それが、もう絶対に会えなくなる、ということではないですからね。
三郎さんは、ホント賢いワンちゃんですよね。
こうやって、ワンちゃんと気持ちを通じ合わせてる人っていっぱいいるんだろうけど、羨ましいなぁ~て思います。
…何せ私は、何もしてなくても、吠えられっ放しの人なんで…(涙)
コメントありがとうございました!
最後のお別れじゃなくて、また会うためのご挨拶。
距離が離れるからって、それが、もう絶対に会えなくなる、ということではないですからね。
三郎さんは、ホント賢いワンちゃんですよね。
こうやって、ワンちゃんと気持ちを通じ合わせてる人っていっぱいいるんだろうけど、羨ましいなぁ~て思います。
…何せ私は、何もしてなくても、吠えられっ放しの人なんで…(涙)
コメントありがとうございました!