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もうさようならの時間 (13)
2011.06.05 Sun
「お邪魔します…」
睦月が靴を脱いでいると、中から女性と同じくらいの男性が現れた。先ほどの話からすると、彼女の旦那だろう。
「あなた。この方ね、ずっと三郎さんの…」
「あぁ、それは…。いつもありがとう」
極度の人見知りに加え、かしこまった空気にも慣れていない睦月は、お礼の言葉にうまく返事も出来ず、頭を下げるしか出来なくて、何だか情けない気持ちだった。
靴を脱いでこの家に上がるのは、本当に初めてのことだった。
いつも、玄関まで。
時々おばあさんはお礼にお茶を淹れてくれたが、散歩に行く日は天気がいい日と決まっていたので、それはいつも裏の庭でいただいていた。
通されたのは座敷で、部屋の奥には質素ながら立派なご仏壇があった。
おばあさんは、そこにいた。
「……」
モノクロの写真の中でおばあさんは笑っていて、その横には白布に包まれた箱が置いてあった。
睦月はその前で、ただ立ち尽くしていた。
急にじわっと涙が溢れてきて、それは頬を伝って床へと落ちた。
「おばあちゃん…」
何だか急に足の力が抜けたみたいになって、睦月は座布団の上にペタンと座った。
ご仏壇のそばには、のし紙の付いた線香などが上げられていて、あぁ、こういう席には手ぶらで来るものではないのだと、睦月はようやく気が付いた。
挨拶も全然うまく出来ないし、何も持たずに来てしまうし、……だってこんなこと、全然想像していなかったから。
「ふぇっ…」
だってそんなの、全然知らなかった。
今日は晴れたから、久々におばあさんに会って、三郎さんの散歩に行って、それで、『また来るね』て約束して帰るはずだった。
こんな……家の中にまで、上げてもらうはずじゃなかったのに。
「うぅっ…うぇっ…」
涙が止まらなくなって、睦月は一生懸命にそれを手で拭ったけれど、でも止まらない。
ずっとずっと、泣き続けた。
それでもおばあさんは、写真の中で笑い続けている。いつもの笑顔。
「うわぁーんっ…」
睦月が知っているおばあさんは、睦月が訪ねると、杖を突きながらゆっくりと出て来て、散歩に行く睦月と三郎さんを見送ってくれて、散歩が終わったら、今度は寮に帰る睦月を見送ってくれる。
こんな写真の中のおばあちゃんなんか、ずっと笑顔で、ずっと黙っているおばあちゃんなんか知らない。
「くぅん?」
もういい加減、泣き止まなきゃ、て。
全然知らない人たちの前で、一体いつまで泣いているつもりなんだ、て自分に言い聞かせても、涙がとめどなく溢れてきて、睦月が途方に暮れていたら、三郎さんがそばにやって来て、睦月の手を舐めた。
そういえばさっき、後で家に上げてあげる、て言われていた。
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睦月が靴を脱いでいると、中から女性と同じくらいの男性が現れた。先ほどの話からすると、彼女の旦那だろう。
「あなた。この方ね、ずっと三郎さんの…」
「あぁ、それは…。いつもありがとう」
極度の人見知りに加え、かしこまった空気にも慣れていない睦月は、お礼の言葉にうまく返事も出来ず、頭を下げるしか出来なくて、何だか情けない気持ちだった。
靴を脱いでこの家に上がるのは、本当に初めてのことだった。
いつも、玄関まで。
時々おばあさんはお礼にお茶を淹れてくれたが、散歩に行く日は天気がいい日と決まっていたので、それはいつも裏の庭でいただいていた。
通されたのは座敷で、部屋の奥には質素ながら立派なご仏壇があった。
おばあさんは、そこにいた。
「……」
モノクロの写真の中でおばあさんは笑っていて、その横には白布に包まれた箱が置いてあった。
睦月はその前で、ただ立ち尽くしていた。
急にじわっと涙が溢れてきて、それは頬を伝って床へと落ちた。
「おばあちゃん…」
何だか急に足の力が抜けたみたいになって、睦月は座布団の上にペタンと座った。
ご仏壇のそばには、のし紙の付いた線香などが上げられていて、あぁ、こういう席には手ぶらで来るものではないのだと、睦月はようやく気が付いた。
挨拶も全然うまく出来ないし、何も持たずに来てしまうし、……だってこんなこと、全然想像していなかったから。
「ふぇっ…」
だってそんなの、全然知らなかった。
今日は晴れたから、久々におばあさんに会って、三郎さんの散歩に行って、それで、『また来るね』て約束して帰るはずだった。
こんな……家の中にまで、上げてもらうはずじゃなかったのに。
「うぅっ…うぇっ…」
涙が止まらなくなって、睦月は一生懸命にそれを手で拭ったけれど、でも止まらない。
ずっとずっと、泣き続けた。
それでもおばあさんは、写真の中で笑い続けている。いつもの笑顔。
「うわぁーんっ…」
睦月が知っているおばあさんは、睦月が訪ねると、杖を突きながらゆっくりと出て来て、散歩に行く睦月と三郎さんを見送ってくれて、散歩が終わったら、今度は寮に帰る睦月を見送ってくれる。
こんな写真の中のおばあちゃんなんか、ずっと笑顔で、ずっと黙っているおばあちゃんなんか知らない。
「くぅん?」
もういい加減、泣き止まなきゃ、て。
全然知らない人たちの前で、一体いつまで泣いているつもりなんだ、て自分に言い聞かせても、涙がとめどなく溢れてきて、睦月が途方に暮れていたら、三郎さんがそばにやって来て、睦月の手を舐めた。
そういえばさっき、後で家に上げてあげる、て言われていた。
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如月久美子 ⇒ >拍手コメ→Sさん
むっちゃんには切ない思いをさせてしまいましたが、悲しいときに素直に泣けるっていうのは、いいことですよね。
こんな子が犬のお散歩に張り切って来てくれてたんだから、おばあちゃん、すごく嬉しかったと思います。
さてさて、三郎さんですが、この後一体どうなっちゃうのでしょうか。
もうしばしお待ちください~!
拍手&コメントありがとうございました!
こんな子が犬のお散歩に張り切って来てくれてたんだから、おばあちゃん、すごく嬉しかったと思います。
さてさて、三郎さんですが、この後一体どうなっちゃうのでしょうか。
もうしばしお待ちください~!
拍手&コメントありがとうございました!