2010年08月
DATE
スポンサーサイト
--.--.-- --
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
- BL小説ランキング参加中です。クリックいただけたら嬉しいです。
- コメントや拍手、ありがとうございます。拍手の公開コメントへのお返事はこちらから。それ以外は、コメントをいただいた記事に返信いたします。
- お題配布サイト「明日」はひっそりまったり更新中です。毎日更新しない日誌「遊び心がない」もよろしくね。
カテゴリー:スポンサー広告
繁華街☆激濃ムラサキヴァイオレンス (27)
2010.08.30 Mon
「すいません、すいませんっ! ――――て、え、依織…」
「あ…」
超ヤバい人にぶつけちゃって、因縁つけられて、法外な慰謝料とか請求されて……と、ベタなドラマ並みの展開を勝手に想像した瑛貴は、深々と下げた頭を上げて目にした人物に、違う意味で言葉をなくした。
――――依織。
このほうが、よっぽど間の悪いドラマのようだ。
どうしてここに、このタイミングでここに依織が。
以前と同じよう、女の子の格好をした依織は、マスカラでボリュームアップしたまつ毛を羽ばたかせて瞬きをする。まるで信じられないものでも見るように。
しかし信じられないものを見たのは、瑛貴のほうだ。
依織の隣には男がいて、依織は恋人にそうするように腕を絡ませていて、けれど口元にひげを生やし、長い髪を後ろで一括りにしているその男は、前に瑛貴が見た男とは違うし、有華が言った40代後半の風貌でもない。
2人、視線がぶつかって、一体どのくらい見つめ合ったのだろう。
最初に反応したのは、依織が腕を組んでいる男だ。
「ぅん? どうした? そんなに強くぶつかった?」
「え…、……んーん…」
男に顔を覗き込まれ、依織は瑛貴から視線を外すと、緩く首を振った。
「ゴメ…大丈夫…?」
「あ…はい…」
そう言えば、この買い物袋を依織にぶつけてしまっことを思い出し、何とか絞り出すように瑛貴は声を出したが、隣の男を気にしているせいか、依織の態度はよそよそしい。
散々彷徨わせた視線は、下へと落ちる。
「行こうぜ?」
事情を知らない男が、依織の腕を引いていく。
引っ張られるがまま、依織は、瑛貴が向かおうとするのは反対の方向へと向かっていく。
段々と遠ざかっていく依織の背中。
一体、この一瞬は何だったのか、まるで状況の把握できない瑛貴は、ただのその姿を呆然と見つめるしか出来なくて。
小さくなっていく後ろ姿。
依織が振り返る。
目が合う。
「依織…?」
呟くような瑛貴の声は、もちろん依織には届かない。
依織と男の姿は、人混みに消える。
「依織?」
もう見えなくなった後ろ姿に、瑛貴はもう1度呼び掛けた。
返事など、返るはずもなくて。
back next
「あ…」
超ヤバい人にぶつけちゃって、因縁つけられて、法外な慰謝料とか請求されて……と、ベタなドラマ並みの展開を勝手に想像した瑛貴は、深々と下げた頭を上げて目にした人物に、違う意味で言葉をなくした。
――――依織。
このほうが、よっぽど間の悪いドラマのようだ。
どうしてここに、このタイミングでここに依織が。
以前と同じよう、女の子の格好をした依織は、マスカラでボリュームアップしたまつ毛を羽ばたかせて瞬きをする。まるで信じられないものでも見るように。
しかし信じられないものを見たのは、瑛貴のほうだ。
依織の隣には男がいて、依織は恋人にそうするように腕を絡ませていて、けれど口元にひげを生やし、長い髪を後ろで一括りにしているその男は、前に瑛貴が見た男とは違うし、有華が言った40代後半の風貌でもない。
2人、視線がぶつかって、一体どのくらい見つめ合ったのだろう。
最初に反応したのは、依織が腕を組んでいる男だ。
「ぅん? どうした? そんなに強くぶつかった?」
「え…、……んーん…」
男に顔を覗き込まれ、依織は瑛貴から視線を外すと、緩く首を振った。
「ゴメ…大丈夫…?」
「あ…はい…」
そう言えば、この買い物袋を依織にぶつけてしまっことを思い出し、何とか絞り出すように瑛貴は声を出したが、隣の男を気にしているせいか、依織の態度はよそよそしい。
散々彷徨わせた視線は、下へと落ちる。
「行こうぜ?」
事情を知らない男が、依織の腕を引いていく。
引っ張られるがまま、依織は、瑛貴が向かおうとするのは反対の方向へと向かっていく。
段々と遠ざかっていく依織の背中。
一体、この一瞬は何だったのか、まるで状況の把握できない瑛貴は、ただのその姿を呆然と見つめるしか出来なくて。
小さくなっていく後ろ姿。
依織が振り返る。
目が合う。
「依織…?」
呟くような瑛貴の声は、もちろん依織には届かない。
依織と男の姿は、人混みに消える。
「依織?」
もう見えなくなった後ろ姿に、瑛貴はもう1度呼び掛けた。
返事など、返るはずもなくて。
back next
- 関連記事
-
- 繁華街☆激濃ムラサキヴァイオレンス (28) (2010/08/31)
- 繁華街☆激濃ムラサキヴァイオレンス (27) (2010/08/30)
- 繁華街☆激濃ムラサキヴァイオレンス (26) (2010/08/29)
- BL小説ランキング参加中です。クリックいただけたら嬉しいです。
- コメントや拍手、ありがとうございます。拍手の公開コメントへのお返事はこちらから。それ以外は、コメントをいただいた記事に返信いたします。
- お題配布サイト「明日」はひっそりまったり更新中です。毎日更新しない日誌「遊び心がない」もよろしくね。
カテゴリー:繁華街☆激濃ムラサキヴァイオレンス
テーマ:自作BL小説 ジャンル:小説・文学
繁華街☆激濃ムラサキヴァイオレンス (28)
2010.08.31 Tue
依織があの男と2人、雑踏の中に消えるのを呆然と見届け、それからどうやってJADEまで戻って来たのか、瑛貴にもよく分からなかった。
とりあえず誰にも怒られなかったから、開店時間には間に合ったのだろう。
依織のことは、よく知らない。
まだ2回しかちゃんと会ったことはないし、その素性を詳しく語り合ったこともないから。
ただ分かるのは、依織には男の恋人がいて、でも浮気をしているかもしれなくて、真相を聞こうか迷っているうち、ばったりと出くわした依織の隣には、また別の男がいたということ。
しかもそれを見られた依織は、なぜか気まずそうな顔をしていた。
瑛貴がこの街で働いているのは知っているのだから、会う可能性があることくらい分かっていていいはずなのに。
浮気現場を見られたとでも思ったのだろうか。
確かに瑛貴は、依織が他の男とあんなふうに歩いているところ見たことはあるが、そのことを依織は知らないのだから、何食わぬ顔をしていればバレないと思わなかったのだろうか。
それともまさか、恋人が男だと知られたから?
しかし、この界隈にはゲイもビアンも、七槻のような両性愛の人も大勢いて、そんなことをいちいち気にするような人間なんていない。
(でも依織、この辺じゃあんま遊ばないって言ってたしな…)
瑛貴だって、この辺りの事情にそんなに詳しいわけではないが、もしかしたら依織はもっとそういうことが分からなくて、瑛貴に見られたのが気まずかったのかもしれない。
いやしかし、それなら瑛貴がいると分かっていて、わざわざこの街に来る必要もないのに。
(あー分かんね)
淡々と仕事をこなし、閉店時間になって、いつもどおり後片付けをした瑛貴は、終電に間に合うように店を出た。
優輝には、「今夜なら空いてるけど、遊ばね?」と誘われたが、とてもそんな気分にはならなくて断った。
「…アッキー」
店を出て駅に向かおうとした瑛貴に、背後から声が掛かる。
喧噪の中、聞き覚えのある声にハッとして振り返れば、そこには依織が1人で立っていた。
「依織!」
「えへへ、アッキーの顔見たくて……来ちゃった」
「来ちゃったはいいけど…おま、それ、どうしたんだよ!」
瑛貴は、依織がそこにいたことにも十分驚いたが、もっと驚いたのは、その口元に血が滲んでいたこと。
眩いネオンの下、よく見れば依織の口の端は切れているし、頬もうっすら腫れている。
「あ…これ? ちょっとね。大丈夫、大したことないから」
「何で! 血出てんじゃん! 病院!? あ、警察!? さっき一緒にいた男にやられたんだろ!?」
「アッキー大丈夫! ホント大丈夫! 平気! 何ともないよ!」
その傷と腫れは、どう見たって殴られたに決まっている。
何があったかは知らないし、大したことがないと依織が言ったって、ケガをしたのは間違いないのだ。憤りで声を荒げる瑛貴に、しかし依織は、平気だからと繰り返す。
「だって殴られたんだろ? そんなのっ」
「そうだけど、もう平気だから…。警察なんて、俺が行きたくない」
「でも手当て…病院…」
いくら依織が平気だと言ったところで、このままにはしておけない。
病院に行くほどのケガはしていないのだとしても、傷の手当てくらいしなければ。
back next
とりあえず誰にも怒られなかったから、開店時間には間に合ったのだろう。
依織のことは、よく知らない。
まだ2回しかちゃんと会ったことはないし、その素性を詳しく語り合ったこともないから。
ただ分かるのは、依織には男の恋人がいて、でも浮気をしているかもしれなくて、真相を聞こうか迷っているうち、ばったりと出くわした依織の隣には、また別の男がいたということ。
しかもそれを見られた依織は、なぜか気まずそうな顔をしていた。
瑛貴がこの街で働いているのは知っているのだから、会う可能性があることくらい分かっていていいはずなのに。
浮気現場を見られたとでも思ったのだろうか。
確かに瑛貴は、依織が他の男とあんなふうに歩いているところ見たことはあるが、そのことを依織は知らないのだから、何食わぬ顔をしていればバレないと思わなかったのだろうか。
それともまさか、恋人が男だと知られたから?
しかし、この界隈にはゲイもビアンも、七槻のような両性愛の人も大勢いて、そんなことをいちいち気にするような人間なんていない。
(でも依織、この辺じゃあんま遊ばないって言ってたしな…)
瑛貴だって、この辺りの事情にそんなに詳しいわけではないが、もしかしたら依織はもっとそういうことが分からなくて、瑛貴に見られたのが気まずかったのかもしれない。
いやしかし、それなら瑛貴がいると分かっていて、わざわざこの街に来る必要もないのに。
(あー分かんね)
淡々と仕事をこなし、閉店時間になって、いつもどおり後片付けをした瑛貴は、終電に間に合うように店を出た。
優輝には、「今夜なら空いてるけど、遊ばね?」と誘われたが、とてもそんな気分にはならなくて断った。
「…アッキー」
店を出て駅に向かおうとした瑛貴に、背後から声が掛かる。
喧噪の中、聞き覚えのある声にハッとして振り返れば、そこには依織が1人で立っていた。
「依織!」
「えへへ、アッキーの顔見たくて……来ちゃった」
「来ちゃったはいいけど…おま、それ、どうしたんだよ!」
瑛貴は、依織がそこにいたことにも十分驚いたが、もっと驚いたのは、その口元に血が滲んでいたこと。
眩いネオンの下、よく見れば依織の口の端は切れているし、頬もうっすら腫れている。
「あ…これ? ちょっとね。大丈夫、大したことないから」
「何で! 血出てんじゃん! 病院!? あ、警察!? さっき一緒にいた男にやられたんだろ!?」
「アッキー大丈夫! ホント大丈夫! 平気! 何ともないよ!」
その傷と腫れは、どう見たって殴られたに決まっている。
何があったかは知らないし、大したことがないと依織が言ったって、ケガをしたのは間違いないのだ。憤りで声を荒げる瑛貴に、しかし依織は、平気だからと繰り返す。
「だって殴られたんだろ? そんなのっ」
「そうだけど、もう平気だから…。警察なんて、俺が行きたくない」
「でも手当て…病院…」
いくら依織が平気だと言ったところで、このままにはしておけない。
病院に行くほどのケガはしていないのだとしても、傷の手当てくらいしなければ。
back next
- 関連記事
-
- 繁華街☆激濃ムラサキヴァイオレンス (29) (2010/09/01)
- 繁華街☆激濃ムラサキヴァイオレンス (28) (2010/08/31)
- 繁華街☆激濃ムラサキヴァイオレンス (27) (2010/08/30)
- BL小説ランキング参加中です。クリックいただけたら嬉しいです。
- コメントや拍手、ありがとうございます。拍手の公開コメントへのお返事はこちらから。それ以外は、コメントをいただいた記事に返信いたします。
- お題配布サイト「明日」はひっそりまったり更新中です。毎日更新しない日誌「遊び心がない」もよろしくね。
カテゴリー:繁華街☆激濃ムラサキヴァイオレンス
テーマ:自作BL小説 ジャンル:小説・文学