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彼の胸に顔を寄せると、上品な煙草の匂いがしたのです (5)
2009.03.12 Thu
「―――――ん……あれ…?」
ふと目を開けると、広がったのは見慣れない天井。柔らかなベッド。清潔なシーツの感触に、徐々に明希の意識が回復してくる。
「え? あっ!?」
ハッと我に返った明希は、驚いて跳ね起きた。
「フ…、起きた?」
バネの壊れたおもちゃのように、ピョンッと跳び上がった明希に、近くのソファにいた篠宮が笑みを零した。
タバコをくゆらせているその姿に、思わず明希は見惚れた。
「あ、えっと……え? あ、俺、寝てました…?」
「寝てた、というか、気を失っていたというほうが正しいかな? そんなに無理をさせたつもりはなかったんだけど」
あぁ、何という失態。
イカされて、そのまま気を失うだなんて。
普段だったら、金を受け取れず、ヤリ逃げされているところだった。
そうならなかったのは、ここが彼の滞在しているというホテルで、明希だけをここに残していくことが出来なかったからだ。何しろここは、はした金では泊まれないであろう高級ホテルのスイートルーム。
「あの……今、何時ですか…?」
「朝の8時を過ぎたところかな? 何か食べる?」
「いえ…」
「少し食べたほうがいい。明希は少し痩せ過ぎだ」
篠宮はタバコを消すと、明希のほうにやって来て、そのベッドの縁に腰を下ろした。
「いえ、結構です…。…………もう帰りますから。だからあの、」
お金―――と口にするより先、篠宮に唇を塞がれた。
明希は篠宮の胸を押したが、体格に差がありすぎる。顎を捉えられ、角度を変えて、何度も舌を絡められて。
抱き竦められると、彼の吸っていたタバコの香りが鼻を掠める。
「篠宮さん、」
「どうして剛って呼ばない? 昨日は何度も呼んでくれたのに」
「あれは……仕事だから」
自分で言っていて反吐が出そうだ。
仕事だからだなんて―――どうしてそんなことが言えるんだろう。
「俺、もう帰りますから……昨日のお金を」
「……払うよ」
スルリ、篠宮の腕が離れる。
少ししてベッドに放られた1万円札は、ざっと見ても20枚はある。明希はハッとして顔を上げた。
「足りない?」
「ちが……こんな大金!」
「受け取ってくれ。昨日は楽しかった」
「……有り難うございます」
丁寧に畳まれた自分の服を引き寄せ、明希はゆっくりと袖を通す。
もう帰ると言ったのは自分だけれど、少しでも長く彼といれたら、と思う自分がいる。
「もう帰るの?」
「……はい」
「帰らせたくないな」
「何を言って…」
「このまま明希を帰らせたくない。側にいてほしい」
「俺なんかに言う言葉じゃないですよ」
自嘲気味にそう言って、明希はベッドを降りた。
「本気だ」
「余計にタチが悪い」
「好きになったんだ、明希のこと」
「1度寝たくらいで、やめてください!」
明希は思わず叫んだ。
篠宮の言葉が本気なのか、からかっているものなのかは知らないが、どのみち、人に愛してもらえるような体ではない。こんな汚れ切った体。
「明希、あぁ、何て言ったら伝わるんだ?」
「帰してください、篠宮さん」
「嫌だ」
そっと抱き寄せられる。
あぁ、なんて心地良い温もり。
冗談でもいい。からかわれているのだとしても。この腕の温もりを失いたくない。
「明希…」
でも。
「お願いです、篠宮さん、離して」
腕の中、閉じた目の奥に浮かんだのは、壱哉の顔だった。
寂しがりで、甘えん坊で、1人じゃダメなの。
俺が側にいてあげないと。
―――それは明希も同じ。
壱哉がいないと、生きていけないの。
だって、2人は1つだから。
「篠宮さんと会えて良かった。すごく幸せだった。一晩だけだけど……有り難う。でも帰らなきゃ…」
「……そうか」
名残惜しいけれど。
篠宮の腕が離れ、明希は受け取った金をジーンズにしまうと、篠宮に背を向けた。
「さようなら」
狭いアパートの1室。
帰ると、部屋の隅で壱哉が寝ていた。
「……ただいま、壱哉」
明希は壱哉を起こさないように上がると、篠宮のタバコのにおいの付いたシャツを脱いだ。
*END*
ふと目を開けると、広がったのは見慣れない天井。柔らかなベッド。清潔なシーツの感触に、徐々に明希の意識が回復してくる。
「え? あっ!?」
ハッと我に返った明希は、驚いて跳ね起きた。
「フ…、起きた?」
バネの壊れたおもちゃのように、ピョンッと跳び上がった明希に、近くのソファにいた篠宮が笑みを零した。
タバコをくゆらせているその姿に、思わず明希は見惚れた。
「あ、えっと……え? あ、俺、寝てました…?」
「寝てた、というか、気を失っていたというほうが正しいかな? そんなに無理をさせたつもりはなかったんだけど」
あぁ、何という失態。
イカされて、そのまま気を失うだなんて。
普段だったら、金を受け取れず、ヤリ逃げされているところだった。
そうならなかったのは、ここが彼の滞在しているというホテルで、明希だけをここに残していくことが出来なかったからだ。何しろここは、はした金では泊まれないであろう高級ホテルのスイートルーム。
「あの……今、何時ですか…?」
「朝の8時を過ぎたところかな? 何か食べる?」
「いえ…」
「少し食べたほうがいい。明希は少し痩せ過ぎだ」
篠宮はタバコを消すと、明希のほうにやって来て、そのベッドの縁に腰を下ろした。
「いえ、結構です…。…………もう帰りますから。だからあの、」
お金―――と口にするより先、篠宮に唇を塞がれた。
明希は篠宮の胸を押したが、体格に差がありすぎる。顎を捉えられ、角度を変えて、何度も舌を絡められて。
抱き竦められると、彼の吸っていたタバコの香りが鼻を掠める。
「篠宮さん、」
「どうして剛って呼ばない? 昨日は何度も呼んでくれたのに」
「あれは……仕事だから」
自分で言っていて反吐が出そうだ。
仕事だからだなんて―――どうしてそんなことが言えるんだろう。
「俺、もう帰りますから……昨日のお金を」
「……払うよ」
スルリ、篠宮の腕が離れる。
少ししてベッドに放られた1万円札は、ざっと見ても20枚はある。明希はハッとして顔を上げた。
「足りない?」
「ちが……こんな大金!」
「受け取ってくれ。昨日は楽しかった」
「……有り難うございます」
丁寧に畳まれた自分の服を引き寄せ、明希はゆっくりと袖を通す。
もう帰ると言ったのは自分だけれど、少しでも長く彼といれたら、と思う自分がいる。
「もう帰るの?」
「……はい」
「帰らせたくないな」
「何を言って…」
「このまま明希を帰らせたくない。側にいてほしい」
「俺なんかに言う言葉じゃないですよ」
自嘲気味にそう言って、明希はベッドを降りた。
「本気だ」
「余計にタチが悪い」
「好きになったんだ、明希のこと」
「1度寝たくらいで、やめてください!」
明希は思わず叫んだ。
篠宮の言葉が本気なのか、からかっているものなのかは知らないが、どのみち、人に愛してもらえるような体ではない。こんな汚れ切った体。
「明希、あぁ、何て言ったら伝わるんだ?」
「帰してください、篠宮さん」
「嫌だ」
そっと抱き寄せられる。
あぁ、なんて心地良い温もり。
冗談でもいい。からかわれているのだとしても。この腕の温もりを失いたくない。
「明希…」
でも。
「お願いです、篠宮さん、離して」
腕の中、閉じた目の奥に浮かんだのは、壱哉の顔だった。
寂しがりで、甘えん坊で、1人じゃダメなの。
俺が側にいてあげないと。
―――それは明希も同じ。
壱哉がいないと、生きていけないの。
だって、2人は1つだから。
「篠宮さんと会えて良かった。すごく幸せだった。一晩だけだけど……有り難う。でも帰らなきゃ…」
「……そうか」
名残惜しいけれど。
篠宮の腕が離れ、明希は受け取った金をジーンズにしまうと、篠宮に背を向けた。
「さようなら」
狭いアパートの1室。
帰ると、部屋の隅で壱哉が寝ていた。
「……ただいま、壱哉」
明希は壱哉を起こさないように上がると、篠宮のタバコのにおいの付いたシャツを脱いだ。
*END*
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COMMENT-FORM
柚子季杏 ⇒ うは~
りり ⇒ 切ない…
多分明希は壱哉から離れられないんじゃないかと思っていたけど。
こんな暮らしから抜け出せただろうに。
辛い世間から二人で身を寄せ合ってひっそりとこれからもいきていくんでしょう。
これからも望まない仕事を続けるんだろうな、そして煙草の香りを思い出すんだろうな。
切ないですねえ。
凄く好きです、この短編。
やっぱり如月さまは凄いなあ。
こんな暮らしから抜け出せただろうに。
辛い世間から二人で身を寄せ合ってひっそりとこれからもいきていくんでしょう。
これからも望まない仕事を続けるんだろうな、そして煙草の香りを思い出すんだろうな。
切ないですねえ。
凄く好きです、この短編。
やっぱり如月さまは凄いなあ。
伽羅 ⇒ うわぁ~~!
切ない最後だ!!
でも、きっとこういうこともこれからあるんだろうね・・・。
偉い。
もったいないけど、壱哉クンを選んだことは正解だと思います!
素敵なお話をありがとうございました!(正座)
でも、きっとこういうこともこれからあるんだろうね・・・。
偉い。
もったいないけど、壱哉クンを選んだことは正解だと思います!
素敵なお話をありがとうございました!(正座)
- |2009.03.12
- |Thu
- |08:23
- |URL
- |EDIT|
如月久美子 ⇒ >柚子季さん
ハピエン好きなのに、なぜか切ないエンド。
人様のところでは、お願い! 幸せを! と叫びつつ、自分とこでは…(^_^;)
> でもなんか、まだ続きがありそうな予感をさせる終り方で。
実は自分で書く中では好きなパターンです。
まだ全然書いてませんが、書けたらいいなぁとは思います。
コメントありがとうございました!
人様のところでは、お願い! 幸せを! と叫びつつ、自分とこでは…(^_^;)
> でもなんか、まだ続きがありそうな予感をさせる終り方で。
実は自分で書く中では好きなパターンです。
まだ全然書いてませんが、書けたらいいなぁとは思います。
コメントありがとうございました!
如月久美子 ⇒ >りりさん
> こんな暮らしから抜け出せただろうに。
ホントですよね。
幸せになるすべはあるのに、今を手放せない2人。
離れ離れになるのが怖いんでしょうね。
> 切ないですねえ。
人様の切ないお話には、そんなぁ~! と絶叫しつつ、自分ではつい書いてしまう、切ないお話。
好きとか言ってくださって、本当に嬉しいです。
またりりさんの心に残ってくだされば。。。
コメントありがとうございました!
ホントですよね。
幸せになるすべはあるのに、今を手放せない2人。
離れ離れになるのが怖いんでしょうね。
> 切ないですねえ。
人様の切ないお話には、そんなぁ~! と絶叫しつつ、自分ではつい書いてしまう、切ないお話。
好きとか言ってくださって、本当に嬉しいです。
またりりさんの心に残ってくだされば。。。
コメントありがとうございました!
如月久美子 ⇒ >伽羅さん
いろんなお客さんを相手にして来て、つらいことのほうが多い中で、密かに感じた幸せだったのに……最後は振り切ってしまいました!
> もったいないけど、壱哉クンを選んだことは正解だと思います!
選んだからには、後悔しないでほしいですよね。
いや、してないはずだと思います!
そうであってほしい! …て、私が書いてるんですが(^_^;)
> 素敵なお話をありがとうございました!(正座)
こちらこそ、いつもコメントありがとうございました!
> もったいないけど、壱哉クンを選んだことは正解だと思います!
選んだからには、後悔しないでほしいですよね。
いや、してないはずだと思います!
そうであってほしい! …て、私が書いてるんですが(^_^;)
> 素敵なお話をありがとうございました!(正座)
こちらこそ、いつもコメントありがとうございました!
如月久美子 ⇒ >拍手コメ→Aさま
何とも切ないエンドにしてしまいまして、すみません
続きがあるような、そんな感じでぶった切ってしまいまして……続きを~の声は他にもあるんで、また考えてみたいと思います。
私もハピエン派なんで(^_^;)
拍手&コメントありがとうございました!
続きがあるような、そんな感じでぶった切ってしまいまして……続きを~の声は他にもあるんで、また考えてみたいと思います。
私もハピエン派なんで(^_^;)
拍手&コメントありがとうございました!