恋三昧

【18禁】 BL小説取り扱い中。苦手なかた、「BL」という言葉に聞き覚えのないかた、18歳未満のかたはご遠慮ください。

アスファルトで溺死。

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3. エスケープ (後編)


「あの、これ」

 倉橋くんは、両肩に抱えてたギュウギュウ詰めの紙袋をいったん床に下ろすと、キレイに包装紙に包まれた箱を俺のほうに差し出した。

「は? 何?」
「この間のお詫びです。いっぱいメーワクかけちゃったから」
「あー……あ、そう?」

 そりゃまたご丁寧に。
 というか、その包み紙を見るところ、中身は和菓子系だよね。でも大きさからすると、結構な量が入ってると見たけど。
 どうぞ、と差し出してくるから、受け取るけど…………重たい。

「えっと、これ…」
「水ようかん……」
「いや、それは、」

 包みを引っ繰り返せば、端っこに、確かに"水ようかん"ってラベルが貼ってある。ついでに、"30個"とも書いてある。
 30個て……1日1個ずつ食っても、1か月は水ようかん三昧なんですが。

「あ、え? 水ようかん、嫌いですか?」
「えっと……いや、あのさ、」

 いやいやいや、確かに水ようかんは嫌いじゃないよ? 俺、わりと何でもおいしく食べられるほうだし。
 でも、独り暮らしの男のところに、迷惑かけたお詫びの品やって持ってくる手みやげとして、30個入りの水ようかんて、"あり"なのかな?
 でもまぁ、この子の場合、そんなこと突っ込んでも、『そうですかぁ? あ、そうかも』とか言いそうだし…。

「あー……えっと、とりあえず、上がります?」

 何でそんなこと口走ったのか、自分でもよく分かんないけど。
 こんなとこで立ち話もなんだし。30個入りの水ようかんも、どうしていいのか分かんないし。

「あ、いや、時間があるなら。俺も1人で水ようかん、こんなに食い切れないし」
「あ、あー……」

 予想どおり、倉橋くんは、やっと水ようかんの個数が多すぎるってことに気が付いたみたいで、恥ずかしそうに苦笑した。

「じゃあ、ちょっとだけ、お邪魔します…」



 もしかしたら俺は、この代わり映えしない日常から逃げ出したかったのかもしれない。

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4. お前の夜は何処にある (前編)


 倉橋くんは、抱えてた大荷物を玄関先に置いて、俺の後をペタペタ付いてきた。

「あの荷物、どうしたの?」
「え? あー……あれは、」

 気まずそうに、倉橋くんが玄関のほうを振り返った。
 あれ? 何か聞いちゃいけないことだった?

「その……早く持ってけって、言われて…」
「あ、」

 それで思い出した。
 先週の、酔っ払った倉橋くんの言葉。
 同棲してた彼女に、部屋追い出されたんだったっけ?
 で、今日はその荷物を取りに来たってわけか。

 倉橋くんを部屋に通して、俺は受け取った水ようかんの包みを開ける。…………うん、30個。ちゃんと入ってるわ。

「はい」

 こういうのって、冷やして食ったほうがうまいのかな? まぁいいや。1個を倉橋くんに渡す。

「いただきまーす」

 律儀に両手を合わせてから、倉橋くんは缶に付いていた小さいプラスチックのスプーンで、温い水ようかんを掬った。
 あぁ、うまそうに食べる子だな。そういうの、嫌いじゃない。

「倉橋くんは、学生さん?」
「ふぇ? いや、違いますけど」

 何で? って顔で、目線を上げるから。

「いや、そんな金髪で、社会人てなかなかいないから」
「んー……、えっと」

 倉橋くんはゴソゴソのポケットを探って財布を取り出すと、中から名刺を1枚取り出した。
 中央に何やらショップの名前が書いてあって(聞いたことないけど)、その下にボールペンで"倉橋哲也"って書いてある。

「何の店?」
「洋服。俺、デザインとかしてんの」
「デザイナーなんだ」
「まだ卵ちゃんだけど」

 デザイナーか。どおりでこんなカッコしてると思った。
 爪、マニキュア塗ってんじゃん。

「良かったら遊びに来てね? 瀬戸さんの趣味に合うのがあるかどうか分からないけど」

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4. お前の夜は何処にある (後編)


「ねぇ、それから俺のこと、哲也って呼んで?」

 ニコニコと、倉橋くんがそう提案してきた。

「へ?」
「哲也って。俺、下の名前で呼ばれるほうが好きだから」
「あぁ……そう? 俺も別にさん付けしなくていいよ? どうせ年近いだろ?」

 そう言うと、倉橋くん……じゃない、哲也は嬉しそうに「うんっ!」と頷いた。犬みたいだなぁ。

「瀬戸って呼んでいいの? 貴久?」
「…………どっちでもいいけど」
「なら、貴久って呼ぶ!」

 …あ、そう。
 小学生?
 小学生女子?

「あ、」

 ポケットの中のケータイが震えたのか、哲也はちょっと俺に頭を下げて電話に出た。
 意外にも着信音はバイブなんだ。何かもっとギャルっぽい曲を想像してたのに。

「もしもし? あ、どう? 今晩いい? ホント!? 助かるわぁ。ありがとう。じゃあねー」

 妙にキャピキャピ弾んだ声で、哲也が電話を切った。

「へへー。今夜の宿、確保!」
「宿?」
「俺、行く当てないの。ホラ、追ん出されたから」
「あぁ……何、アパートとか借りないの?」
「予算の都合上。今んとこは何とか友達んとこ渡り歩いてるけど……早く何とかしないとなぁ」

 哲也は眉を寄せて、肩を竦めた。
 コイツ、こういう仕草が何か女っぽいよなぁ。

「ごちそうさまでした」

 給食を食べ終わった子供みたいに、しっかりと合掌して、哲也はスプーンと空になった缶を置いた。

「じゃあ、ボク、これでお邪魔しますー」
「え? あぁ、うん。てか、あの大荷物抱えて友達んち、上がり込むんだ…」

 玄関まで見送りに来て、そこに置きっ放しになってた、ぎゅうぎゅう詰めのショップバッグを見て、俺は苦笑した。
 引っ越しするには少なすぎる荷物やけど、行く当てなしでこれから友達んちに上がり込むには、いくら何でも荷物が多すぎる。狭いアパートだったら、哲也の荷物だけでいっぱいになりそうだ。

「んー……まぁ、少し店に置いてこうかな…」

 やっぱり哲也も、荷物が多いことは気にしてるみたいで、少し困ったように笑った。

「じゃあ、お邪魔しました。機会があったら、また今度ー」

 小さい体にいっぱいの荷物を抱えて哲也が去っていくのを、俺はなぜかその背中がエレヴェータの中に消えるまで見届けていた。

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5. 隠されたテリトリーへいらっしゃい (前編)


 お詫びの水ようかんを持って哲也がウチに来た日から5日。
 貰った名刺の場所には行ってない。

 そして相変わらず、冷蔵庫の中には、ギッシリの水ようかん…。

 いくら嫌いじゃないて言っても、毎日毎日水ようかんなんて食ってらんない。飽きるし、体にだっていいとは思えない。
 でもこのまま無駄にするのももったいないし…。

「あ」

 そう思ってたら、目の前にいいカモが。いやいや、啓ちゃんが。
 啓ちゃんは、同じ職場で働いてる、いわゆる同僚の人。

「なぁなぁ啓ちゃん」
「あぁ?」
「今日ウチに水ようかん食いにこない?」
「はぁ?」

 あれ? 俺、そんなに変なこと言ったかな?
 啓ちゃんの眉間に、ググッとしわが刻まれた。

「水ようかんが何だって?」
「今さ、ウチにいっぱい水ようかんがあんの。コツコツ食べてるけど、なかなかなくならないから、啓ちゃんにも分けてあげようと思って」
「いっぱいって、いくつくらいあんの?」
「んー、そうだなぁ、あと20個くらい?」

 だって、もともとは30個あったんだよ?
 哲也は1個しか食っていかなかったし。あぁ、あんとき哲也にもいくつか持たせたれば良かった。

「20個って……何で? おかしいだろ! 男1人で水ようかん20個って!」

 そんな、腹抱えて笑わなくても…。

「1箱貰ったの! あ、啓ちゃん、実家暮らしじゃん。家族の分と合わせて、持ってって? な?」
「はぁ? まぁただでくれるって言うんだったら、いいけど」

 それにしても、貰ったって…! と、やっぱり啓ちゃんも、男の一人暮らしに30個入りの水ようかん1箱持ってくるって状況がおかしいらしく、笑いが止まらなくなってる。

「そんなに食い切れないなら、会社に持ってきたら?」
「うー……でも、一応人から貰ったもんだし、そんなにみんなにバラまくんも悪いかな、思って」
「どんなとこで義理立てしてんだよ。まぁいいけど。それよか、なぁ、その名刺…」
「え?」

 貰ったきり財布の中にしまいっ放しだった、哲也の名刺(だってそんな、捨てるなんて悪いし…)。
 啓ちゃんがそれに反応して、勝手に俺の財布から抜き取ってしまった。

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5. 隠されたテリトリーへいらっしゃい (中編) 1


「何?」
「お前、こんなとこで服買うの? 珍しー」

 哲也から貰って名刺を見ながら、啓ちゃんが本当に珍しそうに言う。
 俺、店にってないから分かんないけど、そんなに俺が行くような雰囲気じゃない店なのかな。

「啓ちゃん、この店、知ってんの? てか、"こんなとこ"て…」
「だって、お前の普段の服の趣味と違うだろ? テツの服って」
「テツ、」

 テツ…や、てつや、くらはしてつや。

「倉橋哲也」
「ぅん?」
「知り合い?」
「高校んときの同級生だし」
「はい?」

 高校の同級生? 啓ちゃんの?
 ってことは、えっと、啓ちゃん、俺より1つ上なんだから、哲也って俺より1つ上ってこと? うっわー、絶対年下だと思ってた!
 ……って、そうじゃなくて!

「せまっ!」
「は?」

 あ、思わず声に出してしまってた。
 だってそうじゃん。世界、狭すぎるだろ、こんなの!
 何て言うの? こういうのって、マンガとか、ドラマの中の話じゃないの?

「何だよ、お前こそ知り合いかよ」
「あー………………うん」

 俺に30個入りの水ようかんくれたのが、あなたの高校の同級生、倉橋哲也くんですよー…………とは、まぁ、言わないけど。

「そんなら、お前も来る? 今日一緒にメシ食いに行くんだけど」
「へ?」
「そうしよ、な?」

 俺が、「いい」とも「いや」とも言わないうちに、啓ちゃんは勝手にそう決めてしまった。
 まぁ、1人で食うより大勢のほうがいいから、いいけど。
 あぁでもこうなるんだったら、その前に1回でも哲也のいるって店に行っとけばよかったかな。

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