恋三昧

【18禁】 BL小説取り扱い中。苦手なかた、「BL」という言葉に聞き覚えのないかた、18歳未満のかたはご遠慮ください。

2009年12月

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wish (9)


 つーか、犬のエサなんてないんだけど。
 でも、いくら何もないからって、人間の食べ物は上げられないし(この際やむを得ないとしたって、冷蔵庫の中が空だ…)、牛乳を飲ませたら、お腹を壊してしまう。

「お前、お腹空いてるの?」

 バスタオルで子犬をワシャワシャしながら、遥琉が尋ねている。
 この感じからして、単に寒いだけじゃなさそうだから、たぶん腹減ってんだろうなー…。でもウチ、何もないし。
 え、買いに行ったほうがいいわけ? この感じからして。

「ねぇねぇ遠山くん。何食べさせてあげたらいいの? 昨日のコンビニのおべんと?」
「バカ、そんなん食わねぇよ」

 放っておいたら、遥琉はわけも分からないまま、何でも食わせてしまいそうで、こうなるとやっぱ、ちゃんとしたのを買いに行かないといけないような雰囲気。
 この近くでドッグフードとか売ってそうなとこっていったら、近所のホームセンターか。

「…買いに行くか、エサ」
「ぅん?」
「お前も来るんだよ!」
「うん!」

 別に一緒に買い物に行きたいわけじゃない。
 でも、こんな得体の知れないヤツを部屋に残していくなんて、そんなの絶対に出来ない。

 雪のせいでチャリも出せないから、徒歩でホームセンターまで向かう。
 歩いたって10分くらいなんだけど……寒ぃ…。
 それなのに、遥琉が驚愕するぐらいの薄着で、それもそうなんだけど、あの変な白い服のままホームセンターまで行くのはこっちが恥ずかしいから、コートを貸してやった。
 
 子犬はすぐにでもエサを欲しそうだったけど、ホームセンターの外で上げるには、あまりにも寒すぎたし、粉ミルクを溶くためのものも何もなかったから、結局また家まで戻って来た。
 まぁ、家まで戻ったところで、別にそんな気の利いたものもないから、普通に皿とかでミルクを作るしかないんだけど。

「ホラ」

 粉ミルクを溶いた皿とドッグフードを床に置けば、遥琉の腕の中の子犬が身を乗り出してきて、遥琉が手を離すと、子犬は嬉しそうに皿の側に寄って飲み始めた。
 遥琉は律儀にバスタオルを畳んでいる。

「おいしい? おいしい?」

 遥琉が子犬の頭を撫でながら尋ねると、それまで周りの様子など気にも止めず、一心不乱にミルクを飲んでいた子犬が遥琉のほうを向いて、元気よく『きゃんっ!』と吠えた。
 はぁ、よかったよかった。
 自分のメシも食わずに、犬のエサ買いに行った甲斐があったよ、マジで。

「ねぇお前、名前なんていうの? 教えてよ」
『くぅん…』
「ホントに知らないの?」

 遥琉はさっきから一生懸命、子犬に話し掛けてて……いや、言葉が通じてないって分かってても、話しかけちゃうことてあるよね。
 でもえっと、コイツの場合、本当に話そうとしてる雰囲気なんですけど?

「ねぇねぇ、この子ね、名前も付けてもらえないまま捨てられちゃったんだって。かわいそうだよね。人間って勝手だよね!」

 エサも食べ終わって、元気いっぱい! て感じではしゃいでいる子犬の頭をグリグリしながら、遥琉は少し憤慨したように言った。
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カテゴリー:読み切り中編
テーマ:自作BL小説  ジャンル:小説・文学

wish (10)


「じゃあ、名前は俺が付けてあげるね? 何がいいかな」

 遥琉のほうに飛び寄ってきた子犬が、遥琉の顔をペロペロと舐めている。遥琉は擽ったそうに身を捩って、その子犬を抱き上げた。

「名前付けるって…お前、その犬飼うつもりなの?」
「え?」
「飼えんの?」

 いや、名前付けるのは構わないけど、飼えもしないのに、今だけそんなにかわいがったら、そのほうがかわいそうな気がするんだけど。

「だって…」

 驚いたように顔を上げた遥琉は、瞬き1つしないで俺の目をジッと見つめている。その瞳の縁に涙が浮かんでいて、俺はハッとした。

「ずっとあそこにいたら、コイツ、死んじゃう…。1人ぼっちだし、だって…」
「あ、いや、ちが…ゴメン」

 何が悪いかって言えば、もちろん最初に犬を捨てたヤツが一番悪いけど、俺も、何もそんなに遥琉のこと、責めなくたってよかった。
 ついイライラに任せて、当たってしまった。

「あの、ゴ、ゴメンなさい…」
「え?」
「何で俺、遠山くんのこと、怒らせるようなことばっかしちゃうんだろ…」

 とうとう遥琉は泣き出してしまって。
 俺だって別に、そんなつもりじゃなかった。

「遥琉、違う、ゴメン! 別にそんなつもりじゃ…」
「大丈夫! 俺、ちゃんとコイツの世話するから! もう遠山くんに迷惑掛けな…、今日もホントは服返しに来ただけっ…も…ヒック…もぉ来ないから…だから、俺のこと、嫌いにならないでくださいっ!」

 遥琉は泣きながら一気に話して、子犬を抱えたまま深く頭を下げた。

「遥琉…あの…」
「俺、このまま…遠山くんに嫌われたままバイバイするなんて、そんなのヤダから…うぅ…」
「遥琉…」

 泣きじゃくる遥琉がほっとけなくて、俺は遥琉の横に移動して、落ち着けるようにその背中を擦ってやった。

「…ホントはね」

 ようやく涙を止めた遥琉が、けれど視線を落したまま、口を開いた。

「ホントは、別に天使が人間に姿、見せる必要なんかないの」
「え?」
「ホントは勝手にこっそり幸せにすればいいの。ちゃんとその人の願い、叶えてあげられれば、それでよくて、でも俺…遠山くんの願い、どうしても叶えてあげたくて…。だから、遠山くんに直接聞けば、て思って……ゴメンなさ…」
「何で…何でそんなに俺なんかのこと…」

 けれど遥琉は何も答えなかった。
 遥琉の腕に抱かれている子犬が、再び頬を伝い落ちた涙を舐め取った。

「それじゃ…俺、もう行くね?」
「遥琉…」

 遥琉は何度も何度も頭を下げながら玄関に向かった。
 俺は、遥琉の名前を呼ぶことも、彼を引き止めることも出来なかった。






 クリスマス小説のはずが、年越しです。ごめんなさい~。
 みなさん、よいお年を。
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