恋三昧

【18禁】 BL小説取り扱い中。苦手なかた、「BL」という言葉に聞き覚えのないかた、18歳未満のかたはご遠慮ください。

ジキタリス

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ジキタリス 10


「じゃあさ、仕事とかやりづらくねぇ?」
「何で?」
「だって周り、男ばっかじゃん」
「仕事相手に、変な気持ちにはなりませんよ」
「ユウトとか」

 ユウトも、同じ事務所に所属してるモデルさん。
 コイツら、気持ち悪いくらい、仲いいし。
 でもあのとき、ヒロとキスしてた相手は、ユウトじゃなかった。

「ユウトはただの友だちです」
「あんなに仲いいのに?」
「蓮くんだって、ナツくんとか蒼くんと、仲いいでしょ?」
「でも俺、ホモじゃねぇし」

 ナツも蒼ちゃんも、みんな大好きだけど、すっごく仲いいけど、でも別に、恋愛感情じゃない。
 だって、みんな男だし。

「じゃあさ、ヒロが今、こーやって俺と2人っきりで飲みに行くのって、浮気になるの?」

 俺が、他の女の子と2人きりで出かけたら、浮気だって怒られたよ(別に付き合ってたわけでもないのに)。
 ホモのヒロは、他の男と2人きりになったら、それって浮気なの? 相手が女の子ならOKなの?

「人それぞれじゃないですか? 俺は他の男と出かけても、怒られたりはしないですけど」
「ふーん」

 だよね。
 じゃなきゃ、あんなにしょっちゅうユウトと遊んだりなんかしないよね。

「ヒロ、その人のこと、好きなの?」

 変だな。
 何でこんなこと、聞いてんの?
 ヒロの恋人なんか、別にどうだっていいのに(だって男だし)。

「好きですよ」

 でもヒロは。
 真面目だから(あんなトコでキスするような子だけど)。
 律儀にちゃんと、答えてくれる。

「蓮くんは」
「うん」
「あんまりそういうの、好きじゃななそうですね」
「そういうの、て?」

 薄まったサワー。
 そんなの、飲むなよ。
 もう水の味しかしないだろ?

「"好き"とか、そういうの」
「うん」

 だって、面倒くせぇじゃん。
 そんなの別になくたって、胸がおっきくて、かわいい女の子と、気持ちいいこと出来るし。

「でも、そういうのも、いいですよね。蓮くんみたいの」
「何が?」
「そういうふうに考えられたら、楽だなぁって」
「バカにしてんのか?」
「褒めてるんですよ」

 ウソばっか。
 褒められてる気、全然しないし。

「まぁ、今日のところは、痛み分けってことで」

 ヒロは笑ってそう言ったけど。
 俺はバカだから、その言葉の意味も分からなくて、何も言わずにグラスを空けた。

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ジキタリス 11


 それからしばらくヒロに会うことはなくて。
 その間に俺は、彼女が出来て、別れて、新しい彼女が出来て、また別れた(彼女じゃない女の子とも、エッチなことをしてしまったのは、内緒)。




***

 ナツとかじゃない友だちと飲みに行った、帰り。
 久々に見かけたヒロは、酔い潰れて、路地裏のゴミ置き場に突っ伏して眠っていた。
 モデルさんなのに。(大変だ!)

「ヒロー」

 ゆさゆさ。
 肩を揺さぶれば、ヒロは一瞬だけ目を開けたけれど、すぐにまた寝てしまった。
 仕方がないから、表通りまでヒロを引っ張っていって、タクシーを拾う。

 でも、困った。

「ヒロ、お家どこ?」

 ヒロの家が分かんない。

「ヒロー、お家」
「…ん、おうち、あっち…」
「あっち」

 あっちって、どっち?
 タクシーの運転手さんが、早くしろよ、て顔してる。

「ヒロ、」
「…ぅん」

 返事だけして、ヒロは再び寝てしまった。

 行き先は、俺の家。
 本当は実家に帰ろうと思ってたのに、マンションに向かうしかない。(ママに会えないぜ!)

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ジキタリス 12


 ヒロは男の子だし、身長もあるし、それなりに筋肉も付いてるから、重い。
 やっと寝室まで運んで、ベッドの上に投げ捨てた。
 衝撃で起きるかと思ったけれど、ヒロは変な格好でベッドに突っ伏したまま、目を覚まさなかった。

 すっかり酔いが醒めた。
 飲み直そうかと冷蔵庫を開けて、けれどアルコールより先に、ミネラルウォーターのペットボトルが目に入る。
 きっと、ヒロに飲ませたほうがいい。

「ヒロ」

 寝室に戻れば、ヒロはさっきとおんなじカッコ。
 呼んでも起きない。

「ヒロー、お水だよ」

 冷えたペットボトルを、頬に押し当てる。

 何かヒロって、頬袋が。
 リスとか、想像させる。

「ヒーロ」
「……ん…、」
「水、飲みなよ」

 何度かペチペチしてたら、ヒロがようやく目を開けた。

「…………れ、ん…くん…?」
「そーだよ。蓮だよ」
「な…んで…?」
「いいから水飲めよ、酔っ払い」

 変な体勢のせいで、首が痛いみたい。

「水。――――あ、」

 持ってたペットボトルが、ズルッと滑って。

「イタ…」

 ヒロの顔の上に、落っこちた。

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ジキタリス 13


 やっぱりヒロは、酔っ払ってる。

 俺が、ペットボトルを、ヒロの顔の上に落としたのが、悪いんだけど。
 でもきっと、そんなに痛くはないはず。
 なのにヒロは、ずっと「痛い、痛い」て呻いてる。

「ヒロ、ゴメンね、大丈夫?」
「んー……だい、じょーぶ…」
「痛くない?」
「………………あれぇ、蓮くんがいるー」

 今さらなことを言ってるヒロの体を、何とか起こしてやる。
 力の入ってない体はクニャクニャで。
 支えててあげないと、またベッドに倒れ込んでしまいそう(まるで首の据わっていない赤ん坊)。

「どーして、蓮くんがいるの?」
「どうしてだろ」

 ヒロがね、ゴミのとこで寝てたから、だよ。
 俺は優しいから、ヒロのことを放って帰らなかったんだよ。

「ねぇ、どーして?」
「さぁね。水飲みなよ」
「…ん、」

 酔っ払いは面倒くさい。
 キャップを外してペットボトルを押し付けると、ヒロはちゃんと自分で水を飲み始めた。

「蓮くん、あのね、」
「ちゃんと飲めよ、零れる」
「聞いてよー」
「聞いてるよ」
「俺ねぇ」
「何?」
「振られちゃったー」

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ジキタリス 14


 衝撃の告白!



 中身の半分くらい残ったペットボトルが、ベッドの上に落っこちて。
 半分の半分が、シーツの上に零れて。

 慌ててペットボトルを拾って顔を上げれば、ヒロの顔も涙で濡れていた。

「ヒロ、」
「ふ…られた、ヒック…」

 1つしゃくり上げて、ヒロは、子どもが泣くみたいに、ボロボロ泣き出して。
 何度も何度も、手の甲で涙を拭うけれど。

 どうしよう。
 男の子の慰め方は、知らないよ。

「ど、して? ふぇ…」

 男と別れたくらいで、泣いちゃうヒロ。
 かわいい子。
 俺にはその気持ち、分かんない、けど。

「ヒロ、ヒロ」
「…ぅ?」

 目は真っ赤。
 ほっぺもグシャグシャ。
 ヒックヒックって、しゃくり上げてて。

「なぁに、れんく、ん」

 舌足らず。
 いつものヒロじゃない。

「ヒロ…」
「れんくん、なぐさめて、くれる、の?」



 だって、いつものヒロじゃ、ない。

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