恋三昧

【18禁】 BL小説取り扱い中。苦手なかた、「BL」という言葉に聞き覚えのないかた、18歳未満のかたはご遠慮ください。

2010年08月

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繁華街☆激濃ムラサキヴァイオレンス (27)


「すいません、すいませんっ! ――――て、え、依織…」
「あ…」

 超ヤバい人にぶつけちゃって、因縁つけられて、法外な慰謝料とか請求されて……と、ベタなドラマ並みの展開を勝手に想像した瑛貴は、深々と下げた頭を上げて目にした人物に、違う意味で言葉をなくした。
 ――――依織。
 このほうが、よっぽど間の悪いドラマのようだ。
 どうしてここに、このタイミングでここに依織が。

 以前と同じよう、女の子の格好をした依織は、マスカラでボリュームアップしたまつ毛を羽ばたかせて瞬きをする。まるで信じられないものでも見るように。

 しかし信じられないものを見たのは、瑛貴のほうだ。
 依織の隣には男がいて、依織は恋人にそうするように腕を絡ませていて、けれど口元にひげを生やし、長い髪を後ろで一括りにしているその男は、前に瑛貴が見た男とは違うし、有華が言った40代後半の風貌でもない。

 2人、視線がぶつかって、一体どのくらい見つめ合ったのだろう。
 最初に反応したのは、依織が腕を組んでいる男だ。

「ぅん? どうした? そんなに強くぶつかった?」
「え…、……んーん…」

 男に顔を覗き込まれ、依織は瑛貴から視線を外すと、緩く首を振った。

「ゴメ…大丈夫…?」
「あ…はい…」

 そう言えば、この買い物袋を依織にぶつけてしまっことを思い出し、何とか絞り出すように瑛貴は声を出したが、隣の男を気にしているせいか、依織の態度はよそよそしい。
 散々彷徨わせた視線は、下へと落ちる。

「行こうぜ?」

 事情を知らない男が、依織の腕を引いていく。
 引っ張られるがまま、依織は、瑛貴が向かおうとするのは反対の方向へと向かっていく。
 段々と遠ざかっていく依織の背中。

 一体、この一瞬は何だったのか、まるで状況の把握できない瑛貴は、ただのその姿を呆然と見つめるしか出来なくて。
 小さくなっていく後ろ姿。
 依織が振り返る。
 目が合う。

「依織…?」

 呟くような瑛貴の声は、もちろん依織には届かない。
 依織と男の姿は、人混みに消える。

「依織?」

 もう見えなくなった後ろ姿に、瑛貴はもう1度呼び掛けた。
 返事など、返るはずもなくて。



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テーマ:自作BL小説  ジャンル:小説・文学

繁華街☆激濃ムラサキヴァイオレンス (28)


 依織があの男と2人、雑踏の中に消えるのを呆然と見届け、それからどうやってJADEまで戻って来たのか、瑛貴にもよく分からなかった。
 とりあえず誰にも怒られなかったから、開店時間には間に合ったのだろう。

 依織のことは、よく知らない。
 まだ2回しかちゃんと会ったことはないし、その素性を詳しく語り合ったこともないから。
 ただ分かるのは、依織には男の恋人がいて、でも浮気をしているかもしれなくて、真相を聞こうか迷っているうち、ばったりと出くわした依織の隣には、また別の男がいたということ。

 しかもそれを見られた依織は、なぜか気まずそうな顔をしていた。
 瑛貴がこの街で働いているのは知っているのだから、会う可能性があることくらい分かっていていいはずなのに。
 浮気現場を見られたとでも思ったのだろうか。
 確かに瑛貴は、依織が他の男とあんなふうに歩いているところ見たことはあるが、そのことを依織は知らないのだから、何食わぬ顔をしていればバレないと思わなかったのだろうか。

 それともまさか、恋人が男だと知られたから?
 しかし、この界隈にはゲイもビアンも、七槻のような両性愛の人も大勢いて、そんなことをいちいち気にするような人間なんていない。

(でも依織、この辺じゃあんま遊ばないって言ってたしな…)

 瑛貴だって、この辺りの事情にそんなに詳しいわけではないが、もしかしたら依織はもっとそういうことが分からなくて、瑛貴に見られたのが気まずかったのかもしれない。
 いやしかし、それなら瑛貴がいると分かっていて、わざわざこの街に来る必要もないのに。

(あー分かんね)

 淡々と仕事をこなし、閉店時間になって、いつもどおり後片付けをした瑛貴は、終電に間に合うように店を出た。
 優輝には、「今夜なら空いてるけど、遊ばね?」と誘われたが、とてもそんな気分にはならなくて断った。

「…アッキー」

 店を出て駅に向かおうとした瑛貴に、背後から声が掛かる。
 喧噪の中、聞き覚えのある声にハッとして振り返れば、そこには依織が1人で立っていた。

「依織!」
「えへへ、アッキーの顔見たくて……来ちゃった」
「来ちゃったはいいけど…おま、それ、どうしたんだよ!」

 瑛貴は、依織がそこにいたことにも十分驚いたが、もっと驚いたのは、その口元に血が滲んでいたこと。
 眩いネオンの下、よく見れば依織の口の端は切れているし、頬もうっすら腫れている。

「あ…これ? ちょっとね。大丈夫、大したことないから」
「何で! 血出てんじゃん! 病院!? あ、警察!? さっき一緒にいた男にやられたんだろ!?」
「アッキー大丈夫! ホント大丈夫! 平気! 何ともないよ!」

 その傷と腫れは、どう見たって殴られたに決まっている。
 何があったかは知らないし、大したことがないと依織が言ったって、ケガをしたのは間違いないのだ。憤りで声を荒げる瑛貴に、しかし依織は、平気だからと繰り返す。

「だって殴られたんだろ? そんなのっ」
「そうだけど、もう平気だから…。警察なんて、俺が行きたくない」
「でも手当て…病院…」

 いくら依織が平気だと言ったところで、このままにはしておけない。
 病院に行くほどのケガはしていないのだとしても、傷の手当てくらいしなければ。



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