恋三昧

【18禁】 BL小説取り扱い中。苦手なかた、「BL」という言葉に聞き覚えのないかた、18歳未満のかたはご遠慮ください。

Baby Baby Baby Love

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02. 理性と欲望の葛藤 (5)


「…さっきのが、どういうことか、聞いてもいいよね、一応」

 和衣がどんなAVを見ようと構わないが(たとえそれが男同士のものだとしても)、けれどどうして睦月と一緒に見ていたのかだけは、聞いておきたい。

「…買ったはいいけど、1人で見る勇気なくて、むっちゃんと一緒に見てたの」
「和衣が買ったの?」

 当然ながら、祐介は驚いた様子で尋ねてくる。
 和衣は顔を赤くしながらも正直に頷いたが、祐介とエッチしたいからいろいろ勉強して、DVDもそのために買ったとか、そんなことはちょっと言い出しにくくて、俯いた。

「あのさ、和衣…」
「え?」

 恥ずかしさで祐介の顔をまともに見れずにいたが、名前を呼ばれてそちらを見れば、視線がぶつかって、また恥ずかしくなる。

「2人きりのとき、そんな顔すんのやめてよ…」
「え? え? そんな顔て? 俺、変な顔してる? 何? どんな顔!?」

 一体どんな顔をしているのだろうかと、和衣は赤く染まった両頬を押さえてキョロキョロするが、そんな仕草すら祐介の理性を揺さぶることに、和衣は本気で気付いていないのだろうか。
 祐介は、自分と向かい合うよう、和衣の体を反転させた。

「そういう色っぽい顔」

 え? と問われる前に、和衣の唇を塞いだ。
 唇を食むような、そんな深いキス。いつもの優しい、そっと触れるようなキスではない、けれど戸惑いつつも和衣が受け入れてくれたのが分かって、祐介は差し入れた舌を和衣の舌に絡ませた。
 柔らかくて甘い和衣の唇と舌を存分に堪能して、唇を離せば、和衣は「はぁっ…」と大きく息をついた。

「ぇ…何…?」

 何度も瞬きをしながら、和衣は本当に分かっていないような顔で、呆然と祐介に問い掛けてきた。
 まさか、こんなキスをされるとは、思わなかった?
 確かにこんなの、和衣とは今までにしたことはない。でも。

「そういう顔されると、こーゆうことしたくなって、我慢できなくなるよ」
「そんな顔してない…」
「してるよ。俺、しょっちゅうクラクラしてるもん」

 そんなことない、て否定する和衣の前髪を掻き上げて、額にキス。

「あのね、俺も一応男だからさ、好きな子といると、いろいろ我慢も出来なくなるし、抑えるの、大変なの」
「嘘…、そんなの嘘だもん…」

 まだ信じられない、て顔で、和衣は拗ねたようにそんなことを言う。
 和衣の中でどんなイメージが出来上がっているか知らないが、祐介だって、年相応の男の子だ。好きな子を前にして、まったく何にもなしにいられるはずがないのに。

「嘘じゃないって」
「じゃ…何で我慢、してたの…?」
「だって…そりゃなかなか言い出せないよ。和衣も男だから、分かるでしょ?」

 ん? と顔を覗き込めば、和衣は頬を赤くして目を逸らした。

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02. 理性と欲望の葛藤 (6)


「でも、和衣もそういうふうに思っててくれたってことだよね?」
「う…」

 顔を近づけたまま囁くように尋ねれば、和衣はうろたえるように視線を彷徨わせる。
 きっと頭の中、グルグルといろんなことを考えているんだろう。

「祐介…俺と、シたいの…?」

 いっぱい、いろんなことを考えた末の和衣の言葉が、これ。
 プラス上目遣い。
 計算でなくやっているのだから、本当にタチが悪い。

「そんな、誘うような顔、しちゃダメ」
「誘ってない…」

 真っ赤になって否定したところで、何の説得力もない。
 祐介は、すっかり飽和状態になっている和衣の頬やこめかみにキスを落とす。

「ゆう…」

 うっとりとした表情で和衣に見つめられ、祐介の心拍数も、バカみたいに高くなっていく。
 それをごまかすように、何度もキスを繰り返す。
 けれど。

 ――――ドンドンドンドンッ!

 そんな最高の雰囲気をぶち破る、無粋なノックの音。
 ビクン! と和衣の肩が震える。

『カズちゃーん、忘れモンだよー』

 しつこいノックを無視しようとした矢先、ドア越しに掛けられた声にギクリとして、2人して固まった。
 睦月だ。
 祐介の部屋だというのに、和衣の名前を呼ぶあたり、何だかすべてを見透かされている感じがしてならない。睦月は自分のこと以外には、案外敏感なのだ。

『カズちゃーん』

 せっかくのいい雰囲気だったのに……祐介は居留守を決め込もうとしたが、諦める素振りのない睦月に、祐介は溜め息をついてドアに向かった。

「…何?」
「カズちゃんは? あ、カズちゃん、忘れモンだよー」

 祐介の不機嫌な様子に気付かないふりをして、睦月は、おいでおいで、と和衣を手招きする。

「はい。これ忘れてったでしょ?」

 忘れもの、何? と小首を傾げながら、素直に両手を差し出した和衣の手の上に乗せられたのは、睦月の部屋に置いて行ってしまった2本のDVD…!

「ちょっ!」

 和衣は慌ててそれを睦月に返そうとしたが、亮のベッドの上に置きっ放しにしてしまったお泊りセットと一緒に、意地悪な笑顔で無理やり押し付けられた。

「あ、寮の部屋、壁薄いからね。一応、忠告しとこうと思って。…いいタイミングだったでしょ?」
「う゛…」

 もっともなことを言う睦月の言葉に、口元を引き攣らせたのは祐介で、和衣はただ、手の中のDVDに呆然としたままだ。
 けれど確かにこのまま雰囲気に流されて事に及んでいたら、どんなに声を我慢したって、絶対に隣の部屋の住人にバレるに決まっている。
 お節介ながらも、ありがたい忠告をしたした幼馴染みは、満足そうに笑いながら、「てことで、お邪魔しましたー」と部屋を出て行った。

「…………」
「…………」

 再び2人きりになった部屋。
 和衣は無駄なこととは思いつつ、恥ずかしいから、祐介に見えないようにDVDをギュッと胸に抱えた。

「続きはまた今度ね」

 残念だけど…と、祐介は苦笑してから、和衣を抱き締めて、もう1度キスした。

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03. 誰のもの? (1)


 先日の、思いがけず祐介とそんな雰囲気になってしまって以来、気を抜くと和衣の脳裏には、ついそのときのことが思い浮かんでしまう。
 そのたびに和衣は恥ずかしくて堪らないし、無意識にそんなことを思い出してしまうなんて、やっぱり変態さんなのではなかろうかと、ちょっと落ち込む。

 それにしても、祐介は『続きはまた今度』て言ったけれど、その"また今度"は一体いつなの? と和衣は思う。
 そんなことばっかり思っていると、頭の中がホワホワしてきて、睦月にも『カズちゃん、口開きっぱになってるよ』と言われることが多い。
 今さらだけれど、でもそれでも睦月に、そんなこと考えているなんて思われたくないから、ごまかすのが大変だ。

(でも、また今度って言ったって、全然また今度になんないもんっ)

 睦月は何となくそんな雰囲気になるものだと言ったし、和衣もそれは認めるけれど、でも全然そんなふうになんかならない。
 それってやっぱり、和衣がそういう雰囲気を作るのがへたくそだから? それともそういう雰囲気に気付いていないだけ? それか、考えたくはないけれど、

(俺って全然色気ない…?)

 ――――ガーン…。

 確かに幼馴染み2人に比べたら、和衣はカッコいいというよりかは、かわいいという感じだし、年齢より幼く見られがちだし、そういう意味では、悲しいけれど色気はないのかもしれない。
 別に色気たっぷりに、いろんな女の子とお付き合いしたいわけではないけれど、せめて好きな人を落とせるくらいの色気は欲しいのに。

(別にむっちゃんだって、そんなに色っぽいとは思わないけどなー)

 そんな失礼なことを思いながら、チラリと視線を向ければ、睦月は何やら祐介と言い合っていた。
 実は、昨日の倫理学の授業で、これでもかと言うくらい爆睡していた睦月は、案の定、ノートなんか少しも取っていなくて、それを見せてほしいと祐介におねだりしているのだ。
 もちろんそんな理由で、祐介が簡単にノートなんか見せてあげるはずもなくて、睦月は自分が悪いにもかかわらず、「ゆっちのケチィ」とか言って喚いている。

(むぅ…むっちゃんのバーカ)

 基本、嫉妬深い和衣は、無意味だと自分でも分かっているのに、ついつい睦月にまでヤキモチを妬いてしまう。

 だって、嫌だし。
 たとえ睦月だとしても。
 2人にそんな気がないのは、百も承知だとしても。

(嫌なもんは嫌なんだもんっ…!!)

 むんっ、と和衣は、サラダの中に入っていたミニトマトに、フォークを突き立てた。
 けれど、トマトが嫌いな和衣はそれを食べることも出来ず、勢いよく突き刺さったミニトマトをフォークから抜こうとしてもうまくいかず、余計にイライラが増す。

「何してんだよ、お前――――て、むぐっ…」

 うーうーと、ミニトマトと格闘していた和衣は、それに気が付いて声を掛けた亮の口に、無理やりそのミニトマトを押し込んだ。

「カズ、おま…」
「うっさい!」

 苛立ちに任せて亮に声を荒げると、和衣はサラダの残りを平らげた。

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03. 誰のもの? (2)


 独り占めしたいとか、そんな独占欲、カッコ悪いとは思うけれど。
 でもやっぱり、好きだから、独占したい。
 自分だけのものにしたい。

(もう…俺、バカみたい…)

 別に、体を繋げることで、何もかも1つになれるとか、そんなふうには思わないし、全部を自分のものに出来るなんて思わないけれど。
 でも、そんなふうに独占できたらいいのに、祐介のこと。

「ねぇカズちゃん」

 祐介との話が決着したのか(睦月の満足そうな顔を見る限り、ノートは見せてもらえることになったらしい)、そばに寄ってきた睦月が、和衣の肩に顎を乗せた。

「何、ちょっ、くすぐったいんだけど」
「カズちゃん、ダメだよ~、他の男にア~ン、なんてしちゃ」
「なっ…!」

 和衣にしか聞こえないくらいの声で、睦月に意地悪く囁かれ、和衣は言葉を詰まらせた。
 だってあんなの、アーンのうちに入らないし、だいたい睦月が祐介とイチャイチャしてたのが、そもそもの原因なのに。

「、ッ…、……、…むっちゃんこそ、ヤキモチ?」
「はっ? 何それ、違うし」
「俺が亮にア~ンとかしたから、ヤキモチ妬いてんでしょ?」

 和衣と違って、睦月はそんなことでヤキモチなんか妬かないけれど、そうでも言わなかったら、睦月の冷やかしからは逃れられない。
 それに、思った以上に睦月が焦り出すから、和衣は反逆の術を見つけたとばかりに、ニヤニヤと詰め寄った。

「違うってば。カズちゃんのバカ」
「そんなの、むっちゃんのほうだもん」

 むっちゃんのヤキモチ妬き~、て、自分のことは思い切り棚に上げて、和衣はここぞとばかりに睦月をからかう。
 普段は睦月に、なかなか口で敵わないから。

「お2人さん、彼氏ほっぽって、何イチャイチャしてんの?」
「え? あ、ショウちゃん」

 ベー、て睦月に舌を出していたら、頭をポンポンとされて、ビックリして振り返れば、それは翔真だった。

「ショウちゃん、あのね、カズちゃんがね、亮と」
「むっちゃんね、ヤキモチ妬いてんだよ」
「アーンとかしてさ」
「いや、あの…いっぺんに喋られても…」

 何だか分からないけれど、もしかして巻き込まれた? と、翔真は思わず声を掛けてしまったことを、若干後悔してしまう。
 まぁ、内容的には、ケンカにもならないようなことではあるが。

「カズちゃん、欲求不満だからって、そんなことで八つ当たりしないでよね~」

 翔真にも聞こえないように、和衣の耳元に手を当てて、睦月がこっそりと囁けば、途端に和衣は頬を染める。

「むっ…むっちゃんのバカ!!」

 やっぱり口で勝とうなんて、100年早かった。
 真っ赤な顔で睦月を突き飛ばせば、その勢いで翔真まで引っ繰り返り、何事かと亮と祐介は訝しげな視線を向けた。

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03. 誰のもの? (3)


 相変わらず祐介は、和衣が祐介の行きたい場所を聞き出そうとしても、和衣の行きたいところでいいよって言うし、そうじゃないときも、実は密かに和衣も行きたいと思っていた場所をさり気なく選んでくれる。
 和衣としても、こっそり祐介の行きたい場所をリサーチして、連れて行ってあげたいと思うのに、なかなかうまくいかない。
 出来れば、祐介みたくスマートにエスコートしたいのに。

 今日の映画デートだって、そうだ。
 もともと祐介も映画が好きだから、祐介のほうから『映画見に行かない?』て誘ってくれたけれど、実はそれは和衣もずっと見たいと思っていたものだった。

(うむむ…なかなかうまくいなかない…)

 こういうときに、うまくさり気なく出来ないから、エッチもうまく誘えないのかな? そういう雰囲気が作れないのかな? と和衣がこっそり溜め息をついていたら、暗くなった映画館、祐介がそっと和衣の手に自分の手を重ねた。

「!? え、ゆう…」

 ビックリして和衣が祐介を見ると、隣の席の祐介は、繋いでいないほうの手の人差し指を口の前で立てて、シーって静かにするように言う。

「大丈夫だよ…」

 耳元でそっと告げられて、吐息のくすぐったさに和衣は肩を竦ませたが、祐介の顔が離れた後も、その甘い声が耳に残っているような気がして、落ち着かなかった。

(…心臓の音、うるさい)

 バクバクと音を立てる和衣の心臓。
 手を繋いでいることが周りにバレるんじゃないかっていう、そんなドキドキなんかじゃなくて、繋いだ手の温度、祐介から伝わる温もりが、和衣の鼓動を速くさせる。

(どうしよう…)

 ――――ドキドキしすぎて、全然映画に集中できない…!

 手を繋ぐぐらい…と、和衣は自分に言い聞かせるけれど、でもやっぱりドキドキする。
 チラリと盗み見た祐介は、当たり前だけれど、ジッとスクリーンを見つめていて、その横顔に、和衣は余計に心拍数を上げてしまった。

 このままじゃいけないと和衣は一生懸命映画に向かうが、すごく楽しみにしていた映画なのに、少しもストーリーが頭の中に入って来ないどころか、気付くと祐介のほうを見ている始末。

(だって祐介の横顔、カッコいいんだもん…)

 そんなもの、わざわざ映画館まで来て見なくたって、大学だろうと寮だろうと、好きなだけただで見れるのに。
 ――――でも。

 でもやっぱりカッコいいし!

 睦月に知れたら、「まーたカズちゃんの乙女まっしぐらが始まったー」て呆れられること必至なことを真剣に思いながら、和衣はどこまで進んだかまったく分からなくなってしまった映画に向き直った。

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