恋三昧

【18禁】 BL小説取り扱い中。苦手なかた、「BL」という言葉に聞き覚えのないかた、18歳未満のかたはご遠慮ください。

映画のような恋がしたい。(だって最後は決まってハッピーエンドだ。)

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映画のような恋がしたい。(だって最後は決まってハッピーエンドだ。) (5)


「うぅー…」

 お尻痛い…と思いながら顔を上げれば、遥希とぶつかった相手の人も、後ろに引っ繰り返っていた。

「す…すいませ…」

 痛いというのもあるが、こんなに見事に正面衝突をすることなどあるものかと、ビックリしてしまって、うまく言葉が出ない。
 相手も、結構な衝撃だったのか、まだ立ち上がれずにいる。

 しかし、『相手の人、大丈夫かな?』と、遥希が思ったのは、ほんの一瞬のことだった。
 それよりももっと衝撃的なことに気付いてしまったのだ。

(この人、超イケメン…!)

 …少なくとも、この状況下で考えることではない。

 けれど遥希にしたら、十分衝撃的なことだったのだ。
 サングラスをしているから、顔ははっきりとは見えないけれど、それでもイケメンだと分かるし、何よりもFATEの琉に似ている…!

「ゴメン、大丈夫だった?」
「…………ふぇ…?」

 カッコいい~…と、遥希が見惚れているうち、遥希とぶつかったイケメンは起き上がり、心配そうに遥希の顔を覗き込んでいた。

「うわっ…はいっ、あの、こっちこそすいません! 前よく見てなくて!」
「うぅん、こっちこそゴメン」

 その声も琉に似ているから、遥希は、痛い思いしたけど、ちょっとラッキーかも! なんて、不謹慎にも喜んでしまった――――そのバチが当たったのかもしれない。
 ぶつかった拍子に落としたカバンの中身が、すべて地面にぶちまけられていることに気が付いた。

「あぅ…カバンがぁ…」

 遥希ははいそいそとカバンの中身を拾い集める。
 財布や携帯電話ももちろん大切だが、荷物の中には琉の写真もあるのだ。あれを1枚でもなくしたら、きっと一晩寝込むくらいでは済まない。

「これで全部かな?」
「あ、はい…」

 琉似のイケメンも拾うのを手伝ってくれ、遥希は落としたものをすべてカバンの中にしまった(さすがに写真は自分で回収した)。
 どうやらイケメンくんも携帯電話落としてしまったようで、背面パネルに付いた傷に顔を顰めながらも、ジーンズのポケットにそれをしまった。



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映画のような恋がしたい。(だって最後は決まってハッピーエンドだ。) (6)


「ホントにすいませんでした! ありがとうございました!」
「ううん、こっちこそ」

 遥希が何度も頭を下げるのがおかしかったのか、イケメンくんが笑顔になる。

(うひゃ~、ホント琉に似てて、かっこいい…)

 ひどい目には遭ったけれど、その笑顔を見ただけで、遥希はほわぁ~んと幸せいっぱいになってしまう。

「じゃ、気を付けて」
「はい! さようなら!」

 琉ではないが、琉に似た人に会えて、遥希のテンションは上げ上げ状態。
 この暗い路地を通るのは怖いかも…なんて思っていたのが嘘のような、楽しげな足取りで、遥希は今度こそ駅に向ってダッシュした。



*****

 午前中は授業がないし、昨日は遅くまでバイトをがんばったし、それに何よりも、FATEの琉に似たイケメンとの遭遇で、テンションが上がってなかなか寝付けなかったせいで、遥希が起きたのは12時少し前だった。
 というか、まだ起きるつもりはなかったのに、耳慣れない電子音がしつこく遥希を起こそうとするから。

「…ぁに…?」

 どうもその音は、外から聞こえて来るわけではない。
 もっとずっと近く……遥希の耳元辺り…

「えっ?」

 ビックリしてハッと目を開けた遥希は、枕元に置いている携帯電話を手に取った。
 先ほどから、遥希の携帯電話が音を立てていたのだ。

「え…何で…?」

 鳴っているのは確かに遥希の携帯電話なのだが、その音は、普通の電子音なのだ。遥希は、電話もメールも、着信音はすべてFATEの曲にしているのに。
 しかも、切れたと思ったらまた鳴り出した携帯電話の背面ディスプレイには、『着信:南條』と表示されている。
 南條(ナンジョウ)というのは、誰かの名字だろうか。だが遥希にはまるで覚えがない。

「誰だよ…」

 手の中で鳴り響く携帯電話を見つめ、まだ寝惚けた頭で必死に考えるが、結局答えは見つからず、遥希は迷った挙げ句、電話に出るのをやめた。
 知らない電話には、出ないに越したことはない。用事があれば、留守電に入れるか、メールを寄越すだろうから。



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「でも何で着信音、普通になっちゃったの…?」

 設定なんて、変更した覚えはない。
 ちーちゃんにいたずらされた? と遥希は、千尋に勝手な濡れ衣を着せようとするが、千尋とは昨日、電話はしたものの、会ってはいない。そのときの着信音は、間違いなくFATEの曲だった。

「ちーちゃん………………あっ、ちーちゃんに、琉に似た人に会ったの、報告しよ!」

 自分の性格を思慮深いと思ったことは、遥希自身も1度だってないけれど、着信音問題をほったらかしのまま、そんなどうでもいい報告に頭がシフトしてしまうのも、どうだろう…。
 しかし遥希にとっては、着信音よりも昨日のイケメンくん。
 何と言っても、FATEの琉に似ていたのだ。これは、遥希の中では、かなり重要度が高い。

「えっへっへー。ちーちゃんに自慢しちゃお~」

 そんな話を聞かされたところで、千尋は全然羨ましがらないだろうし、いい迷惑に違いない。
 間違いなく、『琉本人じゃなくて、琉に似てるってだけの人でしょ?』と、呆れながら言うだろうが、そんなこと遥希には関係ない。電話で報告だ。

 しかし、電話をしようと携帯電話を開いたところで、遥希はまたビックリしてしまった。
 待ち受け画面が、いつものものとは全然違うのだ。

「何これ…」

 さすがにこれには、能天気な遥希も焦り始める。
 嫌な予感がして、遥希は恐る恐る着信履歴を開いた。

 遥希によく電話を寄越す人なんて大体決まっていて、第一、遥希の携帯電話に最後に電話を掛けて来たのは千尋なんだから、履歴の一番上は千尋の名前であっていい。
 いや、もしくは先ほど背面に表示されていた『着信:南條』の南條サンでいいはずだ。

 なのにその履歴には、『南條』を筆頭に、『I』とか『樹』という名前が頻出していて、遥希の知った名前なんて、1つもない。
 大体遥希は、携帯電話のアドレス帳は、すべてフルネームで登録する人なので、名字だけとかあだ名とか、そういうのはあり得ないのに。

「え…これ、俺のケータイじゃない…?」

 それでもと思って、開いてみたメールの画面では、見たことのないメールがいっぱい。
 遥希の胸の中が、嫌な予感でいっぱいになっていく。



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映画のような恋がしたい。(だって最後は決まってハッピーエンドだ。) (8)


「あっ、電話番号!」

 メニューから、この携帯電話自身の番号を見てみればいいのだ。
 表示された電話番号が、遥希の記憶している、自分の携帯電話の番号と一致していればいいのだ。そうすれば、これが遥希の携帯電話かどうか分かる。
 遥希は祈るような気持ちで、電話番号を表示させた。

「ガッ…! まっ、ちょっ、ッ、、、」

 悲しいかな、表示されたのは、見たことのない電話番号だった――――つまり。
 着信音が違うのも、待ち受け画面が違うのも、着信履歴や受信メールが知らない名前で埋め尽くされているのも、この携帯電話が、遥希のものでないからに他ならない。

「マージーでーーーー!!!???」

 遥希は近所迷惑も考えず、声を張り上げた。
 だってこんな、叫ばずにはいられない。

「ななななな何でぇっ!?」

 1人しかいない部屋で、遥希は誰に言うでもなく疑問を口にするが、もちろん答えてくれる人などいるわけもない。
 落ち着いて考えようと、遥希は焦る自分に言い聞かせるが、なぜかベッドの上に正座をしていることにすら気付けないくらいに、動揺しまくっていた。

(だだだだだって、昨日バイトが終わった後、メールとか確認したときは、普通に俺のだったじゃん。なのに何で、一晩経ったら誰かのになってるわけ!?)

「あっ琉!」

 正確には、琉に似たイケメン。
 遥希は昨日、バイト先のコンビニから駅に向かい途中、彼にぶつかって、カバンの中身をぶちまけてしまったのだ。
 確かあのとき、遥希も携帯電話を落としたが、あの人も落とした携帯電話を拾って、ジーンズにしまっていた。

「てことは…………これ、あの人の…?」

 サーッと背中を冷たいものが走る。
 つまり、ぶつかって携帯電話を落とした後、2人はお互いの携帯電話を間違えて持っていってしまったのだろう。

「ウッソー…」

 でももしかして俺、自分のを持って来たほかに、あの人のも持って来ちゃった!? とか、そんなことないよねー……と、絶対にあり得ない希望的観測で、遥希は家の電話から、自分の携帯電話に掛けてみた。
 もしこの部屋のどこかに遥希の携帯電話があれば、着信音が鳴るはずだから。



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映画のような恋がしたい。(だって最後は決まってハッピーエンドだ。) (9)


「……………………」

 しかしいくら呼び出してみても、着信音にしてるFATEの曲は流れない。
 やはり昨日ぶつかった琉似のイケメンが、遥希の携帯電話を持っていってしまったのだろう。

「ど…しよ…」

 ぶつかった相手がどこの誰なのかも分からないし、FATEの琉に似ているという手掛かりくらいでは、探してみようもない。

「あの人……気付いてんのかな。ケータイ入れ替わっちゃってること…」

 先ほど遥希が家の電話から掛けても繋がらなかったのは、単に手元に携帯電話がなくて出なかったのか、人のものだと分かったので出なかったのか。
 もしかして、もう警察に届けてしまったのだろうか。

「どーしよ…。とりあえずもう1回…」

 それでもと思って、遥希は再び自分の携帯電話に掛けてみるが、やはり繋がらない。
 こうなったら、警察に届けるしかないだろう。そして自分の携帯電話は、止めてもらうしかない。

「はぁ~…」

 昨日は琉に似ているイケメンに遭遇して、超ラッキー! とかのん気に思っていたのに。
 結局ついてない…。

♪~~~~♪~~~~♪

「うぇっ!?」

 遥希が落ち込んでベッドに倒れ込んだ瞬間、滅多にならない家の電話が音を立てて、遥希はビクッとなって飛び起きた。
 しかももっと驚いたのは、そのディスプレイに表示された番号だ。

「俺のケータイじゃん!」

 今、自分の手元にない携帯電話から、家の電話に掛かって来ているということは、昨日のあの人が掛けて来たということなのだろうか。
 遥希は藁にも縋る気持ちで、受話器を取った。

「もしもしっ!?」
『あー…もしもし?』

 慌てて電話に出れば、何となく聞いたことのあるような、男の声。
 琉に似ているこの声は、きっと昨日の人に違いない。



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